「四条京町家の修復を終えて」

京都工芸研究会 http://kougei.kmir.city.kyoto.jp
2002.10.1Vol.6 No.4
京都工芸研究会報
22
事務局 京都市下京区中堂寺南町134 京都市工業試験場内
〒 600-8813 tel. 075-311-3171 fax.075-311-8845
平成14年度総会
「四条京町家の修復を終えて」 記念講演会より
大阪人間科学大学教授 田坪 良次
この町家には明治四十三年の上棟札が残されています。明治の近代化がも
たらした蓄積は西欧化や西洋建築だけでなく近代の和風建築にも影響を与
えました。日本の木造民家もこの明治末期が建築的,技術的に最も隆盛を
きわめた時期といわれています。
<民家は生きている>と云はれますが,この町家も長い期間にその都度に
求められるさまざまな利便に対応し,変遷してきました。
住生活にかゝわる設備や新建材の導入などをもたらしましたが,幸に家主
の当を得た考え方で必要最小限の改装にとゞまっておりました。
修復にあたって,井戸や流しに貼られたタイルなど,どのあたりまで元に
戻すかという議論がなされました。まず実測を行い,手が加わった部分や
建具の傷み具合などを調査しま
した。
町家は夏向き建物であり建具類
が多いのもその特徴です。信用
ある工務店と共に修復のための
見積りと計画をつくりました。
座敷や庭から見える蔵には十分
な左官工事がなされました。
現在,京都の町家は市内のあち
こちに散らばって残っています。
かっては表通りから見て高さや
▼ P2
▽
▲
続く
四条京町家へようこそ 追悼・饗庭委員長|あたらしい茶道具|平成 14 年度総会報告|カレンダー|活動報告| RP 講習会
追悼
氏急逝の報に接し唖然として言葉もありませんでし
た。
饗庭氏は,海軍兵学校の御出身ですが,終戦で家業
に復帰,伝統の技をまもりつゝ,時代に即応した独
特のアイデアを加え家業に精励,明晰で常に遠慮深
く尊敬するお人柄でまことに惜しい方を喪い残念で
す。深く哀悼の意を表し,御冥福を祈ります。合掌。
山田善三郎顧問(前委員長)
饗庭通夫 委員長
さる 8月5日,饗庭委員長が急逝されました。
つい先ごろの総会ではいつもどおりお元気で,また
新委員長としてこれからという時にあまりにも突然
のことで言葉もありません。
長年にわたり,研究会の運営と発展のためにご尽力
いただきました。ご冥福をお祈りいたします。
故饗庭委員長が生前より親交の深かったお二人の委
員さんから追悼のメッセージをいただいています。
■故饗庭委員長を悼む。
かねてから後任委員長をお願い致しをりまして,去
る 7月23日の総会で御就任が全会一致で可決され,
漸く私の役目を終えホッと致しをりました処,饗庭
続き
▲
P1
■饗庭通夫さんの突然の悲報に接し,私共はその急
逝を惜むと共に研究会にとっても少なからざる損失
であることを痛感しています。
饗庭さんとはずいぶん長いお付合いで,饗庭さんの
ご尊父と私の父とは謡曲を一緒にしておられ,お仲
間が相寄って年に 5回位謡会をされていました。
また,故通夫さんとは扇子・うちわの展示会等でな
にかとお世話になり,京都高島屋での個展等もよく
見せて頂き,いつも斬新なデザインの商品を開発さ
れていた事に敬意を表しています。
最后に,故饗庭通夫氏のご逝去を深く悲しむと同時
に私共会員が一丸となって研究会の活動をより大き
くするよう努力いたすつもりです。
金谷雅之委員(㈲かなや扇子店)
▼ する空間でした。優れた町家とは,その
建物だけでなく,通りを含めた環境を町
内や向う三軒両隣がしっかり保持し,維
持管理する体制ができていることが前提
条件となっていました。
現代建築は装置的,設備的に一つの目的
に合致すれば成立してしまいます。一つ
一つの建物は均質でなく
てもよいわけで過密にな
ればなるほど乱雑な町並
みになり隣同志は無関係
になってしまいます。
これに対して町家は同じ
傾向,同じ形式,そして
環境を等しく分かちあっ
てゆくものであり,全生
活に応える建物であり,
拠点であるといえます。
町並みも含めて外部空間との環境が整っ
てはじめて暮らしの場として有効に利用
されるわけです。民家を町家とよぶ由縁
もこゝにあるように思えます。
▽
表構(オモテガマエ)が揃っていて,町並
みがほゞ統一されていました。各家ごと
に門(カド)掃きや水撒きをしていました。
よその町内を歩くときは「ちょっと通らし
てもらいます。」とことわりながら遠慮し
て通ったものです。というのも町家では
通りや軒下は公共の空間でありながら各
戸の個人的な空間でも
ありました。町内の通
りは通行のほかに商い
の荷造りや荷解きの場
であり,立ち話などの
交際の場であり,夕涼
みや子供の遊び場でも
ありました。
又,災害時には重要な
避難場所でもありまし
た。従って町家の構造
はこういった外部空間の使い方と深く関
わっています。
当時は自動車や大きな企業に占有される
のではなく,町内の人びとが平等に共有
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∼あたらしい茶道具∼
Classic
▼
製品開発研究事業第三期 2001
03
現在,
「クラシック」
と
「カジュアル」
それぞれのグループ
活動を中心に行っていますが,進捗状況は次のとおりで
す。Webサイトの
「あたらしい茶道具」
もご参照ください。
Casual
クラシック
カジュアル
8月1日までに 2回の検討会を開き,製作していきた
い道具について意見交換を行いました。
そこで,菓子器類,香合,風炉先屏風,水指,皆
具,ガラスと布を複合した鉢などが提案されまし
た。また,これらのデザインの現状や流通動向に
ついて,
「型や寸法は従来通りで,仕上げや素材,
色,文様などでバリエーションを広げる」
「お茶人
は女性が圧倒的に多いため,女性が見て<かわい
らしい>ものに」
「デザインは<いやらしくない>
ものに」
などのご意見があった他,価格や使い勝
手の検討の必要性も挙げられました。
一方,同時にこの事業の経過を Web サイトやメー
ルマガジンで一般の方々にも情報提供しておりま
すが,こちらからも有益なご意見をいただいてい
ます。
さらに,茶道具に関するアンケートも実施してい
ますので,これらをもとにしていよいよ
「あたらし
い茶道具」
のアイデア作成を開始していきます。
また,11月以降には,茶道経験者の方々へのイン
タビューを予定しています。
7月29日までに 2回の検討会を開きました。
検討会では,気軽に自由に楽しむお茶道具を提案
するためには,
道具の使い方やお茶の入れ方,
コー
ディネイトの仕方など,
「解説・説明」
を同時に行
うことの重要性も挙げられました。
また,
「お茶」
と一言にいっても,日本茶,中国茶,
紅茶など,様々な種類のお茶が飲まれており,こ
れらのお茶が飲まれる場面もさまざまです。
お茶を楽しむ道具を提案するために,まず,どん
な場面でどんなお茶が飲まれているかを知ろう!
ということで,9月9日までに,お茶に関するアン
ケートを行いました。
アンケートでは,いつも飲んでいるお茶の種類を
お聞きするほかに,お茶の楽しみ方の工夫や,欲
しいと思う道具についてなど,ご意見もたくさん
記入していただきました。ご協力いただきました
方々に感謝します。
アンケートは現在,集計作業中です。集計結果を
参考に,今後,具体的な製品のデザイン検討に入
ります。
平成
14年度
京都市伝統産業振興館
総会・見学会を 四条京町家 で開催 7月23日
平成14年度総会・見学会は,四条西洞院の四条京町家(京都市伝統産業振興館)において,記念講
演会(1∼2ページ参照)と併せて 7月23日に行われました。
今年度は役員改選の年で,4人の役員さんが交代し,新たに顧問には山田前委員長が就任しまし
た。また会計準則及び規約改正も承認されました。
前裁
前裁
走庭
この夏もっとも暑いとも思われる日ではあり
ましたが,今年度総会の各議案はすべて承認
され,つつがなく終了しました。
その後,記念講演のあと,京町家二階つぎの
間と座敷において懇親会となりました。
今年度,新たに就任された役員は次のとおり
で,その他はすべて留任となりました
(顧問
以外の各役員の任期はそれぞれ 2年)
。
詳細は,当日資料・議事録をご覧ください。
委員長 饗庭 通夫
(㈱阿以波)
※
副委員長 片岡 行雄
(片岡光春人形司㈲)
委員 大家 忠弘
(大家漆工房)
委員 佐治 寿一
(㈱平安武久)
顧問 山田 善三郎
(元㈱芸艸堂)
△
▼ ▽
※饗庭委員長は,さる 8月5日急逝されました。
当面は,片岡副委員長が委員長代行として研究
会運営にあたります。
つぎの間・座敷
(懇親会)
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Calendar
作品展示会を中心とした,会員の活動情報です。時間・場所の詳細など詳
しいことは,会員または開催場所までお問合せください。また,掲載希望
の会員さんは,事務局
(工芸研究室)
までご連絡下さい
(☎075-315-8572)
。
催事名
期 間
会員名
三木表悦 所蔵品にみる京都の漆芸 7月2日㈫∼10月6日㈰
場 所
京都文化博物館
(☎075-222-0888)
京都市中京区三条高倉
催事名
期 間
会員名
大西清右衛門 秋期企画
『浄中・浄心』
9月6日㈮∼12月8日㈰
場 所
大西清右衛門美術館
(☎075-221-2881)
京都市中京区三条通新町西入ル釜座町18-1
催事名
期 間
会員名 岡墨光堂
京表具展 潤いある生活文化の創出 - 9月10日㈫∼10月14日㈪
光影堂
場 所
みやこめっせ伝統産業ふれあい館
(☎075-762-2670)
京都市左京区岡崎成勝寺町9-1
春芳堂
催事名
期 間
会員名
象彦 本店 秋展 10月4日㈮∼6日㈰
場 所
象彦本店
(☎075-752-7777)
京都市左京区岡崎最勝寺町10
催事名
期 間
会員名
海峰窯 第24回京焼・清水焼展 10月4日㈮∼22日㈫
場 所
たち吉本店
(☎075-211-3143)
京都市下京区四条富小路角
催事名
期 間
会員名
中村夢泉 第47回彩芸展 10月6日㈰∼7日㈪
場 所
京都宝ヶ池プリンスホテル
(問合せ:京都彩芸美術協同組合☎075-255-4496)
催事名
期 間
会員名
石川漆工房 思い出修復展 10月10日㈭∼15日㈫
場 所
京都クラフトセンター
(☎075-561-3002)
京都市東山区祇園町北側275
石川漆工房
催事名
期 間
会員名 光影堂
陶漆装秋展 10月12日㈯∼14日㈪
陶工房・伯耆
場 所
西陣町家
「古武邸」
京都市上京区大宮通五辻上ル
(問合せ:青窯会会館☎075-531-5678)
平安陶花園
催事名
日 時
会員名
大西清右衛門 京釜文化講演会
『釜について∼浄中・浄心を中心に∼』
10月26日㈯ 14:00∼
場 所
大西清右衛門美術館
(☎075-221-2881)
京都市中京区三条通新町西入ル釜座町18-1
催事名
期 間
会員名
京都陶磁器会館 炭山工芸村展 11月2日㈯∼10日㈰
場 所
京都陶磁器会館
(☎075-541-1102)
京都市東山区五条坂東大路東入ル白糸町
催事名
期 間
会員名
陶工房・伯耆 泉涌寺窯もみじまつり 11月16日㈯∼17日㈰
場 所
平安陶花園 京都市東山区泉涌寺東林町一帯
(問合せ:青窯会会館☎075-531-5678)
活動報告 2002.7-9
7 月 3日 会報発行事業研修会
(工業試験場)
9日 こうげい第21号発行
23日 総会
(京都市伝統産業振興館・四条京町家)
29日 製品開発研究事業Ⅲ研修会
(工業試験場)
8 月 1日 製品開発研究事業Ⅲ研修会
(工業試験場)
9 月11日 会報発行事業研修会
(工業試験場)
25日 会報発行事業研修会
(工業試験場)
RP 講習会
[6]
のお知らせ
10月22日㈫ 午後1時より,RP 講習会
[6]
を工業試験場
において開催します。今回は,三次元デジタイザーの
デモを中心に,三次元デジタルデータの作成方法と活
用方法について紹介します。詳細は事務局まで。
●内容の概要
①京都市工業試験場の RP システム
(京都市工業試験場)
② SpinArmⅡの紹介・デモ
(㈱ミツトヨ)
③ポータブル型3次元デジタイザ
(㈱トーメンマシーナリー)
④マネキン用ブローモールド金型設計事例(ミノルタ㈱)
●参加費 1000円
(会員)
●定員 20名
●申込締切 10月18日
(申込用紙で FAX か郵送)
■訃報
会員の大西清右衛門氏のご尊父・大西浄心
(十五代大西
清右衛門)
氏が,さる 9月21日に逝去されました。
慎んでご冥福をお祈りいたします。
編 集 後 記
●秋の工芸展 - 作品制作 - ,苦悩の連続でいつも頭を痛
めている。観念の世界で工芸を究め哲学する理念を夢の
ように追い,時には心を宥め時には鞭を打つ。世界は社
会に主張できる工人を期待している。 か
●区民運動会に担ぎだされたお父さん,救急隊に担がれ
病院行きのニュース。他人事ではありません。不摂生な
日々の我輩も悲しきかなお父さん,気持ちだけでは走れ
ません。オヤジも年だねと膝が笑っておりました。 と
●今,巷ではおにぎりがブームとのこと。新しいファー
ストフードとして注目されているようです。やっぱり日
本人は
「米」
ですかね。もうすぐ新米の季節。まずは祖父
母の田んぼの稲刈りに,帰省します。 い
●
「作り手の主張を押し付けがましく見せるのではなく,
見る側の主観を尊重して見ていただくという姿勢が大切
だ。
」
とは,故饗庭委員長の言葉です。ものづくりに関わ
るわれわれは決してこのことを忘れてはならない。 お
△
▼
四条京町家へようこそ|追悼・饗庭委員長|あたらしい茶道具|平成 14 年度総会報告 カレンダー|活動報告| RP 講習会