Topics for this issue 1 多系統萎縮症の生命予後予測因子 Multiple system atrophy: prognostic indicators of survival Figueroa JJ, Singer W, Parsaik A, et al. Mov Disord 2014;29(9):1151-1157. Summary 千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 教授 桑原 聡 早期に発症する全般性自律神経障害が、多系統萎縮症(MSA)患者の生命予後不良を示す独立した危険因子である かどうかを検証するために、剖検で診断の確定したMSA 患者 49 名の診療録をレトロスペクティブに精査し、発症年齢、 性別、臨床型、運動機能障害、自律神経障害、および生存期間についての情報を収集した。生存期間の中央値は8.6 年(95% 信頼区間 6.7∼10.2 年)で、重度の全般性自律神経障害を示す臨床検査結果が早期に認められた患者 (CASS≧6)では、これがみられなかった患者よりも生存期間が短かった(中央値 5.7 年 vs 9.8 年、 =0.036) 。また、 膀胱カテーテルの早期留置を要した患者でも生存期間は短縮した(7.3 年 vs13.7 年、 =0.003) 。今回のデータから、 MSA 患者では病初期から発生する自律神経障害が生存期間を有意に短縮することが示された。 目的 結果 多 系 統 萎 縮 症(MSA)は自律 神 経 障 害を初 発 症 状と 患者群は男性 33 名、女性 16 名で、発症年齢の中央値 することが多いが、自律神経症状の程度と分布を定量的に は 56.1 歳(IQR[interquartile range]50.5 ∼ 60.9 歳)で 評価して予後を予測するようなシステムは開発されていない。 あった。臨 床 型はパーキンソニズム型(MSA-P)が 65% 筆者らは、早期に発症する全般性自律神経障害は MSA (32/49)で 小 脳 型(MSA-C)よりも多 かった。自律 神 経 患者の予後不良を示す独立した危険因子である、という 症状で発症した患者は全体の 50%(23/47)であった。 仮説を検証した。 発 症 年 齢 不 明 の 3 名(MSA-P 男 性、MSA-C 男 性、 方法 MSA-P 女性)を除く46 名で生存期間を算出した。KaplanMeier 生存解析では、生存期間の中央値は 8.6 年(95% 剖検で MSA の診断が確定した患者 49 名の診療録を 信 頼 区 間 6.7∼10.2 年)で、MSA-PとMSA-Cとで 生 存 レトロスペクティブに精査し、発症年齢、性別、臨床型、 期間に差はなかった。重度の全般性自律神経障害を示す 運動機能障害、自律神経障害、および生存期間について 臨床検査結果が早期に認められた患者(CASS≧6)では、 の情 報を収 集した。運 動 機 能 障 害は、歩 行 が 不 安 定 これ がみられなかった患 者よりも生 存 期 間 が 短 かった (転倒が頻回)になった時期または独歩不能(歩行補助具 (中央値 5.7 年 vs 9.8 年、p=0.036) 。また、膀胱カテーテル または介助が必要) となった時期、ならびに喘鳴の出現を の早期留置を要した患者でも生存期間は短縮した(7.3 年 もって評価した。自律神経障害は、起立性低血圧と神経 vs 13.7 年、p=0.003)。生存期間に影響を及ぼさなかった 因性膀胱について子細に定義し、それらの症状・徴候を 因子は、性別、歩行不安定、独歩不能、起立性低血圧の 診療録から抽出した。自律神経障害の客観的な指標としては、 出現、排尿困難、中等度から重度の無汗症であった。喘鳴 Autonomic Reflex Screen および Thermoregulatory Sweat の有無が確認できた患者は 6 名と少なく、喘鳴の有無による Testの結果を収集し、Composite Autonomic Severity Score 生存期間の比較は行えなかった。 (CASS) を用いてスコア化した。生存期間は発症から死亡 までの期間と定義した。 Cox 比例ハザードモデルによる生存時間解析(表)では、 生存期間短縮のハザード比が有意に高かった因子は、高齢 発 症(p=0.03) 、膀 胱カテーテルの早 期 留 置(p=0.06) 、 全 般 性自律 神 経 障 害を示す臨 床 検 査 結 果の早 期出現 2 Update on SCD (p=0.03)であった。発症年齢で調整後にも、膀胱カテー から発生することが明らかになった。また、自律神経障害と テルの早期留置(p=0.02) 、全般性自律神経障害を示す 高齢での発症は予後不良を示唆する因子であり、特に重度 臨床検査結果の早期出現(p=0.047)では生存期間短縮の の全般性自律神経障害が早期に生じると生存期間短縮の ハザード比が有意に高かった。生存期間に有意差が生じな リスクが 3 倍以上に上昇することが示された。自律神経障害 かった因 子は、Kaplan-Meier 生 存 解 析のそれと同 様で の重症度と分布の定量的評価法を適切に標準化できれば、 あった。 MSA の予後予測だけでなく、新規治療の臨床試験を計画 する上でも有用となるであろう。 結論 今回のデータから、MSA 患者では自律神経症状が病初期 表 MSA 患者の多様な臨床像と生存期間短縮の相対リスク ハザード比(HR) 変数 患者数 未調整HR (95%CI) p値 46 1.04(1.01‒1.08) 0.03a 男性 15 1.08(0.58‒2.10) 0.81 女性 31 1.0(reference) MSA-P 30 0.80(0.48‒1.69) MSA-C 16 1.0(reference) ≦1年 13 1.32(0.63‒2.73) >1年 18 1.0(reference) ≦1年 15 1.27(0.64‒2.45) >1年 22 1.0(reference) ≦3年 8 1.29(0.44‒3.95) >3年 7 1.0(reference) ≦3年 13 2.9(1.07‒9.18) >3年 8 1.0(reference) 発症年齢 調整HR (95%CI) p値 1.29(0.68‒2.56) 0.44 性別 1.0(reference) 臨床型 0.71 0.98(0.53‒1.88) 0.95 1.0(reference) 起立性低血圧発生までの期間 0.46 1.30(0.61‒2.70) 0.48 1.0(reference) 神経因性膀胱 0.49 1.21(0.61‒2.35) 0.58 1.0(reference) TST 40%以上の無汗症発生までの期間 0.64 1.08(0.27‒4.26) 0.90 1.0(reference) CASS 6点以上となるまでの期間 0.03a 2.8(1.01‒9.26) 0.047a 1.0(reference) 膀胱カテーテル留置までの期間 4.81(1.57‒16.25) 0.006a 4.42(1.29‒16.55) 0.02a ≦3年 8 >3年 14 1.0(reference) ≦3年 11 0.51(0.24‒1.10) >3年 24 1.0(reference) ≦3年 7 0.91(0.35‒2.08) >3年 21 1.0(reference) 1.0(reference) 転倒が頻回になるまでの期間 0.09 1.57(0.64‒3.57) 0.31 1.0(reference) 歩行補助具を要するまでの期間 0.83 0.74(0.27‒1.78) 0.52 1.0(reference) 統計学的に有意。 発症年齢は 49 名中 46 名の患者で収集した。起立性低血圧は、失神前状態/失神の既往があることとした。 CASS=Composite Autonomic Severity Score、MSA-P=パーキンソニズム型 MSA、MSA-C=小脳型 MSA、TST=Thermoregulatory Sweat Test a Update on SCD 3
© Copyright 2024 ExpyDoc