腹臥位体位固定法

特集
他施設ではどうしてる? 気になる体位固定の工夫と実践
4点支持から改良した発赤・褥瘡をつくらない
腹臥位体位固定法
日本医療機能評価機構認定病院
京都山城総合医療センター 手術室
病床数:321床 診療科:25科
手術室数:6室(うちバイオクリーンルーム1室)
手術件数:1,280件(2014年度)
兼澤直子
中央材料室 看護師長
1983年大阪赤十字病院入職。外科・泌尿器科・整
形外科病棟に勤務。以後奈良県立奈良病院,人工
透析専門病院を経て,2000年京都山城総合医療セ
ンターに就職。人工透析室,整形外科,脳神経外科病棟勤務を経て,
2007年手術室看護師長。麻酔科医師,スタッフと共に,患者様の健
康状態や年齢など,さまざまなリスクをアセスメントし,安全な手
術医療,看護を提供できるよう日々取り組んでいる。
体位固定法を
変更するに至った経緯
2つを併用することで,患者の体の凹凸に沿
当院では,腹臥位手術時に4点支持器を用
られなくなった。本稿では,その新たな体位
いていた。しかし,支持器による患者の体へ
固定の方法について紹介する。
の圧迫によって神経・皮膚トラブルが生じる
根拠(体圧)を考慮した
皮膚トラブルの予防
危険性が懸念されたため,2012年,脳外科
手術において頸椎・腰椎手術が始まったのを
わせ,より広い面積で体を支えることができ
るようになり,皮膚トラブルはほとんど認め
きっかけに,腹臥位固定法を見直すことと
皮膚トラブルには,毛細循環と圧力が関係
なった。手術開始当初,体位固定は4点支持
している。毛細循環の細動脈圧は32mmHg前
器にソフトナースを巻き,フリーシーシーツ
後,細静脈圧は15mmHg前後である。つまり
で患者の体との隙間を埋めて使用していた
32mmHg以上の圧が加わると血流が途絶し,
(写真1)。そのため,支持器に接触する胸部,
この状態が長時間続けば皮膚トラブルが生じ
腸骨部の面積が限局的となり,支持部の体圧
ると言われているため,体圧が32mmHgを
が高くなるため,術後はほぼ全例で胸部の発
超えないように体位を工夫する必要がある。
赤を認め,表皮剝離が出現した症例もあった。
当手術室の研究結果によると,
「テンピュー
そこで,脳外科医師と麻酔科医師とが協力
ル法」は,腹臥位時に一番圧力を受ける胸部,
し,テンピュールマット
とアクションパッ
腹部腸骨において,どのようなBMIの患者で
ド ※2 を組み合わせた体位固定法(以下,テ
あっても,体圧を32mmHg以下に抑えるこ
ンピュール法)(写真2)を考案した。この
とができた(図1)
。
※1
※1 テンピュールマット:体温に反応して患者の体の形に柔軟に変形し,体圧が均等に分散する性質を持つ。そのため皮膚
トラブルが起こるリスクが減少する。
※2 アクションパッド:超柔軟合成ゴムを使用し,褥瘡予防に効果的な耐負荷力・柔軟性・復元力などを有し,圧力分散能
力に優れている。
当院の概要
当院は京都府南部に位置し,災害医療,救急救命医療, りを持ち,協力し合える手術室運営を目指している。
がん診療などの拠点病院として高度な医療を提供すると共に,地域の
病院・診療所や保険福祉機関との連携を図り,京都南部の中核公立病
病院理念:地域の中核病院として信頼される良質な医療を提供し,住
民の健康維持・推進に貢献する。
院としての役割を担う。安心して手術に臨んでもらえるよう,すべて
看護部理念:ひとりひとりを大切にします。
の医療スタッフと協力し,患者の支えとなるよう一人ひとりが考え看
平均在院日数:12日 看護師数:12人(師長1人,主任1人を含む)
護している。また,さまざまな勤務形態のスタッフが,互いに思いや
勤務体制:日勤(オンコール体制)
手術看護エキスパート ̶̶ Vol.9 no.4
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写真1 腹臥位手術で使用する4点支持器
①
●
②
●
支持器にソフト
ナースを巻く
フリーシーシーツで
患者の体との隙間を埋める
写真2 テンピュール法
①
●
②
●
テンピュールマット
アクションパッド
テンピュールマットとアクションパッドを
組み合わせた体位固定法
図1
腹臥位時に掛かる圧力の比較
4点支持法
胸部
58.9mmHg
テンピュール法
腹部
16.1mmHg
腸骨部
70.8mmHg
腹部
20.3mmHg
胸部
25.6mmHg
腸骨部
21.5mmHg
空間
腹部・腸骨部において,有意に体圧が減少した(p<0.05)
長時間の腹臥位手術を
より安全に行う方法
■
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体位固定・除圧に必要な物品
・布シーツ(写真3-④)
・フィルム材(写真3-⑤)
・体側板(写真3-⑥)
■
手順・工夫
テンピュール法に必要な物品を次に挙げる。
手術前日
・テンピュールマット(写真3-①)
主治医と手術を担当する看護師,さらに患
・アクションパッド(写真3-②)
者本人にも参加してもらい,実際に手術台で
・フリーシーシーツ(写真3-③)
腹臥位の体位シミュレーションを行う。そし
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