あの時のスペクトル 有機スペクトル化学 O 第8回 4-ethoxytouene の 1H-NMRスペクトル 心の声? 結合定数が何だっていうのよ! カップリング・ツリーに何の意味があるのよ! 積分比と分裂本数がわかればいいじゃない! 目的・目標 下記の分析手法の原理や測定方法を理解し、 各スペクトルの解析法を身につけること。 学習教育目標C-4の達成に寄与すること。 赤外吸収分光法、核磁気共鳴吸収分光法 紫外可視吸収分光法、質量分析法、蛍光分光法 本日のあなたの達成目標 ・ 色々な分子のスピン-スピン結合を知る ・ 溶媒、平衡、酸性度の影響を知る J値 カップリングツリー 等価 ・ 色々な等価性を知る 本日のスケジュール 1) 本日の到達目標・本日のスケジュール 2) 結合定数から構造を推定する 3) Workshop!(やってみよう!) 4) 等価性に注意すべきとき 結合定数と構造 定数 構 5) Workshop!(やってみよう!) 6) OHなどのシグナル 7) 本日の推薦図書 8) 溶媒/同定の難しいときには 9) 次回の予告/セルフチェック 1 Q4 90 MHzでした 分解能 ・・・隣り合うシグナルが別々のシグナルとして見えるかどうか H J = (A-B)×C J H 300 MHzの装置で測定 2重線の位置1.225, 1.245 ppm J = (A – B)×C = (1.245 – 1.225)×300= 6 δ = 1.235 ppm, d, J = 6 Hz A (ppm) B (ppm) 100 MHzの装置で測定なら、 2重線の位置は、 装置の分解能 C (MHz) J1 J2 H H H H H H H p-methylstyrene H H J3 H H3 C H J2=17.6 Hz J3 =1.1 Hz J2=17.6 Hz J1 =10.8 Hz 6.650 ppm 1.205 ppm, 1.265 ppm J1 =10.8 Hz J3 =1.1 Hz 5.673 ppm 5.153 ppm ダブルダブレット( dd ) → 二重結合の存在などを推測できる材料 スピン-スピン結合の種類と「射程距離」 Workshop ! 1,2,4-trichlorobenzene A(3) 7.419 ppm B(6) 7.323 ppm C(5) 7.158 ppm J(A,C) = 2.3Hz J(B,C) = 8.6Hz 通常は結合3個分までしか影響が及ばない 例外的に、もう少し遠くまで影響が及ぶ場合もある (ロングレンジ・カップリング) 一般に、 J1 = 6 ~ 9 Hz (ortho) J2 = 1 ~ 3 Hz (meta) J3 = 0 ~ 1 Hz (para) 7.433 7.407 (90 MHz, CDCl3) H C geminal 結合2個 H C C C long-range 結合4個以上 H 7.197 7.172 7.101 7.076 7.389 7.293 H H H H C C vicinal 結合3個 C C C H C などなど スピン-スピン結合の種類と「射程距離」 通常は結合3個分までしか影響が及ばない 例外的に、もう少し遠くまで影響が及ぶ場合もある(long-range) 結合定数から結合角がわかる(Karplus曲線) H H geminal 結合2個 C H H C C H C C C vicinal 結合3個 H C long-range 結合4個以上 14 等価性について Ha φ Hb 10 J 6 2 0 0 90 180 φ 2 (予測しよう)このシグナルは何重線? 実際には分裂している H3 H3 HOOC-CH2-CH Br 2-COOH HOOC H3 J13 J13 HOOC-CH2-CH Br 2-COOH HOOC 8.6 H3 J13 H1 H2 J23 COOH J23 J23 H1 H2 J23 COOH 6.4 J23 J13 J23 H1とH2が等価だったら、すなわち、J13=J23だったら、 H3は triplet のはず。 4.523 ppm, 1H, 8.6 Hz(H1-H3) 6.4 Hz(H2-H3) ジアステレオトピック・プロトンの見分け方 HOOC Ha * COOH HOOC H Hb * ジアステレオトピック(対称性非等価の例) Br Hc Br Hc Br Hc ★★ * COOH X 仮にHaをXで置き 換えてみると。 ≠ HOOC 2.894 ppm, 1H, 17.1 Hz(H1-H2) 8.6 Hz(H1-H3) 3.077 ppm, 1H, 17.1 Hz(H1-H2) 6.4 Hz(H2-H3) * X * COOH Br Hc HOOC COOH H Ha 仮にHaをXで置き 換えてみると。 Br 一対のジアステレオマー Hb COOH Hc Br Ha, Hbの環境(隣接置 Hc 換基との相対的位置関 8.6 Hz 6.4 Hz 係)は同時に等しくなら Ha Hb ない。つまり非等価。ジ 17.1 Hz アステレオトピック なプ ロトンの例。 COOH Hc Br Ha Ha Hb COOH Hb ★★ Ha COOH COOH Hc Ha Hb COOH Br Hc Hb CO2H COOH Hb Br H2OC 予期せぬ分裂が見られたら注意しよう Workshop ! 非等価(ジアステレオトピック)なプロトンを見つけよ!(Xで置き換える) H3C HO H Hc Ha Hb Ha Hb Hd He HO COOH Ha ≠ Hb (Ha ≠ Hb ≠ Hc) OH Hc OH Ha ≠ Hb, Hd ≠ He Hc Ha COOH ★★★ こんなときには、 「非等価があるかも」とひとまずメモしておこう。 スペクトルから分子構造を予想するとき、 ☆ 複雑に分裂していたら(n+1則以上に分裂していたら)。 ☆ J ≠ 7 Hzで分裂しているシグナルがあったら。 分子構造(部分構造)からスペクトルを予想するとき、 ☆ 不斉炭素や多重結合があるとき、長い分子のとき、など Ha = Hd, Hb = He Ha ≠ Hd ≠ Hc 3 OH, COOH, NH のシグナル(プロトンの交換) OH O Ha CH3 CH2 プロトンの交換が ないとき Hb OH OH, COOH, NH のシグナル O H 2O OH Ha Hb OH O Ha Hb OH 水が共存しているときの、プロトンの 交換速度は非常に速い(カップリング がなくなる+水とOHが平均化される) OH, COOH, NH のシグナル( DMSO中)★ OH, COOH, NH のシグナル( CDCl3中) プロトンの交換があると(常温、CDCl3中など)、 ¾隣接プロトンの影響を受けない ・・・ 幅広singlet で現れる ¾隣接プロトンに影響を与えない 化学シフトは化合物や 測定条件、水素結合の 強さによ て大きく変動 強さによって大きく変動 する OH 溶媒 (DMSO) CH , t 3 ethanol OH, t CH2, m OH, s O H (J = 4 ~ 10 H O-H Hz)) 2-propanol 溶媒 (DMSO) CH3, d OH, d プロトンの交換がなければ(常温、乾燥した重DMSO中など)、 ¾隣接プロトンの影響を受ける ・・・ シグナルが分裂 ¾隣接プロトンに影響を与える ・・・ シグナルが分裂 CH, m 乾燥した重DMSO中ではプロトンの交換が抑えられているので、 カップリングが見られる NH のシグナル 1H-NMR NHは、非常に幅広くなって見分けにくくなることも多い (積分値は意味をなさなくなる) 測定用溶媒 重クロロホルム Cl CDCl3 7.24 ppm、bp – 64 ℃、 bp 61 ℃ (プロトン交換だけでなく別のメカニズム=四重極子緩和による。やはり、 隣接核に分裂が現れないこともある) N DMSO-d6 2 49 ppm、bp 19 ℃、 bp 189 ℃ 2.49 CH3 CH3 H 重ジメチルスルホキシド NH broad singlet O COOH もブロードになることがある・・・第7回Q3 重メタノール CD3OD Cl C D Cl D3 C S CD3 O 3.35, 4.78 ppm、bp – 98 ℃、 bp 64 ℃ 重水 D2O 4.65 ppm、bp 0 ℃、 bp 100 ℃ 4 同定の難しいときには ブレイク 本日の推薦図書 よく似た構造の化合物のスペクトルから推測する (文献を参考にする) 村上春樹、「海辺のカフカ 」新潮文庫) (上¥746、下¥788) (ISBN:上巻4101001545、下巻4101001553) 2次元NMRスペクトル NOE差スペクトル デカップリング 文章力は才能ではなく 技術である 重水交換 選択的重水素化 文章力のトレーニング 文章を読む 文章を要約する シフト試薬 溶媒や測定温度を変える 次回の予告 Workshop ! 解答 次回(演習)の達成目標 Hc ・ IR および NMR の組み合わせから、分子 構造を推定できる。 J2 Hb J1 Ha J3 ・ IR および NMR の解析法を説明できる。 HC この演習の成果は最終成績に加味される。 HA HB 8.6 必ず出席して、受講すること。 オルトの関係 J1 = 8.6 Hz メタの関係 J2 = 2.7 Hz パラの関係 J3 = 0 Hz 8.6 2.7 2.7 2.7 δa δb δc セルフチェック (2) 90 MHz J2 J1 δ 3.696, s, 2H, NH2 J3 J1 = 8.6 Hz J2 = 2.7 Hz J3 = 0 Hz δ 7.204, 7.109, 1H A, d 予備 δ 6.753, 6.724, B, d 1H δ 6.539, 6.509, 6.444, 6.414, 1H C, dd 5 結合定数から cis, trans, o, m, p などを区別可能 ★★★ 結合定数から 構造を区別可能 Long-range geminal J値から、どのプロトンのシグナルか同定できる J1 J1 = 6 ~ 12 Hz (cis) H H J3 J2 = 12 ~ 18 Hz (trans) J2 H H J = 0 ~ 3 Hz (geminal) J = 0 Hz H 3 H J2 J1 H vicinal J1 = 6 ~ 9 Hz (ortho) H H J3 = 0 ~ 1 Hz (para) H C H H C C C C C C C H J = 0 ~ 2 Hz J = 0 ~ 3 Hz J2 = 1 ~ 3 Hz (meta) J3 C C J = 0 Hz H H C C C C H 出展:ハーウッドら著、「有機化合物のスペクトル解析入門」、化学同人、p.66, 71;安藤・宗 宮著、「これならわかるNMR」、化学同人、p.54 ★ 予期せぬ分裂が見られるとき O O H C Q4 N CH3 H C N H 二重結合性ゆえに、常温では非等価。 しかし、高温では2つを区別できなくなる。 (速すぎて区別できず 平均化されてしまう) (速すぎて区別できず、平均化されてしまう) シクロヘキサンも-100℃になれば、アクシアル 水素とエクアトリアル水素を区別できるようになる。 H (A) (B')) H (B H (B) 2.34 A と A‘ 、B と B‘ は化学 的に同じ環境にあるので、 それぞれ等価に見える。 だから、ABカルテット(ダブ レットが2つ)になるように 思える。 H J ≒ 8 Hz 7.26 ppm, 7.10 ppm ★★★ ① 化学シフトが等しい 0.39 B H 「化学シフト等価」なら、 A (A') H H 「等価」ということ ・・・分解能が高いと見えてしまう非等価性 (C) CH3 Cl 非等価 CH3 2.302 ppm H AB qualtet → p-ジ置換ベンゼンの特徴 回転しない単結合があるとき 低温 平衡混合物であるとき 温度変化があるとき 不斉炭素があるとき(対称性非等価) 芳香環や cis - trans の関係があるとき(磁気的非等価) 長い分子(対称的非等価、磁気的非等価がある場合がある) 磁気的非等価 H H3 C 等価性に注意すべきとき ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ p-methylstyrene H 高温 CH3 CH3 H H 等価 CH3 7.99 B’ A から見て、 から見て B と B‘ は違うもの。 は違うもの 区別がついてしまう。 B と B‘ は化学的性質は同じだが(対称性等価)、 J(A,B) = 7.99 Hz J(A,B’) = 0.39 Hz J(A,B) ≠ J(A,B’) したがって、 B と B‘ は磁気的非等価(同様にA と A‘ も磁気的非 等価)。だから、B-B’間にも( A -A’ 間にも)カップリングがあり、p-ジ 置換プロトンは本当は単純なダブレットではない。 (資料集p.11参照: J(A,A‘) = 2.36 Hz J(B,B’) = 2.34 Hz) ② スピン-スピン結合しない カップリングしない、 シグナルが分裂しない H Cl H H Hを交換しても同じ分子 =区別できない 区別できない 「等価性」について、もう少し詳しく言うと、 ① ある核と別の核を交換しても同じ分子。または、速い回転で 平均化される場合。ある核と別の核の化学的環境が同じ (・・・対称的等価) ② ある核と別の核の間の相互作用(結合定数、J値)が同じ (・・・磁気的等価) 6 ★ 結合定数から結合角度も推定できる(Karplus 曲線) 結合角が固定されていると、 それに応じたJ値になる 隣接置換基に依存して 多少の幅がある アルキル基がJ≈ 7Hzなのは、C -C結合を軸とする速い回転によ る平均化のせい J60º + J180º + J300º 3 3.5 + 14 + 3.5 ≈ ≈ 7 (Hz) 3 J= 14 化学的環境が同じ?なのに、 シグナルが1本にならない場 合がある。 Ha φ Hb 10 O J 60、180、300°のJ値を平均化して いることになる 等価と非等価 H 6 C N CH3 CH3 2 0 0 90 180 実は、「等価」にも色々ある。 化学シフト等価 磁気的 等価 対称的 等価 非等価 φ カップリングが複雑なときには 「隣の水素+1」になっていなかったら。 ダブルダブレットや、もっと複雑なシグナルがあったら。 J値が1種類ではないということ。 値 種類 はな う 。 2重結合や芳香環、キラリティなどがある可能性がある。 J値の大きさから、構造を推定できる。 7
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