昭 和39年10月20日 231 細 菌性 赤 痢 の潰 瘍 に対 す るバ リダー ゼ の治 療効果 都立荏原病院 伝染科 医長 高 良 橋 は じめ に バ リダー ゼ(以 下V .と 略 記 す る)は 非 病 原 性 の溶 血 性連 鎖 球 菌 の産 生 す る酵 素 を精 製 した混 合 酵 素 製 剤 で,炎 症 緩 解 用 と して感 染 時 に お け る浮 腫,腫 脹,疹 痛,紅 斑,出.血 等 の炎 症 諸 症 状 を緩 二 2種 で あ るが,前 者 は1錠 中 に線 維 素 融 解 因 子 で あ る ス トレ プ トキ ナー ゼ(SK)10000単 位,核 蛋 白液 化 因子 で あ るス トレプ ト ドル ナー ゼ(SD) 250C単 位 を含 有 す る.こ の使 用 方 法 は一 1)口 腔 内使 用:1回1錠 ず つ 毎6時 間 に 口腔 解 し,呼 吸器 系統 に お い て は粘 稠 喀 疾 の排 出 を促 内 投 与'嚥 下 しない よ うに注 意 し,口 腔粘 膜 よ り 進 す る.そ れ故 内科 領 域 で は気 管 支 鏡 検 査 後 の喀 吸収 を促 す. 出 障 害 の際 とか,気 管 支 炎,気 管 支 拡 張 症,肺 結 核,塵 肺 等 の際 に使 用 した結 果,そ れぞ れ の症 例 に おい て喀 疾 の排 出 が容 易 とな り自覚 症 状 の改 善 2)直 腸 内 使 用:1錠 投 与.大 体5∼10cm位 ず つ 毎6時 間 に直 腸 内 に の 深 さに まで挿 入.そ の ま 、放 置 して 吸収 を促 す. を み た との多 くの報 告 が あ り1)2)3),外科 領 域 に お 1),2)の 両 使 用 法 と も5日 間続 けた. い て も術 後 の主 と して喀 湊 排 出 困難 の症 例 とか創 V.ト 傷,潰 瘍,そ の ほ か 口腔 粘 膜 疾 患4)5)6)に好 影 響 を 及 ぼ した と報 告 せ られ て い る.JackD. Selzer ピ カル は,バ SD25000単 イ アル 中SK10000単 位 を含 有 す る.そ の 使 用 方 法 は1 パ イ アル を蒸 溜 水10mlに 溶 解 し,こ れ を原 液 と ら2)は 肛 門,直 腸 手 術 後 の患 者 に本 剤 を応 用 し, し,そ の 中2m1を 術 後 の炎 症,浮 腫,疹 痛 な ど を著 明 に軽 減 し得 た え徐 々 に注 腸.少 と,米 国肛 門 直腸 病 学 会 に て発 表 して い る. に注 意 した.原 液 の 残 り8mlは V.の 投 与 方法 は ほ とん どの報 告 がV.バ ツカ ル を 口腔 内 に投 与 し て 口腔 粘 膜 よ り吸収 さ せ る方 法 を とつ てい るが,勝 又 ら7)は 気 管 内 麻酔 手術 後 位と 微 温 生 理 食塩 液100m1に 加 な く と も3時 間 は 出 さ ない よ う フ リー ザ に保 存 し,翌 日以 後 の使 用 に供 した.こ の方 法 も1日1 回連 続5日 間実 施 した' 症 例 は す べ て細 菌 学 的 に診 断 確 実 な成 人赤 痢 患 に経 直腸 的 に本 剤 を使 用 して好 成 績 を得 た とい っ 者 を選 び,V.剤 投 与 と同時 に菌 の発 育 阻 止 をは て い る. か り,更 にV.の 効 果 を よ り大 な ら しめ るた め に S等 状 結 腸 か ら直 腸 に か け て主病 変 の 存 す る細 菌 性 赤 痢 の潰瘍 に対 して本 剤 を応 用 した との報 告 TCを1日 次 にV.剤 量19,毎6時 間 に経 口投 与 した. の生 理 食 塩 液 稀 釈 液100m1を 注腸 に は ま だ全 く接 し てい ない が,こ の ほ どLederle して腸管 の どの辺 の部 位 に まで上 行 して ゆ くか を よ りV.剤 調 べ るた め,硫 酸 バ リウ ム液100m1を の試 供 を受 けた の で,東 京都 立 荏 原 病 徐 々 に注 院 に 入 院 した細 菌 性 赤 痢 患 者 に対 し本 剤 をTCと 腸 して1時 間後X線 写 真 を撮 影 した結 果,第1図 併 用 し,V.の に示 す ご と く直腸 か らS与 状 部 を充 満 して下 行 結 直 腸粘 膜 に お け る赤痢 潰瘍 に 及 ぼ す影 響 に つ き,直 腸 鏡 を用 い て観 察 したの でそ の 腸 の 中 ば に まで達 す る こ と を知 つ た.も ち論,生 結 果 を報 告 す る. 理 食 塩 液 と硫 酸 バ リウ ム液 とで は粘 稠 度 や そ の他 供 与 せ られ たV.剤 は バ ツカ ル錠 と トピカ ル の の 点 で の相 違 は あ るに せ よ,粘 稠 度 の低 い 生 理 食 日本 伝 染 病 学 会難 誌 232 れ,あ 第1図 第38巻 第7号 るい は 時 に 膿苔 を もつ て覆 わ れ,小 潰 瘍 が 広 範 位 に存 在 し,乙 れ らは 出 血性 で治 癒傾 向 の 全 くない よ うな もの. (十)浮 腫 が 著明 で,潰 瘍 は陳 旧性 では あ るが 治癒 傾 向 に 乏 し く,出 血 性 で 肉芽 形 成 不 良 の状 態 に あ る もの.あ るい は 点状 出血 斑 の存 在 す る よ う な型 の もの. (±)浮 腫 は あ るが潰 瘍 は 肉 芽 の形 成 良好 で, 搬 痕 と して認 め られ る程 度 の も の, 以 上の よ うな直 腸 粘 膜 所 見 に従 つ てV,剤 投与 開 始 前,終 了 直 後 の潰 瘍 の程 度 を比 較 し,治 療 開 始 前 に(粁)で か,あ あ つ た もの が終 了 後(±)に るい は 始 め(+)で なる あつ た もの が終 了 後 全 く正 常 に なつ た よ うな場 合,す なわ ち潰 瘍 の程 度 が 二段 階 快方 に 向 つ た よ うな場 合 を 著 効 と し, 塩 液 で もバ リウ ム以 上に深 入 す るで あ ろ う こ とは (粁)の もの が(+)に 容 易 に 想 像 し得 る の で あ る. た よ うな場 合 を有効,不 対 照群 と して抗 生 剤,あ 間 の治 燈 終 了 後 お よび退 院 前 (大体 第3病 週 の終 り頃)の3回 直 腸 鏡 に よ り直 3例,同 V. B.: Varidase Buccal. 症 ツカ ル錠ll腔 内投 与 群 剤 直 腸 内 投 与 群5例 を第1表 に,V.ト ピ カ ル生 理 食 塩 液 注 腸 療 法 群12例 を一括 し て第2 表 に示 す.そ の結 果 腫 が 暑 明 で膿 瘍 が多 数 認 め ら 第1表 るい は化 学療 法 剤 の み に よ る治 療 群5例,V.パ 腸 粘 膜 を観 察 した が,そ の潰 瘍 の程 度 を次 の よ う に定 め た. (廾)充 血,浮 変 の もの を無 効 と した. 症例 潰 瘍 の判 定 基 準 治 療 開 始 時,5口 な る ご と く一段 階 良 くなつ 例(そ 廾 ∼ ± 潰 瘍 の 程 度 を 表 わ す. の1) 昭和39年10月20日 233 第2表 V. T.: Varidase Topical 症 例(そ 1)対 照 群:5例 プ(CPとSMの 中2例 はTCを,2例 acid),1{列 合 剤)単 Varidase Topical注 腸例 廾 ∼ ± 潰 瘍 の程 度 を示 す . 第2図 18.320(Nalidixic のII) 対 照 例GK はWin 独 療 法 を実 施 し,臨 床 腸 粘 膜 の赤 痢 濱 瘍 に 対 し て は 無 効 症 例 が 多 か つ た.第1表 Sh. GK例 は ク ロ ・ス ト レ ッ 的 に は 全 例 と も著 効 を収 め た が,直 361♂ 中の 2)口 flex. 2a の大 略 と直 腸 粘膜 像 を図2に 示 す. 腔 内投 与 群:3例 的 に は著 効2例,有 効1例 に使 用 した結 果,臨 床 で あ つ た が,潰 瘍 に及 ぼ す影 響 をみ る と有効2例,無 なか つ た. 効1例 で著 効 例 は 日本伝染病 学会雑誌 234 筑3図 第3表Varidaseの 患 者MI 赤 痢潰 瘍 に 対 す る治 療 効 果 21j♂ Sh 第夢8巻 第7号 fiex. 2a 1例,有 効4例 4)V.溶 で無 効 の症 例 は な か つ た. 液 注腸 群:12例 に 使 用 した 結 果,第 2表 の 通 り臨 床 的 に 著 効4例,有 能 の 症例 が2例 例,有 効6例 績 を得 た.表 効6例,判 定不 あつ た が,潰 瘍 に対 して は著 効6 で無 効 例 は皆 無 とい う非 常 に 良 い成 中No.4のMIの 症 例 を図3に 示 す. 以 上 の結 果 を一括 し てみ る と第3表 の通 りで, 抗 生剤 ない し化 学 療 法 剤 の み の 治療 法 を とつ た 対 照 群5例 で は 治療 開 始 前 は 全 例 と も 直 腸粘 膜 に (甚)程 度 のひ どい 潰瘍 が 認 め られ,治 療 終了 直 後 で も潰 瘍 は不i変の もの3例,(+)程 復 した もの2例,退 (+)程 度 に恢 院 時 の検 査 に際 し て も な お 度 の潰 瘍 の 残 存 してい た もの が2例 もあ り,結 局,潰 瘍 に 対 す る治療 効 果 は 有 効2例,無 効3例 V. B.: V. T.: 3)直 Varidase Varidase Buccal Tablets. Topical. 腸 内投 与 群:本 法 を実 施 した5例 の中, TC経 で あ つ た. 口療 法 とV.バ ツカ ル 口腔 内投 与 療 法 を 併 用 した3例 で は,治 療 終 了後 の潰 瘍 の治 癒 傾 向 は対 照 群 に 比 しか な り良 く,そ れ で も退 院 前(+) 臨床 的効 果 は薯 効1,有 効3,軽 症 の た め判 定 不 能 の 程 度 の 明 らか な潰 瘍 を認 め た も の が1例,潰 もの1例 完 全 に治 癒 して い た もの は1例 で あ つ た. で あつ た が,潰 瘍 に及 ぼ す す効 果 は著 効 瘍が 昭 和39年10月20日 235 カ ラ ー1 カ ラ ー4 カ ラ ー2 カ ラ ー5 カ ラ ー3 カ ラ ー6 日本 伝 染 病 学 会雑 誌 236 TC経 口療 法 とV.バ ツ カ ル の直 腸 内投 与 療 法 第38巻 の ま ゝ投 与 す る よ りは 溶 液 の 状 態 で注 腸 した方 が を併 用 した5例 に つ い て は潰 瘍 に対 して著 効 を収 直 腸 粘 膜 全 域 か ら吸収 され る た め,よ め た もの1例,他 多 くのV.が の4例 は 有 効 例 で あ り,退 院 時 に明 らか な潰 瘍 の残 存 した症 例 は1例 も な く,直 腸 粘 膜 が完 全 に正 常化 して い た もの が3例 あ り前 2者 に 比 し明 らか に 良 い成 績 を示 した. TC経 口療 法 とV.ト た12例 では 著 効6例,有 り早 く よ り 吸収 され るで あ ろ う こ とは容 易 に想 像 され る.た だ注 意 を要 す る点 はV.ト ピカ ル を 生理 食 塩 液 に溶 か して 使 用 す る際,溶 液 の状 態 に お い ては 非 常 に 不 安 定 で,室 温 で も非 常 にす みや ピ カル注 腸療 法 を併 用 し か に分 解 され て し ま うこ とで あ る.そ の た め,数 効6例 日間溶 液 状 で保 存 す る必 要 の あ る時 に は必 ず ブ リ ー ザ ー に 入 れ て凍 結 し てお か な けれ ば な ら ない. で,治 療 終 了 時 既 に粘 膜 が正 常 化 した もの3例 あ り,退 院 時 に は7 例 が完 全 に正 常 粘 膜 とな り,前3者 よ りも明 らか V.バ ツ カ ル は室 温 に おい て も非 常 に安 定 して お り,き わ め て手 軽 に使 用 し得 て都 合 が 良 い.治 に 良 い成 績 を得 た. 以 上,V.剤 第7号 をい ろい ろの 方 法 で投 与 した が, 療 効 果 の 点 で は 前述 の ご と く直腸 内投 与 の 方 が 有 一種 の酵 素 で あ る以 上,粘 膜 面 に直接 作 用 利 で は あ るが,投 与 方 法 と して は か な りの 面 倒 は して何 らか の影 響 を与 え るで あろ う こ とは容 易 に 免 か れ ず,口 腔 内 投 与 法 は 取 扱 い が 非 常 に 容 易 で 想 像 され る と こ ろで あ るが,実 際 に は どの投 与 法 あ り,か な り有 効 で は あ るが,直 腸 内 投与 法 ほ ど有 の 場 合 も,何 ら 自覚 的 な副 作 用 は 認 め られ なか つ 効 とは い えな い.こ の よ うに考 えて み る と,V.剤 た し,口 腔 ない し直腸 粘 膜 も 肉眼 的 に特 に悪 化 し を細 菌 性 赤痢 の潰 瘍 を治 癒 す る 目的 で使 用 す る際 V.は た よ うな所 見 は全 く認 め られ なか つ た. お わ りに V.剤 に は,V.バ ツ カ ル錠 を 口腔 内 に使 用 す るか,直 腸 内 投 与 法 を選 ぶ か,あ るい はV.ト の作 用 はSKが 血 清 中 の プ ラ ス ミノ ジェ ピ カ ル の生 理 食 塩 液 溶 液 の注 腸 療 法 を選 ぶ か は潰 瘍 の程 度,自 ン賦活 系 に作 用 し て これ を プ ラ ス ミ ン に 活 性 化 覚,他 覚症 状,あ し,こ れ が ブ イ ブ リン の長 い 蛋 白鎖 を切 断 して分 症 例 ご とに そ れ ぞ れ 条 件 が 違 うの で,そ の た びに 子 量 の低 い 可溶 性 蛋 白,又 は ポ リペ プ タ イ ドに ま 以 上 の の よ うなV.剤 で分 解 し,炎 症 に よつ て生 じた ブ イプ リ ン を 融 治 療 方 法 を決 定 す れ ば 良 い で あ ろ う. 解,除 去 す る こ とに よ り病 巣 局 所 の体 液 の循環 を 良 く し,充 血,浮 腫,疹 痛,出 血等 の 炎 症 諸症 状 V.を 本論 文の 要旨 は 昭和38年10月第12回 日本伝染病学会 1) 細 菌 性 赤痢 に使 用 した 際,そ の潰 瘍 に及 ぼ す影 響 は,V.パ ツ カル の 口腔 内投 与 よ りは 直 腸 内投 与 の 方 が,そ れ よ りもV.ト ピ カ ル の生 理 食 塩 液 稀 釈液 を注 腸 した方 が好 成 績 を得 た結 果 か ら =考え れ ば,口 腔 粘 膜 よ りも直腸 粘 膜 の方 がV.剤 の 直腸 内投 与 に して もV.バ ツ カ ル の錠 剤 文 Clinical Applications Tablets No.1, 1961. 2) 同 上No.2, 3) 同 上No.3, 4) 柏 木 ほ か: 5) 石 崎 峰 子: 巻, 6) の 吸収 が 良 い の で は な い か と考 え られ る し,ま た V.剤 の使 用 条 件 を考 慮 に入 れ て 東 日本地方会 総会 で発表 した. を緩 解 して治 癒 を促進 さ せ る もの で あ る とい わ れ てい る. るい は また患 者 自身 の 意志 等, 号, 7) Buccal 1961. 1961. 外 科, 第19巻, 第4号. 名 古 屋 市 立 大 学 医 学 会 雑 誌, 第2号, 河 村 ほ か: 献 of Varidase 第11 昭 和35年. 口 腔 外 科 学 会 雑 誌, 昭 和37年. 勝 又 晃 一 ほ か: 未 発 表. 第8巻, 第3 昭 和39年10月20日 237 Therapeutic Effects of Varidase on the Bacillary Dysentery Ulcer Ryoji TAKAHASHI The Municipal Ebara Hospital Varidase, a enzymatic from nonpathogenic drug hemolytic containing streptococci given by the author in combination the municipal Ebara Hospital in order ulcer caused by dysentery I. interval II. interval III. One tablet each bacilli. streptokinase and streptodornase, originates and is widely used as an antiphlogistic. It was with TC to bacillary dysentery patients admitted to to investigate effects of Varidase on the rectum Varidase of Varidase was administered Buccal was given in the following methods: perorally 4 times a day in time of 6 hours. One tablet each of Varidase Buccal was given intrarectally 4 times a day in time of 6 hours. One vial of Varidase Topical which was again diluted with luke was dissolved warm saline in l0ml solution to of distilled water, 100m1 and this 2m1 of was very slowly infused once a day into the rectum. Just before and after the treatmnt and prior to the discharge from the hospital, rectoscopy was performed in order to compare the effects of the 3 methods on rectum ulcer with those of antibiotica or chemical drugs in alone use. Out of 5 cases treated with the latter, antibiotica or chemical drugs were effective in 2 cases and non-effective in 3 cases. The above mentioned method I, however, was effective in 2 out of 3 cases, method II excellently effective in 1, and effective in 4 out of 5 cases, method III excellently effective in 6, effective in 6 out of 12 cases. Consequently, effective drugs), on rectum every though of the 3 methods, ulcer a larger as compared number with especially the of cases are required method other methods III was evidently (antibiotica to obtain more accurate more or chemical results.
© Copyright 2024 ExpyDoc