(改訂版) これが「福島小児甲状腺ガン多発」の実態

(改訂版) これが「福島小児甲状腺ガン多発」の実態
=事故前後の罹患率の激甚差が、多発の被曝影響を立証している=
蔵田計成 (ゴフマン研究会所属)
図Ⅰ
◇ 参考資料
① 国立がん研究センター「がん統計」cancer_incidence(1975-2008) 「甲状腺がんの罹患率(発生
率)10 万人あたり」を参照。
② 甲状腺がん罹患率(対人口 10 万人比・人数)(1975-2010 年、0-19 歳、国立ガン研究センターがん
対策情報センター)。
③ 第 19 回「県民健康調査」検討委員会(福島KKK)「県民健康調査結果概要」(資料 3-1、③-6)。
◇ 図Ⅰについて
縦軸: 甲状腺ガン罹患率(10 万人当たりの罹患者数)。
横軸: 事故前、診断時年齢別、男、女、男女平均 3 区分、5 歳階層別、0-4 歳省略(0 人)。事故後福
島、被曝時年齢別、5 歳階層別、男女平均。
◇ 診断時年齢別と、被曝時年齢別の違いについて:
事故後の 14-18 歳集団の罹患率は、診断時期が事故 1-3 年後であるために、事故前の診断時集団
では 19-21 歳集団の罹患率に相当する。したがって、図Ⅰの比較はあくまでも概況と傾向いうことにな
る。
(1) 小児甲状腺ガン多発の実態を探る
上記図Ⅰは、小児・成人甲状腺ガン罹患率(有病数)を、福島事故発生前と発生後を比
1
較したものである。ひとつは、福島事故発生 3~4 年前(2007-08 年)の 2 年間の全国平均
罹患率(検診時年齢、0-74 歳、男・女・男女平均、5 歳階層別)である。これに対して、もうひ
とつは福島事故発生から 1~3 年後(2011-13 年)の 3 年間の小児甲状腺ガン罹患率(被曝
時年齢 0-18 歳、約 37 万人、罹患数 112 人、男女平均、5 歳階層別)である。
それによると、検査した両者間の年次差は 3~6 年しか離れていないが、そこには大差が
ある。事故発生後の福島県小児甲状腺ガン罹患率(10 万人当たりの罹患数)は、事故発生
前の同世代に比べて群を抜いて多発している。なかには、高いとされている中高年世代の
罹患率を越えている。数字でみると、事故発生後福島 5-9 歳集団は事故前比「17 倍」、
10-14 歳集団は同「85 倍」、15-18 歳集団は同「32 倍」である。グラフには示さないが、事故
後 0-18 歳平均罹患率は、事故前 0-19 歳平均(0.27 人)の「45 倍」に達している。
これまで福島KKKは一貫して多発事実の認定を拒んできた。「スクリーニング効果」説、
「計測機器(エコー)の性能向上」説によって多発の事実認定を拒み、「過剰診断」説を盾に
して検診規模の拡大を阻んできた。ところが、福島KKKは第 19 回検討委員会(2015 年 5
月 18 日開催)において、甲状腺評価部会「中間とりまとめ」を公表し、多発の事実をはじめ
て認定した。
「甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダー(桁数・引
用者注)で多い。」(第 19 回検討委評価部会「とりまとめ」)
この多発の認定によって、否定の論拠は無意味になり、効果説、機能説(過剰説)は無効
になった。多発事実を自ら認めた瞬間にすべての論拠は失効したのである。ところが、福
島KKKは「数十倍」と多発事実を認定しておきながら、これまで通り「放射線の影
響の可能性も否定はできないが、考えにくい」(公式見解)という回りくどいいい方
で、多発の真の原因から被曝影響を排除し、否定的見解を強弁している。
これは被曝リスクの全否定(ゼロ評価)というにも等しい。このような被曝傷害に対する過
小評価は許せない。早期・有効・適切な放射線被曝防護策の放置と無策につながる。最近、
福島では前日まで元気であった中高年者の「突然死」(葬儀)を耳にすることが多いと聞か
された。たとえ空間線量が部分的に下がったとしても、安心論は有害無益である。事故直後
の大量被曝や累積被曝による、別な被曝疾患の進行も懸念される。すべては音もなく進ん
でいる。早期の検査、対象規模拡大、広域被曝検証を行うべきである。避難補助打ち切り、
強制帰還に至っては論外である。
(2) 警鐘である
図Ⅰは、深刻な被曝影響を示している。たとえ、両者の統計時期に多少の時間差(約 3
年)があるとしても、原発事故という〈原因〉を境にして、多発という〈結果〉が厳存していること
を示している。このこと自体が、時間差でみる有力な〈疫学的論拠〉といえるだろう。どうみ
ても、原発事故以外には、いっさい別な原因は存在しない。たとえ、イチャモンをつ
けることはできても、被曝影響を否定する明快な論理は成立しない。以下、2 つの引
2
用は重要である。
引用Ⅰ 「…チェルノブイリ原発事故の場合、被曝から 4 年という短期間に小児甲状腺癌の
増加が認められたため、当初はスクリーニングを熱心に行った結果によるバイアスではない
かという意見もあったが、その後行われた後ろ向きケースコントロール研究および前向きコ
ホート研究により、小児甲状腺癌増加が間違いなく原発事故により引き起こされたことが科
学的に証明された。この場合も、甲状腺への被曝量と甲状腺癌発生頻度との間には有意な
直線関係が認められた。」 (日本癌治療学会「がん治療ガイドライン」、2010 年版、甲状腺腫瘍、背
景・目的)
引用Ⅱ 「2001 年から 2008 年(引用者注:事故 15~22 年)にかけて年平均 400 例の新た
な(同:甲状腺ガン)登録があり、チェルノブイリ事故前の 33 倍(0 歳から 14 歳の小児では
60.0 倍)にまで増加している(Ukrainian Ministry of Public Health 2011)。…浸潤型のが
んが 87.5%にのぼるのは、その腫瘍の侵襲性がきわめて強いことを示している(Vtyurin et
al. 2001)。臨床的には、全身的な徴候や症状がないにもかかわらず、早期かつ高頻度にリ
ンパ節転移が見られる。約 46.9%の患者で腫瘍が甲状腺外に及んでいる。患者の 55.0%
に頸部リンパ節への局所転移が生じており、初回手術後まもなく切除しきれなかったために
繰り返し手術を要した。さらに、患者の 11.6%に肺への遠隔転移が生じた(Rybakov et al、
2000; Komissarenko et al、2002)」(『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』、p144 岩波書店)。
(なお、本稿は「ちきゅう座」掲載、20015 年 8 月 12 日論文を、少し加筆した)。
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