第9回 放送と通信の融合と情報通信産業

情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業
第9回
放送と通信の融合と情報通信産業
1、 放送と通信の融合と放送産業の変革
(1) ブロードバンドと放送と通信の融合
FTTH に代表されるブロードバンドの普及・拡大(第 7 回)、さらにモバイ
ル通信の高速化(第8回)によって、これまでは「放送」で配信されていたコ
ンテンツやコマースが、インターネットや携帯電話による「通信」によって配
信されることになる。これは「放送と通信の融合」(あるいは「通信による放
送の吸収」)といった事態が起こっている。これは情報通信産業が放送産業と
融合する(あるいは吸収する)ことを意味する。
(2)テレビ(地上波放送)の衰退
通信技術の発達によるブロードバンド化によって放送と通信の垣根は低くな
りつつあり、放送業界にはその存立基盤を危うくされている。すでに本業のテ
レビ広告市場規模は頭打ちである。
億円
経済産業省「特定サービス産業動向統計調査」より作成
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(3)放送産業の対応:地上デジタル放送と課題
これに対する「放送」「家電」産業の対抗策の一つが地上デジタル放送であ
り、また「放送」産業自身がブロードバンドを利用してコンテンツ配信に乗り
出すビジネスでもあった。
地上デジタル放送は、デジタル化による高画質化
(ハイビジョン放送)や多チャンネル化、データ放
送、移動受信向け放送(ワンセグなど)などの新し
い放送サービスが可能になる。放送の規格において
通信で行われているサービスを可能にするもので、
放送業界からの期待も高い。
しかしながら地上デジタル放送、そしてアナログ停波に伴い、地上波放送未
視聴世帯の増加などによって視聴者のテレビ離れも進んでいる。
一方で、インターネットの利用時間や、同じくインターネットによる動画視
聴時間が増加している。視聴者はこれまで地上波放送を視聴していた時間をイ
ンターネットの利用、特にインターネットでの動画視聴にあてる傾向が強まっ
ている。
そもそも地上デジタル放送の導入は、インターネット利用の増加、それに伴
う広告費の減少に対する放送業界の「リベンジ」の要素もあったが(家電業界
の市場拡大が最大の要因であるが)、その目論見は必ずしも成功はしていない。
各メディアの利用時間
総務省『平成 24 年版
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情報通信白書』より
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情報の種類別の入手メディア(全体傾向)
情報の種類別の入手メディア(インターネット関係メディアの内訳)
総務省『平成 24 年版
67
情報通信白書』より
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(3)放送産業の対応:スマートテレビ・ソーシャルとの融合
一方、放送業界は通信業界との協業も含めて、インターネット経由の放送配
信(ひかり TV(NTT ぷらら)、ムービースプラッシュ(KDDI)、BBTV(ソフトバ
ンク)、アクトビラ(松下・ソニーほか家電メーカー主導)など)によるビジネス
モデル=動画配信ビジネスも進めてきた。
近年ではこれをさらに進めて、放送業界
が保有するコンテンツをいつでも、どこで
も、そして誰とでも視聴できるサービスと
して「スマートテレビ」が進められて、こ
れをめぐって情報通信産業と放送産業の
連携、主導権争いが激しくなっているのが
現状である。
総務省『平成 25 年版 情報通信白書』より
さらに、ソーシャルメディアの拡大(→第 12 回)によって、放送とソーシャ
ルメディアとの融合・連携も進むものと思われる。
いずれにせよ、これまで受信料と広告料に依存し
てきた放送業界のコンテンツがネット配信におい
てインターネットによるビジネスモデルに対応で
きるかどうかは困難であると予想される。
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2、ブロードバンドとコンテンツ・ビジネス
(1)コンテンツ市場の拡大とコンテンツのマルチユース
ブロードバンドの進展は、BtoCに代表されるeコマース市場の拡大 1や、これ
に関連する産業・企業の成長をもたらしたが、同時にブロードバンドや携帯電
話を利用した音楽や映像などの配信=コンテンツ市場の拡大、産業・企業の成
長をもたらす可能性がある。
しかしながら、『平成 26 年版 情報通信白書』によれば平成 24 年の市場規
模は 11 兆 2,401 億円と推計されるが、飽和状態を示している。また、コンテン
ツの種類を映像系、音声系、テキスト系に分けて市場規模の内訳を見ると、映
像系ソフト 5 兆 5,147 億円(全体の 49.1%)の主な内訳は、地上テレビ番組が 2
兆 7,589 億円、衛星・CATV 放送が 8,884 億円、ゲームソフトが 7,515 億円、
映画ソフトが 6,229 億円、映像系ネットオリジナルが 1,391 億円となっている。
日本のコンテンツ市場規模の内訳(平成 24 年)
日本のコンテンツ市場規模の推移(ソフト形態別)
総務省『平成 26 年版 情報通信白書』より
経済産業省の調査によると、2007 年の消費者向けの電子商取引市場規模(B to C)
は 5 兆 3 千億円と前年に比べ 21.7%増加している。企業間の電子商取引(B to B)も
162 兆円と前年に比べ 9.3%の増加となっている。消費者の販売促進行動支援や検索行
動支援、コミュニケーション支援など消費者を起点とするインターネット関連ビジネス
市場も 2 兆円になっている。
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コンテンツのマルチユースについては、平成 24 年の 1 次流通市場の規模は、
8 兆 9,575 億円(全体の 79.7%)となっている。 1 次流通市場の内訳は、映像
系ソフト 4 兆 739 億円のうち、主なものは地上テレビ番組が最も大きく 2 兆
2,739 億円、ゲームソフト 7,515 億円、衛星・CATV 放送が 4,777 億円などとな
っている。
1次市場流通の内訳(平成 24 年)
マルチユース市場流通の内訳(平成 24 年)
一方、平成 24 年のマルチユース市場の規模は 2 兆 2,827 億円(全体の 20.3%)
となっている。コンテンツ市場の飽和状態、頭打ちの中で、コンテンツのマル
チユースが市場を支えているとも考えられる。
コンテンツ市場規模の推移(流通段階別)
マルチユース率の推移
総務省『平成 26 年版 情報通信白書』より
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(2)通信系コンテンツ市場の拡大とモバイルコンテンツ市場
コンテンツ市場のうち、パソコンや携帯電話向けなどインターネット等を経
由した通信系コンテンツの市場規模は 2 兆 1,210 億円となり、コンテンツ市場
自体が伸び悩む中で大きな伸びを示している。特にその中でもモバイルコンテ
ンツ市場は大きな伸びを示しており(平成 24 年で 8,510 億円、前年比 15.8%増)、
モバイルコマース市場の伸びとの相乗効果を示している。
通信系コンテンツ市場規模の推移(ソフト形態別)
モバイルコンテンツ産業の市場規模の推移
総務省『平成 26 年版 情報通信白書』より
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(3)放送系コンテンツ市場動向と海外展開
コンテンツ市場自体が停滞する中で通信系コンテンツ市場が拡大し続けるこ
とは、放送系コンテンツ市場の縮小を意味する。
一方で、「クールジャパン政策」とも関連して放送コンテンツの海外展開が
官民一体で進められている。
放送コンテンツの海外輸出額の推移
→
資料
経済産業省「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」参照
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