暮らしに生かす森田療法

こんな悩みはありませんか?
○人見知り・人と話すのがつらい
○飲み会には、できれば行きたくない
○細かいことが気になって眠れなくなる
○自分のしたことを、いつも反省して後悔する
あ なたは、とても感受性が豊かで、自分の行いを反省し、そしてもっと良くなりたいと
いう向上心も持っている。そんなステキな人ですね。そして、自分が悩んで いること
を、人には気付かれないように気を使っていませんか?「こんな私じゃダメ!」「もっと
頑張んなきゃダメ!」なんて言葉を心の中で自分に言っていま せんか?
こ ういう繊細な神経の持ち主、日本人にはとても多いんです。悩んでいるのは、あな
ただけではないんですね。そして、そんな日本人の気質をよく知っている森田 博士が
考えた、森田療法という心理療法の考え方が、あなたの心を楽にしてくれるかもしれ
ません。そして、本来の素晴らしい特徴を活かして、あなたらしく生 きる手助けになる
かもしれません。
森田療法とは何でしょう
心 理療法、セラピー、カウンセリング、という言葉を聞いたことがあると思います。最
近、「心」を整えることが大切だということが、多くの人にわかってきまし た。少し調べ
たことがある人ならば、「精神分析」「交流分析」「認知行動療法」「来談者中心療法」
「NLP」・・・・そんな言葉も聞いたことがあるのでは ないでしょうか。
森 田療法は、そんな心理療法の一つです。 1920 年ごろに、日本人の森田正馬博士
が作りました。日本人が考えた、というところがとても重要なポイントです。西洋では、
原因を突き止めて、それが解 決できさえすれば OK という考え方があります。それは、
キリスト教など、一神教を信じていることにも関係がありそうですね。それに対して日
本人は、神様、 仏様、多くの考え方を多様に受け入れてきました。そして、物事をい
ろんな方向から考えてみる、という柔軟な心を持っています。だから、森田博士はこん
なふ うに考えました。恐れや不安は、人間ならばあって当然。だから、その原因を追
求するよりも、そのときやることをちゃんとやろう。悩みがあるのは当たり前。 だから、
悩みながらも自分の日々の生活をきちんと整えよう。足元ばかりに気を取られずに、
将来の目的を見てみよう。そうすることで、囚われている恐怖心、 不安な気持ちなど
が、気にならなくなります。座禅や、日々の日常の作業そのものも修行と考える「禅」
などの宗教的な考え方にも通じるところがありますね。
まずは行動すること!
心配性で人見知りな A 子さん
●今日は仕事の後、飲み会があるんだけど
・・・用事を言い訳にして、欠席しちゃいました。
A 子さんは心のなかで、つぶやいています。
・雑談は苦手だし、ちゃんと話せないと恥ずかしい。
・今日の服はあんまり似合わない。変な格好していると思われるかも。
・上司の前だと緊張して話せない。気が利かないと思われるかも。
・気になる同僚が出席するらしい。顔が赤くなって嫌われたらどうしよう。
・酔っ払って、みんなに迷惑かけたら困ったやつだと思われるかも。
こんな不安や心配が、A 子さんの頭のなかをぐるぐる回っています。「気にしないよう
にしよう」「考えないようにしよう」と思えば思うほど、気になってくる。
例えば、「すっぱ~い梅干しのことは絶対考えないで!」と言われたら・・・・
頭のなかに梅干しが浮かんできちゃいますよね。口の中もすっぱくなっちゃうかもしれ
ません。
こ んなふうに、人の頭は、考えないようにしようと思えば思うほど、その考えが強くな
ってしまうものなのです。こんな心の状態を、森田博士は「とらわれ」とい いました。
心配ごとに心がとらわれてしまうと、益々そのことが気になって、逆にそれ以外のこと
が見えなくなる。そして益々引っ込み思案になって自分の中に 閉じこもってしまう悪
循環になります。
で すから、「嫌だな」「不安だな」という気持ちがあるな・・・ということに気づいてその
まま受け入れましょう。嫌な感情を打ち消そうとせず、(打ち消すこと なんてできない
ですよね!)それはそのまま、当然の感情として持っていていいのです。その上で「よ
し!頑張って行動してみよう!」とチャレンジしてみま しょう。
苦 手なのはしょうがない。緊張するのは当たり前。不安な気持ちを持ちながらも、で
きることをやっていく。それを繰り返していると、人と会話する練習をするこ とになりま
す。練習すれば、少しずつ上手になるはず。人によって、上手になるタイミングやペー
スは違うと思うけれど、ちょっとでも話せるようになれば、自 分に自信がついてくる。
自分にもできる、という自信がつけば、辛くて緊張していた時間が、少しずつ楽しいも
のにかわってくるはずです。苦手なことがすぐに 上手になることはないかも。でも、練
習する価値のあることだと思います。そして、人の気持ちに敏感で、細かいことにも気
づく力のある A 子さんは、もっと魅 力的になるはずですね。
やる気がでないときは
●やりたくない、面倒な仕事を頼まれてしまった A 子さん
・・・ちょっと休んでからやろうかな
A 子さんは考えています
・やりたくないな~やる気になったらやろう。
・期限はまだ先だから、後でやればいいや。
「や る気になったら」というのが、大切なキーワードです。いつになったらやる気にな
るのでしょう?どうしたらやる気になるのでしょう?休んだらやる気になる? 次の日に
なったらやる気になる?「やるぞ~!」掛け声かけたらやる気になる?そういう人もい
るかもしれませんが、あまり効果的な方法ではないと言われてい ます。
では、どうすればいいか・・・
と りあえず始めてみる。できることからやってみる。ちなみに私は、5 分間だけやって
みる、という方法でとりかかります。やる気がでないときも、その作業の目 的に向か
って、一歩でも踏み出してみる。そうすることで雑念が消えていき、前に進むことがで
きるんですね。やる気は待っていても来てはくれません。後でや れば・・・と先送りす
ると、先送りしている間中、その仕事のことが気になっています。そして、ギリギリにな
ってとりかかっても、焦る気持ちからミスをした り、思ったよりも時間がかかって期限
に間に合わなくなったりと、いいことはなさそうです。やりたくない仕事ほど、とりかか
る、という行動を起こして、見通 しを立てることで自分が楽になるのです。
目的本位という考え方
●次に、お客様にお茶を出すことを頼まれた A 子さん
人見知り、初対面の人は苦手です。お茶を出すときは、緊張して手が震えることもあ
って、恥ずかしい気持ちになります。
・・・お茶出しは嫌なので、後輩の C 子さんに頼んじゃいました。
A 子さんの心の中は
・初対面の人には、緊張して変なこと言っちゃうかも、そうしたら変な人だと思われそ
う。
・お茶を出すとき手が震えたら、気の利かない不器用な子だと思われそう。
・お茶出しのような簡単なこともできない、能力のない子だと思われそう。
もう気づかれましたね。A 子さんは、自分がどう思われるか、自分がどう見えるか、と
いうことばかりを考えています。神経が自分の内側にばかり向いていて、自信を持て
ないんですね。自分にばかり注意が集中していると、まわりが見えなくなります。
そ もそも、お茶を出すということにはどんな意味があるでしょう。来てくださったお客
様をおもてなしする、という目的があります。暑い日ならば、お客様に、喉 を潤してい
ただこうと思います。寒い日ならば、暖まっていただこうと思います。そのように、行動
の目的を考えて、その目的を達成することだけに注意を集中 して行動することを目
的本位の行動といいます。お客様は、A 子さんの緊張した様子や、手が震えることで、
A 子さんが大嫌いになるほど嫌な思いをするでしょ うか。それよりも、お茶を出してく
れたことに感謝する気持ちの方大きいんじゃないかと思います。
た だし、一つ大事なことがあります。不安だな・・・、嫌だな・・・という気持ちを打ち消
さないということです。先ほど梅干しの話をしましたが、打ち消そうと すると、その気
持はもっと大きくなってしまいます。ここでも、嫌だなという気持ちを受け入れつつ、や
るべき行動をするのです。そのように行動することを続けていくことで、気持ちが冷静
になり、自分を客観的に見られるようになってきます。
目指すのは完璧じゃなくて、良い加減
A 子さんは、きちんとした人です。仕事をしながらも部屋はいつも綺麗に掃除してい
ます。もちろん仕事も「完璧!」を目指します。でも、忙しいとなかなか自分 で納得が
いくまで作業ができず、時間が足りないと部屋も散らかってきたり、そんな不満がたま
ってイライラしてきました。明日のことを考えるとなかなか眠れ ない、睡眠不足気味
の日々が続きます。頭がぼ~っとしているような気がして、ますます仕事がはかどら
ないような気もしてきます。
眠れないとどうしよう・・・今日もほとんど眠れなかった・・・・眠ろうとすると益々目が冴
えちゃう・・・・
こんなとき、考えて欲しいのは、「完璧」とはどういうことか、ということです。部屋が完
璧に綺麗になっているというのは、具体的にどういうことですか。
ものが置くべきところにおいてあること。
掃除機をかけてゴミが落ちていないこと。
台所が清潔になっていること。
人によって、完璧の意味は違いますよね。それに、どんなに掃除しても、掃除が終わ
った次の瞬間からまたホコリはたまるのです。人が生活していれば、毎日ゴ ミも出ま
す。だから、誰が見ても「完璧」という状況はないし、完璧を目指すことは無理なので
す。無理なことを目指して、できないと落胆するのは、自分の思 い込みにとらわれて
いるからです。
そ して、夜眠れなくて悩んでいる A 子さんへのアドバイスは、人は眠らずに死ぬ人は
いない。ということです。食べられなくて栄養不良で死ぬ人はいます。です が、故意
に眠らせないという状況を作らない限り、人は自然に必要な睡眠をとるようにできてい
ます。一日7~8時間眠らなきゃいけない、というのも思い込 み。人によって必要な時
間は違います。不眠症と思っている人は、眠れなかったらダメだ、という思い込みにと
らわれて不安を感じている場合が多いのです。
何 事も100%を目指す、というのは無理なこと。100%のゴールを目指そうとした途
端、頭も心も硬くなって、その戦いには負けているのです。80%できれ ば OK、という
柔軟性を持つことが心のゆとりを生むのです。それは、手抜きをしてもいいという意味
の「いいかげん」ではありません。ちょうどいいという意 味の「良い加減」です。そして、
そのゆとりが、まわりの状況によく気づく自分を育て、結果的に良い仕事、整った暮ら
しに結びつくのです。
劣等感は誰にでもある
A 子さん、上司に報告に行ったとき、答えられない質問をされて思わず赤面してしまい
ました。自分の席に戻って反省しきり・・・わからなかったところを調べて、再度報告に
来るように指示されたのですが・・・
・赤くなって恥ずかしかった。また報告に行ったときも赤くなったらどうしよう。
・簡単なことに答えられなくて、自分はなんてダメなんだろう。
人 前で、何か思い通りにできなかったとき、恥ずかしいと感じることは当り前のこと。
そして、そんなときに顔が赤くなることだって誰にでもあります。A 子さん はそれをす
ごく気にしていますが、もし、そんな A 子さん、同僚の B 子さんのそんな場面に出会っ
たらどう感じるでしょう。B 子さんはダメな人だ、とは思わな いはず。とても緊張しちゃ
ったんだね。と温かい眼差しで見守るでしょう。顔が赤くなることで、誰にも迷惑かけて
ないんですから。それに、1 回赤くなったか らといって、次もそうなるというのは思い
込みです。赤くなることを気にして不安になることよりも、前向きな気持で足りなかった
報告をちゃんとやる、という 目的に集中して頑張ると、きっと良い結果になります。
劣 等感は誰にでもあります。完璧な人なんてこの世にいないんですから。失敗や仕
事の不備を反省することは大切なことです。でも、なぜ大切なの?自分はダメ~ なん
て自己嫌悪するためではありません。もっと良い報告をするためです。もっ良い報告
をする努力をすれば、A 子さんの能力は確実に高まります。自己嫌悪し て、自分は
ダメだ~と思うことは、自己嫌悪という殻に逃げていることです。逃げずに前向きに目
標に向かって行動することができる人、そんな人を目指して欲 しいのです。
ど んな場面でも、人は誰でも他人によく思われたい、高い評価を得たい、という思い
があります。だから上手くいかなかったときには劣等感にさいなまれたりする んです
ね。しかし、そんな苦しい気持ちになったときも、その状況から逃げないこと。劣等感
をなくそう、劣等感をどうにかしようとすると、益々その劣等感ば かりを強く意識する
ことになってしまいます。だから、そんな自分をあるがままに受け入れて、目標に向か
って行動するのです。心理学者のアドラーも、劣等感 があるからこそ、文明は進歩す
るんだ、と言っています。劣等感というのは、人間にとって必要なものでもあるんです
ね。
日々是好日
にちにちこれこうじつ
森田博士の言葉です。
A 子さん、今日は、上司に注意されて落ち込んだり、飲み会で緊張したりと、疲れる
一日でした。でも、やるべきことをちゃんとやりました。活動していれば、そ のときどき
で気分が変化するのは当たり前のこと。不安になったり、悲しくなったり、緊張したりす
るのは、生きている証拠です。日々是好日とは、そんな気分 になっていることを受け
止めながらも、やるべきことをちゃんとやった日は、充実したよい一日だ、ということで
す。
過去の不安や後悔、未来への不安などにとらわれず、今日を大切に生きること。日々
是好日を毎日積み重ねることが大切なんですね。