肥育前期における黒毛和種去勢牛への稲発酵粗飼料給与

肥育前期における黒毛和種去勢牛への稲発酵粗飼料給与
1. はじめに
飼料イネは、耕畜連携で生産できる粗飼料です。肉用牛経営においては、通常給与されてい
る稲わらと比較して、β-カロテン(家畜の体内で筋肉中の脂肪交雑を阻害するビタミンAに変
化)含量が高いとの不安から利用があまり進んでいません。
現在、畜産試験場では、肉用牛向けに調製されたβ-カロテン含量の低い稲発酵粗飼料(イネ
WCS)を給与飼料とした黒毛和種去勢牛 24 ヶ月齢肥育試験に取り組んでいます。
2. 試験の内容について
父牛を同一(糸北富士)とする黒毛和種去勢牛 15 頭を用い、8~13 ヶ月齢の肥育前期に乾草
(イタリアンライグラス)を給与する対照区とイネWCSを給与するWCS区の比較を行い、
肥育前期におけるイネWCSの給与効果について調査を行いました。
3. イネWCSはよく食べます!
肥育前期にイネWCSを給与したところ以下のことが分かりました。
① 対照区よりもWCS区の粗飼料摂取量が多い。また、日増体量も多い傾向にある(表1)。
② WCS区の血漿中ビタミンA濃度は保健量である 80IU/dL 以上で推移しており、対照区
と差がなく、給与上の問題はない(図1)。
③ 血漿中のビタミンE(α-トコフェロール)濃度は、WCS区が高く推移する(図2)。
表1.体重、日増体量および乾物摂取量
肥育前期
肥育前期
開始時体重
終了時体重
(kg)
(kg)
対照区(n=5) 252.6±22.8
471.0±34.2
WCS区(n=10) 242.1±14.8
471.2±18.1
250
α-トコフェロール(μg/dL)
ビタミンA(IU/dL)
300
b
200
150
a
100
50
0
8
9
10
11
12
13
14
日増体量
(kg/日)
1.3±0.1
1.4±0.1
乾物摂取量
濃厚飼料 粗飼料
(kg/日)
(kg/日)
6.4±0.4 1.2±0.2a
6.5±0.2 1.8±0.4b
1000
900
800
700
b b
b
b
b
600
b
500
400
対照区(n=5)
300
WCS区(n=10)
200
a
a
a
a a
100
a
0
8
9
10 11 12 13 14
月齢
図1.血漿中ビタミンA濃度
対照区(n=5)
WCS区(n=10)
月齢
図2.血漿中α-トコフェロール濃度
4.おわりに
以上のことから、肥育前期におけるイネWCSの給与は粗飼料摂取量が多く、増体もよく、
また、血液性状について問題がないことから、乾草と同等に利用できると考えられました。
最近では、飼料イネ中に含まれるα-トコフェロールに肉色の保持効果があることが分かって
きています。
現在、肥育後期の試験を実施中ですので、その効果が明らかになると思います。
(農業技術センター畜産試験場
酪農肉牛課
研究員
高平寧子)