口腔癌の診断と治療 講義内容: 口腔癌の診断(特にセンチネルリンパ節微小転移診断)、治療法:手術(特に再建方法) 1. TNM 分類 (記入テスト) T1: ≦ 2 cm, T2: > 2 to 4 cm, T3: > 4 cm, T4: adjacent structures N1: Ipsilateral, single ≦ 3 cm, N2a: Ipsilateral, single> 3 to 6 cm, N2b: Ipsilateral, multiple≦6 cm, N2c: Bilateral, or contrarateral≦6 cm, N3: > 6 cm M0: No distant metastasis, M1: Distant metastasis, x: cannot be assessed Certainty (C)-factor C1: 視診、触診、単純レントゲン、C2: 断層撮影以上の画像検査、C3: 組織診、細胞診、 C4: 切除標本、C5: 剖検 Examples: T2N0M0, T3C2N2bC2M0C1, rT4N3M1, pT2C4N1C4M0C2 実際は画像でのリンパ節転移の診断は簡単ではない。また、C2, C3 は厳密な規定がないことが問題。 2. 転移の評価方法 2-1. リンパ節 1:リンパ節の最大割面一枚のHE染色 2:準連続切片法 3:高感度遺伝子診断 2-2. 血中、骨髄中の循環癌細胞の形態学的同定 1:塗末標本 2:上皮細胞結合ビーズによる癌細胞分離 2-3. 口腔癌微小転移の遺伝子診断 1.健常者の血中、骨髄中、リンパ節中には存在せず、腫瘍細胞特異的に発現する遺伝子を検出。 上皮特異的抗原として SCCA (Squamous Cell Carcinoma Antigen) reverse-transcriptase polymerase-chain reaction (RT-PCR) 精製した mRNA に逆転写酵素を作用させて、cDNA を作成し、目的とする遺伝子のある領域を挟むプライマ ーを利用して遺伝子を増幅させる。 conventional RT-PCR と定量化 PCR (TaqMan PCR と Light cycler) 原理説明 2.腫瘍細胞が持つ遺伝子変異をマーカーとする方法。MASA 法 (mutant allele specific amplification) 2-4. 他臓器で微小転移診断に利用されるマーカー遺伝子。 Organ marker gene Skin (melanoma) tyrosinase, MelanA Breast K19, MAGE, Mammaglobin B Liver AFP Gastrointestine CEA, K19, K20, MMP7 Lung K18 Prostate PSA 3. 今後の展望:センチネルリンパ節生検、転移関連遺伝子の検索、DNA チップ、プロテオーム解析 4. センチネルリンパ節と問題点 5. 口腔癌の治療法 手術・化学療法・放射線療法・免疫療法 選択枝:手術単独、放射線単独、術前療法+手術、手術+術後療法など 腫瘍の大きさ、部位、組織型、浸潤様式、細胞学的特性、転移の有無、年齢、全身疾患の有無、その程度、本 人、家族の意向(家庭状況、思想、宗教)、治療日程等・・・これからは→バイオインフォマティクスに基づく口 腔癌個別治療(テーラーメイド医療になる) 6. 手術術式のスライド 舌部分切除術、舌半側切除術、上顎部分切除術、上顎全摘術、下顎辺縁切除術、下顎区域切除術、下顎半側切除術、 頸部郭清術 7. 再建方法 7-1. 硬組織再建 自家骨移植 以前は腸骨の利用が圧倒的に多かった。近年、腓骨が増加傾向。肋骨、肩甲骨。ブロック骨、海綿骨。 自家骨単 独移植では移植骨の血液循環が一時期絶たれるため、腐骨、瘻孔形成などの合併症。また、下顎骨悪性腫 瘍では下顎骨に付着する筋群が切離されることが多く、同部の補填が必要。このような症例では腸骨、肋骨、肩甲 骨、 腓骨に筋体をつけて移植する。当科では移植骨の強度、形態を考慮し、腸骨を多用。 血管柄付腸骨移植 栄養動脈:深腸骨回旋動脈(deep circumphlex iliac artery)。血管径も大きく、茎も長い。腸骨筋を付着させて採取す る。上部の皮膚への血流はあまり信頼できない。腸骨稜から上前腸骨棘、下前腸骨棘へかけてのカーブは下顎骨の 再建に最適。 腓骨骨移植 栄養動脈:腓骨動脈(peroneal artery)。利点は負荷に耐えうる強度の高い皮質骨であること、また、長さが得られる こと。 生体材料 人工骨 優れた組織親和性を有する各種の人工補填材料が開発されている。顎骨再建にもハイドロキシアパタイトセラミック スが利用される。顎骨区域切除、上顎骨骨切り術などにおける骨補填には多孔質アパタイトブロック、嚢胞摘出後の 骨欠損腔には顆粒状アパタイト。近年、自家骨と置換するβTCPや天然骨成分であるカーボンアパタイトの利用や、 再生医療による骨誘導(足場、細胞、成長因子の三点セット必要)が盛んに研究されている。 再建用プレート 適度な強度を有し、組織親和性に優れ、屈曲の可能なチタンプレートが主流。 ミニプレート、リコンストラクションプレート、ダイナミックブリッジングプレート 顎顔面補綴 顎義歯には中空義歯、baloon denture、磁性アタッチメント、インプラントシステム 眼窩部、頬部、鼻部などの顔面欠損に対し人工物により回復をはかる。エピテーゼ。 7-2. 軟組織再建 縫縮、植皮 顔面における遊離植皮では審美性を重視。color match , texture matchが必要。前胸部、鎖骨上窩から採皮。口腔粘 膜には大腿部、下腹部、鼠径部皮膚、口蓋、頬粘膜から採皮。 有茎皮弁 局所皮弁 顔面皮膚の小欠損には審美性、機能性両面に優れた局所皮弁を多用。W 形成術、Z 形成術、rotation advancement flap, nasolabial flap 遠隔皮弁 大胸筋皮弁、広背筋皮弁、 D-P 皮弁、前額皮弁 大胸筋皮弁:前胸壁の胸肩峰動脈胸筋枝を栄養血管とする axial pattern flap. 鎖骨の中央付近で胸肩峰動脈は腋 下動脈から分枝。ここから鎖骨に直角に外下方に向かい、肩峰と胸骨剣状突起を結ぶ線に達するとその線に沿って 内下方に走る。この走行に沿った部位で大胸筋皮弁を作成する。島状皮弁は前胸部において第4〜第6肋間部に設計 される。第6肋間部では胸肩峰動脈よりも前胸壁穿通動脈の支配が強いことから部分壊死のリスクがある。通常 4x6 〜6x8 cmでデザイン。 遊離皮弁 最大の利点は皮弁の種類、大きさ、形状の自由度が高いことである。ドナーとしては前腕皮弁、広背筋皮弁、鼠径皮 弁、腹直筋皮弁、空腸粘膜弁など。血管吻合(端端吻合、血管径が合わなければFish mouth形成)を行う。レシピエント 血管は、動脈側が 上甲状腺動脈、顔面動脈、浅側頭動脈、静脈側が外頸静脈、顔面静脈、前頸静脈、浅側頭静脈、内 頸静脈(この場合は端側吻合)。 1. 前腕皮弁(forearm flap, Chinese flap) スライド 栄養血管:当橈骨動脈から出る数本の穿通枝。皮弁は 15x20 cmまで可能。大胸筋皮弁や広背筋皮弁よりも 薄いことが利点。臼後部、舌口蓋弓、頬粘膜再建。外側前腕皮神経をつければ知覚皮弁となる。 2. 広背筋皮弁(latissimus dorsi transfer) スライド 栄養血管:肩甲回旋動脈または胸背動脈。最大 20x40 cmまで可能。利点は比較的大きな血管径を有する 血管を長い茎で採皮可能、豊富な組織量を使用できる。短所は筋皮弁がややbulkyであり、適応に制限、 体位変換が必要。 3. 腹直筋皮弁(rectus abdominis transfer) スライド 栄養血管:下腹壁動脈 (Inferior epigastric artery)。本血管はバリエーションが少なく、十分な長さ(5-8 cm)と口径(1.5-2.5 mm)を持つ。筋皮弁の大きさは広背筋よりも小さい。中等度の軟組織欠損の再建に適す る。皮下脂肪層が厚いとbulkyな皮弁になりやすい。 4. 空腸粘膜弁(jejunal transfer) ビデオ 粘膜の欠損は粘膜で行うという考え。腸間膜動脈の走行が安定している部分を選ぶ。このflapは薄いため、 口底部、軟口蓋、頬粘膜の再建に適する。欧州では盛んに行われていたが最近は減少傾向。最大の欠点は 開腹手術を要すること。日本では患者の同意が得られにくい。 5. “Chain-link” combined tissue transfer スライド 勿嘗糟粕(そうはくをなむることなかれ) 大阪大学初代総長長岡半太郎先生の書。糟粕とは酒を絞った後のかすのことで、これをペロペロなめるような、二 番煎じの研究はやめなさいという訓告。
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