国際母子栄養改善議連 栄養分野支援策

日本政府による栄養分野支援策への NGO からのご提案
2015 年 7 月 1 日 国際母子栄養議員連盟設立総会開催に際して
日本リザルツ、ワールド・ビジョン・ジャパン、栄養不良対策行動ネットワーク、セーブ・ザ・チ
ルドレン・ジャパン
日本政府による栄養分野支援策として以下の文言をご提案いたします。
1.人間の安全保障の課題としての栄養不良問題
今日の世界においては、グローバル化、相互依存が深まり、国境を越えて様々な問題が相
互に関連しあう形で、人々の生命・生活に深刻な影響を及ぼしている。こうした国際課題に効
果的に対応していくためには、「人間」に焦点を当て、様々な主体及び分野間の関係性をより
横断的・包括的に捉える人間の安全保障の考え方が大切であり、我が国の開発協力の根本
にある。
国境を越える課題の一つに食料危機・飢餓による栄養不良の課題がある。栄養不良は子ど
もの身体的能力的発育に関わるのみならず、成長してからの社会的経済的能力ひいてはそ
の国の繁栄に直接関わるものである。とりわけ紛争や災害地などにおいて、また、脆弱な立
場に置かれやすい子ども、女性、障害者、高齢者、難民・国内避難民、少数民族・先住民等
に対して、食料の支援と自立のための能力強化を行うことは人間の安全保障の実現につな
がるものであり、我が国の平和と安全の維持、繁栄の実現、国際秩序の維持・擁護といった
国益の確保に貢献する。
2.ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの課題としての栄養不良問題
乳幼児死亡の約 45%は栄養不良がその間接的要因である。栄養、とりわけ微量栄養素であるビ
タミン A の投与が、はしか、下痢症、低栄養による死亡を削減することは証明されており、WHO お
よびユニセフは 6 か月から 60 か月の乳幼児に対して 3 か月〜6 か月毎の高濃度ビタミン A 投与
を推奨している。また、亜鉛の投与が下痢症の症状を軽減し、回復を早めることも立証されており、
2004 年以降両機関は急性下痢症の標準的な対応として亜鉛療法を推奨している。こうした微量
栄養素の補給は、感染症が蔓延する途上国においては効果的且つ安価な対策ではあるものの、
全ての国においてカバーされているものではない。我が国は引き続き、こうした WHO、ユニセフ両
機関への支援を通じて乳幼児の栄養不良対策を行っていく。加えて、我が国は JICA 技術協力
プロジェクトなどを通じてビタミン A の投与を行っているが、今後、更に保健省への政策・技術
アドバイスや保健システム強化の一環として、「母乳栄養の推進」、「離乳補完食の推進」に
加えて、微量栄養素補給の重要性を唱えていくことは、下記に述べるような、日本政府が実
施している様々な栄養改善に向けた支援を強化するとともに、ユニバーサル・ヘルス・カバレ
ッジの実現に貢献するものである。
3.1,000 日の栄養の重要性
女性の妊娠期からその子どもの 2 歳までの最初の 1,000 日間における、バランスのとれた良
質の栄養摂取は、あらゆる人のライフサイクルを通じて利益をもたらすものである。それは、
乳幼児期の疾病率・死亡率の減少、身体・認知能力の向上、学習能力の向上、肥満と慢性
疾患の予防、生産性の向上などをもたらし、健康で実り多い人生を送る上で必要不可欠であ
る。また、この期間の、鉄分、葉酸、ヨード、亜鉛、ビタミン A といった微量栄養素の欠乏は、
母子の死亡リスクや感染症への罹患リスクを高めるなど、母と子の成長と健康に重大な影響
を及ぼす。我が国は「離乳食の指導」、「5 歳までの定期健診」、「予防接種」、「栄養委員(現
食生活改善推進員)」など、栄養改善に関わる豊富な経験を有するため、これらの知見・経験
を活かしつつ、積極的に必要な拠出と支援を行っていく。
4.栄養分野における二国間援助
我が国の栄養改善の二国間支援としては、これまで技術協力プロジェクト、草の根技術協力
および無償資金協力において「母乳栄養の推進」、「離乳補完食の推進」、「手洗い・衛生行
動の推進」、「予防・治療の食料配布」などの取組を行ってきており、地域のニーズに基づい
た、持続的な活動が効果を上げている。今後これらを含む成長モニタリングの推進や、栄養
不良の早期発見・早期対処のしくみづくりなどの取組を栄養不良の負荷の高い国々および脆
弱層への支援を中心に、更に拡大拡充していく。また、日本 NGO 連携無償資金協力を通じて
「予防・治療の食料配布」、「手洗い・衛生行動の推進」等を実施しているが、NGO の栄養改
善事業はコミュニティに浸透し、その土地の自然や伝統食を活かした、持続可能性および費
用対効果の高い活動が多く、引き続きこれら取組を支援していく。
5.我が国における栄養人材の活用と途上国の人材育成
途上国においては、栄養士および栄養改善に関する適切な情報が不足しがちである。栄養
に関わる効果的な支援を実施するためには、栄養の専門性を有し、途上国支援を志す人材
の積極的な活用が重要である。そのため、優秀な栄養士を JPO、青年海外協力隊、JICA ジ
ュニア専門家、技術協力専門家などとして積極的に海外に派遣する。加えて、大学、研究機
関、NGO などと連携を図り、途上国向けの栄養知識の習得や、我が国の栄養士や「食生活
改善推進員」などの知見・経験の、途上国における活用を実現する。こうした取組を通じて、
途上国の栄養改善や栄養関連の人材育成を強化する。
6.栄養分野における多国間援助
栄養改善の取組は、世界銀行(WB)、国連児童基金(UNICEF)、国連食料農業機関(FAO)、
国連世界食糧計画(WFP)、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)、国連パレスチナ難民救
済事業機関(UNRWA)、GAVI などのマルチ機関が実施しており、我が国はこうしたマルチ機
関の栄養事業を引き続き支援していくとともに、こうしたマルチ機関との戦略的連携を通じて、
栄養改善に関わるバイ支援との相乗効果を図る。
7.マルチ・セクター連携
栄養は母子保健を中心とした保健のみならず、様々な分野に関わるものである。我が国もか
ねてより農業、水と衛生、貧困削減、ジェンダー等、様々な文脈で栄養改善の取組を実施して
きた。今後、栄養に配慮した間接介入としての農業や社会保障政策における栄養支援など、
更に多様なセクターの事業に栄養の要素を取り入れるべく積極的に取り組んでいく。
8.官民連携
民間セクターにおいても、我が国の民間企業は KOKO Plus 等の栄養強化食品の開発普及等
のイノベイティブな活動を展開し、それぞれの強みを生かしつつ栄養改善の活動に積極的に
関わってきている。こうした企業の取組と、政府、NGO、研究機関等の持つ専門的知見・経験
を組み合わせ、より効率的・効果的な栄養改善の取組を行っていく。
9.国際的な潮流への参画
栄養分野の国際的な取組においては、我が国は 2009 年に現在の Scaling Up Nutrition(SUN)
の前身である「栄養不良対策スケールアップ信託基金」を世界銀行とともに設立し、この取組
の産みの親となった。我が国は引き続き、SUN や Global Nutrition Report(世界栄養報告)に
積極的に関わっていく。また、2012 年の世界保健総会で定められた 6 つの栄養ターゲットの
達成を目指していく。
我が国は 2014 年 5 月には日英共同声明、2014 年 8 月には日伯共同声明を発表し、2012 年
ロンドン・オリンピック・パラリンピックから、2016 年リオデジャネイロおよび 2020 年東京オリン
ピック・パラリンピックに続くプロセスにおいて、飢餓と栄養不良への取組のモメンタムを維持
するために、世界のパートナーと協力することを表明した。我が国はこうした国際的な栄養の
取組に積極的に参加し、栄養改善の重要性を唱えていくとともに、我が国の優れた取組を国
際的に発信していく。
以上