GDM(Graded Direct Method)を活用した授業法 篠岡中学校 辻 ノ 上 祐

G D M ( Graded Direct Method) を 活 用 し た 授 業 法
篠岡中学校
辻
ノ
上
祐
介
学習指導要領の目標にもある、
「 聞 く こ と 、話 す こ と 、読 む こ と 、書 く こ と 」が で き る 力
を 育 成 す る こ と を 目 標 と し た 。文 法 を 説 明 す る の で は な く 、生 徒 自 身 に 気 づ か せ る こ と で 、
「 使 え る 」英 語 の 力 を 伸 ば し た い と 考 え 、G D M( Graded Direct Method)を 実 践 し て き
た。目の前の事柄を題材にし、英語を聞いて、考え、表現する活動が多いことから、日本
人 が 苦 手 と す る 、「 聞 く 」「 話 す 」 力 に も 有 効 だ と 思 う 。
G D M ( Graded Direct Method) を 活 用 し た 授 業 法
篠岡中学校
1
辻
ノ
上
祐
介
主題設定の理由
中 学 校 学 習 指 導 要 領 外 国 語 の 目 標 に「 外 国 語 を 通 じ て 、言 語 や 文 化 に 対 す る 理 解 を 深 め 、
積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くこと、話すこと、読
むこと、書くことなどの、コミュニケーション能力の基礎を養う」とある。英語教育の4
技能が明確に学習指導要領に盛り込まれている。では、今までの学習指導要領はどうだっ
たのかを確認したい。
外 国 語 を 理 解 し 、外 国 語 で 表 現 す る 基 礎 的 な 能 力 を 養 い 、外 国 語 で 積 極 的 に コ ミ ュ
ニケーションを図ろうとする態度を育てるとともに、言語や文化に対する関心を深
め 、 国 際 理 解 の 基 礎 を 培 う 。( 平 成 元 年 3 月 )
ここでは、外国語でコミュニケーションを図ろうとする態度を育てるとは明記されてい
るものの、表現の技能というよりは外国への興味関心に重きをおいているような表現であ
ると感じる。
外 国 語 を 通 じ て 、言 語 や 文 化 に 対 す る 理 解 を 深 め 、積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を
図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 を 図 り 、聞 く こ と や 話 す こ と な ど の 実 践 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ
ン 能 力 の 基 礎 を 養 う 。( 平 成 1 0 年 1 2 月 )
平成10年に改訂された学習指導要領では、外国に対する興味や関心は前提として、聞
くこと、話すこと、という技能が明記されるようになった。この背景には、インターネッ
トの普及による情報化社会や国際化が大きく関わっていると思う。そして、小学校におけ
る外国語活動も大きな要因であると感じる。
このように、20年間という期間で学習指導要領の目標が「国際理解」から「コミュニ
ケ ー シ ョ ン の 基 礎 」と い う よ う に 変 わ っ て き た 。
「 聞 く こ と 、話 す こ と 、読 む こ と 、書 く こ
となどのコミュニケーション能力の基礎を養う」とは、単に外国語の文法規則や語彙など
についての知識を身に付けさせるだけではなく、実際のコミュニケーションを目的として
外国語を運用することができる能力の基礎を養うことを意味している(中学校学習指導要
領外国語
解説)とある。私は、外国語を運用することができる能力を養うための指導法
-1-
と し て G D M ( Graded Direct Method) を 取 り 入 れ る こ と に し た 。
2
生徒の実態
本校は校区が狭く、1 つの小学校からほとんどの生徒が入学してくる。そのため、新し
い人間関係を築く必要はない。男女の関係も比較的よく、学級も落ち着いている。行事や
授業などで、グループを作る際にも大きな問題が起こることも少ない。お互いのことをよ
く知っていて、役割もすでにでき上がっている。
その反面、小学校の延長という考えが捨てきれず、いつまでも変わらないとも言える。
人間関係においても、小学校のときの人間関係が強すぎて、新しい一面を見つけることが
難しい。中学校に入学して、さまざまなことにチャレンジしようという気持ちをもって入
学しても、でき上がった人間関係に阻まれて、自分を出しきれない生徒がいることも事実
で あ る 。 そ の 結 果 、「 話 す 」 生 徒 と 「 聞 く 」 生 徒 に 分 か れ て い る 場 面 も 少 な く な い 。
そのような問題を解決するために、学級の時間や総合的な学習の時間を活用して、新し
い人間関係作りを試みている。また、それぞれの授業でも、ペアやグループ活動を取り入
れ、分からないところを「教えて」と言える人間関係作りを目指している。英語でも同様
に、ペア活動を多く取り入れ、お互いに聞きあえる授業を目指している。
3
目指す生徒像
「 積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 を 図 り 、聞 く こ と 、話 す こ と 、
読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力の基礎」を3年間で育成したいと考え
た 。 特 に 、 後 半 部 分 の 「 聞 く こ と 」「 話 す こ と 」「 読 む こ と 」「 書 く こ と 」 の 4 技 能 の う ち 、
「 聞 く こ と 」「 話 す こ と 」 の 能 力 を 、 中 学 校 1 年 生 の 間 に 慣 れ さ せ た い 。 理 由 は 2 つ あ る 。
ま ず 、今 ま で の 英 語 教 育 の 中 で「 英 語 は 読 め て 意 味 も 分 か る け ど 、話 せ な い 」
「何を言っ
ているか分からない」といった感想を様々な場面で見てきた。これは、教科書本文の意味
を理解することを重要視しすぎた結果ではないだろうか。自分自身、中学校を卒業して留
学した経験がある。簡単な会話でさえ、聞き取ることに必死で、何を話せばよいかを後か
ら考えて話した覚えがある。中学校で学んだ文法や単語で十分把握できるレベルであった
にも関わらずである。帰国する頃にはある程度、聞いて話すことができたが、何をしたわ
けでもない。英語を聞き、英語を話すということを繰り返していただけである。辞書を開
いたことは一度もない。
-2-
2つ目の理由としては、
「 自 分 の 立 場 に 立 っ て 」英 語 を 表 現 す る こ と が 、必 要 だ か ら で あ
る。何も考えずに教師が表現した英語をそのまま繰り返すだけでは、英語を運用できる力
にはなりにくいと考える。やはり、だれがだれ(何)について、だれ(何)に向かって話
しているのかということを、考えなくても分かるようにしなければならない。自分の立場
から考えて聞く、話す練習を繰り返すことで、その力が養えると考えた。
以 上 2 つ の 理 由 か ら 、中 学 校 の 間 に 自 分 の 身 の 回 り の こ と を「 話 せ る 」
「 聞 け る 」力 を 備
えた生徒を育成したいと考え、目指す生徒像とした。
4
研究の仮説
目指す生徒像に迫るために、次のような仮説を立てて研究を進めることとした。
目 の 前 の 事 柄 を 対 象 に 英 語 で 表 現 を 繰 り 返 し 練 習 す る こ と で 、 英 語 の 「 聞 く 」「 話
す 」力 を 養 う こ と が で き る の で は な い か 。ま た 、段 階 的 に 学 習 を 進 め る こ と で 、自 分
たちで英語のルールを見つけ運用できるようになるだろう。
そして、どのような指導、活動が有効なのか。仮説を具現化する手立てを5つ考えた。
(1)
目の前の事柄を題材にする
いきなり教科書の文法・単語を導入することは英語を苦手とする生徒には非常に困難
だと考える。実際に、自分たちの体を使い、目の前の事柄を表現することを繰り返し行
う。それを継続することで、より容易に英語を理解し、教科書につなげていく。
(2)
自分の立場から表現する
い つ も 自 分 の 立 場 か ら 英 語 で 表 現 さ せ る 。自 分 自 身 は い つ も I で あ り 、相 手 は You だ
ということを前提として指導を進めていく。だれが・何を・どうする、ということを、
いつも意識して聞き、話すことで英語をそのまま理解することにつなげていく。感覚的
に英語を身につけるということは、一見あやふやに英語を覚えるということのように誤
解するかもしれない。しかし、感覚的に身につけるということは、自分がその場面に直
面 し た 時 に 、 英 語 を 「使 え る 」と い う こ と だ と 思 う 。
(3)
「 聞 く こ と 」 か ら 『 考 え 』、「 話 す こ と 」 に つ な げ る
日本語で文法を導入することをやめる。生徒が自ら考えることによって、ルールを導
き出せるように意図的なシチュエーションをつくりだす。それを英語で聞かせ、話させ
る こ と に よ っ て 、「 聞 く 」「 話 す 」 力 の 基 礎 を 養 う 。 必 要 な 情 報 を 最 小 限 に 絞 り 、 生 徒 に
その時間のターゲットとなる事柄に気づかせ、表現できるようにすることが確かな力に
-3-
つながっていくと考える。
(4)
「 話 す 」「 聞 く 」 時 間 を 増 や す
自分が今まで経験してきた英語の授業で、1時間の中でどれだけ生徒が英語活動をし
ていたかをふりかえってみる。大きな流れは以下の通り。
ア
新出文法の説明を受ける。
イ
新出語句の意味を確認する。
ウ
単語の読み練習をする。
エ
本 文 の CD で 聞 く 。
オ
本文の内容を確認する。
カ
本文の読み練習をする。
キ
新出文法を使った文をワークシートに記入する。
ク
発表する。
こ の 授 業 の 中 で 、英 語 を「 聞 く 」活 動 は エ
習 を す る 。だ け で あ る 。ま た 、「話 す 」活 動 は ウ
本 文 の CD で 聞 く 。 と カ
本文の読み練
単 語 の 読 み 練 習 を す る 。と カ
読 み 練 習 を す る 。の 2 か 所 だ け で あ る 。一 部 の 生 徒 は ク
本文の
発 表 す る 。の 活 動 で 「話 す 」時
間はあるが全員には保障されていない。
こ の よ う な 指 導 法 で は 、 養 い た い 力 の 「聞 く こ と 」「話 す こ と 」の 時 間 が 非 常 に 短 い 。 毎
回 、 内 容 理 解 や 文 字 を 書 く こ と に 時 間 を か け す ぎ る の で は な く 、 「話 す こ と 」を 恐 れ ず に
挑戦する姿勢を養いたい。
(5)
自分でシチュエーション考えさせ、表現させる
(4)で 述 べ た よ う な 、そ の 単 元・そ の 時 間 の タ ー ゲ ッ ト セ ン テ ン ス の み を 使 っ た 英 作 練
習 だ け の 指 導 法 で は 、そ の 後 に 使 え る 力 に は な り に く い と い う こ と が あ る 。同 じ 文 法 を 、
ドリル学習のように繰り返し練習しても、日常の生活では同じ文法を使い続けるような
会話は少ない。授業の中で、既習の文法も意図的に取り入れ、生徒に考えさせ、表現さ
せる練習を続けることが有効だと考える。そして、応用の段階として、生徒自身にシチ
ュ エ ー シ ョ ン を 考 え さ せ 、 表 現 さ せ る 時 間 を 取 り 入 れ る 。 そ の 、 自 分 で 「 考 え 」「 表 現
する」力こそが、将来に生きる力になると信じている。
5
GDMとは
目指す生徒像に近づけるためにどのような手法が効果的なのかを考えてみた。非常に多
-4-
く の 手 法 が 存 在 す る 中 で 、 GDM( Graded Direct Method) が 最 も 効 果 を 上 げ る と 思 い 実
践 す る こ と に し た 。Graded Direct Method と は 「目 標 言 語 を direct に 教 え る method で す
が 、 言 語 材 料 が 厳 密 に graded 段 階 づ け ら れ て い る 」( GDM 英 語 教 授 法 の 理 論 と 実 際 ) 手
法である。この手法は、従来の指導法に比べて特徴的な部分がいくつかある。その理由の
うちの1つに、授業中に文法の説明を日本語でしないという点がある。日本語ではしない
が英語でもしない。不安を感じる人も少なくないと思うが、綿密に考えられた手順で英語
を導入していくので、生徒はあまり抵抗なく受け入れることができる。さらには英語を感
覚的に身につけることができる。
2つ目の理由としては、教師の話す英語と生徒の話す英語が違うということである。そ
の 理 由 は 明 確 で あ る 。 先 に も 述 べ た よ う に 、 立 場 に よ っ て 物 の 見 方 は 違 う 。 GDM で は 必
ず 自 分 の 立 場 か ら 表 現 さ せ る 。同 じ ペ ン を 持 っ た 状 態 で の 表 現 活 動 で も 、教 師 が This is my
pen. It is in my hand.と 表 現 す れ ば 、 生 徒 は That is your pen. It is in your hand. ( 教 師
の 近 く の 生 徒 な ら This)と 表 現 す る 。こ の よ う に 、そ れ ぞ れ の 立 場 か ら 物 事 を と ら え て 英
語で表現することを継続することにより、だれが・何を・どうする、ということを理解で
きるようになっていく。
3 つ 目 に 、前 時 と 本 時 、本 時 と 次 時 が 密 接 に 関 係 し て い る と い う こ と で あ る 。こ れ は「 学
習 者 は そ の よ う な SEN-SIT( sentence と situation の 略 )の 配 列 を す す み な が ら 、そ れ ら
の要素と構造を練習しなくてはならない。ただし、単にリピートするのではなく、既習の
要 素 を 新 し い 構 造 に お い て 使 い 、変 化 し た 要 素 で 同 じ 構 造 を 使 い な が ら 、新 し い SEN-SIT
を 経 験 す る こ と に よ る の で あ る 」( GDM 英 語 教 授 法 の 理 論 と 実 際 )と い う 言 葉 に 集 約 さ れ
ている。すべてのものを独立させて覚えるのではなく、既習事項を使いながら新出事項を
経験し、学習者が導き出していくということである。
こ こ で 、 GDM の 大 ま か な 1 時 間 の 流 れ を 説 明 す る 。「 GDM 英 語 教 授 法 の 理 論 と 実 際 」
にもあるように、基本的には4つのパートに分けて進めている。
① 実 際 の 場 面 の 中 で 、口 頭 に よ る や り と り を す る 。そ の 中 で 、新 し い 語・文 型・文 法
項目を導入し練習する。
②写真または絵で場面を示し、口頭によるやりとりをする。
③文字を示し発音と綴りを教える。英文のリーディングをする。
④ライティングをする。
1 時 間 の 中 に 4 技 能 が す べ て 入 っ て い る 。 し か も 、「 話 す こ と 」「 聞 く こ と 」 の 時 間 を し
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っかり確保できているので、生徒の話す英語は格段に多い。3年生の関係代名詞の部分
( Unit6
6
Break the Barrier) で 具 体 的 な 実 践 を 考 察 し て み た い 。
実践と考察
① 実 際 の 場 面 の 中 で 、口 頭 に よ る や り と り を す る 。そ の 中 で 、新 し い 語・文 型・文 法
項目を導入し練習する。
ま ず 、 ス プ ー ン と フ ォ ー ク ・ ト ラ ン プ を 用 い which の 感 覚 を 思 い 出 さ せ た 。
教 師 : This is a spoon. This is a folk. Which is the spoon?( ト ラ ン プ も 同 様 )
こ こ で は 、関 係 代 名 詞 の which と い う よ り は 、い く つ か あ る う ち の も の の 中 か ら 何 か を
選 ぶ 場 合 の which の 感 覚 を 意 識 さ せ た 。次 に 、手 と ド ア で open と closed を 表 し 、同 じ も
のでも情報が違う場面を作り出した。最後に、足の本数が違うイスも用意した。
教 師 : My right hand is open. My left hand is closed. ( ド ア も 同 様 ) This seat has four
legs. This seat has one leg.
生徒は、同じものでも状態が違うものがあるということを確認した後、本題に入った。
具体的な会話の流れは次の通りである。クラスに、箱を2つ用意しておいた。
教 師 : Do you see two boxes in this room?
生 徒 : Yes, I do. One is on the floor. The other is on the seat.
ここでも、床の上とイスの上というように違う状態で置いた。同じ箱でも違う情報を見
つけさせておいた。後にこの情報の違いを利用して、関係代名詞を導入していく。
教 師 : I took the box off the seat. I put it on the table.
生 徒 : They are on the table now. One was on the seat. The other was on the floor.
教 師 : What do you see on the blackboard?
生 徒 : I see three pictures. One is Ichiro. Another is Darvish. The other is Matsui.
こ の 時 点 で 箱 は 2 つ と も 机 の 上 に あ る 。 They are on the table now. と い う 今 の 状 態 は
同 じ だ が 、 One was on the seat. The other was on the floor.と い う 、 過 去 に は 違 う 状 態 で
あったことを何人の生徒にも言わせ、全体に確認した。この時点までに、生徒は既習の文
法事項を使い、何度も英語を話している。また、個人で発言させる場面も意図的に設ける
ので、英語を聞く時間も多い。そして、関係代名詞を導入した。1人の生徒を前に出し、
生徒に取った写真をどちらかの箱の中に入れるように指示をした。すると生徒は、
He put it in the box…
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と、いうところまでは既習事項で表現した。しかし、目の前には箱が2つある。何か付け
加えないと目の前で起こっていることが十分表現できない、と感じた瞬間に教師が、
which… was on the floor(seat).
と、付け加えた。ここで、最初の箱の状態が違ったことを付け加えれば、表現できること
に気付かせた。過去に起こったことは何度でも表現できるので、ここで「話すこと」に時
間をかけた。自分たちの目の前で起こったことを題材に反復練習を行う。その中から自分
たちで導き出させることこそが、使える英語につながっていく。この後に、ペアで確認の
時間を取り、理解を深める時間を確保した。
次に、この時間に導入した文法事項を使い、生徒主導で表現させていった。そして発展
的な内容に取り組んでいく。授業の最初の時間に、一方は開いていて、もう片方は閉まっ
ているドアについて触れている。そのドアにはカードを張っておく。生徒は、教師がドア
の話題を出した瞬間に、開いているドアと閉まっているドアという情報を見つける。
教 師 : Do you see cards on the doors?
生 徒 : Yes, I do.
生徒を指名し、カードを取ってくるよう指示をしった。援助をしながら生徒に、関係代
名詞を用いた英語を表現させる。
生 徒 : He is going to the door which is closed to take a card.
生 徒 : He went to the door which is closed to take a card.
このような表現を多くの生徒に表現させた。そして、発展問題に取りかかった。
教 師 : Please come to the table and put it on the seat.
指名された生徒は指示通り、カードをイスの上に置いた。しかし、イスは4本足のもの
と1本足のものがある。
生 徒 : He put it on the seat which…has four legs (one leg).
生徒は最初に導入された関係代名詞の時点で、情報を付け加えることによって、同じも
のがあっても違いを見つければ表現できることを学習している。
こ の よ う に 、 学 習 者 に 気 づ か せ る こ と が で き る の が GDM の メ リ ッ ト で あ る 。
②写真または絵で場面を示し、口頭によるやりとりをする。
③文字を示し発音と綴りを教える。英文のリーディングをする。
次のステップとして、実際の人や物の動きから、抽象的な物へと移行していく。例えば
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There are two boxes in the room.
One was on the floor. The other was on the seat.
Ken took a picture from the box which was on the
floor.
A bird came into the room through the window. It
will be on the seat which has four legs.
と、いうように絵で場面を作り表現させる。始めは、英文の部分は口頭で表現させる。そ
の 後 、 文 字 指 導 を し て い く 。 板 書 が 完 成 し た と こ ろ で 、「 読 む こ と 」 の 練 習 に 入 っ て い く 。
文字を見て、適切に読める力をここで養っていく。
④ライティングをする。
授 業 の 最 後 に 、英 語 を「 書
く こ と 」の 時 間 を 確 保 す る 。
ワークシートに日本語はな
く、絵だけで状況を読み取
り表現できるようなもので
ある。右は2年生の不定詞
を導入するときに使用した
ワークシートである。生徒
は、今までに学習した英語
を最大限に用い、
(
)を 埋
め て い く 。中 学 校 1 年 生 の
レベルから、この時間まで
の学習内容が盛り込まれて
いるので、今までの学習の
1 A picture ( is ) ( on ) the ( door ).
2 ( Do ) you ( see ) a mountain ( in ) the picture?
3 Yes, ( I ) ( do ). I ( see ) a mountain ( in ) the picture.
4 ( Do ) ( you ) ( see ) a flag?
5 No, ( I ) ( don’t ). I ( don’t ) ( see ) ( it ).
6 He ( will ) ( go ) ( to ) the door ( to ) ( see ) a flag.
7 He ( is ) ( going ) ( to ) the door ( to ) ( see ) ( it ).
8 He ( went ) ( there ) ( to ) ( see ) it.
9 I ( came ) ( here ) ( to ) ( see ) a flag ( in ) the picture.
10 He ( is ) ( at ) the door.
11 Now he ( sees ) the flag ( in ) the picture.
12
I ( is ) ( not ) ( on ) the wall.
13 She ( has )
I
14 She ( will)( put )
( in ) ( her ) hand.
I
( between ) P
( and )
E .
復習にもつながる。もちろ
ん、①実際の場面の中で、口頭によるやりとりをする。その中で、新しい語・文型・文法
項目を導入し練習する。段階でも復習は意図的に取り入れている。
-8-
7
成果と課題
GDM を 実 践 す る よ う に な っ て か ら 、生 き 生 き と し た 生 徒 の 顔 を 何 度 も 見 る よ う な っ た 。
反対に、まだまだ研究が必要だと感じる部分も多々あった。成果と課題を、4技能それぞ
れに見ていくことにする。
話すこと
成 果 と し て は 、「 話 す こ と 」 を 積 極 的 に 行 お う と す る 姿 勢 が 徐 々 に つ い て き た
ことである。始めは、戸惑いながらも、慣れていくうちに顔が上がり英語を話す生徒が増
えてきた。
「 緊 張 す る け ど 、自 分 で 考 え て 話 し た 英 語 が 合 っ て い た と き は 嬉 し か っ た 」と ふ
りかえりに書く生徒もいた。1人でも多くそう感じる生徒を増やしていきたい。
課題としては、基本的には、教師が英語を話したものを聞き、まねるように話すので、
教師が発音やイントネーションを意識して話す必要がある。文法によっては、本来であれ
ば強調しない部分を強調して発音する場合もあるので、ある程度練習したあたりからは、
イントネーションやリズムに気をつけさせなければ、いつまでも授業でしか役に立たない
英 語 に な っ て し ま う 。「 話 し 方 」 に 注 意 を し て い か な け れ ば な ら な い 。
聞くこと
中 学 校 入 学 時 か ら 英 語 を「 聞 く こ と 」に は 慣 れ て い る の で 、ALT が 話 す こ と に
も、聞こうとする生徒が増えた。これは、注意深く聞くことで自分は英語を理解してきた
という自信があるからだろうと考える。
しかし、
「 話 す こ と 」と 同 様 に 、生 徒 が 聞 く 英 語 の 多 く は 教 師 や 他 の 生 徒 の 英 語 で あ る 。
本来のリズムとは違う英語や不完全な英語を聞くこともある。また、何度も同じ英語を練
習するという点から、聞く英語量に限界がある。これらを解決するためには、適切な時期
を 見 計 ら っ て 、デ ジ タ ル 教 科 書 の 音 声 や ALT と 協 力 し て 、語 彙 を 増 や し 、生 の 英 語 に 触 れ
させる時間を設けていく必要がある。
読むこと
成 果 と し て は 、英 語 を 読 ん で い く 中 で 、だ れ が・何 を 、と い う よ う な こ と に 敏
感 に な っ た と い う こ と が あ げ ら れ る 。長 文 を 読 ん で い て 、
知らない外国人の名前が出てくると、
「何と読むんですか」
という質問よりも「この人は男ですか。女ですか」とい
う質問が多い。その情報を読み取っておく必要があると
判断したからであろうと考えられる。
GDM の 中 で も 読 む 活 動 は 毎 時 間 取 り 入 れ ら れ て い る が 、
(実際の授業の様子)
文 で 学 習 す る こ と が 多 い 。そ の た め 、ま と ま っ た 分 量 の 英 文 を 読 ま せ る 必 要 が あ る だ ろ う 。
授業のワークシートは絵から英語を導き出させているが、逆にまとまった英文を読ませ、
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絵に描かせるという活動も有効だろう。
書くこと
授 業 が 進 ん で い く 中 で 、単 語 を 書 き 覚 え て い く の で 、入 学 当 初 は な か な か 単 語
を書けるようにならない生徒もいる。しかし、一旦書けるようになると、他にも書いてみ
たくなる嬉しさがある。宿題のプリントの裏も使って英語を書いてくる生徒もいる。話す
ことが書けるようになる嬉しさは、音声を先に入れているからだと思う。
そのような嬉しさを味わわせるためには、ワークシートや授業後の時間を使って、ケア
をしていかなければならない。ワークシートに書かせた英語を教師が注意深く見て、正し
く何回も赤で訂正していくことも必要である。音声と文字を一致させていくことは、英語
を苦手とする生徒には非常に難しい。
GDM を 実 践 し て 5 年 目 に な る が 、 以 前 よ り 生 徒 の 顔 は 生 き 生 き し て い る 。 自 分 で 考 え
て 分 か っ た 時 の 嬉 し そ う な 顔 を 見 る こ と が で き る と 、や っ て い て 本 当 に よ か っ た と 感 じ る 。
導入の段階では不安そうな顔をしている生徒も授業が進むにつれ、目を輝かせながら英語
を話している姿を見ると、自分で身につけた力はこれからに生きていくだろうと思うこと
ができる。以下は1年生のふりかえりである。
ま だ ま だ 改 善 の 余 地 は あ る が 、Graded Direct Method と い う 手 法 を 通 し て 、仮 説 の 、
「聞
く」
「 話 す 」力 と 自 分 た ち で 英 語 の ル ー ル を 見 つ け 、運 用 で き る よ う に な る 、と い う こ と を
確認できたと考えている。
参考文献
『 GDM 英 語 教 授 法 の 理 論 と 実 際 』
『中学校学習指導要領
外国語』
片桐ユズル、吉沢郁生
文部科学省
-10-
1999