海外危機管理上の重要なポイント ―人命第一主義の危機管理体制 株式会社ジェイ・エス・エス 佐伯 武 取締役副社長 ぼうちょう 防諜と国際テロ対策を主な業務とする警視庁 公安部外事第一課を退職し、海外危機管理の Saeki, Takeshi 救能力の向上には必ずしも役立っていないと思 われるケースが時々見られる。 分野に足を踏み入れて 27 年余り、渡航先は 88 カ国・地域に達した。その間の日本の企業・団 海外拠点の自助自救能力の向上を 体における危機管理対応は、全体として大きく 進化してきたと思われるものの、いくつかの重 現地拠点に当事者意識を持たせ、自助自救能 要な業務がなおざりにされているケースが散見 力を向上させる有効な方策の1つとして、現地 せんえつ されるため、僭越ながら本稿を通じて指摘させ のメディアや口コミから得られた犯罪 情 報 を ていただく。 現地拠点に取りまとめさせることが挙げられ る。誰が、いつ、どこで、誰に、何をし、どう 初動措置を行えるのは海外拠点 なった、どうすれば被害を受けずに済んだのか などの点をまとめていくのだ。 海外危機管理の対象となるリスクは、戦争、 内乱、暴動、クーデター、テロ、凶悪犯罪、各 場所での事件や現地マスコミが報じる凶悪事件 種事故、自然災害など多種多様だが、そうした の中から、海外勤務者の防犯につながる教訓を リスクが突然発生した場合、目前の被害を回避 導き出して注意喚起するという作業を日々続け し、あるいは発生しつつある被害を最小限にす ていくことは、地道ではあるが大変重要なこと るための組織的な初動措置を直ちに行えるの だ。それが仮に週1~2件のペースであっても、 は、日本の本社・本部ではなく、当事者たる海 海外拠点の当事者意識を促進させ、現地の実態 外拠点に他ならない。 把握に役立つからだ。また、凶悪犯罪対策にと 少なからぬ企業・団体はそのことを理解して どまらず、他の緊急事態に対する初動機能の適 おり、海外拠点長を始めとする海外赴任予定者 正化も期待できる。さらに取りまとめ結果を適 に対する様々な安全教育・指導を実施し、各種 宜報告させることにより、本社・本部による現 のマニュアル作成・改定に努力している。しか 地の実態把握にも大いに役立つ。 し一方通行的な色彩が強く、現地拠点の自助自 26 海外勤務者の身に降りかかりかねない身近な 2015年9月号 こうした身近な犯罪の集計は、現地当局が発
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