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Title
水系コロイドプロセスによる炭化ケイ素の成形と焼成に関
する研究( 本文(Fulltext) )
Author(s)
尾畑, 成造
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第281号
Issue Date
2006-03-25
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/2978
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
水系コロイドプロセスによる炭化ケイ素の
成形と焼成に関する研究・
●
●
StudiesonShaplngandSintenngofSiliconCatbide
viaAqueousCo1loidalProcessing
学位論文:博土は学)甲ンg
2006
尾
畑
成
造
目
第1章
次
緒言
1.1
はじめに
1
1.2
SiCの結晶構造
2
1.3
SiCの合成方法
2
1.4
SiCの焼結
4
1.5
SiC製造プロセス
6
1.6
水系溶媒中での粒子の分散・凝集
9
1.7
スラリーの流動性評価
14
1.8
SiC焼成用のスラリー
16
1.9
本研究の目的
17
参考文献
20
第2章
実験
2.1
はじめに
25
2.2
実験方法
26
26
2.2.1
使用原料及び試薬
2.2.2
スラリー調製
2.2.3
成形及び焼成
27
2.2.4
評価方法
29
分散性の評価
29
2.3.1
沈降試験
29
2.3.2
ゼータ電位測定
31
2.3
2.4
流動性の評価
27
34
2.4.1
流動点・湿潤点の測定
34
2.4.2
レオロジー測定
35
参考文献
38
第3幸水系SiC-C-B.C混合スラリーの分散・流動性に対する分散剤の影響
3.1
はじめに
41
3.2
実験方法
43
3.2.1
使用原料及び試薬
43
3.2.2
鋳込み成形及び成形体の焼成
43
3.2.3
評価方法
44
結果及び考察
44
3.3
3.3.1
SiCスラリーの分散・流動性に対する分散剤の影響
44
3.3.2
カーボンスラリーの流動性に対する分散剤の影響
49
3.3.3
SiC-C混合スラリーの流動性に対する分散剤の影響
52
3.3.4
SiC-C-B4C混合スラリーの調製
54
3.3.5
SiC-C-B4C系焼結体
55
3.4
結論
60
参考文献
61
第4章カーボンスラリーの分散■流動性に対する種々分散剤の影響
4.1
はじめに
63
4.2
実験方法
64
4.2.1
使用原料及び試薬
64
4.2.2
スラリー調製
64
4.2.3
スラリーの評価
65
4.3
結果及び考察
66
4.3.1
水系溶媒中のカーボン粉末の特性
66
4.3.2
各種分散剤の添加効果
68
4.3.3
pHが各種分散剤を含むスラリーの分散・流動性に与える影響
72
4.4
結論
参考文献
ii
第5章遊離カーボンを多く含有するSiC原料を用いた製造プロセスの検討
5.1
はじめに
77
5.2
実験方法
78
5.2.1
使用原料及び試薬
78
5.2.2
鋳込み成形及び成形体の焼成
78
5.2.3
評価方法
79
結果及び考察
80
5.3
5.3.1
加熱処理したSiC粉末を使用したスラリーの分散・流動性
80
5.3.2
遊離カーボンがSiC-C-B4Cスラリーの流動性に及ぼす影響
84
5.3.3
SiCの焼結に対するカーボン量の影響
86
5.4
結論
91
参考文献
92
第6章窒化ホウ素を用いた水系SiCスラリーによるその場成形
6.1
はじめに
93
6.2
実験方法
94
6.2.1
使用原料及び試薬
94
6.2.2
成形及び成形体の焼成
94
6.2.3
評価方法
95
結果及び考察
96
6.3
6.3.1
SiC-C-B4Cスラリーの濃厚化
96
6.3.2
SiC-C-B4Cスラリーの固化挙動
98
6.3.3
DCC法から得た成形体、焼成体
6.4
第7章
103
結論
107
参考文献
108
総括
原著論文リスト
参考論文リスト
iii
第1章緒言
1.1はじめに
炭化ケイ素(SiC)セラミックスは物理的、化学的に安定であり高強度、高
硬度(モース硬度9.5以上)で、耐熱性、耐食性を有するなど優れた性質の材
料である。さらに高い熱伝導率を示し、熱膨張係数が低く、耐熱衝撃性に優
れており軽量であることから様々な用途が期待される優れた高温構造材料
である1)。このため金属や超硬合金、酸化物セラミックスを使用できないよ
り過酷な環境下で使用可能なセラミックスとして注目されている。特に高温
でも強度低下が起こらず、耐酸化性、酸、アルカリなどへの耐化学性が優れ
ていることから、窯炉焼成用部品(窯道具)、メカニカルシール、熱交換器伝
熱管、触媒担体などに利用され、最近はシリコン半導体の熱処理工程におけ
る支持部材などに用いられている2-4)。また、特殊用途として原子炉粒子燃
料用被覆材などがある。耐火物分野ではゴミ焼却炉の内張材として重要視さ
れている。電子材料分野では古くから発熱体として用いられている。半導体
分野ではバンドギャップが大きいことから300℃以上の温度で使用される
半導体や、宇宙などの放射線に耐えうる環境下で使用可能な半導体として期
待されている。このようにSiCは広い分野で応用されている材料である。
SiCは1891年E.G.Achesonがダイヤモンド合成実験中に偶然見出したと
言われている5)。発見当時は実験に使用したカーボン(Carbon,C)と粘土中に
含まれるアルミナ(Corundum,Al203)の化合物と考えられ、カーボランダム
(Carb。rundum)と名付けられた6)。SiCは天然には希にしか存在しないため
siC原料はすべて工業的に合成されており、この原料の量産方法を最初に開
発したのもAchesonである。このようにSiCは古くから工業的に生産された
材料であり、その性質から研磨、研削材として利用されてきた6,7)。しかし、
後述するように難焼結性物質であるため、構造材料としてはほとんど利用さ
れておらず、緻密なSiCの焼結体を得るために様々な研究がなされてきた7)。
構造材料としてSiC粉体から焼結させた初めての報告は、R・A・Alliegro
ら8)のホットプレスによる焼結であり、助剤の必要性を述べるとともにFe、
1
Al、Cr、Ca、Li、Ni、B、Al-Fe、Zr-Bなどの金属添加が焼結に有効である
と報告された。その後、1975年S.Prochazka9)が常圧焼結により緻密化し
たSiC焼結体を得ることに成功した。これは高純度の焼結用微粉末である
β-SiC微粉末に微量のホウ素(B)とカーボンを添加して焼結させるものであ
る。これにより常圧焼結で固相拡散による緻密化が可能となり、急速に広く
研究開発されるようになった。この時、高純度の焼結用粉末であるβ-SiCの
みであったが、その後、主にコークスとケイ石を電気抵抗炉で還元炭化する
Acheson法で合成されるα-SiClO)微粉末においても焼結可能となり、現在に
至るまで盛んに研究されている。
1.2
SiCの結晶構造
SiC結晶はシリコン(Si)とカーボン(C)からなる正四面体構造であり、この
構造の並び方で2H、3C、4H、6H、15Rなど(H:六方晶、C:立方晶、R:菱
面体晶)の多形が確認されており、各多形によって物性値が多少異なるほか、
結晶成長や変形に関与する11,12)。これら多形のうち3Cをβ-SiC、その他を
α-SiC(主に6H)と呼んでいる。その原子間の結合についてはPaulingの電気
陰性度からイオン結合性が約13%と計算されるように、典型的な共有結合
性化合物であり、ダイヤモンド、窒化ケイ素などと同様に難焼結性物質であ
る。β一SiCを焼結させる場合、2000℃以上で6H、15Rなどβ-SiC→α-SiCへ
と転移しやすく、焼成温度の設定を厳密に行う必要がある。α-SiC粉末から
得たα-SiC焼結体の微細構造は等軸的な粒子形状となるのに対して、β-SiC
粉末から得た焼結体は板状及び柱状に伸びた粒子となりアスペクト比が大
きくなることで、α型と比べてβ型の曲げ強度、破壊靭性がやや大きくなり、
β型がやや優れた機械的性質を示す13)。
1.3
SiCの合成方法
常圧焼結用SiC粉末の合成方法は(1)Acheson法10)、(2)シリカ還元炭化法14,
15)、(3)金属シリコン直接炭化法16)、(4)気相反応法17)、(5)熱分解法17)などが
知られている。製法(1)以外はすべてβ-SiC粉末の製法である。Acheson法は
2
Aches。nがコークスとケイ石(シリカ:SiO2)からSiCを安価に量産する方法
として開発したものであり、広く一般に使用されている電気抵抗炉法である
10)。Fig.1に炉の模式図を示す18)。一定の距離で相対する固定電極間にコー
クスとケイ石の混合原料を敷き詰め、電極間を黒鉛粉でつなぐ。更に混合原
料で覆った後、これに通電させ、黒鉛粉のコア部に発生するジュール熱で反
応させる。この時、炉内温度は2000∼2300℃となるように調節する。この
製造における化学反応は式(1)で示される。
式(1)からわかるように大量のCOガスが発生することから通気性をもたせ
SiO2+3C→SiC+2CO(g)
……(1)
ガスの排出を容易にさせている。また、この方法は合成温度が2200℃以上
となるため主に高温型であるα-SiCが合成される。合成されたSiCのインゴ
ットは粉砕され焼結用微粉末としてもちいられる。一方、β-SiCの合成は主
にシリカ還元炭化法が用いられる。Fig.2にシリカ還元炭化法の製造工程を
示す14,15)。これはシリカとカーボンの微粉末を均一に混合し、1500∼
1800℃で反応させる方法である。この時、式(2)、(3)に示されるように反応
SiO2+C→SiO(g)+CO(∂
……(2)
SiO+2C→SiC+CO(g)
……(3)
∋et
ヒure
ater
1C
ふ・▲・フ::▲こ・:
rOuS
Electrode
furnacebed
Fig・1・SchematicdiagramofAchesonfurnaceforproduction
ofα-SiCpowder.
trapplng
Fig・2・Schematic
diagram
ofβ-SiC
powder
synthesized
Carbothermalreductionofsilica.
過程でCOガス以外にSiOガスの飛散も起こるため、非酸化性雰囲気下で行
う。この方法はシリカとカーボンを直接炭化させる方法であるため合成時に
未反応の遊離シリカや遊離カーボンが残存する。残存する遊離シリカや遊離
カーボンは焼結過程に大きく影響する14,15,19)ためFig.2に示すように合成
後に大気中で加熱して脱炭処理し、HFを用いて残存シリカの洗浄を行う。
しかしながら工業的にSiCの酸化を抑えながら残存する遊離カーボンを取
り除くのは現在でも課題となっており、Tablelに示されるように市販され
るSiC微粉末には遊離カーボンや遊離シリカが不純物として残存する20)。
1.4
SiCの焼結
酸化物系の焼結助剤としては、創20321),22)、創203-Y20323),24)、
Al203-Y203-CaO25)、Y3Al5012(Yttrium
Aluminum
Garnet,YAG)26)、
Al203-AIN27)、BeO28)、Al203-Gd20329)などが、非酸化物系の焼結助剤とし
ては多くの金属8)のほかB-C系(Bとしてホウ素や炭化ホウ素)、山一C、
Al-B-C30)などが報告されている。
酸化物系焼結助剤を添加したSiCは添加された酸化物とSiC粒子表面に存
在するSiO2とが高温で反応して液相を形成する液相焼結である31,32)。原料
としてβ一SiCをもちいた場合の焼結挙動を例にすると、この液相を介して微
細なβ-SiCの溶解とα-SiC(6H、4H相)粒子の生成及び成長を伴った溶解一析
出機構によって緻密化及び粒成長が進行する21)。この時、β(3C)→α(4H)と
いった相転移が起こり、板状粒子を生成、成長させることで微細構造を制御
し、アスペクト比を大きくすることで破壊靭性を向上することができると報
4
by
Tablel.CharacteristicsofseveralcommercialSiCpowders
Productname(Crystal)
C(β)D(α)E(α)F(β)
A(α)B(β)
SiC
97
95
95
97
95
>99
Freecarbon
0.8
1.9
1.4
0.5
0.8
<0.3
SiO2
0.7
0.1
0.2
0.4
1.9
<0.2
0.02
0.02
Al
0.01
0.04
0.10
0.07
0.05
<0.03
Fe
0.04
0.02
0.04
0.02
0.08
<0.02
Tbtal
0.11
0.11
0.21
0.15
Meanparticlesize(pm)
0.4
0.6
0.6
0.6
0.6
0.4
15
15
16
10
14
15
FreeSilicon
Impurities
Speci丘csurfacearea(m2/g)
0.07
告されている。しかし、酸化物系焼結助剤を添加した場合、比較的低温(∼
2000℃)で緻密化が可能であるメリットがあるが、高温時に生成した掛目成
分や助剤が揮発しやすく、緻密なSiC焼結体を得ることは難しい。また、液
相焼結である酸化物系助剤を添加したSiCでは高温下での強度低下や耐酸
化性の低下が起こるといった問題も報告されている13)。
一方、B-C系に代表される非酸化物添加によるSiC粉末の焼結では酸化物
系焼結助剤よりも高温(∼2200℃)で焼成する必要があるが、SiCと反応して
揮発することがないため、焼成雰囲気を完全に不活性にすることで容易に緻
密化することが可能である9,33)。また、固相反応による焼結であるため、B
C
系添加によるSiC焼結体は、高温での強度、クリープ変形、耐酸化性などの
高温特性で極めて優れている。現在工業的に生産されているSiC焼結体はこ
の系(ホウ素、あるいは炭化ホウ素とカーボンの添加)が多い。しかし、この
系における常圧焼結機構はいまだ解明されたとはいえない。Prochazka9)は
ホウ素の添加量が固溶限界(0.2wt%)を超えて必要であったことからホウ素
はSiC粒界に存在し、粒界エネルギー(γGB)を減少させると考えた。緻密化
を焼結体中の気孔の消滅と考え、気孔が消滅する条件として気孔が凸のふく
らみをもつには表面張力のつりあいの条件から、
賢>2cos言,β=‡(刀-2)………(4)
5
を満たす必要がある。このためホウ素は粒界に存在し、粒界エネルギーを低
め、カーボンはSiC粒子表面に存在するSiO2を還元除去することで表面エネ
ルギー(γsB)を増大させると考えた。また、焼結を動力学的にとらえた解釈
としてGreskovich34)は無添加のSiCは高温に加熱しても焼結初期段階に粒
子の粗大化が起こり緻密化しないと考え、添加したホウ素はSiC表面で表面
拡散を遅らせ、粒成長を抑制し、カーボンはSiO2を除去するほかSiCに固溶
して体積拡散を促すと考えた。Suzuki、Hase35,36)はこの理論とほぼ同様の
結論を得るとともにこの理論を補正した。それによるとホウ素,カーボンは
約1500℃まで表面拡散による粒成長の抑制に寄与し、その後表面と粒界に
素早く拡散し36)、1900℃までにB-C系化合物からなる粒界相を形成する。こ
の粒界相を経由した拡散によって1950℃まで焼結が進む。それ以上の温度
でこの粒界相は消失し、ホウ素の固溶による拡散促進効果でさらに焼結が進
行する機構が提案された。田中33,37,38)は焼結の自由エネルギー理論より、
焼結は表面が界面に転じ、系の余剰エネルギーを緩和する過程であり、この
余剰エネルギーが緻密化に関する物質移動を駆動するとし、焼結の速度式を
用いてその焼結収縮速度にて検討を行った。焼結収縮速度において収縮率を
γG,の†sBに対する比(α=†GB/γsB)をパラメーターとして、SiCの焼結
を評価している。その結果、SiC粉体のみでは焼結は進まず、B-C系の添加
によってカーボンがSiC表面に存在するSiO2を還元し、ホウ素(あるいはカ
ーボンも)は粒界に存在し、†GBを減少させることで焼結が進行し、緻密化
すると論じている。
これら報告されているいずれの焼結機構においても、助剤として用いるホ
ウ素、カーボンをいかにしてSiC粉末及び成形体中に均一に分散させるか
が緻密な焼結体を得る重要な要素であることがわかる。
1.5
SiC製造プロセス
セラミックス製造プロセスは、製品を作製するまでに粉体合成、混合、成
形、焼成、加工などの様々な工程をともなう。Fig.3にSiC製品の製造工程
の模式図を示す6)。SiCセラミックスとジルコニア、アルミナなどの酸化物
6
セラミックスと大きく異なるのはアルゴンなどの不活性雰囲気下で2000℃
を超える温度で焼成することである。これら工程の中で成形に着目した場合、
成形時にクラックの混入や密度勾配などの不均質な状態を含むと、焼成時に
材料変形や亀裂を生じ、これが強度低下など材料特性の変動や低下の原因と
なり、信頼性、再現性のよいセラミックスの製造が困難になる。このため破
壊源の形成を抑制し、均質な成形体構造を有するセラミックスを得る成形法
を確立することが必要不可欠といえる39)。また、セラミックスの多くは硬く
て脆いという性質をもつことから、一般に加熱焼結後の加工が困難なため、
プレス成形法などの後加工を要する成形方法よりも、目的とする形状に近い
形で成形体にする成形法(ニアネット成形法)が望ましい。
Fig.3・SchematicdiagramofmanufacturingprocessforSiC
PrOduct.
7
一般にセラミックスの成形法はコロイドプロセス40,41)とドライプロセス
の二つに類別される。ドライプロセスは、あらかじめ造粒した粉体(頼粒)を
加圧するなどの方法により直接的に成形体を作製する乾式成形法である。こ
れに対してコロイドプロセスは、原料粉末を溶媒中に分散させスラリーの調
製を行ない、成形体を作製する湿式成形法である。コロイドプロセスの特徴
としてドライプロセスに比べて微構造の制御に優れ、均質で高密度な成形体
が比較的容易に作製することが可能であることがあげられる。
コロイドプロセスの一つである鋳込み成形法は広く用いられている方法
である41-43)。この方法は、多孔質な型(主に石膏型)に原料粉末を均一に分散
したスラリーを流し込み、毛細管吸引力によって溶媒を型に吸収させること
によって型に着肉、固化させて成形体を作製する。その特徴として、比較的
複雑な形状が作製可能であり、特別な装置など必要がなく、比較的安価に成
形体を作製することができる。その反面、プレス成形などと比較すると大量
生産には不向きであり、少量で多品種の生産に適している。また、この鋳込
み成形法には、スラリーを型に流し込む際に加圧することで強制的に着肉さ
せる加圧鋳込み成形法44)とスラリーを型に流し込み、一定時間放置して着肉
固化させた後、型からスラリーを流し出し、離型する排泥鋳込み成形法45)が
ある。この成形法以外にも、コロイドプロセスの成形法としてスラリーをド
クターブレードから均一に流してシート状に膜を成形するテープキャステ
ィング法46)や溶媒中で帯電した粒子に外部電場をかけることによって粒子
の荷電と逆の電極側に粒子を泳動させて電極上に堆積させる電気泳動堆積
法47)などの様々な方法がある。このようなコロイドプロセスにおいて成形の
成否を支配する最も重要な因子として、スラリーの分散及び流動性があげら
れる。ドライプロセスについてもプレス成形用にスプレードライした頼粒や、
押出成形用のフィルタープレスしたケーキなどといった原料調製時にスラ
リー調製をしており、コロイドプロセスだけでなくセラミックスの成形、焼
成プロセスにおいて、スラリーの分散・流動性は重要な因子となる。
8
水系溶媒中での粒子の分散・凝集
1.6
スラリーの分散及び流動性を支配する因子として粉体の表面状態と粒子
間相互作用があげられ48,49)、スラリー調製においてこれらを理解すること
が必要不可欠である。一般に酸化物粒子を水系溶媒に添加した時、水和反応
によって表面に水酸基が形成され、この水酸基の解離によって、酸化物粒子
表面は正または負に帯電する50,51)。Fig.4に水系溶媒における酸化物粒子表
面の帯電状態を示す。粒子表面はpHが酸性側ではプロトンの付加によって
正に帯電する。一方pHが塩基性側ではプロトンが溶媒中に引き抜かれ、負
に帯電する。見かけ上粒子表面の電荷が正にも負にも帯電していない時の
pHを等電点(isoelectricpoint,iep)という。この等電点は、原料の種類や同
一原料でも分散剤等の添加によって変化する。したがって、使用する原料や
条件での等電点を把握することはコロイドプロセスにおいて重要である。
また、1つの粒子に着目した時、溶媒中の粒子表面付近には表面電荷と反
対の符号の電荷をもつ電解質イオン(対イオン)が同符号のイオン(副イオン)
に比べて圧倒的に多く存在する52-54)。これは対イオンが粒子の表面電荷から
クーロン引力を受けて引きつけられ、副イオンがクーロン斥力によって表面
から遠ざかろうとするためである。ここで対イオンが粒子表面に集まってき
てその電荷を中和しようとする。しかし、イオンの熱運動によって妨げられ
るため、対イオン側が広がりをもったイオン雲を形成している。これを拡散
⑳2鴫⑳2
1.血1・や1巾1
0-MlO
Acid
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く
1ep
Fig・4・Mechanismofsurfacepotentialofoxideparticleinaqueous
media.
電気二重層という。ここで、対イオン、副イオンの種類や拡散の度合いは溶
媒の種類や分散剤の解離の程度や添加量、pH調整に使用した酸や塩基など
の電解質に起因する。
対イオン、副イオンといった電解質イオンの拡散の度合いを示す量は、拡
散電気二重層の厚さ(Debye長さ)1/Kで表される。この厚さは表面電荷と対
イオンとの間の引力がそれをかき乱そうとする熱運動と釣り合う距離であ
る。KはDebye-Hdckelのパラメーターと呼ばれ、価数uの対称型電解質の
場合、
∬=(2月U2e2/どrど。丘r)1′2 ………(5)
で与えられる。ここでiはBoltzmann定数、C。は真空の誘電率、Crは溶媒の
比誘電率、邪ま絶対温度、eは単位電荷であり、刀は電解質の数密度で単位は
m●3である。この電気二重層の厚み1/だは後で述べるように溶媒中の粒子の
分散・凝集に大きく影響を及ぼす。
Fig.5に粒子表面近くに表面電荷とは逆の対イオンが強く引き寄せられ
て固定(吸着)された層と対イオンと副イオンを含んだイオン雲の層が存在
Fig・5Electricaldoublelayermodelforparticlecharglnglna
POlarliquid.
10
する電気二重層のモデルを示す55,56)。固定された層はStern層と呼ばれ、
Stern層から先のイオン雲で形成される層は拡散層と呼ばれる。粒子はある
場の中で運動する際、Stern層と拡散層の内側の一部を伴って移動する。こ
の移動が起こる面をすべり面(ずり面、ShearPlane)と呼ばれ、粒子から離
れて電気的に中性である領域(Bulksolution)の電位を0とした時、すべり面
の電位をら(ゼータ)電位と呼ぶ。財はStern層外側の面(Stern面)の電位であ
るが、多くの場合すべり面の電位である(電位で近似して扱われる。この(
電位の大きさが水系溶媒中における粒子分散の安定性に大きく影響する。
次にスラリー中での相互作用として2つの粒子が接近して電気二重層が
重なりあう場合について、1つの粒子表面を原点にとり、もう一方の粒子を
無限遠方より近づけた時に粒子間に働く相互作用の関係をFig・6に示す。粒
子間には粒子の表面電荷にもとづく静電反発力や粒子表面に吸着した高分
子の吸着層に基づく立体反発力など斥力(俺)のほかにvanderⅥhals引力
(仏)、重力、浮力が働く。ここでおもに粒子間における相互作用として分
散もしくは凝集を決定する大きな要因は略と払である。粒子間における全
相互作用のエネルギー(顆)は反発力とvanderWaals引力の和(顆=略+
払)で決定される49-54)。このような電荷をもつ粒子の分散、凝集については、
Derjaguin-Landauらの理論とV6rway-Overbeekらの理論によって確立さ
れ、それらを合わせたDLVO理論で説明される56)。ここでスラリーの分散・
凝集はFig.6に示す顆のポテンシャル曲線における一次極小、極大部分で
ある陀ax、二次極小により議論される。2つの粒子は、極小部分で凝集し、
逆に極大部分では分散する。二次極小部分は普通極めて浅く、凝集の理論で
は無視されることもある。ただし粒子の形状が板状、棒状など異方性が増し
てくるとこの極小が深くなり、この二次極小においても安定となる。ここで
スラリーの分散安定化を議論する時に大きく問題となるのが軋axである。
払は物質に依存する値であることから軋axを左右するのは陥である。この
略は粒子表面に形成される電気二重層による斥力が影響し、VanderWaals
引力が働く粒子間距離と電気二重層斥力が働く距離によって分散・凝集が決
定する57)。この電気二重層斥力は電気二重層の厚み
11
訟h讐虚〓適当ぢ葛h
0
Fig・6・Potentialenergybetweentwoparticlesinaliquid
resultingfromtheeffbctsofvanderⅥhalsattraction
andelectrostaticrepulsion.
1/だが影響し、式(5)からわかるように温度ア電解質濃度(刀)や電解質の価数
u、溶媒の比誘電率どrなど溶媒の特性や溶媒中の電解質の種類が電気二重層
の厚みを左右する。f'ig.7に2粒子間におけるポテンシャル曲線と分散・
凝集の関係図を示す。(a)に示すように粒子の電気二重層が厚く、ポテンシ
ャル障壁であるlもaxが高い場合、2つの粒子はある一定の距離よりも接近す
ることができなくなり、反発し合うため分散安定化する。しかし、(b)、(c)
のように電気二重層が圧縮され、lもaxが低い場合ではこの障壁を越え、粒
子は自由なブラウン運動を行い、粒子は急速に凝集する。この陀axの障壁
を大きくする、すなわち粒子表面の静電反発力を増大させることで分散安定
化を制御することができる。
12
Fig.7・Schematicillustrationofrelationshipbetweenthetotal
interparticle
and
potentialenergy
the
resulting
SuSPenSionstructure・
一般的なスラリー調製において前述した理由から泥衆のpHを等電点から
正または負にシフトさせ、その表面電荷の絶対値を大きくすることによって
静電反発効果を大きくし、静電安定化する方法が用いられている57)。また、
分散安定化させるのに静電反発効果以外にも方法がある。これは高分子を粒
子表面に吸着させ、立体反発効果をねらうものである54,57,58)。Fig・8に高
分子濃度変化に対する粒子の分散・凝集の模式図を示す。高分子が粒子表面
に吸着する際、ある厚さをもって粒子を被覆し、吸着した高分子は吸着
(a)Bridgingflocculation(b)Electrostaticstabilization
Low
Polyerconcentration
Fig・8・SusPenSionstructureasafunctionofpolymerconcentration
inaqueousmedia・
13
(c)Flocculation
層を形成する。溶媒中の高分子濃度が低いと吸着量も少なく、粒子表面の吸
着層は疎となる。吸着層の疎な粒子同士が接近すると、一方に吸着している
高分子が他方の粒子にも吸着し橋掛け構造を形成し、凝集する。高分子濃度
が高くなると粒子への被覆率は高くなり、橋掛け構造が起こりにくくなる。
そして高分子が吸着した2つの粒子が接近し、高分子が接触するようにな
ると、①接触界面付近の高分子濃度が高くなり、②高分子鎖の広がりがひず
む。①は接触部分への溶媒の侵入を促し浸透圧効果による反発力を生み出す。
②は変形した高分子鎖の状態を元の状態に戻そうとして反発力が起こる。こ
れは高分子鎖の配置のエントロピーを最大にしようとして発生する弾性で
あり、エントロピー反発と呼ばれることもある。さらに高分子濃度が高くな
ると立体障害が起こり再び凝集する。
セラミック粉体の分散では静電反発効果と立体反発効果の相乗効果によ
る分散安定化(静電立体安定化)が一般的に行われている。例えば、ポリアク
リル酸アンモニウムのような高分子電解質を粒子表面に吸着させ、静電的に
安定させるとともに吸着した高分子電解質によって立体的安定化させたス
ラリー調製方法が検討されている59-61)。
1.7
スラリーの流動性評価
コロイドプロセスにおいて、高い粉体濃度のスラリーが用いられることが
多い。しかしながら粒子濃度の高い濃厚なスラリーではその分散状態を評価
しにくいことから、その系の分散状態がよく反映するレオロジー挙動が良い
手がかりとして用いられる62)。流動性の評価は、せん断速度(Shearrate:†)
を変化させて、その時のせん断応力(Shearstress‥T)を測定して得られるせ
ん断速度-せん断応力曲線(流動曲線:Flowcurve)を用いて評価される。こ
の流動曲線はFig.9に示す4種類の代表的なタイプに大きく分類される。タ
イプAはニュートン流動(NewtonianFlow)と呼ばれ、せん断応力はせん断速
度に比例する。せん断速度とせん断応力の比(T/†)は粘度(ヮ)と呼ばれ、せ
ん断速度が変化しても一定の値を示す。これに対してそのほかの3つのタ
イプは非ニュートン流動と呼ばれ、せん断速度が変化すると粘度は変わるた
14
め、せん断速度を固定した時の見かけ粘度(りap。)として流動性を評価する。
タイプBはせん断応力があるT。の値(降伏値)まで流動が起こらず、これを超
えて初めて流動し、その後の曲線が直線となる。これをビンガム流動または
塑性流動と呼ばれる。また、タイプCのように降伏値に達した後、上に凸の
曲線をもつ場合を擬塑性流動と呼んでいる。この擬塑性流動についてはせん
断速度の小さい範囲で見かけ粘度が急激に減少する。一般に粒子分散系のス
ラリーでは擬塑性流動の場合が多く、せん断速度によって粘度も変化する。
成形法の種類によって成形時に必要となるせん断速度は異なり、最適な見か
け粘度がある。そのほかに、タイプDとしてせん断速度増加にしたがってせ
ん断応力が急激に増加し、下に凸の曲線となるものをダイラタント流動と呼
ぶ。
粒子濃度が同じ場合、流動性の良いスラリーほど粒子は良く分散している
といえる。脱溶媒後(スラリー濃縮化、乾燥)に得られた成形体の見かけ密度
や均質性にスラリーの流動性が大きく影響することから、コロイドプロセス
に適したスラリーは分散安定化し、流動性が良好なスラリーが要望される。
dd\P(ss巴}SJ忠一S
Shearrate,†/s.1
Fig.9.Typicalflow
curves
of
exhibitedbycolloidaldispersion・
15
rheologicalbehavior
1.8
SiC焼成用のスラリー
SiCのコロイドプロセスでは、原料であるSiCのほか焼結助剤としてカ
ーボン源にもちいられるカーボンブラックやホウ素源として主に用いられ
る炭化ホウ素などすべて非酸化物粉末であることから、溶媒として有機溶剤
が使用されてきた。また、焼結助剤を均一に分散させる目的としてカーボン
源にフェノール樹脂やピッチタールなども用いられてきた。いずれも疎水性
のために水に分散させることは困難であった。しかし、環境保全やコスト、
人体への影響といった立場から、危険性の高い有機溶媒から安全な水系溶媒
に置き換えたコロイドプロセスの確立が望まれる。
一般的に酸化物粉体の分散・流動性の向上にはポリカルポン酸のような親
水基を含んだ高分子電解質(分散剤)が使用されているが、これら分散剤が非
酸化物粉体の水系溶媒における分散・流動性に有効であるとはいえない。佐
野ら63)はポリカルポン酸アンモニウムとスチレンマレイン酸共重合体を分
散剤として添加し、スチレンマレイン酸共重合体の有効性を述べた。さらに
牧野ら64)はスチレンマレイン酸共重合体を分散剤として使用し、スチレン基
とマレイン基の比率を変化させ、スチレン基のマレイン基に対する比が1:1
よりも3:1と高い比率の共重合体がSiCの分散・流動性に効果的であり、
親水基と疎水基を併せもつ構造を有する高分子電解質の使用が有効である
ことを報告した。しかし、一方で田中ら65)やFerreiraら66)はスラリー調製に
はpH調整が重要であり、塩基性側で調製することが重要であると述べた。
このようにSiCの水系スラリーの調製にはいくつかの報告があるが、SiCの
種類や合成方法、製造メーカーによって異なり、SiCスラリーの調製条件の
詳細が明らかにされたとは言い難い。
1.9
本研究の目的
これまで述べたように焼結助剤が共存するSiCのコロイドプロセスでは、
分散・流動性の良好なSiCスラリーを調製するのみならず、ホウ素源、カ
ーボン源の分散・流動性の向上をはかり、それらを含むSiC-C-B系といっ
16
た多成分系セラミックスラリーの調製が必要不可欠である。さらにSiC-C-B
系スラリー中での互いの粒子の相互作用を考慮したスラリー調製における
最適条件を検討する必要がある。
先に述べたように原料SiCに焼結助剤を添加した水系SiCスラリーにつ
いての報告はあるものの、これらそれぞれの粒子における最適なスラリー調
製条件や各粒子同士の相互作用を考慮してスラリーの分散安定化をはかっ
ていない上、多成分系スラリーの分散・流動性が成形、焼成に与える影響ま
で検討した研究はない。また、原料SiCの種類に左右されにくいスラリー
調製は検討されていない。
以上の観点から本論文ではコロイドプロセスとして鋳込み成形及び近年
着目されているその場成形を用い、これらの方法から得られた成形体を焼成
して緻密なSiC焼結体を得るプロセスの工程因子を明確にし、信頼性の高い
SiC焼結体の作製方法を確立することを目的とした。特にSiCの水系スラリ
ーの分散・流動性を制御するとともに助剤として使用するカーボン及び炭化
ホウ素の分散・流動性を安定化させる条件を検討した。また、焼結助剤の添
加がSiCスラリーに与える影響を検討し、SiC-C-B4C系スラリーの最適な調
製条件を提案した。
本研究では以下のように、コロイドプロセスによるSiCの成形について、
高分子電解質を添加した焼結助剤を含む多成分系(SiC-C-B4C)スラリーの最
適調製条件の検討とスラリー中の高分子電解質の役割、水系溶媒での助剤カ
ーボンの分散安定化、SiC原料の主要不純物であるSiO2、遊離カーボンがス
ラリーの分散・流動性に与える影響、そして分散・流動性を制御した高濃度
siC-C-B。C系スラリーを用いた新たな成形方法への応用という観点から検
討した結果を詳述する。
第2章
実験方法として使用した試薬及び原料とSiC-C-B4Cスラリーの調製方法、
成形及び焼成方法、測定について説明するとともに測定の中で特に検討した
水系SiCスラリーの分散性、流動性の評価として沈降試験、ゼータ電位測定、
17
流動点湿潤点測定、レオロジー測定についての説明を記載した。
第3章
分散剤として高分子電解質と塩基を使用し、SiC合成中に不純物として残
存する遊離カーボン量の少ないSiC原料をもちいて、助剤として添加するカ
ーボン、炭化ホウ素を含む水系SiCスラリー中で高分子電解質と塩基がそれ
ぞれの粒子に対してどのように影響を与えるか明確にするとともに、分散・
流動性が向上したSiC-C-B4Cスラリーの調製条件を検討した。そして得られ
た最適条件でスラリーを調製し、鋳込み成形により成形体を作製、焼成して
緻密なα-SiC及びβ-SiC焼結体を得ることを目的とした。また、粒径の異な
る2種類のカーボンを用い、さらに緻密な焼結体を得ることを検討した。
第4章
コロイドプロセスによって緻密なSiC焼結体を得るには水系溶媒中にお
けるナノカーボン粒子の分散・流動性が重要な要因であることから、水系カ
ーボンスラリーの分散・流動性のさらなる向上を目的として構造の異なる3
種類の分散剤を用いて分散・流動性の良好な水系カーボンスラリーの調製条
件を検討した。
第5章
SiCの合成において遊離カーボンは合成する工程で残存し、製造メーカー
ばかりでなく同一商品においてもロットが変わるとその量は異なる。そこで
遊離カーボン量が比較的多いSiCを原料として使用し、事前に加熱処理を
行って遊離カーボン量を減少させるとともにSiCの表面酸化状態を制御し
た原料を用いて調製したスラリーについて分散・流動性を評価した。得られ
た結果から遊離カーボン及び表面酸化の程度がスラリー調製にどのように
影響を及ぼすか検討した。さらに検討結果から表面酸化状態と遊離カーボン
量、助剤として添加するカーボン量を変化させることによって、緻密なSiC
18
焼結体を作製する条件の確立を目的とした。
第6章
近年、コロイドプロセスの中で着目されている方法としてその場成形があ
る。今回、水に徐々に溶出する粉体を鋳込む直前に添加し、ゆっくりとした
電解質の溶出により、徐々にスラリー中のp臥電解質濃度を変化させ固化
するその場成形(直接凝集鋳込み)法を検討した。本研究では焼結助剤のホウ
素源としての添加と粉体からの溶出による凝集効果を期待して窒化ホウ素(
h-BN)をスラリーの固化剤として添加し、濃厚化したカーボンを含んだSiC
スラリーの直接凝集成形を試みた。また、成形後、焼成し、BNの焼結助剤
としての有効性についても検討した。
19
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24
第2幸美験
2.1はじめに
セラミックスの製造工程は粉体を成形、焼成する工程であり、成形時にク
ラックの混入や密度勾配などの不均質な状態を含むと、焼成時に変形や亀裂
を生じ、強度低下など材料特性の変動や低下を引き起こし、信頼性、再現性
のよいセラミックスの製造が困難になることから成形プロセスはセラミッ
ク製造工程において最も重要なプロセスといえる1,2)。
成形は原料粉体を所定の形状と充填構造をもつ粉体集合体にする操作で
あり、主に鋳込み成形法、テープ成形法、・その場成形法などの原料粉末を溶
媒中に分散させたスラリーの調製を行ない、成形体を作製するコロイドプロ
セス3,4)とあらかじめ調製した粉体集合体(顆粒)を圧力により押し固める一
軸加圧成形や静水圧等方加圧成形(coldisostaticpressing,CIP)などのドラ
イプロセスに分けられる。コロイドプロセスにおいて、スラリー中での粉体
の分散凝集状態がスラリーの流動性に影響を及ぼし、成形体中の密度勾配、
クラックなどの原因となり、最終製品の物性に大きく関係することが知られ
ている2,5)。また、ドライプロセスで用いる顆粒についても粉体充填時の流
動性改善のため、スプレードライ法などで造粒しており、この造粒の際に用
いられるスラリー中の粉体の分散凝集状態が頼粒の形状や硬さに影響し、成
形体構造の均質性を左右することが報告されている6)。このことからいずれ
の成形プロセスにおいても均質で欠陥のない成形体を得るためには原料で
ある粉末の分散凝集状態の制御したスラリー調製が必要不可欠である。しか
し、この分散凝集の制御は原料粉末の特性に依存するだけでなく、制御に用
いる分散剤の種類、添加量などがノウハウであり公開されないことが多く、
経験的な側面が強い。その一方で粉体の分散凝集の評価については粒子の表
面状態、粒子間相互作用の測定・解析技術が発展しつつある7)。
このような点から本章では本研究で行った実験について使用試薬及び原
料、スラリーの調製方法を説明するとともに、鋳込み成形及びその場成形方
法及び焼成方法について述べる。また、スラリー中の粉体の分散凝集状態の
25
評価として行われる沈降試験、ゼータ電位測定、流動点湿潤点測定、レオロ
ジー測定について述べる。
2.2
実験方法
2.2.1使用原料及び試薬
原料として使用したSiCは主にAcheson法で合成されたα-SiC、シリカ
還元炭化法で合成されたβ-SiCである。これらの合成方法については1.3.
節に記述した。β-SiCは焼結温度域で安定相ではなくα-SiCに転移しやすい
ためα-SiCに比べて焼結させることが困難である8)。しかし、α-SiC粉末から
得たα-SiC焼結体の微細構造は等軸的な粒子形状となるのに対して、β-SiC
粉末から得た焼結体は板状及び柱状に伸びた粒子となり、粒子のアスペクト
比が大きくなるため、曲げ強度、破壊靭性はα型よりβ型でやや大きくなり、
機械的性質はβ型がやや優れている9)。このため本研究では主にβ-SiCを使用
した。また、SiCの合成において遊離カーボンは合成する工程で残存し、製
造メーカーや同一商品におけるロットによってその量は異なる。そこで遊離
カーボン量が異なる2種類のβ-SiCを原料として使用し、遊離カーボンがス
ラリーの分散・流動性や焼成たどのように影響するか検討した。
焼結助剤には1.4.節で酸化物系焼結助剤と非酸化物系の焼結助剤があり、
それぞれの助剤について報告されている種類と焼結機構の概略を述べた。本
研究では高温時にSiCと反応し揮発することがなく、焼成雰囲気を完全に不
活性にすることで焼結させることができる点、高温での強度、クリープ変形、
耐酸化性などの高温特性で極めて優れており、現在一般的に工業的に使用さ
れている点から、焼結助剤として炭化ホウ素(B4C)とカーボン(C)を使用した。
また、カーボンについては成形体中の分散状態を検討するため、粒子径が異
なる2種類を使用した。
分散剤はAldrich製水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)と3種類
の高分子電解質を使用した。高分子電解質には①無水スチレンマレイン酸に
水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を加えて溶解させた水溶液
(SM)、②ポリスチレンスルホン酸(HPSS)、③β-ナフタレンスルホン酸ホル
26
マリン縮合物のアンモニウム塩を溶解した水溶液(DEMOL-AS)である。ス
ラリーのpH調整にはTMAOHと硝酸を使用した。
2.2.2
スラリー調製
Fig.1に本研究の実験に関するフローチャートを示す。水、分散剤、カー
ボン、炭化ホウ素、SiC粉体の順に所定量をSiC製ポットに入れ、さらに
SiC製ボールを所定量入れて、ボールミリング混合してスラリーを調製した。
特にボールミリング中に容器や混合するために入れるボールから不純物が
混入するのを防ぐために、SiC製ボール、SiC製ポットを使用した。カーボ
ン、炭化ホウ素の添加量はSiCの焼結助剤として添加することから、とも
にSiC固体量(dryweightbase,dwb)に対する相対量として添加した。また、
分散剤はSiC固体量またはカーボン固体量に対する相対量としてその有効
成分量を添加した。水は蒸留した後、ミリポア製Milli-Qシステムを用いて
純水化して使用した。
2.2.3
成形及び焼成
鋳込み成形では調製したスラリーを真空脱気した後、振動板上に固定した
石膏型(5.OcmX5.OcmxO.5cmの平板あるいは7.Ocmxl・OcmxO・5cm
の矩形棒)に流し込み、振動を与えながら成形した。得られた成形体は室温
にて乾燥した後、さらに120℃で24時間乾燥させた。
その場成形では窒化ホウ素(BN)が水溶液中で徐々に溶解する特性に着目
し、高濃度SiCスラリーにBNを添加することで凝集固化させる直接凝集
鋳込み成形(directcoagulationcasting,DCC)法を考案した。調製したスラ
リーに所定量のBNを徐々に添加し、遊星撹拝脱泡機を用いて撹拝した後、
真空脱気し、ポリプロピレン製のディスポトレーに流し込み、温度27℃、
湿度98%に調整した恒温恒湿器中に静置した。BNはSiC固体量に対する
相対量として添加した。固化した成形体(80×50×6mm)は脱型後、室温で
乾燥した。
得られた成形体は真空中で室温から1000℃まで5℃/min・で昇温し、1000
27
肋古γeβe乃砂
乃ヱ℃ep血古助軸
慈
伽由・〟Cれば∂ノβムβerアa土豪Ⅶ
Fig・1・Schematicdiagramofexperimentalprocedure.
∼1500℃を3℃/min.で昇温した。さらに常圧Ar雰囲気で1500℃∼2150℃
を5℃/min.で昇温し、2150℃で1時間保持して焼成した。1500℃まで真空
中で焼成するのはSiC原料中に存在するSiO2を助剤カーボンによって還元
する際に発生するCOガスを系外へ排気するためであり、1500℃以上でAr
28
雰囲気として焼成するはSiCの分解を抑制するためである10)。
2.2.4
評価方法
調製したスラリーについて分散性評価として沈降試験、ゼータ電位測定を、
流動性評価として湿潤点・流動点測定、レオロジー測定を行った。また、そ
の場成形法の検討では重要となるBNを添加した後の固化凝集挙動につい
て貯蔵弾性率(のによって評価した。このスラリーの分散性、流動性の評価
については次節で述べる。
作製した成形体は寸法、重量よりかさ密度を算出し、焼成体についてはア
ルキメデス法で見かけ密度を算出した。この時、SiCの理論密度を3.21g/cm3
11)として相対密度で成形体及び焼成体の充填状態を評価した。また、焼成体
の微細構造は切断研磨した後、煮沸した村上試薬中に試料を所定時間浸漬し
てエッチングし12)、走査型電子顕微鏡にて観察した。村上試薬はEOH:
K3Fe(CN)6:H20=1:1:2(質量比)の混合比で混合した後、KOH、
E3Fe(CN)6が溶解するまで加熱して調製した。
2.3
分散性の評価
2.3.1沈降試験
スラリーの分散性を評価する方法として沈降試験が一般的に行われる13)。
これは希薄なスラリーをメスシリンダーや比色管などの容器に入れて静置
し、時間とともに沈降する粒子の沈降量を測定し、沈降する速度から分散性
を評価する方法である。沈降速度が粒子径に依存することから厳密に測定す
ることで粒度分布測定法として利用することができる14)。溶媒中で分散する
粒子に作用する力は重力、浮力及び溶媒から受ける粘性抵抗(摩擦力)である。
これら粒子に作用する力以外の影響が受けにくい希薄領域で行った場合、球
状粒子の沈降速度はStokesの法則から次式(1)で示される。
〟=
2α2(β-β。)g
9り
…‥(1)
ここでβ0、βは溶媒及び粒子の密度、g、〃は重力加速度と沈降速度であ
29
る。αは粒子の半径、りは溶媒の粘度である。この式から沈降速度は粒子半
径の2乗に比例することがわかる。粒子の分散凝集を評価する場合、単純
にこの式が当てはまる訳ではないが、定性的に一次粒子として分散している
場合は沈降速度が遅く、凝集して粒子サイズが大きくなるほど速く沈降する。
また、比色管を一定時間静置した後、スラリー中で沈降・堆積した層(沈
降体積)の体積を測定し、その沈降体積から定性的に分散凝集状態を評価す
ることも可能である。Fig.2に分散及び凝集したスラリー中に沈降した沈降
体積の模式図を示す13)。分散したスラリーでは、粒子ざま一次粒子として存在
するため沈降速度が遅いうえ、沈降層は密に充填され、沈降体積は小さい。
一方凝集したスラリーでは、粒子は凝集し二次粒子を形成しているために沈
降速度が速く、沈降層には隙間が多く存在する。このため分散したスラリー
に比べて沈降体積は大きくなる。この方法で比重や粒子形状、粒度分布が異
Flocculatedslurry
Dispersedslurry
r
.---
-
.--.-..[
[〓囲
Dense
Loose
Sedimentation
sedimentation
Fig.2.Schematicillustrationofsettledpatternsfortwo
typesofparticledispersion.
30
なる粉体のスラリーの分散凝集状態を比較することは困難であるが、同じ粉
体に対する分散剤の分散性評価や分散剤添加量に対する効果を評価する上
で有効な方法である。
本研究では沈降試験において一定時間静置した後の沈降体積を測定し、分
散剤添加量やpHによってスラリー中の粒子の分散・凝集挙動を評価した。
2.3.2
ゼータ電位測定
スラリーの分散性を評価する最も重要な因子は溶媒中の粒子の表面状態
と粒子間相互作用である2-5)。溶媒中で粒子表面は表面の解離基や吸着イオ
ン、吸着した高分子電解質などにより帯電する。1.6.節及び1.7.節にて
述べたように粒子表面の帯電状態によって粒子間相互作用が決定し、粒子は
分散・凝集する。そして粒子の分散安定化に重要なのは粒子の帯電の程度(表
面電荷)を大きくし、粒子間の反発力を向上させることであると述べた。し
かしながらこの表面電荷を直接測定することができないため、ゼータ電位や
電気泳動移動度が表面電荷の指標として利用される。このゼータ電位や電気
泳動移動度は溶媒中に電場を加えると、帯電した粒子が表面の帯電の程度に
応じて帯電と反対符号の電極側へ泳動する性質を利用して測定される。ここ
で電気泳動移動度とはこの電場をかけた時に粒子が移動する速度であり、ゼ
ータ電位と同様に粒子表面の帯電状態を推定できる指標である。
ゼータ電位測定方法は大きく電気泳動法と外力電位法の二つに分けられ
る15)。電気泳動法はスラリーに電場を印加し粒子または溶媒の移動速度から
ゼータ電位や泳動速度を求める方法である。一方、外力電位法はスラリーに
外力を加えることにより粒子または溶媒を移動させ、生じる電位、電流から
ゼータ電位や移動速度を求める方法である。
本研究では外部電位法の一つで、近年開発された超音波振動電位法16)を用
いてゼータ電位測定を行った。この方法の利点は広範囲な粒子濃度と粒子径
のスラリーに適用できる点にある。Fig.3に測定原理の模式図を示す。スラ
リーに超音波を照射すると音圧を受けて粒子は振動する。しかし、粒子と溶
媒の密度に差があるため、粒子とその周りを取り巻く電気二重層内の
31
Ultrasonic
6
oscillator
Electrode
Polarization
Alternatingelectric丘eld
{′/二、、、‡プloidvibrationpo
3MHz
ヽ---トーノ
、--◆一一一
Electricdoublelayer
Particle
Counterion
Fig・3.Measuring
mechanism
ofcolloid
vibration
current
ultrasoundvibrationpotentialmethod.
イオン雲の振動にズレが生ずる。その結果、帯電した粒子と粒子を取り巻く
対イオンは分極し、コロイド振動電位(colloidvibrationpotential,CVP)と
呼ばれる電場を発生する。ここで溶液中に電極間距離を極端に狭くして電極
を設置すると電極表面の電位変化を生み、電流として検出できる。この電流
をコロイド振動電流(colloidvibrationcurrent,CVI)と呼ぶ。このCVIから
ゼータ電位を算出する。
32
by
+
l書召βOd・け一
Fig・4・Zetapotentialandsurfacepotentialofsilicaparticle
asafunctionofpH.
例としてFig.4に水系溶媒中のシリカ(SiO2)粒子のゼータ電位と表面電荷
状態を示す。水溶液中でSiO2は水和反応によって水酸基をもち、シラノー
ル基(Si-OH)となる。低いpH領域では、Si-OHはプロトン付加によって
Si-OH2+となり正に帯電する。一方pHが高くなるとSi-OHからのプロトン
引き抜きによってSi-0
となり負に帯電する。見かけ上電位が0となる点を
等電点(isoelectricpoint,iep)と呼ぶ。SiO2の等電点はpH2付近と報告され
ている17)。
本研究ではFig.4に示すように溶媒のpHを変化させてゼータ電位を測定
し、溶媒中の粒子の表面電荷状態を評価した。
33
2.4
流動性の評価
2.4.1流動点・湿潤点
セラミックの成形に用いられる調合物は成形方法によって異なり、水分の
少ない粉体から水分の多いスラリーまで様々である。梅屋はこの粉体中の水
分量に着目し、成形に用いる調合物を固体/気体/液体分散系の充填状態で
分類している18)。押出成形などでもちいる可塑性調合物(粘土)は粒子間の空
隙に水が充填され、粒子が連続的な構造から不連続になる領域で粒子間に束
縛された水として存在する状態であり、スラリーとは粒子が連続な構造をと
らず粒子間に水が連続的に存在し自由水として存在する状態であると説明
している。同様にDanielらは液体中の粒子分散状態を液体量で評価し、液
体が粉体をぬらし、ちょうど一塊になる時の液体濃度を湿潤点(Wetpoint)、
さらに粉体かきまぜながら液体を加え混合物がスパチュラから流れ落ちは
じめる液体濃度を流動点(Flowpoint)と定義している19)。流動点、湿潤点測
定は液体と粉体を混合した時の分散、流動性の評価として有効であり、液体
が粒子間の空隙に充填された湿潤点から流動を開始する流動点に達するま
でに添加した液体量が少ないほど粒子間に存在する自由な液体量が少なく
分散性が良好で固体濃度の高いスラリーが調製可能といえる。逆に湿潤点と
流動点の差が大きいほど流動するまでに必要な液体量が多く、分散不良であ
り濃厚なスラリー調製はできない。この流動点、湿潤点測定がセラミックの
スラリーの評価法の一つとして提案された20,21)。この測定により粉体に対
する分散剤の有効性の評価とスラリーの濃厚化限界に関する評価が可能と
なる。Fig.5に本研究で行った流動点、湿潤点の測定方法を示す。ガラス板
上にとった一定量の粉体に分散剤を種々量添加し、へラで混練しながらビュ
レットから徐々に水を滴下する。水を滴下する過程で、粉体が一塊になった
ところを湿潤点、さらに水を滴下し、粉体がへラから流れ落ち始めたところ
を流動点とする。
本研究では流動点、湿潤点を測定することによって、分散剤の有効性とス
ラリーの濃厚化限界について定性的な評価を行った。
34
Dispersant
露頭産
Flowpoint
Amount
of water
at
which
slurrybegantoflow
色
Initially
added
amount
dispersant
Fig・5・Measunngmethodofwetandflowpoints・
2.4.2
レオロジー測定
流動点湿潤点が定性的な流動性評価であるのに対してレオロジー測定は
定量的な評価として用いられている。スラリー中で粒子間相互作用が働き、
構造を形成している系では、これに応力を加えるとその構造が変化し、流動
挙動に反映する。また、時間によっても得られる流動挙動は変化する。この
ため流動挙動を評価することで粒子の分散・凝集によって形成される構造の
強さや構造が変化した後の再編成などの知見を得ることができる。一般に一
35
of
定のせん断速度(す)におけるせん断応力(て)から算出した見かけ粘度(りa。。)
からスラリーの流動性が評価される。また、周期的な応力を加え、系の弾性
率や粘性率を求める動的粘弾性測定では凝集状態の評価が可能である。Fig.
6に動的粘弾性測定におけるひずみと応力の関係を示す。周波数(f)の振動
をもつサインカーブにしたがってスラリーに応力(て0)を加える。この応力に
より引き起こされたひずみ(†0)は、位相が(8)ずれたサインカーブを描く。
式(1)により複素弾性率(G☆)を求めることができる。
IG牒l=lγol/lてol
……(1)
このG☆は弾性成分と粘性成分に分けることができ、弾性的な抵抗を示す貯
蔵弾性率(Gりは式(2)から、粘性的な抵抗を示す損失弾性率(Gりは式(3)か
ら求めることができる。
G'=G☆sin8
……(2)
G〃=G☆cos8
……(3)
このGタが増大すればスラリーの弾性力が増大することを示し、スラリー中
で粉体が凝集し、構造を形成するために硬くなったと評価できる。
本研究では種々スラリーのレオロジー測定に応力制御型レオメーターを
使用し、せん断速度(Shearrate:†)-せん断応力(Shearstress:て)曲線(流動
曲線)を測定し、一定のせん断速度におけるせん断応力から算出した見かけ
粘度笹即を用いてスラリーの流動性を評価した。一方、高濃度スラリーを
型に鋳込んだ後、スラリー中で化学反応させ粒子間の反発力を弱めて凝集固
化するその場成形法22)では、良好な流動性を示す高濃度スラリー
γ三γp
ノ..・叫.
て0
・Sin(ot+8)
†0
L
●●■■●●
8
\
■●●-■■-■一
T=
Fig・6・StresslnPutandstrainresponseofavisco-elasticfluid.
36
To・Sin(ot)
を一定時間経過した後で凝集固化させる必要がある。このためその場成形に
おいては凝集固化挙動を評価することは必要不可欠である。そこでスラリー
のせん断応力(て)を周波数(f)で周期的に変化させ、ひずみ(γ)と位相のずれ
(8)を測定し、G′を算出することによってその場成形を行う際のスラリー
の凝集固化挙動を評価した。
37
参考文献
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有機添加剤",テイ・アイ・シイー,pp.205-215(1993).
22)wM.Sigmund,N.S.BellandL.Bergstr云m,JAm.aFam.Sbc,83,
1557-1574(2000).
39
40
第3幸水系SiC・C・B4C混合スラリーの分散・流動性に対する分
散剤の影響
3.1
はじめに
SiCは難焼結性であるため、その焼結には焼結助剤の添加が必要である。
常圧焼結でのSiC焼結体作製にはホウ素、炭化ホウ素(B4C)、カーボン(C)が
用いられる1)。より緻密な焼成体を得るには、予めこれら焼結助剤を均一に
分散させるとともに高い充填密度をもつ成形体を作製することが必要不可
欠である。
密度の高い成形体を得る有効な成形法の一つに鋳込み成形法がある。この
成形法では、高濃度で、分散及び流動性が良好なスラリーの調製が最も重要
な因子となる。原料であるSiCに加え、焼結助剤としてカーボン源に用い
られるカーボンブラックやホウ素源として主にもちいられる炭化ホウ素な
どすべて非酸化物粉末であることから、近年まではスラリー調製において、
主に溶媒として有機溶媒が使用されてきた。しかし、工業的に生産する場合、
価格、安全、環境負荷低減の面から分散媒として有機溶媒よりも水を使用す
ることが望ましく、水系でSiCスラリーを調製することが期待されている。
一般に酸化物粉体の水系溶媒中での分散・流動性の向上にはポリアクリル
酸やポリメタクリル酸のような骨格に親水基としてカルポキシル基を有す
る高分子電解質が使用される。添加された高分子電解質は粒子表面に吸着し、
粒子表面を改質することによって静電立体安定化させ、粒子の分散・流動性
が向上する。非酸化物であるSiC粉末についても高分子電解質添加による静
電立体安定化による分散・流動性の向上が報告されている。佐野らはポリカ
ルポン酸アンモニウムとスチレンマレイン酸共重合体(SM)を分散剤として
添加し、SMの有効性を述べた2)。また、牧野らはSMがSiCスラリーの流動
性向上と濃厚化に大きく寄与していると報告した3)。さらにスチレン基とマ
レイン酸基の比率を変化させた結果、スチレン基のマレイン酸基に対する比
が1:1よりも3:1と高い比率の共重合体がSiCの分散・流動性に効果的で
あり、親水基と疎水基を併せもつ構造を有する高分子電解質の使用が有効で
41
あると報告している。一方、田中ら4)やFerreiraら5)はSiC表面が酸化されて
いるため、SiCスラリーのpHを塩基性に調整することによりSiC表面がSi-0
【として解離、静電反発力が向上し、静電安定化して分散・流動性が良好な
SiCスラリーが得られると報告した。
以上の報告で検討されているSMを分散剤として使用するためにはアン
モニアや水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)などの強塩基を添加
し、マレイン酸基中のカルポキシル基を解離させる必要がある。このため高
分子電解質と塩基が共存しており、SiCスラリーの分散・流動のメカニズム
が高分子電解質による静電立体安定化なのか、それとも塩基性pHによる静
電安定化なのか明らかとされていない。また、撤密なSiC焼成体を得るため
には、焼結助剤である炭化ホウ素、カーボンを添加した多成分系スラリーの
調製が必要不可欠であり、多成分粒子を含む分散及び流動性の良好な高濃度
スラリーを調製する上で、これら分散剤がそれぞれの粒子に与える影響を調
べることは重要である。一方SiC粉末には主な不純物として製造履歴から残
存する遊離カーボンの存在があげられる6)。SiCスラリーの調製において、
助剤として添加するカーボンのほか、この遊離カーボンの残存はさけられな
い。また、原料中の遊離カーボン量やその粉体特性はその原料の製造履歴に
依存するためにカーボンを含んだSiCの分散・流動性を評価することは難し
い。
そこで本章ではSiC原料として遊離カーボンの少ない(<0.3wt%)高純度
なSiCを使用し、焼結助剤カーボン、炭化ホウ素を含む水系SiCスラリーの
調製において、スチレンマレイン酸共重合体と水酸化テトラメチルアンモニ
ウムが各粒子の分散・流動性に対して与える影響を検討することで、
SiC-C-B4Cスラリーの分散・流動性の向上と濃厚化をはかり、鋳込み成形に
より緻密なSiC成形体及び焼成体を得る適切な調製条件を検討することを
目的とした。
42
TablelCharacteristicsofpowders.
Meanparticlesize(pm)
Speci丘csurhcearea(m2/g)
3.2
α-SiC
β・SiC
A-1
fl
0.45
0.5
15
15
B。C
Carbon
#2650
#1200
0・022
0・013
1・2
134
320
MAlOO
18
実験方法
3.2.1使用原料及び試薬
原料としてα-SiCには昭和電工製A-1を、β-SiCにはセントラルガラス製
Fを使用した。遊離カーボン量はα一白iCで0.8wt%、β-SiCで0.3wt%以下で
ある。焼結助剤には電気化学工業製の炭化ホウ素(B4C)#1200と粒子径が異
なる2種類の三菱化学製カーボン(C)MAlOOと#2650を使用した。Tablel
にメーカーより示された各種原料の粉体特性を示す。分散剤はAldrich製
TMAOHとAcros製無水スチレンマレイン酸(平均分子量:1900)にTMAOH
を加えて溶解した水溶液(SM)を使用した。スラリーのpH調整にはTMAOH
と硝酸を使用した。
3.2.2
鋳込み成形及び成形体の焼成
SiC製ポットにSiC製ボール、水、分散剤、SiC、カーボン、及び炭化ホ
ウ素粉体を所定量入れ、24時間ボールミリング混合してスラリーを調製し
た。カーボン、炭化ホウ素の添加量はともにSiC固体量(dryweightbase,
dwb)に対する相対量として添加した。分散剤の添加量はSiC固体畳または
カーボン固体量に対する相対量として添加した。調製したスラリーを真空脱
気し、石膏型(5.Ocmx5.OcmxO.5cmの平板あるいは7・OcmXl・Ocmx
o.5cmの矩形棒)に流し込み成形した。得られた成形体は室温にて乾燥した
後、さらに120℃で24時間乾燥させ、常圧血雰囲気で2150℃、1時間焼
成した。
43
20
3.2.3
評価方法
湿潤点・流動点測定7)は、2.4.1.節で述べたように液体と粉体を混合した
時の分散・流動性の評価に有効であり、粉体に対する分散剤の有効性を検討
するのに有効な評価方法である。今回TMAOHとSMについてカーボン粒子
の分散剤としての有効性を検討するために行った。ガラス板上にとった4.O
gのカーボンに分散剤を種々量添加し、ヘラで混練しながらビュレットから
徐々に水を滴下して測定した。水を滴下する過程で、カーボンが一塊になっ
たところを湿潤点、さらに水を滴下し、カーボンがヘラから流れ落ち始めた
ところを流動点とした。スラリーのレオロジー測定についてはHAAEE製レ
オメーターRS50を使用し、せん断速度(Shearrate:γ)-せん断応力(Shear
stress:耳)曲線(流動曲線)を測定し、せん断速度100s-1におけるせん断応力か
ら算出した見かけ粘度を用いて評価した。また、測定温度は25℃で行った。
電気泳動移動度については2vol%のSiCスラリーを24時間ボールミリング
して調製後、DispersionTbchnology製超音波分光方式の粒度分布・ゼータ
電位測定装置DT-1200をもちいて測定した。測定の際、支持電解質には0.01
凡才:KClを使用した。密度は、成形体については寸法、重量よりかさ密度を、
焼成体についてはアルキメデス法で見かけ密度を算出した。また、SiCの理
論密度を3.21g/cm38)として成形体、及び焼成体の相対密度を算出した。焼
成体の曲げ強度はORIENTEC社製UCTL5Tにて3点曲げ法で測定した。焼
成体を研磨した後、煮沸した村上試薬中に試料を浸漬してエッチングした9)。
村上試薬はKOH:K3Fe(CN)6:H20=1:1:2(質量比)の混合比で混合した
後、KOH、E3Fe(CN)6が溶解するまで加熱し、調製した。日立製作所製S-2400
型走査型電子顕微鏡でエッチング処理した焼成体の微細構造観察を行った。
3.3
結果及び考察
3.3.1SiCスラリーの分散・流動性に対する分散剤の影響
Fig・1にSM及びTMAOHを種々量添加したβ-SiCスラリーの見かけ粘
度を示す。SMの添加量が0.1wt%以下では流動性を示さず、測定できな
かった。しかし、SMを0.15wt%添加すると急激に見かけ粘度が低下し、
44
最小値を示し、さらに添加量を増加するにしたがって徐々に見かけ粘度が増
加する。一方、TMAOHを添加したスラリーでは、TMAOHを0.3wt%添
加するまで急激に見かけ粘度が減少し、0.3∼0.4wt%添加したスラリーで
見かけ粘度が最小となり、最も流動性が向上する。さらにTMAOHを添加
したスラリーの見かけ粘度は徐々に増加する。見かけ粘度が最小を示す
β-SiCに対するSM及びTMAOHの添加量はそれぞれSiC固体量に対して
0.15wt%、0.35wt%であり、この時のスラリーのpHはともにpHlO∼11
である。
Fig.2にSM及びTMAOEをそれぞれ上述した最適添加量添加し、種々
固体濃度に調製したβ一SiCスラリーのミリング時間に対する見かけ粘度の
変化を示す。SMを添加したスラリーの見かけ粘度は固体濃度の増大ととも
に徐々に増加し、72.5wt%以上スラリーで急激に増加する。また、ミリン
グ時間を長くするにしたがって徐々に見かけ粘度が増加し、特に70wt%以
上の濃厚化されたスラリーにおいて120時間以上ボールミリングしたスラ
リーの見かけ粘度は急激に増加する。TMAOHを添加したスラリーも、SM
を添加したスラリーの見かけ粘度の増加ほど急激ではないものの、固体濃度
の増加及びミリング時間の増大とともに徐々に見かけ粘度が増加する。これ
らの結果から、SM及びTMAOHを添加したスラリーはともに濃厚化でき、
固体濃度70wt%のSiCスラリーで良好な流動性を示すことがわかる。この
時、最適なスラリーのpHは10∼11であった。一方、Fig・2からミリング
時間が長くなるとSiCスラリーの流動性が悪化しているため、以降の実験
においてスラリー調整におけるミリング時間を24時間とした。
ここでTMAOHとSMがβ-SiCスラリーの分散・流動性に対する影響につ
いて検討した。2.3.2.節で述べたようにスラリーの分散性の評価としてゼ
ータ電位(または電気泳動移動度)測定があげられ、ゼータ電位から水系溶媒
中のSiC粒子の表面電荷状態を評価できる。そこでSMを種々量添加したSiC
スラリーを調整しpHを変化させてSMがSiC粒子表面に与える影響を検討
した。Fig.3にSMを種々量添加したβ-SiC粒子の電気泳動移動度
45
s責\㌔卓sOUSモ已巴邑dく
00
′0
4
2
.0
0.2
0.4
\㌔卓sOUSモ宕J已号
0.6
0.8
0.6
0.8
SM/wt%dwbofSiC
(a)SM
′0
●
4
●
Fig.l.Apparent
2
.0
0.2
0.4
TMAOH/wt%dwbofSiC
(b)TMAOH
viscosity
for
β-SiC slumies
amountsofSMorTMAOH.
46
with
various
sよ\㌔卓sOUSモ宕岳d者
.月
っJ
2
1
0.0
70
65
75
SolidsloadingofSiC/wt%
(a)0.15wt%SM
s責\㌔昏sOUSモ宕-邑者
4
っJ
2
l
0.0
65
70
75
SolidsloadingofSiC/wt%
(b)0.35wt%TMAOH
Fig.2.Apparentviscosityvs・SOlidsloadingofβ-SiCslurries
withoptlmumamOuntSOfSMorTMAOHforvarious
millingtlme.
47
4
6
8
10
12
pH
Fig.3.Electrokinetic
behavior
ofβ-SiC
particles
with
amountsofSMandapparentviscosityfor70wt%slumies
inthebasicpHrange.
SdJ帖㌔音OUづ宏一邑者一2
t.slゝ笥\倉-竜∑
2
various
と固体濃度70wt%のβ-SiCスラリーの見かけ粘度を示す。水溶液中で酸化
物粒子は一般的に水和反応により表面に水酸基をもつ。この水溶液のpHに
よって表面水酸基にプロトンの付加、引き抜きが起こり、粒子表面は正また
は負に帯電する。この水溶液中に外部より電場を加えると、粒子は表面の帯
電の度合いに応じて帯電と反対符号の電極側へ移動する。電気泳動移動度と
はこの電場をかけた時に粒子が移動する速度をいい、ゼータ電位と同様に、
これを測定することによって粒子の表面電荷を推定できる。SiC粒子の電気
泳動移動度はpHに大きく依存している。Ⅹ線光電子分光分析法(ⅩPS)による
SiC表面分析結果10,11)について報告されているように、SiC粒子表面には酸
化したシリカ(SiO2)層が存在している。水溶液中でこのSiC粒子表面に存在
するSiO2層は水和反応によって水酸基をもち、シラノール基(Si-OH)となる。
低いpHでは、Si-OHはプロトン付加によってSi-OH2+となり正に帯電する。
48
一方pHが高くなるとSi-OHからのプロトン引き抜きによってSi-0
となり
負に帯電する。見かけ上、ゼータ電位が0となる点を等電点(iso-electric
point,iep)と呼び、粒子の酸性度によって変化する。SiO2の等電点がpH2
付近12)であるのに対して、本実験で使用したSiC粒子の等電点は約pH4を
示す。PH4以上ではSi-OHからプロトンの引き抜きによって、粒子表面は
負に帯電する。さらにpHが上昇するとこの解離が促進し、電気泳動移動度
が負となりその絶対値が増大する。一方、SiCスラリーの見かけ粘度はpHlO
まで減少し、pHlO∼11で最小値を示し、さらにpHを上昇させると見かけ
粘度は増加する。このSiCスラリーの流動性が最も向上するpHlO∼11に調
整するのに必要なTMAOHの添加量はSiC固体量に対して0.25∼0・35wt%
である。この水系SiCスラリーの流動挙動は主にSiC粒子表面に存在する
SiO2の静電特性によって支配され、pHlO以上では粒子の表面電荷の絶対
値が大きくなり、SiC粒子間に働く静電反発力が増大する。このため
TMAOHのような強塩基がSiCスラリーの分散・流動性に有効と考えられる。
一方、SMを種々量添加したSiC粒子の電気泳動移動度はSMを添加していな
いSiC粒子の電気泳動移動度と比較して、どのpH領域においても変化が認
められない。この等電点及び電気泳動移動度の変化からSMを添加しても
SiC粒子表面はほとんど表面改質していないと考えられる。このため
TMAOHによってpHを調整し分散安定化したSiCスラリーにおいてSMを
添加してもSiCスラリーの分散性にはほとんど影響をしないと考えられる。
以上の結果から、水系SiCスラリーの流動挙動は主にSiC粒子表面に存
在する表面酸化層の静電特性に依存し、TMAOEなどの塩基を添加するこ
とによってスラリーは塩基性を示し、SiCの表面電荷は負となりその絶対値
が増大し、粒子間の静電反発力が増加して分散・流動性の向上が促進される
と考えられる。
3.3.2
カーボンスラリーの流動性に対する分散剤の影響
カーボンの分散・流動性に対する分散剤の影響を明確にするため、
49
J∈\hO届き
0
5
20
40
60
80
TMAOH/wt%dwbof#2650
Fig・4・Flow
and
wet
polntS
Of#2650particles
with
various
amountsofTMAOH.
β-SiCスラリーと同様にTMAOHを添加してスラリーの調製を試みた。Fig.
4にカーボン#2650に種々量TMAOH添加した際の流動点、湿潤点の測定
結果を示す。#2650に対して80wt%までTMAOHを添加しても流動点、
湿潤点に変化は認められず、カーボンスラリーに対してTMAOHは分散・
流動性促進剤として有効ではないことがわかる。一方、Fig.5に示すように
SMを添加した場合、#2650とMAlOOの2種類のカーボン粉末ともにSM
の添加量が増加するにしたがって、流動点、湿潤点が減少し、#2650、MAlOO
に対してそれぞれ約10wt%、6wt%のSM添加で流動点は最小値を示す。
F短.6に種々量のSMを添加した#2650とMAlOOの水系スラリーの見か
け粘度を示す。Fig.5の湿潤点から算出した流動性を有する濃厚化限界が
#2650で32wt%、MAlOOで39wt%であったことから、固体濃度はそれぞ
れ#2650が25wt%、MAlOOは35wt%とした。#2650スラリーとMAlOO
スラリーで固体濃度が異なるものの、SMを添加することで両スラリーの見
かけ粘度が減少し、流動性が向上する。見かけ粘度の値が最小を示す#2650、
50
J∈\JO葛L声
0
5
10
5
SM/wt%dwbofcafbon
Fig・5・FlowandwetpolntSOf#2650andMA100particleswith
variousamountsofSM.
s£\㌔虐sOUS三宅邑dく
つJ
●
●
2
1
0.0
6
4
8
10
SM/wt%dwbofcatbon
Fig・6・Apparentviscosityfor#2650andMAlOOslurrieswith
variousamountsofSM.
51
MAlOOに対するSMの最適添加量はそれぞれ9.5wt%、5.5wt%であり、Fig.
5における流動点の結果と一致する。この最適添加量の違いはカーボンの
Tablelで示したように比表面積の違いと考えられる。比表面積が増大する
にしたがって疎水性表面を親水性表面へと改質するのに必要な分散剤量が
増加するため、比表面積の大きなカーボン#2650はMAlOOより多くの分散
剤が必要であると考えられる。SMはその構造中に親水基としてカルポキシ
ル基(-COOH)をもつマレイン酸基と疎水基としてベンゼン核をもつスチレ
ン基をあわせもっている。SMのスチレン基はカーボンの疎水表面に吸着し、
マレイン酸基中の-COOHが解離してカルポン酸イオン(-COO-)となり、粒
子間の静電反発力が増加することによって粒子間で作用する引力である
vanderⅥねals力に打ち勝ち、カーボン粒子の水系溶媒への親和力を向上し
ていると考えられる。さらに吸着したSMがカーボン粒子表面に水系溶媒中
に広がりをもって吸着層として存在し、立体安定化効果も分散に寄与すると
考えられる。以上の検討結果からSMの添加は水系溶媒におけるカーボンス
ラリーの分散・流動性の向上を促進すると考えられる。
3.3.3
SiC・C混合スラリーの流動性に対する分散剤の影響
以上の結果から水系SiC及びカーボンスラリーを調製する上でTMAOH
とSMはそれぞれSiCとカーボンの分散及び流動性に重要な役割をもつこと
を示した。しかし、高密度なSiC成形体、焼成体を得るためには焼結助剤を
含むSiC-C-B4C混合スラリーの分散・流動性についても評価する必要がある。
そこでSiC-Cスラリーの分散・流動性を向上させるため、SiCとカーボンの
混合スラリーにおけるSMとTMAOHの役割を検討した。
SiCにカーボン#2650を2wt%添加した混合粉体にTMAOHをSiC固体量
に対して前述した最適添加量である0.35wt%を加え、種々量SMを添加し
たスラリーの流動性を評価した。その結果をFig.7に示す。SMはカーボン
#2650の固体量に対する相対量で添加した。#2650とSiCの混合スラリーに
おいてSMを#2650固体量に対して8.5∼10wt%添加した際に良好な流動性
を示し、10wt%以上SMを添加すると見かけ粘度が増加し流動性は
52
9
11
10
SM/wt%dwbof#2650
Fig.7.Apparent
viscosity for
70
β-SiC
wt%
slurries
containlng2wt%#2650inthepresenceofvarious
amountsofSM.
低下する。そしてSMを9.5wt%添加した時、#2650を含むSiCスラリーの
見かけ粘度が最小となり、その最適添加量は前述した#2650を用いたカーボ
ンスラリーにおける最適添加量と同じ値を示す。この結果からSiCとカーボ
ンの混合スラリーにおいても、SMがSiCの酸化されていない疎水性表面に
吸着し、SiC粒子表面に吸着層を形成して立体静電安定化によりSiCスラリ
ーの分散・流動性が促進するとは考えにくく、TMAOHがSiC表面に存在す
るシラノール基(Si-OE)に作用し、それが解離してSiO
を形成することで静
電安定化してSiC粒子の分散・流動性を促進すると考えられる。そして添加
したSMは優先的にカーボン表面に吸着、静電立体安定化によってカーボン
の分散・流動性を促進すると考えられる。
この結果はSiCやカーボンの粉体特性が異なり、混合比が変わったとし
てもSiCに対してTMAOHを、カーボンに対してSMをそれぞれ最適量添
加することで良好な分散・流動性を示すSiC-Cスラリーを容易に調製する
53
ことができることを示唆している。
3.3.4
SiC・C・B4C混合スラリーの調製
Fig.8にβ-SiC及びβ一SiCとカーボンの混合スラリーに種々量炭化ホウ素
を添加したSiC-C-B4Cスラリーの見かけ粘度を示す。炭化ホウ素、カーボン
はSiC固体量に対して添加し、カーボンとしてMAlOOを使用した。炭化ホ
ウ素の添加量が増加するに従い、SiCスラリーの見かけ粘度はわずかに増加
傾向を示すものの、SiCにカーボンを2wt%添加した混合スラリーにおける
見かけ粘度は炭化ホウ素の添加量に依存せず変化が認められない。この結果
よりSiCスラリー及びSiC-Cスラリーの流動性に対して炭化ホウ素の添加は
ほとんど影響しないと考えられる。一方、炭化ホウ素を種々量添加したSiC
スラリーとSiC-Cスラリーの見かけ粘度を比較した場合、カーボンの添加量
が
2
wt%であるにもかかわらず、SiC-Cスラリーの見かけ粘度は
9
10
11
SM/wt%dwbof#2650
Fig・8・Apparent
viscosityforβ-SiC
amountsofB^C.
54
slurries
with
various
SiCスラリーの見かけ密度に対して大きく増加する。このことから分散・流
動性が良好な高濃度SiC-C-B4Cスラリーを調製する上で助剤カーボンの分
散・流動性を向上させることが重要であるといえる。SiC及びカーボンスラ
リーにおける分散剤の最適添加量として、TMAOHをSiC固体量に対して
0.35wt%、SMをカーボン固体量に対して5.5wt%を水に添加し、これにSiC
粉末、SiC固体量に対して2wt%のC粉末、SiC固体量に対して0.2∼0.6wt%
のB4C粉末を加え、ボールミリングしてSiC-C-B4Cスラリーを調製した。
SiC-C-B4Cスラリー調製の条件をThble2に示す。この時のスラリーの固体
濃度は70wt%とした。次にこの条件で調製したスラリーを用いて鋳込み成
形し、得られた成形体を焼成した。
3.3.5
SiC・C・B4C系焼結体
Fig.9に助剤カーボンとしてMAlOOと#2650を使用し、種々量炭化ホウ
素を添加した成形体、焼成体の密度変化を示す。MAlOO及び#2650を使用
した成形体密度はともに炭化ホウ素の添加量に依存せず、一定である。また、
MAlOO及て畑2650を使用した成形体密度に違いはほとんどなく、成形体の
相対密度は62∼63%を示す。一方、焼成体密度ではMAlOOを使用したSiC
焼成体は炭化ホウ素を0.25wt%添加するまで急激に増加し、0.25∼0・5wt%
の添加で緩やかに増加、炭化ホウ素を0.5∼0.6wt%添加することで焼成体
密度は最大を示し、相対密度96.7%となる。#2650を使用したSiC焼成体は
0.3wt%添加まで焼成体密度が増加し、炭化ホウ素を0.3∼0.6wt%添加し
た焼成体は相対密度98.3%となる。また、炭化ホウ素の添加量0.2∼0・6
Table2CompositionofSiC-C-B4Cslurries
TMAOH
30
Powder/wt%
Dispersant/wt%
Water/wt%
0.35
SM
5.5(MAlOO)9.5(#2650)
SiC
C
B4C
70
2
0.2∼0.6
AddedamountofTMAOH,CabonandBoroncarbide:Dry-Weight-baseofSiC・
AddedamountofSM:Dryweight-baseofcarbon.
55
㌔\首s宕pOA--jU出
?
∈U瑚\宮s已Oq
2
l
0.2
0.4
0.6
B4C/wt%dwbofSiC
?
3ぞ合s宕pぎ毒。出
己0餌\倉s已Opp巴0盲{S
0.2
0.4
0.6
B4C/wt%dⅥゐofSiC
Fig.9.GreenandsintereddensitiesfortheSiCslumieswith2
Wt%#26500rMAlOOasafunctionofB4Camount.
56
wt%のうち、すべての調合において#2650を使用した焼成体密度はMAlOO
を使用した焼成体よりも高い密度を示す。一般に微粒のカーボン粉末はその
疎水性表面と比表面積の高さのため非常に凝集しやすい。この凝集によって
成形体中のカーボン濃度は不均一となり、焼結助剤として十分に機能せず、
緻密化しないばかりか焼成時に密度ムラを引き起こし、強度低下の要因とな
る残留応力やクラックの原因にもなる。しかしながら今回の結果はナノサイ
ズのカーボンを使用したにもかかわらず成形体、焼成体の密度は高い値を示
す。特に平均粒径13nmをいうナノサイズカーボンを使用したSiC焼成体の
密度はカーボン源としてフェノール樹脂やピッチタールを使用し、有機溶媒
中で混合、乾燥して調製した頼粒をもちいて静水圧等方加圧プレス成形
(coldisostaticpressing,CIP)したSiC焼成体密度(相対密度97∼98%)13,14)
と同等以上の値である。焼結助剤としてのカーボンの役割としてはSiCの表
面酸化層の除去と粒界エネルギーの低減化が報告されている15,16)。このた
めSiCの焼結を促進させるにはカーボンを成形体中で均一に分散させるこ
とが不可欠である。フェノール樹脂やピッチタールはヘキサンやベンゼンな
どの有機溶媒をもちいたスラリーに添加するため均一分散が容易であり、高
密度な焼成体を得やすい。本研究の結果はこれらと同等以上の結果を得てお
り、水系コロイドプロセスにおいても焼結助剤カーボン粒子が成形体中で均
一に分散していると考えられる。
調製したSiC-C-B。Cスラリー中では、SiCは表面酸化層のSi-OHの解離
(Si-0-)による粒子間の静電反発力により分散し、カーボンは表面にSMが吸
着しSMがもつ-COOⅢの解離(-COO
)と吸着したSMの溶媒中への広がりに
ょる静電立体安定化によって分散すると考えられる。ここで解離したSi-0
と一COO-はともに負に帯電しており、SiC粒子とカーボン粒子の粒子間につ
いても静電反発力より分散安定化し、カーボン粒子はスラリー中に均一に分
散すると考えられる。そして相対密度98.3%の焼成体が得られたことは助剤
として添加したカーボンがSiC-C-B4Cスラリー中均一に分散していること
を示すものといえる。同様のプロセスからα-SiC粉体をもちいて成形体、焼
成体を作製した結果、焼成体は相対密度:97.5%という高密度な焼成体が得
57
♪土之\卓ぎ巴-Sぎ葛已0の
00
00
0.0
0.2
0.4
0.6
B4C/雨%dwbofSiC
Fig・10・BendingstrengthofsinteredSiCbodyasafunction
OfaddedamountsofBdC.
られた。Fig.10に種々量炭化ホウ素を添加したα-SiC及びβ-SiC焼成体の曲
げ強度を示す。Fig.9で示した焼成体密度の変化と同様に炭化ホウ素の添加
量が増加するにしたがって曲げ強度が増大する。しかし、焼成体密度は炭化
ホウ素を0.6wt%添加まで添加した焼成体において高い値を示すのに対し、
曲げ強度は炭化ホウ素を0.35∼0.5wt%添加した焼成体で最大となり、さら
に炭化ホウ素を添加すると徐々に減少する。これは田中ら16)が報告している
ようにホウ素源を過剰に添加すると粒子の板状粒子がさらに成長し、異常粒
成長することで強度低下を起こすためであると考えられる。一方α一SiCの曲
げ強度はβ-SiCと比較して約100MPa低い値を示す。Fig.11にカーボンを
2wt%、炭化ホウ素を0・4wt%添加して最も高密度であったα-SiC及びβ一SiC
焼成体の微細構造観察結果を示す。β-SiCでは粒子が柱状に伸びた微細構造
であるのに対してα-SiCは粒子が等方的に成長した微細構造となり、等方的
な粒子は柱状結晶に比べてアスペクト比が低く、破壊進展を抑制しにくいこ
とが影響していると考えられる。
58
今回提案したプロセスにおいて、比表面積が高く分散させることが困難な
平均粒径13nmというナノサイズのカーボンとSiCがSiC-C-B4Cスラリー中
で均一に分散されており、調製したスラリーから高密度な成形体及び焼成体
を得ることができた。このことから、今回検討したプロセスはカーボンと炭
化ホウ素を含む多成分系のSiCスラリーの分散・流動性を向上するのに適切
な方法といえる。
(a)α-SiC
(b)β-SiC
Fig.1l.MicrostruCtureSOfsinteredbodies(a)α-SiCand(b)β-SiC・
59
結論
3.4
本研究により以下の結果が得られた。
1.SiCの分散にTMAOHは有効であり、PHを10∼11に調整することで
SiCスラリーの流動性は向上し、固体濃度75wt%まで濃厚化することが
できた。
2.SMの添加により水系カーボンスラリーの調製が可能となった。
3.カーボンを含む水系SiCスラリーの流動性の向上においてTMAOHと
SMはそれぞれ主にSiC、カーボンの分散・流動性に寄与し、良好な分散・
流動性を示すSiC-CスラリーはSiCに対してTMAOHを、カーボンに対
してSMをそれぞれ最適量添加することで容易に得ることができた。
4.B4CはSiC-C-B4Cスラリーの流動性にほとんど影響をおよぼさず、高濃度
SiC-C-B4Cスラリー調製において助剤として添加するカーボンの分散・
流動性の向上が重要な要因であることがわかった。
5.今回のプロセスで調製した炭化ホウ素、カーボンを含むSiCスラリーを
用いて鋳込み成形し、焼成した結果、高密度な成形体、焼成体が得られ、
α-SiC及びβ-SiC焼成体の相対密度はそれぞれ97.5%、96.7%を示した。
6.β-SiCを使用し、粒径が異なる2種類のカーボンを使用した結果、より高
い比表面積をもつ粒径が小さなカーボンを使用し、炭化ホウ素を0.3∼
0.6wt%添加することで相対密度がさらに向上し、98.3%という高密度な
焼成体が得られた。
60
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62
第4章カーボンスラリーの分散■流動性に対する種々分散剤の
影響
4.1はじめに
第3章において助剤カーボン、炭化ホウ素を含む水系高濃度SiCスラリー
の調製においてカーボンの分散・流動性の重要性について記述した。カーボ
ンの分散については印刷用インク、有機高分子材料の製造プロセス、ケーブ
ルのコーティングなど多くの工業分野で検討されている。これらの工業で用
いられるカーボンスラリーは一般にカーボンがもつ疎水性表面と比表面積
の大きさのため、水に分散させることが困難であり、非水系溶媒が用いられ
る。水系でのカーボンスラリーの分散・流動性については比表面積が比較的
小さく、カーボンとしての純度も高くない石炭の微粉末を水に分散させた石
炭水系スラリー(coalwatermixture,CWM)で研究されてきた。オイルショ
ックを契機に燃料オイル代替のエネルギー源として期待されたCWMl
3)は
炉内に導入、直接燃焼されることから、固体濃度が高く、分散安定化し、流
動性がよいことが求められる。そこで高濃度で分散・流動性が良好なCWM
を得るため、アニオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤など高分子分散
剤を添加することが報告されている1-4)。しかし、CWMに用いられる石炭と
比較してSiCの助剤として使用するカーボン5)は純度、粒子径、表面状態な
どの粉体特性において大きく異なる。SiCの助剤としてのカーボンはSiC成
形体中に均一に分散していること、さらに助剤中の不純物がSiCの焼成後、
密度や焼成体の物性に影響を与えることから、カーボン原料としては微粒で
純度の高いカーボンブラックなどが望まれる。
そこで、本章では微粒カーボンを使用して水系にて分散、流動性が良好な
高濃度カーボンスラリーを得るための最適な調製条件を検討した。分散剤と
してスラリー中に添加した骨格にべンゼン環とカルポキシル基をもつSM、
ベンゼン環とスルホン基をもつポリスチレンスルホン酸、ナフタレン環とス
ルホン基をもつナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などを使用し、流動
性、分散性に与える影響について検討した。
63
実験方法
4.2
4.2.1使用原料及び試薬
原料のカーボンには三菱化学社製#2650を使用した。メーカーより提示
された平均粒径と比表面積はそれぞれ13nm、比表面積320m2/gである。
このカーボンを150℃で24時間真空乾燥させた後、Micromeritics製ヘリウ
ムピクノメーターAccupy1330を使用して粉体密度を測定した結果、1.9
g/cm3であった。分散剤として次に示す3種類の高分子電解質を使用した。
①Acros製無水スチレンマレイン酸に水酸化テトラメチルアンモニウム
(TMAOⅢ)を加えて溶解させた水溶液(SM)、②ライオン製ポリスチレンスル
ホン酸ナトリウムPS-1900、③花王製βサフタレンスルホン酸ホルマリン縮
合物のアンモニウム塩DEMOL-ASを溶解させた水溶液(DEMOL-AS)で
ある。スラリーのpH調整にはTMAOHと硝酸を使用した。ポリスチレンス
ルホン酸(HPSS)についてはポリスチレンスルホン酸ナトリウムをイオン交
換して調製した。Fig.1に分散剤として使用したそれぞれの高分子電解質の
単位ユニットの分子構造を示す。また、恥blelにそれぞれの高分子電解質
の平均分子量と平均分子量より算出した平均ユニット数を示す。
4.2.2
スラリー調製
ポリプロピレン製ポットにSiC製ボール、水、分散剤、カーボン粉体を
所定量入れ、24時間ボールミリング混合してスラリーを調製した。スラリ
ーのpHは硝酸及びTMAOHで調整した。分散剤はカーボン固体量(dry
Tablel.Averagemolecularweightandaveragestructureunit
numberofvariousdispersants.
Polyelectrolyte
SM
HPSS
DEMOL-AS
Averagemolecularweight
1900
14000
7000
Averagestructureunitnumber
4.6
76.1
31.6
64
.EM。L_A
Fig・1・Molecularstructuresofvariouspolyelectrolyte
asdispersants.
weightbase,dwb)に対しての相対量として所定量添加した。
4.2.3
スラリーの評価
沈降体積は100mLの比色管(高さ約30cm)に1vol%のカーボンスラリー
を100mL入れ、栓をして24時間静置した後、沈降した部分の体積を測定
した。各スラリーのレオロジー挙動はHAAKE製レオメーターRS50を使用
し、せん断速度(Shearrate:†)-せん断応力(Shearstress:て)曲線(流動曲線)
を測定し、せん断速度100s-1におけるせん断応力から算出した見かけ粘度
から評価した。ゼータ電位測定については2vol%のカーボンスラリーを用
いてDispersionTbchnology製超音波分光方式粒度分布・ゼータ電位測定装
置DT-1200で測定した。測定の際の支持電解質としてKClを用い、0・01〟
になるようにスラリーを調製した。各測定は温度25℃で行った。
65
づと\0∈nlOA}ロひ∈葛OS
2
4
6
8
10
12
pH
Fig.2.Sedimentvolumes
ofaqueous
carbon
slurries
WithoutdispersantasafunctionofpH.
4.3
結果及び考察
4.3.1水系溶媒中のカーボン粉末の特性
Fig.2に種々pHにおいて分散剤無添加の1vol%(約2wt%)カーボンスラ
リーの沈降試験を行い、24時間静置した後の沈降体積を示す。pH2∼11
においてpHに依存せず、カーボンスラリーのから沈降した体積はほぼ同じ
値を示し、20∼30mLというかさ高い沈降層を形成する。このことからカ
ーボン粒子はpHに依存せず、水系溶媒中で凝集していることがわかる。ま
た、ゼータ電測定結果においてもpH2∼12の領域で、水系溶媒中のカーボ
ン粒子のゼータ電位の絶対値は3mV以下と非常に低い値であった。各粒子
をプレス成形して作製したペレットに水を滴下して接触角を測定した結果、
カーボンブラックは石炭よりも接触角が高く、水に対して濡れ性が悪いと報
告されている6)。このことからカーボンブラック粉末は石炭粉末以上に疎水
性表面をもつといえる。一方、原料の製造履歴に依存するが、カーボンブラ
ック表面にはフェノール性水酸基、カルポキシル基といった酸性酸化物、カ
66
+NaOH
+NaOH
八0八
ピロン様構造
+HCl
→
CO♂N㌘+H20…‥(1)
→
0$ぽ+H20
→
…‥(2)
品
懲
・‥‥(3)
ルポニル基、キノン基などの中性酸化物、そしてピロン様の官能基をもつと
考えられる塩基性酸化物が存在していることが報告されている7)。水系溶媒
中では、これら表面酸化物が親水性を示し、等電点より塩基性域では式(1)、
式(2)に示すようにカルポキシル基、フェノール性水酸基など酸性酸化物が
解離し、カーボンブラックの表面電荷は負の値を示す。また、等電点より酸
性側では式(3)に示すような塩基性酸化物による酸の吸着によりカーボンブ
ラック粒子表面は正の電荷を示すと考えられている8)。また、カーボンブラ
ックの等電点はその親水性表面の割合に左右され、表面に酸化物を形成して
いる粒子は酸性側に、還元加熱処理により表面がグラファイト化した粒子の
等電点は塩基性側にシフトし、表面酸化状態によりpH4.5∼11・5の領域で
変化することが報告されている9)。このように表面酸化物によって表面に電
荷を示すが疎水性表面が多く、その表面電荷の絶対値は非常に小さく、粒子
間の静電反発力はほとんど寄与せず、VanderWaals引力により凝集構造を
形成すると考えられる。また、今回の沈降試験の結果においてスラリーの上
澄みはpH2∼4では透明であった○これはカルポキシル基のp瓜は3∼5と
報告されており8)、pH4以下ではカーボン表面のカルポキシル基が解離せ
ず、凝集が促進していると考えられる。このような結果から水系で分散・流
67
動性が良好な高濃度カーボンスラリーを調製するにはカーボン粒子の疎水
性表面を親水性表面に改質する必要があることがわかる。
各種分散剤の添加効果
4.3.2
Fig.3に各種分散剤を所定量添加したカーボン粒子のゼータ電位を示す。
分散剤を添加していないカーボン粒子のゼータ電位は2∼3mVと極めてわ
ずかであるが正の電荷を示す。これに分散剤を添加することでカーボンのゼ
ータ電位は正から負へと変わり、分散剤を10wt%添加するまで、添加量が
増加するにしたがってゼータ電位は負に増大する。この傾向はDEMOLAS、HPSS、SMいずれもほぼ同じ挙動となり、分散剤を10wt%添加した
時に負を示すゼータ電位の絶対値は最大を示し、分散剤を10wt%以上添加
した時ほぼ一定の値を示す。この結果から分散剤を添加することによってカ
ーボン粒子の表面電位が増大し、静電反発力が増大して、粒子間で引力とし
て働くvan
der
Waals力に打ち勝ち、水系溶媒中でカーボンの分散を
>∈こ遥已0-Od属ちN
0
10
20
Amountofdispersant/wt%dwbofcafbon
Fig.3.Electrokineticbehaviorsofcarbonparticlesasa
functionofamountsofvariousdispersants.
68
30
促進させると考えられる。CWMでは石炭の疎水性表面に高分子分散剤のベ
ンゼン環などの官能基が選択的に吸着することが既に報告されている6,10)。
このことからDEMOL-AS中のナフタレン環やSMやHPSS中のベンゼン
環などの官能基がカーボンの疎水性表面へ吸着し、分散剤がもつ親水基によ
り、その表面を親水性表面へと改質し、カーボン粒子の表面電位を増加させ
ると考えられる。
Fig.4に各種分散剤の添加量がカーボンスラリーの見かけ粘度に与える
影響を示す。カーボンスラリーの固体濃度は25wt%とした。SMを添加し
たカーボンスラリーの見かけ粘度は9.5wt%添加まで急激に低下し、さらに
添加すると見かけ粘度が増大する。HPSSを添加したカーボンスラリーの場
合、スラリーの見かけ粘度は17wt%添加まで徐々に減少し、それ以上添加
するとゆっくりと見かけ粘度が増大する。DEMOL-ASを添加したカーボ
ンスラリーでは、その見かけ密度は17∼40wt%添加の広範囲でSM、
ShearratelOOs-1
つJ
sよ\㌔昏sOUSモロ巴已阜
ロ、L甘
一-⊂トーSM
-△-HPSS
-0-DEMOL-AS
2
\頓_〆一一△
1
20
10
Amuntofdispersant/wt%dwbofcafbon
Fig・4・Effbctsofamounts
ofvariousdispersantson
apparentviscosityof25wt%carbonslurries・
69
40
HPSSに比べて非常に低い値を示す。種々分散剤を添加したスラリーの見か
け粘度が最小を示す分散剤の添加量はカーボン固体量に対してそれぞれ
SMが9.5wt%、HPSSが17wt%、そしてDEMOL-ASが20wt%である。
SM、HPSS、DEMOL-ASをそれぞれ添加し、見かけ粘度が低くなる領域
では、Fig.3に示したようにどの分散剤を添加したカーボン粒子のゼータ電
位についても同じ値を示す。水系溶媒中で固体粒子分散系の分散・凝集に及
ぼす効果として粒子表面の帯電による静電安定化効果のほかに立体安定化
効果があげられる。高分子が粒子表面に吸着する際、ある厚みをもって粒子
を被覆して吸着層を形成する。この高分子が吸着した2つの粒子が接近し、
吸着層が接触すると、吸着層の重なり付近の高分子濃度が高くなるとともに
吸着層がひずむ。そして重なり部分には、高分子濃度を緩和するために粒子
間に溶媒が浸透しようとする浸透圧効果と吸着層の状態を元の状態に戻そ
うとする弾性効果が起こり、粒子は反発しあう。この効果は立体安定化効果
と呼ばれている。この効果は吸着した高分子サイズと濃度、溶媒により左右
される。本研究で使用した分散剤はいずれも陰イオン性高分子電解質であり、
カーボンの分散に与える影響は静電反発力による静電安定化効果と立体安
定化効果をあわせもつ(静電立体安定化)。分散剤の種類による見かけ粘度の
違いは静電安定化とともに吸着した分散剤の親水基の種類の違いや分子サ
イズの違いなどによる静電立体安定化の影響が寄与すると考えられる。
Tablelに示すとおりSMはHPSS、DEMOL-ASと比較して平均分子量
が小さく、平均分子量より算出した1分子あたりの平均のユニット数も
HPSS、DEMOL-ASと比較して1/10∼1/20ほど少なく短い。このため立
体安定化効果はあまり寄与せず、HPSS、DEMOL-ASを添加したカーボ
ンスラリーほど流動性が向上しなかったと考えられる。
ここで各分散剤の分子サイズの影響を検討するため、本研究で使用した分
散剤の添加量を単位ユニットあたりのモル濃度として算出し、それぞれの分
散剤の単位モル濃度が見かけ粘度に与える影響をFig.5に示す。HPSSと
DEMOL-ASを添加したカーボンスラリーの見かけ粘度はほぼ同じ単位モ
ル濃度で最小を示す。しかし、DEMOL-ASを添加したスラリーの見かけ
70
ShearratelOOs-1
sdd\㌔昏sOUSモ已ひ岳d阜
つJ
廿SM
ロlllll宙
r△-HPSS
-0-DEMOL-AS
2
箇
1
0.1
0.01
AmountOfdispersant/umitmol%dwbofc∬bon
Fig・5・Apparentviscosityofaqueouscarbonslurriesasa
functionofstructureunitofvariousdispersants.
粘度は、同じ親水基であるスルホン基をもつHPSSと比較して極めて低い
値を示す。DEMOL-ASとHPSSを用いて調製されたカーボンスラリーの
流動性の違いはそれぞれの分散剤がもつベンゼン環、ナフタレン環などの官
能基の違いと考えられる。DEMOL-AS中のナフタレン環はSMやHPSS
中のベンゼン環と比較して、かさ高い構造であることから、立体安定化に大
きく寄与していると考えられる。これらの理由からDEMOL-ASの添加に
ょってカーボンスラリーの流動性は著しく向上すると考えられる。さらにこ
の立体安定化効果について検討するために、高分子電解質の吸着量測定を試
みたが、カーボンの比重の低さと粒子径の小ささのため、遠心分離でカーボ
ン粒子を分離することができず、カーボン表面に対する分散剤の吸着量を測
定することができなかった。今後も分散剤の構造、分子サイズなどがカーボ
ンの分散、流動性に与える影響について引き続き検討を行う予定である。
71
4.3.3pHが各種分散剤を含むスラリーの分散・流動性に与える影響
Fig.6に種々分散剤を含むカーボン粒子のゼータ電位に与えるpHの影響
について調べた結果を示す。DEMOL-AS、ⅢPSS、SMの添加量は前述し
た分散剤のそれぞれの最適量を添加した。カーボンスラリーにSMを添加し
た場合、PH8までpHが上昇するにしたがってカーボン粒子のゼータ電位は
負に増大し、その後一定の値を示す。SMが吸着したカーボン粒子の静電相
互作用は主にSMの親水基であるカルポキシル基に依存しており、酸性領域
では解離せずに、塩基性領域で解離しカルポン酸イオン(-COO
)として存
在する。このために、酸性から中性領域ではカルポキシル基の解離度が小さ
く、分散剤が吸着した粒子の表面電位は小さくなり、静電反発力が弱くvan
derⅥねals引力を克服できずカーボン粒子は凝集すると考えられる。これに
対して塩基性領域では粒子表面のカルポキシル基の解離度が高くなり、粒子
間の静電反発力は強くなると考えられる。このことからSMが分
宅\l遥眉ひ}Odd-ON
2
4
6
8
10
12
pH
Fig.6.Effbcts
ofpH
on
electrokineticbehavior
Carbonslurriescontainingvariousdispersants.
72
of2vol%
s£\㌔卓s00Sモ已0岳ddく
4
6
8
10
12
pH
Fig・7・EfEbctsofpHonfluidityof25wt%carbonslurries
withoptimumconcentrationofDEMOL-AS・
散剤として有効に機能するためには水溶液のpHを塩基性に調整する必要が
ある。一方、HPSS、DEMOL-ASを添加した粒子のゼータ電位はpHに依
存せず、PH2∼11で一定の値を示す。HPSS、DEMOL-ASがもつ親水基
のスルホン基はpHに依存せずに解離するため、これらが吸着した粒子はpH
に依存せずに安定して親水性を示す。このことから、広いpH領域でカーボ
ン粒子の表面電位は負で大きな値を示し、静電相互作用により分散が促進す
るため流動性が向上すると考えられる。Fig.7に示すDEMOL-ASを添加
したカーボンスラリーの流動挙動はこの界面動電挙動を反映している。酸性
から塩基性領域までの広いpH範囲においてカーボンスラリーの見かけ粘度
はほとんど変化せず、良好な流動性を示す。HPSSを添加したカーボンスラ
リーの流動性は、DEMOL-ASを添加したスラリーほど向上しないが、流
動性に与えるpHの影響はDEMOL-ASを添加したスラリーと同様にほと
んどない。3.3.1節で述べたようにSiCの分散、流動性の向上には塩基性に
73
保つ必要がある。上述のように塩基性に調整したSiCスラリーの流動性に
DEMOL-ASは良好な分散剤であると考えられる。
そこでイビデン製β一SiC UFを使用し、DEMOL-ASを助剤カーボンに
対して最適添加量加え、カーボンと炭化ホウ素とを添加したSiCスラリー
を調製し、鋳込み成形を行ったところ相対密度63%という高い相対密度の
成形体が得られた。得られた成形体を焼成した結果、相対密度98%の高密
度なSiC焼成体を得ることができた。このことからもDEMOL-ASは水系
カーボンスラリーの調製において有効な分散剤であるといえる。
4.4
結論
本研究により以下の結果が得られた。
1.DEMOL-AS、HPSS、SMを添加した水系カーボンスラリーはカーボン
表面への分散剤の吸着により疎水性表面が親水性表面へと改質され、分
散安定化した。
2.SM<<HPSS<DEMOL-ASの順で水系カーボンスラリーの分散・流動
性が向上した。SMに比べて分子サイズが大きいHPSS、DEMOL-AS
では、静電反発力に加えて立体的反発力により流動性が向上した。
3.ベンゼン環とナフタレン環という疎水基の違いがさらに吸着、立体安定
化に影響し、かさ高いナフタレン環をもつDEMOL-ASがカーボンス
ラリーの流動性を向上させると考えられる。
4.親水基としてスルホン酸基をもつDEMOL-ASは広いpH領域でカーボ
ンスラリーの分散・流動性を向上させることから、DEMOL-ASは水系
カーボンスラリーに対して良好な分散剤であった。
74
参考文献
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41,538-543(1992).
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41,544-550(1992).
3)Z.AktasandE.T.Woodbum,nZel伽cessizlg2bch.,62,1-15(2000).
4)N.Roh,D.Shin,D.KimandJ.Kim,凡eL74,1313-1318(1995)・
5)S.Prochazka,"SpecialCeramicsNo.6",editedbyRPopper,British
CeramicResearchAssociation,Manchester,UK,PP.171-181(1975).
6)角井敏雄,セラミックス,36,361-364(2001).
7)中溝実,"ハイテク炭素材料一複合材料への新しい展開-",本田英昌,
小林和夫編,工業調査会,pp.14-17(1987).
8)吉田久良,亀川克美,"ハイテク炭素材料一複合材料への新しい展開-",
本田英昌,小林和夫編,工業調査会,pp.165-173(1987)・
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HealyandF
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鮎怨ceろ18,93-104(1986).
10)T.Kakui,YShimazuandM.Narita,Japan・Patent,S60-032891・
75
76
第5章
遊離カーボンを多く含有するSiC原料を用いた製造プ
ロセスの検討
はじめに
5.1
鋳込み成形法において、高濃度で分散及び流動性が良好なスラリーの調製
が最も重要な因子となる。これまで田中ら1)やFerreiraら2)はSiC表面が酸化
されており、SiCスラリーのpHを塩基性に調整することによりシラノール
基(Si-OH)がSi-0
として解離し、粒子間の静電反発力によって分散安定化
して流動性が向上すると報告した。
SiCは難焼結性であるため、高密度な焼成体を得るには焼結助剤である炭
化ホウ素(B。C)やカーボン(C)を添加する必要がある3)。このため鋳込み成形
においてSiCのみでなくこれら焼結助剤を均一に分散させたスラリーの調
製が必要不可欠である。これまで第3章でSiC-C-B4Cスラリーの調製におけ
るカーボン分散の重要性を述べた。また、焼成過程においてもSiCの焼結助
剤としてのホウ素はSiCの粒界に素早く拡散するため4)、緻密なSiCを得るた
めにはカーボンの添加方法と混合が重要である5)と報告されている。
SiC粉末には主な不純物として遊離カーボンの存在6)があげられる。この
遊離カーボンと助剤として添加するカーボンをいかに均一に分散させるか
が高密度な成形体、焼成体を得る重要な因子となる。しかしながら原料中に
含まれる遊離カーボン量や粉体特性はその原料の製造履歴に依存するため、
遊離カーボンを考慮してのSiC-C-B4Cスラリーの分散、流動性を制御するこ
とは難しい。そのため第3章では遊離カーボンの少ない高純度のSiC粉末を
使用することで助剤として添加するカーボンの分散、流動性の向上を検討し
た。しかし、工業生産においては、遊離カーボンがSiC製造工程に与える影
響について検討することは重要である。
本章では、これまで用いてきた遊離カーボン含有量の少ない(<0.3wt%)
高純度なSiC粉末の替わりに遊離カーボンを比較的多く(1.6wt%)含むSiC
粉末を使用して高密度なSiC焼成体を得るための最適な調製条件を検討す
ることを目的とした。そこでSiC粉末を事前に加熱処理して遊離カーボン
77
量を制御するとともに加熱によって形成される表面酸化層が水系SiCスラ
リーの流動性に与える影響、さらに遊離カーボン量と焼結助剤として添加す
るカーボンがSiCスラリーの流動性や鋳込み成形によって得られる焼成体
に与える影響について検討した。
5.2
実験方法
5.2.1使用原料及び試薬
原料としてSiCにはイビデン製β-SiCUFを使用した。この原料中に含まれ
る遊離カーボンは1.6wt%である。また、原料SiCは遊離カーボン量とSiC
の表面酸化層を制御するために空気中で5℃/minで昇温し、所定温度で10
分間保持して加熱処理を行った。焼結助剤として電気化学工業製炭化ホウ素
(B4C)#1200と三菱化学製カーボン(C)#2650を使用した。Tablelにメー
カーから示された各種原料の粉体特性を示す。分散剤にはAldrich製水酸化
テトラメチルアンモニウム(TMAOH)、花王製ナフタレンスルホン酸ホルマ
リン縮合物のアンモニウム塩DEML-AS(平均分子量:7000)を溶解した水溶
液(DEMOL-AS)を使用した。スラリーのpH調整にはTMAOHと硝酸を使
用した。
5.2.2
♯込み成形及び成形体の焼成
SiC製ポットにSiC製ボール、水、分散剤、SiC、カーボン、炭化ホウ素
粉体を所定量入れ、所定時間ボールミリング混合してスラリーを調製した。
炭化ホウ素、カーボンはともにSiC固体量(dryweightbase,dwb)に対する
相対量として添加した。分散剤はSiC固体量またはカーボン固体量に対し
て添加した。調製したスラリーを真空脱気し、石膏型(5.Ocmx5.OcmxO.5
Cmの平板あるいは7.Ocmxl.OcmxO.5cmの矩形棒)に流し込み成形した。
得られた成形体は室温にて乾燥した後さらに120℃で24時間乾燥させ、常
圧Ar雰囲気で2150℃、1時間焼成した。
78
TablelCharacteristicsofpowders.
β-SiC
Carbon
B4C
#2650
#1200
Meanparticlesize(pm)
0.29
0・013
1・2
Speci丘csurfacearea(m2/g)
19.9
320
18-20
5.2.3
UF
評価方法
種々温度で加熱処理したSiC粉末中の遊離カーボン量は堀場製作所製カ
ーボン分析装置EMIA-511を用いて測定した。また、島津製作所製Ⅹ線光
電子分光装置ESCA-3400を用い、加熱処理したSiC粒子の表面状態を評価
した。この際Au4f7′2の結合エネルギー(84.OeⅥをもちいて測定した結合エ
ネルギーを補正した。スラリーのレオロジー測定についてはⅡAAKE製レオ
メーターRS50を使用し、せん断速度(Shearrate:γ)-せん断応力(Shear
stress:T)曲線(流動曲線)を測定し、せん断速度100s
1におけるせん断応力
から算出した見かけ粘度を用いて評価した。測定温度は25℃で行った。ゼ
ータ電位については2vol%のSiCスラリーを24時間ボールミリングして調
製し、DispersionTbchnology製超音波分光方式の粒度分布・ゼータ電位測
定装置DT-1200で測定した。測定の際、支持電解質には0.01〟KClを使用
した。得られた焼成体からアルキメデス法で見かけ密度を算出するとともに
SiCの理論密度を3.21g/cm37)として相対密度を算出した。焼成体を切断研
磨した後、煮沸した村上試薬中に試料を浸漬してエッチングした8)。村上試
薬はKOH:K3Fe(CN)6:H20=1‥1:2(質量比)の混合比で混合した後、
KOH、K3Fe(CN)6が溶解するまで加熱して調製した。Philips製ⅩL30型走
査型電子顕微鏡で焼成体の微細構造観察を行った。曲げ強度はORIENTEC
製UCT-5T型にて3点曲げ法により測定した。この際、3点曲げ試験はJISR
1601(1995)に準拠した。
79
5.3
結果及び考察
5.3.1加熟処理したSiC粉末を使用したスラリーの分散・流動性
3.3.1節で高純度SiC粉末を使用してSiCスラリーの流動性を評価し、SiC
スラリーをpHlO∼11に調整することよって水系溶媒中でSiC表面に存在
するシラノール基(Si-OH)がSi-0-として解離し、粒子間の静電反発力によ
って分散安定化して流動性が向上することを述べた。ここではSiC粉末中の
遊離カーボン量と表面酸化層が水系SiCスラリーの流動性に与える影響に
ついて検討した。Fig.1に種々温度で加熱処理したSiC粉末を用いて調製し
たSiCスラリーの見かけ粘度に与えるpHの影響を示す。SiCスラリーの固体
濃度は70wt%とした。PHを上昇させると未加熱SiC粉末を用いたスラリ
ーの見かけ粘度は急激に減少し、pElO.9で見かけ粘度は最小を示し、さら
にpHを上昇すると見かけ粘度が増大する。一方、300℃加熱処理SiC粉末及
び400℃加熱処理SiC粉末を用いたスラリーについては、PHlO∼11で見か
け
粘 度
は
最 小
を
示
し、
こ
れ
以
上
を
pH
sよ\㌔卓sOUS三悪岳d阜
0
5
10
11
12
pH
Fig・1・Apparentviscosityof70wt%slumieswithas-reCeivedor
Pre-heatedSiCpowdersasafunctionofpH・
80
上
昇
さ
2
㌔]き\已○モdUO心血】○}∈nO己く
0
200
400
600
Temperature/Oc
SiC
Fig・2・Changeoftheamountoffreecafboninthe
powdersasafunctionofpre-heatedtemperature・
せると見かけ粘度は増大する。未加熱SiC粉末、300℃加熱処理SiC粉末及び
400℃加熱処理SiC粉末を用いたスラリーの見かけ粘度が最小を示し、最も
流動性が向上するpHはそれぞれpHlO.9、PHlO・8及びpHlO・5であり、SiC
の加熱処理温度を上昇させるにしたがって流動性が向上する最適なpHは低
下する。また、見かけ粘度が最小を示すpHに調整した種々温度で加熱処理
したSiC原料のスラリーでは、SiCの加熱処理温度を上昇させるにしたがっ
て、スラリーの見かけ粘度は減少し、流動性が改善されることがわかった。
Fig.2に種々温度で加熱したSiC粉末中の遊離カーボン量を示す。SiC粉末
中の遊離カーボン量は300℃の加熱処理までほぼ一定の値を示し、300℃以
上では、加熱処理温度を高くするにしたがって遊離カーボン量は徐々に減少
する。このことより、Fig.1に示す加熱処理したSiC粉末を用いたスラリー
の流動性向上は遊離カーボン量の減少も寄与すると考えられる。Fig・3に
種々温度で加熱処理したSiC粉末の01s軌道及びSi2p軌道の光電子スペク
532・5eVに、Si
トルを示す。01s軌道のスペクトルは
81
0
曾suU)u-
528
530
532
534
536
538
98
Bindingenergy/eV
100
102
104
106
Bindingenergy/eV
(a)01s
(b)Si2p
Fig・3・PhotoelectronspectraofSiCpowdersasafunctionofpre-heated
temperature.
結合に対応するピークを示す9)。未加熱処理SiCにおいてもこの結合エネル
ギーにピークが見られることからSiC粒子は表面に酸化された部分が存在
することがわかる。また、SiC粉末の加熱処理温度を上昇するにしたがって
このピークは徐々に高くなり、400℃以上で急激に高くなる。Si2p軌道のス
ペクトルは100.8eVと103eVにピークがみられ、100.8eVのピークが大き
く、103eVのピークは小さい。これらはそれぞれSiCとSiO2のSi-C結合と
Si-0結合に対応している10,11)。300℃までの加熱処理温度ではSi-C結合、
Si-0結合の両ピークはともにほとんど変化していない。400℃以上の加熱処
理で、加熱処理温度を高くするにしたがってSi-C結合のピークは徐々に減少、
Si-0結合のピークは徐々に増大する。加熱処理温度が高くなるにしたがっ
て、Si-C結合ピークに対するSi-0結合ピークの比は徐々に大きくなってい
ることがわかる。これらの結果はSiCの表面酸化層は加熱処理温度に依存し、
SiC粉末の加熱処理温度を高くすることでSiC表面に存
82
>∈\l霊S宕}Od至心N
2
4
6
8
10
pH
Fig・4・Zetapotentialofvariouspre-heatedSiCpowdersinaqueous
SuSPenSionasafunctionofpH・
在する酸化層が徐々に増えることを示す。また、400℃以上で加熱処理を行
うとSiC粒子の表面酸化層が急激に増加することがわかる。Fig・4に種々温
度で加熱処理したSiC粒子のゼータ電位に与える影響を示す。未加熱SiC粒
子の等電点はpH3.7であり、pH3・7以上ではpHの上昇にともない、ゼー
タ電位は負に増大する。400℃、500℃で加熱処理したSiC粒子はともにpH
3.4付近で等電点を示し、PH3.4以上でpHが上昇するにしたがって、ゼー
タ電位は負に増大する。400℃、500℃で加熱処理を行っても未加熱のSiC
と等電点はほとんど変化せず、pⅢ変化に対してのゼータ電位の応答性にも
ほとんど変化は認められなかった。しかし、Fig.1の結果から加熱処理温度
が上昇するにしたがって、SiCスラリーの流動性が向上するとともに、最も
流動性が向上するpHが低くなったことから加熱処理温度の上昇にともない、
SiC粒子の表面特性は表面酸化層が増加し、疎水性表面(Si-C)から親水性表
面(Si-0)へと改質され、表面電位が負に増大することで粒子間に働く静電反
発力が増大し、分散安定化が促進され、SiCスラリーの分散、流動性が向上
83
すると考えられる。
これらの結果から、SiCスラリーの分散、流動性はSiC粒子の表面酸化
層により制御されており、SiC粉末の加熱処理によってSiC粉末中の遊離
カーボン量を減少させるとともにSiC粒子の表面酸化層を増加させること
で粉体の表面特性を改善し、SiCスラリーの流動性は向上すると考えられる。
5.3.2
遊離カーボンがSiC・C・B4Cスラリーの流動性に及ぼす影響
第3章でSiC-C-B4Cスラリーを調製する上でスラリーのpH調整と助剤
カーボンの分散・流動性を向上させることが良好な流動性を示す高濃度スラ
リーを調製する重要な因子であり、スラリーをpⅢ10∼11に調整し、カー
ボンに対して高分子電荷質を添加することによって分散、流動性を向上可能
であることを述べた。さらに第4章でDEMOL-ASがカーボンスラリーの
分散、流動性に有効な高分子電解質であり、これがカーボンの粒子表面に吸
着し、高分子電解質がもつ親水基によって静電安定化するとともに吸着した
高分子電解質による立体安定化によって分散・流動性が良好なスラリーの調
製ができることを述べた。しかし、焼結助剤を含む高密度なSiC成形体及び
焼成体を得るためにはSiC-C-B4Cスラリーの流動性向上が重要であり、合成
時の不純物としてSiCに残存する遊離カーボンがSiC-C-B4Cスラリーの流動
性に及ぼす影響を検討する必要がある。そこで遊離カーボンを含む未加熱処
理のSiCに助剤カーボン、炭化ホウ素を添加したスラリーを調製し、スラリ
ーの流動性の向上を検討した。Fig.5にpHllに調整しDEMOL-ASを種々
量添加した焼結助剤カーボンと炭化ホウ素をそれぞれ1wt%、0.5wt%含む
SiCスラリーの見かけ粘度を示す。また、比較としてDEMOL-ASを添加し
たカーボンスラリーの見かけ粘度を示す。SiCスラリー及びカーボンスラリ
ーの固体濃度はそれぞれ70wt%、25wt%である。DEMOL-ASは助剤と
して添加するカーボンの固体量に対して添加した。DEMOL-ASを添加し
たカーボンスラリーの見かけ粘度は、DEMOL-ASの添加量が17∼40wt%
の広い範囲で低い値を示し、なかでもDEMOL-ASを20wt%添加したスラ
リ ーの見かけ粘度が最も低い値を示す。SiC-C-B4Cス
84
ラ
Fig・5・Apparentviscosityfor25wt%carbonslurriesor70wt%SiC
slurriescontainlngSintenngaidsinthepresenceofvarious
amountsofSM.
リーの見かけ粘度は22wt%までDEMOL-ASを添加するとわずかに減少
し、22wt%添加した時にスラリーの見かけ粘度は最小となり、さらに
DEMOL-ASを添加するとスラリーの見かけ粘度は緩やかに増大する。
SiC-C-B。Cスラリーの流動性が最も向上するDEMOL-ASの最適添加量は
22wt%を示し、カーボンスラリーに対する最適添加量よりも2wt%多い値
を示している。Fig.3に示したⅩPSの結果から未加熱のSiCにも表面酸化層
が存在し、Fig.1に示すとおりpHllに調整することでSiCスラリーの流動
性が向上することから、主にSiC粒子はpH調整による静電安定化によって
分散すると考えられる。このためこの余剰のDEMOL-ASは主にSiC中の遊
離カーボンの分散に寄与していると考えられる。一方、助剤カーボンの分散、
流動性が最も向上するようにDEMOL-ASを20wt%添加したSiC-C-B4C
スラリーの見かけ粘度とさらにSiC中の遊離カーボンを考慮してDEMOL
-ASを22wt%添加したスラリーの見かけ粘度の差はわずかであり、助剤と
85
して添加するカーボンの分散、流動性を向上させたSiC-C-B4Cスラリーでは
遊離カーボンがスラリーの流動性に及ぼす影響は非常に少ない。この結果か
ら助剤として添加するカーボンのみでなくSiC中の遊離カーボンを考慮し
て高分子電解質を添加することで良好な分散・流動性を示すSiC-C-B4Cスラ
リーを調製できるが、その効果は少なく、遊離カーボン量の比較的多いSiC
についてもSiC-C-B4Cスラリーを調製する上で、PH調整によるSiCの分散、
流動性の向上と助剤として添加するカーボンの分散・流動性を制御すること
が重要といえる。
5.3.3
SiCの焼結に対するカーボンtの影響
種々温度で加熱処理したSiC粉末を用いてSiC-C-B4Cスラリーを調製し、
鋳込み成形によって成形体及び焼成体を作製した。SiC-C-B4Cスラリーは
SiC粉末、SiC固体量に対して0.5wt%の炭化ホウ素と種々量のカーボン粉
末、カーボン固体量に対してDEMOL-ASを22wt%添加し、TMAOHを加
えてpHlO∼11に調整した後、ボールミリングして調製した。SiCの固体濃
度は70wt%とした。Fig.6に添加したカーボン量に対する種々温度で加熱
処理したSiCの焼成体密度の変化を示す。未加熱SiCと
300℃にて加熱処理
したSiCの焼成体では助剤カーボンを添加していない焼成体の密度が大き
く異なるが、カーボンを1.Owt%まで添加した時焼成体密度は急激に増大し、
カーボンを1.Owt%添加した焼成体の密度で最大を示し、さらにカーボンを
添加すると密度は低下する。一方、400℃で加熱処理したSiCを用いた焼成
体は、カーボンを1.O
wt%添加した焼成体で相対密度が92%と低い値を示
すが、カーボンの添加量を増加させるにしたがって焼成体密度は増大し、カ
ーボンを2.5wt%添加した焼成体で密度が最大となり、カーボンを2.5wt%
以上添加すると焼成体密度は徐々に減少する。加熱処理したSiCを用いた焼
成体はいずれも最大で相対密度が97∼98%という高密度を示し、この時の
助剤カーボンの最適添加量はSiC固体量に対して未加熱SiC及び
86
Re-atiくedens-ty\㌔
己じ餌\首s宕pp巴0}雇S
0
1
3
2
4
Addedamountofcafbon/wt%
Fig・6・E銑cts
ofadded
amount
ofcarbon
on
sintered
densityforSiCbodiesfabricatedfromvariousSiC
POWerSPre-heatedatvarioustemperatures・
300℃で加熱処理したSiCで1wt%そして400℃で加熱処理したSiCで2・5
wt%である。焼結助剤としてのカーボンの役割にはSiCの表面酸化層の除去
がある。助剤カーボンを添加していない場合、SiCの表面酸化層(SiO2)は式
(1)に示すように焼成過程でSiCと反応し、SiOとCOを生成し、揮発するこ
とによって気孔が形成され、SiCは撤密化しない。さらにSiO2はもう一つの
助剤ホウ素源とも反応し、ホウ素はB202として揮発し、焼結が抑制される13)。
一方、助剤カーボンを添加した場合、式(1)よりも低温域で式(2)∼(4)の反応
が進行し、カーボンがSiCの表面酸化層を還元することでSiO分圧を下げる
13,14)。この反応についてはSiCの焼成過程においてTG-DTAや気孔径の測定
からも報告されている15)。5.3.1節で述べたようにSiC粉末は300℃以上で
加熱処理することによって遊離カーボンが減少するとともにSiC粒子の表
面酸化層が増加し、400℃以上の加熱処理でSiCの表面酸
87
2SiO2+SiC→3SiO+CO
……(1)
SiO2+C→SiO+CO
……(2)
SiO+2C→SiC+CO
……(3)
SiO2+3C→β-SiC+2CO
……(4)
SiC+SiO一→2Si+CO
……(5)
化層が著しく増加する。300℃で加熱処理したSiCと未加熱のSiCから得た焼
成体の密度を最大にするのに必要なカーボン添加量が1wt%に対して、
400℃で加熱処理したSiCから得た焼成体の密度を最大とするのに要する助
剤カーボンの添加量が2.5wt%と多いのは加熱処理によるSiCの表面酸化層
の増加とSiC中の遊離カーボン量の減少によって、焼結を阻害するSiCの表
面酸化層を還元するのに必要なカーボン量が不足したためと考えられる。ま
た、助剤カーボンを添加していない300℃で加熱処理したSiCを用いた焼成
体の密度が未加熱のSiCに比べて低い値を示すのは同様の理由で加熱処理
により増加したSiCの表面酸素を還元するのに要するカーボン量の不足に
よるものであり、SiC粒子表面に存在するSiO2によって緻密化を抑制された
ためと考えられる。一方SiCは焼結過程で式(5)に示す反応からケイ素(Si)
がSiC粒子表面に析出し、表面拡散によりネックへと輸送され、焼結が進行
すると報告されている13)。しかし、カーボンが過剰に存在するとSiOの生成、
揮発を抑制するためにケイ素の表面拡散が抑制され、粒成長しない。また、
過剰なカーボンは粒子間に凝集して存在すると考えられる。このため焼成体
密度が最大を示した添加量以上にカーボンを添加した時緻密化が抑制され、
焼成体密度が減少したと考えられる。
Fig.7に400℃で加熱処理したSiCをもちいてカーボンを種々量添加し
た焼成体における微細構造結果を示す。カーボンをそれぞれ1.O
wt%、4.Owt%添加した焼成体である。カーボンを1wt%添加した焼成体は
wt%、2.5
気孔が多く見られ、SiCの柱状粒子はほとんど成長していない。これはSiC
の表面酸化層とSiCが反応して生成されたCOやSiOが揮発し、気孔を形
88
Etchedsurface
Polishedsurface
・・-‥:
′.詐裾
1.Owt%
ca】・bon
2.5wt%
carbon
瀾監
4,Owt%
carbon
Fig・7・MicrostruCtureOfsinteredSiCbodiesfabricatedfromSiCpowers
pre-heatedat400℃as
afunctionintentionally
addedcafbon
amountS.
成するとともに粒成長を抑制して緻密化を阻害したためと考えられる。カー
ボンを2.5wt%添加した焼成体の微細構造は柱状粒子が成長し撤密な構造
となっている。カーボンを4.Owt%添加した焼成体は柱状粒子が観察できる
ものの、その柱状粒子はカーボンを2.5wt%添加し緻密な構造をもつ柱状粒
子に比べて細い上小さく、粒子間に気孔が存在する。このような微細構造と
なったのは過剰なカーボンがSiC粒子間に凝集して存在し、焼結過程でSiC
の粒成長が抑制されたためと考えられる。
89
dd∑\卓ぎ巴}Sぎ竃ロ〇四
00
00
0
100
200
300
400
Pre-heatedtemperature/Oc
Fig.8.Bending
strengthfor
SiC
bodies
as
afunction
Pre-heatedtemperature.
of
次に、未加熱及び300℃、400℃で加熱処理したSiCをもちいて最も高密度
を示した焼成体の曲げ強度の測定結果をFig.8に示す。加熱処理温度に関
係なく、どのSiC焼成体の曲げ強度も約500MPaを示す。このことから、
SiC粒子の表面酸化層や遊離カーボン量が異なるSiC原料を用いても、助
剤カーボンの添加量を考慮してスラリーを調製し、成形、焼成することで曲
げ強度のバラツキが少ない焼結体が作製可能と考えられる。
5.4
結論
本研究により以下の結果が得られた。
1.SiC粉末を300℃以上加熱処理することによって遊離カーボン量が減少
するとともにSiC粒子の表面酸化層が増加した。
90
2.SiC粒子表面の酸化層の増加と遊離カーボン量の減少によってSiCスラ
リーの流動性は向上した。
3.SiC-C-B4Cスラリーの調製において、助剤として添加するカーボンのみで
なくSiC中の遊離カーボンを考慮して高分子電解質を添加することでさ
らにスラリーの分散、流動性は向上した。
4.加熱処理したSiC粉末に焼結助剤として炭化ホウ素とカーボンを加え、
水系SiCスラリ⊥を調製し、鋳込み成形によって得られた成形体を焼成
したところ、相対密度が97∼98%の高密度な焼成体が得られた。
5.300℃及び400℃で加熱処理したSiC粉末をもちいて得た焼成体は焼結助
剤としてカーボンをそれぞれSiC固体量に対して1wt%、2・5wt%添加
することで最も高密度な焼成体が得られ、SiC粒子の表面酸化層と遊離
カーボン量を考慮し、助剤としてのカーボン量を調整することで高密度
な焼成体を得ることができた。
91
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92
第6章窒化ホウ素を用いた水系SiCスラリーによるその場成形
6.1はじめに
成形時に起こったクラックや密度勾配など不均質な因子は、焼成時に材料
変形や亀裂を生じ、強度低下など材料特性の低下の原因となり、信頼性、再
現性のよいセラミックスの製造を困難にする。このため、成形はセラミック
ス製造工程において中核をなし、セラミックス材料としての良否を決定する
最も重要な工程といえる1,2)。セラミックスの成形方法の一つにコロイドプ
ロセス3)がある。コロイドプロセスの特徴として微構造制御に優れ、均質で
高密度な成形体が比較的容易に作製可能であり、成形及び焼成後の加工をあ
まり必要としないニアネット成形を可能にすることがあげられる。この方法
で重要となるのは分散、流動性を向上したスラリーの作製である。
これまでの章で炭化ケイ素(SiC)のコロイドプロセスとして鋳込み成形法
を取り上げ、焼結助剤である炭化ホウ素(B4C)、カーボン(C)を含む水系SiC
スラリーの分散及び流動性を向上させる最適な調製条件を見出し、高密度な
成形体、焼成体が得られることを述べた。
近年、さらに複雑形状のセラミック部材のニアネット成形を実現するため、
コロイドプロセスを応用した新たな成形方法が報告されている4)。高濃度で
分散及び流動性を向上させたスラリーを適当な型に流し込み、スラリー中の
粒子を何らかの手段で固化させ、その後溶媒を除去するその場成形法と呼ば
れる方法である。この方法の長所は成形に使用する型に制限がなく、その過
程で何ら外力を加えず成形するため、極めて均質な構造をもつ複雑形状の高
密度な成形体を得ることができることである。その場成形法としてゲルキャ
スティング5)や直接凝集鋳込み成形(DCC)6,7)があげられる。DCC法は高濃
度スラリーを型に鋳込んだ後、スラリー中で化学反応させ粒子間の反発力を
弱めて凝集固化する方法4)で、粒子の凝集にはスラリー中の電解質濃度を増
大させる方法や、スラリーのpHを粒子の等電点へシフトする方法が用いら
れる。DCC法で固化させる手段として尿素とウレアーゼを用いた酵素触媒
反応8,9)やスラリー中に窒化アルミニウムやイットリアを鋳込む直前に添加
93
し、加水分解や溶出によりpHを変化させるとともにスラリー中のイオン強
度を増大させて凝集固化させる方法が報告されている10,11)。
本研究では窒化ホウ素(BN)が水溶液中で徐々に溶解する特性に着目し、
高濃度SiCスラリーにBNを添加することで凝集固化させるDCC法を考案
した。また、BNから溶出したイオン種が成形体中に均一に分散するため、
添加したBNがSiCの焼結助剤としても有効ではないかと考えた。
本章では高分子電解質と水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を
用いて分散、流動性を向上させた焼結助剤を含む高濃度SiCスラリーにBN
を添加したDCC法を試み、スラリーに対するBNの影響を①水溶液への
BNの溶解速度、②BNの添加量に対するスラリーの固化開始時間及び③
DCC法から得た成形体、焼成体の密度について検討した。
6.2
実験方法
6.2.1使用原料及び試薬
原料としてSiCにはイビデン製β-SiCUFを使用した。焼結助剤として電気
化学工業製炭化ホウ素(B4C)#1200と三菱化学製カーボン(C)#2650を使用
した。また、スラリー中のイオン強度を制御してスラリーを固化するために
昭和電工製六方晶窒化ホウ素(h-BN)uHP-1Sを使用した。Tablelにメーカ
ーより示された各種原料の粉体特性を示す。分散剤にはAldrich製水酸化テ
トラメチルアンモニウム(TMAOIi)、サンノブコ製ポリスチレンスルホン酸
アンモニウム塩(PSS)(SNディスパーサント5047)及び花王製β一ナフタレ
ンスルホン酸ホルマリン縮合物のアンモニウム塩DEMOL-ASを溶解した
水溶液(DEMOL-AS)を使用した。スラリーのpH調整にはTMAOHと硝酸
を使用した。
6.2.2
成形及び成形体の焼成
SiC製ポットに、SiC製ボール、水、分散剤、SiC、カーボン、炭化ホウ
素粉体を所定量入れ、24時間ボールミリング混合してスラリーを調製した。
炭化ホウ素はSiC固体量(dryweightbase,dwb)に対する相対量として添加
94
TablelCharacteristicsofpowders.
Carbon
B。C
h-BN
UF
#2650
#1200
UHP-1S
0.29
0・013
1・2
1・0
320
18-20
24
β-SiC
Meanparticlesize(pm)
Specificsurfacearea(m2/g)19・9
した。カーボンはSiC固体量に対して1wt%添加した。TMAOHはスラリ
ーのpHが11となるように添加した。水は蒸留した後、ミリポア製Milli-Q
システムを用いて純水化して使用した。調製したスラリーに所定量のBNを
徐々に添加し、松尾産業製遊星撹拝脱泡機(MS-SNB350N)を用いて150
秒間撹拝した後、真空脱気し、ポリプロピレン製のディスポトレーに流し込
み、温度27℃、湿度98%に調整した三洋電機製恒温恒湿器(MTH-2200)中
に静置した。BNはSiC固体量に対する相対量として添加した。固化した成
形体は脱型後、室温で乾燥した。得られた成形体(80×50×6mm)を常圧
Ar雰囲気下で2150℃、1時間焼成した。また、比較のために調製したスラ
リーを石膏型に流し込み鋳込み成形を行った。
6.2.3
評価方法
BNの溶出量を測定するため、PSSを種々量添加したpHllの水溶液に1g
のBNを添加し、所定時間静置した。この懸濁液を吸引ろ過し、得られたろ
液中のホウ素濃度をLeemanlabs.製誘導結合プラズマ発光分析装置
PSlOOOUVを用いて測定した。沈降体積は100mLの比色管に調製した2
v。1%のBNスラリーを100mL入れ、栓をして48時間静置した後、沈降し
た部分の体積を測定した。各スラリーのレオロジー測定についてはHAAKE
製レオメーターRS50を使用した。流動性はせん断速度(Shearrate‥γ)-せ
ん断応力(Shearstress‥て)曲線(流動曲線)を測定し、せん断速度10s
1におけ
るせん断応力から算出した見かけ粘度をもちいて評価した。また、BN添加
後のスラリーの凝集固化挙動を評価するため、レオメーターでせん断応力
95
(て)を周波数(f)で周期的に変化させ、ひずみ(γ)と位相のずれ(8)を測定し、
貯蔵弾性率(G′)を算出した。このG′が上昇し始めた時間を固化開始時間と
した。PHおよび電気伝導度は堀場製作所製pH/導電率メーターD-54Sを
用いて測定した。ゼータ電位測定については5vol%のSiC及びカーボンスラ
リーをDispersionTbchnology製超音波分光方式粒度分布・ゼータ電位測定
装置DT-1200で測定した。各測定は温度25℃で行った。密度は、成形体に
ついては寸法、重量よりかさ密度を、焼成体についてはアルキメデス法で見
かけ密度を算出した。また、SiCの理論密度を3.21g/cm34)として成形体お
よび焼成体について相対密度を算出した。焼成体を切断研磨した後、目立ハ
イテクノロジー製S-4300型走査型電子顕微鏡で微細構造観察を行った。
6.3
結果及び考察
6.3.1SiC・C・B4Cスラリーの濃厚化
DCC法に用いられるスラリーは高濃度で分散及び流動性が良好でなけれ
ばならない。スラリーの流動性は固体濃度や粒子径、粒度分布、粒子形状、
粒子表面状態など粉体特性に大きく左右される。さらにSiCスラリーでは
SiCに焼結助剤を添加する必要性からSiCだけではなく焼結助剤もスラリー
中で均一に分散させた高濃度スラリーの調製が必要となる。第3章で種々
粒子の分散が焼結助剤を含むSiCスラリーの流動性に与える影響を検討し、
pHlO∼11に調製し、カーボン粒子の分散、流動性が最も促進するように
高分子電解質を添加することで良好な流動性を示す濃厚なSiC-C-B4Cスラ
リーが調製できることを述べた。また、第4章でカーボンの分散には疎水
基としてベンゼン環、ナフタレン環などの官能基とスルホン酸基のような
pHの影響を受けない親水基を併せもつ高分子電解質が有効であることを述
べた。本章では骨格に官能基をもち、親水基としてスルホン酸基をもつ
DEMOL-AS、PSSを用いてより濃厚で分散、流動性が良好なSiC-C-B4C
スラリーを調製することを検討した。Fig.1に分散剤を種々量添加した
SiC-C-B4Cスラリーの見かけ粘度を示す。助剤カーボンと炭化ホウ素はSiC
固体量に対してそれぞれ1wt
%、0.5
96
wt%添加し、DEMOL-
s責\㌔卓s00S三宅-已dく
0
0
20
10
30
Dispersant/wt%ddofcafbon
Fig.1.ApparentviscosityofSiCslurrieswithcatbonandB4Cas
afunctionofaddedamountOfdispersant・
AS及びPSSをカーボン固体量に対して種々量添加した。スラリーのpHは
TMAOHでpHllに調整した。DEMOL-ASを添加したSiC-C-B4Cスラリ
ーの見かけ粘度は22wt%まで添加するとわずかに減少し、22wt%添加した
時にスラリーの見かけ粘度は最小を示し、さらにDEMOL-ASを添加する
とスラリーの見かけ粘度は緩やかに増大する。PSSを添加したスラリーの見
かけ粘度は15wt%まで添加すると徐々に減少し、15∼25wt%添加した時
見かけ粘度は最小を示し、25wt%以上添加すると緩やかに見かけ粘度が増
大する。スラリーが最も良好な分散、流動性を示すDEMOL-AS、PSSの
最適添加量はカーボン固体量に対してそれぞれ22wt%、15wt%である。
DEMOL-AS、PSSを最適量添加したスラリーの見かけ粘度はほとんど同
じ値を示し、どちらの分散剤も濃厚なSiC-C-B4Cスラリーの調製が可能であ
ることがわかる。ここでDEMOL-ASと比較してPSSはSiC-C-B4Cスラリー
の流動性を向上させる添加量の範囲が広いことから本研究では分散剤とし
てPSSを使用することとした。SiCにカーボンと炭化ホウ素をSiC
97
sよ\㌔卓sOUSモ宕J已dく
0
0
67
68
69
70
71
72
73
SolidsloadingofSiC/wt%
Fig.2.ApparentviscosityofSiCslumieswithcafbonandB4Cas
afunctionofsolidsloadingatpHll・
固体量に対してそれぞれ1wt%、0.5wt%添加するとともに、PSSをカーボ
ン固体量に対して15wt%添加し、TMAOHによりpHllに調整して
SiC-B4C-Cスラリーを調製し、スラリーの濃厚化を検討した。Fig.2に
SiC-C-B4Cスラリーの見かけ粘度における固体濃度の影響を示す。スラリー
の見かけ粘度は固体濃度が72wt%まで徐々に増大し、固体濃度72wt%以
上のスラリーの見かけ粘度は急激に増大している。この結果から以下の
DCC法の検討では流動性が良好な固体濃度72wt%で行うこととした。
6.3.2
SiC・C・B4Cスラリーの同化挙動
Fig.3に固体濃度72wt%のSiC-C-B4Cスラリーの固化開始時間に対する
BN添加量の影響を示す。BNを0.7wt%添加するまで、スラリーの固化開始
時間は急激に減少し、BNを0.7∼1.1wt%添加した時緩やかに減少する。
BNを添加しないSiC-C-B4Cスラリーは凝集固化が始まらなかっ
98
.u叫≡\U∈叫〓USuO
0
5
0
5
も.0
0.2
0.4
0.8
0.6
1.0
1.2
AmountofBN/wt%dwbofSiC
Fig・3・EffbctofamountofBNaddedto72wt%SiCslumieswith
sintenngaidsonthesolidificationonsettime・
た。また、1.1wt%以上BNを添加した場合、スラリーは遊星撹拝による混
合過程で固化が開始してしまい、固化開始時間が決定できず、スラリーを型
に流し込むことができなかった。この結果からDCC法でのスラリー固化の
ためのBNの最適添加量はSiC固体量に対して0.1-1.1wt%の範囲である。
BN添加によるDCC法では水溶液中におけるBNからの溶出挙動はスラ
リー固化挙動を検討する上で最も重要な因子である。Fig・4にpHllに調
整し、種々量PSSを添加した水溶液中におけるBNからの溶出量の時間依
存性を示す。PSSの添加量にかかわらず、水溶液へのホウ素の溶出量は溶
出時間の増加に伴って徐々に増加し、1時間後に平衡に達する。また、同一
時間におけるホウ素の溶出量ではPSSを0.4wt%添加した溶液までホウ素
の溶出量は増加し、0.7wt%添加したPSS溶液においてホウ素の溶出量は
減少する。さらに水溶液に添加するPSS量がBNから溶出するホウ素量に
与える影響を検討するため、種々量PSSを添加したBNスラリーを調製し、
99
5
TJ-。∈∈\餌
4
3
2
0
10
20
30
40
50
60
media
with
70
Time/min.
Fig・4・Elution
of
BN
into
aqueous
various
COnCentrationsofPSSatpHll.
BNの沈降体積を測定した。その結果について種々量PSSを添加した水溶
液中に1時間で溶出したホウ素量とあわせてFig.5に示す。水溶液へのPSS
添加量が増加するにしたがって48時間静置後のBNの沈降体積は減少し、
水溶液にPSSを0.3wt%添加することによって沈降体積は最小を示し、0.3
Wt%以上PSSを添加すると沈降体積は徐々に増大する。一般にBN粒子は
板状で凝集しやすい傾向がある。しかし、この結果はPSSの添加によって
BN粉末の分散が促進されていることを示唆している。このことからPSS
を添加することによってBN粒子の分散性が促進し、溶媒中でBN粒子の
表面積が増大するため、PSS溶液中でのBNからの溶出量は増大すると考
えられ、BNからの溶出量は水溶液中のBN粒子の分散状態に依存すると考
えられる。
次にBNの添加がSiCスラリーの固化過程においてどのように影響を及ぼ
すか検討した。Fig・7に固体濃度65wt%のSiC-C-B4CスラリーのpHと
100
4
つJ
2
l
PSSconcentration/wt%inaqueoussolution
㌔lO己∈\已○叫}已召OU已8已OhO餌
占巨\0∈nlOA已○{}8白む∈葛OS
5
Fig・5・SedimentationvolumeofBNparticleandelutedamount
fromBNasafunctionofPSSconcentrationinaqueous
media.
電気伝導度に与えるBNからの溶出時間の影響を示す。カーボン、炭化ホウ
素はそれぞれSiC固体量に対して1wt%、0.5wt%添加した。スラリーに対
するBNの添加量はSiC固体量に対して0.9wt%とした。BNを添加してから
6分後までスラリーの電気伝導度は変化せず一定の値を示し、6分から10
分後にかけて急激に増大し、10分後以降は徐々に増大する。Fig・3に示さ
れるようにBNを0.9wt%添加したSiC-C-B4Cスラリーの固化開始時間は
BNを添加してから8分後であり、電気伝導度の急激な増大を示す時間と一
敦することからSiC-C-B。Cスラリーの固化にイオン強度の増大が影響して
いると考えられる。一方、BNを添加したスラリーのpHはpHlO・9からpH
lO.7に変化する。PHlO∼11で流動性が良好な高濃度SiC-C-B4Cスラリー
が得られることからこの領域でのpH変化はスラリーの固化にほとんど影響
していないと考えられる。Fig.7に溶媒中のホウ素濃度がSiC及びカーボン
粒子のゼータ電位に与える影響を示す。SiCスラリーは
101
54
T己S\宮人竃葛已OU
11・0[工
a
52
10.5
0
5
10
15
20
25
Time/min.
Fig・6・E飴ctofelutiontimeonconductivityandpHof65wt%SiC
SlurrycontainlngSinteringaidswithO.9wt%BN.
TMAOHによりpHllとし、カーボンスラリーはカーボン固体量に対して
PSSを15wt%添加するとともにTMAOHでpHllとして調製した。スラリ
ー中のホウ素濃度は原子吸光光度計用のホウ素標準溶液をもちいて調整し
た。カーボン粒子のゼータ電位は-30mVを示し、ホウ素濃度に依存せず一
定の値を示す。一方、ホウ素濃度の増大に伴って、SiC粒子のゼータ電位の
絶対値は徐々に減少する。このゼータ電位の結果から溶媒中のホウ素濃度の
増大により、溶媒中のイオン強度が増大しSiC表面に形成する電気2重層が
圧縮され、SiC粒子間の静電反発力が弱まり凝集すると考えられる。カーボ
ンスラリーについては高分子電解質がカーボン表面に吸着し、吸着した高分
子電解質がもつ電荷による静電反発効果に加えて高分子の立体安定化効果
によって分散安定化しているため溶媒中のイオン強度に影響を受けにくい
と考えられる。これらの結果から高濃度SiC-C-B4CスラリーにBNを添加す
るとBN表面が徐々に溶解し、スラリー中のイオン強度が増大して流動性が
良好なスラリーが凝集固化する。また、BNから溶出したイオンは
102
>∈\l眉扇竜dd)ON
Boronconcentration/mmoIL
Fig・7・ZetapotentialofSiCandcafbonparticlesasafunctionofBoron
concentration.
主にSiC粒子に作用し、粒子間に働く静電反発力の減少によって凝集すると
考えられる。
6.3.3
DCC法から得た成形体、焼成体
流動性が良好なカーボンを含む高濃度SiCスラリーにBNを添加して直
接凝集鋳込み成形を行い、成形体を作製した。また、比較としてBNを添加
した高濃度SiC-Cスラリーを調製し石膏型をもちいた鋳込み成形により成
形体を得た。この2種類の成形方法で作製した成形体を焼成し、焼成体を
得た。Fig.8に種々量BNを添加し、DCC法と鋳込み成形法をもちいて作
製した成形体及び焼成体の密度を示す。DCC及び鋳込み成形から作製した
成形体密度の違いは認められず、ともに相対密度が62∼63%という高密度
な成形体を得ている。BNの添加量を増加させるにしたがって鋳込み成形よ
り作製された焼成体密度は増加し、BNを1.2wt%添加した焼成体の密度は
最大となり相対密度87.5%を示す。一方BNを0.3∼1・1wt%添加した範囲
103
?
1.0
㌔\曾∽已ひpぎ焉-0出
∈0抽\合一S已0日
0.5
AmountofBN/wt%dwbofSiC
Fig・8・DensitiesofgreenandsinteredbodiesformedviaDCCandslip
CaStlngaSafunctionoftheamountofBN.
においてBNの添加量が増加するにしたがっ.てDCC法で作製された焼成体
密度は増大し、BNを1.1wt%添加した焼成体の相対密度は93.7%を示す。
もし添加したBNがSiCの焼結助剤として有効ならば、それぞれの方法で
作製した焼成体はともにさらに緻密化して高密度を示し、2種類の成形方法
から得られた焼成体密度はほとんど変わらないと考えられる。しかし、鋳込
み成形で作製した焼成体の密度はDCC法で作製した焼成体と比較して低い
値を示す。さらにBNの添加量を増加させるにしたがってこの2種類の方
法で作製した焼成体密度の差は大きくなる。DCC法で使用した型と鋳込み
成形法でももちいた型はそれぞれ多孔質でないポリプロピレン製の型と多
孔質な石膏型である。鋳込み成形は吸水性のある型をもちい、スラリーから
溶媒を排出するのに対し、DCC法では分散流動性が安定したスラリーを型
に流しこんだ後、凝集させるため溶媒を排出することはない。このためDCC
法ではSiCスラリー中にBN表面から溶出したホウ素イオン種は凝集固化
した成形体中に均一に分散して残存し、粒子間で析出すると考えられる。そ
104
己じ仙\舌s星口
0ノ0
70
㌔\倉s宕pOA焉lひ出
?
Fig・9・DensitiesofgreenandsinteredbodiesformedviaDCC
asafunctionoftheamountofB4C.
してこのホウ素イオン種がSiCの焼結助剤として寄与しているために鋳込
み成形法と比較してDCC法の焼成体密度が向上すると考えられる。しかし
ながらBNを0.1∼1.1wt%添加したSiC焼成体は十分に緻密化した高密度
な焼成体が得られず、BNだけではSiCの焼結助剤として不十分だった。
さらに撤密なSiC焼成体を得るためにはスラリーに焼結助剤として有効
なホウ素源を添加する必要があると考えた。そこでカーボンと炭化ホウ素を
添加した高濃度SiCスラリーをもちいてBNを1.1wt%添加し、DCC法に
ょり成形体を作製した。Fig.9に炭化ホウ素を種々量添加しDCC法で作製
した成形体及び焼成体の密度を示す。成形体密度は炭化ホウ素の添加量に依
存せず、相対密度が63%の高密度な成形体を得ている0焼成体密度はSiC
固体量に対して炭化ホウ素を0・4wt%添加するまで徐々に増大し、炭化ホウ
素を0.4wt%添加した焼成体で密度は最大となり、相対密度が97・1wt%を
示す。そしてBNを添加したDCC法より得られた焼成体の密度は5・3・2節
105
Fig・10・MicrostruCtureOfpolishedcrosssectionofsinteredbody
withlwt%carbonandO・4wt%B4CintheDCCprocessby
additionofl.1wt%BN.
で報告した鋳込み成形法で作製した焼成体密度とほとんど同じ値を示した。
Fig.10にBNを1.1wt%添加しDCC法で作製した焼成体の微細構造を示
す。カーボンと炭化ホウ素はSiC固体量に対してそれぞれ1wt%、0.4wt%
添加した。一般にSiC焼成体中に残る気孔はカーボンやホウ素源などの焼
結助剤が成形体中で不均一に存在することやこれに伴って発生する柱状粒
子の異常粒成長などによって引き起こされる。このことから成形体中で焼結
助剤を均一に分散させることが気孔を少なくし、高密度で緻密な焼成体を得
る有効な方法といえる。このDCC法で作製した焼成体の微細構造は緻密な
構造をもち気孔も小さく均一に分散している。さらに気孔径は最大でも5
いm未満と非常に小さい。この結果から焼結助剤として添加した炭化ホウ素
及びカーボンはスラリー中に均一に分散し、DCC法より作製した成形体、
焼成体に反映されていると思われる。残念ながら焼成体中のBNは、Ⅹ繰回
106
折において検出できなかった。また、研磨面及びケミカルエッチングした微
細構造観察でも認められなかった。このBNが焼成体に及ぼす影響について
はさらに今後検討する予定である。このようなことからBNはDCC法にお
いて最適な固化開始剤であり、今回提案したDCC法は高密度で均質な成形
体及び焼成体を作製するのに有効な方法であるといえる。
6.4
結論
本研究において以下の結果が得られた。
1.PSS、TMAOHを添加し、pHllに調整することで高濃度の水系
SiC-C-B。Cスラリーを得た。良好な流動性を示すSiCスラリーの濃厚化限
界は固体濃度72wt%であった。
2.BNからの溶出により徐々にスラリー中のイオン強度が増大することか
ら直接凝集鋳込み成形においてBNは固化開始剤として有効であった。
3.BN粉末を鋳込む直前に添加、混合することで、BNからの溶出によりイ
オン強度が増大し、良好な流動性を示すスラリーは凝集を開始し、流動
性をもつスラリーから均一な構造をもつ硬い成形体が得られた。
4.BNを0.1∼1.1wt%添加して得たその成形体の相対密度は63%という高
い値を示した。
5.カーボンを含むSiCスラリーを固化するために添加したBNは焼結助剤
としての役割は不十分だった。
6.さらに助剤として炭化ホウ素を添加しBNを添加するDCC法で成形体
を作製し、焼成したところ相対密度が97%の高密度なSiC焼結体が得ら
れた。
107
参考文献
1)FFLange,JAm.伽m.励c.,72,3-15(1989).
2)植松敬三,セラミックス,40,686-702(2005).
3)J.A.Lewis,JAm.Cbz72m.Sbc.,83,2341-2359(2000).
4)S・Prochazka,"SpecialCeramics6",editedby
P
Popper,British
CeramicResearchAssociation,Manchester,UK,PP.171-181(1975).
5)wM.Sigmund,N.S.BellandL.Bergstr云m,JAm.CbⅥm.Sbcl,83,
1557-1574(2000).
6)L.Zhou,YHuangandZ.Xie,JEH:CbFam.Sbcl,20,85-90(2000).
7)wsi,T.J.Graule,FH.BaaderandL.J.Gauckler,JAm.Cbz72m.
成敗,82,1129-1136(1999).
8)wLi,H.Zhang,YJinandM.Gu,Cb招m.h乙,30,411-416(2004).
9)L・J・Gauckler,Th.GrauleandF
Baader,Mater.aem.勒,61,
78-102(1999).
10)T・J・Graule,WSi,FH.BaaderandL.J.Gauckler,伽m.肋DS.,51,
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11)M.Hashiba,M.KawamotoandO.Sakurada,肋ns.脇teu:触.Sbc.
如.,29,2041-2044(2004).
12)0.Sakurada,S.ImaedaandM.Hashiba,肋ns.MbtemRes.
如.,29,2045-2048(2004).
108
某7章
総括
本研究では水を溶媒とした炭化ケイ素(SiC)のコロイドプロセスを用いた
成形として、鋳込み成形法及び最近着目されているその場成形法を利用し、
緻密なSiC焼成体を得るための重要な要素を明確にして信頼性の高いSiC焼
結体の作製プロセスを確立した。特にコロイドプロセスにおいて最も重要な
SiCと焼結助剤カーボン(C)、炭化ホウ素(B4C)を分散させた分散・流動性が
良好な高濃度スラリーを調製するための最適な調製条件を検討した。以下、
得られた結果についてまとめる。
第3章ではSiCに焼結助剤としてカーボン、炭化ホウ素を用い、分散剤
として高分子電解質であるスチレンマレイン酸共重合体(SM)と水酸化テト
ラメチルアンモニウム(TMAOH)を使用して混合スラリーを調製し、鋳込み
成形法で緻密なSiC成形体及び焼成体を得る適切な調製条件を検討した。
siCは合成過程で不純物として遊離カーボンが残存し、焼結助剤として添加
するカーボンがスラリーの流動性に与える影響を正確に把握できない。そこ
で、遊離カーボン量の少ない高純度SiC原料を使用して検討した。水系SiC
スラリーの分散・流動性の向上はSMの添加と比較して、TMAOHの添加
がより効果的であることがわかった。しかし、TMAOHは助剤として添加
するカーボン粒子に対しては、カーボンの疎水性表面のため分散性向上効果
はなかった。一方、S叩はカーボン表面に吸着しカーボン表面を親水性に改
質することで水系カーボンスラリーの流動性を向上させるとともに、粒子径
の異なる2種類のナノサイズのカーボンの分散安定化を可能にした。
siC-Cスラリーの流動性が最も向上するSMの最適添加量とカーボンスラ
リーの最適添加量は等しく、SiCスラリーの流動性はpH調整による静電反
発力が支配的であった。炭化ホウ素の添加はカーボンの添加と比較してSiC
スラリーの流動性に対してほとんど影響をおよぼさず、カーボンの分散、流
動性の制御が濃厚なSiC-C-B。Cスラリーを得る最も重要な因子であること
を明らかにした。カーボン量に対してSMを最適量添加してpHlO∼11に調
製したSiC-C-B4Cスラリーを用いて鋳込み成形を行い、得られた成形体を焼
109
成した。その結果、α-SiCで97.5%、β-SiCで96.7%の高い相対密度の焼成
体が得られ、緻密なSiC焼結体を作製することができた。さらに焼結助剤で
あるカーボンにより小さなナノサイズの粒子を使用することで相対密度
98%以上の緻密なβ-SiCの焼成体を得ることができた。
第4章では、SiCの焼結助剤として用いるカーボンの分散・流動性が緻密
なSiC焼成体を得るための支配的因子になることが第3章の結果から示さ
れたので、カーボンの分散・流動性の向上についてさらに検討を行った。そ
こで、分散剤として使用する高分子電解質としてSMのほかに、ポリスチ
レンスルホン酸(HPSS)、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物
(DEMOL-AS)を添加し、カーボンの分散・流動性に与える影響について検
討した。ゼータ電位、沈降試験、レオロジー測定の結果、SM<<HPSS<
DEMOL-ASの順で水系カーボンスラリーの分散・流動性が向上すること
がわかった。これは分散剤の分子サイズと疎水基の違いが分散性に影響し、
SMと比較して分子サイズが大きなHPSS、DEMOL-ASは静電的反発力
に加えて立体的反発力によって流動性が向上すると考えられる。また、分散
剤の骨格を形成している疎水基の違いがさらに立体安定化に影響し、ナフタ
レン核をもつDEMOL-ASを添加することによって最もカーボンスラリー
の流動性が向上することを示した。
第3章では不純物のカーボン含量の少ないSiCを用いて分散・流動性を検
討したが、実際に工業的に使用されるSiC原料は不純物としての遊離カーボ
ンを多く含有する。第5章では遊離カーボン含有量が第3章で使用したSiC
よりも比較的多いSiC原料を使用したプロセスについて検討した。SiC粉末
中の遊離カーボンが分散・流動性に大きく影響することから、遊離カーボン
を減少させるために空気中で加熱処理を行った。300℃以上で加熱処理する
ことによって遊離カーボン量が減少し、SiC粒子表面の酸化層が増大するこ
とがわかった。SiCの表面酸化層の増加と遊離カーボン量の減少によりSiC
粒子間に作用する静電反発力が向上し、SiCスラリーの流動性はさらに向上
した。加熱処理したSiC粉末に焼結助剤としてカーボンと炭化ホウ素を加え
水系SiC-C-B4Cスラリーを調製し、鋳込み成形によって得られた成形体を焼
110
成した。300℃及び400℃で加熱処理したSiC粉末から得た焼成体は焼結助
剤としてカーボンをそれぞれSiC量に対して1wt%、2.5wt%添加して鋳込
み成形することで、相対密度が97∼98%の高密度な焼成体を得ることがで
きた。このことからSiC粉末中の遊離カーボン量と表面酸化の程度を考慮し、
助剤としてのカーボン量を変化させ、成形体中に均一に分散させることで高
密度なSiC焼成体を得ることができることを示した。
第6章では流動性が向上した焼結助剤カーボンと炭化ホウ素を含む濃厚
なSiCスラリーを型に流し込んだ後、凝集固化させるその場成形法(直接凝
集鋳込み成形法)を開発した。凝集剤としてBNを使用し、BNから溶出す
るイオンによって溶媒中のイオン強度が徐々に増大することで、粒子間で働
く静電反発力が弱まり、SiCスラリー中の粒子を効果的に凝集固化させるこ
とができた。BN粉末を鋳込む直前に添加することで、良好な流動性を示す
高濃度SiCスラリーは凝集を開始し、流動性の良好なスラリーから均一な
構造をもつ硬い成形体が得られた。BNを0.1∼1.1wt%添加して得た成形
体の密度は高密度であり、相対密度は63%であった。しかしながら凝集開
始剤として添加したBNは焼結助剤としてのホウ素源としての役割はほと
んど認められなかった。このためさらに助剤のホウ素源として炭化ホウ素を
添加し、直接凝集鋳込み成形することで相対密度が97%の高密度なSiC焼
結体が得られた。
以上の検討結果から、焼結助剤カーボン、炭化ホウ素を用いたSiCの水系
コロイドプロセスでは、高密度なSiC焼成体を得るためには高濃度
SiC-C-B4Cスラリーの分散、流動性の制御が重要であり、特に焼結助剤カー
ボンを均一に分散させることが最も重要な因子であることを明らかにした。
分散、流動性に優れた高濃度SiC-C-B4Cスラリーの最適な調製条件は①pH
lO∼11に調整することでSiC及び炭化ホウ素粒子を静電的に分散安定化さ
せ、②カーボン源としてより微粒なカーボンを使用し、③疎水基としてベン
ゼン環、あるいはナフタレン環、親水基としてカルポキシル基、あるいはス
ルホン酸基をあわせもつ高分子電解質をカーボンに対して添加し、カーボン
の分散安定化と流動性の向上を図ることである。また、この調製方法は助剤
111
カーボン量やSiCの種類が変わってもカーボン量に対して高分子電解質を
カーボンが分散安定化する量を添加し、SiCスラリーのpHを10∼11に調整
することで容易に高濃度スラリーが得られることを示した。このスラリーを
用いた鋳込み成形、ならびにその場成形から相対密度が62∼63%の高密度
な成形体を得ることができ、この成形体から得られた焼成体は、相対密度
98%を示し、高密度なSiC焼成体が得られることがわかった。
現在、SiCセラミックスは窯炉焼成用部品(窯道具)、メカニカルシール、
熱交換器伝熱管、触媒担体、半導体の支持部材など主に構造材料として用い
られている。これらの成形で行われる有機溶媒をもちいたコロイドプロセス
において、有機溶媒が水をもちいたプロセスに変わることで環境、コスト、
安全性に大きく貢献できると考えている。さらに明確にしたコロイドプロセ
スの最適条件は原料に左右されにくく、物性が安定し信頼性の高い構造材料
を作製するのに有用である。近年工業的に導入されつつある、鋳込み成形や
今回提案したその場成形(直接凝集鋳込み成形)に関わらず、プレス成形や
CIP成形などドライプロセスの原料となる頼粒製造、もう一つのその場成
形法であるゲルキャスティングにも応用可能であり、今後のSiCセラミッ
クスの製造に活用されることを期待したい。
112
原著論文リスト
1.SlipCastingofBasicAqueousSiCSlurryContainingStyene/Maleic
Copolymer.
旦Oba也,K.Oda,H.Kinugasa,H・Asano,0・Sakurada,M・Hashiba,
K.HiramatsuandYNurishi
貌ア助多腸お,159-160,157-162(1999)・
(第3章に記載)
2.EffbctofFreeCarbonContainedinSiCRawPowdersonSlipCasting
andSinteringProcesses・
旦J沖唖垣,H.Asakura,0.Sakurada,M・HashibaandYNurishi
鹿野軸脇如:,206・213,365-368(2002)・
(第4章に記載)
3.EnhancementofDispersionandFluidityofAqueousCarbonSlurryby
AdditionofⅥ汀iousDispersants.
旦」襲曙垣,H.Asakura,H.Asano,0・Sakurada,M・HashibaandT・
Shimada
J伽皿励c.みロリ112,S187-S190(2004)・
(第5章に記載)
4.Fabrication
of
Dense
Silicon
Carbide
throughAqeous
Slurries
ContainingWell-dispersedCarbonasaSinteringAid・
乳旦垣垣,H.Asano,0.Sakurada,M・HashibaandYNurishi
J脇≠α嵐,40,757-760(2005).
(第3章に記載)
5.Direct
Coagulation
Silicon
CastingofAqueous
AdditionofBoronNitride.
塑p』垣,N.Kato,0.SakuradaandM・Hashiba
伽皿肋月見,183(2006),血叩∬.
(第6章に記載)
113
Carbide
Slurryby
参考論文リスト
1・DispersionandFluidityofAcidicAqueous
SiC
Slurries
Containlng
ZirconiumOxy-Salts.
0.Sakurada,M.HashibaandS.Obaね
伽cee血郡〟班e蝕f
Aぷ血刀jなでよ元ゐ
乃血刀(止域ア物0虜び皿
6W12000)WRWEditibnlBangkok,Thailand,A8(0092)(2000).
2.AnalysisofMicrowaveSinteredPorcelain.
M.Mizuno,S.Takayama,S.Obaね,T.Hirai,T.SimadaandK.Satake
伽皿肋月見,111,313-319(2001).
3・DevelopmentofSlipCastingSystemforLargeCeramics.
T・Hirai,S.Obaね,K.Kurachi,A.Hayashi,S.Suzuki,K.OdaandY
Shibazaki
伽皿肋月見,112,447-452(2001).
4・SinteringforTraditionalCeramicsbyMicrowaves(84GHzand2.45
GHz).
S・Takayama,M.Mizuno,S.Obaね,T.Hirai,TSimadaandK.Satake
Cb招皿肋刀g.,111,305-312(2001).
5・Preparation
of
Aqueous
Pigment
Slurry
Used
for
Decorating
WhitewarebyInkJetPrinting.
S・Obata,H.%koyama,TlOishi,M.Usui,0.Sakurada
and
M.
Hashiba
J肋≠er嵐,39,2581-2584(2004).
6・Preparation
of Three
Dimensionally
Electroconductive
Si3N4-TiNSystembyInkJetPrinting.
H・Ybkoyama,S.Obaね,N.Kato,T∴Hotta,H.Abe,M.NaitoandS.
Hirano
JCbⅥ皿jわc.如.,112,S144-S148(2004).
114
Pattern
of
7.SinteringofAluminaby2.45GHzMicrowaveHeating・
M.Mizuno,S.Oba晦S.Takayama,S.Ito,N.Kato,T・HiraiandM・
Sato
J肋.C肋皿上わc.,24,387-391(2004).
8.窒化チタンの鋳込成形におけるイットリア添加方法の影響
横山久範,尾畑成造,加藤布久,堀田禎,阿部浩也,内藤牧男,菊田浩一,
平野眞一
J伽皿jわc.亡匂丑,112,604-607(2004).
9.3次元インクジェット方式による陶磁器への絵付
昼畑成造,柘植英明,尾石友弘,横山久範
セラミックデータブック2♂喝32,106-107(2004).
10.Near-Net-ShapeFabricationofPorousAlumina-SpinelCastings・
M.Hashiba,A.Harada,N.Adachi,S.Obaね,0.Sakurada,andK・
Hiramatsu
脇ねェ肋鼠,46,2647-2650(2005).
11・AcousticEmission
Studies
ofLowThermalExpansionAluminum・
TitanateCeramicsStrengthenedbyCompoundingMuute.
TlOno,YSawai,M.Ikimi,S.Obaね,0.SakuradaandM.Hashima
Cbz72m.ht.,(2006)inpress.
115
謝
辞
本研究を進めるにあたり、終始変わらぬご指導とご鞭捷を賜りました岐阜
大学工学部教授橋場稔先生に厚く感謝の意を表します。また、多大なご
助言、ご助力頂きました岐阜大学工学部助教授櫻田修先生に厚く感謝い
たします。
未熟な私に研究の道筋を示して頂くとともに、研究を継続するなかで様々
なご指導とご助言を頂きました元岐阜大学工学部教授(故)塗師幸夫先
生に深く感謝の意を表します。
本研究をまとめるにあたり有益なご助言を頂きました岐阜大学工学部教
授平松宏一先生、岐阜大学工学部教授小野晃明先生、岐阜大学工学部
教授大矢豊先生、岐阜大学名誉教授高橋康隆先生に厚く御礼申し上げ
ます。
そして岐阜県陶磁器試験場(現岐阜県セラミックス技術研究所)に勤務以
前から上司であり研究室の先輩として数々のご指導、ご教示頂き、岐阜県セ
ラミックス技術研究所において学生となることを認めて頂きました岐阜県
製品技術研究所所長島田忠博士、勤務以来ご指導頂きました岐阜県セラ
ミックス技術研究所所長平井敏夫氏に深く感謝いたします。
本研究の共同研究者として数々のご協力を頂きました元日本ピラー工業
株式会社衣笠比佐志氏、日本ピラー工業株式会社櫻田清隆氏、株式会
社フジミインコーポレーテッド浅野宏氏、大同メタル工業株式会社朝倉
啓之氏、林テレンプ株式会社加藤直之氏のほか、岐阜大学工学部(旧)
応用化学科、応用精密化学科物性化学講座塗師・橋場研究室に所属された
皆様に深く感謝いたします。
また、本研究を進めるにあたり数々のご配慮とご助言をいただきました岐
阜県セラミックス技術研究所服部清研究開発部長、水野正敏氏、横山
久範氏をはじめとして研究所の職員一同に心より感謝いたします。
最後に常に励まし、元気づけ、支えてくださった父尾畑武彦、母栄、
そして妻恵美に心より感謝します。