機能とセキュリティ

特集 通信11部門の満足・不満足
企業が妥協しない
機能 と セキュリティ
ト
ッ
ネ
業
企
16
スマートフォンやタブレット端末は
「1強」のベンダーに法人需要が集中し、VPNルーターやLAN
スイッチなどは着実にシェアを伸ばす後発ベンダーが業界ガリバーに迫る─。法人向け通信市
場のシェア変動で注目すべき動きがある。これらの製品のどこが評価されているのか。2015 年
の企業ネット実態調査は、通信関連の製品・サービスの顧客満足度に着目し、選ばれる製品の理
由に迫った。モバイル通信分野はスマートデバイスを重視し、法人が評価したスマートデバイスの
満足度や、スマートデバイス向けのモバイル通信サービスもきめ細かく調査した。
(玄 忠雄)
NIKKEI COMMUNICATIONS October 2015
11 部門中、利用率で
も首位は 4 社/
利用率 2 位は 4 社
満足度ランキングの
首位企業、
利用率での順位
198 台→ 337 台
スマートフォンの平均導入台数
2014 年→ 2015 年
スマホ 61.9 %/
タブレット端末 40.9 %
スマホ、タブレット端末を
実質無料で導入している割合
816 万円
セキュリティ関連の
平均投資額
査概要を参照)では、スマホを業務利用している
SaaS 利用率
が20.6%だから、実に約4倍の規模である。
(前年比 43.3 %減)
46.3%
(予定も含む)
[総論]
定番には選ばれる理由がある
法人の満足度を項目別に調査
スマートフォンの国内法人販売で、米アップ
ルの「iPhone」が独占的ともいえる人気を獲得
─。本誌恒例の「企業ネット/ICT利活用実
態調査」の最新版となる2105年調査(p.20の調
企業のうちiPhoneを導入している企業は実に
82.6%に上った。利用率で2位に付けたソニー
過去3年間の調査でiPhoneは唯一、導入企業
の割合を伸ばし続けてきた。一方で、ソニーを
含むほとんどの競合メーカーが2015年調査で
利用率を下げている。Android 端末が健闘し
ていた時期もあったが、今や企業のIT担当者は
個人向け市場を超える熱狂ぶりでiPhoneの支
持に回っている。
[通信11部門の満足度]
VPNルーターでは、ガリバーである米シスコ
スマホ、ルーターで
「完全首位」
携帯通話・WANは団子状態
22
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ト差にまで迫った。
30
・・・・・・・・・・・・・・・
[定点観測:WAN/IP 電話]
L2/L3 混合型も伸び悩み
期待の新型WANが成長の兆し
3年前は約9ポイントの差があったが、今回の調
査では利用率24.8%に達し、シスコに0.5ポイン
[定点観測:スマートデバイス/モバイル]
タブレット利用率でソフトバンク
スマホ平均導入台数は1.7倍に
システムズとの差をヤマハが徐々に詰めている。
これらの製品は、なぜ企業の支持を集め続け
るのか。その内実に迫るため、今回の調査は現
在利用している機器や端末、サービスに対する
34
・・・・・・・・・・・・・・
[定点観測:BYOD/セキュリティ/クラウド]
BYOD 許可率が初めて低下
新たな脅威と他社事故で対策増加
37
・ ・・・・・・・・
[定点観測:通信機器]
企業ユーザーの満足度を調査項目に加えた。定
番や成長株の製品・サービスがなぜ選ばれるの
か。そのカギは顧客満足度にあった。
iPhoneを快適に使えるサービスも評価
満足度はスマートデバイスと通信機器、通信
低価格機ベンダーの支持広がる
VPNルーターは2強が接近
サービスを対象に11部門で調査した。デバイス
40
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
は業務に使う「スマートフォン」と「タブレット
端末」の2部門を、通信機器は「無線LAN機器」
「LANスイッチ」など4部門をそれぞれ設けた。
写真:gettyimages
October 2015 NIKKEI COMMUNICATIONS
17
[特集]企業が妥協しない「機能」と「セキュリティ」
通信サービスは、携帯電話の「携帯通話サー
答票が全票の10%以上とそれ未満でグループを
ビス」と「モバイルデータ通信」のほか、特定の
分けた。一定規模のシェアを持つ製品・サービ
端末と組み合わせた通信サービスに対する満足
スのグループ内で比較することで、幅広い企業
度も聞いている。利用の多い「iPhone向けモバ
が検討する際の参考になるという考えからだ。
イル通信」と「タブレット端末向けモバイル通
ベンダーによっては用途を特化した製品や
信」の2 部門である。これに「WANサービス」
サービスに注力し、ユーザー層は限られるが高
を加えた5部門で調査を実施した(p.21の満足
い満足度を獲得しているケースもある。今回の
度の調査方法を参照)
。
調査はできる限り、満足度の結果がどの企業に
工夫したのは、iPhoneやタブレット端末と組
も役立つ内容になることを目指した。
み合わせたモバイル通信に絞って満足度を聞い
ている点だ。その狙いは通信品質や料金にとど
「セキュリティでiOSしか選べない」
まらず、端末の提供価格や故障対応に代表され
スマートフォンの部門で首位に立ったiPhone
るサポート業務など、端末を快適に利用できる
の満足度は76.3点で、62.5点のソニーとは13.8
環境整備も含めて満足度を明らかにすることだ。
ポイントの差を付けている。なぜiPhoneがこ
集計結果は5票以上の評価があった製品を原
こまで支持されるのか。調査の回答者から寄せ
則掲載しているが、並べ方については、有効回
られた意見を見ると、事情が分かる(図1)
。
「セキュリティを考えたらiOSしか選べない」
という回答がある一方で、
「
(OS としての)
調査から分かった満足度の高い製品・サービスの提供企業
Androidはセキュリティが不十分。業務では使
いたくない」という認識が強い。セキュリティ
タブレット端末
首位 アップル
スマートフォン
次点
首位 アップル
次点
ソニー
タブレット端末
向けモバイル通信
マイクロソフト
NTTドコモ
首位
携帯通話サービス
次点
NTTドコモ
NTTドコモ
(au)
首位 KDDI
次点
18
NTTドコモ
NIKKEI COMMUNICATIONS October 2015
シスコシステムズ
首位 バッファロー
次点
WANサービス
シスコシステムズ
首位 コミュニケーションズ
モバイルデータ通信
次点
無線LAN機器
NTT
(au)
首位 KDDI
次点
首位 ヤマハ
KDDI(au)
次点
(au)
首位 KDDI
iPhone向け
モバイル通信
VPNルーター
次点
PBX/IP-PBX
首位 富士通
NTT西日本
LANスイッチ
首位 アライドテレシス
次点
シスコシステムズ
次点
日立製作所
図1 スマートデバイスやモバイル通信への満足と不満足の声 故障対応に関する意見も目立った。
不満
液晶割れの破損が多く
て修理に困っている
Androidは
セキュリティが不十分
iOSはセキュリティ
が強く管理ログが取
りづらい
スマホ・タブレット端
末は年々電池の持ち
がよくなっている
当社の使い方では
Androidが向く
修理のため
Apple Storeに
行く必要がある
通信事業者を乗り換
えた。同じ場所・機種
でも大きな差があった
故障を保証する
レンタルプランが良い
スマホは
料金が高すぎる
タブレット端末の性能
がまだ低い。
ノートパソ
コンと
「2台持ち」
に
あるスマホはSIMの
脱 落する不 具 合 多
発。故障率は15%も
要望・意見
フィーチャーフォン
にテザリング機能だ
けを付けてほしい
パソコンOSとの親和
性を。業 務システム
開発が追いつかない
に関する評価で、Android搭載機は初めから大
とサービス仕様に対する不満が出ている。
「契
きなハンディを背負っているのだ。
約後は提案に来なくなる」
「最新情報を持ってこ
数字上でもスマホの選定に関わる企業のIT
ない」など営業スタンスへの不満も多く、満足
担当者は、とりわけOSの機能・性能とセキュリ
度に影響している。
ティを重視して機種を選定していることが分
かった。詳しくはp.22からの「通信11部門の満
納得・満足
セキュリティを考えたら
iOSしか選べない
機能・性能は成熟、費用・サポートに改善余地
足度」で紹介する。個人用途なら端末の処理性
視点を変えて、通信11部門ごとの全体/項目
能や画面解像度、カメラなどの端末の機能も重
別満足度を比べると、各製品やサービスの置か
視されるが、IT部門は端末の機能をほとんど重
れた状況が分かる。
視していないことが判明した。
全体満足度の平均はVPNルーターの72.3点
個別のユーザーの声に耳を傾けると、iOSはセ
が最も高く、タブレット端末やWANサービス、
キュリティの堅牢さから「操作ログなどが取りに
LANスイッチがこれに続く(p.21の図3)
。2位
くい」などIT部門による管理がしにくい点に不
のタブレット端末を除けばいずれも成熟した製
満の声もある。また「当社の業務利用方法を考
品やサービスだ。特に項目別では性能や機能、
えると、Androidが向いている」など、Android
信頼性などに対する満足度が高い。VPNルー
のハードウエアやソフトウエアの柔軟性を評価
ターや無線LAN機器は、ヤマハやバッファロー
する声もある。
など価格で満足度をけん引するベンダーの存在
一方、WANサービスや通信機器に対する声
も満足度を押し上げたようだ。タブレット端末
を拾ってみると、サービス自体とサポート業務、
は、回答票数が圧倒的に多いiPadシリーズに対
営業対応の両面で不満がうかがえる(次ページ
する満足度をそのまま反映している。
の図2)
。開通日数に対する不満もあれば、特定
一方、満足度の低さが目立ったのが携帯電話
事業者を指して「WANサービスの品目が簡単
関連のサービスだ。部門平均が64.5点で最低の
に変更できない。同種の上位品目ですら困難」
「iPhone向けモバイル通信」を筆頭に「タブレッ
October 2015 NIKKEI COMMUNICATIONS
19
[特集]企業が妥協しない「機能」と「セキュリティ」
ト端末向けモバイル通信」など4部門すべてが
格や通信料金など「費用」のグループ、通信サー
下位を占めた。費用やサポート、通信エリアな
ビスの品質なども含む「機能・性能」のグループ、
どの満足度がさえなかった。逆に見れば、改善
サポートなど「使いやすさ・運用支援」のグルー
余地が大きいことになり、携帯電話事業者の取
プに分けている。企業が持つ満足感、不満がど
り組み方次第で、業界内の地位を変えられる可
こにあるかが見えてきた(図4)
。
能性も秘めている。
満足度の高さが目立つのが機能・性能に関係
「通信料金」
「サポート・問題対応」など、部門
する評価軸だ。成熟した通信機器もスマートデ
をまたいで評価項目ごとに平均満足度の傾向も
バイスなど比較的新たな製品も、企業は機能や
見た。11部門で用いた項目別評価は、機器の価
性能をおおむね高く評価している。一方、相対
図2 WANサービスや通信機器に対する利用者の声 障害対応などサポート業務や提案活動への不満が目立つ。
不満
あるWANサービス
は簡単に品目が変
更できない
「ベストエフォート」
という都 合のよい
言葉は嫌いだ
新規回線の接続まで
の日数がかかりすぎ
ダークファイバーの
納期が2∼3カ月と
かかりすぎ
営 業の技 術 知 識が
乏しくS Eが同 席し
ないと話が進まない
要望・意見
中小企業は経営陣の説
得が難しい。もっとメニ
ューや提案に知恵を
NTT東西の連携の
悪さに困っている
一度契約すると改善
提案に来なくなる。
自分で情報収集
海 外 メーカ ー は
相変わらずサポー
トに時間がかかる
現地の下見をせずに
見積書を作ってくる
SDNは導入費用が
下がれば検討する
いつもSE費用が高額
で交渉に苦労する
障害時にSEが現場
に行かずログ採取
を要求するばかり
機種選定は製品サイ
クルや継続性、保守
性を考慮して
L2系の機器はどの
メーカーも大差ない
納得・満足
障 害 対 応 が 早かっ
た。継続して付き合
いたい
(あるメーカー製品は)
費用対効果が高い。信
頼性に不安もあるが
SDN:Software Defined Networking
調査概要
[調査名]日経コミュニケーション 企業ネット/ICT
利活用実態調査
調査概要
[調査期間]2015年7月14日〜8月10日
(うち郵送回収353
[調査対象]公知のリスト
(会社四季報)に含まれ [回収状況]有効回収521社
[回答企業の2015年度の売上高]
100 億円未満
27.1%、100 億〜 500 億円未満 39.7%、500
億 〜1000 億 円 未 満 11.7%、1000 億 円以 上
る上場企業
(対象市場は東京、大阪、名古屋、福
件、Webサイト回収168件)
、有効回収率16.3%
20.3%、売り上げなし0.0%、無回答1.2%
社を抽出)に勤務する情報システム/ 通信・ネット
42.4%、卸売業・小売業19.0%、運輸・物流業
下9.8%、100 〜299人 23.4%、300 〜999人
岡、札幌、
ジャスダック、
マザーズで、
ここから3200 [回答企業の業種内訳]建設業 8.6%、製造業 [回答企業の2015 年度末の従業員数]99人以
ワーク担当者
[調査方法]アンケート票を郵送し、郵送とWeb
サイトで回答を受け付け
20
NIKKEI COMMUNICATIONS October 2015
4.6%、情報・通信業 5.0%、サービス業11.7%、 39.0%、1000人以上27.4%、無回答 0.4%
金融業 2.3%、
その他5.8%、分からない/無回答 [調査の実施]日経BPコンサルティング
0.6%
[集計]RJCリサーチ
図3 製品・サービス別の全体満足度(平均)
携帯電話関連の通信サービスが全般に低
くとどまった。
(点) 満足度
75
72.3
全体満足度
︵平均︶
的に満足度が低いのが費用に関する評価項目と、
使いやすさ・運用支援に関する評価項目である。
製品ベンダーや通信事業者が顧客満足度を高め
ていく上で、避けて通れない改善の余地が大き
い部分を示していると言えそうだ。
満足度
高
低
71.9
71.7
69.7
70
68.1
67.6
67.4
67.0
66.0
65
65.1
64.5
次ページからは通信11部門の満足度を結果
とともに解説する。企業が支持している製品と
60
け
ス
ス
ン
チ
器
信
末
信
ー
BX
向 信
ォ
ッ
ビ
ビ
タ
機
通
端
通
-P
イ
ー
ー
ー
ト
タ 端末 通
ル
IP
トフ LAN
ス
ッ
サ
サ
イ
/
ル
ー
N
ー
ト ル
レ
X
N
バ
話
デ
線
マ
ッ イ
AN
ブ
LA
モ
通
ル
PB
VP
ス
レ モバ
無
W
タ
け
イ
帯
ブ
向
バ
携
タ
モ
ne
ho
iP
その理由が読み取れる。製品・サービスに関す
る定点観測の調査結果は、p.30から紹介する。
図4 費用やサポートの満足度は相対的に低い 項目別の満足度を示した。機能・性能に対する満足度が高い一方で、費用やサポートに関わる項目の満
足度は低めだった。
(点)
費用
(購入価格/料金)
に
関する指標の満足度
使いやすさ・運用支援に関する
指標の満足度
機能・性能に関する指標の満足度
80
項目別の満足度︵平均︶
75.6
75
71.5
70
73.0
72.5
70.1
71.8
67.4
65
64.8
65.1
62.5
60
62.8
64.1
65.3
63.6
62.8
)
)
)
)
ィ
さ
や
や
性
性
質
能
援
ー
器
ス
器
器
テ
広
ア
リ
応
理
耐 )
品
性
支
機
イ
機
機
リ
・
テ
エ ョン 対 体制 入
の
ス
管
障
信
信
バ
ュ
信
信
能
ッ
ウ
イ
ア
ル
る
故
通
導
通
通
シ
デ
キ
通
通
機
バ
ト
リ
バ
よ
ブ ート
ト
セ
フ ー
能(
エ
性・ デ
話・
信・
に
ー
格(
性(
Sの
ソ リュ トラ ポ
性
信
頼 ト
通
通
門
マ
O
・
価
耐
サ
供
ー
通
信
ソ
部
能
ス
や
入
障
提
マ
IT
機
末
導
故
ス
格(
の
・
端
(
価
器
性
入
機
頼
導
信
(モバイル通信)(スマートデバイス)
(スマートデバイス)
金
料
話
満足度の調査方法
回答者は、自社で利用している各部門の
応じて5 〜 8 項目の項目別満足度である。 配点して、その平均点を提供元や製品の満
製品やサービスについて、提供企業もしく
同時に、次の更新期に同じ企業の製品・サー
足度や継続意向度とした。表に掲載した順
は製品名を最大 3つ
(一部部門は最大4つ) ビスを利用したいかどうかを聞く
「継続意向
位は全体満足度に基づき、項目ごとの満足
を選択したうえで、4 段階
(満足、やや満足、 度」も4 段階
(利用したい、まあしたい、あま
度は加味されていない。また評価項目の中
やや不満、不満)で満足度を評価する。評
で重視している項目を2つもしくは3つ選ん
りしたくない、絶対したくない)で尋ねた。
価するのは
「全体満足度」のほか
「通信料金」 集計時は、満足度もしくは継続意向度が
「通話品質」
「端末の提供価格」など部門に
高い順に100点、66.7点、33.3点、0点と
でもらったが、こちらも全体満足度などの
集計には用いていない。
October 2015 NIKKEI COMMUNICATIONS
21