48 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ◇報 告◇ 断面修復材「NEXSUSシリーズ」の 硬化性状と硬化後の諸物性 Properties of NEXSUS Series Patch Repair Materials 長 井 義 徳*, 柗 林 裕 二* NAGAI, Yoshinori*; MATSUBAYASHI, Yuji* 要 旨 近年, インフラの長寿命化, 維持管理, 事後保全, 予防保全が求められるなか, 鉄筋コン クリート構造物の耐久性並びに補修技術の向上は社会的要求ともなってきている. 従来の鉄筋 コンクリート構造物の断面修復材には, セメント, 砂, 混和材料などをプレパッケージ化した ポリマーセメントモルタルの製品がある. これらに使用するポリマーは, 性能をより重視して ポリマーディスパージョンを用いたものが多いが, この場合,ポリマーディスパージョンの現場 計量によるポリマーセメント比の不安定性や, 缶の廃棄などの問題が起こる. そこで, それら を解決するために, 粉末化したポリマーを従来のプレパッケージ製品に混和した一材型断面 修復材「NEXSUS」シリーズを開発した. ここでは, 普通硬化タイプの NEXSUS と速硬タイプの NEXSUS Superの硬化性状と硬化後の諸物性について報告する. キーワード:補修, 材料, 施工, 断面修復, ポリマーセメントモルタル, 圧縮強度, 付着強度 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 太平洋マテリアル株式会社 Taiheiyo Materials Corporation 49 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ABSTRACT With the increasing demand for extension of service life of infrastructure, maintenance management, corrective and preventive maintenances, improvement of durability of reinforced concrete structures and repair technologies for them has become a social need.Conventional patch repair materials for reinforced concrete structures include products of polymer cement mortar which are premix of cement, sand and admixture. Although polymer dispersions are used in many of these polymeric products for their performance, problems have been pointed out such as instability of the polymer cement ratio due to on-site measurement of the polymer dispersions and disposal of cans after use. To solve these problems, we successfully developed NEXSUS series single-component patch repair mortar by mixing the redispersible polymer powder with an existing prepackaged product. This paper reports hardening and mechanical properties of standard hardening NEXSUS and quick hardening NEXSUS-Super-. Keywords:Repair, Material, Construction, Patch repair, Polymer cement mortar, Compressive strength, Bond strength 1.は じ め に 鉄筋コンクリート構造物は, 1983年のコンクリー トクライシスのテレビ報道を機に中性化や塩害によ る耐久性が社会問題となり, 1985 年から3カ年の 建設省(現:国土交通省)総合技術開発プロジェクト 「コンクリートの耐久性技術の向上」が実施されて, 1986 年にコンクリート中の塩化物総量規制および アルカリ骨材反応抑制対策が規定・通達された. その後, 補修に関する規準類は, 日本建築学会から 1997年に「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調 査・診断および補修指針(案)・同解説」, 土木学会 から 2001年に「標準示方書【維持管理編】」,および 2005年に「表面保護工法・設計施工指針(案)」が発 刊され, その他の事業者によるものも含めて整備さ れてきている. 近年では, 鉄筋コンクリート構造物 の補修や耐久性向上は, 社会インフラの長寿命化, 維持管理, 事後保全, 予防保全などをキーワードと して, 社会的に求められている技術といえる. 太平洋マテリアル株式会社では, 上述の社会問題 が明らかになる以前より, 鉄筋コンクリート構造物 の耐久性に関わる専用補修材料・工法を販売してき ており, その断面修復材等には, セメント,砂,混和 材料などをプレパッケージ化したポリマーセメント モルタルの製品がある. これらに使用するポリマー は, 性能をより重視してポリマーディスパージョン を用いたものが多いが, この場合, ポリマーディス パージョンの現場計量によるポリマーセメント比の 不安定性や缶の廃棄などの問題が起こる. そこで, それらを解決するために, 粉末化したポリマーを上 記のプレパッケージ製品に混和した一材型断面修復 材「NEXSUS」シリーズを開発・販売した. ここでは, 普 通 硬 化 タ イ プ の NEXSUS と 速 硬 タ イ プ の NEXSUS Superの基本性状を報告する. 2.試 験 概 要 2.1 使用材料および配合 NEXSUSシリーズの各製品の標準配合を Table 1 に 示す. 構成材料(既調合粉体)は, セメント・骨材・ アクリル系再乳化形粉末樹脂・各種混和剤等である. 既調合粉体水比(以下, 水比)で, ホバートミキサを 用いて低速回転1分混練 → 小休止(その間に掻き落 としを行い) → 低速回転2分混練してモルタルを供 した. 50 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― また, 中性化試験に用いた比較用コンクリートの 配合を Table 2に示す. 厚さ 10mmに塗り付けて所定材齢まで養生を行った後, モルタルを 40×40 mmにコンクリート平板に達するま でカットして, 建研式引張試験器を用いて行った. 2.2 試験項目 (1) 凝結試験 凝結試験は, JIS R 5201「セメントの物理試験」 付属書1「セメントの試験方法-凝結と安定性の測 定」に準じて, 終結時間の測定を行った. (3) 乾燥収縮試験 乾燥収縮試験は, 所定温度で成形して2日後に脱 型基長を行い, JIS A 1129-3「モルタル及びコンク リートの長さ変化試験方法」に準じて行った. (2) 圧縮強度および付着強度試験 圧縮強度試験は, 所定温度で成形および所定材齢 まで気中養生を行い, JIS R 5201「セメントの物理 試験」に準じて行った. なお, 脱型は成形後2日後 とした. 付着強度試験は, 寸法 300×300×60 mm の コンクリート平板の 300×300 mm面に供試モルタルを (4) 中性化試験 中性化試験は, JIS A 1152「コンクリートの中性 化深さの測定方法」および JIS A 1153「コンクリー トの促進中性化試験方法」に準じて行った. なお, 養 生は, JIS A 1171「ポリマーセメントモルタルの試 験方法」に準じて行った. Table 1 Product name Mix proportion of NEXSUS series (NEXSUS シリーズの配合) Temp. W/P R/P (%) (%) (℃) 20 Water Powder Retarder - 263 1875 - 5 13 0.00 254 1955 0.00 20 14 0.24 264 1885 4.52 30 16 0.32 289 1810 5.79 30 NEXSUS -Super- Unit weight (kg/m3) W/C s/a (%) (%) 14 W 50 46.4 168 Setting time for the cases of 5,20,30℃ (5,20,30℃における NEXSUS の凝結時間) C※ S G 336 812 966 Slump (cm) 8.0 Air Compressive Content strength (%) (N/mm2) 4.2 41 ※C:HPC Fig. 2 Fig. 1 Mix proportion of the concrete to compare (比較用コンクリートの配合) Unit weight (kg/m3) 5 NEXSUS Table 2 Relationship between R/P and setting time under various temperature surroundings (異なる温度環境下における NEXSUS Super の遅延剤と凝結時間の関係) 51 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (5) 凍結融解試験 凍結融解試験は, JIS A 1148「コンクリートの凍 結融解試験方法」に定める A法 (水中凍結融解試験方 法)に準じて行った. なお, 試験前養生は JIS A 1171 「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の養生に 準じた. 2.3 試験結果 (1) 凝結試験 5,20,30 ℃ における NEXSUS の凝結試験結果を Fig.1 に示す. 一般的なポリマーセメントモルタル は, 低温時の凝結時間(終結)が大幅に遅れるものが 多い. しかし, Fig.1 からわかるように, NEXSUS は 5℃ の凝結時間が 20 ℃ よりも2時間程度の遅延 に留まっており, 低温時の施工に支障がないことが Fig. 3 Fig. 5 Compressive strength for the case of water-powder ratio of 13, 14,15% (NEXSUS の圧縮強度) Compressive strength for the cases of water-powder ratio 13,14,15% (NEXSUS Super の圧縮強度) 確認された. 一方, NEXSUS Superは速硬タイプであり, なおか つ温度依存性が高いために, 現場施工において遅延 剤を添加することとしている. NEXSUS Superの各温 度における遅延剤添加率と凝結時間の関係を Fig.2 に示す. Fig.2 からわかるように, NEXSUS Super は 各温度において, 適切に遅延剤添加量を調整するこ とにより, 終結時間をおおよそ1.5~2時間にするこ とができる. (2) 圧縮強度および付着強度試験 NEXSUSの圧縮強度について, 水比別の試験結果を Fig.3に, 温度別の試験結果を Fig.4に示す. NEXSUS Superについても同様に, 水比別の試験結果を Fig.5 に, 温度別の試験結果を Fig.6に示す. Fig. 4 Compressive strength for the cases of 5,20,30℃ (5,20,30℃における NEXSUS の圧縮強度) Fig. 6 Compressive strength for the cases of 5,20,30℃ (5,20,30℃における NEXSUS Super の圧縮強度) 52 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― NEXSUS は, 作業性等から定めた 20 ℃ 環境下の水 比を 13~15%としている. Fig.3を見ると, それらの 範囲内では, 材齢3日において 20N/mm2 以上, 材齢 28 日では補修対象としてやや高い強度レベルの 40N/mm2 以上となることがわかる. また, Fig.4から, 5℃ 環境下では強度発現がやや遅いものの, 材齢 28 日で補修対象として比較的多い躯体の強度レベル (24 N/mm2 )を超え, 材齢 56 日で 40 N/mm2 以上となる ことがわかる. 一方, NEXSUS Superは, NEXSUSと同様に水比の設 定範囲内では強度の変化は大きくないことがわかる ( Fig.5 ). さらに, 5℃ から 30 ℃ の範囲において 材齢4時間程度で強度発現が確認され, 材齢 28日で は, いずれも, おおむね同程度の強度となることが わかる (Fig.6). NEXSUS の 付 着 強 度 の 試 験 結 果 を Fig.7 お よ び Fig.8に, NEXSUS Super の結果を Fig.9および Fig.10 に示す. これらの結果から, NEXSUS, NEXSUS Super の付着強度は, 水比や温度が変化しても, 材齢7日 でNEXCO(高速道路株式会社)の左官工法による断面 修復の性能照査項目のコンクリートとの付着性の基 準値の 1.5 N/mm2 を上回る2N/mm2 以上となることが 確認された. すなわち, NEXSUSおよび NEXSUS Super は, いずれも良好な付着性能を有していることが示 された. Fig. 7 Bond strength for the cases of waterpowder ratio of 13,14,15% (NEXSUS の付着強度) Fig. 8 Bond strength for the cases of 5,20,30℃ (5,20,30℃における NEXSUS の付着強度) Fig. 9 Bond strength for the cases of waterpowder ratio of 13,14,15% ( NEXSUS Super の付着強度) Fig. 10 Bond strength for the cases of 5,20,30℃ ( 5,20,30℃における NEXSUS Super の付着強度) 53 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (3) 乾燥収縮試験 NEXSUS の 各 温 度 に お け る 乾 燥 収 縮 試 験 結 果 を Fig.11に, NEXSUS Superの結果を Fig.12に示す. NEXSUSおよび NEXSUS Superの乾燥収縮は, 材齢 28 日で NEXCO 規格である-500μ以内であり, 高い寸法 安定性を有していることが確認された. (4) 中性化試験 促進中性化試験について, NEXSUSの結果を Fig.13 に, NEXSUS Superの結果を Fig.14に示す. NEXSUS は中性化速度係数が 1.43mm/√週となり, 中性化速度係数が 1.87 mm/√週の比較用コンクリー トに対して, 高い中性化抵抗性を有することが確認 Fig. 11 Fig. 13 された. また, 速硬系の断面修復材は一般的に中性化抵抗 性が低いといわれているが, NEXSUS Superの中性化 速度係数は, 比較用コンクリートと同等の 1.83 mm/ √週であることが確認された. (5) 凍結融解試験 NEXSUS の凍結融解試験結果を Fig.15 に, NEXSUS Superの結果を Fig.16に示す. NEXSUS および NEXSUS Super の相対動弾性係数は, 300サイクルでいずれも 97%以上と良好であった. さ らに 600 サイクルまで継続したが, 相対動弾性係数 は 90%以上であることが確認された. Drying shrinkage for the cases of 5,20,30℃ (NEXSUS の乾燥収縮ひずみ) Fig. 12 Drying shrinkage for the cases of 5,20,30℃ (NEXUSU Super の乾燥収縮ひずみ) Accelerated carbonation depth (NEXSUS の促進中性化深さ) Fig. 14 Accelerated carbonation depth ( NEXSUS Super の促進中性化深さ) 54 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Fig. 15 Freezing and thawing resistance (NEXSUS の凍結融解抵抗性) Fig. 16 Freezing and thawing resistance (NEXSUS Super の凍結融解抵抗性) 3.施 工 事 例 NEXSUSおよび NEXSUS Superの吹付け施工システム の概要を Fig.17に示す. また, NEXSUSの吹付け施工 例を Fig.18に, NEXSUS Superの左官による施工例を Fig.19に示す. NEXSUSおよび NEXSUS Superは, 主に 土木構造物の補修に使用されている. NEXSUSおよび NEXSUS Super は, NEXCO の構造物施工管理要領1) に おける左官工法による断面修復の性能照査項目の基 準値に適合していることが公的試験機関で確認され ている. さらに NEXSUS Superは, 首都高速道路株式 会社の橋梁構造物設計要領の断面修復材の規格2) に 適合していることが確認されている. 4.ま と Fig. 17 Spraying construction system (吹付け施工システム) め 本報告では, 鉄筋コンクリート構造物用の断面修 復材 NEXSUS および NEXSUS Super の硬化性状と硬化 後の諸物性の確認を行った. 得られた知見を以下に 示す. (1) さまざまな温度環境下で施工を行える凝結時間 を有する. (2) 所定の水比の範囲であれば, 安定した圧縮強度 および付着強度が確認された. (3) さまざまな温度環境下で, 補修する躯体コンク リートの圧縮強度と同等以上の圧縮強度を確保 できている. さらに, 付着強度も材齢28日で 1.5N/mm2 以上確保できている. (4) 乾燥収縮ひずみが小さいことにより,寸法安定性 に優れている. (5) 耐中性化性能・耐凍害性能において,コンクリー トと同等もしくはそれ以上の性能を有している. Fig. 18 Construction example of NEXSUS (Spray) ( NEXSUS の吹付け施工例) 55 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):長井, 柗林 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Fig. 19 Construction example of NEXSUS Super (Plasterer) (NEXSUS Super の左官施工例) 5.今後の課題 NEXSUSおよび NEXSUS Superについては,今後,塩化 物イオンの拡散係数など耐久性に関わる物性を検証 していく予定である. また, NEXSUSシリーズとしては, 軽量骨材を用い て厚付性を付与した「 NEXSUS - Light-」の開発も行 っている. 同製品も, NEXCOの構造物施工管理要領1) の左官工法による断面修復の性能照査項目の基準値 と, 首都高速道路株式会社の橋梁構造物設計要領2) の断面修復材の規格に適合していることが公的試験 機関で確認されている. さらに, NEXSUSシリーズ専 用の鉄筋防錆材を開発中であり, シリーズの拡充を 図っていく予定である. 参 考 文 献 1) 東日本高速道路株式会社・中日本高速道路株式会 社・西日本高速道路株式会社. 構造物施工管理要 領,2014,p.3-25. 2) 首都高速道路株式会社. 橋梁構造物設計要領コ ンクリート片剥落防止編.2006,p.13.
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