開かれた大学 化学生態学入門−アリの超能力を探る− ∼さまざまなアリの行動を決定する情報化学物質とは?∼ 山 岡 亮 平 (京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科化学生態学研究室) 地球上に最も多く生息する動物種である昆虫 類は主としてその周囲の状況を触角を用いてそ の象物上に存在する化学物質を捕まえることに より情報として利用している。その中でも最優 先種であるアリは、特にさまざまなフェロモン 類を使って巣仲間同士の緊密なコミュニケー ションを行うことにより、時として百万頭以上 の個体で成り立っている社会を維持している。 またさらに真っ暗な巣の中でさえ周囲の状況を 触角を使って的確に判断することが出来る。触 角で触れた相手に対しどのように反応するかは、 その表面上にどのようなコンタクトケミカルと 呼ばれる不揮発性の情報化学物質が存在するか にかかっている可能性が非常に高い。その事実 が我々の最近の研究により次々の明らかになり つつある。(図−1) 1)Q: 動物界と植物界を分けているケミカル シグナルとは? A: クチクラ炭化水素 (CHC)組成の違い による。植物界は n−アルカンのみ。 昆虫は植物の存在を認識出来ないかも。 2)Q: アリとアリマキの共生はなぜ可能か? A: 本来アリマキは植物と同じ成分で体表 面をカバーし植物に化けることにより 身を守っていたが、それだけでは天敵 に食べられてしまうので少しだけ昆虫 であることを体表に、示し、アリを周 囲に集めガードマンとして使った。 3)Q: アリの巣仲間識別法は? A: 昆虫類は全て種毎に異なる体表炭化水 素組成を持っている。同種のアリも当 然同じ炭化水素組成を持っているがそ の組成比が巣毎に少しずつ違っている。 アリの触角にはその違いを識別して情 報を脳に伝える特殊な毛(化学感覚毛) が存在する。 4)Q: アリはなぜ一列に歩くか? (八月のラプソディーでアリ指導をし て分かったこととは。) A: アリは餌を見つけると、お尻の先端か ら道しるべフェロモンを地面に付けな がら巣まで帰る。巣にいた働きアリた ちはそのニオイをたよりに餌に辿りつ き餌を持って帰ってくるため見事な行 列が出来る。しかし映画でアリを行列 させるまでには、さまざまな工夫が必 要で、その結果アリが足跡物質を地面 に残すことが世界で初めて明らかと なった。 5)Q: アリのさまざまな行動と足跡物質の関 係 A: 帰巣フェロモンや縄張り標示フェロモ ンとして機能する。 図−1:アリが触角で診た世界 会 誌 2 2
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