取材日:平成 27 年 6 月 12 日(金) 取材地:株式会社なかよし(三重県多気郡明和町蓑村 1168) レポーター名:大矢 可知 乾 「優しさを奏でる」ために 株式会社なかよし 家族のだんらんを目指し、言葉が聞き取りづらい人でも耳元で音がささやくように聞こ える腕に抱いて使うスピーカー「優奏 You-Sou」 (以下、優奏)を開発した人達がいる。株 おさむ 式会社なかよし(以下、なかよし)の専務取締役の山村哲也さんと社員の中村 完 さんであ る。お二人に「優奏」を開発したその想いについてお話を伺った。 ○やさしさを奏でるスピーカー 身の回りに、テレビの音量が大きい人はいないだろうか。テレビの音が聞き取りにくくな り、大きな音量で聞くことを好む人に合わせると周りの人は我慢しなければならない。しか し、周りの人に合わせた音量だと聞こえず、一緒に番組を楽しむことができない。そうした 事情から家族とのだんらんが楽しめずにいる人達のためになかよしによって開発されたの がコミュニケーション体感スピーカー「優奏」だ。 「優奏」は円柱型の、抱きかかえて使用するスピーカーである。スピーカーのコードをテ レビにつなぐと、腕に抱いたスピーカーから音声が聞こえる。実際に抱きかかえて使用して みたところ、抱きかかえた時にちょうど耳の位置にスピーカーがきて、耳元からテレビの音 声が優しくささやきかけてくるように流れ込んでくる。もともとは「固い」 「重い」といっ た従来のスピーカーのイメージに反して「優奏」は 630gと軽く、柔らかいためとても抱き やすい。そして、耳元で音声が聞こえるため会話が聞き取りやすく、大きな音量にする必要 がない。そのため、周りに音をまき散らさないので、周りの人と同じ音量で誰も我慢をする ことなくテレビを楽しめ、家族のだんらんができる。 最後に、 「優奏」を語る上ではずせないエピソードがある。実際に一昨年の大晦日に山村 さんは試作品を父親に使ってもらった。山村さんの父は普段言葉が聞き取りづらくテレビ の音量が大きくなるため、家族とは別の部屋でテレビを見ていたが、「優奏」のおかげで、 この年の大晦日は家族そろって紅白歌合戦を楽しめることができ、とても喜んでくれたそ うだ。このことがきっかけで、 「優奏」は家族のだんらんと笑顔を作ることができるもので あると自信を持ち、商品化を決心した。 「優奏」は家族のだんらんを作ることができると自 信を持つことができた瞬間だった。 ○業界を超えて~株式会社なかよし設立~ なかよしは電子機器製造業の三重電子株式会社(以下、三重電子)のグループ会社である。 そして、なかよしの社員である山村さんと中村さんは三重電子の社員でもあるのだ。三重電 子は電子機器の製造をする下請の仕事が多く、メーカーとして自分たちのモノを製造して いきたいと考えていた。「言われたことをキッチリやることも大切で、難しいことですが、 独自の技術を持った自分たちでモノづくりをしたいという思いはずっと持っていました。」 と山村さんは当時を振り返っていた。そこで注目したのが、福祉部門であった。 「超高齢社 会を迎えた日本の企業として、福祉というものは絶対にやっていかないといけない分野な んです。 」と力強く山村さんは語っていた。そして、福祉の分野への挑戦を提案した山村さ んと三重電子で電子機器を製造し、新規事業推進に興味のあった中村さんの二人が社員と なり、株式会社なかよしの活動を進めてきた。 福祉機器を開発することになったお二人であったが、福祉業界に関する知識は皆無であ り、福祉について学ぶためにホームヘルパーなどの資格の勉強をすることにしたという。 「はじめは業界の常識というものが分からず、電子機器を扱う私たちにとって、福祉の話は まるで違う言語を話されているようでした。 」と山村さん。しかし、ヘルパーの実習などを 通じて、福祉業界について分かるようになり、実習の休み時間などにも関係者の方と様々な ことを話すようになったそうだ。 「この休み時間の雑談も、商品開発のアイデアにとっては 非常に大きかったです。 」と山村さんは振り返っていた。 ○夢はオリンピック公認スピーカー これからの方針は「優奏」を色々な人に認知していってもらうことだ。試してもらって気 に入ってもらうにはまず知ってもらわなければいけない。また、現段階では開発中であるが、 「優奏」をマイクにつなぎ、その声を同じようにスピーカーから聞こえるようにするという 試みがある。このマイクを「優奏」と共に使うことで、個人情報を話す銀行などの窓口で使 用できるようにし、誰もが言葉を聞き取りやすい音のバリアフリー化を目指している。 そして、 「優奏」を 2020 年の東京オリンピックで活用してもらえるスピーカーにするこ とがなかよしの夢だ。会話が聞き取りやすい「優奏」は、子音による判断が多い英語圏への 同時通訳で使えないかと考えているそうだ。 「夢は語るほど実現に近づいていきます。 」と話 す山村さんの表情は晴れやかで、ただの夢では終わらせないというような気概を感じた。 【編集後記】 「優奏 YOU-SOU」は、 「優しさを奏でる」という意味のほかに、「あなたに(YOU)添う (SOU)」という意味もあります。その言葉通り、 「優奏 YOU-SOU」はなかよしの方々の、 家族を思う優しさからできたのだと感じました。また取材中、実際に「優奏 You-Sou」を 体験させてもらいました。周りで人が話していても、スピーカーからの声は耳もとで誰かが 寄り添うようにささやいてくれているように聞こえ、 「優奏 YOU-SOU」は本当にピッタリ な名前だと思いました。 毎日を過ごしている中で、音について真剣に考える機会は今までなく、音の問題があること に私たちでは気づいていませんでした。今回の取材を通して、音の聞き取りやすさ、音の感 じ方など音について多くのことを考える機会をもつことができました。このような機会を 与えて下さった山村さん、中村さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。今後は私たちも お二人が目指す誰もが音・言葉が聞き取りやすくなる「音のバリアフリー化」というものに ついて考えていきたいと思います。そして、これからの社会で、なかよしのように他人を想 う優しさから製品や活動を生む企業が増えていくことを願います。
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