ディジタルラジオグラフィにおける 付加フィルタリングによる被ばく低減

ディジタルラジオグラフィにおける
付加フィルタリングによる被ばく低減
要旨
ディジタルラジオグラフィにおいて,Cu 付加フィルタを用いたときの被ばく線
量と画質の関係を信号対雑音比を用いて評価する.2013 年度の同様の研究に対
してファントム,撮影条件を再検討し,測定精度向上に努めた. 70 kV,80 kV
の 0.1 mm と 0.2 mm の Cu 付加と,70 kV,80 kV,90 kV,及び 100 kV の Cu 付
加なしで,骨とアクリル板を含んだ 20 cm 厚のアクリルファントムを,入射表
面線量(約 3 mGy)を同一にして撮影した.取得画像から,コントラストを考
慮した信号対雑音比(SNRC2)を算出した.SNRC2 が同一となる線量で人体ファント
ムとバーガーファントムを撮影し,画像を比較した.SNRC2 の結果から,70 kV
では 0.1 mm の Cu 付加により約 30 %,0.2 mm では約 40 %,80 kV では 0.1 mm
で約 25 %,0.2 mm で約 35 %の被ばく低減の可能性が示唆された.同一 SNRc2
の画像の視覚的印象はほぼ同等となった.
Ⅰ.緒言
ディジタルラジオグラフィ(digital radiography:DR)システムの普及に伴い,従来の増感紙-
フィルムシステムの時代よりも被ばく線量はやや増加傾向にある.また,Cu 付加フィルタ(Cu フ
ィルタ)を用いることで,画質を担保しつつ被ばく線量を低減できるという報告があるが,我が
国での認知度は低く,さらに最新の機器での検証報告はない.そこで本研究では,DR システムに
おいて、Cu フィルタを用いたときの被ばく線量と画質の関係をコントラストを考慮した信号対雑
音比を用いて評価した.
Ⅱ.使用機器
・ 間接変換型 flat panel detector (FPD)装置:AXIOM Luminos dRF (SIEMENS)
使用蛍光体: CsI
・ Cu フィルタ: 0.1 mm 厚,0.2 mm 厚(装置内蔵)
・ グリッド: 装置付属のグリッド(格子比 15:1,格子密度 80 本/cm,中間物質 Al)
・ アクリル板: 300 mm×300 mm,20 cm 厚
・ 電離箱線量計: MODEL 9010 (Radcal Corporation)
MODEL 20X6-6(Radcal Corporation)
・ 画像解析ソフト: ImageJ
・ バーガーファントム
・ 腹部ファントム
Ⅲ.方法
1. 対象条件
70 kV(Cu なし,0.1 mm 厚,0.2 mm 厚の Cu フィルタ),80 kV(Cu なし,0.1 mm 厚,0.2
mm 厚の Cu フィルタ),90 kV(Cu なし),100 kV(Cu なし)
2. 線質測定
焦点-線量計間距離は 100 cm とし,各対象条件における半価層を測定した.線質と照射野
から後方散乱係数を決定した.
3. 表面線量の測定
以下の式(1)を用い表面線量を算出した.
アクリル表面線量(mGy)=計測値(mR)×後方散乱係数× (65/95)2×8.77×10-3・・・
(1)
各条件で表面線量が約 3 mGy(日本診療放射線技師会ガイドラインの腹部における低減目
標値)となる mAs 値を決定した.腹部を想定し,20 cm のアクリルファントムを使用した.
4. コントラスト測定
20 cm のアクリルファントムの中央にアクリル板(2 cm×2 cm,厚さ 1 cm)と骨等価物質
(4 cm×4 cm,厚さ 1 cm)を配置し,各条件で撮影した.取得画像より,アクリル板の平均
値及び骨等価物質の平均値 MA,MB を測定した.また,それぞれの物質周辺の background の平
均値 BA,BB を測定し,下式(2)を用い,各条件におけるコントラストを算出した.
C = (B – M)/(B + M)・・・(2)
5. 粒状性(normalized noise power spectrum:NNPS)測定
各条件で撮影したアクリル板の平坦部分において,256 ×256 ピクセルの領域を 6 領域抽
出しそれぞれについて測定し平均した.測定方法は,「日本放射線技術会監修 標準ディジ
タル X 線画像計測」に準拠した.
6. 解像特性(modulation transfer function:MTF)測定
エッジ法(1 mm 厚,タングステン板使用)により「日本放射線技術会監修 標準ディジタ
ル X 線画像計測」に準拠し,測定した.
7. 算出した値より散乱線とコントラストを考慮した信号対雑音比(signal-to-noise ratio
including contrast factor: SNRC2)を下式(3)を用いて求めた.
SNRc 2 
MTF 2  C 2
・・・(3)
NNPS
また,SNRC2 の比の逆数で線量調節して撮影したときの NNPS を用いて,SNRC2 同一化における
SNRC2 を比較した.
8. バーガーファントム及び腹部ファントムの画像比較
バーガーファントムは,10cm 厚アクリルファントム 2 枚の間に挟んだ状態で撮影した.
(1) 同一表面線量での比較:基準線量(約 3 mGy)でバーガーファントム及び腹部ファントム
を撮影し,視覚的印象を比較した.
(2) 同一 SNRC2 での比較:SNRC2 の線量比で線量調節した条件でバーガーファントム及び腹部フ
ァントムを撮影し,視覚的印象を比較した.
Ⅳ.結果
1. 線質
線質測定の結果を Table 1 に示す.
70 kV,80 kV で Cu フィルタを使用した条件の実効エネルギーが 100 kV での実効エネルギ
ーよりも高くなった.
Table 1 線質測定結果
条件
半価層(mmAl)
実効エネルギー(keV)
管電圧
Cu フィルタ厚
なし
2.85
32.2
70 kV
0.1 mm
4.30
38.4
0.2 mm
5.11
41.8
なし
3.24
33.9
80 kV
0.1 mm
4.84
40.7
0.2 mm
5.23
42.3
90 kV
なし
3.61
35.4
100 kV
なし
4.03
37.2
2. コントラスト
アクリルと骨等価物質のコントラストの結果をそれぞれ Fig. 1,2 に示す.
管電圧を高くした場合,100kV で最大 4 割程度コントラストは低下したが,Cu フィルタを
しようした場合のコントラストの低下は 1 割程度であった.
Fig. 1 アクリルのコントラスト
Fig. 2 骨等価物質のコントラスト
3. 同一表面線量での SNRC2
アクリルコントラスト,骨コントラストを使用したそれぞれの SNRC2 の Fig. 3,4 に示す.
Cu フィルタの厚みが増すほど SNRC2 は上昇した.また,アクリルコントラストを使用した SNRC2
では,管電圧による変化は見られなかったが,骨コントラストを使用した場合では,管電圧
の上昇とともに SNRC2 が低下した。
Fig. 3 アクリルコントラストを使用した SNRC2
100kV Cu なし
90kV Cu なし
Fig. 4 骨コントラストを使用した SNRC2
4. SNRC2 の同一化
アクリルコントラスト,骨コントラストそれぞれを使用し、SNRC2 を同一化した結果を Fig.
5,6 に示す.それぞれの条件で,基準(70 kV,Cu なし)の SNRC2 とほぼ一致した.
Fig. 5 同一化した SNRC2(アクリルコントラスト使用)
Fig. 6 同一化した SNRC2(骨コントラスト使用)
5. バーガーファントムの結果
同一表面線量でのバーガーファントム画像を Fig. 7 に示す.Cu フィルタなしの場合より,用い
たときのノイズは低減した.また,SNRC2 を同一化した線量の画像を Fig.8 に示す.すべての条件
でノイズの視覚的印象はほぼ同等であった.
Fig. 7 同一表面線量
Fig. 8 同一 SNRC2
6. 腹部ファントムの画像
同一線量での腹部ファントムの画像を Fig.9 に示す.Cu フィルタなしの場合より,用いた
ときはノイズが低減した.また,SNRC2 を同一化した線量の画像を Fig. 10(アクリルコント
ラスト使用),Fig. 11(骨コントラスト使用)に示す.すべての条件でノイズの視覚的印象
はほぼ同等であった.
Ⅴ.考察
Cu フィルタの使用により,同一表面線量下での SNRC2 は向上した.これは実行エネルギーが高
くなり,ファントム透過後の線量が増加したからであると考えられる.SNRC2 の比で線量調節する
ことで,基準(70 kV,Cu フィルタなし)のときと画質が等しくなった.このことより,Cu フィ
ルタを用いることで,画質を担保しつつ被ばく線量を低減することが可能であると考えられる.
また,バーガーファントム及び腹部ファントム画像の視覚的印象は,SNRC2 の結果と矛盾しない
ものであった.
Fig.9 同一線量
Fig.10 同一 SNRC2 (アクリル C)
Fig.11 同一 SNRC2 (骨 C)
Ⅵ.結語
間接変換型 FPD 装置において,Cu フィルタを用いたときの被ばく線量と画質の関係を信号対雑
音比(SNRC2)を用いて評価した.画質を維持しつつ,70 kV では 0.1 mm の Cu 付加により約 30 %,
0.2 mm では約 40 %,80 kV では 0.1 mm で約 25 %,0.2 mm で約 35 %の被ばく低減の可能性が示唆
された.
Ⅶ.参考文献
[1]岸本健治,有賀英司,石垣陸太,他:ディジタル画像の被ばくを考慮した適正線量の研究,日
本放射線技術学会雑誌.67(11),1381-1397,2011
[2]CJ Martin,PhD,FIPEM,FioP,The importance of radiation quality for optimisation in
radiology,Biomed Imaging Intery J,2007;3(2).