16 頚部側方振動刺激が起立動作時の足圧中心位置に及ぼす影響

第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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頚部側方振動刺激が起立動作時の足圧中心位置に及ぼす影響
奥野 浩司郎(おくの こうじろう)1,2,3,4),松木 明好2),森 信彦3),上江田 勇介4),錦見 俊雄1)
わかくさ竜間リハビリテーション病院 療法部1),四條畷学園大学 リハビリテーション学部2),
山本病院 リハビリテーション科3),近畿中央胸部疾患センター リハビリテーション科4)
キーワード
振動刺激,身体傾斜,足圧中心
【目的】
直立位のヒトの第 7 頸椎周辺筋への振動刺激により,後方への身体傾斜の錯覚,前方への身体傾斜,およびそ
れに伴う足圧中心
(Center of presser:COP)
の変位が生じる
(Lekhel et al. 1997).さらに,座位での同刺激直後,
起立動作時の前方への重心移動が増大する
(越智ら 2006).つまり,頚部への振動刺激後に残存する身体変位錯覚
によって,振動刺激直後の動作の身体重心を誘導することが可能である.しかし,この頸部振動刺激による After
effect が起立時の側方重心移動の誘導に有効かは不明である.そこで,頸部後側方振動刺激が,その直後の起立時
の側方重心移動を誘導するかを検証することを目的に実験を行った.
【方法】
健常成人 10 名を対象とした.閉眼で両上肢を胸の前で組ませ,股関節・膝関節が 90 度になる高さの椅子に座
らせ,重心動揺計の上に両足部を揃えて置かせた.起立の合図に従って起立動作を行わせ,その際の COP 位置を
記録した
(振動無条件)
.次に,同様の座位姿勢で頸部右後側方から 60Hz の振動刺激を 60 秒加え,振動終了直後
に起立動作を行わせ COP 位置を記録した(振動有条件)
.左側及び後方への COP 偏移を正の値で表現したときの
起立時の左右方向,および前後方向の COP 位置の平均値を振動有無条件間で比較した
(t 検定,有意水準は 5%).
また,各条件における身体傾斜感覚の有無,および身体傾斜側について内省報告させ,身体傾斜感覚の出現確率
を条件間で比較した(比率検定,有意水準は 5%)
.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,四條畷学園大学倫
理委員会の承認および,参加者の同意を得て行った.
【結果】
振動無条件の起立動作時の左右方向 COP(0.31cm)より振動有条件(0.66cm)の方が有意に振動刺激の反対側
(左側)に偏移していた(p<0.05)
.他方,前後方向の COP 平均値(振動無条件が 2.1cm,振動有条件が 2.2cm)に
は有意な差は認められなかった
(p>0.05)
. 振動刺激前の起立動作時の身体傾斜感覚の出現率は 0% であったが,
振動刺激後の振動刺激側と同方向への身体傾斜感覚出現確率は約 70% と有意に高かった(P<0.05).
【考察】
座位での頸部側方の振動刺激によって,起立動作時の COP は振動刺激と反対側へ有意に偏移することが示さ
れた.このことは,頸部側方振動刺激によって,その後の起立動作時の側方重心移動の誘導が可能である可能性
を示唆する.また,振動刺激側と同方向への身体傾斜感覚があったことから,この重心偏移は振動刺激による身
体傾斜錯覚の補正反応によるものと考えられた.この頸部振動刺激は,口頭指示や視覚フィードバックなどを手
がかりに,自己にて身体重心位置を調整できない症例の起立練習をより効果的にする可能性がある.
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第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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坂道歩行の特性―加速度による動作の測定と臨床活用―
中島 基公(なかじま もとあき)
武田総合病院 リハビリセンター
キーワード
加速度,iPhone,坂道歩行
【目的】
右腓骨骨折術後の症例を経験した.術後 3 週程度で関節可動域は概ね左右対称となり,歩行時の訴えや歩容は
改善したが,坂道を下る際の歩きにくさを継続して訴えていた.
今回,平地歩行と比較して坂道歩行の特性を検証した上で,症例の坂道歩行と比較し,動作の問題点を検討す
ることを目的とした.
【方法】
症例は 50 歳代男性.対象の健常者は 6 名(平均年齢 26.2±2.4 歳)とした.計測機器として,iPhone5S を使用
し,各対象者の第 3 腰椎後面に固定した.サンプリング周波数は 100Hz とし,上下軸,前後軸を測定した.平地
歩行・坂道歩行の計測は 10m 程度とし, 4 歩目以降の測定値からランダムに 3 歩を選択しその平均を採用した.
測定値はローパスフィルターをかけ平滑化した.対象とした値は各軸の最大ピーク値,最小ピーク値とした.
第一に,健常者内で平地歩行と坂道歩行で加速度を測定し,動作特性を比較した.群内比較にはウィルコクソ
ンの順位和検定を行った.次に,上記で得られた坂道歩行の特性を症例の坂道歩行の加速度と比較した.
【結果】
健常者内で平地歩行と坂道歩行を比較した結果から,坂道歩行では上下軸の最大・最小ピーク値,前後軸の最
小ピーク値が有意に増加した
(p<0.05)
.症例との坂道歩行の比較からは,上下軸では最大ピーク値が減少してお
り,前後軸でも最小ピーク値が著明に減少している傾向があった.
【考察】
健常者の平地歩行と坂道歩行を比較した結果から各値で有意な差が見られた.上下軸の最大ピーク値は荷重応
答期から立脚中期で見られ,最小ピーク値は立脚終期で見られた.前後軸の最小ピーク値は初期接地から荷重応
答期に見られた.これらのことから,坂道歩行の特性として平地歩行と比べて,より下方への衝撃吸収機能や前
方へ推進しながら減速する機能が必要になると推察できる.
次に,症例と比較すると,症例の上下軸の最大ピーク値,前後軸での最小ピーク値が減少していた.値から,
上下軸では荷重応答期から立脚中期に下方にかかる衝撃が小さいようであった.また,前後軸でも初期接地後の
減速が小さいようであった.これらのことから,衝撃吸収の機能を抑制し,衝撃吸収の準備としての機能を亢進
させている可能性があると考える.そのため,介入としては衝撃吸収に関する機能を賦活化した.その結果から,
訴えの軽減や数値の改善を図ることができた.今回の測定や介入の結果から,症例の坂道歩行における歩きにく
さの機能的な問題点は,衝撃吸収の準備として筋の遠心性収縮を過剰に使用していたことと考える.
動作に関して,臨床で問題点を数値化できたことは大変有意義であったと考える.今後も臨床の中で各患者様
のより良い転機に向けて取り組んでいきたい.
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第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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足関節の自動介助運動が立位姿勢制御に与える影響―単一課題と二重課題で
の自動介助運動の比較―
杉本 圭(すぎもと けい)1),松尾 浩希1),中根 征也2),川原 勲1)
阪奈中央病院 リハビリテーション科1),森ノ宮医療大学 保健医療学部 理学療法学科2)
キーワード
関節可動域運動,立位姿勢制御,意識
【目的】
障がいを有する患者が姿勢や動作を再獲得しようとする理学療法場面では,自らの身体や動作状況を意識する
ことを多く見受ける.しかし,姿勢や動作を意識することに関する先行研究では,動作実行中に身体を意識する
ことは,必ずしもパフォーマンスの向上に寄与しないことが指摘されている.
理学療法の治療場面では,姿勢や動作の改善を目標とし,その原因の一つとされる関節可動域運動を行うこと
が多い.その際に治療対象となる関節の動きに意識を向けさせながら関節可動域運動を行うことがある.関節の
動きを意識させる介入運動と,関節の動きを意識させないようにして介入運動を行う場合とで,対象関節部位が
関係する姿勢や動作にどのような影響の違いが出るかという疑問があった.
本研究の目的は,関節可動域運動について,関節の動きを意識して運動した場合と,関節の動きを意識させな
いようにして運動した場合で,対象関節部位が関係する立位姿勢制御にどのように影響するのか比較検討し,前
述した疑問を明らかにすることである.
【方法】
対象者は健常成人男性 13 名で平均年齢は 23.2±3.4 歳である.対象者 13 名に対して,以下の 3 種類の介入を実
施した.
足関節の自動介助運動を関節の動きを意識させながら実施した単一課題群,足関節の自動介助運動を認知課題
となるストループ課題をさせながら行うことで関節の動きを意識させ難い状態で実施した二重課題群,運動介入
をしないコントロール群である.介入効果の検証のため,第 1 実験として,各群の介入運動の前後で,立位での
姿勢制御課題として,開眼での静止立位の重心動揺測定を実施し,第 2 実験として,各群の介入運動の前後で足
関節背屈の関節可動域測定を実施し,比較検討した.
【結果】
第 1 実験において,総軌跡長,単位軌跡長,単位面積軌跡長,外周面積,実効値面積のすべての項目において,
介入前後の変化量の 3 群間の比較では有意差は認められなかった.各群内の介入前後の比較では,総軌跡長のコ
ントロール群及び二重課題群で有意な減少,単位面積軌跡長では単一課題群で有意な増加,外周面積の単一課題
群で有意な減少,実効値面積の単一課題群で有意な減少を認めた(p<0.05)
.
第 2 実験において, 足関節の背屈可動域は単一課題群において, 運動介入後に有意な増加を認めた(p<0.05)
.
【考察】
単一課題群の意識をさせた自動介助運動が,第 2 実験の結果から足関節そのものの機能向上に関与していると
考えられた.また,第 1 実験の結果から単位面積軌跡長が増大し,外周面積,実効値面積が減少していたことか
ら,足圧中心が小さな範囲を細かく連続的に動いていると考えられ,微細な姿勢調節が可能となったことに関与
していると考えられた.姿勢や動作の改善を目的とした,関節可動域運動時に自己身体や動きを意識させること
は,効果的な治療手段の一つになり得ることが示唆された.
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第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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座位での股関節内旋・外旋位保持課題が大殿筋上部線維,中殿筋前部線維,大
腿筋膜張筋の筋電図積分値に及ぼす影響
伊藤 陸(いとう りく)1,2,3),早田 荘1,2),池田 幸司3),藤本 将志1),大沼 俊博1,2),渡邊 裕文1),
鈴木 俊明2)
六地蔵総合病院 リハビリテーション科1),関西医療大学大学院 保健医療学研究科2),
鉢嶺医院 リハビリテーション科3)
キーワード
大殿筋,筋電図,股関節
【目的】
大殿筋は股関節伸展・外旋運動の主動作筋である.Delp によると股関節屈曲 90 度位において大殿筋上部線維
は,股関節内旋に作用すると報告している.しかし股関節屈曲 90 度位となる端坐位において大殿筋上部線維が股
関節内旋に作用することを検討した筋電図学的報告はない.そこで端座位における股関節内旋・外旋角度を変化
させ,その肢位を保持させた際の大殿筋上部線維の筋活動について股関節内旋作用を有する中殿筋前部線維,大
腿筋膜張筋とあわせて表面筋電図を用いて検討した.
【方法】
対象は整形外科学・神経学的に問題のない健常男性 10 名(平均年齢は 23.1±2.3 歳)の両下肢 20 肢とした.開
始肢位は股関節屈曲 90 度位の端座位とし,テレメトリー筋電計 MQ8(キッセイコムテック社製)を用いて大殿筋
上部線維,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋の筋電図を双極導出法にて 5 秒間,3 回測定した.そして股関節内旋お
よび外旋位保持を 10,20,30 度位と変化させ,同様に筋電図を測定した.なお各課題時における各筋の筋電図積
分値を求め 3 回の平均値を個々のデータとした.そして開始肢位を基準値として各筋の筋電図積分値相対値(以
下,相対値)を算出し,股関節内旋および外旋角度変化が各筋の相対値に及ぼす影響について検討した.統計処
理は正規性を認めないデータ群があったことから,フリードマン検定の結果に基づいて Scheffe s F test を用いて
多重比較検定をおこない,有意水準は 5% とした.
【結果】
中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋の相対値は股関節内旋角度の増大にともない漸増傾向を示し,股関節内旋 10
度位と比較して 30 度位で有意に増大した(p<0.05)
.大殿筋上部線維の相対値は股関節内旋 10,20 度位と比較し
て 30 度位で有意に増大した(p<0.05)
.また股関節外旋位保持においてはいずれも各筋ともに有意な変化を認め
なかった.
【考察】
股関節内旋位保持では股関節内旋角度の増大にともない股関節が外旋しようとする働きが増大すると考えられ
る.このとき股関節内旋の主動作筋である中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋が,この働きに対して股関節内旋作用
にて筋活動の増加を認めたと考える.
股関節屈曲 90 度位では股関節内旋・外旋の運動軸が前額面に対して垂直になる.大殿筋上部線維の筋線維は端
座位にて後方から観察すると,股関節内旋・外旋の運動軸より上方に位置する腸骨稜から大転子にかけて内側か
ら外側へ横切って走行するため,股関節内旋に作用すると考えられる.今回の課題においても大殿筋上部線維は
股関節内旋角度を増大させた際に腸骨稜に対して大転子を引きつけ,保持することで股関節内旋作用として補助
的に活動したと考える.
また股関節屈曲 90 度位にて股関節外旋角度が増大する際,大転子は下方へ向き,腸骨稜との距離が長くなる.
このとき大殿筋上部線維は伸張位となるため,肢位保持を妨げないよう筋活動を一定に保つことで股関節外旋位
保持には関与しなかったと考える.
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第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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骨盤臓器脱に対する骨盤底筋機能と ADL 改善への関わり∼COPM と SF36
v2TM を用い,個別性を重視し QOL 改善を目指した 1 症例∼
春本 千保子(はるもと ちほこ),森 憲一
大阪回生病院
キーワード
骨盤臓器脱,骨盤底筋,QOL
【目的】
骨盤臓器脱の障害程度や症状は多様である.しかし,本疾患におけるわが国の外来治療では,ペッサリー挿入
や Kegel 体操資料配布・指導に終わり, 患者個別の評価に基づく非侵襲的治療が展開される事は少ない. 今回,
骨盤底筋群の機能障害のみではなく,骨盤臓器脱に特有の姿勢や ADL(Activities of daily living,以下 ADL)が
及ぼす影響に着目し治療展開した.一定の効果と QOL(Quality of life,以下 QOL)向上を得たので報告する.
【症例紹介】
60 代後半女性.他院にて L3∼L5 腰椎すべり症に対する固定術・左膝人工全置換術の既往があり,
左膝屈曲 100̊
の制限を呈していた.X 年 Y 月,臓器下垂症状にて当院婦人科受診.骨盤臓器脱(子宮脱)と診断され,週 2
回 1 回 2 単位の外来理学療法開始となる.
【経過】
婦人科医師と連携し,骨盤底筋群機能を評価.医師による視診・内診に理学療法士が同席し収縮力低下を確認.
又,超音波(TOSHIBA NEMIO 10)を使用し膀胱底拳上率から骨盤底筋機能を評価.初期評価時,立位での骨盤
底筋収縮では膀胱底拳上が不可能であった.立位姿勢評価では胸椎屈曲位・肩甲骨軽度外転拳上位,軽度骨盤前
傾・膝屈曲位.歩行時にはより顕著となった.更に,本人が必要とするパフォーマンス特性を聴取する目的でカ
ナダ式作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure:以下,COPM)を使用し治療戦略を立案.
重要度の高い順に,重要度・遂行度・満足度で記載.①子宮下垂の違和感消失(10・1・1).②物を持ち上げる動
作で臓器下垂の不安消失・自分で買い物に行ける(8・1・1)③床から楽に立ち上がれる(8・2・2)であった.
QOL は MOS36 Item Short Form Health Survey(以下,SF36v2TM)を使用.下位尺度得点,PF45・RP25・BP
22・GH5・VT12.5・SF37.5・RE25・MH15 と顕著な QOL 低下を認めた.
日常生活の中で腹圧上昇と共に骨盤底筋群が協調して働ける事を目標とした.既存疾患とその代償戦略により
構築された姿勢や歩行等の動作の改善を目指し治療を展開.
6 ヵ月経過後,立位姿勢や歩容の改善と共に,医師の内診評価にて膣括約筋収縮は正常化.超音波にて立位でも
骨盤底拳上が確認.更に動作遂行に努力を要していた動作の改善,COPM にて遂行度平均 1.3→6.6,満足度平均
1.3→6.6 と,全項目にて有効改善指数 2 点以上の上昇が得られた.SF36 v2TM でも PF70・RP63・BP41・GH47・
VT50・SF63・RE67・MH50 と全ての項目で向上した.
!
!
!
【考察】
骨盤臓器脱下垂症状は,腹圧上昇が伴う動作場面で骨盤底筋群の無意識的収縮が制御されず臓器脱症状が発生
すると考える.従って本疾患の治療の実際においては,同筋の意識的収縮の有無だけに終わらず理学療法介入に
より,
無意識的収縮を要求できる姿勢制御や努力的な動作パターンの改善を行う事が必要不可欠であると考えた.
多様性のある本疾患に対し,個別性を重視した理学療法が QOL 向上の一助になると推察する.
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第 3 セッション
基礎(一般演題)
一般口述
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神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:NMES)による呼吸
循環動態への影響
柿本 優生(かきもと ゆうき)1),岡 賢佑2),中村 大樹3),松山 陽祐4),庄本 康治5)
大手前病院 臨床療法室1),貴志川リハビリテーション病院 リハビリテーション部2),
平成記念病院 リハビリテーション科3),
登美ケ丘リハビリテーション病院 リハビリテーション部4),畿央大学 健康科学部 理学療法学科5)
キーワード
NMES,循環動態,呼気ガス
【目的】
健常人下肢筋に対する神経筋電気刺激(NMES)が呼吸循環動態に与える影響を明らかにすること.
【方法】
対象は,本研究に理解と同意を得られた健常大学生 16 名(男女各 8 名,20±2 歳)とし,十分な筋収縮を引き
起こせなかった人,本研究に理解と同意の得られなかった人を除外した.使用した電気刺激装置は Auto TENS
PRO(ホーマーイオン社製)で,波形は指数関数的漸増波,周波数は 3∼4Hz,刺激時間は 11 分 30 秒,刺激強度
は疼痛が発生しない最大強度,パルス持続時間は 260μsec,duty cycle は 1sec on,off とし,刺激部位は大腿神経,
脛骨神経,前脛骨筋,腓腹筋のモーターポイントとした.また,連続血圧・血行動態測定ポータブルシステム
(PORTAPRES,FMS 社),肺負荷モニタリングシステム(AE 100i,ミナト医科学株式会社)を使用し,収縮期・拡張
期血圧(SBP,DBP),一回心拍出量(SV),心拍数(HR)
,呼吸商(R)を測定した.
室温を 24 度に保ち,全ての電極,測定装置を装着後,対象を両股・膝関節屈曲 45 度の背臥位にして 20 分間の
安静後に NMES を開始した.本研究に先立ち,1 週間に 3 回,合計 15 分間 NMES,全ての測定を予備的に実施し
て順応させた.電気刺激部位による呼吸循環動態への影響を測定するために,両下腿刺激,両大腿刺激,両下腿
+大腿刺激の 3 条件で NMES を実施した.機器装着 20 分間安静後の 5 分の安静時(測定①),NMES 実施時(測
定②)
,NMES 終了 5 分後の安静時(測定③)を測定時期とした.Bartlett 検定で等分散性を確認し,測定時期,
刺激部位を 2 要因とした反復測定の分散分析を実施した.多重比較検定には Scheffe 検定を使用し,有意水準を
5% とした.
!
【結果】
SBP,DBP,SV は測定時期による有意差があったが(p<0.01),刺激部位による有意差はなかった.測定②で
有意に血圧は上昇し,測定③でも低下せず維持された.HR は測定時期による有意差があったが(p<0.01)
,刺激
部位による有意差はなかった.HR は,測定②で有意に上昇し,測定③では有意に低下してベースラインまで戻っ
た.R は測定時期による有意差が認められ,測定②で有意に上昇した(p<0.01)
.測定③では下腿刺激,下肢刺激
で有意に低下したが,大腿刺激では有意差がなかった.
【考察】
測定②で血圧,SV,HR が有意に上昇したのは筋ポンプ作用が促進され,前負荷が増加した影響と考えられる.
測定③で HR は有意に低下したが,血圧,SV は有意に低下しなかったのは,HR は交感神経活動が抑制された影
響と考えられる.血圧,SV については下肢ポンピング作用の低下により前負荷が減少するが,心筋収縮力を維持
した結果と考えられる.3 パターン刺激で同様の結果が得られたのは,電流強度を疼痛が発生しない最大強度とし
た為と考えられる.測定②に R が各パターン共に有意に上昇し 0.94 付近の値になったのは,NMES による筋収縮
を引き起こす際に TypeII 繊維がより活動した事が考えられる.
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