コースノート - Power Integrations

コース ノート
フライバック電源で出力がレギュレーション規格に達しない場合の対処
はじめに
このコース ノートは、PI University のビデオ コース「フライバック電源で出力がレギュレーシ
ョン規格に達しない場合の対処」に関するものです。このコースでは、Power Integrations の電
源が常にオートリスタートに入ってしまい、その結果レギュレーション規格に達することがで
きない原因を診断する方法を学習します。
このコースを開始する前に、フライバック電源を作成しておき、さらに作成手順に従い、出力
がレギュレーション規格に達していないこと、またはヒックアップ状態 (オートリスタート保
護モード) であることを確認しておきます。これは、起動直後、または出力に負荷を与えたと
きに起こるものです。
オートリスタートは、障害発生時、または回路の最大負荷を超過したときに回路を保護する、
Power Integrations の IC の機能です。
必要な装置
このコースのテストを実施するには、次の装置が必要とな
ります。

プログラム可能な AC 電源またはスライダック

デジタル マルチメーター数台

電子負荷

オシロスコープと、高電圧プローブ及び電流プローブ
必要な装置
一般的な問題
電源が起動しない、またはオートリスタート モードに入る一般的な原因には、次のようなもの
があります。
1.
低電圧検出ピン周囲のレイアウトが適切でない
2.
AC 電源のサイズが小さい
3.
負荷の特性
4.
出力ダイオードが逆向きになっている
5.
クランプ回路の設計が間違っている
6.
フィードバック回路がオープンになっている
7.
使用されているフィードバック部品の値が適切でない
8.
出力やバイアス巻線ダイオードの逆回復時間が長い
9.
ドレイン部に大きな容量成分が接続されている
10. トランスのバイアス巻線の接続が切断されている (TOPSwitch
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デバイス ファミリーに
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基づく設計の特徴)
11. トランス巻線の極が逆になっている
これらの潜在的な要因それぞれについて、順に調べていきます。
1. 低電圧検出ピン周囲のレイアウトが適切でない
Power Integrations のデバイスの中には、起動時の出力グリッチを防ぐ低電圧検出 (UVLO) 機能
が組み込まれているものがあります。これは、DC バスの電圧を検知して、入力がユーザー指
定の電圧に達するまで起動を遅らせる機能です。このような Power Integrations のデバイスは、
低電圧検出ピンにノイズが載ったり、低電圧検出抵抗の値が大きすぎたりすると、正しく起動
できなくなることがあります。
低電圧検出抵抗
最初に、基板に取り付けられた低電圧検出抵抗の値が PI Expert
と一致していることを確認し
ます。一致している場合、または低電圧検出抵抗の無い設計の場合、基板の裏側でバイパス ピ
ン及び低電圧検出ピン間に 100 kΩ 抵抗を接続して、低電圧検出ピンへの漏れ電流により問題
が発生していないかどうかを確認します。続いて再びテストを行います。これで問題が解決し
た場合、基板に溶剤などが付着していないか確かめ、低電圧検出パターンのそばに高電圧線が
通っていないか確認します。
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たとえば、右に示す設計では、EN/UV 線が高電圧ド
レイン線のきわめて近くにあります。これにより、
ドレイン線と EN/UV ピンの間でノイズ結合や漏れ電
流が発生します。この問題を解決するには、基板の
レイアウトを変更するか、100 kΩ のインピーダンス
を維持する必要があります。
レイアウトのガイドラインについては、該当する
Power Integrations のデバイスのデータシートを参照
高電圧ドレイン線のきわめて
近くにある EN/UV 線
してください。
2. AC 電源のサイズが小さい
AC 電源について、使用する電源で想定される入力電力に対処できるよう定格が設定されてい
ることを確認します。設定されていない場合、AC 電源ではコンバータに供給される電力を制
限するため、正常に起動せずレギュレーション規格に達することができません。通例、AC 電
源の VA 定格は、使用する電源の最大出力電力の 2 倍を上回るようにします。サイズの小さい
AC 電源は通常、ハイパワー設計時に問題となります。
3. 負荷の特性
次に、電源の負荷を調べます。電源は、少なくとも、負
荷で必要とされる最大出力電力を供給できるように設計
する必要があります。起動時、指定したオートリスター
ト ON 時間内に、出力電圧がレギュレーション規格に達
しない場合、Power Integrations のデバイスはオートリス
タート保護モードになります。オートリスタート機能
は、障害発生時に電源から供給される平均電力を制限す
ることにより、部品が損傷を受けるのを防ぐために設計
されたものです。詳しいオートリスタート ON 時間につ
オートリスタートを示す
出力電圧と出力電流
いては、該当する Power Integrations のデバイスのデータシートを参照してください。
起動時にオートリスタート状態を引き起こす可能性がある非線形負荷には、最高スピードにな
るまで大量の電流を使用するモータや、白熱電球があります。白熱電球は、実効抵抗が起動時
にはゼロΩに近く、熱くなるにつれて増加します。いずれの場合にも、オートリスタート ON
時間内に出力電圧はレギュレーション規格に達しません。
たとえば、10 W のハロゲン ランプを 12 V/1 A の電源に接続した場合 (例: デザイン例 RD-91)、
電源は起動せずオートリスタート モードに入り、その間ハロゲン ランプは点滅します。
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負荷が原因で問題が発生しているのかどうかを確認するには、まず負荷を電子負荷に置き換
え、設計で指定されている最大電流が流れるように設定します。電源が電子負荷で正しく起動
する場合、問題は、実際の負荷がこの電源設計の供給能力よりも多くの電力を必要としている
ことです。負荷を再び設定し、使用する電源の仕様が正しいことを確認します。
起動時の負荷が非線形である場合、下の図のようにソフトスタート回路を追加すると、出力電
圧がレギュレーション規格に達するまでに十分な時間を確保できます。
非線形負荷を含む電源の起動を助けるソフトスタート回路の追加
4. 出力ダイオードが逆向きになっている
電子負荷を使用しても依然として電源が起動しない場合、次の措置として、出力ダイオードが
逆向きに挿入されていないかどうかを確認します。逆さになっている場合は、新しいダイオー
ドに変えてから再び基板をテストします。
5. クランプ回路の設計が間違っている
問題発生の原因が出力ダイオードではない場合、次に、クランプ回路のダイオードが正しい向
きであるかどうかを確認します。ダイオードが正しく挿入されていない場合は、新しい部品を
正しく取り付けます。
ヒックアップ状態の原因がクランプ回路の不適切な設計にあるかどうかを確認するには、下の
図で強調表示されているクランプの散逸部分を 200 V ツェナー ダイオードに置き換えます。
散逸部分
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ツェナー ダイオードへの置き換え
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再び基板をテストします。出力のヒックアップ問題が解決した場合、この問題の発生原因はク
ランプです。
6.フィードバック回路がオープンになっている
基板で次に確認するのは、フィードバック回路です。Power Integrations のデバイスは、何らか
の理由で、オートリスタート ON 時間を超えてもフィードバックが入力されない場合、オート
リスタート保護モードになります。この状態は、フィードバック ループが開いている場合に常
に発生します。
フィードバックの損失が原因で発生するオートリスタート モード
まず、フォトカプラ LED などのフィードバック部品の短絡の原因となる屑が、基板の裏面に付
着していないか確認します。さらに、各接合部に少量のはんだを追加して、フィードバック回
路にはんだ付け不良がないことを確認します。はんだ付け不良の場合、正常に接合されている
ように見えても、一部分しか接続されていない場合が多くあります。
7. 使用されているフィードバック部品の値が適切でない
設計で二次側フィードバック回路を使用する場合、そのフィードバック部品が PI Expert の指
定に従って取り付けられていることを確認します。Power Integrations のデバイスに流れ込むフ
ィードバック電流が足りないと、デバイスはオートリスタート モードになります。この状態が
発生するのは、フォトカプラ直列抵抗の値が高すぎる場合や、ツェナー ベースのフィードバッ
ク回路でツェナー電圧が高すぎる場合です。
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フィードバック抵抗の値が高すぎる場合
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フィードバックのツィナー電圧が高すぎる場合
LM-431 リファレンス IC を使用する場合、上位のセンス抵抗の接続が切断されると、デバイス
がオートリスタート モードになることがあります。
設計で二次側フィードバック回路ではなく一次側フィードバック回路を使用する場合、分圧器
の抵抗の値が PI Expert の指定と一致していることを確認します。
8. 出力やバイアス巻線ダイオードの逆回復時間が長い
次に、すべての出力ダイオードが超高速またはショットキーのいずれかのタイプであることを
確認します。
Power Integrations のデバイスは、リーディング エッジ ブランキング機能を搭載し、これによ
り MOSFET がオンになった直後の一定時間、カレントリミットを無効にします。これにより、
初期電流スパイクでカレントリミットがトリガされてスイッチング サイクルが途中で終了する
という現象を回避することができます。ただし、それでも、起動時スパイクが通常より大きい
と、デバイスの初期カレントリミットがトリガされ、出力への電力供給が制限されることがあ
ります。
出力巻線に低速のリカバリー ダイオードを使用すると、逆回復電流が増加します。この電流は
二次巻線へ逆流し、それが巻数の比率に従って一次側に変換されて、MOSFET に入る初期起動
スパイクを増加させます。その結果、起動時スパイクが大きくなって初期カレントリミットが
トリガされ、電力供給が減少し、出力電力がレギュレーション規格に達することができない場
合があります。
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リーディング エッジ ブランキング
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起動時スパイクが大きいために初期カレントリミット
がトリガされた状態
すべての出力ダイオードを目視検査し、高速または標準のリカバリー ダイオードが使用されて
いないことを確認します。不適切なタイプのダイオードが使用されている場合は、超高速のリ
カバリー ダイオードまたはショットキー ダイオードと交換し、再びテストします。
バイアス巻線ダイオードの逆回復時間が長いと、同様の問題が発生することがありますが、回
路に直列抵抗が使用されている場合にはめったに起こりません。設計で低速のリカバリー ダイ
オードが使用されている場合、1N4937 整流器と交換してみてください。これで問題が解決した
場合、 PI Expert を参照して、使用しているバイアス巻線ダイオードが指定の仕様に従ってい
ることを確認してください。仕様に従っていない場合、 PI Expert 推奨のバイアス巻線ダイオー
ドと交換します。
9. ドレイン部に大きな容量成分が接続されている
ドレイン部に大きな容量成分が接続されている場合も、大量の起動時電流スパイクが発生する
ことがあります。この容量は、トランスの巻線容量の他、デバイスの MOSFET を跨いで接続さ
れている大きな RC スナバやトランスの一次巻線に起因している可能性もあります。容量が問
題発生の原因であるかどうかを確認するには、ドレイン スイッチング電圧と電流を監視する必
要があります。
まず、AC 入力の電源を切って接続を切断し、入力コンデンサを放電します。基板上の
MOSFET ドレイン線を遮断し、ワイヤ カレント ループを挿入してドレイン電流を監視しま
す。この遮断は必ず、Power Integrations デバイスの DRAIN ピンと、クランプ部品との間で行い
ます。この線の別のポイントから測定すると、設計に関する問題を正しく診断することができ
ません。
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基板に追加したカレント ループ
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電圧プローブと電流プローブの接続
ドレイン ノードから高電圧オシロスコープ プローブをソース ピンに接続し、MOSFET のスイ
ッチング電圧を測定します。先ほど作成したカレント ループの電流プローブも接続します。こ
こで、再び AC 入力に接続し、入力電圧を設計の最大値に設定します。オシロスコープが
MOSFET 電圧と電流の両方を表示することを確認し、通常のトリガ モードに設定します。安定
した値が得られるように、MOSFET 電圧の立ち上がりエッジでトリガします。
使用する Power Integrations のデバイスのリーディング エッジ ブランキング時間と、リーディ
ング エッジ ブランキング終了時の初期カレントリミット値を、データシートで確認します。
続いて、リーディング エッジ ブランキング時間後の MOSFET の電流レベルを測定します。こ
の値をデータシートの初期カレントリミットと比較します。測定値が初期カレントリミットよ
りも大きい場合、リーディング エッジ ブランキング時間終了時に、非常に短い電流パルスが
終了します。これにより、電力供給の問題が発生することがあります。
ドレイン電圧とドレイン電流
リーディング エッジ ブランキング時間
終了時に終了する電流パルス
すべての一次側スナバの接続を回路から切断し、リーディング エッジ ブランキング後の初期
電流を再び測定します。一次側スナバの接続を切断したことにより問題が解決し、初期電流ス
パイクが許容レベルまで減少した場合、一次スナバ回路の容量を減らす必要があります。
問題が解決しない場合は、トランス巻線の容量が大きすぎないかどうかを確認します。
10. トランスのバイアス巻線の接続が切断されている (TOPSwitch デバイス ファミリーに基づ
く設計の特徴)
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TOPSwitch デバイスを使用している場合、トランスのバイアス巻線のリターン、0 V 側が一次
側リターンに接続されていることを確認します。これは入力コンデンサのマイナス端子です。
トランスのバイアス巻線が浮いたままの場合、フォトカプラへの供給電圧がないため、Power
Integrations のデバイスにフィードバック信号が供給されません。その結果、デバイスがオート
リスタート モードになります。
11. トランス巻線の極が逆になっている
依然として基板がレギュレーション規格内に達しない場合、最後にトランス巻線の極を確認し
ます。いずれかの巻線が逆向きに接続されていると、その巻線はフォワード巻線と同じ構造に
なってしまいます。トランス巻線が逆向きになっていることにより、電源がフライバック コン
バータとして機能せず、出力に供給される電力が制限されます。
下の図は、RD-91 基板の DRAIN ピンからの電圧及び電流波形です。左側が、正しく機能して
いるフライバック電源の波形で、右側が、同じ電源で二次巻線が逆向きになっているときの波
形です。両方の波形の時間軸をそれぞれ 20 マイクロ秒 /div. に設定すると、逆付けのほうが電
流パルスが正常なトランスよりもはるかに短いことがはっきりわかります。
トランスの一次巻線が逆向きの状態
RD-91 のドレイン電流及び電圧の波形 –
巻線の向きが正しい場合と逆向きの場合
右の図では、パルス間隔を測定するために時間軸が拡大
されています。正常なパルスを示す MOSFET の ON 時
間は約 4 マイクロ秒ですが、逆付けのトランスではパル
スがわずか 400 ナノ秒となっています。同じような ON
時間の短縮が設計で見られた場合、トランス巻線のいず
れかが逆向きになっている可能性があります。
詳細情報
このコースの説明に関するご質問やコメントについて
は、電子メールで [email protected] までお寄
逆付けのトランスではドレイン
電流のパルス間隔が短くなる
せください。
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