音階 岡部 洋一 放送大学教授 (東京大学名誉教授) 2016 年 3 月 21 日 起草: 1965 年 4 月 1 日 ii 音階はどのように構成されたのだろうか。全音の間隔と半音の間隔はどの ように決まっているのかについて述べる。 1965 年 4 月 1 日: 起草 2007 年 2 月 26 日: Web 公開 2013 年 1 月 14 日: 音の調和について 2015 年 7 月 1 日: 和音および和音進行の章の追加 All Rights Reserved (c) Yoichi OKABE 1965-present. 個人の使用以外のコピーを禁じます。また、再コピーおよび再配布は禁止 します。ただし、教育目的に限り、再コピー、再配布は原著者を明示すると いう条件でのみ許諾します。 リンク先 (クリックできます) • 音階 (議論のページ) • 音階 (HTML 版) • 指揮法 (PDF 版) • 岡部の Web に公開の文書 • 岡部のトップページ iii まえがき 最近、第一の定年の機会に書類整理をしたら、若いころに作ったメモがい くつか見付かった。私の学生時代は、ディジタル書類はもちろん、単純なコ ピーもなかったから、勉強したことはすべて手書メモにしてきた訳である。 学生時代には混声合唱部に属し、テナーのパートを唱っていた。始めのこ ろは、無我夢中であったが、何年かいると、パート間の音合わせが気になる ようになってくる。特に、反響の大きいアーケードの下などで音合わせをす ると、時々、ぴたっと和音が合う、俗にハモる感覚がわかるようになってく る。しかし、ピアノとはちょっと音の高さが違うようである。ミラシが低め だとハモるのである。 世界に有名な合唱団の音を聞いても、例えばロジェーワグナー合唱団は、 ゴーという力強いが濁った音を出すし、ウィーン少年合唱団は、澄んだ清ら かな音を出す。明かに、和音の作り方が違うように感じた。 これを簡単に納得するには、まずバスとソプラノに基音、例えばオクター ブ異なる C を出してもらい、アルトに G を入れてもらう。最後にテナーが その間に E を入れるのであるが、その際、微妙に高さを変えていくのであ る。そうするとあるところで、突然澄んだ和音になるのである。 そうしていたら、楽典の本に、よく知られている平均律音階以外に、純正 律音階というのがあるということが書いてあり、それ以降無性に、澄んだ和 音に興味を持つようになったのである。知識ができた今から見直すと、純正 律音階が平均律音階と最も異なるのはミラシであり、またミラシはテナーに iv まえがき 割り当てられることが多いことも、こうしたことに気付いたり、興味を持っ た要因であろう。 ここに書かれたことは音楽理論の専門家からは自明のことであろうが、捨 ててしまうのは惜しいので、ほぼメモそのままに掲載した。 著者 v 目次 第1章 はじめに 1 1.1 基音と倍音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1.2 耳の特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 音名と階名 4 2.1 音名 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2 オクターブ表記 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.3 音階と音度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 2.4 階名 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 2.5 歌唱における音名 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 2.6 音程名 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 平均律音階 17 3.1 セント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 3.2 平均律音階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 第4章 調和 20 第5章 ピタゴラス音階 23 5.1 協和音程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 5.2 ピタゴラス音階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 第2章 第3章 目次 vi ピタゴラス音階の和音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 純正律音階 30 6.1 不完全協和音程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 6.2 純正律音階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 6.3 12 音階の純正律音階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36 6.4 音程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39 6.5 純正律に関する私見 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41 調 42 7.1 調 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42 7.2 五度圏 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49 和音 52 8.1 音程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52 8.2 三和音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55 8.3 四和音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59 8.4 拡張和音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62 和音進行 68 9.1 旋律進行 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68 9.2 全音階三和音による進行と主要三和音 . . . . . . . . . . . . 69 9.3 全音階和音による代理和音 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 73 9.4 非全音階和音による代理和音 . . . . . . . . . . . . . . . . 75 9.5 和音終止法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 77 5.3 第6章 第7章 第8章 第9章 1 第1章 はじめに 西洋の音階はどのように出来ているだろうかというと、和音(chord)が元 になっている。つまりいくつかの音を重ねていって、快く聞こえるように、 音と音の周波数を調整することにより、音階(scale)を作っていったことが わかる。 本章では、その基礎となる概念を述べよう。 1.1 基音と倍音 弦楽器や管楽器は比較的澄んだ音、打楽器は比較的濁った音を出すが、い ずれもこれらの音を周波数(frequency)分析してみると、色々な周波数が 含まれていることがわかる。 前者の音は、それを構成しているいくつかの周波数が簡単な整数比と なっている。特に、多くの音は基本となる周波数と、その倍数の周波数と なっている。これらを一般の波動では基本波(fundamental wave) と高 調波(harmonic wave) という。音の場合には基音(fundamental pitch) と倍音(harmonic tone) ともいう。また、基音の周波数は基本周波数 (fundamental frequency) と呼ばれる。基音と倍音の混ざり具合、つまり 強度分布が音色(tone) を決めることになる。 第 1 章 はじめに 2 一方、後者も、いくつかの周波数の合成ではあるが、その周波数の比率は 倍数関係にはなっていない。 意外なことに人の声は、基音と倍音が完全な整数比になっているのであ る。声は、キツく膜のようなもので塞がれたところへ、無理に空気を流し て、バタバタとした高調波の成分の多い原音を作り出す。この高調波はもち ろん、原音そのものの周期の厳密な整数倍しかあり得ない。その原音を口 腔、鼻腔、頭蓋骨などに共鳴させ、原音と同じ周波数であるが、エネルギー 分布の異なる音にして外へ出し、音色を変えるのである。楽器で言えば管楽 器が同じ原理で音を作るので、完全整数比となる。 弦楽器はやや複雑であり、おおよそ整数比であると言える。弦楽器は管楽 器と異なり、一つの原音の共鳴で音を作っているのではない。弦の上に発生 するいくつかのモードに対応する複数の音源の合成なのである。この複数の 音源の基音の周波数が、たまたま、ほぼ整数比になっていると考えるのが分 かり易い。 弦には、全体に腹が一つ、腹二つ、腹三つの正弦波と無数のモードで振動 し得る。このことは、ハーモニックスと呼ばれる演奏法で体験することがで きるが、腹が多いほど、モードの周波数は高く、しかもほぼ腹の数に比例す る。一般に、弦の一部を弾くと、いくつかのモードを同時に励振する。真中 辺を弾くと、低い周波数のモード成分が増え、駒の傍を弾くと、高い周波数 のモード成分が増える。 問題は、極めて多くの腹を持つモードの周波数は、正確な整数倍から少し ずつ高目の周波数を持つようになることである。それは、駒付近で、弦の硬 さのために、動きが鈍くなることに起因している。とは言え、これはかなり 厳密な議論である。数倍の高調波まではほとんど正確な整数比と考えてよい であろう。 打楽器、特に太鼓系、銅鑼、シンバルと言ったものは、弦楽器のように一 次元の振動モードでなく、二次元のモードを持つ。二次元の振動のモードは ほとんど、整数比とはならない。そこで、濁った音に聞こえるのである。も ちろん叩き方を工夫して、なるべく一つのモードだけを振動させるようにす 1.2 耳の特性 3 ることも可能であり、その場合には、理論的には純音に近い音が出せるはず であるが、技術的には難しい。 本書では、前者のような、比較的澄んだ音を対象に、音階について述べ よう。 1.2 耳の特性 ドとそれより一オクターブ(octave)上のド、さらにその一オクターブ上 のドの音の基本周波数には、どのような関係があるだろうか。一見、等間 隔に思えるが、実は 1:2:4 となっている。つまり 1:2、1:2 となっているの である。比が等しければ、音程(interval) の間隔は等しく聞こえるのであ る。1:2:4 を 20 : 21 : 22 と記載してみるとわかるように、「基本周波数の対 数の間隔が等しいと、音程の間隔が等しく聞こえる」と表現することができ る。このため、「一オクターブとは基本周波数比二倍の間隔」と言うことが できる。 本書の内容とは直接は関係ないが、人間は種々の刺激の強さについても、 その対数を感じる。これをフェヒナーの法則(Fechner’s law) という。音 についても同様なので、例えば、強度 1 倍、10 倍、100 倍の音は、同じ間隔 で、強くなっていくように感じる。 4 第2章 音名と階名 2.1 音名 絶対的な音の高さを示す音の名を音名(note name)という。通常、オク ターブ(octave)をほぼ (等比級数的に) 12 等分にし、そこから特定 7 個 (ピ アノの白鍵に対応) を取り出したものを幹音(natural tone)といい、それ ぞれ音名を規定する。また、その他の 5 個 (ピアノの黒鍵に対応) を派生音 (derived tone)という。それより上下に無限に拡がるオクターブ (ピアノの 場合は 7 オクターブ強) に対しては、同じ音名を使うことになるが、必要に 応じ、後述するオクターブ表記を用いる。 絶対的というからには、各音ごとに周波数が決まっているのであるが、下 に示す「A (La、イ)」でピアノの中央付近に位置する音を中央イとし、その 基本周波数を 440 Hz とする。ただし、オーケストラなどでは華やかさを演 出するため、442∼443 Hz ぐらいにすることもある。他の音の周波数は、こ れを元に決定していくのである。例えば、中央 C (Do、ハ) は約 264 Hz で ある。 何故「C」でなく「A」が基準なのかというと、これは歴史的な理由があ る。古代ギリシャで作られた音階が「La」を基準にして現在の幹音に対応す る音階を生成していたからのようである。これから「La」に対応する「A」 2.1 音名 5 が基準になったと考えられる。その後、半音下に「Si」を持つ「Do」が終止 音として、つまり主音として相応わしいということで、主人公は「C」に移 動したが、高さの基準はそのまま「A」に残ったという訳である。 「C (Do、ハ)」から半音 (白黒区別せず、隣接する鍵の間隔) 数で、上に 0、2、4、5、7、9、11 (何故この番号なのかはいずれわかる) の位置にある ピアノの 7 個の白鍵に対応する音を幹音(natural tone)といい、図 2.1 に 示すように、多くの国ではこれらには独自の音名を付けている。独語は英語 圏の「B」が「H」になっていることに注意して欲しい。 言語 音名 英語圏 C D E F G A B 独語 C D E F G A H 伊語 Do Re Mi Fa Sol La Si 日本語 ハ ニ ホ ヘ ト イ ロ 図 2.1 音名 (幹音) 伊語の Do、Re、. . . は元々後に述べる階名であったが、現在は音名にも 用いられるようになっている。これら伊語の二種類を区別するため、本書で は、階名はすべて小文字、音名は大文字で始まるものとした。 これら幹音の半音上下の音、つまり、ピアノの黒鍵に対応する音、あるい はさらに半音上下の派生音(derived tone)には、音符ではその前に「♯」や 「♭」や「♯♯」や「♭♭」の変化記号(accidental)を前に付けて表すが、音名で は幹音の音名の「後に」これらを付ける。読み方も、図 2.2 に示すように、 幹音の音名を基礎に、それを修飾して対応することが多い。 第 2 章 音名と階名 6 G♭♭ 言語 G♭ G G♯ G♯♯ 英語圏 G double flat G flat G G sharp G double sharp 独語 Geses*1 Ges*1 G Gis Gisis 伊語 Sol doppio bemolle Sol bemolle Sol Sol diesis Sol doppio diesis 日本語 重変ト 変ト ト 嬰ト 重嬰ト 図 2.2 音名 派生音: 例として幹音 G の場合を記載 ピアノのような平均律音階では、黒鍵を挟む二つの白鍵の低音側の半音上 と高音側の半音下、例えば「C♯ 」と「D♭ 」はそれぞれ異名同音(enharmonic) であるが、後述する純正律音階では、異なる音となるため、異名となってい るのである。「D」と異名同音である「C♯♯ 」を何故使うのかも、純正律音階 を知ると、意味がわかってくる。 独語では、この表からずれる場合が若干ある。「A♭ 」は Aes ではなく As、 「A♭♭ 」は Ases、また「E♭ 」は Ees ではなく Es、「E♭♭ 」は Eses とする。も う一つの変則ルールは、H の半音下を Hes とはしないで B とする習慣があ ることである。そこで、「H♭ 」は Hes ではなく B、「H♭♭ 」は Bes (Heses も OK) である。 なお、以後本書で音名を使う場合には、英語圏の C∼B を用いることと する。 2.2 オクターブ表記 音名は周波数が 2 倍になるたび、あるいは 1/2 倍になるたび、つまりオク ターブ(octave)ごとに同じ名称が出てくる。これを区別したい場合には、 音名に何らかの修飾をして表記することになる。中央イ(middle A) (また は中央 A(middle A)) を囲む「C」からオクターブ上の「C」手前までを中 *1 独語の例外 (幹音 → 半音下げ → 半音二つ下げ): E → Es → Eses、A → As → Ases、H → B → Bes(Heses) 2.2 オクターブ表記 7 央という形容詞を付ける。ピアノ鍵盤でもっとも中央に近いオクターブでも ある。例えば中央ハ(middle C) (または中央 C(middle C)) とは中央イ の左に最初に出てくる「C」である。以後「中央 C」などと呼ぶことにする。 中央 C とは楽譜で言うと、ヘ音記号に続く低音部譜とト音記号に続く高音 部譜のちょうど間にある「C」である。したがって「中央 C-B」とは図 2.3 に示すようになる。 図 2.3 中央 C-B の楽譜上の位置 国際表記と呼ばれる表記法では、図 2.4 に示すように、この「中央 C-中 央 B」を「C4-B4」と記載し、それより下のオクターブは「C3-B3」などと 数字を一つ減らし、上のオクターブは「C5-B5」などと上付きのサフィック スを付けることとする。以下オクターブが下るほど、数字が減り、オクター ブが上がるほど、数字が増える。本書では、国際表記を用いる。独語では下 の方に大文字、上の方に小文字の音名を使う。日本は、独語を参考に、下の 方をひらがな、上の方をカタカナの音名を使う。 ネット上でよく使われるものを「ネット通称」として載せたが、これは 「C」の代わりに「A」を切れ目とした音名である。中央 A を hiA とし、そ れよりオクターブ上がるごとに hi を繰り返す。下には mid2、mid1 を経て low、lowlow となる。 第 2 章 音名と階名 8 ピアノ鍵数 1-3 4-15 16-27 28-39 国際表記 A0-B0 C1-B1 C2-B2 C3-B3 独語表記 A2 -H2 C1 -H1 C-H c-h 日本語表記 い . -ろ . . . 21-23 は . -ろ . は-ろ ハ-ロ 24-35 36-47 48-59 lowlowA- lowlowC- lowC- mid1C- lowlowB lowB mid1B mid2B MIDI ネット通称 40-51 52-63 64-75 76-87 88 ピアノ鍵数 C4-B4 C5-B5 C6-B6 C7-B7 C8 国際表記 5 独語表記 1 1 2 2 c -h c -h ˙ −ロ ˙ ハ ˙ −ロ ˙ ハ 60-71 3 4 4 ˙ −ロ ˙ ハ ˙˙ c -h ˙˙˙ ˙˙˙ ˙ −ロ ˙ ハ c ˙˙˙ ˙˙ ハ 72-83 84-95 96-107 108 mid2C- hiC- hihiC- hihihiC- hihihihiC hiB hihiB hihihiB hihihihiB ˙ ˙ c -h 3 ˙˙ 図 2.4 日本語表記 MIDI ネット通称 オクターブ表記 なお、図は 88 鍵のピアノの鍵盤に対応し、 「A0-C8」までの 7 oct と少し をカバーしているが、もちろん、理論的には上下、いくらでも定義できる。 ちなみに、先に示した周波数基準の 440 Hz は「中央 A」の A4 の周波数で ある。また、A0 の周波数は 440/16=27.5 Hz で、ほぼ可聴範囲の下限であ る。一方、一番上のオクターブ内の A7 は 440×8=3.52 kHz で、音声が明 瞭に聞こえるための最大周波数に近い。なお、可聴範囲の上限は 20 kHz と 言われている。 2.2 オクターブ表記 9 楽器 国際 楽器 国際 Bass E2-E4 Alto F3-E5 Bariton G2-F4 Mezzo Soprano A3-G5 Tenor B2-A4 Soprano B3-B5 Male Speech G2-D3 Female Speech G3-D4 Horn B1-B4 Contrabass E1-G4 Trumpet E3-D6 Cello C2-C6 Obor C3-A6 Viola C3-F6 Flute C3-F7 Violin G3-G7 Piccoro C5-C8 Guitar E2-E5 図 2.5 音域 参考のために、図 2.5 に声楽、管楽器、弦楽器の音域(range)を示して おこう。 図 2.6 音声域の楽譜上の位置 また図 2.6 に、念のため、声域の楽譜上の位置を示す。各パートの中央は ほぼ、Bass E3、Bariton F3、Tenor A3、Alto E4、Mezzo G4、Soprano B4 ぐらいであり、それからほぼ ±1 oct が声域である。男声が E2-A4 をカ バーしているのに対し、女声は中央 F3-B5 をカバーしている。その結果、人 間の出せる声域は男女合せて E2-B5 である。それぞれの中央は F3 または G4 である。また全声域の中央は中央 C(middle C)の C4 である。 第 2 章 音名と階名 10 概ね、女声はト音記号域に、男声はヘ音記号域に書かれる。ただし、Tenor パートは高い音で五線紙を飛び出すことが多いため、便宜的にオクターブ 高いト音記号域に書かれることが多い。それを明示するために、Tenor を記 載するト音記号には、厳密には下に 8 を付してオッターバ・バッサ(ottava bassa)、*1 つまり 1 oct 下げる指示をするのがよい。 2.3 音階と音度 音階(scale)とは、任意の高さを主音として、次の幹音はどのくらいの高 さに置くか、さらに次の幹音は、. . . 、と主音からオクターブ上の主音の間 に幹音をどう配置するかを定めたものである。簡単に言えば、不揃いな階段 のステップの配置のことであり、洋楽では、長音階、短音階 (いくつかある) が知られている。一般に主音を i とし、以後、上の幹音に順に小文字のロー マ数字 ii、iii、. . . を割り付ける。これを音度(scale degree)という。 しかし、これでは長音階も短音階もいずれも「i、ii、. . . 、vii」となってし まい区別がつかない。そこで、長音階以外の音階の場合には、長音階の音度 を基礎に、幹音が長音階の音と異なる場合には、変化記号を「前に」付けて 対応することがしばしば行われる。本書もそれを原則とする。なお、主音を 移動しても、これら変化記号の付き方は変わらない、つまり長音階の音度に は常に変化記号は付かず、長音階以外の音階ではいつも同じ音度に変化記号 が付くことになる。 まず長音階(major scale)では、主音 i を基準として、半音刻みで「0、2、 4、5、7、9、11」を「i、ii、iii、iv、v、vi、vii」とする。以後に述べる調を利 用して説明すると、ピアノで「C」から順に白鍵のみを選んだ、いわゆるハ 長調が長音階の代表である。続いて短音階(minor scale)であるが、これに はいくつかの種類がある。自然短音階(natural minor scale)の場合には、 半音刻みで「0、2、3、5、7、8、9」となる。これを長音階の音度と比較する *1 1 oct 上げるのはオッターバ・アルタ(ottava alta)。 2.3 音階と音度 11 と、 「i、ii、♭ iii、iv、v、♭ vi、♭ vi」となる。これもピアノで言えば、 「C」を基 準にしたハ短調に対応し、黒鍵の必要なところにフラットの変化記号が付い ていると思えばよい。図 2.7 に代表的な音階である長音階(major scale)、 自然短音階(natural minor scale)、和声短音階(harmonic minor scale) 、旋律短音階(melodic minor scale)の音度を示す (旋律的短音階の下行時 は自然短音階と同じ)。 長音階 i 自然短音階 i 和声短音階 i 旋律短音階 (上行) i 図 2.7 ii iii ii ♭ ii ♭ iii ii ♭ iii iii iv v vi vii v ♭ vi ♭ iv v ♭ vi vii iv v vi vii iv vii 各音階の音度 なお、図中の長音階は厳密には自然長音階である。和声長音階もあり、そ こでは vi 度に「♭ vi」を使う。また、旋律長音階もあり、上行は自然長音階 と同じであるが、下行の際、vii 度、vi 度には「♭ vii、♭ vi」を使う。しかし、 これらは本書では、以後、扱わない。 これら音度には特定な音度名(scale degree name)が付けられており、 「i 度音」は主音(tonic, keynote)、 「ii 度音」は上主音(supertonic)、 「iii 度 音」は中音(mediant)、 「iv 度音」は下属音(subdominant)、 「v 度音」は 属音(dominant)、 「vi 度音」は下中音(submediant)、 「vii 度音」は導音 (leading tone)という。特に、主音、属音、下属音は重要な音であるので、 覚えておいてほしい。なお、属音とは主音に属している音のように思われる が、英語を見ると、主音を支配している音という意味で、和音の進行などで、 主和音を支配する役割を持つ属和音の根音となっていることを示している。 また、中音とは主音と属音の間という意味である。「下」はその関係を上の 主音から落としてきたということで、今風に言えば転回した音である。 音度は、長音階と短音階を一緒に議論するときなど便利なので、今後の議 論では、多用される。また、和音の議論、特に新しい時代のコードの名称な 12 第 2 章 音名と階名 どによく使われる。 音階と似たような用語に調(key)という用語がある。調とは本来、主音 の高さのことであり、音名により表現する。「C」を主音とする音階は「ハ 調」である。しかし、多くの場合、これに長音階か短音階かの区別を組み合 せる。例えば「C」を主音とする長音階はハ長調(C major key)と言う。同 様に、 「C」を主音とする短音階はハ短調と言う。短音階の三種類の区別まで は示さない。 「C」以外の音を主音とする長音階では、半音の数「0、2、4、5、7、9、11」 の位置がハ長調の幹音、つまりピアノの白鍵の位置に来るとは限らなくな る。例えばト長調(G major key)では「G、A、B、C、D、E、F♯ 」とな る。またヘ長調(F major key)では「F、G、A、B♭ 、C、D、E」となる。 このように、一般の調では、変化記号の入った派生音が必要となる。 短音階では元々の音度に変化記号が入っているので、ハ短調(C minor key) (自然短音階) では「C、D、E♭ 、F、G、A♭ 、B♭ 」となる。ただし、イ 短調(A minor key) (自然短音階) では、イ長調のいくつかの音についた 変化記号と音度についた変化記号がすべてちょうど相殺し、 「A、B、C、D、 E、F、G」と変化記号が不要となる。 2.4 階名 もう一つ、主音がどこにあっても、主音からの相対的な位置だけで音の読 み方が決まる階名(syllable name)というのがある。英語圏や日本では一 般に、階名は音名で示した伊語の幹音を基本とする。ただし、本書では階名 の場合は、すべて「小文字」で表わすものとする。したがって、長調の主音 は「do」であり、半音数で 0、2、4、5、7、9、11 に対し「do、re、mi、fa、 sol、la、si」が対応する。自然短音階(natural minor scale)については、前 節最後に記載したハ長調に対するイ長調の関係の調であると、変化記号が不 要であることから、「C」に対する「A」の関係 (短 3 度下) である「do」に 対する「la」が伝統的に使われる。いわば、長音階と短音階の基準が異なる 2.5 歌唱における音名 13 音度のようなものである。これを図 2.8 に示す。以後、本書では、英語圏の 階名を用いることとする。 半音数 (do 基準) 長音階名 0 2 4 5 7 9 11 12 do re mi fa sol la si do1 半音数 (la 基準) 0 2 3 5 7 8 10 12 自然短音階名 la si do re mi fa sol la1 半音数 (la 基準) 0 2 3 5 7 8 11 12 和声短音階名 la si do re mi fa sol la1 半音数 (la 基準) 0 2 3 5 7 9 11 12 旋律短音階名 (上行) la si do 図 2.8 re mi fa ♯ ♯ ♯ sol la1 階名 (英語圏) 派生音については、音名と同様に階名の後に「♯」、「♭」などの変化記号を 「後に」付ける。自然短音階では主音を「la」とすることで、変化記号は不要 にできるが、和声短音階や旋律短音階では、同じく主音を「la」とし、シャー プを使う。 「階名」についても、オクターブごとに異なる名前を必要とする場合があろ う。音名のオクターブ修飾と同様に、本書では、基準オクターブ内は「do–si」 のようにそのままとし、オクターブ上の階音には、「do1 –si1 」のように右肩 に冪乗のような 1 から始まる上付き数字を、オクターブ下には「do1 –si1 」な どと下付き数字を付すこととした (本書限り)。 2.5 歌唱における音名 音名で歌うことを、音名唱法(note singing method)または固定ド唱法 (fixed-do system)という。階名で歌うことを、階名唱法(solmization)ま たは移動ド唱法(movable-do system)という。これらはいずれも、発音の しやすやから、もっぱら伊語のドレミ (短音階ではラシド) が使われる。実 第 2 章 音名と階名 14 際、 「ドレミ」の代わりに「C、D、E」と歌うのは容易ではない。また、派生 音の音名については、 「フラット」や「シャープ」を付けて読んだり、図 2.2 に示したように読むのは、やはり困難であり、歌唱用にはさらなる工夫が必 要である。 佐藤賢太郎、松下耕、西塚 氏、および著者が提案したものを図 2.9 の歌 唱音名の欄に示す。ただし、松下式の未定義なものは「*」を付し、推定し た。西塚式では同音異名はない。 伊語音名 Do♭ Do Do♯ Re♭ Re Re♯ Mi♭ Mi Mi♯ コダーイ Da Do Di Ra Re Ri Ma Mi - 佐藤式 De Do Di Ra Re Ri Me Mi Ma 松下式 - Do Di Ro Re Ri Ma Mi - 西塚式 - Do De - Re Ri - Mi - 岡部式 Du Do Di Ru Re Ri Mu Mi Me Fa♭ Fa Fa♯ Sol♭ Sol Sol♯ La♭ La La♯ Si♭ Si Si♯ - Fa Fi Sa So Si A La Li Ta Ti - Fe Fa Fi Se So Si Le La Li Te Ti To - Fa Fi Sa So Si Lo La Li Ta Ti - - Fa Fi - So Sa - La - Chi Ti - Fu Fa Fi Su So Si U* A* I* Tu Ti Te 図 2.9 歌唱用の音名 (階名にも適用可) *岡部式の「U, A, I」は「Lu, La, Li」の日本人向け。 ♭♭、♯♯ に対しては語尾にさらに「d」を付ける • 幹音は元の伊語と同じとする。ただし、後のルールにより、幹音「Si」 は Sol♯ の Si と重なるため、歌唱用では「Ti」とする。 • コダーイ式: シャープによる派生音は母音部分を「i」、フラットは「a」 とする。La♭ は「La」ではなく「A」。 • 佐藤式: シャープによる派生音は母音部分を「i」、フラットは「e」に 2.6 音程名 15 する。「Re♭ 」については「Ra」とする。 また、「Mi♯ 」については同音異名の Fa の母音に合せ「Ma」、「Ti♯ 」 については同音異名の Do の母音に合せ「To」とする。 • 松下式: シャープは原則「i」、フラットは幹音の母音「a」については 「o」、「o」については「a」とするが、「i」については「a」、「e」につ いては「o」を対応させる。 • 西塚式: 原則、すべての派生音を幹音のシャープで定義し、かつ一 つ上の幹音の母音を使っているが、 「Fa♯ 」は「Fi」としている。また 「La♯ 」は「Chi」(おそらく「Ti♭ 」) としている。 • 岡部式: シャープは「i」、フラットは「u」とする。ただし、「Mi♯ 」、 「Ti♯ 」については「Me」 、 「Te」とする。「R」と「L」の区別がしにく い日本人には、「Lu、La、Li」の替りに「U、A、I」を用いる。さら に、♭♭、♯♯ に対しては、さらに「d」を語尾に付ける。例えば「Fa♯ 」 は「Fi」なので「Fa♯♯ 」は「Fid」とする。 この音名は大文字を小文字にすることにより階名にも利用可能 (読み方は 同じ) であるが、個人的には、固定ド唱法を推奨し、さらに、ここに示した 音名から音の高さがすぐ出るようにトレーニングすることを薦める。 2.6 音程名 任意の二つの音の隔りを音程(interval)という。音程名は度数(degree) とその前についた完全(perfect, P)、長(major, M)、短(minor, m)、増 (augmented, aug, +)、減(diminished, dim, −)、重増(doubly augmented) 、重減(doubly diminished)の修飾子からなる。度数は、対象となる二音 の変化記号を無視し、幹音の数で数えた音の間隔である。注意して欲しい のは、同音(unison)の場合、0 度ではなく 1 度である。例えば、長音階の 「♭ iii」と「♯ v」であると、 「iii、iv、v」と三つ目の音になるので、3 度となる。 続いて、変化記号をも考慮し、二つの音の差が半音いくつかを数える。こ 第 2 章 音名と階名 16 の数によって度数の前に付ける修飾子が決定される。この規則により決まる 音程名を図 2.10 に示す。なお、平均律音程では異名同音程が数多く存在す るが、これらは今後述べる純正律音階では異なる音程になる。 度数 半音数: 音程名 (略号) 1度 0:完全 1 度 (P1) 1:増 1 度 (aug1) 2度 0:減 2 度 (dim2) 1:短 2 度 (m2) 2:長 2 度 (M2) 3:増 2 度 (aug2) 3度 2:減 3 度 (dim3) 3:短 3 度 (m3) 4:長 3 度 (M3) 5:増 3 度 (aug3) 4度 4:減 4 度 (dim4) 5:完全 4 度 (P4) 6:増 4 度 (aug4) 5度 6:減 5 度 (dim5) 7:完全 5 度 (P5) 8:増 5 度 (aug5) 6度 7:減 6 度 (dim6) 8:短 6 度 (m6) 9:長 6 度 (M6) 10:増 6 度 (aug6) 7度 9:減 7 度 (dim7) 10:短 7 度 (m7) 11:長 7 度 (M7) 12:増 7 度 (aug7) 8度 11:減 8 度 (dim8) 12:完全 8 度 (P8) 13:増 8 度 (aug8) 図 2.10 音程名 重減、重増はこの表のさらに左右に配置される 「完全」や「長」 、 「短」の修飾子の由来は今度の解説で明かになろう。「長」 のつく音程よりも半音短い音程には「短」を付す。「完全」もしくは「長」よ り半音長い音程には「増」 、さらに半音長いと「重増」を付すことになってい る。また、「完全」もしくは「短」より半音短い音程には「減」、さらに半音 短いと「重減」を付すことになっている。つまり「重減 → 減 → 短 → 長 → 増 → 重増」と「重減 → 減 → 完全 → 増 → 重増」といずれも半音ずつ長く なっている。以下、しばしばアルファベットの省略語を用いる。 低い方の音を一オクターブ上げた際の音程差を、元の音程の転回音程 (inversion interval)という。互いに転回音程にある二つの音の相対比の積 は 2 となる。P1 と P8、P4 と P5、M3 と m6、M6 と m3 などの組み合わ せは互いに転回音程となっている。例えば、C–G (C に対する G の音程) は P5 であるが、C をオクターブ上げた転回音程である G–C1 は P4 となる。 なお、完全 5 度や完全 4 度は後述するピタゴラス音階で、また長 3 度、短 3 度は純正律音階でこれらの元となる重要な概念となっているため、ここで 音程の概念を紹介した。 17 第3章 平均律音階 3.1 セント 平均律音階というのは、後述するが、1 oct を等間隔の音程、12 個の半 音(half tone)で分割したものを基礎に作成した音階(scale)である。等 間隔ということは、基本波の周波数で言うと、等比率である。音の高さの比 較を一々比で表わすよりは、周波数の対数の差で表わす方が、より直感的で ある。そこで、周波数の対数の上に等間隔で刻んだ目盛がいくつか提案さ れている。現在、最も使われているのがセント(cent)という単位である。 平均律音階の半音の間隔を 100 等分したものである。まず半音の音程を h 倍とすると、h12 = 2 (2 は 1 oct) であるから、h = 21/12 ≑ 1.06 となる。 1 cent に対する比率を c 倍とすると c100 = h であるから、c = h(1/100) = 2(1/1200) ≑ 1.00058 である。 これからの議論では沢山の比が出てくるが、これをセントで表現するこ とが多い。任意の比を r とするとき、r = cx から x を求めればよいので、 r = 2(x/1200) 。これより r の比をセントで表わすと次式のようになる。 1200 log2 r (cent) (3.1) この他、同様な対数表示ではあるが、Euler の定めた 1000 log10 r、ドイ 第 3 章 平均律音階 18 ツ式の 1000 log2 r (Millioktaven)、日本式の 6 log2 r などがある。それぞ れ、1 oct (1200 cent) が約 300、1000、6 となる。また平均律の半音 (100 cent) はそれぞれ、約 25、約 83.3、0.5 となる。ただし、セントが最も使わ れており、本書でもセントしか使わない。 なお、比に対しセントは対数であるので、線形な関係にはない。しかし、 比がほとんど 1 のときには、ほぼ直線的な関係になる。 1 cent: 1.00058 の比 10 cent: 1.0058 の比 100 cent: 1.059 の比 1000 cent: 1.782 の比 さすがに、1000 cent ともなると、比の 1 からのずれはセント数には比例し てこないが、100 cent ぐらいまではほぼ比例している。このため「100 cent (半音) はおよそ 6% 弱増」と覚えておくとよい。 3.2 平均律音階 ピアノの白鍵と黒鍵の配置から分るように、任意の「C」を主音とした平 均律音階(equal temperament scale)の「C、D、E、F、G、A、B、C1 、 . . . 、C2 」 (「C1 」は 1 oct 上の「C」、 「C2 」は 2 oct 上の「C」) を「A」を 基準にしたセントで表わすと、図 3.1 に示すように、100 cent の整数倍と なる。隣接する音と間隔を見ると 200 または 100 cent であるが、200 cent の間隔を全音(whole tone)、100 cent の間隔を半音(half tone) と呼ぶ。 平均律音階はセントでは簡単に表わされるが、比では簡単にはならない。例 えば「C」に対する比で表わすと 1、1.122 (=22/12 )、1.260、1.335、1.498、 1.682、1.888、2 と、2 の冪数以外は無理数となる。 3.2 平均律音階 音名 比 2 19 C D E F G −9/12 −7/12 −5/12 −4/12 −2/12 2 2 2 2 B C1 2/12 3/12 A 1 2 2 cent (基準 A) −900 −700 −500 −400 −200 0 200 300 cent (基準 C) 0 200 400 500 700 900 1100 1200 図 3.1 平均律音階 (主音 C) 1 oct が何故、半音 12 個からなり、何故、半音や全音の複雑な組合せで構 成されているのかについては、次章以後で明かとなる。 20 第4章 調和 まず、二つの音から和音(chord)を作ろう。これらの音の基本周波数の 比が、整数であると、両方の音の倍音はすべて、これら基本周波数の最大公 約数の周波数の整数倍となる。つまり、最大公約数を基本周波数とする別の 音色(tone)の音のように聞こえることになる。しかし、実はこの合成音は 最大公約数である基本周波数そのものは含んでいないため、やや不自然な 音になるが、濁った感じはない。この辺で、やや物理数学的な考察をしてお こう。結論は簡単であるので、式の部分は飛ばしても構わない。以下の議論 で、人間の耳の可聴域が重要な意味を持つ。特に下限が重要であり、20 Hz と言われている。 二つの音の周波数を pf0 、qf0 としよう。ここで p、q は互いに素 (最大 公約数 GCD=1) とする。すると、二つの音を同時に聞いたときに感じる 基本波は、当然 f0 となり、その p 倍、q 倍の高調波を感じることになる。 当然、これが可聴域より低いと、基本波を感じなくなってしまう。この最 大公約数的な周波数 f0 を、以後共通基本波周波数(common fundamental frequency)と呼ぼう (本書限り)。ちなみに、二音が極めて近いが互いに簡 単な整数比ではない周波数にある場合、共通基本波周波数は 0 となる。 今後の章では、二音の周波数が (p/p′ )f0 、(q/q ′ )f0 で与えられ、かつ、こ れらが任意の整数の場合の共通基本波周波数を求めることがしばしば発生 21 する。f0 を外して議論しよう。まず、二つの係数である分数はそれぞれ 既約分数 (p と p′ が互いに素) であるとしよう。p と q の最大公約数を g としよう。また、p′ と q ′ の最小公倍数を G′ としよう。すると p = P g 、 q = Qg 、p′ = P ′ g ′ = G′ /Q′ 、q ′ = Q′ g ′ = G′ /P ′ などと書けるので、 p/p′ = P Q′ (g/G′ )、q/q ′ = QP ′ (g/G′ ) となる。この二つの比で P Q′ と QP ′ は互いに素となる。互いに素でないとすると、P と P ′ は互いに素、Q と Q′ は互いに素であるから、P と Q が共通約数を持つか、P ′ と Q′ が共通 約数を持つことになるが、これらは最小公倍数の残りの部分なので、あり得 ない。互いに素であるため、結局 (g/G′ )f0 が共通基本波周波数ということ になる。 次に、p/p′ 、q/q ′ がそれぞれ規約分数でないとしよう。すると、それぞれ の共通約数は g にも G′ にも含まれるため、(g/G′ )f0 の値は変らないことに なる。したがって、「二音の周波数が (p/p′ )f0 、(q/q ′ )f0 で与えられる場合 には、共通基本波周波数はいかなる場合でも [g(p, q)/G(p′ , q ′ )]f0 」となる。 次に、この二つの音の作る唸り(beat)の周波数を求めておこう。唸りと は、人間の耳を含む聴覚器官の非線形性により、周波数の混合が起き、二つ の音の持つ周波数の和や差の音が聞こえる現象である。二つの音の高調波も 唸りを作り得るが、もっとも強く聞こえるのは基本波同士の唸りである。そ の場合、二音の周波数を f1 、f2 とすると、唸りの周波数は f1 − f2 と、二つ の周波数の差で与えられる。 これがどのくらいの範囲の周波数だと唸りとして聞こえるかであるが、実 際に聞いてみると、周波数差が数 Hz から 20 Hz ぐらいが気になるブルブル といったウルフ音(wolf note) (独語ではヴォルフ音) と呼ばれるものであ ることがわかる。440 Hz に対して、5% ぐらいなので、およそ 80 cent 以内 の近接した音の唸りは気になることとなる。元々ウルフ音では、特に弦楽器 について、弦が出す音に楽器が共鳴し、また、その共鳴周波数が若干ずれて いるために発生する唸りのことで、数 Hz から十数 Hz が対象のようである。 ただし、オクターブぐらい離れた音の間のウルフ音というのもあるようなの で、二つの比較的小さな整数 p と q を仮定して、pf1 − qf2 にも注意を払う 22 第4章 調和 必要があろう。一方で、1 から 2 Hz 程度の唸りは気にならないようなので、 差が 10 cent を切れば同音とみなせる。 人間の可聴域を 20 Hz として、 「二音の共通基本波周波数が 20 Hz 以上で あること、さらに、基本周波数の差が 20 Hz もしくは数 Hz 以下であること の二点が満足されることが、調和(consonance)の条件である」というのが、 私の仮説である。また、440 Hz の周波数付近で考えると、これは 5 % ずれ もしくは 80 cent の差に対応する。実際、以後の議論で、この判定をした結 果を示すが、昔から悪い音程と呼ばれているものが、うまく選別される。も ちろん、この議論は三和音に対しても成立する。三音の共通基本波周波数が 可聴域にあるときのみ、調和していることになる。本章で述べるピタゴラス 音階や純正律音階は、この調和の概念を強く意識して作られている。 23 第5章 ピタゴラス音階 前章に示した平均律音階は比較的新しい音階である。歴史的には、まず本 章で述べるピタゴラス音階があった。続いて、次章で述べる純正律音階が発 達した。ピタゴラス音階のキーワードは整数 3 であるが、これは本章を読め ば自然と明かになろう。 5.1 協和音程 調和する和音の音程として、まず絶対協和音程(absolute consonant interval)と呼ばれるものがある。これは片方の 2n 倍の周波数の音と組み 合せるものである。もっとも簡単な絶対協和音程は完全 1 度 (P1) と呼ばれ る同音の 0 cent 音程である。二つの音の音色は異なってもよい。この場合、 合成音の高調波の周波数はすべて一致するので、あたかも第三の音色を持つ 新しい音に聞こえるのはずである。 次の絶対協和音程は整数比は 2 倍の音程の 1 oct (=1200 cent) 違いの完 全 8 度 (P8) である。この場合、二つ目の音の基音や倍音はすべて低い方の 音の 2、4、. . . 倍音に重なるので、あたかも音色の異なる一つの音に聞こえ るのである。絶対協和音程とはこれらオクターブの整数倍の関係にある音程 すべてを言う。 24 第5章 ピタゴラス音階 絶対協和音程の関係にある音をいくら組合せても、オクターブごとに離 れた音階しか作れない。そこでピタゴラスが着目したのが、完全協和音程 (perfect consonant interval)と呼ばれるものである。比率に新たに 3 を導 入し、音の組合せとして 2m 3n 倍を考える。このうち、もっとも簡単な 3 倍 は、オクターブ以上離れているために、オクターブ内に近付けると、3/2 倍 になる。このとき、共通基本波周波数は 1 に相当する高さ、つまり低い方の 音の周波数の 1/2 になる。それでも、当然、十分高い周波数であるため、調 和した和音となる。これを完全 5 度(perfect fifth, P5) (P5) の音程と呼 ぶ。また、高い方の音を 1 オクターブ下げると 4/3 倍になるが、この転回音 程(inversion interval)も完全 4 度(perfect fourth, P4) (P4) と呼ばれる 調和のとれた和音となる。これらを完全協和音程という。 5.2 ピタゴラス音階 P5 の音程は 1200 log2 (3/2)=702 cent であり、平均律音階でいうと C と G、あるいは do と sol の間隔 700 cent に極めて近い。また、P4 の音程は 1200 log2 (4/3)=498 cent であり、702 cent と加えて、1200 cent となる。 もちろん、平均律の方が後から定められたので、平均律では 702 cent に近 い切りのよい 700 cent を採用したという方が正しい。 ピタゴラス音階(Pythagorean scale)とは、この P5 の音程を一種の移調 (transposition)することにより作成された音階である。音階は、元々合唱 における和音から作られたと思われる。特に教会など、反響の大きいところ では、調和のよい和音というのがあることに気付いた人が、調和のよい音の 組み合わせを拾い出し、それを集めて音階としたと考えられる。 D を基準に 3/2 (702 cent) ずつの間隔で上下に音を作っていこう。D に 深い意味はないが、単に黒鍵の配置の対称点 (もう一箇所は G♯ ≑ A♭ ) とい うだけである。実際、どの音を基準に作業しても結果は変らない。 図 5.1 に示すように、D の 3/2 倍 (702 cent 上) の音を作る。さらにその 3/2 倍の音を作る。次に、D の 2/3 倍 (702 cent 下) の音を作る。同様の作 5.2 ピタゴラス音階 25 業を、上下に続けていくと、無限個の音が作られる。表には上下 6 回の作業 結果のみ示した。これで計 13 音が生成される。この作業まででは音名は決 まらないが、次の作業で 1 oct 内へ展開すると、決定することができる。 比 A♭ 4 ( 3 )−6 cent -4212 音名 2 B♭ 3 ( 3 )−4 2 cent 588 比 10 2 /3 図 5.1 E♭ 3 ( 3 )−5 6 F2 ( 3 )−3 2 C2 ( 3 )−2 2 G1 ( 3 )−1 2 2 -3510 -2808 -2106 -1404 -702 90 -408 294 -204 498 8 5 2 /3 6 4 5 2 /3 3 3 2 /3 E1 ( 3 )2 2 /3 B1 ( 3 )3 2 22 /3 F♯2 ( 3 )4 D A 1 3 2 0 702 1404 2106 2808 0 -498 204 -294 1 2 3/2 2 2 2 3 3 /2 3 2 5 3 /2 C♯2 ( 3 )5 2 G♯3 ( 3 )6 2 3510 4212 408 -90 -588 4 5 6 3 /2 8 3 /2 36 /210 完全協和による音の生成 (音名は次の図のものを対応させている) 中央付近の 8 音は幹音とする。なお、右端の G♯ と左端の A♭ は、平均律 では同音異名であるが、後述のように、ピタゴラス音階では若干の高さの差 がある。また、この作業をさらに上下に続けることにより、すべての幹音の シャープとフラット、さらに若干異なる高さの幹音も定義できるが、省略 する。 こうして直線的に作られた音に、2 の整数倍を掛けたり割ったりして (1200 cent を加えたり引いたりして)、基本オクターブの中へ移動し、さら に比を「A」および「C」基準にしたものを図 5.2 に示す。幹音と派生音 (♭ と ♯ がある) は区別して転記し、幹音には左から順に「C、D、E、F、G、A、 B」を付ける (実はここで音名が決まる)。また、派生音には ♭ と ♯ を意識し て、対応する幹音の音名を付ける。図 5.1 の音名は、図 5.2 の音名を戻し たものである。なお、この図の右端の C1 は図 5.1 にはない音であるが、参 第5章 26 ピタゴラス音階 考のために追加した。これがピタゴラス音階(Pythagorean scale)と呼ば れるものである。平均律音階とは比較的近い音となっている。 D E♭ E F 16/27 81 128 2/3 512 729 3/4 64/81 -906 -792 -702 -612 -498 -408 -6 8 -2 -12 2 -8 比 (基準 C) 1 2187 2048 9/8 32/27 81/64 4/3 cent (基準 C) 0 114 204 294 408 498 平均律との cent 差 0 14 4 -6 8 -2 F♯ G G♯ 28/32 8/9 -294 音名 比 (基準 A) cent (基準 A) 平均律との cent 差 図 5.2 C C♯ ≑ A♭ A B♭ B C1 243 256 2048 2187 1 256 243 9/8 32/27 -204 -90 -114 0 90 204 294 4 -4 10 -14 0 -10 4 -6 729 512 3/2 6561 4096 128 81 27/16 16/9 243 128 2 612 702 816 792 906 996 1110 1200 12 2 16 -8 6 -4 10 0 ピタゴラス音階 (比の分母分子で奇数は 3 の冪乗、偶数は 2 の冪乗) 派生音も含めたすべての音階の隣接する音との差を見てみると、 2187/2048 倍 (114 cent) と 256/243 倍 (90 cent) の二種類がある。前 者は平均律の半音よりやや長いため長半音(long half tone) (LH と略す)、 後者はやや短いため短半音(short half tone) (SH と略す) と呼ぶ。 P4 の関係、つまり 4/3 倍 (498 cent) ずつ、左右に積んでいっても、図 5.1 の左右を反転しただけのものが得られる。ただし、オクターブの整数倍の差 は発生する。これを基本オクターブに移動すると、図 5.2 と同じピタゴラス 音階が得られる。 ここで図 5.2 の幹音だけを抜き出し、隣同士の比をとってみると、図 5.3 5.3 ピタゴラス音階の和音 27 に示すように、9/8 (204 cent) と 256/243 (90 cent) の二種類の間隔があ る。平均律 200 cent に比べ、204 cent はやや長いため長全音(long whole tone) (LW=LH+SH)、90 cent は前出のやや短い短半音(short half tone) (SH) である。 D/C E/D F/E G/F A/G B/A C1 /B 隣接比 9/8 9/8 256/243 9/8 9/8 9/8 256/243 cent 差 204 204 90 204 204 204 90 差の種類 LW LW SH LW LW LW SH 音名 図 5.3 ピタゴラス音階の幹音の構成 (LW、SH は長全音、短半音) 5.3 ピタゴラス音階の和音 平均律音階の P5 を 12 回積み重ねると、7 oct の 8400 cent (=700×12) になるはずであるが、ピタゴラス音階では 702 cent を積み重ねるため、 8424 cent と な り 、24 cent 超 過 と な る 。小 数 ま で 計 算 す る と 23 cent ((3/2)12 /27 = 312 /219 倍) 超過となる。この 23 cent をピタゴラスコン マ(Pythagorean comma) (PC) という。この値は図 5.2 の G♯ と A♭ の差 にもなっている。「A」を A4 の 440Hz とした場合、この二つ音は共通基本 波周波数も 440/28 · 37 と 1 Hz を遥かに切る超低音であり、また周波数差も 23 cent と、数 cent 以上 80 cent 以下なので唸りも聞こえてくる、正に二つ の調和基準のどちらも満足しないウルフ音を生成する。ちなみに、23 cent は 440 Hz に対し、6 Hz ぐらいになり、聞いてみると明かな唸りを発生る。 また、P5 を 11 回積み重ねると、残るは 679 cent (= 8400 − 702 × 11 = 702 − 23) となり、完全 5 度より 1PC 少なくなる。この関係はウルフ 5 度(wolf fifth)と呼ばれるが、実際に聞いてみると、唸りは感じられない。 図 5.1 を見ると、A♭ と C♯ 、あるいは E♭ と G♯ の関係である。前者の関係 を見ると、共通基本波周波数は 440 Hz の 1/211 37 という低音であるが、周 第5章 28 ピタゴラス音階 波数差は 678 cent と十分である。しかし、A♭ の 2 倍波 (-114+1200=1086) と C♯ の 3 倍波 (-792+1902=1110) の差は 24 cent (厳密には 23 cent) とな り、やはりウルフ音となる。*1 ピタゴラス音階は、P1、P8、P5、P4 の音程に対しては調和するが、その 他の音程に対しては必ずしもうまく調和しない。図 5.4 に二音間の共通基 本波周波数を A (=440 Hz) を 1 として示す。求め方がやや難解かも知れな いが、例えば C (16/27) と D (2/3) の場合は、通分して 16/27 と 18/27 と し、これから双方に共通な 2/27 を取り出している。つまり、分母としては 二つの分母の最小公倍数を採用し、分子としては二つの分子の最大公約数を 採用している。 C D E F G A B C1 16/27 2/3 3/4 64/81 8/9 1 9/8 32/27 C 16/27 16/27 2/27 1/108 16/81 8/27 1/27 1/216 16/27 D 2/3 - 2/3 1/12 2/81 2/9 1/3 1/24 2/27 E 3/4 - - 3/4 1/324 1/36 1/4 3/8 1/108 F 64/81 - - - 64/81 8/81 1/81 1/648 32/81 G 8/9 - - - - 8/9 1/9 1/72 8/27 A 1 - - - - - 1 1/8 1/27 B 9/8 - - - - - - 9/8 1/216 C1 32/27 - - - - - - - 32/27 図 5.4 ピタゴラス音階の最大公約数 (A 基準) A の周波数は 440 Hz であるので、例えば 20 Hz 以下の最大公約周波数は 不快に感じるものとして、この図で 20/440=1/22 以下の数値となるところ は不快に感じるということになる。こうした音程は四角で囲ったが、(F, B) を最悪 (1/23 34 =1/648)、(D, B) を最善 (1/23 3=1/24) としてとして、転 回音程を外しても 12 組も不協和音が存在している。また、現在はよい音程 *1 倍音の唸りについては今迄議論していないが、この二音にウルフ音が聞こえるとすると、 倍音唸りしか考えられない。 5.3 ピタゴラス音階の和音 29 と思われている C と E の M3 の関係もよくない (1/108)。ピタゴラス音階 はこうした多くの不協和音を有するため、次に述べる純正律音階にとって変 られてしまったが、先に述べる調の章で再び顔を出す。 30 第6章 純正律音階 ピタゴラス音階よりさらに調和性の高いものとして、純正律音階が発達し た。この仕組を知ると、何故、シャープとフラットの二つの記号があるの か、何故、ハ長調に概念的に近いのは、ト長調やヘ長調なのかなどの理由が 見えてくる。ピタゴラス音階のポイントである整数 3 に対し、純正律音階の ポイントは整数 5 である。 6.1 不完全協和音程 ピタゴラス音階では 3 という整数を導入することにより、P5、P4 の和音 を作成することに成功した。しかし、多くの不協和音も存在する。例えば、 C と E を組み合せた長 3 度 (M3) の和音もウルフ音となってしまう。そこ で、次の素数である 5 という整数を導入してみよう。5 倍を同じオクターブ へ押し込めると 5/4 倍となるが、5/4 は 386 cent であり、400 cent に比較 的近い。 そこで、 「1 C」(左上の 1 については後述) の 5/4 倍によって、新しい「E」 を作り出して、どうなるかを検討してみよう。当然のことながら、この二 つの音は周波数比が簡単であり、よく調和する。この長 3 度(major third, M3) (M3) の関係は不完全協和音程(imperfect consonant interval)と呼 6.1 不完全協和音程 31 ばれる。不完全協和音程というと、一瞬、不協和音程のように勘違いしがち であるが、あくまでも協和音程であり、完全ほどではないという意味なので、 注意したい。不完全協和音程にはこの他に長 3 度の転回音程である 8/5 倍 の短 6 度(minor sixth, m6)、6/5 倍の短 3 度(minor third, m3) (m3)、 その転回音程である 5/3 倍の長 6 度(major sixth, M6) (M6) がある。 次に 1 C:E:1 G の三和音(triad, three note chord)を考えると、1:5/4: 3/2 (または 4:5:6) という簡単な比となる。これはいわゆる「ドミソ」の 和音に対応する。「1 C」と「E」の音程は前述のように長 3 度 (M3) である が、 「E」と「1 G」の音程は 316 cent の短 3 度 (m3) となっている。この 1: 5/4:3/2 の三和音は長三和音(major triad)といい、長調の曲でもっとも よく使われ、M3 の上に m3 を積んだ構造となっている。なお、短調でよく 使われる三和音である短三和音(minor triad)は、逆に m3 の上に M3 を積 んだ構造を持ち、1:6/5:3/2 の比で構成される。A:1 C:E、または 1 C: E♭ :1 G の和音となるが、これらの詳細については後述する。 さて、「E」をピタゴラス音階の「E」と同じものであるとしてみると、 「C」や「G」はピタゴラス音階のそれらより 81/80 (22 cent) 高い (具体的 な計算は後述)。この差はしばしば出現するため、特にシントニックコンマ (syntonic comma) (SC) と呼ばれる。本章で定義された「1 C」や「1 G」の 左上の 1 はピタゴラス音階の音より 1 SC 高いことを示している (本書限 り)。また、何故「C」を基準にせず、「E」を合せたのかは、今後明かにな ろう。 これらの関係を図 6.1 に示す。長三和音は倒立の三角形で表わす。三角 形の辺で右方向に向うと P5、左方向はその転回音程の P4、右下方向は M3、 左上方向はその転回音程の m6、右上方向は m3、左下方向は M6 の関係の 音が配置されることを示している。「1 C」や「1 G」が「E」に比べ 1 SC だ け高く定義されていることを示すために、一段高い位置に配置している。短 三和音は正置の三角形で表わす。その頂点の階名が「2 E♭ 」である理由は後 にわかってくるが、ピタゴラス音階の「E」より 1 SC (81/80) だけ高いた め、さらに一段高い位置に配置される。 第 6 章 純正律音階 32 m6 (4/5) 2 E♭ m3 (6/5) minor triad 1C P4 (2/3) 1G P5 (3/2) Major triad E M6 (5/6) 図 6.1 M3 (5/4) 三和音 この「長三和音」を基礎に音階を作ってみよう。図 6.2 に示すように、 1 「 G」を基準に長三和音の倒立三角形を作ると、右にオクターブ上の「1 D1 」 と下頂点に「B」ができる。「1 D」はピタゴラス音階の「D」の 1 SC 上の音 となる。この 1 G:B:1 D1 の和音を 1 C:1 E:1 G の和音に対し、属三和音 (dominant triad)と言う。いわゆる「ソシレ」の長三和音である。 1F 1 1C A1 1G E 1 D1 B 図 6.2 長三和音による音階の構築 (主音「1 C」) 逆に「1 C」を最高音とするような長三和音の倒立三角形を作ると、左にオ クターブ下の「1 G1 」と下頂点に「A1 」ができる。「1 G1 」はピタゴラス音階 のオクターブ下「G1 」の 1 SC 上の音となる。この 1 F1 :A1 :1 C の和音を 1 C:E:1 G の和音に対し、下属三和音(sub-dominant triad)と言う。い わゆる「ファラド」の長三和音である。 ここまで来ると、何故「1 C」としたのかがわかろう。これは、A を絶対 音 A4 (440Hz) とする際、都合がよいからである。その場合、A1 、E、B は ピタゴラス音階の音と同じになり、残る F1 、C、G、D1 が 1 SC 上の 1 F1 、 1 C、1 G、1 D1 となる。 6.2 純正律音階 33 6.2 純正律音階 図 6.2 のすべての音を、基本オクターブ内に落としたものが、図 6.3 に示 す「1 C」を主音とする純正律音階(just temperament scale)である。幹音 だけから構成されているが、派生音については後述する。平均律と比較する と、0 から 20 cent ずれている。これが純正律音階の長音階(major scale) と呼ばれるものである。 階名 1 比 (基準 A) 1 C D E 3/5 27/40 3/4 1 1 F 1 C1 G A B 4/5 9/10 1 9/8 6/5 −884 −680 −498 −386 −182 0 204 316 平均律との cent 差 16 20 2 14 18 0 4 16 ピタ. . . 律との cent 差 22 22 0 22 22 0 0 22 比 (基準 1 C) 1 9/8 5/4 4/3 3/2 5/3 15/8 2 cent (基準 1 C) 0 204 386 498 702 884 1088 1200 平均律との cent 差 0 4 −14 −2 2 −16 −12 0 ピタ. . . 律との cent 差 0 0 −22 0 0 −22 −22 0 cent (基準 A) 図 6.3 1 純正律長音階 (主音「 C」) ここで隣同士の比をとってみると、図 6.4 に示すように、9/8 (204 cent)、 10/9 (182 cent)、16/15 (112 cent) の三種類の間隔があり、それぞれ長全 音(long whole tone)LW (ピタゴラス音階の全音 LW と同じ=LH+SH)、 短全音(short whole tone)SW (=SH+SH)、短半音(short half tone)SH と言う。なお、LW-SW=1 SC (81/80) である。 1 階名 隣接比 D/1 C E/1 D 1 9/8 10/9 16/15 F/E 1 G/1 F A/1 G B/A 1 C1 /B 9/8 10/9 9/8 16/15 cent 差 204 182 112 204 182 204 112 差の種類 LW SW LH LW SW LW LH 図 6.4 純正律長音階の間隔 (LW、SW、LH は長全音、短全音、長半音) 第 6 章 純正律音階 34 さて、純正律音階がどのくらい、調和性が高いのか、共通基本波周波数 によって調べてみよう。図 6.3 より、各和音の最大公約数を求めた結果を 図 6.5 に示す。A の周波数は 440Hz であるので、例えば 20Hz 以下の最大 公約周波数は不快に感じるものとして、この図で 20/440=1/22 以下の数値 となるところは不快に感じるということになる。つまり、(1 D、1 F)、(1 D、 A)、(1 F、B) の三つの組み合わせだけが、1/40 で不協和音となっているだ けなのである。 1 1 C D E 1 F 1 G A B 1 C1 3/5 27/40 3/4 4/5 9/10 1 9/8 1 C 3/5 3/5 3/40 3/20 1/5 3/10 1/5 3/40 3/5 1 D 27/40 - 27/40 3/40 1/40 9/40 1/40 9/40 3/40 3/4 - - 3/4 1/20 3/20 1/4 3/8 3/20 E 6/5 1 F 4/5 - - - 4/5 1/10 1/5 1/40 2/5 1 G 9/10 - - - - 9/10 1/10 9/40 3/10 A 1 - - - - - 1 1/8 1/5 B 9/8 - - - - - - 9/8 3/40 1 6/5 - - - - - - - 6/5 C1 図 6.5 純正律長音階の最大公約数 (「A」を 1 としている。四角は不協和音) 現在、多くの楽器が平均律で調整されているため、濁った音が多く、澄ん だ音を聞くチャンスは少い。しかし、声は簡単に調整できるため、合唱では 純正律とすることが可能である。古い教会音楽などでは、純正律で歌われて いるので、味わっていただきたい。なお、音楽の進化にしたがって、単純さ は排除され、複雑さが好まれるようになってきたため、平均律が批判される ことはなくなっている。 短音階(minor scale)も同じように短三和音や長三和音の組合せで実現で きる。短音階のやっかいな点は、自然短音階(natural minor scale)、和声 短音階(harmonic minor scale)、旋律短音階(melodic minor scale)の三 種類があることである。それぞれ、図 6.6 のような和音で構成されている。 6.2 純正律音階 35 1F 1C 1 D1 1G E A1 B (a) 1F D1 1C 1 1C E A1 D1 B 1G ♯ B ♯ 1G ♯ 1 F1 (b) 図 6.6 E A1 (c) 純正律短音階の構成 (主音「A」): (a) 自然短音階 (破線は長音 階)、 (b) 和声短音階、 (c) 旋律短音階 (上行形) 自然短音階に着目してみよう。この純正律短音階を「A」を基音として記 載してみると、図 6.7 のようになる。 C1 D1 E1 1 9/8 6/5 4/3 3/2 0 204 316 498 0 4 16 -2 0 0 22 0 階名 A B 比 1 cent 平均律との差 ピタ. . . 律との cent 差 図 6.7 1 F1 1 G1 A1 8/5 9/5 2 702 814 1018 1200 2 14 18 0 0 22 22 0 純正律自然短音階 (主音 A ) おおかたの音は、長音階で定義されたものと同じであるが、「D1 」だけが 1 oct 上より 1 SC 低い。ちなみに、この短音階の「D1 」は「A」との相性 がよく、「A」:「D1 」は 1:4/3 という簡単な整数比になる。一方、長音階 の「1 D」の場合は「A」:「1 D1 」は 5/3:2×32 /23 =20:27 と大きな整数の 組合せとなり、調和性はよくない。 それならば長音階でも「D1 」を使ったらどうかということになろうが、そ 36 第 6 章 純正律音階 の場合、1 G:B:D1 =3/2:15/8:20/9=106:135:160 となって 4:5:6 からかなりずれる。ただし、和音の場合は「1 D」と「D」を上手に使う可能 性がある。 6.3 12 音階の純正律音階 純正律音階では三和音を利用して、長音階のすべての音を構築したが、派 生音については何も決定していない。本節では、今迄の議論とやや異なる方 法で、派生音も含む 12 の音階すべてを決定してみよう。決定の仕方が異な るといっても、大きな違いはない。三和音の代わりにそれの構成要素であ る長 3 度と短 3 度を使おうというものである。長三和音も短三和音も、M3 (長 3 度) と m3 (短 3 度) の組み合せから構成されている。これらを三和音 としてではなく、直接、音の高さの決定に使おうというものである。 まず、長 3 度は 5/4 (386 cent)、短 3 度は 6/5 (316 cent) である。ちな みこの二つの和からなる完全 5 度は 3/2 (702 cent) である。この二つの差 は 25/24 (70 cent) であるが、長三和音と短三和音は根音と第三音を重ねる と、第二音が半音異なるだけなので、半音下げる、あるいは半音上げると、 この差だけ音程が変化すると理解できる。これにより、幹音にフラットや シャープを付けた派生音の高さが正確に決定できることになる。ただし、例 えば「F♯ 」と「G♭ 」は、平均律では同音異名であっても純正律では異なるの で、それを意識する必要がある。 まず、幹音から見直してみよう。主音「C」から上 1 oct の間の幹音のい くつが、これらの音程で決定できるかを考えてみると、意外と少い。ただ し、本節ではこの基本オクターブを越えるような音はこのオクターブ以内に 移動することはしないというルールにする。「C、E、G」の和音により「E」 と「G」が決定できるが、さらにその上に「G、B、D1 」の和音を繋いでも、 「B」と「D1 」は決定できても、 「D」は決定できないことになる。結局、 「C」 から M3、m3、M3、(m3) と繋いでいくことで「E、G、B、(D1 )」と 3 度 ごとの幹音だけが決定できたことになる。 6.3 12 音階の純正律音階 37 残る幹音はオクターブ上の「C1 」から、M3、m3 の音程を利用して決定す る。まず「F、A、D1 」を使って「F」と「A」を決定する。さらに「F」の m3 下の「D」を決定する。これは「C1 」から下へ、m3、M3、m3 と音程を 辿って決定したことになる。これですべての幹音が決定されたことになる。 つまり、前節の純正律音階は三和音の積み重ねで作成したのに対し、本節で は 3 度の和音をオクターブ以内に限って適用することにより、作成している と言えよう。 次は派生音であるが、これは幹音に変化記号を付けたものであるから、変 化記号の数だけ 25/24 (70 cent) ずつずらせばよいことになる。こうして得 られたすべての幹音およびそれに 1 個の変化記号のついたすべての音の高 さを図 6.8 に示す。ピタゴラス音階とのずれを SC を単位に調べることに より、左上下の数字も入れてある。もちろん変化記号の数が増えても 25/24 (70 cent) ですべて処理できる。 第 6 章 純正律音階 38 1 音度 ♯ 1C C 2 D♭ D ♯ 2D 2 E♭ E ♯ 2E 比 (A 基準) 3/5 5/8 16/25 2/3 25/36 18/25 3/4 25/32 cent -884 -814 -772 -702 -632 -568 -498 -428 比 (C 基準) 1 25/24 16/15 10/9 125/108 6/5 5/4 125/96 cent 0 70 134 204 274 316 386 456 3 F♭ 1 ♯ 1F F 3 G♭ 1 G 1G ♯ 2 A♭ A ♯ 2A 96/125 4/5 5/6 108/125 9/10 15/16 24/25 1 25/24 -456 -386 -316 -252 -182 -112 -70 0 70 32/25 4/3 25/18 36/25 3/2 25/16 8/5 5/3 125/72 428 498 568 632 702 772 814 884 954 2 B♭ ♯ 3 C♭1 1 C1 ♯1 1C 3 D♭1 1 D1 B 2B 27/25 9/8 25/192 144/125 6/5 5/4 162/125 27/20 134 204 274 246 316 382 450 520 9/5 15/8 125/64 48/25 2 25/12 54/25 9/4 1018 1088 1158 1130 1200 1270 1334 1404 図 6.8 純正律 12 音階 また、こうして得られた純正律 12 音階を、三角形を使った構成図の形で 図 6.9 に示した。 6.4 音程 39 3 F♭ 2 D♭ 3 C♭ 2 A♭ A D 1F 図 6.9 2 E♭ 1C 1F 2D 3 G♭ ♯ 2 B♭ 1G ♯ 2A (1 D1 ) B E ♯ 1G ♯ 1C ♯ (3 D1♯ ) 2E ♯ ♯ 2B 3 度音程を利用した純正律音階の構成 なお、この方法で決定された幹音の高さは、前節で決定したものとやや異 なる。長音階については図 6.3 と比較してみると、「D」は 2/3 (-702 cent) なのに対し、 「1 D」は 27/40 (-680 cent) であり、1 SC 異なる。しかし、短 音階 (自然短音階) では図 6.7 の主音「A」を図 6.8 の主音「C」に移調さ せて比較すると、すべて一致している。 6.4 音程 純正律音階のすべての 12 音の高さは図 6.8 に求めてあるので、すべての 純正律の音程を求めることが可能である。その結果を図 6.10 に示す。 第 6 章 純正律音階 40 度数 音程名:比 (cent) 1度 dim1:24/25(-70) 2度 dim2:128/125(42) m2:16/15(112) M2:10/9(182) aug2:125/108(252) dim2:648/625(64) m2:27/25(134) M2:9/8(204) aug2:75/64(274) 3度 dim3:144/125(246) m3:6/5(316) M3:5/4(386) aug3:125/96(456) 4度 dim4:32/25(428) dim4:162/125(450) P1:1(0) aug1:25/24(70) P4:4/3(498) aug4:25/18(568) P4:162/125(520) aug4:45/32(590) P5:3/2(702) aug5:25/16(772) 5度 dim5:36/25(632) 6度 dim6:192/125(744) m6:8/5(814) M6:5/3(884) aug6:125/72(954) dim6:972/625(766) m6:81/50(836) M6:27/16(906) aug6:225/128(976) 7度 dim7:216/125(948) m7:9/5(1018) M7:15/8(1088) aug7:125/64(1158) 8度 dim8:48/25(1130) 図 6.10 P8:2(1200) aug8: 25/12(1270) 音程名と純正律の比率 (全音階音程間のみ記載) ここで、2 度、4 度、6 度が明かに二重になっている。しかもその差が 1 SC である。2 度が二重になるのは、そもそも全音に LW (182 cent) と SW (204 cent) があり、その差が 1 SC であることから明かである。念のため、 2 度の下段は D–E、1 F–1 G、A–B、(1 C1 -1 D1 ) で出現している。6 度の下段 は、D–B、1 F–1 D1 で出現している。 もっとも気になるのは 4 度の下段である。4 度はピタゴラス音階でも純正 律音階でも、音階を構成する骨組であるからである。一方、この転回であ る 5 度には現われていない。4 度下段は、D–1 G、1 F–B♭ 、1 F♯ –B、A–1 D1 で出現している。しかし、これを完全に無くすことはできない。例えば、D を-702 cent でなく-680 cent にすると、D–A の完全 5 度が 702 cent から 680 cent になり、完全 5 度の定義が二重になってしまう。そもそも、これは 純正律音階の持つ根本的な問題と言えよう。 ところで、ここに示した音程では 3 度系、5 度系、7 度系の音程はいずれ も一意に決定されている。その結果、三和音も四和音も、どの音を根音にし ようが、その音の比は一意に決定される。例えば、長三和音はどこを根音に しようが、1:5/4:3/2=4:5:6 になる。また、和音の章で説明する七の和 音は 1:5/4:3/2:9/5 になる。ということで、和音については、図 6.8 を 6.5 純正律に関する私見 41 使って議論することとなる。 6.5 純正律に関する私見 趣味で合唱を行なっているものとして、純正律音階については永らく関心 を持っていた。それは、音声は自由に高さが変えられるからであり、それに より美しい音を作ることができると信じていたからである。また、簡単な整 数比の音は美しく聞こえると信じてきたこともある。 しかし、本書を書くにあたって、電子音などを使って聞き比べてみたとこ ろ、よほど簡単な整数比でないと、顕著な効果が得られないことが判明して きた。ウルフ音についても、20 Hz ぐらいの唸りは確かに欝陶しいが、どこ からどこまでが邪魔な唸りになるかの科学的根拠は得られなかった。 近年、MIDI の発展につれ、純正律音階で曲を演奏することも比較的容易 になり、YouTube などにはいくつかの試みが公開されている。それを聞い てみると、確かに澄んだ和音となっているが、やや物足りない、あるいは純 粋過ぎて許容性のないようにも聞こえる。現在の平均律、あるいは複雑な和 音構成にすっかり慣れてしまったのか、私にとって純正律への魅力は昔に比 べかなり減退してしまった。もちろん、音を正確に合せる技術は必要である が、あまりに純正律に拘らない方がよいと感じるようになった次第である。 42 第7章 調 7.1 調 主音(tonic, keynote)の絶対的な周波数を決めることで構成した絶対的 な音階を、調(key)と呼ぶ。具体的には、主音の音名を与えることで、調 は決まるが、習慣として長音階か短音階かの区別も付ける。 一番基本である調は、図 6.2 に示した主音を「1 C」にとしたハ長調(C major key)である。その結果を図 7.1 に示す。なお、本章ではオクターブ の差は無視して議論する。絶対的な音名となったため、いずれも周波数が はっきり決まっている。この図では「A」が 440Hz と定義され、他はそれと の比で決定される。例えば「1 C」の周波数は (3/5)×440=264Hz である。 1C 1F A 図 7.1 1G E 1D B ハ長調の構成 主音をこの三角形の一つ右の「1 G」に移調(transposition)した図 7.2 に 示すト長調は、元の調と多くの音を共有するため、属調(dominant key)と 7.1 調 43 呼ばれる。これは元の調整と多くの音を共有しているため、近親調(related key)と呼ばれる極めて近い調となる。このため、ちょっと異なる気分を醸 し出す際の技術として、よく用いられる。なお、こうした曲の途中で調を変 える工夫を行うことを、転調(modulation)と呼ぶ。 1G 1C 1D E F♯ B 図 7.2 1A ト長調の構成 主音を一つ左の「1 F」に移調した図 7.3 に示すヘ長調も、元の調と多く の音を共有するため、下属調(sub-dominant key)と呼ばれ、やはり近親調 (related key)である。 1F 1 B♭ 1C D 図 7.3 A 1G E ヘ長調の構成 こうして、近親調をどんどん作っていった場合の音名の関係を図 7.4 に示 そう。これは大変便利な図である。 図 7.4 ♯ 純正律音階と音名 3C 2E ♯ 3G 1G 3D ♯ ♯ 2F ♯ 3A 1A ♯ 2C 3E 1E ♯ ♯ 2G ♯ 3B 1B 3F ♯ 1F ♯♯ ♯ ♯♯ 3C 1C ♯ ♯♯ 3G ♯ 1G ♯ ♯ 3D 1D ♯♯ 3A ♯ 1A ♯♯ ♯ -1SC -2SC -3SC ♯♯ 1E 0SC 2D 4 D♭ 1B 3 B♭ G♯ 2G 4 G♭ 1E 3 E♭ 2C C♯ 2C 4 C♭ 1A 3 A♭ ♯♯ 2F F♯ 2F 4 F♭ 1D 3 D♭ 2B B 2 B♭ 4 B♭♭ 1G 3 G♭ 2E E 2 E♭ 4 E♭♭ 1C 3 C♭ ♯ 2A A 2 A♭ 4 A♭♭ 1F 3 F♭ ♯ 2D D 2 D♭ 4 D♭♭ 1 B♭ 3 B♭♭ G 2 G♭ 4 G♭♭ 1 E♭ 3 E♭♭ C 2 C♭ 4 C♭♭ 1 A♭ 3 A♭♭ F 2 F♭ 1D 1 D♭ 2B 0SC B♭ +1SC +2SC +3SC +4SC 3F 4 A♭ 44 第7章 調 参考に「1 G」を主音としたト長調(G major key)について、少し詳しく 7.1 調 45 述べよう。まず、図 7.4 のほぼ真中に「1 C」とあるが、その一つ左の倒立三 角形と右二つの倒立三角形が、図 7.1 に示したハ長調に対応する。この三つ の倒立三角形を一つ右のずらしたものがト長調になる。つまり、ト長調とは 主音を一つ右へずらし、ハ長調の下属三和音を消して、新しく属三和音を追 加したものである。 この際、ハ長調の「1 fa」である「1 F」が消えて、新しくト長調の「si」で ある「F♯ 」が創成される。「F♯ 」は「F」の半音近く上 (+92 cent) の音であ るので、嬰ヘ(F-sharp)と名付ける。ただし、「1 C」の存在する水平線上 の右の方にある「1 F♯ 」(この図には現われていない) よりは 1 SC 低いため、 「1 」を外している。さらに、ハ長調の「la」である「A」が 1 SC 上がって、 ト長調の「1 re」である「1 A」になる。絶対音階の基準である 440Hz である 「A」は、後述のように、この新しい「1 A」より 1 SC 低くなるため「1 」は 付いていない。 表からわかるように、属調へ移調するたびに、二音ずつ変化していくが、 まずは元の調の「1 fa」が消えて、代わりに新しい調に半音 +1 SC 下の「si」 が追加され、もう一つは元の調の「la」が新しい調では 1 SC 上の同音名に 代って「1 re」として再登場する。 逆に元の属三和音を破棄して、下属三和音を追加する方法もある。こうし て次々に下属調(sub-dominant key)を作っていくことができる。「1 C」の 左、つまり「1 F」を主音にして、新しい調を作ると、ヘ長調(F major key) となる。新しい調の「la」と「1 fa」が新しい音として加わる。「la」は「1 D」 の 1 SC 下の「D」となる。「1 fa」は「B」の半音近く下(-92 cent)の「1 B♭ 」 変ロ(B-flat)となる。 このように、次々に下へ順次下属調(sub-dominant key)を作っていくこ とにより、新しい音が二音ずつ変化していくが、まずは元の調の「si」が消 えて、代わりに新しい調に半音 +1 SC 上の「1 fa」が追加され、もう一つは 元の調の「1 re」が新しい調では 1 SC 下の同音名に変って「la」として再登 場する。 短調では、正置三角形を使って同様な議論を行う。中心となるのは、上図 46 第7章 調 の中央付近にある「A」を主音としたイ短調(A minor key)である。 また、「A」を中心に左右に伸びる線上の音はピタゴラス音階を構成する。 ピタゴラス音階の「C」は「A」より左 3 番目に存在しているが、これと「A」 の直ぐ右上にある純正律音階の「1 C」とは明かに異なる。 純正律音階でも、ピタゴラス音階のように無限に音が生産されていくこと になるが、可能ならどこかで打ち止めしたいものである。どんどん、新しい 音を作っていくと、いずれは、すでに作ったものと非常に近い音ができてく る可能性がある。そうしたら、それを同音とすればよいことになる。その意 味で、図 7.4 の中で破線で囲んだ部分の音を用意すれば十分であり、それを 越えて生成された音は破線内の音とほぼ同音になるのである。 「A」を基準として、この図のすべての音名の周波数のセント数を求めたも のを図 7.5 に示す。本来図 7.4 の形に書くべきであろうが、情報量が多い ため、同図の平行四辺形を長方形に変形して描いてある。変形の状況は、音 名、特に「1 C」と「A」の位置を見ると、簡単に理解できると思う。セント 数はすべて、基本オクターブ内の値にしてある。「A」の周辺のセント数を 見るとわかると思うが、右下へ移動すると約 386.3 cent 増加 (M3) し、上 へ移動すると約 315.7 cent 増加 (m3) し、その合計は、右へ移動したとき の約 702 cent 増加 (P5) に一致する。逆の各移動 (m6、M6、P4) に対して は、それぞれ同量減少する。 7.1 調 47 −5P5 +4SC 4 −4P5 C♭♭ 4 152.8 +3SC 3 854.8 A♭♭ 3 1037.1 +2SC 2 F♭ 1 D♭ -1SC -2SC -3SC 4 D♭♭ 356.7 3 B♭♭ −2P5 4 A♭♭ 1058.7 3 F♭ −1P5 4 E♭♭ 560.6 3 C♭ 0P5 4 B♭♭ 62.6 3 G♭ +1P5 4 +2P5 F♭ 4 764.5 3 C♭ 266.5 D♭ 3 A♭ +3P5 4 G♭ 968.4 3 E♭ +4P5 4 D♭ 470.4 3 743.0 245.0 946.9 448.9 1150.8 652.8 154.7 -4.3 -4.2 -4.2 -4.1 -4.0 -4.0 -3.9 -3.8 -3.7 C♭ 2 G♭ 2 D♭ 2 A♭ 2 E♭ 2 B♭ 2 F 2 C 2 925.4 427.4 1129.3 631.3 133.2 835.2 337.1 1039.1 -3.0 -2.9 -2.8 -2.7 -2.7 -2.6 -2.5 -2.5 -2.4 1 E♭ 1 B♭ 1 F 1 C 1 1 G D 1 A 4 1 3 609.8 111.7 813.7 315.6 1017.6 519.6 21.5 723.5 -1.6 -1.5 -1.5 -1.4 -1.3 -1.3 -1.2 -1.1 -1.1 F 856.7 2 D 541.1 1 E 1107.8 A♭ 1172.3 G 223.5 A♭ +5P5 B♭ 41.1 1 405.9 0SC E♭♭ −3P5 539.1 2 721.5 +1SC G♭♭ B 225.4 B♭ F C G D A E B F♯ C♯ G♯ 90.2 792.2 294.1 996.1 498.0 0 702.0 203.9 905.9 407.8 1109.8 -0.3 -0.2 -0.1 -0.1 0 0.1 0.1 0.2 0.3 1G 1D 1A 1E 1B 1F ♯ 1C 1G ♯ 1D 1A 974.6 476.5 1178.5 680.4 182.4 884.3 ♯ 386.3 1088.3 ♯ 590.2 92.2 1.0 1.1 1.2 1.3 1.3 1.4 1.5 1.5 1.6 2E 2B ♯ 2F ♯ 2C ♯ 2G ♯ 2D ♯ 2A ♯ 2E 2B 658.9 160.9 862.8 364.8 1066.8 568.7 70.7 772.6 274.6 3C ♯ 343.3 図 7.5 2.4 2.5 2.5 2.6 2.7 2.7 ♯ ♯ 3D ♯ 3A ♯ 3E ♯ 3B ♯♯ 3F 547.2 49.1 751.1 253.1 955.0 3G 1045.3 2.8 3C ♯♯ 457.0 ♯ 2.9 3G ♯♯ 1158.9 ♯ ♯♯ 2F 976.5 ♯ 1E 794.1 2C ♯♯ 478.5 3.0 ♯♯ 3D ♯♯ 3A 660.9 162.9 音名の周波数 (各欄、上から音名、セント値、n×1200/53 cent か らのずれ) この図で、4 本の実線に囲まれた範囲 (図 7.4 では破線の平行四辺形) の 階名のセント値を、低い方から順に並べてみよう。 第7章 調 48 0, 21.5, 41.1, 70.7, 92.2, 111.7, 133.2, 154.7, 160.9, 182.4, 203.9, 223.5, 245.0, 274.6, 294.1, 315.6, 337.1, 364.8, 386.3, 407.8, 427.4, 448.9, 476.5, 519.6, 539.1, 568.7, 590.2, 609.8, 631.3, 652.8, 680.4, 702.0, 723.5, 743.0, 772.6, 813.7, 835.2, 862.8, 884.3, 905.9, 925.4, 946.9, 976.5, 1017.6, 1039.1, 1066.8, 1088.3, 1107.8, 1129.3, 1150.8, 1178.5 498.0, 792.2, 996.1, これらのセント値はいずれも 1 SC (22 cent) 程度のほぼ等間隔で並んで いる。ただし、一箇所、四角形右上端 (以後座標で (+3SC, +4P5) のよう に呼ぶ) の「3 B♭ 」(154.7 cent) と左下端 (−2SC, −4PS) の「2 B」(160.9 cent) の間だけが 6.2 cent と異常に狭い。そこで、これら二つを同じ高さと みなせば、1200 cent を等間隔で 53 等分した高さで限りなく近似できる。 実際 1200/53 (22.6 cent) の整数倍からのずれを同表中に示したがすべて −4.3∼3.0 cent 内に存在している。 ちなみに、53 等分の音で近似した場合、この四角形内の任意の二つの音の 差は調和する場合から最大 7.3 cent (3.0+4.3) ずれるが、その場合には 440 · (27.2/1200 −1)=1.8Hz ぐらいの唸りを生じる。この程度はビブラートの範 囲であるので、それ程、濁った感じは受けないのである。 一つ右の四角形に囲まれた各音を、中心の四角形の音と比較してみると、 例えば図 7.5 の (0SC, +5P5) にある「G♯ 」と (+1SC, −4P5) にある「1 A♭ 」 のように、音名はずれるが、2.0 cent だけ低い音が必ず見つかる。例外は 右の四角の +3SC の行であり、例えば (+3SC, +5P5) にある「3 F」(856.7 cent) は元の四角の (−2SC, −3P5) にある「2 F♯ 」(862.8 cent) と ± 約 6.1 7.2 五度圏 49 cent 高い音が見つかる。一つ左の四角形も同様な関係が成立する。これら の関係を スキスマ (独)(Skisma)と言い、同じように同音とみなす。 同様に、一つ下の四角形内の音をみてみると、やはり音名はずれるが、す べて 8.1 cent だけ低い音が見見つかる。ただし、左上端と、表には現われて いない右下端だけは 6.1 cent 高い音が見つかる。一つ上の四角形も同様な 関係が成立する。これらの関係を クライスマ (独)(Kleisma)と言い、同じ ように同音とみなす。 スキスマとクライスマの関係にある二つの音を同音とみなすことにする と、すべての音は図 7.4 の四角形の中の音に置き換えることができる。ただ し、遠い四角形内の音は徐々にずれが無視できないほど大きくなるが、そん なに遠い音までを使うことはないので、実用上はこの四角形の範囲で十分で ある。 こうして上の方に属調を「C → G → D → A → E → B → F♯ → C♯ → . . . (ハ → ト → ニ → イ → ホ → ロ → 嬰ヘ → 嬰ハ → . . . )」と、下の 方に下属調を「C ← F ← B♭ ← E♭ ← A♭ ← D♭ ← G♭ ← C♭ ← . . . (ハ ← へ ← 変ロ ← 変ホ ← 変イ ← 変ニ ← 変ト ← 変ハ ← . . . )」と、共通 音の多い近親調(related key)の長調を作っていくことができるのである。 この壮大な 53 個の音名からなる音階を純正律音階(just temperament scale)と呼ぶのであるが、そのうち 7 個だけが変化記号を必要としない。こ のため、すべての音を楽譜に記載しようとすると、左右対象に考えて、最大 (53−7)/2=23 個のシャープとフラットを要することとなる。このどの音も 主音になり得るので、調の数は 53 個となる。これを使いこなせる楽器はそ れほど多くない。オルガンは、かなりを用意しているようである。あとは各 楽器や声で、耳を頼りに合せるしかない。 7.2 五度圏 平均律音階では純正律の音を少しずつずらした結果、全部で 12 音しかな いため、シャープを 12 個、あるいはフラットを 12 個付けると、元の調と一 第7章 調 50 致してしまう。あるいはシャープを 6 個付けた調とフラットを 6 個付けた 調は同じものになる。 調号数 -2 -1 0 1 2 3 ♭ F C G D A Bm F♯ m -4 -3 A♭ E♭ Fm Cm 和音名 (長音階) B 和音名 (短音階) Gm Dm Am Em 4 5 6 (7) (-7) -6 -5 ♯ ♯ (C ) ♭ D♭ 調号数 和音名 (長音階) E B ♭ 和音名 (短音階) 図 7.6 C♯ m F (C ) G G♯ m D♯ m (A♯ m) (A♭ m) E♭ m B♭ m 五度圏 (6 および -6 の列は異名同音、その左右の括弧内も重複) しかし、属調や下属調の概念は引き継がれている。この関係を統一的に示 す五度圏(circle of fifth)というものがある。ハ長調の主音 C からスター トして、図 7.6 に示すように、完全 5 度ずつの間隔で主音を並べたもので ある。また、平行調も同時に示している。通常、円状に配置されるが、本書 では直線的に配置したものを示す。右へ移動すると完全 5 度ずつ上がるが、 左へ移動すると完全 4 度ずつ上がる (完全 5 度ずつ下る) ため、四度圏とも いう。 一番上の欄は新しい調を作る際、何個の音符にシャープが必要かを示して いる。負数の場合はフラット数である。右へ行くほど、フラット数を減ら し、なくなったらシャープ数を増やす、左へ行くときは逆の作業をすればよ いことになる。この図では上段右端に達っすると、下段左端に繋がる。下段 で右端に達っすると、上段左端に繋がり、以後周期的に繰り返すことにな る。このため、上の音の調号数 ±6 (円形表示だと対角線の位置) は上段の真 下になる。この図は変化記号の数と調の関係を知るのに便利だけでなく、和 7.2 五度圏 音の議論にも利用される。 51 52 第8章 和音 8.1 音程 和音でもっとも簡単なものは、二つの音の組み合せである二和音(dyad) であろう。しかし、この言葉を聞くことは少い。西洋における古典音楽では 単旋律の次に三和音が発達したため、二和音はその一音が欠けたもの、もし くは、三和音の構成要素という扱いであった。そこで本書でも、主として二 音の音程(interval)ということで説明する。 音程については 2.6 節で説明したが、改めて、同じ説明を繰り返そう。音 程名は度数(degree)とその前についた修飾子からなる。度数は五線紙上に 書かれた音符の間隔である。つまり音度の差であり、アラビヤ数字 (1、2、 . . . ) が使われる。度数の計算には ♭ や ♯ などの変記号は無視する。音度と 同様に、同音は 0 度でなく 1 度であるので、注意して欲しい。 8.1 音程 53 度数 半音数: 音程名 (略号) 1度 −1:dim1 (♭1) 2度 0:dim2 (♭♭2) 1:m2 (♭2) 2:M2 (2) 3:aug2 (♯2) 3度 2:dim3 (♭♭3) 3:m3 (♭3) 4:M3 (3) 5:aug3 (♯3) 4度 4:dim4 (♭4) 5:P4 (4) 6:aug4 (♯4) 5度 6:dim5 (♭5) 7:P5 (5) 8:aug5 (♯5) 6度 7:dim6 (♭♭6) 8:m6 (♭6) 9:M6 (6) 10:aug6 (♯6) 7度 9:dim7 (♭♭7) 10:m7 (♭7) 11:M7 (7) 12:aug7 (♯7) 8度 11:dim8 (♭8) 0:P1 (1) 12:P8 (8) 1:aug1 (♯1) 13:aug8 (♯8) 図 8.1 音程名 (重減、重増はこの表のさらに左右に配置される) 修飾子には、完全(perfect, P)、長(major, M)、短(minor, m)、増 (augmented, aug, +)、減(diminished, dim, −)、重増(doubly augmented) 、重減(doubly diminished)があり、二つの音の絶対的な差、つまり半音 がいくつあるかで決定される。この規則により決まる音程名を図 8.1 に再 掲する。なお、括弧内に省略形を示した。 長音階および自然短音階の度名で表した幹音間の音程を図 8.2 に示す。 この図で行=列の対角線より左下の部分では、根音をオクターブ上として転 回音程を表示している。この表に従うと、iv-vii の aug4 と 1 vii-iv の dim5 を除いてすべて完全音程、長音程、短音程から構成されている。 第8章 54 長音階 和音 i ii iii iv v vi vii 短音階 iii iv v vi vii i ii viii iii i iii P1 (1) M2 (2) M3 (3) P4 (4) P5 (5) M6 (6) M7 (7) P8 (8) ii iv m7 (♭7) P1 (1) M2 (2) m3 (♭3) P4 (4) P5 (5) M6 (6) m7 (♭7) iii v m6 (♭6) m7 (♭7) P1 (1) m2 (♭2) m3 (♭3) P4 (4) P5 (5) m6 (♭6) iv vi P5 (5) M6 (6) M7 (7) P1 (1) M2 (2) M3 (3) aug4 (♯4) P5 (5) v vii P4 (4) P5 (5) M6 (6) m7 (♭7) P1 (1) M2 (2) M3 (3) P4 (4) vi i m3 (♭3) P4 (4) P5 (5) m6 (♭6) m7 (♭7) P1 (1) M2 (2) m3 (♭3) vii ii m2 (♭2) m3 (♭3) P4 (4) dim5 (♭5 m6 (♭6) m7 (♭7) P1 (1) m2 (♭2) viii iii P1 (1) M2 (2) M3 (3) P4 (4) P5 (5) M6 (6) M7 (7) P1 (1) 図 8.2 幹音間の音程 (行見出しの音度に対する列見出しの音度の音程、 対角線左下は根音がオクターブ上の転回音程) 長音階の主音「i」と他の幹音との音程は、完全 1 度(perfect unison, P1) 、長 2 度、長 3 度(major third, M3)、完全 4 度(perfect fourth, P4)、 完全 5 度(perfect fifth, P5)、長 6 度(major sixth, M6)、長 7 度、完全 8 度(perfect octave, P8)となり、すべて完全音程か長音程となっている。 一方で、主音「i」の下に他の幹音を置いた転回音程(inversion interval)の 場合は、すべて完全音程か短音程となっている。短音階の主音「i」(長調の 「vi」) と他の幹音との音程は、ほぼ完全音程、短音程であるが、長音程も 混っていることがわかる。 図 8.3 に、長音階の二和音の全音階和音(diatonic chord) (ハ長調) と呼 ばれるものを示す。これは、全音階(diatonic scale)、つまり特定の音階の 各幹音と、その 3 度上の幹音とが作る二和音(dyad) (3 度音程) のことで ある。いずれの音程も長 3 度 (M3) もしくは短 3 度 (m3) となっている。 図 8.3 長音階の二和音の全音階和音 (和音名は 5 度音の欠損した三和音のもの) さらに、図 8.4 に、長音階および短音階の二和音の全音階和音(diatonic 8.2 三和音 55 chord)を表形式で示す。 根音の音度 長音階 自然短音階 v IIm IIIm IVM VM VIm VIIm IIm ♭ Vm ♭ VIM ♭ IIm ♭ IIIM IVm VM ♭ VIM VIIm IIm ♭ IIIM IVM VM VIm VIIm IM Im 旋律短音階 (上行) iv ii Im 調和短音階 (♭ )iii i Im IIIM IVm (♭ )vi (♭ )vii VIIM 図 8.4 二和音の全音階和音 (和音名は 5 度音の欠損した三和音のもの) 8.2 三和音 三つの音の組み合せからなる和音を三和音(triad, three note chord)と いう。 その最も基礎になっているのが、任意の音階の全音階(diatonic scale)、 つまり各幹音を根音(root)として、その 3 度および 5 度上の幹音から構成 される三和音で、三和音の全音階和音(diatonic chord)という。図 8.5 に 長音階の三和音の全音階和音を示す。和音の種別については、これから順に 示していく。 図 8.5 長音階の三和音の全音階和音の楽譜 さらに図 8.6 に、長音階および短音階の三和音の全音階和音を示す。まず 根音のローマ数字を大文字にしたもので、和音の音度(chord degree)が表 現される。それを R とし、それ以外の部分は各コードの種類である。種類 については直後に説明するが、RM、もしくは Rm というものが圧倒的に多 第8章 56 和音 いことに気付くであろう。 i ii (♭ )iii iv v (♭ )vi (♭ )vii 長音階 IM IIm IIIm IVM VM VIm VIIm(♭5) 自然短音階 Im IIm(♭5) ♭ IVm Vm ♭ VIM Im (♭5) VM ♭ VIM 根音の音度 調和短音階 旋律短音階 (上行) Im IIm IIm 図 8.6 ♭ ♭ IIIM IIIM (♯5) IIIM (♯5) IVm IVM VM (♭5) VIm ♭ VIIM VIIm(♭5) VIIm(♭5) 三和音の全音階和音の音度 続いて、しばしば現われる和音の表示法について述べる。多くの三和音は 根音のの 3 度上と 5 度上に音を重ねることで成立している。このため、まず 3 度音が長 3 度の M3 か短 3 度の m3 かを右下添字として書く。さらに、5 度音の音程を右上添字として書く。 R 3度音音程 (5度音補正) R は根音の音度または音名を書くことになっているため、I や C、♯ V や G♯ などの文字が入る。 種類を示す添字をまとめると以下のようである。 • 3 度音音程: ◦ 長三和音:省略可、M、△、maj ◦ 短三和音:m、−、min • 5 度音補正: ◦ 完全 5 度:省略可、5 ◦ 増 5 度:♯5、+5、+ ◦ 減 5 度:♭5、−5、−、o (括弧なし) 面白いことに、3 度音には M (省略可)、m といった音程名に準じた記号を 使っているが、5 度音は ♭5 など、音度に準じた数字記号を使う。これは恐 らく 5 度音には最初は P5 しかなかったのが、複雑なコードを使うようにな 8.2 三和音 57 り、追記が必要になったからではないかと考えている。なお、手書きの場 合、M を m と明白に区別して書くのは難しいため、△ が用いられる。また、 m の代わりに − を使うのも、手書きの際、簡単だからである。 この表示法にしたがって三和音の種類を表示しておこう。和音の構成音に は通常アラビア数字が使われるが、本書では根音を do として、より直感的 なドレミを用いる。和音名(chord name)はいずれも英語読みされること が多い。 • 長三和音(major triad): [全音階和音] (do, mi, sol)=(1, M3, P5)。間隔は M3+m3。 純正律では 1:5/4:3/2 の比。 厳密には RM(5) 。R、RM、R△、Rmaj など (R はもちろん根音の音名で I、C など)。 • 短三和音(minor triad): [全音階和音] (do, mi♭ , sol)=(1, m3, P5)。m3+M3。 純正律では 1:6/5:3/2 の比。 厳密には Rm(5) 。Rm、R−、Rmin など。 • 短減 5 三和音(minor flat five triad): [全音階和音] 減三和音(diminished triad)ともいう。 (do, mi♭ , sol♭ )=(1, m3, dim5)。m3+m3。 純正律では 1:6/5:36/25。 厳密には Rm(♭5) 。Rm(−5) 、Rm(−) など。Rdim、R◦ 。 • 長増 5 三和音(major sharp five triad): [全音階和音] 増三和音(augumented triad)ともいう。 (do, mi, sol♯ )=(1, M3, aug5)。M3+M3。 純正律では 1:5/4:25/16。 厳密には RM(♯5) 。R(♯5) 、R(+5) 、R(+) など。Raug。 • 長減 5 三和音(major flat five triad): (do, mi, sol♭ )=(1, M3, dim5)。M3+dim3。 第8章 58 和音 純正律では 1:5/4:36/25。 厳密には RM(♭5) 。R(♭5) 、R(−5) など。 • サス 4 和音(suspended four triad): これだけが、第 2 音が 4 度の 三和音である。suspended とは長 3 度の 3 度音を引き上げているこ とを指す。 (do, fa, sol)=(1, P4, P5)。P4+M2。 純正律では 1:6/5:3/2。 R (=RM) を変形しているということで、Rsus4 と記載する。 また、C を基音としたこれら三和音を図 8.7 に示しておこう。 図 8.7 三和音 (基音 C) なお、上記の各種コードの演奏にあたっては、音取りがあまり跳ばないよ うに、適宜、音をオクターブ移動した転回和音(inversion chord)が使われ る。特に転回の状態を記載したいときには、例えば長音階の IIIm では (mi, sol, si)、(sol, si, mi1 )、(si, mi1 , sol1 ) に対し、和音記号では IIIm、IIIm1 、 IIIm2 、ハ長調の和音名では例えば図 8.8 に示すように Em、Em/G、Em/B などとする。 図 8.8 転回和音 8.3 四和音 59 8.3 四和音 四和音(tetrad, four note chord)とは四つの音からなる和音である。多 くが 3 度、5 度、7 度の位置に音を置いたものである。また 7 度音の代わり に 6 度音を使った和音も使われる。四和音の表示法は以下のようである。 R 3度音音程 7/6度音音程 (5度音補正) R 3度音音程 5度音補正 までは三和音と同じである。「7/6度音音程」項は以下 のような規則で記載する。この項は下付きにすることもある。 • 短 7 度:7、m7、min7 • 長 7 度:M7、△7、maj7 • 長 6 度:6、M6、△6、maj6 短 7 度の際、7 だけでよいことに注意してほしい。よく間違えやすいコード で、RM7 があるが、これは七の和音 RMm7(5) ではなく長七の和音 RMM7(5) である。前者は M、m、(5) が省略できるため、R7 となる。一方、後者は、 最初の M と (5) が省略できるため、RM7 (慣例で RM7 と記載) となる。 長音階や短音階の幹音を根音として、その上の 3 度、5 度、7 度の位置 にある幹音を重なたものを四和音の全音階和音(diatonic chord)という。 図 8.9 に、長音階の四和音の全音階和音を示す。 図 8.9 長音階の四和音の全音階和音の楽譜 図 8.10 に、和音の音度(chord degree)を示す。 第8章 60 和音 i ii (♭ )iii iv v (♭ )vi (♭ )vii 長音階 IM7 IIm7 IIIm7 IVM7 V7 VIm7 VIIm7(♭5) 自然短音階 Im7 IIm7(♭5) ♭ IVm7 Vm7 調和短音階 ImM7 旋律短音階 (上行) ImM7 根音の音度 IIm IIIM7 7(♭5) ♭ IIIM7(♯5) 7 ♭ IIIM7(♯5) IIm IVm 7 7 IVMm 7 V 7 V ♭ VIM7 ♭ 7 VIIm7(♭5) 7(♭5) VIIm7(♭5) VIM VIm ♭ VII7 図 8.10 四和音の全音階和音の音度 四和音となると、全音階和音だけでも種々のコードが現われる。これら も含め、代表的な四和音コードを示しておく。まず七の四和音(seventh tetrad, seventh four note chord)を示す。 • 長七の和音(major seventh chord): [全音階和音] (do, mi, sol, si)=(1, M3, P5, M7)。M3+m3+M3。 純正律では 1:5/4:3/2:15/8。 厳密には RMM7(5) 。RM7 (RM7 のこと)、R△7 , Rmaj7 など。 • 短七の和音(minor seventh chord): [全音階和音] (do, mi♭ , sol, si♭ )=(1, m3, P5, m7)。m3+M3+m3。 純正律では 1:6/5:3/2:9/5。 厳密には Rmm7(5) 。Rm7 、R−7 、Rmin7 など。 • 七の和音(seventh chord): [全音階和音] (do, mi, sol, si♭ )=(1, M3, P5, m7)。M3+m3+m3。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5。 厳密には RMm7(5) 。ほとんどの添字が省略可能であり、R7 。 長音階および調和短音階の V7 は特に属七の和音(dominant seventh chord)と呼ばれ、進行上、重要な役割を演ずる。 • 短減七の和音(minor diminished seventh chord): [全音階和音] 半減七の和音(half-diminished seventh chord)ともいう。 (do, mi♭ , sol♭ , si♭ )=(1, m3, dim5, m7)。m3+m3+M3。 純正律では 1:6/5:36/25:9/5。 厳密には Rmm7(♭5) 。Rm7(♭5) 、Rm7(−5) 、R−7(−5) 。Rϕ 。 8.3 四和音 61 長音階および調和短音階の VII7 は特に導七の和音(leading seventh chord)ともいう。 • 増七の和音(augumented seventh chord): [全音階和音] (do, mi, sol♯ , si)=(1, M3, aug5, M7)。M3+M3+m3。 純正律では 1:5/4:25/16:15/8。 厳密には RMM7(♯5) 。RM7(♯5) 、RM7(+5) 、R△7(+) など。RaugM7 。 • 短長七の和音(minor major seventh): [全音階和音] (do, mi♭ , sol, si)=(1, m3, M5, M7)。m3+M3+M3。 純正律では 1:6/5:3/2:15/8。 厳密には RmM7(5) 。R−△7 など。後出のクリシェで使われる。 • 減七の和音(diminished seventh chord): (do, mi♭ , sol♭ , si♭♭ )=(1, m3, dim5, dim7)。m3+m3+m3。 純正律では 1:6/5:36/25:216/125。 厳密には Rmdim7(♭5) 。Rm6(♭5) 、Rm6(−5) など。Rdim7 、R7◦ 、R◦ 。 • 長減七の和音(major diminished seventh chord): (do, mi, sol♭ , si♭ )=(1, M3, dim5, m7)。M3+dim3+M3。 純正律では 1:5/4:36/25:9/5。 R7(♭5) • サス 4 セブンの和音(suspended four seventh chord): 三和音のサス 4 と同様に、セブンの和音の 3 度音を引き上げていると 理解する。(do, fa, sol, si♭ )=(1, P4, P5, m7)。P4+M2+m3。 純正律では 1:4/3:3/2:9/5。 R7 を変形しているということで、R7 sus4 と記載する。 六の四和音はアド六コード(additional sixth chord)と呼ばれる。 • 長六の和音(major sixth chord): (do, mi, sol, la)=(1, M3, P5, M6)。M3+m3+M2 (下方転回すると m3+M3+m3、つまり Rm7)。 純正律では 1:5/4:3/2:5/3。 第8章 62 和音 RM6 。R6 。 • 短六の和音(minor sixth chord): (do, mi♭ , sol, la)=(1, m3, P5, M6)。m3+M3+M2 (下方転回すると m3+m3+M3、つまり Rm7(♭5) )。 純正律では 1:6/5:3/2:5/3。 Rm6 。 • 減六の和音(diminished sixth chord): (do, mi♭ , sol♭ , la)=(1, m3, dim5, M6)。m3+m3+aug2。 純正律では 1:6/5:36/25:5/3。 Rdim6 。異名同和音の 3 全音 (この定義は次節で述べる) が二つ入っ ている C を基音としたこれら七と六の四和音を図 8.11 に示しておこう。 図 8.11 四和音 (基音 C) 8.4 拡張和音 四和音にさらに拡張音(tension note)と呼ばれるオクターブ以上の 9、 11、13 度 (re1 、fa1 、la1 ) の音を加えた和音を拡張和音(tension chord)とい う。tension は緊張と書かれている書が多いが、拡張の意味である。8、10、 12、14 度などが含まれないのは、これらはオクターブ下げると、1、3、5、7 度 (do、mi、sol、si) であり、これまで述べた三和音、四和音の転回に過ぎ 8.4 拡張和音 63 なくなるからである。 また、三和音に拡張音を加えた和音をアドコード(additional chord)と いう。特に 9 度の音を加えたものが多く、アド九コードと呼ばれる。これは 拡張和音から 7 度音を抜いたものでもあるので、詳細は省く。このように、 和音から途中の音を抜くことをオミット(omit)という。通常、抜く音の度 数を付けるので、Gomit3 とは G の長三度から 3 度の B を抜いた G と D か らのみなる和音である。 拡張和音の表示法を先に示しておこう。 R 3度音音程 7/6度音音程 (9度音以上) 5 度音は完全 5 度のため、5度音補正は記載しない。「9度音以上」の部分 は次のように記載する。 • 9 度音:9、(♭9、♯9) • 11 度音:11、♯11 • 13 度音:13、♭13 拡張和音には次のようなものがある (七の和音系は多いため、後述する)。 また、C を基音とした音譜を図 8.12 に示しておこう。 図 8.12 拡張和音 (基音 C) • 長七九の和音(major seven nineth chord): (do, mi, sol, si, re1 )=(1, M3, P5, M7, M9)。M3+m3+M3+m3。 純正律では 1:5/4:3/2:15/8:9/4。 厳密には RMM7(5)(9) 。RM7(9) 。以下、同様の略。 • 長七嬰十一の和音(major seven sharp eleventh chord): 第8章 64 和音 (do, mi, sol, si, fa♯1 )=(1, M3, P5, M7, aug11)。M3+m3+M3+P5。 純正律では 1:5/4:3/2:15/8:45/16。 RM7(♯11) 。 • 短七九の和音(minor seven nineth chord): (do, mi♭ , sol, si♭ , re1 )=(1, m3, P5, m7, M9)。m3+M3+m3+M3。 純正律では 1:6/5:3/2:9/5:9/4。 Rm7(9) 。 • 短七十一の和音(minor seven eleventh chord): (do, mi♭ , sol, si♭ , fa1 )=(1, m3, P5, m7, P11)。m3+M3+m3+dim5。 純正律では 1:6/5:3/2:9/5:8/3。 Rm7(11) 。 • 短七九十一の和音(minor seven nine eleventh chord): (do, mi♭ , sol, si♭ , re1 , fa1 )=(1, m3, P5, m7, M9, P11)。 m3+M3+m3+M3+m3。 純正律では 1:6/5:3/2:9/5:9/4:8/3。 Rm7(9,11) 。 • 長六九の和音(major six nineth chord): (do, mi, sol, la, re1 )=(1, M3, P5, M6, M9)。M3+m3+M2+P4。 純正律では 1:5/4:3/2:5/3:9/4。 RM6(9) 。R6(9) 、R6 /9 。 • 短六九の和音(minor six nineth chord): (do, ♭ mi, sol, la, re1 )=(1, m3, P5, M6, M9)。m3+M3+M2+P4。 純正律では 1:6/5:3/2:5/3:9/4。 Rm6(9) 。 七の和音の拡張和音は多いため、ここにまとめる。また、C を基音とした 音譜を図 8.13 に示しておこう。 8.4 拡張和音 65 図 8.13 拡張和音 (七の和音系、基音 C) • 七九の和音(seven nineth chord): (do, mi, sol, si♭ , re1 )=(1, M3, P5, m7, M9)。M3+m3+m3+M3。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:9/4。 厳密には RMm7(5)(9) 。R7(9) 。以下同様の略。 • 七変九の和音(seven flat nineth chord): (do, mi, sol, si♭ , re♭1 )=(1, M3, P5, m7, m9)。M3+m3+m3+m3。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:54/25。 R7(♭9) 。 • 七嬰九の和音(seven sharp nineth chord): (do, mi, sol, si♭ , re♯1 )=(1, M3, P5, m7, aug9)。 M3+m3+m3+aug3。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:225/96。 R7(♯9) 。 • 七十一の和音(seven eleventh chord): (do, mi, sol, si♭ , fa1 )=(1, M3, P5, m7, P11)。M3+m3+m3+dim5。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:8/3。 R7(11) 。 • 七嬰十一の和音(seven sharp eleventh chord): (do, mi, sol, si♭ , fa♯1 )=(1, M3, P5, m7, aug11)。M3+m3+m3+P5。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:45/16。 R7(♯11) 。 • 七十三の和音(seven thirteenth chord): (do, mi, sol, si♭ , la1 )=(1, M3, P5, m7, M13)。M3+m3+m3+m7。 第8章 66 和音 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:15/4。 R7(13) 。 • 七変十三の和音(seven flat thirteenth chord): (do, mi, sol, si♭ , la♭1 )=(1, M3, P5, m7, m13)。M3+m3+m3+M7。 純正律では 1:5/4:3/2:9/5:10/3。 R7(♭13) 。 re1 , fa1 , la1 および re1 , fa♯1 , la1 が頻出するが、これらの組み合せは II1 m および II1 M の和音でもある。つまり、7 の和音の上に短三和音および長三 和音を積んだことになる。 もう一つ、面白い考察をしておこう。それは根音の高調波という概念であ る。根音の整数倍の音は音色を変えるだけで、一つの音に聞こえる。今まで は、2 倍 (1 oct)、3 倍 (1 oct+P5)、4 倍 (2 oct)、5 倍 (2 oct+M3)、6 倍 (2 oct+P5) までを扱ってきた。これを延長したもののうち、7 倍、9 倍、11 倍、13 倍を検討してみよう。以下、根音との差がいずれも 2 oct 以上あるの で、2 oct 削って議論する。7 倍は 969 cent なので do–si♭ の作る m7 よりや や短い。9 倍は 1 oct+204 cent なので、do–re1 の作る 1 oct+M2 よりやや 長い (実は do–1 re1 の関係)。11 倍は 1 oct+551 cent なので 1 oct+aug4 よ りやや短い do–fa♯1 の関係。また 13 倍は 1 oct+841 cent なので 1 oct+m6 よりやや長い do–la♭1 の関係。ということで、si♭ 、re1 、fa♯1 、la♭1 となる。 和音の下に根音以外の基音 (ベース音) を付けたものをオンコード(on chord)という。先に転回和音で示したのと同様に、和音/基音という記載 法をする。この際、基音が和音の一部だったのが、前述の転回和音であっ たのであるが、基音は必ずしも和音の一部である必要はない。また、複雑 な構成の和音を基音と単純な和音に分けるという記載法もある。例えば Am7(9) →CM7/A とできる。 8.4 拡張和音 67 図 8.14 図 8.15 ペダル音 基音クリシェ 例えば図 8.14 に示す C→F/C→G/C のように、基音をずっと鳴らしな がら和音進行させるときには、基音をペダル音(pedal tone)という。 あるいは、例えば図 8.15 に示す CM7→Em/B→Em/A のように、基音 を徐々に下げていく基音クリシェ(base tone cliche)もある。これらはい ずれも、上に載っている和音にない基音を使っている。 68 第9章 和音進行 9.1 旋律進行 曲の中で音や和音をどのような順に並べていくかを進行(chord pro- gression)という。単音を旋律として並べる方法を旋律進行(melodic progression)という。また、進行を組み合せ、曲の最後にまで至る並べ方を終 止法(cadence)という。単音の並びによる終止法を旋律終止法(melodic cadence)という。当然のことながら旋律進行と深い関係を持っている。 旋律進行(melodic progression)の例として進行感の強い順に並べてみ よう。 • 4 度上行 (強進行(stong progression)) • 2 度上行・下行 • 3 度下行 • 4 度下行 • 3 度上行 これらの転回進行も同程度の進行感を与える。 また、進行には、いずれも安定から緊張(tension)へ移動し、再び弛緩 (release)して安定に至るというパターンを繰り返すことで達成されるもの 9.2 全音階三和音による進行と主要三和音 69 が多い。旋律進行で強い安定感への移動を与えるものとして有名なものは、 不安定な導音(leading tone)vii から安定な主音(tonic, keynote)i への 2 度の上行である。しかも導音が主音の半音下である必要がある。多くの曲で は、最後は主音で終わるため、これは旋律終止法(melodic cadence)とし てもしばしば用いられる。長音階ではこれは si→do であり、自動的に満さ れるが、自然短音階では sol→la と全音の間隔であるため、sol を半音上げる 必要がある。このために考えられたのが、和声短音階や旋律短音階である。 次に強い安定感を与えるのが、iv→iii への 2 度の下行 (半音) である。稀で はあるが、この進行で iii を終止音とする終止法もある。 9.2 全音階三和音による進行と主要三和音 曲における和音の並べ方を和音進行(harmonic progression)という。ま た、和音による終止法を和音終止法(harmonic cadence)という。これらは 当然のことながら深い関係を持っている。 長音階の全音階三和音の楽譜を改めて図 9.1 に示す。このうち長三和音 である I (C)、IV (F)、V (G) を特に主要三和音(primary triads)と呼ぶ。 それ以外の短三和音である IIm (Dm)、IIIm (Em)、VI (Am)、VII (Bm) は副三和音(secondary triads)である。 図 9.1 長音階の全音階三和音の楽譜 長三和音は、かってすべての和音のうちでもっとも調和がとれていると いうことで、I を主和音(tonic chord)T、IV を下属和音(subdominant chord)S、V を属和音(dominant chord)D と呼んで、和音進行上の役割 が研究された。その結果、T はもっとも安定な和音であり、他の二つへ移動 第 9 章 和音進行 70 が可能であり、旋律の最初や最後に用いられる。D はもっとも緊張が高く、 緊張を柔らげるべく T へ移動し、IV はその間ぐらいの緊張があり、V にも I にも移動可能とされた。このような緊張(tension)から弛緩(release)へ 至る安定感が和音進行を決定するというもので、これら移動をまとめたもの を図 9.2 に示す。この結果、T–S–D–T や T–S–T–S–D–T など、多くの和 音終止法が理解可能となる。なお、同図の各箱の下段には副三和音を記載し たが、これは上段の和音と共通な音が多く、代理和音と呼ばれる。代理和音 についてはもっと多くの種類があり、後述する。 D V VIIm T [Major] I IIIm, IVm 図 9.2 S IV IIm 三和音進行 (上段は主要三和音、下段は副三和音による代理和音) 四和音などより複雑な和音が使われるようになった現在、もう少し合理的 な説明が可能となった。まず、三和音 V を四和音に拡張した V7 の方が、よ り緊張感が高い。V7 が何故緊張感が高いかというと、それは図 9.3 に示す ように、si と fa の音程が dim5 という不協和音になっているからである。そ のため、この音程を構成する二つの音は半音ずつ狭まって、I 系の和音を構 成している安定な M3 に移動することで安定化するのである。旋律進行のと ころで述べた si から do、fa から mi への半音進行を同時進行させたもので、 dim5→M3 への移動となる。これを属主移動(dominant to tonic motion) という。日本では、しばしば属移動(dominant motion)という。終止法で は、最後の和音は I であるのが望ましいとされているため、属主移動は終止 の最後に用いることにより和音終止法(harmonic cadence)にもなり、属主 9.2 全音階三和音による進行と主要三和音 71 終止法(dominant to tonic cadence)、もしくは単に属終止法(dominant cadence)ともいう。 図 9.3 属和音から主和音へ D–T V7 の「fa」と I の「mi」および「sol」を下方に転回すると、aug4→m6 で あり、aug4 の二音が半音ずつ拡がることで m6 になり、やはり安定感が得ら れる。aug4 の「fa」から「si」までは、全音 3 個の間隔であるため、三全音 (tritone)と呼ばれる。dim5 もしばしば三全音と呼ばれる。dim5 の代わり に「fa」を持たない三和音 V も属和音であるが、やや弱い安定化となる。三 和音 I の代わりに、四和音である I7 や I6 も考えられるが、I7 は内部に三全 音を含むため、新たな緊張を作り出してしまう。また、IM7 は「si」を含む ため、完全な終了感が得にくく、最終には使われない。このため、同図に示 した I6 がよく使われる。 なお、この根音の移動が完全 4 度の強進行であることも重要な要因となっ ている。I 系 (I、IM7 、I6 ) から V7 への進行は、緊張が増す効果はあるもの の特に問題はない。 図 9.4 下属和音から属和音へ S–D 最後に下属和音の第二属和音を見てみよう。IV に対する第二属和音は 図 9.5 に見られるように、I7 という T に近い和音である。したがって、I7 から F 系の和音に移動すると、緊張感が減少する。しかし、そもそも I7 は 三全音を有しており、安定性を目指す主和音としてはやや不適である。ここ 第 9 章 和音進行 72 ではむしろ、I や I6 から IV 系への移動を論じる方がよいだろう。この根音 の移動は強進行であり、やはり、安定な移動である。さらに、IV が IIm7 と の類似性から軽い緊張を持つと考えられていることから、安定和音から軽い 緊張に向うと理解されるのである。 逆の進行である IV 系から I 系の進行は、本来あまり緊張状態でないはず の C へ行くため、やや緊張の開放される進行である。しかし、下降 4 度で あるため、それほど高頻度では現われない。 図 9.5 主和音から下属和音へ T–S まとめてみると、T、D、S の進行については次のようにまとめられる。 • 全音階四和音には RM7 、RmM7 、R7 の三種類があるが、R7 となるの は V7 だけである。 • V7 だけが三全音を内蔵しており、緊張感が特に高い。 • V7 からは T にしか行けない。 • 全音階三和音は全音階四和音の持つこれらの性格をやや弱めた形で有 している。 これらの結果、図 9.2 に示すような遷移図が得られるのである。 以上の議論から、ほぼすべての全音階和音が T、D、S、SM と類似性が高 いことがわかる。説明の一部は次節にも示すが、その結果を図 9.6 に示して おく。 9.3 全音階和音による代理和音 長音階 全音階四和音 T IM I 自然短音階 全音階四和音 和声短音階 全音階四和音 (S) 7 6 IIm 7 IIm 6 T (SM) Im7 IIm7(♭5) T (SM) ImM 73 7 IIm 7(♭5) (T) IIIm S 7 IV ♭ D IVM7 SM D IIIM7 IVm7 Vm7 ♭ IVm6 SM ♭ V IIIM 7(♯5) VIm 7 IVm 全音階四和音 (S) ImM7 IIm7 Im6 IIm6 ♭ IIIM7(♯5) (SM) (SM) ♭ VIM7 7 ♭ V VIM ♭ VII7 VI6 (SM) IVm T VIIm7(♭5) ♭ ♭ D 6 旋律短音階 (上行) (D) 7 6 (T) III6 (T) 7 VI 7 (D) VIIdim7 6 S D (T) (D) IV7 V7 VIm7(♭5) VIIm7(♭5) 図 9.6 全音階和音の類似性 9.3 全音階和音による代理和音 さて、主要三和音以外の和音で、これらの代わりに用いることのできる和 音を、代理和音(substitute chord)という。 その議論を始める前に関係調というものを理解してほしい。関係調(re- lated key)とは、対象としている調に特に近い関係にある調で、近親調 (related key)ともいい、次のようなものがある。平行調(relative key)と は、同じ調号を持つ長調と短調の関係である。例えばハ長調とイ短調は互い に平行調であり、IM と VIm の関係である。同主調(parallel key)あるい は同名調(parallel key)とは同じ主音を持つ長調と短調同士を指す。例え ば、ハ長調とハ短調は互いに同主調であり、IM と Im の関係である。英語名 とその邦訳がやや混乱しているので、注意してほしい。さらに、完全 5 度上 の調号を持つ調 (平行調を含む) である属調(dominant key)で、一般に調 号にシャープが一つ増えるかフラットが一つ減る調。さらに、完全 5 度下の 調号を持つ調 (平行調を含む) である下属調(sub-dominant key)で、一般 に調号にフラットが一つ増えるかシャープが一つ減る調。 第 9 章 和音進行 74 それでは、全音階和音から代理和音を探そう。図 9.7 に見られるように、 全音階和音 CM7 の二つ右の Em7 とは三音が重なっているため、代理和音 として使うことができる。このルールにしたがって、全音階和音を左右二音 ずつずらして並べていったものを図 9.8 に示す。ただし、属和音 D につい ては、(5, 7, 2, 4) のうち、三全音の 7 と 4 は外せないので、3 度下の IIIm7 は使わない。同様に平行調として、図 8.10 に示した自然短音階とその左右 二つずらしたものも代理和音として使える。なお、例えば IIm7 は 2 音上の IVM7 として使われ、それが T なため、T の代理として使われ、D の代理と しては使われなくなってしまったため、2 音下の和音は括弧を付けた。 図 9.7 転回による CM7 の代理和音 (Am7 は CM7 の平行調でもある) 長音階 T (S) (T) S D (T) (D) 四和音 IM7 IIm7 IIIm7 IVM7 V7 VIm7 VIIm7(♭5) 3 度上 IIIm7 IVM7 (V7 ) (VIm7 ) VIIm7(♭5) 3 度下 7 VIm 自然短音階 T 同主調 Im 2 音上 ♭ 2 音下 ♭ 図 9.8 (VIIm 7(♭5) ) IM (SM) 7 IIm 7 IVm 7 ♭ IIIM VIM 7(♭5) VII 7 7 7 IIm (T) ♭ IIIM (Vm ) Im IM7 (IIm7 ) 7 (IVM7 ) V7 7 ♭ (IIIm ) SM 7 7 7 7 D 7 (T) IVm Vm ♭ ♭ ( VIM7 ) IIm 7(♭5) 7 ( VII ) ( ♭ IIIM7 ) VIM Im (SM) 7 7 7 (IVm ) ♭ VII7 IIm7(♭5) (Vm7 ) 2 音違いの全音階四和音による代理和音 (三和音の場合はこれか ら 7 と M を消せばよい) 同図の面白いところは、逆に和音名が与えられており、それが代理和音の 可能性が高い場合、どの和音の代理和音かを探す表にもなっていることであ る。例えば、VIm が何の代理和音かというと、VIm7 の下を見て、IM7 か (IVM7 ) とあるので、T の代理和音の可能性が高いということがわかるので 9.4 非全音階和音による代理和音 75 ある。 9.4 非全音階和音による代理和音 まず関係調のうち、同主調の主和音は代理和音となる。図 9.9 に見られる ように、1、5 度音が共通だからである。 図 9.9 同主調による代理和音 調の章の第 9.4 節に示した五度圏を見てみよう。主音 C を中心に周辺の 音を見てみよう。まず C を含め左右 3 音を見ると、S (SM)、T、D の根音 が並んでいる。また、C の真下は平行調の根音 A であるので、その系列の 和音は C 系の和音の代理として使える。 さらに、この図から、裏和音(sub-chord)と呼ばれる和音を見つけるこ ともできる。特に、V7 や IV7 に対して使われる。例えば調号数 1 の G を見 ると、その真下の調号数 -5 のところに D♭ がある。このとき、G7 の裏和音 として D♭ 7 が定義され、それが代理和音として使われるのである。 五度圏の図ではよくわからないが、図 9.10 で C♭ が B に等しいことに注 意して見てみると、元コードと裏コードには二つの共通音がある。それが、 減 5 度という属和音にとって重要な音程を作っているのである。それ故、裏 和音は代理和音として使われるのである。 音度で現わすと、V7 の代わりに ♭ II7 が、IV7 の代わりに ♭ I7 が使えるこ とになる。 第 9 章 和音進行 76 図 9.10 裏和音による代理和音 こうした知識を基に、よく使われる T、S、D の同族の和音、および代理 和音を図 9.11 に示す。その他には今迄の話では説明できないものも入って いるが、図 9.12 に見られるように、共通音がいかに多いか、あとは聞いて みて進行をがスムーズなものが選ばれる。 分類 基本和音 I (T) 7 IM , IM 2 音下 (平行調) 平行調の 2 音下 裏和音 その他 6 ,I ,I 7 V (D) IV (S) 7 7(9) 7 VIIm 7(♭5) V ,V Im, Im7 同主調 2 音上 7(9) ♯ IVM , IV , IV 7 IVm7 , IVm6 IVm, IVm7 IIIm, IIIm VIm, VIm IVm (SM) 6 7 7 VIm, VIm7 IIm, IIm ♭ 7 VIM7 , ♭ VI7 IIm7(♭5) IVm7(♭5) ♭ II7 VIIdim7 VII7 , ♯ IVm7(♭5) 図 9.11 よく使われる代理和音 ♭ VII7 , ♭ IIM7 9.5 和音終止法 77 図 9.12 代理和音の楽譜 (濃い音符は基本和音との共通音) 9.5 和音終止法 和音進行であるが、主和音 T、属和音 S、下属和音 D として議論しよう。 まず、終了は T、開始も T が多い。さらに、非常に多い進行は T→S、T→D、 S→D、D→T などである。次に多い進行は S→T であり、D→S は少い。ま た、近親の長/短調では互いに代理和音となりうる。図 9.13 に、長調およ び短調の T、S、D に属する各和音と代理和音および、その間の移動の起き 易さを示す。 第 9 章 和音進行 78 D V, V7 series VIIm7(♭5) T [Major] SD I series IIIm7, VIm7 IV series VIm7, IIm7 T SD VIm series IM7, IVM7 IIm series IVM7, VIIm7(♭5) [minor] D III, III7 series V7 (♯ V7(♭5) ) 図 9.13 和音進行 (各箱の上段は T、S、D の各和音、下段はそれぞれの 代理和音。二重線は近親長/短調で互いに代理和音となれる。太矢印は高 頻度で起きる移動、細矢印は稀な移動。) また、下属和音 S である IVM7 の代理和音 IIm7 は属和音 V7 は、図 9.14 に示すように、二音を共通して持っており、実は V7 (9, 11) の一部を構成して いるため、移動が特に安定である。さらに、根音が re→sol と強進行となっ ているため、IVM7 →V7 の移動よりも安定であり、特に二五移動(two-five motion)と呼ばれる。これには短音階の移動もある。 図 9.14 二五移動 (左:長音階、右:短音階) これら進行の組み合せて得られる終止形は無限にあるが、若干の例を上げ 9.5 和音終止法 79 ておこう。最後は T、それも I 系の和音で終わることが多いが、i を根音と しない I の代理和音で終わる場合、完全に終った感じが弱く、続いていく雰 囲気が残る。これを偽終止(suspended cadence)といい、大小節終了時な どに使われる。 • –D–T ∥ ◦ –V7–I6 ∥ ◦ –V7–IIIm7 | (偽終止) ◦ –V7–VIm7 | (偽終止) • –S–D–T ∥ ◦ –IVm–V7–I ∥ ◦ –IVm6–V7–I ∥ ◦ –IIm–V7–I ∥ ◦ –IIm7–V7–I ∥ ◦ –IIm7(♭5) –V7–I ∥ • T–S–D–T ∥ ◦ I–IV–V–I ∥ ◦ VIm–IV–V–I ∥ ◦ I–IV–V–IIIm | (偽終止) • –S–T ∥ • –S–S–T ∥ ◦ –IV–IVm–I ∥ (下属短和音 IV) • T–S–D–T–S–D–T ∥ • T–T–S–D :∥ (循環和音) ◦ I–VIm7–IIm7–V7 :∥ (1-6-2-5 の循環和音) ◦ I–VI7–IIm7–V7 :∥ ◦ I–IIIm–IV–V7 :∥ ◦ IIIm–VIm–IIm–V7 :∥ ◦ VIm–I–IIm–IIIm :∥ 第 9 章 和音進行 80 ◦ VI–I–II–V7 :∥ • T–T–S–D–T :∥ (3-6-2-5-1 の和音) ◦ IIIm–VIm–IIm–V7–I ◦ IIIm–VIm7–IIm–V7–I ◦ IIIm–♭ III7–IIm–♭ II7–I ◦ IIIm–♭ IIIdim–♭ II7–I • S–D–T–T :∥ ◦ IIm7–V7–I–VIm7 :∥ (2-5-1-6 の循環和音。1-6-2-5 の逆循環和音) ◦ IV–V7–IIIm7–VIm7 :∥ (サビなどで使われる) • T–S–T–T | S–S–T–T | D–S–T–D :∥ (ブルース) ◦ I7–IV7–I7–I7 | IV7–IV7–I7–I7 | V7–IV7–I7–V7 :∥ • T–SM–D–D :∥ (短音階の終止形の例) ◦ VIm–VII–III–V7 :∥ こうした大きな進行に対し、より細い進行がいくつかある。まず、図 9.15 に示す全音階平行移動(diatone parallel motion)と呼ばれるものがある。 これは三和音でも四和音でも、全音階を順に上下することで達成される。い うまでもないが、この図の七音を除けば、三和音の全音階進行となる。 • I–IIm–IIIm–IV. . . IV–IIIm–IIm–I • IM7–IIm7–IIIm7–IVM7. . . IVM7–IIIm7–IIm7–IM7 図 9.15 全音階平行移動の例 和音の進行の際、間に入れて進行を滑らかにする和音を経過和音(passing chord)という。 9.5 和音終止法 81 • 変化和音(altered chord):前の和音の一部を変えた和音で繋ぐ。 ◦ I–IV に対し、I–Iaug–IV ◦ II–IIaug–V7 ◦ IV–IVaug–IIm ◦ V7–Vaug7–I ◦ I–I7(♭5) –IV ◦ IIm–IIm(♭5) –V7 ◦ IIm–IIm(♭5) –♭ II–I ◦ V7–V7(♭5) –I • 平行和音(parallel chord):後続の和音と同型和音で繋ぐ。 ◦ IIm7–IIIm7 を IIm7–♯ IIm7–IIIm7 ◦ IIm–♯ IV7–V7 ◦ IV–♯ IV7–V7 ◦ IVm–Vm–VIm • 経過減和音(passing diminished chord):長二度離れている二つの 和音間を間の減三和音で繋ぐ。 ◦ I–♯ Idim–IIm ◦ II–♯ IIdim–IIIm ◦ IV–♯ IVdim–Vm ◦ V–♯ Vdim–VIm ◦ VI–♯ VIdim–VII(♭5) ◦ VII(♭5) –♭ VIIdim–VIm ◦ VIm–♭ VIdim–V ◦ V–♭ Vdim–IV ◦ IIIm–♭ IIIdim–IIm ◦ IIm–♭ II–I 82 索引 ■ A A minor key(イ短調) . . . . . . . . . 12, 46 absolute consonant interval(絶対協和音 程) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 accidental(変化記号) . . . . . . . . . . . . . . . 5 additional chord(アドコード) . . . . . 63 additional sixth chord(アド六コード) . 61 altered chord(変化和音) . . . . . . . . . . 81 augmented, aug, +(増) . . . . . . . 15, 53 augumented seventh chord(増七の和音) 61 augumented triad(増三和音) . . . . . . 57 ■ B B-flat(変ロ) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 base tone cliche(基音クリシェ) . . . . 67 beat(唸り) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 ■ C C major key(ハ長調) . . . . . . . . . 12, 42 C minor key(ハ短調) . . . . . . . . . . . . . 12 cadence(終止法) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68 cent(セント) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 chord(和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1, 20 chord degree(和音の音度) . . . . . 55, 59 chord name(和音名) . . . . . . . . . . . . . . 57 chord progression(進行) . . . . . . . . . . 68 circle of fifth(五度圏) . . . . . . . . . . . . . 50 common fundamental frequency(共通基 本波周波数) . . . . . . . . . . . . . . . 20 consonance(調和) . . . . . . . . . . . . . . . . 22 ■ D degree(度数) . . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 52 derived tone(派生音) . . . . . . . . . . . . 4, 5 diatone parallel motion(全音階平行移 動) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 80 diatonic chord(全音階和音) 54, 55, 59 diatonic scale(全音階) . . . . . . . . 54, 55 diminished seventh chord(減七の和音) 61 diminished sixth chord(減六の和音) 62 diminished triad(減三和音) . . . . . . . 57 diminished, dim, −(減) . . . . . . . 15, 53 dominant(属音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 dominant cadence(属終止法) . . . . . . 71 dominant chord(属和音) . . . . . . . . . . 69 dominant key(属調) . . . . . . . . . . 42, 73 dominant motion(属移動) . . . . . . . . 70 dominant seventh chord(属七の和音) . 60 dominant to tonic cadence(属主終止法) 71 dominant to tonic motion(属主移動) . 70 dominant triad(属三和音) . . . . . . . . 32 doubly augmented(重増) . . . . . 15, 53 doubly diminished(重減) . . . . . 15, 53 dyad(二和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . 52, 54 ■ E enharmonic(異名同音) . . . . . . . . . . . . . 6 equal temperament scale(平均律音階) 18 ■ F F major key(ヘ長調) . . . . . . . . . . 12, 45 F-sharp(嬰ヘ) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 Fechner’s law(フェヒナーの法則) . . . 3 fixed-do system(固定ド唱法) . . . . . . 13 four note chord → tetrad . . . . . . . . . . . 59 frequency(周波数) . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 83 fundamental frequency(基本周波数) 1 fundamental pitch(基音) . . . . . . . . . . 1 fundamental wave(基本波) . . . . . . . . . 1 ■ G G major key(ト長調) . . . . . . . . . 12, 44 ■ H half tone(半音) . . . . . . . . . . . . . . . 17, 18 half-diminished seventh chord(半減七の 和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60 harmonic cadence(和音終止法) 69, 70 harmonic minor scale(和声短音階) 11, 34 harmonic progression(和音進行) . . 69 harmonic tone(倍音) . . . . . . . . . . . . . . 1 harmonic wave(高調波) . . . . . . . . . . . . 1 ■ I imperfect consonant interval(不完全協 和音程) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 interval(音程) . . . . . . . . . . . . . . 3, 15, 52 inversion chord(転回和音) . . . . . . . . 58 inversion interval(転回音程) 16, 24, 54 ■ J just temperament scale(純正律音階) . 33, 49 ■ K key(調) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12, 42 Kleisma(クライスマ (独)) . . . . . . . . . 49 ■ L leading seventh chord(導七の和音) leading tone(導音) . . . . . . . . . . . . 11, long half tone(長半音) . . . . . . . . . . . . long whole tone(長全音) . . . . . . 27, 61 69 26 33 ■ M M3→major third . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 M6→major sixth . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 major diminished seventh chord(長減七 の和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61 major flat five triad(長減 5 三和音) 57 major scale(長音階) . . . . . . . 10, 11, 33 major seven nineth chord(長七九の和 音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63 major seven sharp eleventh chord(長七 嬰十一の和音) . . . . . . . . . . . . . . 63 major seventh chord(長七の和音) . 60 major sharp five triad(長増 5 三和音) 57 major six nineth chord(長六九の和音) 64 major sixth chord(長六の和音) . . . . 61 major sixth, M6(長 6 度) . . . . . 31, 54 major third, M3(長 3 度) . . . . . 30, 54 major triad(長三和音) . . . . . . . . 31, 57 major, M(長) . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 mediant(中音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 melodic cadence(旋律終止法) . . 68, 69 melodic minor scale(旋律短音階) . 11, 34 melodic progression(旋律進行) . . . . 68 middle A(中央 A) . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 middle A(中央イ) . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 middle C(中央 C) . . . . . . . . . . . . . . . 7, 9 middle C(中央ハ) . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 minor diminished seventh chord(短減七 の和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60 minor flat five triad(短減 5 三和音) 57 minor major seventh(短長七の和音) 61 minor scale(短音階) . . . . . . . . . . 10, 34 minor seven eleventh chord(短七十一の 和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64 minor seven nine eleventh chord(短七九 十一の和音) . . . . . . . . . . . . . . . 64 minor seven nineth chord(短七九の和 音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64 minor seventh chord(短七の和音) . 60 minor six nineth chord(短六九の和音) 64 minor sixth chord(短六の和音) . . . . 62 minor sixth, m6(短 6 度) . . . . . . . . . 31 minor third, m3(短 3 度) . . . . . . . . . 31 minor triad(短三和音) . . . . . . . . 31, 57 minor, m(短) . . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 modulation(転調) . . . . . . . . . . . . . . . . 43 movable-do system(移動ド唱法) . . . 13 ■ N natural minor scale(自然短音階) . . . . . 10–12, 34 natural tone(幹音) . . . . . . . . . . . . . . 4, 5 note name(音名) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 索引 84 note singing method(音名唱法) . . . 13 ■ O octave(オクターブ) . . . . . . . . . . . 3, 4, 6 omit(オミット) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63 on chord(オンコード) . . . . . . . . . . . . . 66 ottava alta(オッターバ・アルタ) . . . 10 ottava bassa(オッターバ・バッサ) . 10 ■ P P1→perfect unison . . . . . . . . . . . . . . . . 54 P4→perfect fourth . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 P5→perfect fifth . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 P8→perfect octave . . . . . . . . . . . . . . . . 54 parallel chord(平行和音) . . . . . . . . . . 81 parallel key(同主調) . . . . . . . . . . . . . . 73 parallel key(同名調) . . . . . . . . . . . . . . 73 passing chord(経過和音) . . . . . . . . . . 80 passing diminished chord(経過減和音) 81 pedal tone(ペダル音) . . . . . . . . . . . . . 67 perfect consonant interval(完全協和音 程) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 perfect fifth, P5(完全 5 度) . . . . 24, 54 perfect fourth, P4(完全 4 度) . . 24, 54 perfect octave, P8(完全 8 度) . . . . . 54 perfect unison, P1(完全 1 度) . . . . . 54 perfect, P(完全) . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 primary triads(主要三和音) . . . . . . . 69 Pythagorean comma(ピタゴラスコンマ) 27 Pythagorean scale(ピタゴラス音階) . . 24, 26 seven flat nineth chord(七変九の和音) 65 seven flat thirteenth chord(七変十三の 和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 66 seven nineth chord(七九の和音) . . . 65 seven sharp eleventh chord(七嬰十一の 和音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 seven sharp nineth chord(七嬰九の和音) 65 seven thirteenth chord(七十三の和音) 65 seventh chord(七の和音) . . . . . . . . . . 60 seventh tetrad, seventh four note chord (七の四和音) . . . . . . . . . . . . . . . 60 short half tone(短半音) . . . 26, 27, 33 short whole tone(短全音) . . . . . . . . . 33 Skisma(スキスマ (独)) . . . . . . . . . . . . 49 solmization(階名唱法) . . . . . . . . . . . . 13 stong progression(強進行) . . . . . . . . 68 sub-chord(裏和音) . . . . . . . . . . . . . . . . 75 sub-dominant key(下属調) 43, 45, 73 sub-dominant triad(下属三和音) . . 32 subdominant(下属音) . . . . . . . . . . . . 11 subdominant chord(下属和音) . . . . 69 submediant(下中音) . . . . . . . . . . . . . . 11 substitute chord(代理和音) . . . . . . . 73 supertonic(上主音) . . . . . . . . . . . . . . . 11 suspended cadence(偽終止) . . . . . . . 79 suspended four seventh chord(サス 4 セ ブンの和音) . . . . . . . . . . . . . . . 61 suspended four triad(サス 4 和音) . 58 syllable name(階名) . . . . . . . . . . . . . . 12 syntonic comma(シントニックコンマ) 31 ■ R range(音域) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 related key(近親調) . . . . . . . 43, 49, 73 related key(関係調) . . . . . . . . . . . . . . 73 relative key(平行調) . . . . . . . . . . . . . . 73 release(弛緩) . . . . . . . . . . . . . . . . . 68, 70 root(根音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55 ■ S scale(音階) . . . . . . . . . . . . . . . . 1, 10, scale degree(音度) . . . . . . . . . . . . . . . . scale degree name(音度名) . . . . . . . . secondary triads(副三和音) . . . . . . . seven eleventh chord(七十一の和音) 17 10 11 69 65 ■ T tension(緊張) . . . . . . . . . . . . . . . . . 68, tension chord(拡張和音) . . . . . . . . . . tension note(拡張音) . . . . . . . . . . . . . tetrad, four note chord(四和音) . . . three note chord→triad . . . . . . . . . . . . tone(音色) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1, tonic chord(主和音) . . . . . . . . . . . . . . tonic, keynote(主音) . . . . . . 11, 42, transposition(移調) . . . . . . . . . . . 24, triad, three note chord(三和音) 31, tritone(三全音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . two-five motion(二五移動) . . . . . . . . 70 62 62 59 55 20 69 69 42 55 71 78 85 ■ U unison(同音) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 ■ W whole tone(全音) . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 wolf fifth(ウルフ 5 度) . . . . . . . . . . . . 27 wolf note(ウルフ音) . . . . . . . . . . . . . . 21 ■ あ アドコード (additional chord) . . . . . . . 63 アド六コード(additional sixth chord) . 61 イ短調(A minor key) . . . . . . . . . 12, 46 移調(transposition) . . . . . . . . . . . 24, 42 移動ド唱法(movable-do system) . . . 13 異名同音(enharmonic) . . . . . . . . . . . . . 6 唸り(beat) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 裏和音(sub-chord) . . . . . . . . . . . . . . . . 75 ウルフ音(wolf note) . . . . . . . . . . . . . . 21 ウルフ 5 度(wolf fifth) . . . . . . . . . . . . 27 嬰ヘ(F-sharp) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 オクターブ(octave) . . . . . . . . . . . 3, 4, 6 オッターバ・アルタ (ottava alta) . . . . 10 オッターバ・バッサ (ottava bassa) . . . 10 オミット (omit) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63 音域(range) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 音階(scale) . . . . . . . . . . . . . . . . 1, 10, 17 オンコード (on chord) . . . . . . . . . . . . . . 66 音程(interval) . . . . . . . . . . . . . . 3, 15, 52 音度(scale degree) . . . . . . . . . . . . . . . . 10 音度名(scale degree name) . . . . . . . . 11 音名(note name) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 音名唱法(note singing method) . . . 13 ■ か 階名(syllable name) . . . . . . . . . . . . . . 12 階名唱法(solmization) . . . . . . . . . . . . 13 拡張音(tension note) . . . . . . . . . . . . . 62 拡張和音(tension chord) . . . . . . . . . . 62 下属音(subdominant) . . . . . . . . . . . . 11 下属三和音(sub-dominant triad) . . 32 下属調(sub-dominant key) 43, 45, 73 下属和音(subdominant chord) . . . . 69 下中音(submediant) . . . . . . . . . . . . . . 11 幹音(natural tone) . . . . . . . . . . . . . . 4, 5 関係調(related key) . . . . . . . . . . . . . . 73 完全(perfect, P) . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 完全 1 度(perfect unison, P1) . . . . . 54 完全協和音程(perfect consonant interval) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 完全 5 度(perfect fifth, P5) . . . . 24, 54 完全 8 度(perfect octave, P8) . . . . . 54 完全 4 度(perfect fourth, P4) . . 24, 54 基音(fundamental pitch) . . . . . . . . . . 1 基音クリシェ(base tone cliche) . . . . 67 偽終止(suspended cadence) . . . . . . . 79 基本周波数(fundamental frequency) 1 基本波(fundamental wave) . . . . . . . . . 1 強進行(stong progression) . . . . . . . . 68 共通基本波周波数(common fundamental frequency) . . . . . . . . . . . . . . . . 20 近親調(related key) . . . . . . . 43, 49, 73 緊張(tension) . . . . . . . . . . . . . . . . . 68, 70 クライスマ (独)(Kleisma) . . . . . . . . . 49 経過減和音(passing diminished chord) 81 経過和音(passing chord) . . . . . . . . . . 80 減(diminished, dim, −) . . . . . . . 15, 53 減三和音(diminished triad) . . . . . . . 57 減七の和音(diminished seventh chord) 61 減六の和音(diminished sixth chord) 62 高調波(harmonic wave) . . . . . . . . . . . . 1 固定ド唱法(fixed-do system) . . . . . . 13 五度圏(circle of fifth) . . . . . . . . . . . . . 50 根音(root) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55 ■ さ サス 4 セブンの和音(suspended four seventh chord) . . . . . . . . . . . . 61 サス 4 和音(suspended four triad) . 58 三全音(tritone) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 71 三和音(triad, three note chord) 31, 55 弛緩(release) . . . . . . . . . . . . . . . . . 68, 70 自然短音階(natural minor scale) . . . . . 10–12, 34 七嬰九の和音(seven sharp nineth chord) 65 七嬰十一の和音(seven sharp eleventh chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 七九の和音(seven nineth chord) . . . 65 七十一の和音(seven eleventh chord) 65 七十三の和音(seven thirteenth chord) 65 七の和音(seventh chord) . . . . . . . . . . 60 索引 86 七変九の和音(seven flat nineth chord) 65 七変十三の和音(seven flat thirteenth chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 66 重減(doubly diminished) . . . . . 15, 53 終止法(cadence) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68 重増(doubly augmented) . . . . . 15, 53 周波数(frequency) . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 主音(tonic, keynote) . . . . . . 11, 42, 69 主要三和音(primary triads) . . . . . . . 69 主和音(tonic chord) . . . . . . . . . . . . . . 69 純正律音階(just temperament scale) . 33, 49 上主音(supertonic) . . . . . . . . . . . . . . . 11 進行(chord progression) . . . . . . . . . . 68 シントニックコンマ(syntonic comma) 31 スキスマ (独)(Skisma) . . . . . . . . . . . . 49 絶対協和音程(absolute consonant interval) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 全音(whole tone) . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 全音階(diatonic scale) . . . . . . . . 54, 55 全音階平行移動(diatone parallel motion) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 80 全音階和音(diatonic chord) 54, 55, 59 セント(cent) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 旋律終止法(melodic cadence) . . 68, 69 旋律進行(melodic progression) . . . . 68 旋律短音階(melodic minor scale) . 11, 34 増(augmented, aug, +) . . . . . . . 15, 53 増三和音(augumented triad) . . . . . . 57 増七の和音(augumented seventh chord) 61 属移動(dominant motion) . . . . . . . . 70 属音(dominant) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 属三和音(dominant triad) . . . . . . . . 32 属七の和音(dominant seventh chord) . 60 属主移動(dominant to tonic motion) . 70 属終止法(dominant cadence) . . . . . . 71 属主終止法(dominant to tonic cadence) 71 属調(dominant key) . . . . . . . . . . 42, 73 属和音(dominant chord) . . . . . . . . . . 69 ■ た 代理和音(substitute chord) . . . . . . . 73 短(minor, m) . . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 短音階(minor scale) . . . . . . . . . . 10, 34 短減 5 三和音(minor flat five triad) 57 短減七の和音(minor diminished seventh chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60 短 3 度(minor third, m3) . . . . . . . . . 31 短三和音(minor triad) . . . . . . . . 31, 57 短七九十一の和音(minor seven nine eleventh chord) . . . . . . . . . . . 64 短七九の和音(minor seven nineth chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64 短七十一の和音(minor seven eleventh chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64 短七の和音(minor seventh chord) . 60 短全音(short whole tone) . . . . . . . . . 33 短長七の和音(minor major seventh) 61 短半音(short half tone) . . . 26, 27, 33 短六九の和音(minor six nineth chord) 64 短 6 度(minor sixth, m6) . . . . . . . . . 31 短六の和音(minor sixth chord) . . . . 62 中央 A(middle A) . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 中央 C(middle C) . . . . . . . . . . . . . . . 7, 9 中央イ(middle A) . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 中央ハ(middle C) . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 中音(mediant) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 調(key) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12, 42 長(major, M) . . . . . . . . . . . . . . . . 15, 53 長音階(major scale) . . . . . . . 10, 11, 33 長減 5 三和音(major flat five triad) 57 長減七の和音(major diminished seventh chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61 長 3 度(major third, M3) . . . . . 30, 54 長三和音(major triad) . . . . . . . . 31, 57 長七嬰十一の和音(major seven sharp eleventh chord) . . . . . . . . . . . 63 長七九の和音(major seven nineth chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63 長七の和音(major seventh chord) . 60 長全音(long whole tone) . . . . . . 27, 33 長増 5 三和音(major sharp five triad) 57 長半音(long half tone) . . . . . . . . . . . . 26 長六九の和音(major six nineth chord) 64 長 6 度(major sixth, M6) . . . . . 31, 54 87 長六の和音(major sixth chord) . . . . 調和(consonance) . . . . . . . . . . . . . . . . 転回音程(inversion interval) 16, 24, 転回和音(inversion chord) . . . . . . . . 転調(modulation) . . . . . . . . . . . . . . . . 同音(unison) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 導音(leading tone) . . . . . . . . . . . . 11, 導七の和音(leading seventh chord) 同主調(parallel key) . . . . . . . . . . . . . . 同名調(parallel key) . . . . . . . . . . . . . . 度数(degree) . . . . . . . . . . . . . . . . . 15, ト長調(G major key) . . . . . . . . . 12, 61 22 54 58 43 15 69 61 73 73 52 44 ■ な 七の四和音(seventh tetrad, seventh four note chord) . . . . . . . . . . . . . . . 60 二五移動(two-five motion) . . . . . . . . 78 二和音(dyad) . . . . . . . . . . . . . . . . . 52, 54 音色(tone) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1, 20 ■ は 倍音(harmonic tone) . . . . . . . . . . . . . . 1 派生音(derived tone) . . . . . . . . . . . . 4, 5 ハ短調(C minor key) . . . . . . . . . . . . . 12 ハ長調(C major key) . . . . . . . . . 12, 42 半音(half tone) . . . . . . . . . . . . . . . 17, 18 半減七の和音(half-diminished seventh chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60 ピタゴラス音階(Pythagorean scale) . . 24, 26 ピタゴラスコンマ(Pythagorean comma) 27 フェヒナーの法則(Fechner’s law) . . . 3 不完全協和音程(imperfect consonant interval) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 副三和音(secondary triads) . . . . . . . 69 平均律音階(equal temperament scale) 18 平行調(relative key) . . . . . . . . . . . . . . 73 平行和音(parallel chord) . . . . . . . . . . 81 ペダル音(pedal tone) . . . . . . . . . . . . . 67 ヘ長調(F major key) . . . . . . . . . . 12, 45 変化記号(accidental) . . . . . . . . . . . . . . . 5 変化和音(altered chord) . . . . . . . . . . 81 変ロ(B-flat) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 ■ や 四和音(tetrad, four note chord) . . . 59 ■ わ 和音(chord) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1, 20 和音終止法(harmonic cadence) 69, 70 和音進行(harmonic progression) . . 69 和音の音度(chord degree) . . . . . 55, 59 和音名(chord name) . . . . . . . . . . . . . . 57 和声短音階(harmonic minor scale) 11, 34
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