第 66 号 発行日:H24. 9. 20 こんにちは!栄養科です。 最近、「胃瘻」の問題がマスコミにも取り上げられ、広く知られる言葉となってきました。 某国会議員が胃瘻の患者様がたくさんいらっしゃる現場を見て「エイリアンのようだ」という 発言をされたことも記憶に新しいです。真意は不明であり、決して悪気があったわけではない ことを願っておりますが、胃瘻の適応や何が問題なのかについては、一度よく考えて整理する べきだと思われます。胃瘻を中心とした人工的水分・栄養補給法導入については、日本老年医 学会の「高齢者の意思決定プロセスに関するガイドライン」も今年の 6 月に発行されました。 特に医療従事者の方はご一読いただければと思います。 さて先日参加してきました「PEG・在宅医療 研究会学術集会」で、草津総合病院の伊藤明彦 先生より『造設施設に求められる PEG の適応 判断とは?~「PEG にして良かった」の一言を いただくために・・・~』という、非常に興味深い お話をいただきましたので、ご紹介致します。 早速その内容ですが、右図は概念図です。横軸 は生存期間、縦軸は QOL(生活の質)を表しま す。胃瘻(PEG)を造設しなければ A のライン のような経過で死亡され、胃瘻を造設すれば B のラインのように傾きが緩やかとなり生存期間 が延びることが予想されます。QOL の横のライ ンは、経口摂取ができるか、意思疎通ができるかといった QOL が保持できているレベルと仮 定しています。QOL を保持しながら生活できる期間は、胃瘻を造設することによって図中に 赤で示したラインの期間分長くなる可能性があります。つまり、胃瘻を造設することによって、 良い時間をより長く過ごすことができるかもしれないのです。しかし問題はその後です。グレ ーで示した三角形の期間は、QOL が保てていない状態で生存している期間です。例を挙げる と寝たきり状態で、意思疎通もできないまま過ごされている期間です。その期間も、胃瘻を造 設した方が長くなることが予想されるのです。造設する医師は家族に、この期間がいずれやっ てくることを事前に説明しておくべきであると言われていました。前述の「エイリアン」発言 の某国会議員は、おそらくこの期間(B2~B3)にあたる患者様をご覧になられたのでしょう。 しかしそれらの患者様の中には、胃瘻を造設したおかげで、良い時間をより長く過ごせた過去 がある人もたくさんいらっしゃるのです。B2 以降だけを見て、その胃瘻は不適切だと思わせ るような発言をするべきではないと思われます。 医療従事者(や場合によっては家族) に求められることは、胃瘻造設をするに しても、しないにしても、有意義な時間 をもっていただくための努力を怠らな いということです。左図はその概念図で す。図中の青矢印で示すように、努力に よって QOL の境目をできるだけ下げる ことができるかもしれません。その努力 とは、食べる機能を維持するためのリハ ビリであったり、嚥下食の調整であった り、食べる以外での楽しみを見いだす手 助けであったり、求められることは違っ てきます。そして、いよいよ水分や栄養 を受け付けなった時には、その時の身体が求めるだけの水分や栄養に絞って、穏やかな最期を 迎えていただくこと(図に示す赤破線の矢印)も考慮するべきではないかと、おっしゃってい ました。 筆者の中にあった胃瘻に関するモヤモヤが少し解消されたような、素晴らしいご講演でした。 まだまだお伝えしたいことはたくさんありますので、ご興味のある方は、熱いトークが繰り広 げられることをご覚悟の上で筆者にお声かけください。 ※図は「NPO 法人 PEG ドクターズネットワーク発行 PDN 通信 第 40 号」 より一部改変して使用させて頂きました。 今回の執筆は北野旭美でした。 引き続き栄養科をよろしくお願いします。
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