軟 X 線顕微鏡の開発に向けたキノホルム構造ゾーンプレートの作製

共同研究
F 阪大 H20-007
軟 X 線顕微鏡の開発に向けたキノホルム構造ゾーンプレートの作製
Fabrication of Kinoform Zoneplate for Soft X-ray Microscope
五輪
智子, 福武
直之, 高澤
侑也, 裏川
達也, 篠原
邦夫, 鷲尾
方一
Tomoko Gowa, Naoyuki Fukutake, Yuya Takasawa, Tatsuya Urakawa,
Kunio Shinohara, Masakazu Washio
早稲田大学理工学術院総合研究所 理工学研究所
RISE, Waseda University
早稲田大学では、逆コンプトン散乱を用いたコンパクトな軟 X 線源の開発を行っている。生成される
X 線は水の窓領域(250-500eV)に含まれ、軟 X 線顕微鏡の開発が期待される。その開発に向け、集
光系の構築が必要となるが、既存のゾーンプレートは集光効率が低い。本課題においては、ナノ加工
装置群を利用し、集光効率が高いことが理論的に確認されているキノホルム構造のゾーンプレートの
作製を試みた。
A compact soft X-ray source via inverse Compton scattering has been developed at Waseda University. The
energies of the generated X-rays are within “Water Window” region (250~500eV) and development of a soft
X-ray microscope is expected. The X-ray focusing system is necessary for the microscope. In this study, we
attempted to fabricate a kinoform zoneplate which is theoretically-expected to have higher focusing efficiency
than existing ones.
変えたキノホルム型にすることで、集光効率が
理論上 100%に達することが報告されている。
本研究では 30kV 電子線描画装置や集束イオン
ビーム装置(FIB)を用いた 3 次元微細加工技術で、
キノホルム型ゾーンプレートを作製するための
基礎研究を行った。第一段階として電子線レジ
スト材 ZEP520A(日本ゼオン)に対して 30keV
の電子線描画装置で吸収変調型ゾーンプレート
の形状を加工し、原子間力顕微鏡(AFM)や電子
顕微鏡(FE-SEM)を用いて加工形状を評価した。
背景と研究目的: 早稲田大学では、フォトカ
ソード RF 電子銃で生成された高品質電子ビー
ムの応用実験として、逆コンプトン散乱を用い
た軟 X 線源の開発を行っている。約 5MeV の電
子ビームと 1047nm (Nd:YLF)の IR レーザーと
の衝突で生成される軟 X 線のエネルギーは「水
の窓領域」(250~500eV)に含まれる 1)。この領
域では Fig.1 に示すように水の X 線吸収率が炭
素・窒素の吸収率に比べて非常に小さいため、
脱水することなく生体細胞やハイドロゲル等の
高分子の観察が可能な軟 X 線顕微鏡への応用が
期待できる。エネルギー可変性、準単色性、短
パルス性といった逆コンプトン散乱の特徴も、
応用には有利である 2)。
軟 X 線をマイクロビームに集光することで、
微小領域の高分解能観察が可能になる。しかし、
X 線集光素子として代表的な吸収変調型ゾーン
プレートは、集光効率の理論限界が約 10%と非
常に低い。これに対し、ゾーンの形状を鋸状に
実験: 電子線レジストには、高い感度と解像
度を持つ ZEP520A を選択した。
電子線のにじみ等による加工線幅の広がりを
抑えるため、レジスト膜厚はより薄くする必要
がある。そのため、溶媒である Anisol で希釈し
て Si ウェハにスピンコートした。190℃で 3 分
間プリベークした試料のレジスト膜厚は約
80nm~200nm であったため、薄い 80nm のもの
1
膜厚や現像条件等の制御も行うことでさらに微
細な加工が得られると考えられる。また、今後
レジストに加工後に基盤に反応性イオンエッチ
ング(RIE)で転写するため、エッチング耐性の高
い ZEP7000 シリーズの使用も検討している。
を試料として用いた。
電子線描画装置は阪大設置の JEOL 製の電界
放射走査電子顕微鏡(JSM-6500F)に東京テクノ
ロジー製の描画システム BeamDraw を組み込ん
だものを使用した。加速電圧は 30kV、使用した
照射電流は 20~100pA である。作図には CAD
系ソフトである VectorWorks を用いた。
線幅が評価できるように、300µm 四方のエリ
アに line & space のパターンや、既存型の吸収変
調型ゾーンプレートのパターン(直径 55µm、
波長 4nm の軟 X 線用)を描画後、現像液
ZED-N50(日本ゼオン)に 25℃で 1 分間浸して
現像し、ZMD-B(日本ゼオン)に 25℃で 10 秒
間浸してリンスした。
加工形状は早稲田大学において AFM(SII 製
SPI3000)や FE-SEM(日立製 S4500S)を用い
て観察し、形状及び線幅を評価した。
論文発表状況・特許出願
なし
参考文献
1) Kazuyuki Sakaue et al., Radiat. Phys. and Chem.,
77, 10-12, (2008), p1136-1141
2) Tomoko Gowa, et al., Proc. of PAC, JACoW,
(2007), p1031-1033
結果、および、考察: 電子線のフルエンスを
20~120µC/cm2 と変えて各種パターン(線幅
20nm~5µm)描画した試料の加工形状について、
AFM 及び FE-SEM を用いて比較検討した結果、
ミクロンスケールの太い線は 30 µC/cm2 程度で
貫通するが、1µm よりも細い線は、加工にさら
に多くのドーズ量を必要とすることが分かった。
しかし、より細い線を描くためにドーズ量を上
げると太い線がにじんでしまうため、ゾーンプ
レートのように幅の違う線が複数あるパターン
を一度に描くことは、今回用いたラスタースキ
ャン方式の描画方法では困難であることが分か
った。そのため、描きたい線幅に適したドーズ
を解析し、描画を何度かに分け、ドーズを変え
てパターンを描く工夫が今後必要となると考え
られる。
Fig.2.は、既存の吸収変調型ゾーンプレートを
実際に描画し AFM で観察したレジスト表面形
状である。今回用いた AFM の分解能は約 10nm
であるが、針の太さの関係で谷の底面部分の形
状はうまく観察できていないものの、約 100nm
幅の線が 50µC/cm2 のドーズ量で加工できてい
ることが分かった。100nm より細い線に関して
は他のドーズ量でもうまく加工できておらず、
膜厚や現像条件等の制御が今後必要であると考
えられる。
Fig.1. Water Window Region
まとめと今後の課題: 軟 X 線顕微鏡の開発に
向け、集光効率が高いと理論上予測されている
キノホルム型ゾーンプレートの作製のための基
礎研究を行った。膜厚約 80nm の ZEP520A に
30kV の電子線で既存型ゾーンプレートを描画
し、50µC/cm2 で約 100nm 幅の加工に成功した。
今後、線幅に応じた最適なドーズ量を解析し、
Fig.2. AFM image of fabricated ZEP520A
using 30kV EB. (50µC/cm2)
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