犬のリンパ腫 - 埼玉動物医療センター

15/09/28
講演内容
動物看護師のための腫瘍各論
n  用語の説明
『犬のリンパ腫』
n  犬のリンパ腫の概要
n  リンパ腫の分類
n  発生部位別分類
n  高悪性度リンパ腫と低悪性度リンパ腫
n  Tリンパ球性リンパ腫とBリンパ球性リンパ腫
n  リンパ腫各論
〜獣医さんより詳しくなっちゃいましょう〜
埼玉動物医療センター 腫瘍科 林宝謙治
完治と寛解の違い
n  完治
n  全てのがん細胞が根絶されている事
腫瘍学用語の説明
n  完全寛解
n  詳細な検査を行っても病変が検出できない
状態
n  がん細胞が1g以下の状態(1g=10億個)
寛解の種類(WHO)
奏効率(反応率)とは
n  完全寛解(CR):測定可能な病変なし
n  部分寛解(PR):測定可能な病変が50%以上縮小
n  維持病変(SD):50%未満の縮小から25%未満の増大
n  進行性病変(PD):病変が25%以上増大(進行)
n 奏効率
n  完全緩解と部分寛解を加えたもの
n  病変が50%以上縮小した症例の割合
n  維持病変は含めない
25%以上増大 > 維持病変 > 50%以上縮小 > 病変なし PD
SD
PR CR
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生存期間の中央値
median survival time(MST)
n  中央生存期間とも言う リンパ腫
n  リンパ腫の犬が5頭いたとしてその犬が同じ治療を受けて生存期間
リンパ腫
がそれぞれ
悪性リンパ腫
3日,5日,6日,7日,60日 だったとすると
リンパ肉腫
n  生存期間の中央値は両端から数えて丁度真ん中の6日
n  ちなみに生存期間の平均値は(3+5+6+7+60)÷5=16.2日
LSA
n  平均値は極端に生存期間の異なる犬が1頭でもいると大きく変化
n  平均値は生存期間の評価には適していないと考えられている
※この言葉は医学用語であり,患者様への説明には用いない
好発犬種とリスクの少ない犬種
(欧米)
概要
n  好発犬種
n  犬で最も認められる悪性腫瘍
n  ボクサー,ブルマスティフ,バセットハウンド,ブルドック
n  腫瘍全体の7-24% セントバーナード,スコティッシュテリア,エアデールテリア
n  リスクの少ない犬種
n  造血系悪性腫瘍の83%
n  ダックスフンド(日本以外),ポメラニアン
n  年齢中央値:6-9歳
n  性差なし
※日本では若齢M.ダックスフンドに消化器型リンパ腫が多い
日本では…
埼玉動物医療センターに来院した
リンパ腫の犬腫の内訳
M・ダックス 16%(12)
G・レトリーバー 40%(10)
G・レトリーバー 14%(10)
その他 Mix 11%(8)
W・コーギー 12%(3)
シーズー 12%(3)
Mix 12%(3)
1999 - 2007 N=25
W・コーギー 10%(7)
柴 5%(4)
Y・テリア 5%(4)
2007 - 2015 何故うちの子が?:リンパ腫の原因
n  除草剤が関与
n  工業地域や化学物質(ペンキ等)
n  強力な磁場の影響
N=74
G・レトーリーバーはリンパ腫の要注意犬種!
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リンパ腫の原因:免疫抑制
n  リンパ腫の犬に免疫抑制はよく認められる
n  免疫系の変化によりリンパ腫発症のリスクが増加
n  シクロスポリンの治療後にリンパ腫発症例が報告
リンパ腫の分類
n  免疫抑制療法でリンパ腫発症の可能性
リンパ腫の分類
n  解剖学的分類:発生部位
n  組織学的悪性度による分類:腫瘍細胞の大きさ
n  低悪性度(高分化型,Low Grade)
n  中間悪性度(中分化型,Intermediate Grade)
n  高悪性度(低分化型,未分化型,High Grade)
解剖学的部位による分類
n  多中心型 80%
n  縦隔型(胸腔型) 約5%
n  消化器型 5 - 7%
n  皮膚型 n  免疫学的な分類
n  Bリンパ球の腫瘍
n  Tリンパ球の腫瘍
n  どちらにも分類できない腫瘍(NON-T,NON-B)
n  その他:中枢神経系,骨,睾丸,膀胱,心臓,鼻腔
悪性度分類
低悪性度
低悪性度 と高悪性度 の違い
(細胞診)
高悪性度
低悪性度
高悪性度
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悪性度による
進行速度,生存期間の違い
リンパ腫の悪性度の比率
高悪性度
低悪性度
病期進行
急速
緩慢
低悪性度
治療反応
高い
低い
中間悪性度
生存期間
短い
長い
高悪性度
埼玉AMC
(1999-2015)
6% (6/99)
欧米の報告
5~10%
5% (5/99) 20~30%
89% (88/99) 60~70%
Carter,Can J Vet Res,1986
Appelbaum,Hematol Onco ,1984
Taske,Exp Hematol,1994
K Rimpo VCS Proc 2008
リンパ腫の分類
(悪性度とT,B分類)
B細胞型 高悪性度
B細胞型 低悪性度
T細胞型 高悪性度
T細胞型 低悪性度
発生部位によるリンパ腫の各論
※発生部位位によって高悪性度しかないリンパ腫もある
※中間悪性度の多くは,高悪性度と同様の治療を行う?
多中心型リンパ腫
体表リンパ節
n 犬のリンパ腫の大半(80%)を占める
n 抗がん治療に最も反応する腫瘍
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体表リンパ節腫大の鑑別診断
n 腫瘍性疾患
n  リンパ腫
n  リンパ性白血病
n  組織球性肉腫
n  様々な悪性腫瘍のリンパ節転移
体表リンパ節腫大の鑑別診断
n  非腫瘍性疾患
n  感染症
n  免疫介在性疾患
n  全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチなど
n  アレルギー性疾患
n  ノミアレルギー(特に猫)など
多中心型リンパ腫の臨床症状
診 断
n  リンパ節腫大,通常は痛み伴わない
n  その他は,無症状の事も多い
n  多くは細胞診で診断可能
n  下顎リンパ節は避ける
n  20-40%の症例に非特異的な症状
n  体重減少
n  無気力,元気,食欲低下
n  発熱
n  多飲多尿
n  腹囲膨満(肝脾腫大)
n  嘔吐,下痢
n  咳(肺浸潤) n  低悪性度リンパ腫は,リンパ節の切除生検
(病理組織検査)が必要
低悪性度 と高悪性度 の違い
(細胞診)
低悪性度 リンパ腫
高悪性度 リンパ腫
進行度の把握:ステージング
n  身体検査
n  CBC,血液化学検査
n  尿検査
n  胸部,腹部X線検査
n  超音波検査
n  肝臓,脾臓の細胞診
n  骨髄検査
n  T,B分類(PCR)
リンパ節の切除生検へ進む
確定診断
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進行度の把握:臨床ステージ(WHO)
ステージ I
: 単独のリンパ節,リンパ器官に限局
ステージ II
: 局所の複数のリンパ節の腫脹
リンパ腫のサブステージ(WHO)
サブステージ a :臨床徴候なし
サブステージ b :臨床徴候あり
ステージ III : 全身のリンパ節腫脹
ステージ IV : 肝臓・脾臓にリンパ腫が波及
※高カルシウム血症がある場合臨床徴候に関わらずサブステージ b
ステージ V : 末梢血や骨髄に腫瘍細胞が出現
リンパ腫がリンパ器官以外の臓器に波及
T,B分類:クローナリティー検査のイメージ
B
T
B
B
T
B
T
B
B
T
B
B
T
B
B
n  化学療法(抗がん治療)
B
B
B
B細胞性リンパ腫
反応性(感染,炎症)
T
T
T
T
T
T
T
T
T
多中心型リンパ腫の治療
n  悪性腫瘍の治療
T
n  外科手術
n  放射線療法
n  免疫療法
n  光線力学療法
n  温熱療法
n  栄養療法
T細胞性リンパ腫
高悪性度リンパ腫の治療で
用いられる代表的な抗がん剤 第1選択薬:CHOPベースプロトコール(L-CHOP)
(C): シクロホスファミド
高悪性度リンパ腫の治療で 用いられる代表的な抗がん剤 第2選択薬
アクチノマイシン-D
ダカルバジン
ミトキサントロン
イホスファミド
(P) : プレドニゾロン
クロラムブシル
シトシンアラビノサイト
(L) : L-アスパラギナーゼ
メトトレキセート
ロムスチン
(H) : ドキソルビシン(ハイドロキシダウノロビシン)
(O): ビンクリスチン(オンコビン)
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もし治療をしなかったら?
UW25プロトコール
1
n 無治療のリンパ腫の予後
n  ほとんどの犬が4-6週間後に死亡
L-アスパラギナーゼ
⚫
ビンクリスチン
⚫
2
3
5
6
7
8
⚫
10
⚫
⚫
11
13
15
17
19
⚫
⚫
21
⚫
⚫
⚫
⚫
⚫
⚫
ドキソルビシン
⚫
9
23
25
"
⚫
シクロフォスファミド
プレドニゾン
4
⚫
⚫
⚫
⚫
⚫
⚫
L-アスパラギナーゼ:400IU/kg SC
ビンクリスチン:0.7mg/m2 IV
シクロホスファミド:250mg/m2 IV
ドキソルビシン:30mg/m2
プレドニゾン:
2mg/kg PO SID × 7日→1.5mg/kg × 7日→1mg/kg × 7日→0.5mg/kg × 7日
高悪性度 多中心型リンパ腫
多剤併用プロトコールの治療成績
n  完全寛解率:80%以上
n  生存期間の中央値:1年
n  2年生存率:25%
n  完治率:?
※新たな治療法の開発で今後治療成績の向上が期待!
その他の化学療法
n  ドキソルビシン単剤
n  5回投与(30mg/m2 3週間毎)
n  完全寛解率 50 - 70%
n  生存期間の中央値 6 – 8 カ月
n  プレドニゾロン単独
n  経済的な事情などで化学療法が行えない場合の緩和治療
n  生存期間は約1 – 2 カ月(延命効果なし)
n  ※プレドニゾロンの単独治療を行うとその後の抗がん剤の効
果は低下する可能性あり!
低悪性度リンパ腫:病理組織所見
病理組織
細胞診
低悪性度 多中心型リンパ腫
⇨
⇩
リンパ節の構造の変化により診断!
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低悪性度 多中心型リンパ腫の治療
低悪性度 多中心型リンパ腫の
治療ガイドライン
n  リンパ節の腫脹によって臨床症状が発現している場合
n 症状の軽いものは無治療
(呼吸困難など) n  著しい臓器腫大が認められる場合 血球減少症が認められる場合 n クロラムブシル+プレドニゾロン
n  単クローン性高ガンマグロブリン血症が認められる場合 n メルファラン+プレドニゾロン
n  食欲低下・衰弱・体重減少などの全身症状が存在する時 辻本元(東大),高分化型リンパ腫治療のガイドライン,2008 低悪性度 多中心型リンパ腫の
治療成績
n  報告が少ない
n  東京大学の報告:16頭の犬
高悪性度 消化器型リンパ腫
n  生存期間の中央値:938日(約2年半)
n  治療途中で高悪性度リンパ腫を発症した犬が存在
高悪性度 消化器型リンパ腫
高悪性度 消化器型リンパ腫
n  慢性消化器症状
n  体重減少,無気力,元気,食欲低下,嘔吐,下痢
n  低タンパク血症 n  抗がん治療の成績(18頭の犬の研究)
n  B 細胞性が主体だが T 細胞性もある
n  反応率56%(CR 9頭,PR 1頭)
n  多剤併用プロトコール(VELCAP-SC)
n  寛解期間の中央値 86日
n  生存期間の中央値 77日
n  T細胞性とB細胞性との生存期間に有意差なし
Rassnick KM JVIM 2009
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M・ダックスフンドの
高悪性度 消化器型リンパ腫
2歳齢 雌 M・ダックス
n  若齢で発症するケースが多い(平均約3歳齢)
n  数日前に血便で近医を受診
n  原因はよくわかっていないが,長期生存例が多い
n  腹腔内腫瘤を指摘
n  抗がん剤の反応比較的良好
n  予後の悪いものもいるが理由は?
開腹所見
診断:高悪性度 リンパ腫
B細胞型
病理組織検査
治療と経過
4歳齢 雄 M・ダックス
n  術後化学療法を開始
n  ビンクリスチンが著効(完全寛解)
n  治療開始1年後に抗がん治療中止
n  治療中止後,約6ヵ月で再発
n  治療(ビンクリスチン)を再開
n 主訴
n  血便
n  しぶり
n  肛門周囲のしこり
n  2週後には再び完全寛解
n  現在,治療継続中(診断後約4年半)
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肛門部腫瘤細胞診
治療経過
n  抗がん治療開始(UW25)
n  完全寛解には至らないものの部分寛解の状態を維持
n  抗がん治療開始後して約1年半が経過しているが 全身状態は良好
高悪性度リンパ腫 B細胞型
低悪性度 消化器型リンパ腫
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低悪性度 消化器型リンパ腫
n  データが少ない
n  内視鏡の普及により診断される症例が増えてきている
縦隔型リンパ腫
高悪性度のみ?
n  リンパ球性腸炎との鑑別が難しい
n  治療は,クロラムブシル,プレドニゾロンなど
n  猫ほど治療反応性が良くない?
高悪性度 縦隔型リンパ腫
縦隔型リンパ腫 X線所見
n  体表リンパ節や肝・脾腫大を伴うものは多中心型に分類
n  高Ca血症を伴うことが多い
n  リンパ腫で高Ca血症を示した犬37頭中16頭(43%)が縦隔型
n  多飲・多尿 n  呼吸困難
n  T 細胞性が主体 血液化学検査
TP(g/dl)
Alb(g/dl)
Glb(g/dl)
ALT(U/l)
AST(U/l)
ALP(U/l)
Tcho(mg/dl)
抗がん治療後
6.4Glu(mg/dl)
3.3BUN(mg/dl)
3.1Cre(mg/dl)
58Ca(mg/dl)
37Na(mmol/l)
91K(mmol/l)
268Cl(mmol/l)
87.5
18.0
0.8
15.9
144.0
4.83
107.1
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皮膚型リンパ腫
n  初期はおそらく低悪性度のものが多い
皮膚型リンパ腫
n  皮膚病と間違われて診断が遅れる傾向あり
n  病期により低悪性度から高悪性度へ変化?
n  不明な点が多い
皮膚型リンパ腫
皮膚型リンパ腫
脳浸潤
n  分類(口腔粘膜も含む)
n  上皮向性(菌状息肉症):T 細胞性が主体
n  非上皮向性:B 細胞性が主体
肝臓・脾臓型リンパ腫
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肝臓・脾臓型リンパ腫
高悪性度 肝脾臓型リンパ腫
n  比較的まれ
n 肝臓:高悪性度のみ?
n 脾臓:高悪性度と低悪性度がある
n  肝臓の表面,脾臓,骨髄に浸潤
n  末梢リンパ節腫大無し
n  殆どが T 細胞性
n  抗がん剤への反応乏しい
脾臓の低悪性度(Indolent) リンパ腫
犬のリンパ腫のまとめ
n  Indolent=おとなしい,緩慢な
n  リンパ腫は抗がん剤に最も反応する腫瘍
n  脾臓に発生するリンパ腫には進行がゆっくりなも
n  脾臓摘出のみで長期生存が可能(約2年前後)
n  多中心型リンパ腫の完全寛解率は80%以上
n  生存期間の中央値1年,2年生存率25%
n  低悪性度リンパ腫は長期生存(無治療の事も)
n  化学療法の有効性は不明
n  その他の部位に発生するリンパ腫は予後が悪い
のがある
n  M・ダックスフンドの消化器型リンパ腫は 長生きす
る症例が比較的多い
n  脾臓のIndolent リンパ腫は脾摘のみで長期生存
Flood-Knapik et al. Vet and Comp Oncol 2012
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