108 大腿部四頭筋の筋厚と膝伸展筋力との関係について

第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
108
大腿部四頭筋の筋厚と膝伸展筋力との関係について
長尾 卓(ながお すぐる)1,2),矢野 正剛1),早瀬 正輝1),大垣 昌之3)
愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部 理学療法科1),神戸大学大学院 保健学研究科2),
愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部3)
キーワード
筋厚,下肢筋力,周径
【目的】
本研究の目的は若年男性を対象に膝蓋骨上縁より 10cm 部,大腿中央部,大腿外側中央部の筋厚,大腿周径を測
定し,膝伸展筋力との関連を検討することである.
【方法】
対象は健常成人男性 10 名とした.年齢は平均 21.8±3.1 歳,身長は平均 174.8±6.2(165∼186)cm,体重は平均
66.7±9.0(55∼85)kg,BMI は平均 21.7±1.9 であった.
方法は年齢などの個人情報を情報収集後,大腿周径,筋厚,膝伸展筋力を測定した.大腿周径は膝蓋骨上縁 10
cm 部,膝蓋骨上縁と上前腸骨棘を結ぶ線の中点の 2 ヶ所とし,背臥位膝関節伸展位にて直接皮膚上より測定し
た.筋厚は超音波画像診断装置(GE Healthcare 社製 LOGIQ eExpert)を用いて,右大腿四頭筋の筋厚を測定し
た.測定部位は膝蓋骨上縁 10cm 部,膝蓋骨上縁と上前腸骨棘を結んだ直線上の中点と大腿骨外側上顆と大転子を
結ぶ線の中点とした.測定には 8.0MHz の深面子を用いて,深触子を皮膚面に対して垂直に接触させたときの超音
波断層画像を記録した.その後,皮下脂肪下から大腿骨までの筋厚を計測した.膝伸展筋力は,ハンドヘルドダ
イナモメーター(アニマ社製 GT 300)を使用し,膝関節 90 度屈曲度座位として,3 回測定し最大値を採用した.
測定は右側のみ行い,膝関節裂隙からセンサーの中心までの距離を乗じ,体重で除した値を膝伸展トルク体重比
とした.
統計解析は膝伸展筋力と膝蓋骨上 10cm,大腿中央部の筋厚と大腿周径を Pearson の順位相関係数を用いて検
討し,危険率 5% 未満を有意水準とした.
【結果】
膝伸展筋力は 2.0±0.1Nm kg であった.大腿中央部,膝蓋骨上 10cm,大腿外側部の筋厚はそれぞれ,3.5±0.5
cm,2.1±0.3cm,4.3±0.4 であった.大腿中央部の筋厚において有意に強い相関を認めたが,その他は有意な相関
を認めなかった.大腿周径は膝蓋骨上 10cm,大腿中央部でそれぞれ 39.5±2.3cm,46.7+2.7cm であり,有意な相
"
!
関を認めなかった.
【考察】
膝関節伸展筋力を予測する因子としては,膝蓋骨 10cm 上での大腿前面筋厚の寄与率は低い(大渕ら 2009).ま
た,膝伸展筋力と大腿中央部での筋厚が相関する(金指ら 2014)と報告されている.今回の結果では,大腿中央
部の筋厚にのみ有意な相関を認め,先行研究と同様の結果を認めた.下肢周径の測定値は,必ずしも筋力を反映
するものとは限らず,大腿後面筋や皮下脂肪の影響を受けたと推測される.膝蓋骨上 10 cm の筋厚は大腿中央部
に比べて,筋厚が薄いため対象者の膝伸展筋力に反映されなかったと考えられる.大腿外側部の筋厚は有意な相
関を認めなかった.膝伸展筋力は膝関節屈曲 90 度座位で等尺性収縮であったため,外側広筋よりも大腿前面筋で
ある大腿直筋,中間広筋が強く影響したと考えられる.膝伸展筋力を予測する上で,下肢の形態測定は大腿周径
だけでなく,超音波画像診断装置を使用した方が有効性が高いことが示唆された.
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第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
109
片脚立位における支持側小趾外転筋の筋活動パターンの検討
中道 哲朗(なかみち てつろう)1,2,3),渡邊 裕文2),鈴木 俊明3)
柏友会楠葉病院 リハビリテーション科1),六地蔵総合病院 リハビリテーション部2),
関西医療大学大学院 保健医療学研究科3)
キーワード
小趾外転筋,筋電図,足底圧中心
【目的】
片脚立位は,浴槽へのまたぎ動作,階段昇降など,様々な日常生活場面で必要となるため日常生活を自立させ
るためには獲得する必要がある動作の一つである.片脚立位時の足部機能と姿勢制御の関係性についての報告は
多く認められるが,筋電図学的検討による報告は少ない.そこで本研究の目的は片脚立位時の足部周囲筋,なか
でも小趾外転筋の筋活動パターンに着目し筋電図を用いて検討することとした.
【方法】
まず被験者の利き脚(以下,支持側)を重心計のプレート上に置き立位姿勢をとらせた.運動課題は立位姿勢
を開始肢位とし,音刺激の合図と共に片脚立位となり,10 秒間保持することを 1 施行とした.運動課題は 1 施行
実施毎に時間を空け,各被験者につき 3 施行ずつ測定した.片脚立位時のアラインメントは挙上側股関節,膝関
節屈曲 60̊ とした.測定課題中,目視で確認できる程度の体幹,股関節の動揺が生じないようにし,両肩峰は水平
に保持させた.測定項目は支持側足部の COP と支持側小趾外転筋,長腓骨筋,足部内反筋群
(後脛骨筋・長母趾
屈筋・長趾屈筋)
,前脛骨筋の筋電図波形とした.分析方法は COP 軌跡の時間的変化と測定筋の筋活動パターン
を分析した.
【結果】
筋活動パターンは小趾外転筋,足部内反筋群および前脛骨筋の筋活動がほぼ同時に開始し,このとき COP は小
趾側方向に移動した.また小趾外転筋,足部内反筋群および前脛骨筋の筋活動を認める間,長腓骨筋の筋活動は
認められなかった.長腓骨筋の筋活動が開始すると同時に小趾外転筋,足部内反筋群および前脛骨筋の筋活動は
減少し,COP は母趾側方向に切り換わった.
【考察】
足部内反筋群,前脛骨筋は足部回外作用にて COP を小趾側方向に誘導したと考える.工藤は,小趾外転筋の腱
線維束の一部は第 5 中足骨粗面の近位部で足底から外側に向かい,第 5 中足骨粗面に回り込むように停止すると
報告し,小趾外転筋が第 5 中足骨の回外作用を有するとしている.本課題においても小趾外転筋は足部内反筋群,
前脛骨筋と共に COP を小趾側方向に誘導したと考えられる.また COP 小趾側から母趾側方向への切り換え前の
小趾外転筋の筋活動は,第 5 中足骨を近位に引き付け外側縦アーチの安定性向上に関与したと考えられる.この
とき,足部内反筋群と前脛骨筋は小趾側方向への COP の移動に伴い生じようとする下腿外側傾斜の制動に関与
したと考えられる.片脚立位時の足部周囲筋群の筋活動パターンは,COP 小趾側方向への誘導に小趾外転筋,足
部内反筋群,前脛骨筋,母趾側方向への誘導には長腓骨筋が関与することが重要であると考える.
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第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
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閉眼における足趾把持練習が立位バランス能力にもたらす影響について
金 明秀(きん みょんす)1),前田 あき子1),垣内 優芳2)
あさひ病院 リハビリ室1),西神戸医療センター リハビリテーション技術部2)
キーワード
閉眼,足趾把持練習,バランス能力
【目的】
転倒は高齢者に多発する老年症候群で,要支援・要介護の要因の一つである.高齢者の転倒の危険因子には足
趾や足底の機能低下があり,足趾把持能力の改善は立位バランスを向上させ,転倒予防の為に重要とされる.し
かし,足趾機能を高める足趾把持練習は通常開眼で実施するが,高齢者では若年者に比べ視力が低下している.
視覚情報を遮断した閉眼状態での足趾把持練習の効果を検証した報告は少ない.
本研究の目的は,閉眼における足趾把持練習が立位バランス能力にもたらす影響を明らかにすることである.
【方法】
対象は運動器疾患のない健常成人 12 名(男性 4 名,女性 8 名)とし,平均年齢は 26.3±5.4 歳,身長は 163.9±
9.4cm,体重は 56.9±12.2kg であった.足趾把持練習前に閉眼での Functional reach test(FRT)を 3 回測定し,
その後,ビー玉を用いて足趾把持練習を 1 分間実施した.1 分間の休息後に再度閉眼での FRT を 3 回測定した.
足趾把持練習は開眼(開眼群)と閉眼(閉眼群)の 2 条件を異なる日に実施し,各群の実施順序はランダムとし
た.FRT は治療前後において最も高い変化があった値を代表値として採用した.統計学的解析はシャピロ・ウィ
ルクの正規性検定後に行った.各群における治療前後の比較は対応のある t 検定,開眼治療前後差と閉眼治療前後
差の比較はウィルコクソン検定にて分析し,有意水準は 5% とした.
【結果】
開眼群の FRT は治療前 37.2±6.6cm,治療後 39.5±7.0cm で有意差が認められた(p<0.01)
.閉眼群は治療前
34.6±7.2cm,治療後 38.5±8.1cm で有意差が認められた
(p<0.01)
.開眼群の治療前後差は 2.3±1.4cm,閉眼群の
治療前後差は 4.0±2.7cm であり,両者間に有意差を認め(p<0.05)
,効果量も大(r=0.6)であった.
【考察】
本研究の結果から,足趾把持練習が FRT 等の平衡機能に与える影響を検討した先行研究と同様に,開眼だけで
なく閉眼での実施においても FRT に向上がみられた.足趾把持練習により足趾や足底の固有感覚が賦活され,姿
勢制御能力が向上したと考える.また,開眼・閉眼での治療前後差との比較では,開眼群に比べ閉眼群で治療前
後の変化が大きかった.このことから閉眼での実施は,立位バランス能力を効果的に改善させることができ,か
つ視力が低下した高齢者においても効果がある可能性が示唆された.
今回は閉眼での FRT をアウトカムとして評価したが,FRT のみでは転倒の予測は不十分であり,転倒予測の
感度を高めるために他の評価と組み合わせるべきとの報告もある.今後は実際の高齢者で他のバランス能力評価
法との関連も含めて,閉眼での足趾把持練習の効果を検証していく必要がある.
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第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
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精神的ストレス負荷による自律神経の継時的変化;ローレンツプロット解析
を用いて
中谷 友紀(なかたに ゆき)1,3),大松 聡子2,3),森岡 周3,4)
済生会奈良病院 リハビリテーション科1),村田病院 リハビリテーション部2),
畿央大学大学院 健康科学研究科 神経リハビリテーション研究室3),
畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター4)
キーワード
ローレンツプロット解析,精神的ストレス,自律神経
【目的】
うつ病をはじめとした精神疾患の患者数は近年大幅に増加し,2011 年で 320 万人を超えている.その大きな原
因としてストレスが関わっている.過度のストレスが長期間にわたって継続すると,自律神経系や内分泌系にも
変調を来すことが分かっていることから,ストレス解析の研究は多くされてきている.自律神経系による解析で
は心拍変動(以下 HRV)解析を多くされている.今回,HRV 解析において誤計測が少ないとされる幾何学的図形
解析手法に着目し, 代表的な手法であるローレンツプロット
(LP:Lorenz plot)解析の有効性を検証するために,
精神的ストレス負荷による自律神経の継時的変化について検討した.
【方法】
対象は健常成人 7 名(平均年齢 27 歳±1.2 歳,男性:6 名,女性 1 名)とした.心電図(ECG)計測には携帯型
心電図アンプ PolyamIIA(ニホンサンテク株式会社)を用いた.実験手順は,安静①→ストレス課題①→安静②
→ストレス課題②→安静③で実施し,各状態での ECG を計測した.精神的ストレス課題として内田クレペリン検
査を参考に計算課題を実施した.また,疲労尺度を作成し visual analogue scale(VAS)にて評価し,安静①と③
に測定した.統計解析は,VAS と LP 解析での中央値ともに一元配置分散分析を用いた.
LP とは,2 次元直行グラフ上に,心拍周期の揺らぎ状況を幾何学的に表現する方法である.具体的には,横軸
を n 拍目の R R 間隔,縦軸を n+1 拍目の R R 間隔としてグラフ上にプロットしたものである.副交感神経優位
な状態ではプロットの重心が右上に推移し,交感神経優位な状態では左下に推移しながら,各点のばらつきは小
!
!
さくなる.
【結果】
VAS は課題実施前(安静①)と比較し,課題実施後(安静③)は有意に上昇し(p<0.05)
,計算課題による疲
労度を捉えていた.また,課題実施前と比較し課題実施中は心拍数が増加していたことから,交感神経優位な状
態であったことが分かる.LP 解析での中央値は,課題実施前と比較し,課題実施中において有意に小さい値が認
められた
(p<0.05)
.R R 間隔の経時的変化は課題開始から終了にかけて徐々に減少する傾向を示した.しかし,
その傾向は個人差を認め,課題経過とともに R R 間隔の減少が軽減する,つまり,ストレス課題の後半において
ストレス反応が軽減する対象者も認めた.
!
!
【考察】
計算課題を連続して行うことにより,主観的に疲労度やストレス度が増加しただけでなく,LP 解析により自律
神経の変化が認められたことから客観的にも精神的ストレス負荷を与えることが評価された.また,課題中の R
R 間隔の経時的変化から,課題開始から終了において時間経過とともにストレスが増加したと考えられた.一方,
ストレス課題の後半においてストレス反応が軽減してくる対象者を認めたため,今後はストレス反応の個人特性
!
に関して検証していく必要性が考えられた.
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第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
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脳卒中片麻痺患者における歩行開始時の下肢の筋活動と足圧中心移動の検討
畑野 早妃子(はたの さきこ),椎名 祥子,濱
和樹,手塚 勇輔
兵庫県立リハビリテーション中央病院 リハビリ療法部
キーワード
脳卒中片麻痺患者,歩行開始,筋活動
【目的】
歩行は静的に安定した立位から遊脚側股関節外転筋の活動により足圧中心(Center of Pressure:COP)が遊脚
側へ移動し,身体重心が立脚側へ移動することで開始される.しかし脳卒中片麻痺(以下,CVA)患者は歩行開
始時の重心移動が拙劣である印象を受ける.そこで本研究では,CVA 患者の歩行開始時の下肢の筋活動と COP
の移動について検討した.
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の CVA 患者 4 名(年齢 60.8±8.02 歳,男性 2 名,女性 2
名,下肢 Br.StageIV3 名,V1 名)および健常者 1 名(24 歳,男性)とした.選定基準としてフリーハンドにて歩
行開始ができる者とした.運動課題は,重心動揺計(Anima 社製 G6100)の上で裸足にて足部の両側内側縁を 10
cm 開脚した立位をとらせ,タイマーの合図で快適な速度で歩行を開始するものとした.その際,歩行開始を CVA
患者と健常者ともに任意の脚からとし左右それぞれ 3 回測定した.重心動揺計での測定と同時に,両側の中殿筋
(以下,GM),長内転筋(以下,AL)の筋活動を表面筋電図(Noraxon 社製 Telemyo2400)を用いて測定した.
評価項目は歩行開始時の COP の軌跡と下肢の筋活動とし,CVA 患者と健常者を比較した.
【結果】
CVA 患者の静的立位時の COP は健常者と同様にほぼ正中位に位置しており,非麻痺側下肢の筋活動は GM
と AL が同時活動していた.非麻痺側下肢から歩行開始した場合,全症例で動作開始直前の COP の非麻痺側への
移動は認めず,非麻痺側下肢の筋活動は静止立位時より増加していなかった.立脚側の麻痺側 GM の筋活動は健
常者に比べ少ない傾向を示し AL は高い傾向を示した.一方,麻痺側下肢から歩行開始した場合,動作開始直前の
COP の麻痺側への移動は 1 例を除いてわずかに認めたが,麻痺側 GM の筋活動は少ない傾向であった.一連の動
作を通じて非麻痺側の筋活動は健常者に比べ AL が高い傾向を示し GM と同時活動していた.
【考察】
永井らによると,主動作筋と拮抗筋の同時活動は関節の固定性を高め,姿勢制御の安定性に貢献する一方で円
滑な関節運動を阻害するとしている.本研究の結果から,CVA 患者は麻痺側下肢による動作の発現や支持するた
めの筋活動が低いだけでなく,非麻痺側下肢の筋活動が健常者と異なり静的バランスを安定させることを優先と
した姿勢制御を行っていることが示唆された.したがって,歩行を始めとする動的バランスを要する動作の安定
化を図るには,筋活動の適正化を考慮したうえでの重心移動練習や基底面外へのステップ練習へと展開していく
ことが重要である.今後は対象者を増やし CVA 患者の姿勢制御について詳細に検討していきたい.
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第 18 セッション
基礎・内部(一般演題)
一般ポスター
113
気管切開を施行された患者に PT がリハ前後吸引を施行した効果について
高 祐二(こう ゆうじ),寺島 花雪
大隈病院 リハビリテーション課
キーワード
気管切開部吸引,誤嚥性肺炎,体温測定
【目的】
当院では 2013 年より全セラピストが口腔内吸引を実施し,2014 年から理学療法士(以下 PT とする)の中から
選抜して療養病棟入院患者を対象とした鼻腔内・気管切開部・人工呼吸器における吸引を行なってきた.今回,
貯留した痰によって誤嚥を呈し肺炎を発症した気管切開術後患者に対し,PT がリハ前後に吸引を施行すること
で肺炎拡大の予防につながるかを検証したので報告する.
【方法】
検証の方法として対象者の体温測定を指標とし,条件として入院時からの診療記録から 1 日のうちでの最も高
い体温を基準とした.
症例は 80 歳代,女性.約 1 年前に出血性脳梗塞を発症,他院で開頭内減圧術を施行された.その後,気管切開
術,PEG 造設術を実施された.発症から 5 ヵ月後,当院へ転院となった.
患者の痰貯留は恒常的かつ量も多いことから,一日につき約 10 回の吸引が必要とされていた.またリハ時にお
ける起居動作の際,痰が気管を逆流し誤嚥するリスクがあり,特に吸引する必要があった.入院後 54 日目より地
域包括ケア病棟から療養病棟に転棟されたことから,リハ前後に PT が吸引を開始した.そこで吸引開始前 53
日と吸引開始後の 53 日の体温変化を対応のある t 検定により比較検討し,有意水準は 5% 未満とした.なお,発
熱の原因として尿路感染症も疑ったが,塗沫検査ではグラム陽性桿菌が検出されたものの,培養検査では陰性で
あったことから主病名からは除外した.
【説明と同意】
家族に,匿名で学会に症例報告する旨を説明し同意を得た.本症例報告における全ての行為はヘルシンキ宣言
に基づき行われた.
【結果】
PT による吸引実施前の 53 日間,37 度以上の発熱があった日は 35 日間で,平均は 37.0±0.7̊ であった.PT
による吸引開始後の 53 日間,37 度以上の発熱があった日は 10 日間で,平均体温は 36.6±0.6̊ であった.吸引開始
前と後での患者の体温変化に,統計学的な有意差が認められた.
【考察】
本症例に対して PT によるリハ実施前後に吸引を実施したが,体温の計時的変化からの視点において喀痰吸引
は一定効果があると考えられた.
体位廃痰法において座位が肺上葉区のドレナージ体位であることから,痰の貯留が顕著な患者が座位の際に誤
嚥することが予測された.本症例はリハ前後 PT が吸引を実施して以降,37 度以上の熱がある日は著明に減少し,
誤嚥性肺炎の拡大を予防することが出来た.
【理学療法学研究としての意義】
今回の症例を通して,PT が喀痰吸引を実施することの必要性を実感することができた.課題として,吸引につ
いては教育・指導体系の整備と PT 自身の吸引に対する技術の研鑽に励まねばならないことが挙げられる.今後
も誤嚥の疑いのある患者に対しては PT が必要に応じて吸引を行なうことで,肺炎の予防に努めていきたい.
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