第140号

共創・共育・共感
尾鷲市教育長だより
2015.8.28.(金)
第140号
子どもたちの中にある「幼さ」
数 年 前、 保幼小 連 絡会で 、「園へ入って くる子 どももずい ぶん幼稚に なって
きてね」という話があり、一瞬とまどいました。保育園や幼稚園での子ども
は、幼くて当たり前、幼稚で当然といった意識が自分の中にあったからです。
小 学 校や 中学校 、 高校で「子どもが幼くなった 」「幼稚化してき た」という
ことは自分たちもよく話題にしていたのですが、保育園や幼稚園でもそう感
じているということで、家庭や地域の教育力の衰退、子育ての未熟さ、貧困
さが予想以上に深く進行している状況に危機感を感じました。
入園してくるまでに、基本的には家庭でしつけられるべき生活習慣や生活
技術が十分でない子どもたちが増えてきているのです。おそらく、保育園や
幼稚園で、その不十分さをかなり補いながら小学校の入学に備えてくれてい
るのだなと思いました。こうした課題に対する子育て支援策を考えないと、
今後ますます、園や小学校での負担は大きくなってきそうです。
家庭教育の充実を図り、サポートしていく施策をはじめ、家庭でしかでき
ない、親にしかできない子育てに、3歳くらいまでは、ゆったりと安心して
専念できる社会的経済的な条件整備、そして、個々人の就労意欲や就労に対
する考え方を保障し、就学前の教育を充実させることは当然しなければなら
ないことですが、預けて、しつけもすべてお任せといった「委託加工型」の
子育てになってしまってはいけません。子育てにおいて、親の愛情にまさる
ものはないのですから…。
と こ ろ で 、「 子 ど も が 幼 く な っ た 」「 幼 稚 化 し て き た 」 と 言 わ れ る よ う に な
ってからずいぶん久しいのですが、最近では特に、男子の「幼さ」が目立つ
ように思われます。
「しっかり者の女子」と「たよりない男子」という構図は、
昔も今も同じなのでしょうが、その域を超えるほどの傾向が強くなっている
ようにも感じます。
男 子 たち の多く は 、「幼 さ」 をひき ずっていて 、かわいら しさもあるのです
が、どこかたよりなさそうにみえます。一方、女子はどうでしょうか。いた
ずらやからかいなどで、教師に怒られる男子の姿を別世界の出来事のように
眺めている一群、消費文化の世界をキャピキャピと「バカ笑い」をしながら
楽しんでいるように見える一群、なんとかしなければと思っている一群など
に別れているように思えます。
こうした子どもたちの増加の背景としては、幼児期のモノを介しての空想
的な世界、少年期のわいわいガヤガヤと群れて、ルールを改変しながら成長
していく体験的冒険的な生活の衰退・消滅があります。また、家庭において
も、子どもと向き合い語り合う余裕や時間の不足があります。
子どもたちが無邪気に、群れて遊んでいるのをみると、その「幼さ」は、
幼児期のごっこ遊びや少年期の身体をつかっての冒険的な生活、そして「バ
カ笑い」の生活や世界を、場所やルールに関係なく、今、取り戻しているの
ではないかとも思えます。
「幼さ」には 二重の特性があります。
肯 定 的 な 無 邪 気 な 「 幼 さ 」 に は 、 何 か 微 笑 ま し さ を 感 じ ま す 。 そ こ には 、
子どもの発達にとって意義のある、みずみずしさややわらかさ、豊かさとい
ったものが内在されているからです。
しかし、自己チュウで、幼児性をひきずったままの、否定的な「幼さ」は
問題です。こうした「幼さ」の広がりにより、トラブルが続出します。
マナーやルール破り、いたずら、からかい、暴言、いじめなどを“注意し
ても、同じことを繰り返す”。“説得すると『はい』と、素直に返事はするが、
わ か っ て い な い ”。 さ ら に 、 話 を し て も 「 ど う し て ? 」「 何 で ? 」 と 何 度 も 聞
き返し、話していることがなかなか通じない子どももいます。
学校では、トラブルを子どもたちの成長のチャンスととらえ、解決に向け
て個人指導や集団指導を行います。
トラブルを起こさなければならない理由や背景を考え合う中で、過去の人
間関係や家庭内の問題をひきずっていたり、トラブルを起こした本人よりも、
まわりにその要因があるなど、さまざまなことがわかってきます。
トラブルの解決をとおして、その内に秘められている願いや要求を探り、
お互いを理解し合いながら、安心して学習や生活ができる場所をつくり、わ
かり合い支え合う人間関係を学校の内外に築き上げる努力をします。
「 幼 さ」 が原因 の トラブルの中には 、「子どもってそういうものだ」と共感
でき る よ うなもの も多々ありますが、「周り に対し、威圧的な 行動をした り逸
脱した行動をすることで、自分の存在を示す、自己顕示としての問題行動」
もあり、とげを抜いて、時間をかけて糸を解きほぐしながら取り組む必要の
あるものもあります。発達途上の子どもたちには、未来への期待を込めて、
何よりも愛のまなざしをもって寄り添うことが大切ではないでしょうか。