復習:排反案からの選択問題 例題 ある商店主のKさんは,夏の間だけ近くの海岸で海水浴客を相手に 小さな店を出すことにした。店員としては,学生アルバイトを雇う予定であ る。色々な情報をもとにして営業利益を予測した所,次表のようになった。 但し,営業利益とは,売上収益から仕入れ原価その他の営業経費を差し 引いた人件費差し引き前の利益である。Kさんは,どの案を選ぶのが経済 的に有利だろうか。店員のアルバイト代は,1人ひと夏18万とする。 経済性工学 第13回 「排反的な投資案からの経済的選択」 店員の数 営業利益 A案 1人 30万円 B案 2人 85万円 C案 3人 120万円 D案 4人 130万円 E案 5人 150万円 慶應大学 稲田周平 2015年度H 2 解法(その1):各案の利益を求める方法 解法(その2):差の効率を使った解法 例えば,B案であれば, B案の(人件費差し引き後)利益 営業利益 (万円 ) =85万円-18万円×2=49万円 店員の数 営業利益 利益 A案 1人 30万円 12万円 B案 2人 85万円 49万円 C案 3人 120万円 66万円* D案 4人 130万円 58万円 E案 5人 150万円 60万円 案を乗り移った時の利益が 増える効率に着目する。 E 150 C 100 D 0案(0人,0万円) ↓ B A案(1人,30万円) 人件費:18万円/人 50 差の効率 A 30 1 よって,C案が経済的に最も有利である。 = 2 3 4 店員の数(人 ) 5 30-0 30万円/人 1-0 3 4 E 営業利益 (万円 ) C 35 100 D B 人件費:18万円/人 50 E 150 営業利益 (万円 ) 150 15 C 100 50 B 人件費:18万円/人 42.5 A A 1 D 35 2 3 4 店員の数(人 ) 1 5 3 4 店員の数(人 ) 5 案Aと案Dは無資格案である。 案Aと案Dは無資格案である。 案Cを採用することが,経済的に最も有利である。 6 2015, Inada Laboratory, Keio University 2 7 1 1)各案の正味利益(現価,年価,終価)を計算する方法 演習1:排反的な投資案からの選択問題 次表に示すような互いに排反的な5つの投資案がある。投資の寿命(計算 期間)を10年,資本の利率を年12%とするとき,経済的に最も有利な案 を,次の2つの方法で決定しなさい。 1)各案の正味利益(現価,年価,終価)を計算する方法 2)追加投資利益率(“差の利回り”とも呼ばれる)を計算する方法 投資案 初期投資 A案 1,000万円 年当たり報収 138万円 B案 2,000万円 392万円 C案 3,000万円 716万円 D案 4,000万円 800万円 E案 5,000万円 1,041万円 投資案 初期投資 A案 1,000 報収 138 B案 2,000 392 716 C案 3,000 D案 4,000 800 E案 5,000 1,041 正味現価 正味年価 正味終価 -220.3 -39.0 -684.1 例えば,A案であれば, PA 1000 138 M P 10 220.3 12% M A 1000 P M 10 138 39.0 12% S A 1000 P S 10 138 M S 10 684.1 12% 12% 8 2)追加投資利益率(“差の利回り”とも呼ばれる)を計算する方法 9 演習2:排反的投資案からの選択問題(応用) 次表に示すような互いに排反的な5つの投資案がある。投資の寿命(計算 期間)を10年とするとき,次の問に答えよ。 1000 E 年当たり 報収 800 C 600 400 200 0 0 投資案 初期投資 A案 1,000万円 150万円 B案 2,000万円 400万円 D B A 1000 2000 3000 4000 5000 初期投資 年当たり報収 C案 3,000万円 800万円 D案 4,000万円 1,000万円 E案 5,000万円 1,120万円 問1 資本の利率が年10%のとき,正味現価を指標として,経済的に 最も有利な案を求めなさい。 問2 C案が最も有利になる資本の利率の範囲を求めなさい。 問3 投資しないこと(0案)が許されない場合,C案が最も有利になる 資本の利率の範囲を求めなさい。 11 問1 資本の利率が年10%のとき,正味現価を指標として,経済的に最も 有利な案を求めなさい。 投資案 初期投資 年当たり報収 A案 1,000万円 150万円 B案 2,000万円 400万円 C案 3,000万円 800万円 D案 4,000万円 1,000万円 E案 5,000万円 1,120万円 正味現価 13 投資利益率指標・回収期間指標の間違った使い方 次のような2つの排反案を考える。 投資案 初期投資 年当たり報収 A案 1,500万円 350万円 B案 3,000万円 650万円 (計算期間 n=8 年,資本の利率 i=10%) 各案の正味利益,投資利益率,回収期間は次の値となる。 正味利益(万円) 14 2015, Inada Laboratory, Keio University 現価 年価 案A 367.2 68.8 案B 467.7 87.7 投資利益率 回収期間 787.2 16.4% 5.9年 1002.6 14.2% 6.5年 終価 20 2 (補足) 正味利益(万円) 現価 年価 案A 367.2 68.8 案B 467.7 87.7 投資利益率 回収期間 787.2 16.4% 5.9年 1002.6 14.2% 6.5年 終価 正味利益(万円) 現価 年価 案A 367.2 68.8 案B 467.7 87.7 (計算期間 n=8 年,資本の利率 i=10%) PA 1500 350 M P 8 10% 投資利益率 回収期間 787.2 16.4% 5.9年 1002.6 14.2% 6.5年 終価 案A < 案B. 正味利益については, 367.2 一方,投資利益率と回収期間については, 1500 350 M P 8A 0 を満足する rA より rA =16.4% 案Aの利回り > 案Bの利回り 1500 350 M P N 0 を満足する NA より NA =5.9年 A 案Aの回収期間 < 案Bの回収期間. r 10% PB 3000 650 M P 8 10% 467.7 3000 650 M P 8 0 を満足する rB より rB =14.2% 案の投資利益率が高いからといって,正味利益が大きいとは限らない。 3000 650 M P N 0 を満足する NB より NB =6.5年 B 案の回収期間が短いからといって, rB 10% 〃 21 排反的な投資案を比較する際の重要な注意点 22 寿命の異なる投資案の比較 例題 ある工場では設備計画としてAとBという2つの投資案の優劣を比較 しようとしている。それぞれの案の初期投資,毎年末換算の操業費,設備 の寿命は次表のようである。資本の利率は10%である。どちらの案が経 済的に有利だろうか? 案の投資利益率が高いからといって,正味利益が大きいと は限らない。 案の回収期間が短いからといって,正味利益が大きいとは 限らない。 上記のことを理解せずに, 設備計画 初期投資額 操業費/年 寿命 案A 1,000万円 436万円 5年 案B 2,000万円 574万円 10年 ・率(投資利益率)が高いから,こっちの案を採用 ・回収期間が短いから,こっちの案を採用 と間違った意思決定をしていることがある。 23 24 寿命の異なる投資案を直接に比較することはできない。 ◆正味年価による比較 ↓ MA “類似反復の取替え”を仮定して,経済的有利さの比較を行う。 (下のキャッシュフローの正味利益を計算して,有利さが判断できる) 5 案A(2サイクル): 436万円/年 1,000万円 MB 10 436万円/年 1,000万円 案Aの1サイクルの年価: 10 M A 1,000 P M 5 10% 案B(1サイクル): 574万円/年 2,000万円 2015, Inada Laboratory, Keio University 25 436 26 3 寿命の異なる投資案を比較する際のポイント 本日のまとめ ◆ 排反的な関係にある複数投資案からの経済的選択 類似反復の取替えを仮定して寿命を揃え,経済的有利さの比較 を行う。 正味利益を指標とした解の求め方 このとき,各案の1サイクルの正味年価を利用して比較を行うと, →正味現価/正味年価/正味終価 簡単かつ正しく有利さを判定することができる。 追加投資利益率(差の利回り)を指標とした解の求め方 →各案の投資利益率や回収期間は排反案の問題での指標と 案B(1サイクル): 案A(2サイクル): 5 ならない(正味利益が最大の解を見つけられない場合がある)。 10 10 寿命の異なる投資案の比較方法 436万円/年 1,000万円 436万円/年 →類似反復を仮定して,寿命を揃えて比較を行う。 574万円/年 →この際,各案の1サイクルの正味年価を計算することで,簡単 1,000万円 かつ正しく比較を行うことができる。 2,000万円 28 2015, Inada Laboratory, Keio University 29 4
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