2015-11-30 10:40:52 Title ネオニコチノイド系

>> 愛媛大学 - Ehime University
Title
ネオニコチノイド系殺虫剤イミダクロプリドのエチレン
部位に関する構造活性相関解析( 学位論文要約 )
Author(s)
長岡, ひかる
Citation
. vol., no., p.-
Issue Date
URL
2015-03-17
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4569
Rights
Note
受理:2015-01-21,審査終了:2015-02-17
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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
(様式5)(Style5)
学位論文全文に代わる要約
Extended Summary in Lieu of Dissertation
氏名:
Name
長岡ひかる
ネオニコチノイド系殺虫剤イミダクロプリドのエチレン部位に関する
構造活性相関解析
学位論文題目:
Title of Dissertation
学位論文要約:
Dissertation Summary
イミダクロプリド (IMI) は,昆虫の中枢神経系に存在するニコチン性アセチルコリン受容体
(nAChR) にアゴニストとして作用するネオニコチノイド系殺虫剤の代表的な化合物である。IMI は害
虫に卓効を示し哺乳類には安全性が高いことから, 世界中で販売使用されているが, 抵抗性害虫が出
現しはじめていることもあり, 新規構造を有するネオニコチノイド化合物を開発するために数多く
の類縁体の合成ならびに構造活性相関に関する研究が進められている。抵抗性の獲得には受容体の薬
剤感受性の低下や代謝能力の亢進が関与していると考えられるが, 受容体親和性を低下させずに代
謝の影響を防ぐためにはどのような構造変換が有効か不明であり,その解明は重要な課題である。
本研究では, 代謝の際に水酸化を受けることが明らかにされているだけでなく (Fig. 1), 受容体と
相互作用する可能性のあるイミダゾリジン環エチレン部位に着目し, 同部位への位置選択的な置換
基導入が生物活性に与える影響を明らかにすることを目的とした。
N
Cl
N
N
N
NH
Cl
N
N
NO2
OH
NH
N
Cl
N
NO2
N
NH
NO2
Figure 1 イエバエ体内における imidacloprid の主要な代謝経路
第一章では, イミダゾリジン環エチレン部位へのメチル基導入が生物活性に与える影響を明らか
にするため, イミダゾリジン環のニトロイミノ基の代わりにニトロメチレン基を,さらにイミダゾリ
ジン環の 4 位または 5 位に不斉炭素原子を有するイミダクロプリド類縁体を合成し, 殺虫活性および
受容体親和性を測定することで, 構造と活性との関係について検討した。
化合物の合成は, 出発原料に光学活性を有するアミノ酸を用いて行った (Fig. 2)。5R-メチル類縁体
を合成するために, (R)-(+)-2-Boc-amino-1-propanol 1 を光延反応によりフタルイミド化し, 中間体 2 を
得た。中間体 2 を濃塩酸と反応させ Boc 基を脱保護した後に, 2-chloro-5-chloromethylpyridine と反応さ
せ, 化合物 3 を得た。化合物 3 を hydrazine monohydrate と反応させ, 脱 phthalimide 化した後,
1,1-bis(methylthio)-2-nitroethylene と反応させることにより目的とする 5R-メチル類縁体を得た。一方,
4R-メチル類縁体は, 中間体 2 をhydrazine で脱phthalimide 化して 2-chloro-5-chloromethylpyridine と反
応させることで化合物 4 を得た後に, 化合物 4 を濃塩酸と反応させ, Boc 基を脱保護し,
1,1-bis(methylthio)-2-nitroethylene と反応させて閉環することで得た。5S-メチル, 4S-メチル類縁体は,
(S)-(-)-2-Boc-amino-1-propanol を出発原料として, 同様の反応を行うことで合成した。
1
(様式5)(Style5)
O
O
O
O
OH
N
H
O
O
1
N
H2N
O
N
N
H
O
2
O
O
NH2
N
H
O
N
N
H
Cl
N
H
Cl
O
N
NH2
N
N
Cl
3
H
N
N
H
Cl
O
O
N
N
H
Cl
NH
N
CHNO2
(5R) Methyl CHIMI
NH2
N
N
Cl
4
NH
N
CHNO2
- e
t
M
4R
CHIMI
hyl
( )
Figure 2 メチル類縁体の合成経路
合成により得た類縁体の受容体親和性および殺虫活性を測定した。受容体親和性を測定する際には,
トリチウムで標識した IMI を用いて競合的結合阻害実験を行い,結合阻害定数 (Ki, nM) を算出した。
殺虫活性は 50%効果薬量 (ED50, pmol / fly)で評価し,代謝阻害剤であるピペロニルブトキシド (PBO)
と NIA16388 (NIA) を使用して代謝の影響を考察した (Table. 1)。
その結果, PBO と NIA とでは代謝阻害機構が異なることが示唆されたとともに,4R 位にメチル基
を有する化合物には共力剤の顕著な効果が認められず,イエバエではイミダゾリジン環の 4 位が IMI
の代謝分解過程に関与している可能性が示唆された。さらに, 5R 位へメチル基を導入した化合物は無
置換体 (CH-IMI)と同等の生物活性を示し, メチル基導入の影響が認められなかった。
Table 1 メチル類縁体の受容体親和性と殺虫活性
第一章では, 化合物数が少なく同部位の構造活性相関を解析するには不十分であった。そこで第二
章では, イミダゾリジン環エチレン部位へ種々のアルキル基を導入したイミダクロプリド類縁体を
合成し, 受容体親和性と殺虫活性を測定した (Table 2)。そして, 測定した受容体親和性値を用いて定
量的に構造活性相関を解析した。
2
(様式5)(Style5)
出発原料に不斉炭素を有するアミノ酸である 2-aminobutanoic acid, norvaline, valine, leucine を使用し,
エチル基, n-プロピル基, イソプロピル基, イソブチル基をエチレン部位に有するイミダクロプリド
類縁体 16 種を合成により得た。殺虫活性の測定には PBO と NIA の両共力剤を処理したイエバエを
用いた。
Table 2 アルキル類縁体の受容体親和性と殺虫活性
Ki (nM)
ED50 (pmol/fly)
5R-Et
0.0597 ± 0.0115
0.914 ± 0.155
5S-Et
18.8 ± 3.40
93.1 ± 23.1
4R-Et
31.0 ± 1.27
68.9 ± 31.0
4S-Et
24.4 ± 8.53
24.2 ± 2.85
5R-n-Propy;
0.258 ± 0.137
0.253 ± 0.0813
5S -n-Propyl
25.2 ± 12.7
45.3 ± 18.3
4R--n-Propyl
211 ± 38.4
433 ± 130
4S-n-Propyl
73.7 ± 12.9
79.9 ± 5.74
5R-Isopropyl
1.11 ± 0.29
33.1 ± 8.52
5S-Isopropyl
2340 ± 561
> 741 (22%)
4R-Isopropyl
590 ± 34.4
> 891 (31%)
4S-Isopropyl
430 ± 117
33.7 ± 7.88
5R –Isobutyl
4.54 ± 1.49
6.01 ± 1.62
5S -Isobutyl
52.6 ± 3.57
603 ± 71.9
4R-Isobutyl
2750 ± 1330
1129 ± 238
4S-Isobutyl
396 ±70.3
356 ± 32.7
受容体親和性は, 4 位よりも 5 位に置換基を導入した類縁体の方が高く,中でも 5R 位にメチルおよ
びエチル基を導入した類縁体が CHIMI と同等の高い親和性を示すことが確認された。
殺虫活性は, 置
換基の炭素鎖を長くするにつれて低下したが,5R 位のみ n-プロピル基まで炭素鎖を伸ばしても高い
活性が認められ, 5R 位への置換基導入は殺虫活性に負の影響をおよぼさないことが明らかになった。
さらに, 測定した受容体親和性および殺虫活性を利用して活性間の相関関係を解析したところ, 両生
物活性間に高い正の相関関係が確認され, 殺虫活性には受容体親和性が重要であることが明らかと
なった。
エチレン部位上にアルキル基を導入した場合の, 受容体親和性に対する置換基効果を明らかにす
るため Hansch-Fujita 法を用いて定量的に構造活性相関を解析した (式 1)。
S4
pKi = -1.22 ∆B -1.37 ∆B
5
(0.33)
R4
5
(0.33)
S5
-1.08 ∆B -0.31 ∆B
5
R5
5
(0.33)
(0.33)
-1.36I +10.31
ipr
(0.63)
(式 1)
(0.66)
2
n = 21, SD = 0.53, r = 0.91, F (5 15) = 29.42 > 0.999
式(1)の各パラメーターの符号が負の値を示していることから, エチレン部位への置換基導入は受
容体親和性に不利にはたらくことが示唆された一方で, 5R 位のみ係数が-0.31 と小さく, 親和性に与
える影響はもっとも低かった。
3
(様式5)(Style5)
次に, 類縁化合物周辺の立体的要因および静電的要因を明らかにするために, 合成した 20 種の類
縁体に IMI と CHIMI, さらに,これまでに受容体親和性が報告されている類縁化合物 15 種について,
三次元定量的構造活性相関解析の手法である CoMFA 解析を行った (Fig. 3)。
A
B
Figure 3 CoMFA 解析 (A; 立体的相互作用領域, B; 静電的相互作用領域)
(緑色; 立体的に許容される領域, 黄色; 領域が許容されない領域, 青色; 正電荷が有利な領域,
赤色; 負電荷が有利な領域)
5R 位方向は立体的に有利である一方で, 4 位側は不利であることが示された(Fig. 3-A)。また, ピリ
ジン環の塩素原子およびイミダゾリジン環 3 位の窒素原子周辺には, 正電荷が有利な領域が認められ
た(Fig. 3-B)。
さらに, 供試化合物と受容体との相互作用を明らかにするため, X 線結晶構造が明らかとされている
Lymnaea stagnails 由来のacetylcholine binding protein (AChBP)の配列を基にイエバエnAChR のリガンド
結合領域のhomology model を作成し, IMIならびにアルキル類縁体との結合モデルを作製した(Fig. 4)。
A
B
Figure 4 Lymnaea stagnalis 由来の AChBP を基に作成したイエバエ受容体と類縁体の結合モデル
(A; イエバエ受容体と 5R-n-Propyl 体の結合モデル, イエバエ受容体と CH-IMI の結合モデル)
その結果,リガンド結合領域に 5R 位方向へのみ置換基が入り込める空間的な広がりが存在するこ
と(Fig. 4-A), さらにこの領域は芳香族アミノ酸であるチロシンやトリプトファンで構成されている
ことが確認された(Fig. 4-B)。しかし, この領域に配置するアミノ酸とイミダゾリジン環エチレン部位
上に導入した置換基の相互作用に関しては, 検討する余地があると考えられた。
4
(様式5)(Style5)
そこで第三章では, 置換基が入り込める空間を構成しているアミノ酸残基とリガンドとの相互作
用を明らかにすることを目的とし, 新たに 5 位上へ芳香環やエーテル基ならびにチオエーテル基を導
入した類縁化合物を 13 種合成し(Fig. 5),生物活性を測定した (Table 3)。
R
Cl
N
N
NH
H
NO2
R = n Butyl, Hydroxymethyl, Methoxymethyl,
Ethoxymethyl, Propoxymethyl,Methylthiomethyl,
Ethylthiomethyl, Propylthiomethyl, Methoxyethyl,
.
Methoxymethoxymethyl, Methylthioethyl, Phenyl, Benzyl
Figure 5 5 位上に置換基を有する IMI 類縁体
殺虫活性は, 導入した置換基が大きくなるにつれて, 全ての類縁体で活性の低下が認められた。受
容体親和性は, n-プロピル基まで炭素鎖を伸ばすにつれて低下した一方で, n-ブチル基を導入した化合
物では無置換体と同等の親和性を示し, 直鎖方向への炭素鎖の伸張が受容体親和性に不利であると
は一概に言えないことが明らかとなった。さらに, アルキル類縁体の受容体親和性と比較して, 酸素
原子を有する類縁体の親和性は低下したにもかかわらず, 硫黄原子を有する類縁体の親和性は同等
であり, 炭素および硫黄原子は受容体となんらかの相互作用をしていることが示唆された。高い受容
体親和性を示した化合物の殺虫活性が低い場合もあり, そのような場合には供試化合物が昆虫体内
で代謝され, 標的部位へ到達していない可能性があると考えられた。
Table 3 5 位上に種々の置換基を有する IMI 類縁体の受容体親和性および殺虫活性
Receptor affinity
Insecticidal activity
Ki (nM)
ED50 (pmol/fly)
R
H
0.0367
0.117
5R-Me
0.0428
0.0626
5R-Et
0.0597
0.914
5R-n-Propyl
0.258
0.253
5R-n-Butyl
0.0564
±
0.00466
3.77 ±
0.441
5S-Hydroxymethyl
0.157
±
0.00602
7.49 ±
0.615
±
5.31
15.7
±
3.80
5S-Methoxymethyl
26.6
5S-Ethoxymethyl
5.76
±
0.868
94.3
±
19.4
5S-Propoxymethyl
0.373
±
0.196
11.0
±
1.71
5S-Methylthiomethyl
0.581
±
0.0393
59.2
±
16.2
5S-Ethylthiomethyl
0.100
±
0.0170
73.7
±
1.92
5S-Propylthiomethyl
0.0807
±
0.0133
11.3
±
3.03
5S-Methoxyethyl
5.26
±
0.178
68.9
±
7.77
±
3.65
63.1
±
15.5
±
0.233
171
±
28.5
189
±
13.0
10.7
±
2.66
5S-Methoxymethoxymethyl
5S-Methylthioethyl
5S-Phenyl
5S-Benzyl
14.0
0.542
98.5
± 25.8
0.198 5 ±
0.0483
(様式5)(Style5)
続いて, 殺虫活性と受容体親和性の相関関係を Hansch-Fujita 法を用いて解析した (式 2)。
pED50 = 0.62 pKi -0.72 logP -1.43 Ithioether -0.77 Iether +6.34
(式 2)
(0.08)
(0.22)
(0.33)
(0.23)
(0.77)
n = 32, s = 0.56, r = 0.89, F (4 27) = 24.390 > 0.999
( Ithioetherおよび Iether = チオエーテルおよびエーテル部位におけるヘテロ原子数)
その結果, 受容体親和性が高いほど殺虫活性も増加する一方で, 疎水性の上昇および酸素原子や硫
黄原子の側鎖への導入は, 殺虫活性を低下させる要因であることが示された。
次に, 種々の置換基導入が受容体親和性に与える影響を考察するために, 第2 章と同様の方法で50 化
合物の受容体親和性値を用いて CoMFA 解析を行った (Fig. 6)。解析には, 第二章で CoMFA 解析に用
いた 37 種の類縁体に加えて, 本章で合成した 13 種の類縁化合物を用いた。
Figure 6 CoMFA 解析
(A; 静電的相互作用領域, B; 立体的相互作用領域)
ピリジン環上の塩素原子周辺には静電的相互作用領域が存在し, 正電荷が有利である領域が認め
られた (Fig. 6-A)。さらに, イミダゾリジン環エチレン部位周辺に静電的相互作用領域は認められな
かったが, 導入した側鎖の 2 位および 3 位の原子周辺には正電荷が有利な領域が存在した。ピリジン
環上の塩素原子周辺および導入した置換基の 2 位および 3 位の原子周辺に, 立体的許容領域が存在し
た(Fig. 6-B)。
第 2 章で作成した結合モデルでは, 5 位の特定方向に n-プロピル基までの側鎖が許容される空間の
存在が確認された。しかし, 本章で n-ブチル類縁体の受容体親和性を測定したところ, n-プロピル類縁
体の受容体親和性よりも高く, 無置換体と同等の親和性を示した。このことは, これまでに作成した
homology model では説明できなかった。そこで新たに, Aplysia californica 由来の AChBP を基にイエバ
エのリガンド結合領域を作成し, 類縁化合物との docking study を試みた (Fig. 7)。
6
(様式5)(Style5)
A
TYR73
ILE169
B
C
ILE169
TRP129
TRP35
TRP129
TYR73
TRP35
Figure 7 Imidacloprid とニコチン性アセチルコリン受容体の結合モデル
(A; Lymnaea stagnalis 由来, B; Aplysia californica 由来, C; A と B の化合物)
その結果, イミダゾリジン環 5 位上に存在する置換基を受け入れていた空間が大きくなり, n-propyl
基よりも長い置換基でも許容されることが示されたとともに, 同部位へ導入した置換基は受容体と
相互作用が可能な距離にあることが示唆された (Fig. 7-B)。
また, イミダゾリジン環 5 位周辺に存在す
るアミノ酸残基の配置は変動しやすく, 直鎖方向に長い置換基を有する化合物と相互作用する場合
には, この変動により空間が拡張することが示唆された(Fig. 7-C)。
本研究により, イエバエ nAChR にはイミダゾリジン環エチレン部位の特定方向に置換基の存在を
許容する空間の存在が明らかにされたとともに, 同部位上の置換基はリガンド結合領域を構成する
アミノ酸残基と相互作用が可能な距離にあることが示された。今後, 益虫を含む種々の昆虫の nAChR
のアミノ酸配列を比較して, この空間を構成するアミノ酸残基に違いがあるのか精査し, エチレン部
位に導入した置換基との相互作用を検証するとともに, 各化合物の代謝分解過程を考慮することで,
害虫に対してのみ高い殺虫活性を示す農薬のデザインが可能になると考えられる。
(注) 要約の文量は,学位論文の文量の約10分の1として下さい。図表や写真を含めても構いません。
(Note) The Summary should be about 10% of the entire dissertation and may include illustrations
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