論文内容の要旨および審査結果

こたに
ともこ
氏名(本籍)
学 位 の 種 類
小谷 智子(千葉県)
博 士(薬学)
学 位 記 番 号
論 博 第 338 号
学位授与の日付
平 成 27 年 3 月 20 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 2 項該当
学位論文題目
薬 物 定 量 用 電 気 化 学 検 出 HPLC の 高 感 度 化 と そ の 応 用
論文審査委員
(主査)
教授
袴田
秀樹
教授
渋澤
庸一
教授
土橋
朗
教授
高木
教夫
論文 内 容の 要旨
薬 物 の 定 量 分 析 は ,分 析 対 象 が 生 体 試 料 の よ う に 複 雑 な マ ト リ ッ ク ス を 有
するものであっても,感度,真度,特異性,精度に優れた分析法によって,
信 頼 で き る 分 析 結 果 を 提 供 す る こ と が 求 め ら れ る . 電 気 化 学 検 出 HPLC
( HPLC-ECD)は ,酸 化 還 元 物 質 を 高 感 度 か つ 特 異 的 に 定 量 で き る 特 徴 が あ
り ,生 体 試 料 分 析 及 び 医 薬 品 分 析 に 有 利 で あ る .し か し ,検 出 の 場 で あ る 作
用 電 極 界 面 の 安 定 性 の 確 保 が 不 充 分 な 場 合 ,あ る い は 電 極 表 面 が 汚 染 を 受 け
た場合,感度や精度が顕著に低下する.
本 研 究 で は ,HPLC-ECD の 本 来 の 特 性 を 活 か し ,薬 物 の 定 量 分 析 に お け る
実 用 性 を 向 上 さ せ る こ と を 企 図 し た .そ の た め に は ,さ ら な る 高 感 度 化 と 高
精 度 化 を 目 指 し た HPLC-ECD 装 置 を 構 築 し , 実 分 析 へ の 応 用 を 図 る た め に
試 料 の 適 切 な 前 処 理 方 法 を 提 示 し た 上 で ,HPLC-ECD の 薬 物 の 定 量 分 析 へ の
適 用 性 を 総 合 的 に 明 ら か に す る こ と が 重 要 と 考 え た .さ ら に ,キ ノ ン の 還 元
前置波あるいはトロロックスの酸化前置波による電気化学検出の適用が図
れ れ ば ,誘 導 体 化 に よ ら ず 電 極 不 活 性 な 酸 物 質 あ る い は 塩 基 物 質 を 定 量 で き ,
HPLC-ECD の 測 定 対 象 物 質 の 適 用 範 囲 を 拡 張 で き る .本 研 究 で は ,酸 化 還 元
物 質 , 酸 物 質 , 塩 基 物 質 を 対 象 と し た 検 出 モ ー ド の HPLC-ECD を そ れ ぞ れ
構築して生薬に混入した有害成分の監視および血中の薬物動態分析へ応用
し , 薬 物 の 実 用 的 な 定 量 分 析 法 と し て の HPLC-ECD の 有 用 性 を 明 ら か に す
ることとした.
第1章
電 解 還 元 に よ る ア リ ス ト ロ キ ア 酸 の 電 気 化 学 検 出 HPLC と 生 薬 へ の
混入監視の実践
電 解 還 元 に よ る ア リ ス ト ロ キ ア 酸 の HPLC-ECD を 構 築 し , ア リ ス ト ロ キ
ア酸腎症の原因物質であるアリストロキア酸の生薬への混入を監視できる
高 感 度 分 析 法 を 確 立 し た . ア リ ス ト ロ キ ア 酸 の HPLC-ECD と し て , 移 動 相
に メ タ ノ ー ル -水 -リ ン 酸( 65:35:0.5, v/v/v),分 離 カ ラ ム に ODS カ ラ ム( Capcell
Pak C18 UG120), 電 気 化 学 検 出 器 を 用 い て 1 流 路 系 の シ ス テ ム を 構 築 し た .
作 用 電 極 に グ ラ ッ シ ー カ ー ボ ン 電 極 を 用 い , 印 加 電 位 を -0.7 V vs. Ag/AgCl
に 設 定 し て ク ロ マ ト グ ラ ム を 測 定 し た と こ ろ ,ア リ ス ト ロ キ ア 酸 Ⅰ( AA1),
ア リ ス ト ロ キ ア 酸 Ⅱ ( AA2 ), 内 標 準 物 質 ( IS ) で あ る
3,5-di-tert-butyl-1,2-benzoquinone( DBBQ) の 各 ピ ー ク を 25 min 以 内 に 観 測
で き た . AA1 と AA2 の ピ ー ク 高 さ は , 10 ng/mL~ 50 g/mL の 範 囲 で 良 好 な
直 線 性 を 示 し た( r > 0.997).AA1 と AA2 の 検 出 限 界( S/N = 3)は ,そ れ ぞ
れ 3.4 ng/mL と 3.1 ng/mL で あ っ た .
HPLC-ECD と 第 16 改 正 日 本 薬 局 方 ( 日 局 ) の 純 度 試 験 ( AA1) で 定 め ら
れ て い る 吸 光 検 出 HPLC( HPLC-UV)を 用 い て ,ボ ウ キ の ク ロ マ ト グ ラ ム を
測 定 し た( Fig. 1).HPLC-UV で は AA2 と AA1 の ピ ー ク 周 辺 に Unknown ピ ー
ク が 観 察 さ れ た( Fig. 1A).日 局 で は ,AA1
に対応する保持時間にピークが観察され
た 場 合 ,測 定 条 件 を 変 更 し て 再 度 ク ロ マ ト
グ ラ ム を 測 定 し ,AA1 か 否 か を 確 認 す る 必
要 が あ る . 一 方 , HPLC-ECD で は AA2 と
AA1 の 周 辺 に Unknown ピ ー ク は 観 察 さ れ
な か っ た ( Fig. 1B). 従 っ て , HPLC-ECD
で は ,純 度 試 験( AA1)に お け る 適 否 の 判
定 が 容 易 で あ り ,試 験 に 要 す る ク ロ マ ト グ
ラムの測定回数の低減が可能と考えられ
た . さ ら に , HPLC-ECD は 生 薬 中 の AA1
含 量 が 85 ng/g 以 下 で あ る こ と を 確 認 可 能
で あ っ た . 一 方 , HPLC-UV を 用 い る 日 局
の 方 法 の 検 出 限 度 値 は 1.0 g/g で あ る .
従 っ て ,本 法 は 日 局 の 方 法 と 比 較 し て 特 異
性 と 感 度 に 優 れ ,よ り 厳 重 な 混 入 監 視 が 可
能であることがわかった.
Fig. 1
Chromatograms of Radix
Aristolochiae
Fangchi
by
(A)
HPLC-UV and (B) HPLC-ECD.
第 2章
キ ノ ン の 還 元 前 置 波 に よ る バ ル プ ロ 酸 の 電 気 化 学 検 出 HPLC と 血 中
の薬物動態分析への応用
キ ノ ン の 還 元 前 置 波 に よ る バ ル プ ロ 酸( VPA)の HPLC-ECD を 構 築 し ,血
中 VPA の 薬 物 動 態 分 析 に 適 用 で き る 高 感 度 分 析 法 を 確 立 し た . キ ノ ン と し
て DBBQ を 用 い た ボ ル タ ン メ ト リ ー を 行 い , VPA の 濃 度 依 存 的 な DBBQ の
還 元 前 置 波 の 出 現 を 確 認 し ,検 出 の 基 本 を 明 ら か に し た .こ の 検 出 モ ー ド に
よ る VPA の HPLC-ECD と し て , 移 動 相 に ア セ ト ニ ト リ ル -水 ( 70:30, v/v),
分 離 カ ラ ム に ト リ ア コ ン チ ル 基 を 修 飾 し た シ リ カ 系 カ ラ ム ( Develosil
C30-UG-3)を 用 い た 分 離 系 と キ ノ ン 試 薬 溶 液 を ポ ス ト カ ラ ム 方 式 で 合 流 さ せ
る 2 流 路 系 の シ ス テ ム を 構 築 し た .ク ロ マ ト グ ラ ム を 測 定 し た と こ ろ ,VPA
と n-ノ ナ ン 酸 ( IS) の ピ ー ク を そ れ ぞ れ 15 min 以 内 に 観 察 で き , そ の ピ ー
ク 高 さ は 0.36~ 14.4 g/mL の 範 囲 で 良 好 な 直 線 性 を 示 し た ( r = 0.999). 本
法 の 定 量 範 囲 と 感 度 は , 血 中 VPA の 薬 物 動 態 分 析 を 実 践 す る 上 で 充 分 な も
のであった.
さ ら に , VPA と 遊 離 脂 肪 酸
( FFA ) の 複 合 動 態 解 析 へ の 適
用を図るために,キノンの還元
前 置 波 に よ る FFA の HPLC-ECD
を構築した.血糖自己測定
( SMBG ) 用 の 血 糖 測 定 器 を 用
い て 血 糖 値 ( BG) も 測 定 し た .
健常ラットとアロキサン糖尿病
ラットの尾静脈より経時的に採
血 し た 微 少 量 の 血 液 ( 約 50 L)
を用いて,バルプロ酸ナトリウ
ム ( VP-Na) 投 与 後 5 時 間 に わ
た っ て VPA,FFA,BG の 時 間 -
濃度プロファイルを得ることが
で き た ( Fig. 2). VPA の 時 間 -
濃度プロファイルをもとに薬物
動 態( PK)パ ラ メ ー タ を 算 出 で
きた.健常ラットに比べて糖尿
病 ラ ッ ト で は ,血 中 濃 度 −時 間 曲
線 下 面 積( AUC)が 有 意 に 低 下 ,
分 布 容 積 ( Vd) が 有 意 に 増 加 し
た . 同 一 個 体 に お け る VPA と
FFA の 血 中 動 態 を 同 時 に 追 跡 で
Fig. 2 Time-concentration profiles of mean
(±SE) (A, D) BG, (B, E) VPA, and (C, F) FFA
in (A-C) normal rats (n=5 each) and (D-F)
diabetic rats (n=5 each) after oral administration
of 150 mg/kg of VP-Na under fasting.
FFAs: ■ , C20:4; ◇ , C18:2; ◆ , C18:1; □ ,
C16:0; △ , C18:0.
き る 本 法 は , 正 確 な PK パ ラ メ ー タ を 算 出 す る 上 で 有 利 で あ り , 糖 脂 質 代 謝
調 節 を in vivo で モ ニ タ で き る 複 合 動 態 解 析 へ 展 開 可 能 で あ っ た .
第 3 章
トロロックスの酸化前置波によるテオフィリンの電気化学検出
HPLC と 血 中 の 薬 物 動 態 分 析 へ の 応 用
ト ロ ロ ッ ク ス の 酸 化 前 置 波 に よ る テ オ フ ィ リ ン の HPLC-ECD を 構 築 し ,
微 少 の 血 液 量 か つ 簡 便 な 前 処 理 方 法 で ,血 中 テ オ フ ィ リ ン の 薬 物 動 態 分 析 に
適用できる高感度分析法を確立した.まず,トロロックスのボルタンメト
リ ー を 行 い ,テ オ フ ィ リ ン の 濃 度 依 存 的 な ト ロ ロ ッ ク ス の 酸 化 前 置 波 の 出 現
を 確 認 し ,検 出 の 基 本 を 明 ら か に し た .こ の 検 出 モ ー ド に よ る テ オ フ ィ リ ン
の HPLC-ECD と し て , 移 動 相 に ア セ ト ニ ト リ ル , 分 離 カ ラ ム に シ リ カ ゲ ル
カ ラ ム( Inertsil SIL 100A)を 用 い た 分 離 系 と ト ロ ロ ッ ク ス 試 薬 溶 液 を ポ ス ト
カラム方式で合流させる 2 流路系のシステムを構築した.
ク ロ マ ト グ ラ ム を 測 定 し た と こ ろ , テ オ フ ィ リ ン の ピ ー ク は 6.7 min に 検
出 で き , そ の ピ ー ク 高 さ は 2.0~ 100 mol/L の 範 囲 で 良 好 な 直 線 性 を 示 し た
( r = 0.999). 本 法 の 定 量 範 囲 と 感 度 は , 血 中 テ オ フ ィ リ ン の 薬 物 動 態 分 析
を実践する上で充分なものであった.
ラット血中テオフィリンの薬物動
態分析へ応用した.ラットの尾静
脈 よ り 経 時 的 に 採 血 し て 得 た 10
L の 血 漿 を 試 料 と し て 分 析 し た
結果,テオフィリンの時間-濃度
プ ロ フ ァ イ ル が 得 ら れ た( Fig. 3).
このデータをもとにテオフィリン
の PK パ ラ メ ー タ を 算 出 で き た .
本法は,カフェインなどのテオ
フィリン代謝物の影響を受けず,
簡便な前処理方法およびクリーン
アップ操作により分析できるなど,
従 来 の テ オ フ ィ リ ン の HPLC-UV,
LC 質 量 分 析 法( LC-MS)や イ ム ノ
Concentration (mol/L)
本法をテオフィリン投与後の
40
30
20
10
0
0
6
12
18
24
Time (hr)
Fig. 3
Time-concentration profile of mean
(±SE) theophylline in rat (n=5 each) plasma
after oral administration of theophylline (10
mg/kg).
アッセイに比べて多くの利点があることを明らかにした.
総括
本 研 究 で は ,ア リ ス ト ロ キ ア 酸 を 酸 化 還 元 物 質 ,VPA を 酸 物 質 ,テ オ フ ィ
リ ン を 塩 基 物 質 と し て 定 量 で き る HPLC-ECD を そ れ ぞ れ 構 築 す る こ と が で
き た .さ ら に ,微 少 量 の 試 料 ,か つ 簡 便 な 前 処 理 方 法 で 定 量 分 析 が 行 え る こ
と 示 し た . 実 分 析 の 実 践 に よ っ て , 構 築 し た HPLC-ECD を 生 薬 へ の 有 害 成
分 の 混 入 監 視 ,血 中 の 薬 物 動 態 分 析 へ 応 用 し ,定 量 分 析 法 と し て の 実 用 性 を
明らかにし,有用性を示した.
以 上 の よ う に ,HPLC-ECD は 測 定 対 象 物 質 ご と に 適 切 な 検 出 モ ー ド を 選 定
することで,高感度かつ特異的な分析法として確立することが可能である.
さ ら に , LC-MS や LC タ ン デ ム 質 量 分 析 法 ( LC-MS/MS) と 比 較 す る と 装 置
と 維 持 費 は 極 め て 安 価 ,分 析 装 置 自 体 の 小 型 化 を 図 る こ と も 可 能 で あ り ,装
置 導 入 の 観 点 に お い て HPLC-ECD は 有 利 で あ る . HPLC-ECD は , そ の 感 度
と 特 異 性 を 活 か す こ と で ,薬 学 領 域 の 基 礎 研 究 お よ び 応 用 研 究 の 発 展 の た め
に有益な分析法として貢献できるものである.
【研究結果の掲載誌】
1) J. Electroanal. Chem., 656, 85-90 (2011). 2) Electrochemistry, 82, 444-447
(2014).
3) J. Pharm. Biomed. Anal., 97, 47-53 (2014).
論 文 審 査 の結 果 の要 旨
本 論 文 は 、 電 気 化 学 検 出 HPLC( HPLC-ECD) の 特 長 で あ る 高 い 感 度 と 特 異 性 に 着
目し、種々の電極反応を検出原理として活用することによって、薬物と生体成分の新
たな高感度汎用分析法の開発を行ったものである。酸化還元物質の定量に際しては、
電解条件を制御することによって、電極表面で生じる測定対象物質の酸化電流又は還
元電流を計測し、感度と特異性の向上を図っている。酸、或いは塩基の定量に際して
は、電子授受反応のメディエータとして用いたキノンの還元前置波、或いはトロロッ
クスの酸化前置波に由来する電流を測定し、酸及び塩基の特異的な測定システムを構
築している。以上のように、酸化還元物質、酸、塩基、それぞれを特異的に検出する
ための電極反応を検出モードとして測定システムに組み入れ、高感度化、高精度化、
適 切 な 試 料 前 処 理 法 の 設 定 を 行 い 、実 試 料 中 の 薬 物 定 量 に お け る HPLC-ECD の 有 用 性
を明らかにしている。
第 1 章 で は 、腎 毒 性 を 持 つ ア リ ス ト ロ キ ア 酸( AA)の 生 薬 へ の 混 入 監 視 法 を 開 発 し
て い る 。 測 定 対 象 の AA が 電 解 還 元 す る こ と を 見 出 し 、 そ の 還 元 反 応 を 検 出 に 利 用 す
る AA の HPLC-ECD を 構 築 し た 。HPLC 条 件 と し て 、分 離 に は ODS カ ラ ム 、移 動 相 に
は メ タ ノ ー ル /水 /リ ン 酸( 65:35:0.5, v/v/v)混 液 を 選 定 し た 。本 法 は 、日 局 の サ イ シ ン
の 純 度 試 験( ア リ ス ト ロ キ ア 酸 (
I AA1))で 定 め ら れ て い る 吸 光 検 出 HPLC( HPLC-UV)
と比較して、夾雑ピークの影響を受けにくく、特異性の点で優れていた。さらに、本
法 の AA1 の 検 出 限 界 は 3.4 ng/mL で あ り 、生 薬 中 の AA1 含 量 が 85 ng/g 以 下 で あ る こ
と を 確 認 可 能 で あ っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 日 局 の 方 法 よ り 厳 重 な AA の 監 視 法 と し
て本法が適用できることを示した。
第 2 章 で は 、 バ ル プ ロ 酸 ( VPA)、 5 種 の 遊 離 脂 肪 酸 ( FFA)、 血 糖 ( BG) の 複 合 動
態 解 析 法 を 開 発 し て い る 。VPA 及 び FFA の 検 出 に キ ノ ン の 還 元 前 置 波 に 由 来 す る 電 流
計 測 が 利 用 で き る こ と を 示 し 、本 検 出 モ ー ド を 組 み 込 ん だ 2 流 路 系 の HPLC-ECD を そ
れ ぞ れ 構 築 し た 。VPA の 分 離 に は C30 カ ラ ム 、移 動 相 に は ア セ ト ニ ト リ ル /水( 70:30,
v/v)混 液 、FFA の 分 離 に は C30 カ ラ ム 、移 動 相 に は ア セ ト ニ ト リ ル /エ タ ノ ー ル( 90:10,
v/v)混 液 を 選 定 し た 。VPA の HPLC-ECD、FFA の HPLC-ECD、及 び 血 糖 測 定 器 を 用 い
た in vivo 複 合 動 態 解 析 で は 、健 常 ラ ッ ト 、マ ル ト ー ス 負 荷 ラ ッ ト 、ア ロ キ サ ン 糖 尿 病
ラットにおいて、尾静脈より経時的に採血した
の 血 液 で VPA、 FFA、 BG の 詳
細 な 時 間 -濃 度 プ ロ フ ァ イ ル を 取 得 で き 、 VPA の 薬 物 動 態 ( PK) パ ラ メ ー タ の 算 出 が
可 能 で あ っ た 。得 ら れ た 結 果 か ら 、ア ロ キ サ ン 糖 尿 病 ラ ッ ト で は VPA の 代 謝 と 排 泄 が
促 進 さ れ て い る こ と を 見 出 し た 。以 上 か ら 、VPA の 薬 物 動 態 分 析 と 、in vivo に お け る
糖 脂 質 代 謝 調 節 へ の VPA 投 与 の 影 響 を 同 時 に 把 握 す る た め の 分 析 法 と し て 、本 法 が 有
用であることを示した。
第 3 章では、テオフィリンの薬物動態分析法を開発している。塩基としてテオフィ
リンを扱い、その検出にトロロックスの酸化前置波に由来する電流計測が利用できる
こ と を 示 し 、 2 流 路 系 の HPLC-ECD を 構 築 し た 。 HPLC 条 件 と し て 、 分 離 に は シ リ カ
ゲルカラム、移動相にはアセトニトリルを選定し、テオフィリンを高感度かつ特異的
に 検 出 で き る 方 法 と し て 確 立 し た 。本 法 に よ っ て 得 た ラ ッ ト 血 中 テ オ フ ィ リ ン の 時 間 濃 度 プ ロ フ ァ イ ル を 基 に 、テ オ フ ィ リ ン の PK パ ラ メ ー タ が 算 出 さ れ 、本 法 が テ オ フ ィ
リンの薬物動態分析に適用可能であることを明らかにした。
以 上 、本 研 究 は HPLC-ECD の 特 長 を 踏 ま え 、測 定 対 象 物 質 毎 に 適 切 な 電 極 反 応 を 利
用 す る 検 出 モ ー ド を 組 み 込 ん だ HPLC シ ス テ ム を 構 築 し 、 高 感 度 且 つ 特 異 的 な 定 量 分
析 法 を 開 発 し て い る 。 生 薬 へ の AA の 混 入 監 視 法 と し て 、 日 局 の HPLC-UV 法 よ り も
感 度 と 精 度 に 優 る 方 法 が 開 発 さ れ て お り 、社 会 的 な 貢 献 が 期 待 で き る 。ま た 、 VPA の
薬 物 動 態 と 、 グ ル コ ー ス 及 び 脂 肪 酸 代 謝 へ の VPA 投 与 の 影 響 を in vivo で 観 察 す る た
め の 複 合 動 態 解 析 法 が 提 案 さ れ て お り 、ア ロ キ サ ン 糖 尿 病 ラ ッ ト で は VPA の 代 謝 と 排
泄が促進されるとの新知見を得ている。更に、微量の血液試料でテオフィリンの薬物
動態分析を行うことができる高感度分離定量法が開発されている。以上のように本論
文は、薬学領域の研究の進展並びに実践に十分寄与できる新規分析法の開発を行った
ものである。よって、本論文は、博士(薬学)の学位論文として十分な価値を有する
ものであると判断する。