Technical Note No.1 タンパク質内部配列解析 タンパク質のアミノ酸配列は、プロテインシークエンサー(エドマン法)を用いて数 pmol の 量でN末端側から順次決定することができるが、N末端α- アミノ基がなんらかの修飾を受けて いる場合には(真核生物の 50 %以上のタンパク質)、N末端からの配列をシークエンサーで直 接的に決定することができない.このような場合には、タンパク質を断片化後にその内部配列を 決定する方法を用いることで微量の試料であってもそのアミノ酸配列を確実に決定することが可 能である.タンパク質の断片化処理にはいくつかの方法が知られているが 1) 、これまでの種々の 検討から、電気泳動で分離したゲル内のタンパク質を直接酵素消化する方法(In gel digestion2) ) が断片化ペプチドの回収率などの点において、より優れた方法であると判断した.我々は、これ までにゲル内消化法に技術的改良を加え、種々の状態のタンパク質試料(50∼100 pmol)を電 気泳動で分離し、その内部配列を決定することに成功している.その1例として、ラットの腹水 がん細胞より単離したミトコンドリア 3) の 100 kDa タンパク質の分析結果を以下に紹介する. ▼ がん細胞ミトコンドリアの 100 kDa タンパク質の解析例 Step1 Step2 In gel digestion (酵素消化) SDS-PAGE リジルエンドペプチダーゼ kDa 100 kDa タンパク質 97.2 66.4 Step3 ペプチドマッピング 45.0 A 210 ピーク ピーク 29.0 2 1 20.1 14.3 12.5% ゲル ミトコンドリア アプロ分子量マーカー 限 定 リ ジ ル エ ン ド ペ プ チ ダ ー ゼ 分 解 物 の 逆 相 HPLC による分離 カラム:TSKgel ODS-120T, 溶媒:TFA/Acetonitrile 系, グラジェント溶出 流速 :1.0 ml/min, 検出波長:210 nm Step4 ペプチドの N 末端アミノ酸配列分析 プロテインシークエンサー:SHIMADZU PSQ-1 HP G1005A 結果 ピーク 1 : S-S-G-V-E-G-R-D-V-V-D-L-I-R-K ピーク 2 : L-D-E-S-F-L-V-S-W-T-K 1 ホモロジーサーチ 2 種のペプチドは Hexokinase TypeⅡ(rat) の内部配列と完全一致。 Technical Note No.1 <解析方法と結果> Step 1 SDS-PAGE 電気泳動用試料バッファーにて調製したミトコンドリア試料(2.3 mg タンパク質量、5 ml) を SDS-PAGE(12.5 % ゲル、6枚)に供し、CBB 染色したゲルから目的の 100 kDa バンド部分を切り出した.その染色強度から 100 kDa タンパク質は約 100 pmol 量であ ると概算した. Step 2 In gel digestion そのゲル片にリジルエンドペプチダーゼを含むトリス緩衝液を加え、35℃で一晩消化した. Step 3 ペ プ チ ド マ ッ ピ ン グ その反応液を逆相 HPLC に供して、断片化ペプチドを分離した.図は波長 210 nm に てモニターしたクロマトグラムを示す. Step 4 N 末 端 ア ミ ノ 酸 配 列 分 析 得られたクロマトグラムから適当なピークを選択し、そのフラクションをアミノ酸配列 分析に供した.ピーク 1、ピーク 2 をそれぞれ SHIMADZU PSQ-1 および HP G1005A に て分析した結果、N末端が Ser で始まる 15 残基のペプチド (初期収量 Ser = 8 pmol) とN末端が Leu で始まる 11 残基のペプチド(初期収量 Leu = 46 pmol)の配列をそれ ぞれ決定した. ホ モ ロ ジ ー サ ー チ ピーク 1 とピーク 2 の分析で確定した配列をタンパク質データベースでホモロジーサー チした結果、両ペプチドはラットⅡ型ヘキソキナーゼの内部配列と完全に一致すること がわかった.このことからがん細胞ミトコンドリアの 100 kDa タンパク質はⅡ型ヘキ ソキナーゼ 4) であると結論した. 我々は、これまでに In gel digestion(ゲル内消化法)によるタンパク質内部配列解析 から数多くのタンパク質のアミノ酸配列を決定してきた.この方法では、決定した配列 がデータベースにない新規配列であった場合に、目的タンパク質の cDNA 単離用プロー ブ作成などのために複数箇所の内部配列を決定することができるという利点がある.さ らに、電気泳動にてタンパク質を分離してから分析するために、精製が困難であったり 純度の低い試料であっても、目的タンパク質を電気泳動で分離することができればその 内部アミノ酸配列を決定することができる点でも優れている. 近年、微量タンパク質の内部配列解析の必要性はますます高まっており、分析法の高 感度化が強く求められている.現在、この内部配列解析法をさらに改良して、試料中に 含まれる 10 pmol の目的タンパク質の内部配列を決定できるシステムを確立しているが、 さらなる微量タンパク質の解析システムも開発中である. (佐川) <参考文献> 1) Coligan, J. E. (1997) In Current Protocols in Protein Science (Coligan, J. E., Dunn, B. M., Ploegh, H. L., Speicher, D. W., and Wingfield, P. T., ed.) pp. 11. 0. 1 – 11. 0. 2. John Wiley & Sons, New York. 2) Rosenfeld, J., Capdevielle, J., Guillemot, J. C., and Ferrara, P. (1992) Anal. Biochem. 203, 173-179. 3) Shinohara, Y., Sagawa, I., Ichihara, J., Yamamoto, K., Terao, K., and Terada, H. (1997) Biochim. Biophys. Acta 1319, 319-330. 4) Shinohara, Y., Ichihara, J., and Terada, H. (1991) FEBS Lett. 291, 55-57. 2
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