強成層型河口域におけるスズキ稚魚の淡水域への回遊生態 ○ 冨士 泰期・笠井 亮秀・鈴木 啓太(京大院農) ・上野 正博・山下 洋(京大フィールド研) キーワード:回遊・スズキ・安定同位体比・河口域・肥満度 著者連絡先:[email protected] 【目的】 た多くのスズキの 13C は砕波帯の収束域に収まり,遡上 スズキ仔稚魚の生態の研究は筑後川河口域や四万十川 して間もない個体であると推定された.淡水域の収束域に 河口域など潮汐の大きい海域を中心に行われてきたが,日 収まる値を示した個体は 4 月下旬から増え始め,5 月中旬 本海側の潮汐の非常に小さい強成層型河口域においては 以降は淡水域個体の大半を占めた.これらの結果より,ス 行われていない.本研究では,日本海に面する由良川河口 ズキ仔稚魚は 3 月下旬から 5 月上旬まで遡上し続け,そ 域において,スズキ仔稚魚の回遊を中心とした生態を,安 れ以降の遡上は少ないと考えられる.一方,砕波帯および 定同位体比を用いて明らかにすることを目的とした. 河口の定点のスズキは 4 月から 5 月にかけて全ての個体 【材料と方法】 が砕波帯の収束域に収まり,淡水域から海域への降下はほ サンプリングは京都府由良川河口域の外側砕波帯から とんどなかったと推定された.しかしながら 6 月から低い 上流 15km までの 6 定点(図 1)において,2008 年 4 月 割合ながら淡水域に近い値を示す個体が採集され,7 月に から 7 月まで週一回行った. 河川内の 1 定点(R3)には水生 なるとその割合は急激に増加した.このことから,6 月か 植物群落が存在している.各定点において水温・塩分を測 ら淡水域の個体の一部が降下を始め,7 月になるとさらに 定すると共に,地曳網を水深 1m 以浅で曳網してスズキ仔 降下が顕著になると考えられた. 13C 稚魚を採集した.採集されたスズキについて,体長,体重 の値により淡水域で採集されたスズキを「遡上直 を測定し,肥満度を計算した.また食性を調べるために, 後個体」 「短期滞在個体」 「長期滞在個体」に区分し,さら 胃内容物の計数と重量測定を行った.そしてスズキの筋肉 に砕波帯個体を加えた 4 グループについて肥満度を比較 および胃内容物の炭素安定同位体比 13C を測定した. したところ,その大小関係は 遡上直後個体 短期滞在個 【結果と考察】 体<長期滞在個体<砕波帯個体 となり,遡上直後個体と スズキ仔稚魚は 4 月から 7 月にかけて河口域全体に分 長期滞在個体,砕波帯個体との間にはそれぞれ有意差が見 布していた.塩分は河口より上流側の定点はほぼ 0 であっ られた(p<0.05).この結果により,砕波帯にいる個体のう たにもかかわらず多くのスズキ仔稚魚が採集され,体長 ち肥満度の低い,相対的に「弱い」個体が淡水域まで遡上 17mm 前後の段階から淡水域にまで仔稚魚が遡上してい し,河川下流域の豊富な餌を摂取して海域の稚魚と遜色な ることを確認した.淡水域においては R3 で毎回安定して い程度まで成長できる可能性が示唆された. ある程度の個体数が採集され,水生植物群落が仔稚魚の生 息にとって重要な役目を果たしていると考えられた. 図1 採集定点 胃内容物には,淡水域,砕波帯いずれにおいてもアミ類 が多く観察され,アミ類がスズキ仔稚魚の重要な餌生物で あることが分かった.アミ類の 13C は,淡水域では春か ら夏にかけて大きく値が下がったのに対し,砕波帯におい ては一貫して高い値を示した.スズキの 砕波帯それぞれのアミ類の 13C 13C 図2 スズキの体長と も淡水域・ の関係.シンボルが大きいほ の変化に合わせて,淡水 ど採集日が遅い. 域では体長と共に大きく下がったが,砕波帯では変化しな -16 かった(図 2) . たスズキが取ると予想される 13C の値の範囲(収束域) C(‰) 2005)を利用し,淡水域・砕波域それぞれのアミ類を食べ -18 13 過去に実験で求められている濃縮係数(Suzuki et al., -20 -22 13C と比較した. -24 その結果,4 月から 5 月初旬にかけて,淡水域で採集され -26 を月ごとに設定し, 観測されたスズキの 13C 砕波帯個体 淡水域個体 10 30 50 SL(mm) 70 90
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