1-3 ラプラスの方程式

流体力学(2008)
0
1-3 ラプラスの方程式
渦なし流れの場合、次式のように、速度ベクトルは速度ポテンシャル  を用いて表
すことができる(流体物理学


4-2 参照)。

     grad 
v  ( u , v , w )  
,
,
 x  y  z
(1-21)
に示した様に、速度ベクトルは速度ポテンシャル  を用いて表すことができる。
これを、非圧縮性流体の連続の式(式(1-12))
 u
 x

 v

 y
 w
0
 z
に代入すると、
 
2
 x
2
 
2

 y
2
 
2

 z
2
 0
(1-22)
上式の左辺について、ベクトル演算子  (ラプラシアン    2 , 数学補足)を用いて
変形すると、
 
2
 x
2
 
2

 y
2
 
2

 z
2



 x x



 y y



 z z
   (  )      
2
式(1-22)は
  0
(1-23)
上式をラプラス(Laplace)の方程式とよび、これを満足する関数を調和関数(harmonic
function)という。
上式や式(1-22)には時間 t が含まれていないので、非定常流においても各瞬間での
境界条件から流れの状態は定まる。すなわち、過去の歴史が流れに影響を及ぼさない。
この場合、単にラプラスの方程式を解き、速度ポテンシャルφを求めれば、式(1-21)
より速度が得られる。
さらに、圧力方程式(流体物理学 式(5-6))から、
 
1 2

p    F (t ) 
  q 
 t
2 

の様にして、圧力 p も求めることができる。
(1-24)
流体力学(2008)
数学補足
ベクトル演算子(ナブラ)

 i
1
 j
x

y
k

z
圧力方程式
 
 t

1
q 
2
2

dp

   F (t )
1-4 流関数
次ページの図の様な定常二次元の流れ場について、流線の方程式を考える。
流線とは、ある時刻において一つの曲線を考え、その上の任意の点における接線方向が、そこにお
ける流速の方向と一致する曲線のことである。
流線の線素を d s  ( dx , dy ) 、その点における流速成分を( u ,v )とする。
ds
が流線の線素であるということは、 d s が流速ベクトル( u ,v )の方向と一致し
ているということであるから、次式を得る。
dx

u
dy
v
v dx  u d y
 v dx  udy  0
(1-25)
また、二次元非圧縮性流体の連続の式は、式(1-12)より、
u
 x


v
 y
 ( v )
 y
0

u
(1-26)
 x
となる。ここで、あるスカラー関数 を考えると、上式は式(1-25)がスカラー関数
の全微分であることの必要十分条件であるから(数学補足)、
d   v d x  u d y  0
(1-27)
ここで、
v 

 x
, u 

 y
(1-28)
式(1-27)を積分すると、次式を得る。
 d
0
 ( x , y )  const
 ( x , y ) を流関数(stream function)とよぶ。
(1-29)
流体力学(2008)
2
  c2
  d2
  c1
  d1
ds
dy
  c0
dx
  d0
等ポテンシャル線
流線
図 1-3 流関数と流線
数学補足 全微分
 M /  y と  N /  x が連続であるとき、微分方程式
M ( x , y ) dx  N ( x , y ) dy  0
が全微分形であるのは、  M /  y =  N /  x の成り立つときに限る。
圧力方程式
運動方程式
流線の方程式
渦なし
連続の方程式
速度ポテンシャルΦ
流関数Ψ
2
∇ φ = 0
2
∇ Ψ = 0
図 1-4 速度ポテンシャル・流関数・圧力方程式およびラプラス方程式が導入される過程
流体力学(2008)
3
1-5 複素速度ポテンシャル
二次元渦なし流れについて考えある。流速成分 ( u , v ) は速度ベクトル(式(1-21))



     g r a d
v  ( u , v , w )  
,
,
 x  y  z
および、式(1-28)
v 

 x
, u 

 y
を用いて、速度ポテンシャル  と流関数 により表すことができる。
 
 x
 y 




(v  )

 y
 x 
(u  )


(1-30)
上式をコーシー・リーマン(Cauchy-Riemann)の関係式とよぶ。
この時、  ( x , y ) を実数部、 ( x , y ) を虚数部とする複素関数 W は z  x  iy の解析関
数となる(数学補足)。
W   ( x , y )  i ( x , y )
(1-31)
W ( z ) を複素速度ポテンシャルという。
x 軸を実軸、 y 軸を虚軸にとると、流速ベクトル v は、
v  u  iv
(1-32)
の様に複素表示することができる。
また、ベクトルの大きさを q  v とし、 x 軸となす角度を  とすると、
v  qe
i
 q cos   iq sin 
の様に表示できる(数学補足)。
(1-33)
流体力学(2008)
y
v ( v  q)
v = qsin?
θ
u= qcos θ
x
図 1-5 流速ベクトルの複素数表示
数学補足 コーシー・リーマンの方程式
領域D内で定義された関数 f ( z )  u ( x , y )  i v ( x , y ) について、u ( x , y ) とv ( x , y ) がD内
で連続な偏導関数をもつとする。このとき、関数 f ( z ) が正則であるための必要十分
条件は、
u
 x

v
 y
,
u
 y

v
 x
数学補足 オイラーの公式
e
e
ix
 ix
 cos x  i sin x
 cos x  i sin x
4
流体力学(2008)
W
5
を z で微分すると、次式を得る。
d W

dz
dW

dz
W
 x
W
i y



 x
i

 x

1  

i
i y
 y
 i

 y




(1-34)

 y
上式にコーシー・リーマンの関係式(1-30)を用いると、
dW
dz


 x
i

 x


 y
i

 y
 u  iv
(1-35)
ここで、共役複素数(数学補足)の考えを用いると、式(1-32) v  u  i v 、式(1-33)
i
v  qe  q cos   iq sin  より、
dW
 v  qe
 i
(1-36)
dz
すなわち、複素速度ポテンシャル W を z について一回微分すれば、流速の共役ベク
トルv となり、流速の x , y 成分を求めることができる。
次節以降で、速度ポテンシャルと流関数を用いることによって、一様流や湧き出し
などを解く。
流体力学(2008)
6
数学補足 共役複素数
  a  ib ( a , b は実数)に対して、 a  ib を  の共役複素数  という。
解答
<問題 1-1>
流量を Q、断面積を A、速度を v とすると、
Q=A v
したがって、速度は次式のようになる。
Q
v 
 
A
0 .5
  0 .4 / 4
2
 3 . 98 m/s
2 完全流体中の円柱まわりの流れ
2-1 湧き出し・吸い込み
複素関数
( K :実数)
W ( z )  K ln z
(2- 1)
について考える。
渦糸(流体物理学 7 参照)の場合と同様に、上式に z  rei を代入して、実数部と虚
数部に分けると、
W ( z )  K ln re
i
 K  ln r  i  ln e   K  ln r  i  
となるから、
  K ln r 
(2- 2)

  K 
よって、極座標系の流速成分( ur , u )を求めると、
 
1
K 
 r
r  
r 

1 

u 

 0
r  
 r

ur 


(2- 3)
となり、次ページの図に示すように、原点からの放射状の流出入を表す。
K >0 の時、湧き出し(source)、 K <0 の時、吸い込み(sink)という。
原点からの湧き出し量(吸い込み量)は、2次元の場合、次のようになる。
Q 

2
0
r u r d   2 K  const .
(2- 4)
流体力学(2008)
>0:湧き出し
K <0:吸い込み
K
なお、K は湧き出し、吸い込みの強さを表している。
z平 面
y
K>0
x
  co n st
  co n st
図 2- 1
湧き出し・吸い込み
7
流体力学(2008)
8
2-2 二重湧き出し(ダブレット)
次ページの図の様に、 z = a に湧き出し(K>0)、 z =- a に吸い込み(K<0)を置く。
このとき、複素ポテンシャルは式(2-1)より、
W ( z )  K  ln ( z  a )  ln ( z  a )   K ln
za
(2- 5)
z a
分母分子に( z - a )を掛けて、 z  rei を代入すると、
z  2 az  a
2
K ln
z a
2
2
2
 K ln
2
r e
i 2
 2 are
2
r e
i 2
i
a
a
2
2
a が十分に小さいとすると、
2
K ln
r e
i 2
 2 are
2
r e
i 2
i
a
a
2
2
2 a  i 
2 aK

 K ln  1 
e   
i


r
re
2aK    const として、 a →0 とすると、複素ポテンシャルは、
W (z )  

z

 
re
i
 

(co s   i sin  )
r
(2- 6)
このような流れを二重湧き出し(doublet)という。
上式の実数部と虚数部をとると、

x
x


r
r
x  y 


y
y

  sin   2  2
2

r
r
x  y

 
cos   
2
 
2
2
よって、流線および等ポテンシャル線の方程式は、
x  y 
2
2

y  0
C
x  y 
2
2

(2- 7)
x  0
C
ここで、 C は定数である。
次ページに示すように、流線は y 軸上に中心を持ち、原点にて x 軸に接する円群、
等ポテンシャル線は x 軸上に中心を持ち、原点で y 軸に接する円群となる。
流体力学(2008)
z平 面
y
P
θ2
θ1
A
x
B
  co n st
図 2- 2
隣合った湧き出しと吸い込み
y
z平 面
  co n st
  co n st
x
図 2- 3
二重湧き出し
9
流体力学(2008) 10
2-3 一様流中の湧き出し・吸い込み
 一様流中におかれた円柱のまわりの流れについて考える。
 この問題を解く正攻法的なやり方は、ラプラス方程式を境界値問題として解い
て、速度ポテンシャルを求めるものである。
 しかし、これは面倒で数学的すぎるので、ここでは前節で説明した基本的な流
れの組みあわせとして、解を見つける。
 一様流中に湧き出しを置く。
 その流れは直感的な想像通り次ページの図のようになる。
 すなわち、湧き出しからの流れは一様流に吹き流されたような場になる。
 次ページの図(a)の流れの中に、さらに、湧き出しと同じ強さの「吸い込み」を
配置してみる。
 この時、よどみ点は二つできる。
 次ページの図(b)に示すように、一様流中に卵形の湧き出しと吸い込みが形成さ
れ、これをランキンの卵形(Rankine’s ovoid)という。
y
y
漸近線
u= U , v= 0 (r= ∞ )
x
s
o
x
A
O
B
漸近線
(b)
(a)
図 2- 4 (a)一様流中に置かれた湧き出し
(b)隣り合った湧き出しと吸い込み
流体力学(2008) 11
2-4 一様流中の円柱
<複素ポテンシャル>
前ページ図(b)の湧き出し点と吸い込み点を無限に接近させて、ダブレットとし,
一様流 W ( z )  Uz とダブレット W ( z )    / z (式 2-6)を組み合わせると(一様流は x
軸の方向とし、ダブレットの方向は x 軸の負の方向とする)、
W ( z )  Uz 

 Uz 
U a
z
2
(2- 8)
z
ここで、   2 aK であり、 K  Ua / 2 とした。
上式において z →∞とすると、W → U z となり、遠方では一様流であることがわかる。
<円周上の流速>
半径 a の円周上 z  ae i の流れについて調べるため、上式に z  ae i を代入すると、
W (z)
z  ae
i
 Uae
i

Ua
ae
2
i

 Ua e
i
e
 i
  2Ua cos 
   i
であるから、
  2Ua cos  ,
 0
半径 a の円周は一つの流線(   0 )であるから、これを円の表面とみなすことができ
る。よって、式(2-8)が一様流中に置かれた円柱まわりの複素速度ポテンシャルを表
していることが分かる。
円周上の接線方向の速度成分は、
v  

a 
 2 U sin 
上式から  =0 となる円の前面と後方では速度 V =0 のよどみ点となることもわかる。
Ψ = const.
Φ = const.
図 2- 5 一様流中の円柱まわりの流れ
流体力学(2008) 12
3 完全流体中の円柱に働く力, 翼に働く揚力と渦
3-1 循環を伴う静止円柱
次に、式(2-8)で表される流れ場の原点に、強さ  の渦糸を置く場合を考える。
渦糸 W ( z )  iK ln z (流体物理学 7 参照)を加えて、
2

a 

W  Uz 
ln z
 i
z 
2

(3- 1)
上式を z で微分して、共役速度ベクトルを求めると、
2

a 
 1
 u  iv  U  1  2   i
dz
2 z
z 

dW
(3- 2)
よどみ点では速度が零となるから、 d W / d z =0 より、
z
 i
a

4 U a

  
1 

 4 U a 
2
(3- 3)
流れの様子は、次ページに示すように、三つの場合に分けられる。
①   4  U a :よどみ点は二個所(円柱の上流と下流側)にできる。
2 
  
  1 
 
 4 U a  
a

y


 

a
4 U a

x
(3- 4)
②   4  U a :よどみ点は円柱下面の一点となる。( x / a  0 , y / a   1 )
③   4  U a :よどみ点は y 軸上の2点となるが、このうち一点は円柱の中になる。
x
0
a
  
 
() 

 4 U a 
a
4 U a
y

2




 1


(3- 5)
流体力学(2008) 13
3-2 静止流体中を運動する円柱
さらに、静止流体中を運動する円柱まわりの流れを考える。
この場合、 W ( z )  Uz  U a 2 / z (式 2-8)の流れ場に、一様流と逆向きの運動(  U z )
を与える。
W (z) 
U a
2
(3- 6)
z
これはダブレットを表す複素ポテンシャル式(2-6)(   2 aK , K  Ua / 2 )に等しい。
<解析的に複素ポテンシャルを求める方法>
複素ポテンシャル W は、円柱の外部のいたるところで正則であるから、
(ⅰ )
Γ / 4πaU < 1
a
s
(ⅱ )
Γ / 4πaU = 1
s
a
s
(ⅲ )
Γ / 4πaU > 1
a
s
図 3- 1
一様流中に置かれた循環
を持つ円柱周りの流れ
W  c0 
c1
z

c2
z
2
   ,
c n  a n  ibn
(3- 7)
の様にローラン級数に展開できる。 z  re i とおいて実数部と虚数部に分けると、
流体力学(2008) 14

 
 a
n
cos n   bn sin n   r
n
(3- 8)
n0

 
 b
n
cos n   a n sin n   r
n
(3- 9)
n0
円柱表面( r = a )にて円柱と流体との相対速度の法線成分が零になるから、これを境
界条件とする。円柱の速さを U とすると、

r  a,
r
 U co s 
(3- 10)
上式に式(3-8)を代入すると、


 na
 n 1
 a n cos n 
 bn sin n    U cos 
n 1
上式の左辺は右辺のフーリエ展開に相当するから、係数 a n , bn は、
a 0 b0 は任意,
a
1
a1  U ,
b1  0 ,
a n  bn  0 ( n  1)
従って、式(3-7)は、
W  c0 
U a
2
(3- 11)
z
このうち付加定数 c0 は速度ベクトルを求める( d W / d z )時には、何らかの影響を及ぼ
さないので、複素ポテンシャルから除くことができる。従って、上式は式(3-6)と等
しくなる。
3-3 円柱に働く力
完全流体中の円柱の表面に働く応力は圧力だけである。ここでは、圧力方程式(式
1-14)

1 2

p    F (t ) 
 q 
t
2


より、円柱表面に作用する圧力を求め、これから x , y 成分ごとの合力を計算し、円
柱に働く抵抗と揚力を求めてみる。
一様流中に置かれた循環を持つ円柱周りの流れの複素ポテンシャル W は式(3-1)
2

a 

W  Uz 
ln z
 i
z 
2

に よ り 与 え ら れ る 。 従 っ て 、 円 柱 表 面 上 の 速 度 の 2 乗 q2 は 、 式
(1-26) d W /d z  v~  qe  i より、
流体力学(2008) 15
va 
dW
dz
 dW
q 
 dz
2
z  ae i 
a2 
 1

 U 1 
i
2
z 
2 z

 dW 
  2U

 d z 
 U 1  e  i 2    i
z  ae i 

2 a
e  i
2
2
  
 U 
1  cos 2   
  4
 sin 
 2 a 
 2 a 
 

=  2 U sin  


2 a 
2
(3- 12)
上式の関係を式(1-14)

1 2

p    F (t ) 
 q 
t
2


に代入すれば、圧力 p が求められる。流れが定常であることを仮定(   /  t  0 )す
ると、円柱に働く抗力 D  Px と揚力 L  Py は、
D  Px   
L  Py   
2
0
2
0
a ( p ) r  a cos  d   0
(3- 13)
a ( p ) r  a sin  d    U 
(3- 14)
上式より、揚力 L は働くが、
“定常流中の円柱には抗力が働かないという“
ということがわかる。これは我々の経験とは全く矛盾する結果である。これをダラ
ンベールの背理(d’Alembert paradox)という。
また、一様流速を U 、物体まわりの循環を  とすれば、物体には  U  なる揚力が働
く。これをクッタ・ジューコフスキー(Kutta-Jukowaski)の定理という。
円柱まわりに循環があると円柱まわりの流線は円柱の下側に比べて上側で密に
なり、従って流速は速く、ベルヌーイの定理により圧力は逆に低くなる。このた
めに円柱の上下の圧力差による揚力が生じるものと解釈できる。
野球のボールに回転を与えるとカーブやドロップを投げられるのも、これと同じ理
屈で、これをマグヌス(Magnus)効果という。
圧 力 小
速 度 大
U∞
力
速 度 小
圧 力 大
図 3- 2
マグヌス効果
流体力学(2008) 16
3-4 翼に働く揚力と渦
クッタ・ジューコフスキーの定理は、物体まわりに  が存在すれば、その物体には、
L  U
の揚力が働くことを述べている。しかしながら、なぜ物体のまわりに循環が発生す
るかについては述べていない。
静止流体中に置かれた翼を急に動かすと、翼に固定された座標に対して図 3-3(a)の
様な循環なしのポテンシャル流の場ができる。
(a)
(b )
(c)
図 3- 3
翼まわりの循環の発生とクッタ・
ジューコフスキーの仮定
翼の下面の流線は鋭い角を急にまわりこんで上面で翼から離れている。このような
鋭角をまわる流れはそこで流速が無限大となるが、現実にはこれが不可能である。
壁面での粘性のために翼の後端をでる流れは不連続面となり、これが巻き込んで小
さな渦を形成し、後に流れていく(図 3-3(b))。
図 3-4 の様に、十分大きな閉曲線 ABCDA で翼を囲み、二つの部分 ABEDA と BCDEB と
に分けて考える。このとき、ケルビンの循環不変定理
完全流体中で流体とともに動く任意の閉曲線についての循環は時間が
たっても不変である
は翼まわりにこれを打ち消す逆向きの循環が生じることを要求している。すなわち、
ABEDA に-Γの循環が発生する。
それでは、翼のまわりの循環を形成しているものは何であろうか?。定常流中の翼
面は滑りなしの条件を満たすべく薄い渦層に覆われていると考える。翼の上面の渦
流体力学(2008) 17
層は時計まわりの回転を持ち、翼の下面では逆回転の渦である。翼を囲む閉曲線内
の     は上下非対称の翼では循環   0 であり、そのために翼に揚力が働く。
D
Γ
Γ
E
A
C
B
図 3- 4
発進渦と翼まわりの循環
1 完全流体を記述する方程式
1-1 オイラーの連続の方程式 (質量保存)
次ページ図に示すように、流れ場中に( x , y , z )点を中心にして空間的に固定し
た仮想的な微小平行六面体(δx, δy, δz)を考える。
時間 t から t   t の間に、x 軸に垂直な二つの面を通って、この検査体積に出入
りする流体の質量は、

(左面から入る質量)=   x 

x
x
 

, y, z, t   u x 
, y , z , t  y  z  t
2
2
 

(1- 1)
となる。  u を一つの変数として考え、( x , y , z )点でテイラー展開(次ページ参
照)すると、上式は、

(左面から入る質量)=  (  u ) x , y , z , t 
 ( u) 

 x
x 

  y  z  t
 2 
(1- 2)
同様にして、 x 軸に垂直な右側の面からは流体が出ていくから、符号を逆にし
て、

(右面から入る質量)=   (  u ) x , y , z , t 

 (  u )  x 
 x

  y  z  t
 2 
(1- 3)
である。従って、

( x 軸に垂直な面を通しての質量の増加)=  

 ( u) 
 x
 x  y  z  t

(1- 4)
同様にして、 y , z 軸に垂直な面を通しての質量の変化は、それぞれ次式の様に
なる。

 ( v ) 

 y 

 ( w) 
( y 軸に垂直な面を通しての質量の増加)=  
( z 軸に垂直な面を通しての質量の増加)=  

 x  y  z  t
 z
 x  y  z  t

(1- 5)
(1- 6)
y

 ( v ) 
 y  x  t
 v 
y


( u) 

 x  y  t
 u 
x


y  u yt
 v xt
x
x
図 1- 1 微小平行六面体への流体の流出入
数学補足 テイラー展開
関数 f ( z ) は領域 D 内で正則である場合、次のようなべき級数に展開できる。
f ( z )  f (a ) 
f ' (a )
1!
(z  a) 
f ' ' (a )
2!
( z  a )  ... 
2
f
(n)
(a )
n!
( z  a )  ... (1- 7)
n
式(1-4)、(1-5)、(1-6)の和が、微小六面体内の質量増加分

t
 x  y  z  t と等しく
なることから、


 t
 ( u )
 x

xyzt 
 ( u)
 x

 ( v )
 y
 ( v )
 y

xyzt 
 (  w)
 z
 ( w )
 z
xyzt 

t
0
xyzt
(1- 8)
(1- 9)
または、

 t
u

 x
v

 y
w

 u
v
 w
 0
  


 z
 z 
 x  y
(1- 10)
上式を連続の方程式(equation of continuity)という。
前述した実質微分(流体物理学式(2-5))を用いて、ベクトル表記(次ページ参
照)すると、
D
   v  0
(1- 11)
Dt
非圧縮性流体の場合には D  / Dt  0 であるので、上式は次式のようになる。
 u
 x

v
 y

 w
 z
div v   v  0
0
(1- 12)
数学補足 ∇、ベクトルの内積
 (ナブラ)は微分ベクトル記号
 


  
,
,
 x  y  z



(1- 13)
また、   v はベクトルの内積を表す。
 v 
 u
 x

v
 y

 w
 z
 div v
(1- 14)
<問題 1- 1>
円管内を水が毎秒 0.5m3 流れている。直径が 0.4m の場合、流速を求めよ。た
だし、円管の断面内で速度は一定とする。
1-2 オイラーの運動方程式(運動量の保存)
完全流体とよばれる粘性のない流体の場合、微小流体塊に働く力は質量力と圧
力である。
テイラー展開を用いて、 x 軸に垂直な面に働く圧力差は、
( x 軸に垂直な面に働く圧力差)
 
x
x



  p x 
, y, z, t  p x 
, y , z , t   y  z
2
2



 


 p  x 
 p  x 
2
  p x , y , z ,t 

  y  z   p x , y , z , t 

   y  z  O ( x )  y  z
 x  2 
 x  2 



 
 p
 x

(1-
 x  y  z  O ( x )  y  z
2
15)
y, z
方向についても同様に、次式が導かれる。
( y 軸に垂直な面に働く圧力差)=  ( p /  y)  x  y  z
( z 軸に垂直な面に働く圧力差)=  ( p /  z)  x  y  z
(1- 16)
(1- 17)
質量力は、単位質量あたりに働く外力を F ( F x , F y , F z ) とすると、次式のように表さ
れる。
 Fx

 F x y z    F y
F
 z


 x  y  z


(1- 18)
ニュートンの第2法則 F  M a を用いて、質量  x  y  z と加速度(流体物理学 式
(2-6)) Du / Dt の積 (  x  y  z ) Du / Dt は働く力の和(圧力差+外力)に等しいの
で、式(1-15), (1-18)から、
 x  y  z
Du
Dt
Du
Dt
 Fx

質量力
  F xxyz 
1  p
  x
圧力
 p
 x
xyz
(1- 19)
同様にして、
Dv
Dt
 Fy 
1  p
  y
,
D w
Dt
 Fz 
1  p
(1- 20)
  z
この式は、オイラーの運動方程式(Euler’s equations of motion)と呼ばれる。
流体の状態を表す変数は、3方向速度成分 ( u ,v , w ) 、圧力 p 、密度  の合計5
個であるのに対して、連続の方程式(1式)とオイラーの運動方程式(3式)の合
計4式しかないので、それらに加えて状態方程式(流体物理学 2-2 参照)が用い
られる。
z
x


p x 
, y, z 
2


y
δ z
δ x
x
x


p x 
, y, z 
2


δ y
図 1- 2 微小平行六面体に作用する圧力
流体力学(2006) 34
4 粘性流体の応力テンソル
4-1 粘性
流体はその変形に際して抵抗を受ける。この関係は変形速度とせん断応力の関係で
表すことができる。
最も単純な場合として、図 4-1 の様に平行平板間に粘性流体を満たし、下面の板を
固定し、上面の板を一定速度で移動させた時の流れを考える。この様な流れをクエ
ット(Couette)流という。
下面の板に働くせん断応力τは、
 du 

   
 dy  y  0
ここで、
 :粘性係数
(4- 1)
1[Pa・sec]
式(4-1)に従う流体をニュートン流体
式(4-1)に従わない流体を非ニュートン流体という(図 4-2)。
一般の流体力学では、ニュートン流体のみを取り扱う。
非ニュートン流体についてはレオロジー(物質の変化と流動に関する科学)の分野で
扱われる。
我々の生活圏に存在する空気や水をはじめとする天然の流体は全てニュートン流体
であり、この授業では非ニュートン流体について取り扱わない。
流体力学(2006) 35
図 4- 1
Couette 流
ビンガム流体
擬塑性流体
せん断応力τ
ニ ュー トン流 体
ダ イ ラタン ト流 体
完全流体
速 度 勾 配 d u/d y
図 4- 2
流動曲線
流体力学(2006) 36
4-2 応力テンソル
粘性流体の場合、微小流体塊には図 4-3 に示す様な応力が働く。
応力は温度などのスカラー(scalar)量、流速の様なベクトル(vector)量とは異なり、
次式の様なテンソル(tensor)量で表わされる。
  xx

P    xy
  xz

 yx
 yy
 yz
 zx 

 zy 
 zz 
(4- 2)
ここで、    :法線応力、    :せん断応力である。添え字の一つ目αは考えている
面の方向を、二つ目βは力の成分方向を示す。
応力テンソルは対角成分が相等しい対角テンソルであるから、
 xy   yx ,  yz   zy ,  zx   xz
(4- 3)
このことは、微小流体のある一点のまわりに働く回転モーメントを考えれば容易にわかる。
 xy dx   yx dy  (体積力のモーメント)=0
( dx  dy )
微小流体の体積を零の極限にすると、体積力(質量力と慣性力= F  D U / D t )のモーメン
トは表面力のモーメントに比べて高次の無限小であり無視できる。それゆえ、表面応力の
回転モーメントの釣り合い条件から式(4-3)が得られる。
流体中の応力は流体の相対運動の結果として生じるので、式(4-2)に定義した応力テ
ンソルは流体運動と関連づけられなければならない。この関係を一般的に導くのは
厄介なことであるので、ここでは、類推による説明を行い、感覚的に理解を深める。
(38 ページにつづく)
流体力学(2006) 37
z
σ zz
τ zy
τ zx
τ yz
τ xz
σ xx
σ yy
τ xy τ
yx
x
図 4- 3
応力テンソル
τ yx
τ xy
dy
dx
図 4- 4
y
流体力学(2006) 38
(36 ページからのつづき)
ある流れ場の中に、立方体を考える。
図 4-5(a)の様に、立方体の面と流線(図中右上がりの線)の方向は必ずしも一致して
おらず、流線は各方向成分に分解される。
図 4-5(b)の様に、隣り合う x 面( x 軸に垂直な面)と y 面とのせん断応力を考えると、
y
面の  yx は、式(4-1)に示したように、 
u
y
の項を含み、  xy は 
v
x
の項を含まな
ければならないから、せん断応力は次式の様に表わされる。
 v
u
 xy   yx   

y
 x



 w v 

 yz   zy   

z 
 y
(4- 4)
 u w 
 zx   xz   


x 
 z
一方、法線応力は、上式と同様に考えると 2 
u
x
の項を持ち、これに圧力 p と圧縮
性によるひずみ応力を考慮すると、
 xx   p

 yy   p

 zz   p

2

 2

 2

 2
3
2
3
2
3
u
x
v
y
(4- 5)
w
z
圧力 圧縮性による 垂直応力
ひずみ応力
ここで、
 
u
x

v
y

w
z
 d i vv :発散
(4- 6)
流体力学(2006) 39
v
τ yy
v
流線
τ yx
u
τ xy = μ
τ yx = μ
∂v
∂x
∂u
∂y
τ xy = τ yx
(a)
(b)
図 4- 5
流体の変形速度と応力
+?
+?
τ xy
τ xx
流体力学(2006) 40
5 粘性流体の運動方程式の導出
5-1 ナビエ・ストークスの方程式
前節 4-2 で粘性により生じる応力と流体の運動(変形速度)を関係づけることができ
たので、これを運動方程式の中に組み入れてみる。
式(4-4),(4-5)から x 軸方向に働く力は、
yz 面:   xx d y d z   xx  (  xx /  x ) d x  d y d z  (  xx /  x ) d x d y d z
zx 面:   yx d z d x   yx  ( 
yx

/  y ) d y d z d x  ( 
yx
(5- 1)
/ y ) d x d y d z
面:   zx d x d y   zx  (  zx /  z ) d z  d x d y  (  zx /  z ) d x d y d z
xy
単位体積あたりでは d x d y d z  1 となるから、式(5-1)の総和は、

xx
x



yx

y
 zx
z
 
2
u 
  v
u    u w 

 



  p    2


x 
3
x  y  x
 y   z   z
x 

p
x

2

3

x
 2
 2u
x 2
  2v
 2u
  

2
 xy y
  2u
 2v
 2w

 
  


2
x 3 x
xy xz
 x
p


p
x
p
x

2

2

3

1

3

x


 2w 
  2u
   


2
xz 
 z


 

  2u  2u  2u
 


2
y 2
z 2
 x
  2u  2u  2u
  


2
x
y 2
z 2
 x

  2u  2u  2u
  


2
x
y 2
z 2
 x




(5- 2)






式(5-2)を式(1-9)の圧力項の代わりに代入すると x 方向の運動方程式は、
Du
Dt
 Fx 
1 p
 x

1  
3  x

2
2
2
   u  u  u



2
2
2 
  x
y
z 
(5- 3)
同様に、 y , z 方向について、
Dv
Dt
 Fy 
1 p
 y

1  
3  y

   2v
 2v
 2v



  x 2
y 2
z 2



   2w  2w  2w
 Fz 

 


Dt
 z 3  z
  x 2
y 2
z 2
Dw
1 p
1  



(5-3)
流体力学(2006) 41
(40 ページからのつづき)
または、ベクトル表示で、
Dv
F 
Dt
1

grad p 
1
grad 
3


 v
2
(5-3)’
ここで、
ラプラシアン

 

2


2
x
2


2
y
2


2
z
2
 
勾配 grad =  , , 
 x y z 
式(5-3), (5-3)’をナビエ・ストークスの方程式という。
このうち、粘性による項は、 (  /  )   2v で表わされる。
動粘性係数:  /    1[m2/sec]=10St(ストークス)
流体が非圧縮性の時、体積変化がないから、 div v = 0 となり、
Dv
Dt
F 
1

grad p    v
2
(5-3)’’
希薄流体、音速を超える高速流体以外では、この非圧縮性流体におけるナビエ・ス
トークス方程式が適用できる。
流体力学(2006) 42
5-3 2次元 Couette 流の主軸 (非圧縮性流体)
図 5-1(a)に示す2次元流の応力テンソルは、

u
 p  2
 yx  
x


 yy     u  v 


  
x 
  y
  xx

  xy
 u v 
 
 

x 
 y
v 
 p  2

y 
(5- 4)
新しい座標軸を反時計まわりに  傾けて定めると、
x '  x c o  s y s i n
y '   x s i n y c o  s
(5- 5)
流速成分は、 y 方向の速度勾配 a を一定として、
u ' ( x ' , y ' )  a ( x ' s i n  y ' c o s) c o s
v ' ( x ' , y ' )   a ( x ' s i n  y ' c o s) s i n
(5- 6)
u ' を y' で、v ' を x ' で偏微分すれば、
u '
y '
 a c o 2 s
v '
x '
(5- 7)
  a s i 2n
簡単のため主軸方向(応力テンソルの非対角成分がゼロとなる方向)に座標系をとる
と、
 u ' v ' 
   a ( c o2 s  s i 2n )  0
 x ' y '   

 y ' x ' 
(5- 8)
より、     / 4  4 5 である。
各応力は、
 x 'x '   p  2 

y'y'
  p  a
u '
x '
  p  2  a s i n c o s   p   a s i 2n   p   a
(5- 9)
 x ' y '   y 'x '  0
図 5-1(b)の様に Couette 流中に短い糸を流れに平行に置くと、せん断応力によって
図 5-1(c)の様に回転する。
の時、糸の両端に  xx が作用し、糸はピンと張る。
   4 5 の時、糸の両端に  yy が作用し、糸は圧縮されて糸くずとなる。
   4 5
流体力学(2006) 43
y'
y
x'
x
θ
(a)
(b )
π 4
(c)
図 5- 1
2次元 Couette 流中の短い糸
流体力学(2006) 48
5 レイノルズ数とレイノルズの相似則
5-1 レイノルズ数
ドイツのハーゲンは下水道の設計の際に,流体の振る舞いが速度やパイプの太さに依
存し,ある速度から圧力損失が非常に大きくなることに気がついた.
P/l
乱流
層流
Q
ハーゲンは,流れが遅い場合と速い場合とでは流れの様子が大きく異なると考えた.
この現象を力学的に詳しく調べたのがレイノルズである.レイノルズはパイプに水を
流し,流速やパイプの太さ,粘性係数を変えた実験を行った.流速が低い場合や管の
粘性が大きい場合は,パイプの中に色素を入れると色素は糸のように流れていくが,
流速が速くなったり,管の径が大きくなったり,粘性が小さくなったりすると,パイ
プの中の流れが激しく混合し,色素の流れが変化することを実験により確認した.
レイノルズの実験により,.
Re 
UD

がある一定値を超えると流れの状態が変化することがわかった.これをレイノルズ数
と呼ぶ.
ナビエ・ストークス方程式において、質量力を考えなければ、流体に働く力は次の3
つである。
慣性力 ( D v / D t )
圧力
(  gradp )
粘性力 (  2v )
①粘性力がゼロ(完全流体,さらさらした流れ)
→ポテンシャル流
(慣性力支配的)
慣性力と圧力で流体の力関係を決定できる
②慣性力がゼロ(おそい流れ,粘性的な流れ)
流体力学(2006) 49
→ストークス流
(粘性力支配的)
圧力のみで流体の力関係を決定できる
③粘性力と慣性力が同程度の大きさの場合(次ページ図)、慣性力、圧力、粘性力の3
つの力関係を考える必要があり、ナビエ・ストークス方程式を解くことは難しい。
3つのパラメータのうちひとつがわかれば,方程式の様子がわかるので,慣性力と粘
性力の比を取る.
Re 
( 慣性力 )
( 粘性力 )

U U / l
2
 U /  l
2
U (Ul

 (Ul
1
2
)

)
Ul

(5- 1)
ここで、
:代表流速(例:管内流では平均流速、境界層では主流等)
l :代表長さ(例:管の直径、円柱の直径、境界層厚さ等)
である。
U
あるいは
慣性力
3
F  ma   L
U
2
 L U
2
L /U
粘性力
2
A  L 
U
  LU
L
より,
( 慣性力)
Re 

(粘性力)
2
L U
 LU
2

LU
 /

UL

レイノルズの実験によれば.慣性力と粘性力の比を表す無次元数をレイノルズ数とい
うレイノルズ数は,代表速度 U と代表寸法(管の直径)D の積を動粘性係数 で割っ
たものである.レイノルズの実験より,Re 数が 2320 以下の場合は流れは層流となり,
2320 以上の場合は乱流になる.流れが層流から乱流に変わるレイノルズ数を臨界レイ
ノルズ数と呼ぶ.
(臨界レイノルズ数の値は,流れの初期条件,境界条件にも依存する.実験装置には
外部からの振動など様々な外乱があるが,これらの外乱のない状態の場合,管内流の
臨界レイノルズ数は 5000 程度まで大きくなるという報告もある.)
流体力学(2006) 50
L a m in a r F lo w
T u rb ulen t F lo w
レイノルズの実験(左)と管の中の色素の様子(上:層流,下:乱流)
が大きい場合、物体に働く力は物体まわりの圧力の総和
Re が小さい場合、物体に働く力は粘性による表面摩擦力と圧力である。
Re
流体力学(2006) 51
粘性ゼロ
正味の
圧力
レイノル ズ 数
のスケール
10 7
10 6
慣性力
10 5
10 4
10 3
正味の
粘性力
10 2
慣性力
10 1
正味の
圧力
1
10 -1
10 - 2
粘性が非常に大きい
正味の
圧力
10 - 3
10 -4
正味の
粘性力
10 - 5
図5- 1 粘性流体の運動を支配する力とレイノルズ数の関係
(シュピロによる)
流体力学(2006) 52
5-2 レイノルズの相似則
次ページ図の様な2つの流れのレイノルズ数が等しい場合、物体の大きさ、流体の種
類が異なっても2つの流れは力学的に相似である。
レイノルズ数を合わせれば大きなスケールの現象を小さなスケールの模型実験によ
り推定できる。(幾何学的な倍率、力学的な倍率をかければ、模型実験から実際の流
れの様子や物体に働く力がわかる)
流れ場の代表長さ l 、流速 U として、無次元化すると、
x* 
x
, y* 
l
u* 
, z* 
l
u
, v
U
*

v
z
l
p* 
,
l /U
w
, w* 
U
t
t* 
y
U
p
U
2
これらを用いると、無次元ナビエ・ストークス方程式は
Dv
Dt
*
*

lF
U
2
 g r ap *d
1
Re
 2v
*
(5- 2)
この式からも Re 数を合わせるだけで、力学的関係が相似になることがわかる。
流体力学(2006) 53
P
P
慣性力
(質 量 × 加 速 度 )
圧力
慣性力
(質 量 × 加 速 度 )
圧力
粘性力
図5- 2
粘性力
レイノルズの相似則
流体力学(2006) 52
7 運動方程式の厳密解 ①
ナビエ・ストークス方程式は非線形微分方程式であり、その解を厳密に求めることは
困難である。しかし、特殊な条件のもとでは厳密解が求まるので、ここではその二、
三の例を述べる。
これらの流れは特殊な流れであるが、決して取るに足らない意味のないケースではな
く、むしろ流体運動における粘性の作用を理解するための重要な例である。
7-1 平行流
十分い長い平行平板間の流れや一様径の管内流では、すべての流体粒子は一方向(平
行平板や管軸の方向)に流れ、他の方向の流速成分をもたない。
座標系を流れ方向に x 、これと直角方向に y , z とすると、v  w  0 , div u  0 より、
u
x

v
y

w
z
0
u / x  0
(7- 1)
 u  u( y, z, t )
一方、上式の関係を式(5-3)第 2,3 式に代入して、
p / y  0
p / z  0
よって、ナビエ・ストークス方程式は、
2
2
2
   u  u  u
 Fx 

 


2
2
2 
Dt
 x 3  x
  x
y
z 
1 p
Du

u
t
 
1  
 2u 2u
 

2
2 
dx
z 
 y
dp
が得られる。これは u ( y , z , t ) に関する線形偏微分方程式である。
(7- 2)
流体力学(2006) 53
7-2 2次元 Couette 流
平行平板の一方は静止し他方は速度 U で運動している場合の平行平板間の定常流
を考える。
平行平板間の距離を h とし、静止平板面上に x 軸を選ぶと、次ページ図に示す
Couette 流における運動方程式は、式(7-2)から、

u
 
t
dp
 2u 2u
 

2
2 
dx
z 
 y
dp
(7- 3)
 u
2
 
dx
y
(7- 4)
2
境界条件は、
y  0 : u= 0
y  h : u= U
これを解いて、
u( y)  U
y

h
2
dp y 
y
1  
2 dx h 
h
h
(7- 5)
上式の右辺第1項は、圧力勾配を考えない単純せん断によるもの、第2項は圧力勾
配によるものである。
無次元圧力勾配を
P 
2
 dp 


2U  dx 
h
とすると、
P  0 (流れ方向に圧力が低下)の時、全ての y について u ( y )  0
P  0 (流れ方向に圧力が増加)の時、一部の y について u ( y )  0
U
1 .0
y/h
0.8
P = -3
-2
-1
0
1
2
3
0.6
h
逆
0.4
流
域 0.2
-0 .4
0
0.4
0.8
1 .2
u/U
図 7- 1 Couette 流の流速分布
流体力学(2006) 54
P  0 の場合、静止平板付近で逆流が生じる。
流体力学(2006) 55
7-3
管内流
(Hagen-Poiseuille 流)
次ページ図に示すような、無限に長い真直ぐな円管内の定常流について考える。こ
の流れは軸対称な一方向流れであり、
v r v  0
また、
 / t  0
/z  0
であるから、円筒座標系表示のナビエ・ストークス方程式(5-4)の z 成分
v z v  v z
v z 
 v z

v r

v z

r
r 
z 
 t
 Fz 
1  2v z  2v z 
  2v z 1  v z
 




2
z
r r
r 2  2
z 2 
 r
p
より、
 d 2v z 1 d v z  d p



2
r dr  dz
 dr
(7- 6)
 d dv z 1 dv z  dp



r dr  dz
 dr dr
1 d  dv z  1 dp
r

r dr  dr   dz
(7-6)’
境界条件は、
r a : v
z
0
r 0 : v
z
Um
a
x
式(7-6)’を境界条件に基づいて解くと、
vz 
1 dp
4 d z
vz  
r 2  A l o rg B
1 dp
4 dz
a 2
 r2
ここで、 a  d / 2 (半径)である。
( A, B :積分定数)
(7- 7)
流体力学(2006) 56
r
U 0
z
p  z  0
図 7- 2
ポアズイユ流
流体力学(2006) 57
7-4 ハーゲン・ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)の法則
式(7-7)から流量 Q は、
Q 

a
0
2  r v z ( r ) dr  2  
 2

1 d p

4 d z
a
a
0
 1 d p 2

r  
( a  r 2 )  dr
 4 d z

( a 2 r  r 3 ) dr   2 
0
a
a
1 d p  2  r 2 
 r 4  
a



4  d z   2  0  4  0 
(7- 8)
dp a 4

d z 8
上式は、
(流量)∝(圧力勾配)・(管の半径)4/(粘性係数)
の関係を示す。この関係が成立するのは、Re<2300 となる層流状態においてのみで
ある。式(7-8)の成立する流れを、ハーゲン・ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)流と呼
ぶ。
ポアズイユ流の平均流速 U 0 は、流量 Q (式(7-8))を断面積で割ることにより得られ、
2
U0  
dp a

dz 8
(7- 9)
管中心の最大流速 U m ax は、式(7-7)において r  0 として得られる。
2
Um
dp a
 

 2U 0
a x
dz 4
(7- 10)
<ポアズイユ流の抵抗係数>
管壁による摩擦抵抗と平均流速の関係を無次元の抵抗係数 f を用いて表わすと、

dp

dz
f 
d 2
U0
2
(7- 11)
上式と式(7-9)から、
f 
64
Re
(7- 12)
上式の f とレイノルズ数 R e の関係を次ページ図に示す。
レイノルズ数が増加すると、粘性の影響が小さくなるために摩擦係数は小さくなる。
流体力学(2006) 58
図 7- 3
円管の摩擦係数(層流)
流体力学(2006) 60
8 運動方程式の厳密解 ②
8-1 レイリー問題 (Rayleigh’s problem)
次ページに示すように、無限に長い平板が瞬間的に一定速度 U 0 で、その面の方向に
運動し出す場合の流れを考える。この問題はレイリー問題(Rayleigh’s problem)と呼
ばれる。
平板の面に沿って x 軸、これと直角に y 軸をとると、この流れは
v w0
u / z  0
p / x  0
また、連続の式 div u  0 より、
u
x

v
y

w
z
0
u / x  0
であるので、式(5-3)に示すナビエ・ストークス方程式は、
2
2
2
   u  u  u
 Fx 

 


2
2
2 
Dt
 x 3  x
  x
y
z 
1 p
Du
u
t
1  
 u
2
 
y
(8- 1)
2
となる。境界条件は、
t  0 : u  0
( y  0)
t  0 : u  U 0 ( y  0)
u  0
( y  )
ここで、新しい独立変数として、次に示す  を導入する。

y
2 t
(8- 2)
また、流速 u を次の様に仮定する。
u ( y , t )  U 0 f ( )
(62 ページにつづく)
(8- 3)
流体力学(2006) 61
y
p= const
U0
図 8- 1
x
非定常平行流
流体力学(2006) 62
(60 ページからのつづき)
これより、
u
 u

t

t 
  y 

  U 0 f '
t  2 t 
y

 2u
y

2
4t  t
1
4t
(8- 4)
U0 f'
(8- 5)
U 0 f ''
式(8-5)を式(8-1)に代入して、
u
t

 u
2
 
y
y
U 0 f ' 
4t  t
f ' '
(8- 6)
2
y
1
4t
U 0 f ''
f ' 0
t
(8- 7)
f ' ' 2  f '  0
境界条件は、
f  1 (   0 ),
f  0 (  )
式(8-7)を解いて
u  U 0 (1  e r )f
(8- 8)
ここで、
e rf 
2



e

2
d  :誤差関数
(8- 9)
0
式(8-8)より得られる速度分布 u / U 0 を図 8-2 に示す。
レイリー問題の結果は粘性の作用を理解するには極めて重要である。図 8-3 からわ
かるように、板の運動の影響は時間 t とともに徐々に遠方に伝えられ、しかも流速
分布は相似形である。粘性の影響が遠方に及ぶ範囲を表す目安として、流速 u が壁
面速度 U 0 の約 0.5%( u / U 0 <0.0047)に落ちる高さを  とすると、式(8-8),(8-9)より、
erf  =0.9953,  =2 となり、これより、
  4 t
(8- 10)
壁面の運動の記憶は粘性によって  / t  4  / t の速さで遠方に伝えられる。この性質
は熱伝導と相似である。
流体力学(2006) 63
図 8- 2
レイリー問題の相似流速分布
y
δ
t : 増加
4
δ
3
δ
2
δ
1
u
図 8- 3
レイリー問題の流れ
流体力学(2006) 64
8-2 振動平板による流れ
図 8-1 において平板が振動する場合のナビエ・ストークス方程式も、式(8-1)
u
t
 u
2
 
y
2
となり、境界条件は次式で与えられる。
u  U 0 cos  t
( y  0)
u 0
(y  )
(8- 11)
その解は、
u( y, t )  U 0e

c o s t (  )
  y  / 2
(8- 12)
次ページに示すように、壁の運動の影響は y  / 2  の位相遅れを生じ、対数的に減
衰しながら遠方に伝達される。
↓
粘性の作用:壁面のメモリー効果
流体力学(2006) 65
2 


6
ω t
y
5
0
①
4 ②
③
3 ④
2
③
①
1
②
- 0 .8
0
π /2
π
3 π /2
2π
0
- 0.4
0
0 .4
u/U 0
図 8- 4
振動平板の流速分布
④
0.8
流体力学(2006) 66
7 遅い流れの線形近似
Re
<<1 となるようなおそい流れでは、粘性項に対して非線形慣性項を無視できる。
この様なおそい流れをクリーピング流(creeping motion)、または、変形流(deformation
flow)とよぶ。
7-1 ストークス近似
Re <<1 の時、非線形慣性項(対流項)は無視でき、ナビエ・ストークス方程式と連続
の式は、
v
t

1
grad p  v  2v
(7- 1)
p
d i vv  0
(7- 2)
または、
u
t
v
t
 
1 p
  2u  2u  2u
 v 


2
 x
y 2
z 2
 x



 
  2v
 2v
 2v
 v 


2
 y
y 2
z 2
 x



1 p
  2w  2w  2w
 v 


2
t
 z
y 2
z 2
 x
u v
w


0
x  y
z
w
 
1 p
(7- 3)



(7- 4)
上式の様な線形近似を、ストークス近似(Stokes’ approximation)という。
式(7-1)の両辺の div をとり、左辺で div と  2 の演算の順序を逆にして、式(7-2)に
注意すると、
d i v ( gp )r a d2 p  0
(7- 5)
ラプラシアン
おそい流れでは、圧力場は上式の様にポテンシャル場になる。また、式(7-1)の rot
をとると、

t
 v 2 
(7- 6)
ここで、   rot v (渦度)である。
上式は渦度の拡散方程式であり、粘性によって渦度が拡散することを意味している。
流体力学(2006) 67
7-2 一様流中の球に働く力
一様流中 U 0 の流れの中に置かれた半径 a の球まわりの流れは、式(7-1),(7-2)を
解いた次式で表される。
u U0 
1 aU
4
0
r
3

a2 

3  2 
r 

aU
0
4
v  
3
aU
4
w  
3
4
p  p 
xy 
a2 
1


r3 
r2 
0
aU
0
3
x2 
a2 
1


r3 
r2 
(7- 7)
xz 
a2 
1



r3 
r2 
 aU
2
x
0
r3
r2  x2  y2  z2
流れ方向を x とした円筒座標系では、上式は次式で表される。

3 a

2 r
v r  U 0 c o s 1 
v

1 a3 

2 r3 
(7- 8)
3 a 1 a3 

  U 0 s i n 1 


4 r
4 r3 

式(7-7),(7-8)から U 0 を差し引いた流速分布と、流線を図7-1 に示す。球の前後で
流れは対称になる。
圧力場(図7-2)は球の前後で逆対称であり、圧力は次式の様になる。
p |r a  p  
pm
a rx a
|
pm
i rn  a
|
3 U 0
2
 p 
 p 
c o s
a
3 U 0
2
(7- 9)
a
3 U 0
2
a
表面に働く摩擦応力は、
 r
ra
v  
 1 v r
 


r 
 r 
(70 ページにつづく)

ra
3 U 0
2
a
s i n
(7- 10)
流体力学(2006) 68
図7- 1
球のまわりの流れ
A
y
U0
D = 2a P 2
P1
x
1.5
1.0
p - p∞
μ ×U0 a
1
-3
-2
-1
2
x
a
-0.5
-1 .0
-1.5
図7- 2
3
球の中心軸上の圧力分布
流体力学(2006) 69
(68 ページからのつづき)
式(7-7),(7-10)より、球に働く抗力 D は、
DS 


0
 r  s i n d S 


p c o sd S
0
 4 a  U 0  2 a  U 0
(7- 11)
 6 a  U 0
ここで、
d S  2  a 2 s i nd 
式(7-11)の関係をストークスの抵抗法則(Stokes’ law of resistance)という。
これを抵抗係数 C D を用いて表すと、
D S  C D A
CD 
24
Re
,
U0
2
2

24
 a
Re
2 aU

 Re 
v

2
U0
2
0

 1

2
(7- 12)
(7- 13)
ストークス近似は Re <<1 の時に成立する。従って、おそい流れであっても、代表長
さが大きくなれば Re も大きくなり、慣性項が無視できなくなるために、正しい解が
得られない。<例>2次元円柱周りの流れ
↓
ストークスの背理(Stokes’ paradox)
流体力学(2006) 70
7-3 オセーン近似
オセーン近似(Oseen’s approximation)は、慣性項を省略しないで線形化を試みたも
のである。
u  U 0  u ' ( x, y, z, t )
v  v ' ( x, y, z, t )
(7- 14)
w  w' ( x, y, z, t )
とおくと、ナビエ・ストークス方程式(5-3)の対流項は、
u
r 
u
x
v
u
y
w
u
z
U0
u '
x
 u'
u '
x
 v'
x 2  y 2  z 2 が大きいところでは、U 0
u '
y
u '
x
 w'
u '
z
(7- 15)
以外は二次の微小量として無視できる。
r が小さいところでは慣性項自体が無視でき、ナビエ・ストークス方程式(5-3)は次
の様に線形化できる。
v
t
U0
v
x
 
1

g r ap d v  2v
(7- 16)
上式をオセーン近似という。
この時、抵抗係数は、
CD 
24 
3 
1 

Re 
16 Re 
(7- 17)
図7-3 における実験曲線とオセーン近似が一致するには、 Re =2 程度であるが、図
7-4 に示すように、ストークス近似(図7-1)と異なり、球の周りの流線は前後で非
対称となる。
また、円柱周りの2次元流れにおけるストークスの背理が解消できる。
流体力学(2006) 71
図7- 3
球の抵抗係数
流線
流線
図7- 4 オセーン近似による静止流体
中を運動する球の周りの流れ