工学倫理第2回講義資料

2015/10/18
第2章 技術者と倫理
工学倫理 第2回
一般市民の倫理がある。技術者には、そ
れに加えて、技術者ゆえの倫理がある。技
術者が技術業の実務に従事するについての
倫理である。
2 1 なぜ技術者の倫理か
2.1
2.2 安全確保の潮流
2.3 技術者倫理の特徴
2.4 倫理規程を読む
2.5 まとめ
教科書:技術者の倫理入門 第四版
杉本泰治 高城重厚 著
杉本泰治,高城重厚
第2章 技術者と倫理
工学倫理 第2回
1
第1話 村の牛乳屋
第二次大戦前~戦後のある時期まで、
北国の小さな村に”牛乳屋”があった。
乳牛3、4頭を飼う⇒毎日乳を搾る
⇒釜で煮て滅菌⇒近隣に配達
電気冷蔵庫のない時代、
電気冷蔵庫のない時代
その日に作って,その日に消費。
米の研ぎ汁を混ぜているとの噂
⇒小学校の理科の先生がテストの結果、不正なし。
牛乳屋=地域消費の小さな家内企業
父親のやり方で安全が保たれ、事故は起きなかっ
た。(殺菌例:63℃で30分間の加熱)
(1)科学技術の危害を抑止する
科学技術は人間生活を豊かにしている反面、
科学技術がもたらす危害がある。
⇒抑止が必要である。
技術者は、科学技術を人間生活に利用すると
ころで働く。
=科学技術から生じる危害を、いち早く探知し抑
止することが可能な立場
⇒技術者に期待、技術者の倫理がいわれる動機。
3
2.1 なぜ技術者の倫理か-3
第2話 雪印乳業食中毒事故
品質管理の導入
1948年 連合軍が牛乳・乳製品の衛生管理を徹底指導
1952年 統計的な品質管理を導入
・1955年八雲工場
1955年3月 東京都墨田区の小学校で、激しいおう吐と
腹痛
発生は9校、患者数は1.936人
北海道八雲工場で製造の脱脂粉乳から溶血性ブドウ球菌
原因は、八雲工場で停電が起き、原料の牛乳の処理
に時間がかかり、その間に細菌が繁殖したものだった。
新任社長=「品質によって失った名誉は、
品質によって回復する以外にはない。」
八雲の事故を忘れるな=教訓⇒しかし、再び事故発生。
5
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
2
2.1 なぜ技術者の倫理か-2
2.1 なぜ技術者の倫理か-1
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
4
2.1 なぜ技術者の倫理か-4
2000年大阪工場
6月末
各地の集団食中毒が伝えられる。
6月30日 大阪工場の雪印低脂肪乳でおう吐や下痢
の症状。 被害は、近畿2府4県や岡山県で自
己申告含め約1,200人にひろがった。
大阪市などが原因を調べているが、病原
菌などは特定されていない。
7月 1日 発生後初めて石川社長が記者会見し、大
阪工場の製造工程のバルブから黄色ブドウ
球菌が検出されたと発表。
工学倫理 第2回
6
1
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2.1 なぜ技術者の倫理か‐5
2.1 なぜ技術者の倫理か‐ 6
7月 6日 発症者が1万人を超え、商品回収や情報公
開が極めてずさん
⇒乳製品全体の消費に及ぼす影響も深刻
社長に対し内外からも強い不満の声
⇒社長 幹部役員辞任(7月28日)
⇒社長、幹部役員辞任(7月28日)
7月 9日 大阪市 バルブの菌≠食中毒の菌と発表
大阪市は、「誰でもわかるような試験で、な
ぜ違う試験結果が出たのか理解できない」とし
ている。(朝日新聞7月10日)
8月18日 大阪市 大樹工場の脱脂粉乳から黄色ブド
ウ球菌の毒素エンテロトキシンA型を検出と発
表。
大樹工場=4ng/g,大阪工場=0.4ng/gの毒素検出
大阪工場の低脂肪乳は 脱脂粉乳を10倍に薄め
大阪工場の低脂肪乳は,脱脂粉乳を10倍に薄め
てつくるので、今回の結果と合致しているとみること
ができる。(大阪府立衛生研究所)
12月20日 最終報告:
原因は大樹工場製の脱脂粉乳と断定し、大阪工
場のずさんな衛生管理は、「因果関係はない。」と結
論した。(朝日新聞12月21日)
工学倫理 第2回
7
2.1 なぜ技術者の倫理か-7
工学倫理 第2回
9
死者1人を含む13,420人の有症者を出した。
過去最大の被害者
※事故原因を追跡できたのはHACCPの効果
科学技術の乱脈な利用が引き起こした事故を、
現代のしっかりした科学技術が収拾した。
HACCP:
原料受け入れから製品までの各工程を明
確にして、検査の記録を残し、消費過程で
問題が起きたら、原因をチェックできるよ
うにするシステムである。
工学倫理 第2回
10
2.1 なぜ技術者の倫理か-9
討論1
これは経営者を責めてすむことではない。学
校教育を受けた技術者が、第1話の家内工業に
はいない。第2話にはいたはずだ。技術者たち
は、事故を抑止し、被害拡大を防止できる立場
にいたはずなのに、何をしていたか。事例の事
実から推論しよう。
工学倫理 第2回
8
2.1 なぜ技術者の倫理か-8
大樹工場
3月31日 午前11時から約3時間停電
脱脂乳が20~30℃の加熱状態で、約4時間滞留
回収乳タンクでも9時間以上冷却されずに放置
⇒黄色ブドウ球菌が増殖
⇒エンテロトキシンA型が大量に生成
4月1日製造の900袋
450袋の細菌数<規格⇒出荷
450袋の細菌数>規格
⇒担当者は、加熱殺菌すれば転用可能と考えた。
加熱によって毒素は分解しない
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
11
第3話 地球温暖化説
地球環境の変化←オゾンホール、砂漠化、森林破壊、
地球温暖化など
地球温暖化←二酸化炭素、メタン、フロンなどのガス
赤外線を吸収・放散する温室効果ガス
産業革命(18世紀)以降 平均気温が0 3~0 5℃上昇
産業革命(18世紀)以降、平均気温が0.3~0.5℃上昇
科学技術の発達⇒エネルギー需要の増大
⇒化石燃料の消費増大⇒大気中のCO2の濃度上昇
科学技術の利用⇒人間生活が豊かになる
科学技術の生産物⇒人類の存亡に関わる危機を生んで
いるという認識
工学倫理 第2回
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2.1 なぜ技術者の倫理か-10
2.1 なぜ技術者の倫理か-11
気温の上昇は年々の気象の変化による要素が大
きいという説もあるが、はっきり効果が現れると
手遅れ。
地球温暖化=科学技術の進歩、産業の発展の結果
⇒人類全体に対する危害の予兆、対策に責任を負
う。
工学倫理 第2回
13
2.1 なぜ技術者の倫理か-12
2.1 なぜ技術者の倫理か‐13
第5話 有珠山・三宅島噴火
2000年3月31日 有珠山噴火
日本の火山噴火、防災計画の歴史の中で初めて噴火を
予知。
気象庁の緊急火山情報により、噴火前に避難が完了。
2000年6月26日 三宅島噴火
予知に成功したかにみえた。
予知に成功したかにみえた
予想を超える事態となり、全員、島外へ脱出。
噴火の予知が早かった⇒初動の対応が迅速に進む。
自衛隊や海上保安庁、島の人口を上回るほどの輸
送能力を確保
溶岩流に追われる様に脱出した17年前の教訓が生
かされた。
工学倫理 第2回
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(3)公衆の福利を推進する
科学技術を利用し、物品やサービスを供給する活動
⇒企業に利潤をもたらし、公衆の福利に寄与する。
人の願望に限りはなく、願望が満たされないようなこ
とがないよう 技術者に期待がかかる
とがないよう、技術者に期待がかかる。
工学倫理 第2回
科学技術の発達
⇒噴火など災害発生の予知が可能になり、
⇒災害時の救援,復興が加速される。
⇒公衆の安全と健康の確保に寄与する。
専門家
自分の専門的能力が役立つ時に行動する人。
技術者の倫理
公衆が信頼し尊敬するような人間関係の構築を
目指すもの。
工学倫理 第2回
16
2.1 なぜ技術者の倫理か‐15
2.1 なぜ技術者の倫理か‐14
工学倫理 第2回
(2)公衆を災害から救う
第4話 日本海中部地震
1983年5月26日 日本海中部地震が発生
津波警報(地震発生後14分)が発令される前後に、大きな
津波が男鹿半島を襲う。⇒死者・行方不明者>100人
秋田県合川南小の4、5年生45人と先生2人
男鹿半島青砂海岸に向かう途中バスが激しく揺れた。
運転手がラジオつけたが異常なし
⇒子供が浜辺へ出た。⇒直後に津波が襲った。
⇒児童13人が犠牲となった。
携帯電話が普及していれば、局地情報の伝達に役立
っただろう。子供たちは、助かっていたかもしれない。
携帯電話が科学技術を利用していることを思ってみよう
14
工学倫理 第2回
。
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第6話 東京・埼玉80万戸停電
1999年11月22日
埼玉県入間川河川敷に自衛隊機が墜落・炎上
墜落時に高圧送電線を切断⇒広範囲で停電
東京電力、鉄塔の両側に電線を併設し故障時に備える
。
墜落した自衛隊機は、両側の電線を切断した。
停電から7分後に手作業は始まり、約30分で復旧した。
⇒そこには、様々な技術の積み重ねと統合があった。
⇒30分もかかったではなく、わずか30分で復旧した。
⇒高度な信頼性が、人間生活や産業経済を支えている
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工学倫理 第2回
。
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討論2(第1回レポート)
技術者倫理の意義を説明するために、
① 科学技術の危害を抑止する。
② 公衆を危害から救う。
③ 公衆の福利を推進する。
のうちどれかを選び、自分の経験や見聞にもと
づ
づいて事例を構想し、あらすじを述べよう。
事例を構想
あ す を述
う
• 友人、知人、家族と討論して、自分の考えをまとめ
る。
•学科名、学籍番号、氏名、選んだ番号を記入する。
• A4用紙1~2枚(表紙不要)にまとめて、第3回授業日
に提出する。
• 第3回授業日に出席できない人は、事前に教務係に
提出する。
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工学倫理 第2回
•原則としてワープロで提出、汚い手書きは減点。
討論2(第1回レポート)
(考え方)
「事例を構想する」には、テキストの6事例からの
連想や、独創的なひらめきの事例でもよい。
また、工学倫理を学ぶ機会に、日々、新聞を読む
習慣につなげられるとよい。第1回レポートにとりあ
げる事例は新聞記事を参考に構想する方法もある。
工学倫理 第2回
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「倫理はビジネスの“勝機”」という見方
「倫理はビジネスの“勝機”」という見方
倫理を守ることが、対人関係の“心がけ”に終わらな
いで、実生活での利益に結びつく。それゆえ、倫理は
大切にしなければならないのだ、という見方には古い
時代からの発展の段階がある。
時代からの発展の段階がある
(1)伝統的な見方
(2)企業倫理の見方
(3)技術者倫理の新たな「ビジネスの勝機」観
(1)伝統的な見方
昔から、倫理の価値基準のなかで最も基本となるのは
「正直」と「誠実」だが、正直について、「正直に勝る」で始
まる数多くの格言がある つぎはその例である
まる数多くの格言がある。つぎはその例である。
日々の生活における実際の効用がこのように認識さて
きたことが実感できる。
正直に勝るものはない。〃政策はない。 〃商法はない。
〃戦略はない。 〃方法はない。 〃対策はない。
〃武器はない。 〃智恵はない。 〃説得はない。など
工学倫理 第2回
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「倫理はビジネスの“勝機”」という見方
(2)企業倫理の見方
正直さ(情報開示、契約・コミットメントの履行
、法・職業倫理基準の遵守)は、投資家の信頼が得
られ、監査コストを引き下げ、顧客のロイヤリティ
ーを増し、より良い従業員の確保につながる。
公平な競争(贈賄、過度の贈り物、互恵取引の禁
止、反トラスト法の遵守)は、ビジネスコストを引
き下げ、より良い政策決定で競争力改善になる。
正当な報酬(知的財産、給与など)は、活気ある
企業家精神の創造、より良い従業員の確保を生む。
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
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工学倫理 第2回
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「倫理はビジネスの“勝機”」という見方
他人の権利の尊重(年齢、宗教、性別にとらわれ
ない公平さ、地域社会、環境の問題への取り組み)
により、幅広い才能を引きつけ、長期的価値を高め
ることができる。
工学倫理 第2回
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「倫理はビジネスの“勝機”」という見方
2.2 安全確保の潮流-1
(3)技術者倫理の新たな「ビジネスの勝機」観
科学技術の危害を抑止し、公衆の安全を確保しよ
う、という純粋に倫理的な動機が、より安全な製品
やプロセスの発明・発見につながる。
公衆を災害 ら救う
公衆を災害から救うという動機も、新たなビジネ
う動機も、新たな ジネ
スの着想を生む。
公衆の福利を推進するという動機から、さまざま
な種類の製品やサービスを生み、産業発展の原動力
となってきた。
より積極的に倫理を目指すこと、それ自体が、企
業の利益につながる。
日本の経験
第二次大戦後⇒立ち直り⇒高度成長⇒今日の発展
産業・経済の発展を支えたのは製造業
アメリカから安全確保の潮流(図2.2)
品質管理 PL法 技術者倫理 PE法
品質管理⇒PL法⇒技術者倫理⇒PE法
品質管理を製造業の実務で受け入れ、日本に適す
るものにする経験を重ねた。
品質管理は、一連のできごとの始まりで一貫して
製造の現場に底流する。
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
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2.2 安全確保の潮流-2
2.2 安全確保の潮流-3
安全へのさきがけ
蒸気機関=産業革命の原動力、
一方では危険源だった。
数気圧の蒸気機関が広がる
⇒ボイラー破裂事故が頻発
ボイラ 破裂事故が頻発
1854年 蒸気利用者の協会設立
事業者は、事故に備えて蒸気機関に保険を掛ける。
保険会社が検査員を雇って蒸気機関の検査をする。
安全性が高いと保険料が安い。
⇒安全確保のインセンティブ
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2.2 安全確保の潮流‐4
品質管理(8.3参照)
1925年 シューハートが、統計的品質管理(SQC)
を提唱
⇒第二次大戦で、兵器など軍需の大量生産を実現
1949年 連合軍が、通信機器メーカーの経営者にSQ
Cを指導
利潤の追求だけでは不十分、社会的責任、顧客へ奉仕
デミング賞:米国の品質管理の専門家であるW・エ
ドワーズ・デミングからの寄付を契機
として設立。日本科学技術連盟により
運営
日本の独創=総合的品質管理(TQC)
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工学倫理 第2回
⇒ISO9000へ
工学倫理 第2回
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工業規格の発生
1865年 サルタナ号、ミシシッピー川を航行中、
ボイラーが爆発
⇒故郷へ帰る北軍の兵士1,500人以上が犠牲
1866年 コネチカット州でHBS検査保険会社が設立
1880年 ASTM(アメリカ機械技術者協会)が設立
1914年 「ボイラー及び圧力容器規格」を発行
各州で採用⇒ボイラー破裂事故が激減
1901年 米国の代表的な工業規格ASTMが誕生
規格が生まれると、流れは品質管理へと進む。
工学倫理 第2回
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2.2 安全確保の潮流-5
PL(製造物責任)法
大量生産・大量消費
⇒企業と消費者の力関係にアンバランス
1932年 被害者が損害賠償を得やすくする方向へ
PL法の萌芽が現れる
1962年 ケネディ大統領の消費者保護教書
四分説による消費者の権利を宣言
①安全である権利、②知らされる権利、
③選択できる権利、④意見が聴かれる権利
厳格責任のPL法が確立
製造物の「欠陥」が立証されれば、「過失
」の有無を問わないで製造業者に賠償責任を
工学倫理 第2回
課す。
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2.2 安全確保の潮流-7
2.2 安全確保の潮流-6
1995年 同じ原理の法が日本でも施行される。
この段階で、品質管理は、企業が製品の
欠陥を防止し、PL法による損害賠償を回
避する対策という性格を持つ。
(PL法については、8.4を参照)
工学倫理 第2回
技術者倫理
PL法で損害賠償を得ても、健康や生命は戻らな
い。
科学技術のことがよくわからないでその影響を受
ける「公衆」が認識されるようになる。
1947年 「公衆」を保護する技術者の義務が是認さ
れる。
1974年 この趣旨の技術者倫理規程が登場する。
品質管理は、製品による危害を防止し、
公衆の健康と安全を確保する対策となる。
工学倫理 第2回
31
安全確保の努力
2.2 安全確保の潮流-8
社会の備え
品質管理⇒PL法
⇒技術者倫理の順に夜明けが進んだ。
(図2.2 安全確保の潮流)
技術者倫理の源泉は、哲学や倫理学などとは異
なる。
社会に安全を求める流れの中で、時間をかけ
て育った。
直接関与したのは、思想家ではなく先駆的な
技術者たち。
公衆の福利に反する企業は、存在を許されな
い。
工学倫理 第2回
技術者は安全を保証することはできるが、安心
は保証することはできないともいわれる。
安心は、技術者が提供する製品やサービスを受
け取る側(公衆、委託者)の心の問題であり、受
け取る側が技術者に対して信頼を寄せることがで
きて初めて可能となる。
きて初めて可能となる
この信頼を得るための努力を通じて技術者は公
衆から尊敬を受けるようになるのであって、技術
者はそのために自分の手から送り出す製品やサー
ビスの安全性を高めることをいつも心掛ける。
工学倫理 第2回
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安全確保の努力
安全
安全とは人とその共同体への損傷、ならびに人
、組織、公共の所有物に損害がないと客観的に判
断されることである。
「安全・安心な社会の構築に資する科学技
術政策に関する懇談会」報告書(2004年)
すなわち、事故による身体障害の発生を防止し
たり、その影響を軽減したりするための方策を講
ずること。
技術業における安全には、就業時における職業
上の危険を防止すること、および技術の成果品と
して提供される製品やサービスに起因する傷害や
経済的損失から防護することがある。
工学倫理 第2回
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安全確保の努力
1
工学倫理 第2回
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2
品質
品質には、二つの顔があるといわれる。
第1は、従来から品質管理(QC)という活動
の成果としての品質、つまり市場が製品に要求し
ている機能が一定の確率でばらつきが少なく実現
されることである。
第2は、製品が作られるとき企画・開発・設計
の段階から製造・検査そして輸送・販売・廃棄に
至るまでどのように考え、どのように行動し、記
録されてきたかという製造者の開発・製造の理念
を示したものである。
工学倫理 第2回
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安全確保の努力
安全確保の努力
3
規格
市場に供給される製品は品質とともに標準とされ
る規格が必要とされる。
①JIS規格(日本工業規格)
②ISO規格(国際標準化機構)
③IEC規格(国際電気標準会議)
世界経済の動きの中で物・サービスの国際取引が
増大し、ISOやIECなどの国際規格の重要性を
増し、国際規格と各国規格との整合化を図ることに
より、製品や技術は世界共通で使用することができ
るようにしようとする機運が高まり、1967年、「関
税および貿易に関する一般協定」(GATT)とな
る。
工学倫理 第2回
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安全確保の努力
4
欠陥
欠陥とは「通常そのものが備えるべき性状を欠い
ていること」と定義される。
現代の製造物責任とは、製品の目的とされる機能
を備えていない責任ではなく、使用者の生命身体ま
たは財産に対する危害の責任として、製造物責任法
では欠陥とは「本来有すべき安全性を欠いているこ
と」とされていることに留意する必要がある。
(1)欠陥の種類
①製造上の欠陥
②設計上の欠陥
③表示上の欠陥
工学倫理 第2回
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2.3 技術者倫理の特徴
(2)欠陥の判断基準
製品がどのような状態のときに欠陥があると判断する
か。
①標準逸脱基準
製品が正常である状態(標準)から逸脱している場合
②消費者期待基準
消費者が期待する安全性を欠いた場合
が
③危険効用基準
製品の有する危険性が有用性を上回った場合
(3)製造物責任と技術水準
その欠陥が、製造物を「引き渡した時における科学ま
たは技術の知見によっては・・・認識することができな
かった」場合は、賠償責任を免れる。(製造物責任法4
39
工学倫理 第2回
条1号)
第1 科学技術と関係づけられる
倫理は対人関係の規範である。
技術者=科学技術を人間生活に利用する業務に携わる。
⇔科学技術利用の事業を営む経営者との関係
⇔科学技術の影響にさらされる公衆との対人関係
第2 グ
第
グローバルな共通性がある
な共通性 ある
科学技術には、グローバルな普遍性がある。
科学技術の産物である製品や商品は、国際的に流通。
技術者資格も、相互承認が進行し国境を越えて移動する
。
第3 モラル向上の合理的な方法をそなえる
倫理は対人関係の規範であり、順守されるようにする方
40
工学倫理 第2回
法が大切。技術者倫理は、規範とともに方法を重視する
2.4 倫理規程を読む-1
2.4 倫理規程を読む-2
歴史的に形づくられた性格
技術者倫理:技術者のコミュニティ
⇒技術者団体設立⇒倫理規程制定
1877年 アメリカ土木技術者協会(ASCE)が
設立。
設立
1880年 アメリカ機械技術者協会(ASME)が
設立。
1900年代初め 倫理規程に向けての動きが強くな
る。
1914年 ASME、ASCEが倫理規程を相次い
で制定。
倫理規程の発展は,三つの時期に分けられる。
第1期 会員相互の技術者対技術者について、会員
は他の会員のクライアント(顧客)を奪っ
たりせず、連帯して自分たちの利益(=私
益)を守る。
)を
。
第2期 技術者とクライアントとの関係であって、
クライアントの利益を尊重することが加わる
。
第3期(1970年代)
公衆の利益(=公益)を図る責任が入る。
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
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2.4 倫理規程を読む-3
倫理規程の構成
技術者倫理がどのようなものかを知る早道として、
技術者団体の倫理規程がある。例として、全米プロフ
ェッショナル・エンジニア協会(NSPE)とアメリ
カ土木技術者協会(ASCE)を示す。(表2.1)
ASCE第1条後段の持続性原則だけがNSPEに
はな
はない。各条は、対人関係と価値基準の組み合わせた
各条は 対人関係と価値基準 組 合わ た
構造専門職原則:第1期
技術者対技術者の関係(私益)
有能性~正直性:第2期
技術者とクライアントの関係
公衆優先と持続性原則:第3期
43
工学倫理 第2回
技術者と公衆の関係
倫理規定の扱い方
• 倫理はコミュニティで育つ自律の規範。
• 倫理規定をつくるのは、コミュニティの全員が
参加し全員の意思が盛られたものでなくてはな
らない。
• 大切なのは、みんなが参加して作成し、みんな
の意思が盛られたという意識である。
• さらに大切なのは、作成された倫理規定を自主
的に尊重する意識を育てることである。
工学倫理 第2回
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2.5 まとめ
•
普通の人はだれもモラルの意識をもち,倫理
を理解できる。
•
普通の技術者にはとても難しくてわからない
倫理というものがあるとしたら、それは不要な
倫理というものがあるとしたら
それは不要な
ものだろう。
•
倫理あるいは技術者の倫理は、そういうもの
だから、すぐそこにある身近なところから入る
のが“王道”ではなかろうか。
工学倫理 第2回
工学倫理 第2回
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