ハンセン病を卒業研究に取り入れて - 島根県立大学学術機関リポジトリ

島根 県立看護短 期大学紀要
第 12巻 ,35-41,2006
ハ ンセ ン病 を卒業研究 に取 り入れて
∼ 療養所訪問か らの学 び ∼
福澤陽 一郎 ・秋鹿
概
都子
要
看護孜育 に平成 7年 度 か らハ ンセン病 を導入 している。平成 16年 度 か らは卒業研
究のテ ーマ とし,年 間を通 じて ,調 査 ・研究 を実施 して きた。平成 16,17年 度 の卒
業研究 の概要 と,療 養所訪間 によるハ ンセン病回復者 との交流 を通 じて学生 は何 を
学 んだのか,そ の 内容 をまとめた。
学 びの 内容 は,大 きく「差別 ・偏見 ,人 権無視 の歴史 の理解」「ハ ンセン病回復
者の現状 の理解」「今後 に必要 な取 り組 み」「今後 の 自分の あり方」 に整理 された。
キ ー ワー ド :ハ ンセン病 ,療 養所 ,看 護教育 ,卒 業研究
い う成果 が ,平 成 14年 か らの看護学生等 に よる
I.は
交流訪 問事業 につ なが った 。
長 島愛生 園 ・邑久 光 明園 での 1泊 2日 の 療養
じ め に
ハ ンセ ン病 と看護教育 について ,終 生隔離 さ
れ た患者 の 「生 きて きた」 意味や ,幸 い,苦 し
い,希 望 のない人権無視 の 中で生活 をお くって
所交流訪 問 で は ,看 護学生 は ,患 者作業 ,強 制
入 所 ,断 種 ・堕胎 ,監 禁 ,偽 名 の使 用 ,家 族 が
受 けた被害 と して ,家 族 の縁談 に支障 ,家 族 の
きた人へ の理 解 を深 める ことは,共 感能力 を高
離婚 ,一 家離散 など,非 人 間的 な人 権無視 の 実
め,看 護 の学 び として ,こ れほどす ぐれ た効果
をあげ る もの はない とその意 義 を述 べ て い る
態 を肌 で 感 じた。
ハ ンセ ン病 の 関係 者 か ら,単 発 の 講 義 で は
(関 屋 ,2001)。
また,平 成 7年 に「 らい予防法
の もた らした もの」,平 成 12年 に保健医療制度
の講義 で関係法規 の一環 として「ハ ンセ ン病関
連 の この 1冊 の 本 が語 る もの 」,平 成 15年 に
「ハ ンセ ン病 が語 るもの」 とい うテ ーマ でパ ネ
ルデ ィスカ ッシ ョンを行 ってきた看護荻育 か ら
「患者 ・家族 の ために」 とい う名 日で ,ハ ンセ
,
ン病患者 の 人権 を奪 って きた歴史 と療養所 の看
護 か ら学 ぶ ことの意義 をS看 護短期大学 の取 り
組 み として報告 した
(福 澤 ら,2004)。
島根県 では ,島 根県藤楓協会 と行政 が連携 し
て,ハ ンセ ン病対策 として , 1)普 及啓発事業
,
2)郷 土訪 問事業
(里 帰
り事業 ),
3)ハ ンセ
ン療養所 へ の訪問 などが取 り組 まれて いる。
平成 13年 の 「里帰 り」交流会 の一環 として
回復者 の生の 声 は学生 たちになかなか伝 わ らな
い とい う助言 を うけて ,看 護学科
3年 次 の卒業
研 究 にハ ンセ ン病 の テ ーマ を取 り入 れ た 。
今 回 ,卒 業研究 の 大 きな柱 に して きた ,ハ ン
セ ン病 療養所訪 問 か ら学 んだ 内容 を中心 に まと
めた。
Ⅱ.卒 業 研 究 の 内 容
卒業研究 の流 れ は ,表 1に 示 した とお りで あ
る。学生 5人 は ,自 らの 希望 によ リハ ンセ ン病
を卒業研究 の テ ーマ に しグル ー プ研 究 と して 実
施 して きた。卒業研 究 をすす め る際 に教 員 は
,
回復者 の 話 を聴 く こと,藤 楓協会 や関係者 の協
力 を得 て ,年 間 に計画 され てい るハ ンセ ン病 に
,
希望
関す る催 しに出来 る限 り関 わ る ことの み を指示
で ,本 学学生 との交流 の機会 がもたれた。その
した。 それ以外 につ いて は ,学 生 の 自主 的 な取
際 の看護学生 の学 び と回復者 との交流 の継続 と
り組 み と した 。 1年 目は指導教 員 1人 ,
ハ ンセ ン病 回復者
(以 下 ,回 復者 と略)の
,
-35-
2年 目
福澤陽 一 郎 ・秋鹿
表
者【
子
1卒 業研究の進め方
卒業研究 i看 護実践 における研究的態度 を養 い,研 究 の必要性 ,目 的,方 法論等 を学習する。変化する社会状況
の 中で的確 に問題解決することができる能力を養 う。
看護学科 2年 次
12月 :担 当教員か ら次年度 の卒業研究 のテーマ募集
(例 )「 ハ ンセン病 と看護 について」 5人 程度のグル ープ研究
夏季休暇中の療養所 を訪間 し,療 養所 のスタ ッフとの意見交換 とハ ンセン病回復者 と交流 し調査 を行 う。
あわせて,ハ ンセン病 の差別 ・偏見をな くし,正 しい理 解を広めるためにどういうことが重要 か を中心
に,ハ ンセン病 と看護 について研究を行 う。
1月 :学 生へ希望調査 によ り,配 属 の決定
看護学科 3年 次
4月
5月
6月
8月
9月
卒業研究 の 進 め方 ,役 割 分担 ,既 存 資料 の分析 10月 :大 学祭 の 催 しに参加 (学 生 の 自由意志 )
過去ハ ンセン病療養所訪間 した先輩などと意見交換 m月
調査結果 の考察 とまとめ
研究 テ ーマ ,研 究 計画 の 決定
記述 内容 に ,人 権上 の 問題 がないか調査 の協 力
。
の
の
調査 内容 決定 ,療 養所 訪 間 企画 検討
者 と意 見交換
12月
療養所訪間調査
卒業集録 と しての まとめ
3月 関連学会 に発表 (学 生 の 自由意志 )
調査結果 のまとめ
表 2平 成 16年 度 の卒業研究 の概要
研究 テーマ :「 ハ ンセン病元患者 (回 復者)さ んから学 んだこと」
研 究 目 的 :ハ ンセン病 について ,正 しい知識 を身につ け,ハ ンセン病 について,一 人で も多くの人に関心をもっ
てもらうこと。 さらに,将 来看護職 に就 く者 として,過 去 のハ ンセン病看護 について振 り返 り,今
後の看護 に生かす。
研 究 方 法 :ハ ンセン病関連 の既存資料や過去療養所訪問 された人の資料 をもとに,研 究 の柱 を,社 会復帰 ,趣
味 ・文化 ,看 護 の 3本 柱 に,ハ ンセン病回復者 さんに,倫 理上 の配慮 をした上で ,イ ンタビュー調
査を行った。
調査内容 を検討す るために,ハ ンセン病回復者 の方 々の陶芸展 にボランテ ィアとして参加 し, 2人
の方 か ら,研 究 の柱 にそってインタビューを実施 し,療 養所 での現地調査 の事前調査 とした。
平成 16年 8月 20∼ 22日 まで ,長 島愛生園と大島青松園の療養所 を訪間 したが,卒 業研究 の対象 は
大島青松国に した。
大島青松園の入所者 は174人 ,そ の うち S県 出身者 は11人 で,調 査 に協力頂 ける 6人 に半構成的な
面接聞 き取 り調査 を実施 した。
:学
生 5人 は,ハ ンセン病回復者 と旧知の様 に研究 テーマについて,深 く掘 り下げた内容 を聞 き取 る
研究成果
ことがで きた。
その成果 を,大 学祭 の催 しや県のハ ンセン病 フ ォー ラムで発表 した。
ハ ンセン病回復者 の随筆集 の出版や陶芸展 にボランテ ィアとして協力 した。
教員の役割 :ハ ンセン病 の基礎知識 のための資料提供 ,研 究 テ ーマに従 った研究方法 の助言 ,ハ ンセン病療養所
訪間の企画 ・調整 ,卒 業集録のまとめへ の助言
,
は 2人 で実施 した。
す る こと を柱 に卒 業研究 をすす めた。 ハ ンセ ン
平成 16年 度 は「ハ ンセ ン病元患者 さんか ら学
んだこと」 とい うテ ーマで ,社 会復帰 )趣 味 ・
病関係者 6名
文化 ,看 護 を研究 の 3本 柱 と し,表 2の 概要 で
すす めた。長島愛生 園 と大 島青松園の 2泊 3日
の療養所訪問 と回復者 の方 々の陶芸展 へ のボラ
ンテ ィア参加 ,ハ ンセン病 へ の正 しい理 解 を広
めるための大学祭 での催 しや県主催 の フ ォー ラ
ムに参加 した。
平成 17年 度 は 「ハ ンセン病 の差別 ・偏見 を考
える」 とい うテーマで ,表 3の とお リハ ンセン
病 に対す る差別・偏見 を生み出 した もの ,差 別・
偏見 が根強 く残 って いる理由 について 明 らかに
-36-
(報 道 ・教育
。宗教 。医療 ・行政 ・
家族 ),大 島青松 園 の 回復者 6名 を対象 に半構
成的面接法で イ ンタビュー調査 を実施 した。ハ
ンセン病 へ の差別 ・偏見 をな くす取 り組みの一
環 として ,大 学祭 の企画展 において研究成果 の
一部 を紹介 した り,県 内小学生向け副読本 の作
成
(ハ
ンセン病 の歴史 ,QLAIB当 )を 行 った。
皿.研 究 方 法
看護学生等 による交流訪問事業で ,ハ ンセ ン
病療養所 を訪問 した学生 に,事 業 の成果 と今後
∼ 療養所訪間か らの学び ∼
ハ ンセン病 を卒業研究 に取 り入れて
表 3平 成 17年 度 の卒業研究 の概要
研究 テ ーマ
研 究 目的
研 究方 法
研 究成果
教 員 の役割
「ハ ンセン病 の差別 偏見を考 える」
ハ ンセン病 に対す る差別 偏見 を生み出 したもの ,そ れに対す るハ ンセン病回復者 の受け とめ様
差別・偏見 が根強 く残 って いる理 由 について明 らかにす る。そ して将来看護職 に就 く者 として ,ハ
ンセン病 の差別 ・偏見問題 へ の関わ り方 ,正 しい知識を一人で も多 くの人に伝 えるために出来 るこ
とについて考 える。
ハ ンセン病関係者 6名 僻艮道 ・教育・宗教 。医療 ・行政 ・家族),ハ ンセン病回復者6名 を対象 とした。
倫理上 の配慮 をした上で,半 構成的面接法 によリハ ンセン病 の差別 偏見 についてのインタビュー
調査を行 った。
ハ ンセン病回復者 へ の イ ンタビューは平成 17年 8月 29∼ 30日 で ,国 立 ハ ンセン病療養所 「大島青松
園」 を訪問 して行った。大島青松園の大 所者 は159人 (前 年比較 -15人 ),そ の うち S県 出身者 は11
人で,そ の県人会会長 の紹介 にて調査 の協力を得 た。
学生 5人 は,ハ ンセン病 を取 り巻 く多方面 の関係者 か ら,そ れぞれの立場 による思いや意見を聞き
また,療 養所訪間 によリハ ンセン病回復者 と交流 を深めたことか ら,研 究 テーマについて深 く考察
することがで きた。
その成果 を大学祭 の催 しで発表 し,県 内小学生向け副読本 の作成 (ハ ンセン病 の歴史,QaAIB当 )
を行った。
ハ ンセン病 の基礎知識 のための資料提供 ,研 究 テーマに従 った研究方法の助言 ,ハ ンセン病療養所
訪間の企画 ・調整 ,卒 業集録 の まとめへの助言
,
,
の取 り組み に活 かす ことを目的 に 自由記載 で感
想 を求めている。卒業研究 を実施 した看護学生
10人 の 了解 を得 た上で , S県 と S県 藤楓協会 の
Ⅳ。研 究 結 果
事務局 に,そ の感想文 か ら学生の学びをまとめ,
学会誌等 に発表す る ことの承諾 を得 た。
平成 16年 は, 8月 20日 ∼22日 に長島愛生 園,
10人 の学生 の療養所訪問を しての学びの内容
・
'大 きく「差別 偏見 ,人 権無視の歴史 の理
は
大島青松園のそれぞれの療養所 に 1泊 2日 で 5
解」「療養所回復者 の現状 の理 解」「今後 に必要
な取 り組 み」「今後 の 自分 の あ り方」 に整理 さ
人 の学生 が訪問 した。
れ た‐
°
平成 17年 は, 8月 29日 ,30日 に大島青松園 に
1泊 2日 で 5人 の学生 が訪問 した。
1.
差別 ・偏 見
,
人権無視 の理解 (表 4)
療養所訪問後 の感想文 (A4サ イズ 1枚 程度)
か ら,学 び を示 した部分 を抽 出 し,類 似 の もの
学生 は,家 族 か ら縁 を切 られた り,人 間扱 い
されず ,罪 人 の よ うな披 い を受 けたとい う<理
をまとめ,分 類 した。
不尽 な差別 ・偏見 >が あった ことを学んでいた。
また,故 郷 や家族 か らの <強 制的 な終生隔離 >
により,島 での収容生活 を余儀 なくされた こと
,
表 4差 別 偏見 ,人 権無視の歴史の理解
<理 不尽 な差別 ・偏 見 >
・他 人か らだけで な く家族 か らも縁 を切 られ るほ ど,嫌 われ る病気 だった。
。今 では信 じがたい差別 によるキ い経験 を して きた。
・人間扱 いされず ,罪 人の ような扱 い を受け続けた。
・休む間もなく働 き通 しでなければならなかった。
<強 制的 な終生隔離 >
・故郷や家族 と強制的に引 き離 され ,島 での収容生活 を強い られた。
<社 会復帰の困難 さ>
・高度経済成長期 の頃 には社会復帰 を望む療養所入所者 も多か ったが,様 々な問題や困難 な状況 がおこる時代
背景 があった。
・後遺症 が少 なく若い入所者 は社会復帰 をした り,そ れを考 える人は多かったが簡単な ことではなか った。
<医 療従事者 の関与 >
。医療従事者 が隔離 の歴史に深 くかかわって きた事実を受けとめる必要がある。
-37-
福澤陽 一 郎 ・秋鹿
<社 会復 帰 の 困難 さ>と
して ,社 会復帰 に密接
都子
を回復者 は抱 いて い る こと を学 んで いた 。
に関連 す る後遺症 や受 け入れ を阻 む 困難 が あっ
た こ とを述 べ てい た 。そ して隔離 の 歴 史 には深
く<医 療 従 事者 の 関与 >が あった こと を学 んで
3,今 後 に必要な取 り組み
(表
6)
島根 県 と島根 県藤楓協会主催 の 看護 学生 の 療
養所訪 問 は ,ハ ンセ ン病 につ いて ,正 しい理 解
いた 。
をす るとい う ことと訪 問 した人 た ちが何 か 自分
2.ハ ンセ ン病 回復者の現状 の理解
学生 は回 復 者 と膝 を交 え,
(表
5)
た ちにで きることか らは じめて も らう こと を 目
2時 間 ∼ 6時 間 に
わ た って 話 を聞 かせ て頂 いた。学生 は ,両 親 の
的 と してい る。
学生 は ,今 なお差別 や偏 見 の傷 が癒 えてい な
死 で す ら家族 か ら連 絡 がない こと,何 十年 に も
い現状 など,島 で学 んだ こと を周 りの 人 に伝 え
わた る差 別 ・偏 見 ,無 意味 な隔離 に よ り,回 復
<多
者 の心 に は 今 なお <深 く残 る傷跡 >が 存在 す る
こと を述 べ て いた 。 一 方 ,そ の よ うな幸 い体験
れ る場所 で ,差 別 ・偏 見 を受 けなが ら暮 らした
をして きたに も関わ らず ,他 人 を思 いや り,今
人 がい るとい う事実 を,社 会 は決 して 忘 れて は
を幸 せ と言 えるような<人 としての強 さ>を 感
じとっていた。そ して 自分 らが強 い られたよう
な らない こと,そ れ を多 くの 人 に話 し伝 える こ
な差別 ・偏見 の歴史 を今後三度 と繰 り返 さない
で欲 しい とい う,社 会 に対す る<切 なる願 い >
で あ る こと も述 べ ていた 。 そ して ,そ の よ うな
,
犬を正 し く知 って もらう >こ と
くの 人 に現 】
が必 要 で あると述 べ て いた。 また ,自 由 が奪 わ
とで <過 ちの歴 史 を風 化 させ ない >努 力 が必 要
差別 ・偏 見 の歴史 につ いて ,一 人ひ と りが考 え
表 5ハ ンセン病回復者 の現状 の理解
<深 く残 る心 の傷跡 >
。家族 か ら縁 を切 られ ,両 親 が亡 くな った時 で す ら兄弟 か ら連絡 が ない ことで深 く傷 つ き,怒 りの 気持 ちが癒
えないで い る。
・無意味 な隔離 な ど環境 や社会 がハ ンセ ン病 に与 えた傷 は実 際 に会 わなければ分 り得 ないほ ど深 い 。
・何十年 に も渡 って受 け続 けた差別 や偏 見 は今 で も入所者 の心 の 中に染 み込 んでい る。
・病気 や家族 の話題 では言葉 が途絶 え沈黙 もあ り,今 なお深 い心 の傷 を抱 えてい る
。人 に食 べ物 を勧 め ることが出来 ない ,島 の外 へ 出 な い など,心 の奥 には差別 や偏見 に対す る恐怖 が あ る。
<人 と して の 強 さ>
・幸 い経 験 を運命 と して乗 り越 え生 きて きた「人」 と しての強 さが あ る。
・三 度 と会 わないか もしれ ない 自分 の ために祈 ると言 って くだ さった。
・幸 い体験 を しなが らも昔の ことが あ るか ら今 は幸 せ だ と笑顔 で話 され る。
<切 な る願 い >
・差別 ・偏 見 の歴 史 を三度 と繰 り返 さないでほ しい と切 に願 って い る。
表 6今 後 に必要 な取 り組み
<多 くの人 に現状 を正 しく知ってもらう>
・正 しく理 解 してもらえるように,こ の島で学 んだことを周 りの人に伝 えたい。
・多 くの人に今なお差別や偏見の傷 は癒 えていない現状 を知 ってもらう必要がある。
・差別や偏見をなくすために私 たちが出来 る活動について考 えることが出来た。
<過 ちの歴 史を風化 させない >
。自由が奪われるような場所で差別や偏見を受けて暮 らした人がいることを絶対に忘れてはいけない。
。私 たちに出来 ることは多くの人に話 をし,伝 えてい くことで忘れないようにすることだ。
<過 ちの歴 史を繰 り返 さない >
・差別 偏見 の歴史について私 たち一人ひとりが考 え,三 度 と同 じことを繰 り返 さないように してい く。
・回復者 だけでなく障害を抱 えた人々に対 して も同 じ過 ちを繰 り返 さないようにす る。
<回 復者 の 自由を守 る>
・ 高齢化 の進む回復者 が,本 人の望む場所で穏や かに暮 らせ るようにす る。
-38-
ハ ンセン病を卒業研究 に取 り入れて ∼ 療養所訪問からの学び ∼
表 7今 後 の 自分の あり方
<自 己 の 内面 へ の気 づ き>
・入 所者 を心 か ら想 う子供 たちの言動 に触 れ ,全 ての ことを特別視 しているよ うな自分 に気 づ いた。
。看 護者 と しての 日標 >
・過 ちの 事実 を受 け とめ ,自 分 な りの看護観 や人間観 をみつ けた い。
・正 しい こ とと問違 ってい ることを見極 め ,判 断 で きるよ う心 が けた い。
<人 と して
。看護者 と して学 び続 ける >
・卒業研 究 の枠 に とどま らない生涯 の学 び となった。
・社会復 帰 した人や支援 した人 につ いて な ど,様 々な角度 か ら考 え学 び続 けて い きたい。
<人 と して
る ことで ,ハ ンセ ン病 だけで な く,障 害 を抱 え
け入れ ,そ こに お ける家族 の役割 を知 ると挙 げ
た よ うな社 会 的 に弱 い立 場 の 人 々 に対 して も同
てい る (関 屋 ,2001)。
じ<過 ち の 歴 史 を繰 り返 さない >必 要 が ある こ
それ ぞれ の療養所 で は ,訪 間 目的 に合 うよ う
とを学 んで い た。 そ の他 ,高 齢 化 が進 む 療養所
に ,施 設 見学 ,施 設 ス タ ッフや回復者 の 自治会
の現 状 を と らえ,穏 やか に望 みの通 り暮 らせ る
によ る講演 ,回 復者 との交 流 な ど企 画 されて い
よ う<回 復 者 の 自由 を守 る >こ とが必 要 で ある
るが ,回 復者 か らじっ くり話 を聞 くとい う機 会
と捉 えて い た 。
は少 ない。今 回 ,卒 業研究 で じっ く り,テ ーマ
に沿 って回復者 の話 を聞 く ことに した理 由 には
4.今 後 の 自分 のあ り方
(表
7)
,
療養所 の 回復者 の 平 均年 齢 が77.3歳 と高齢化 が
学 生 は ,島 内 の小学校 児童 に よる療養所案 内
進 んでい る ことと大 島青松 園 を訪 れ た看護師 の
を受 けた際 に ,回 復者 を想 う子供 た ちの 言動 に
「時間 がない。死 んで しもた ら遅 いや んか」 当
事者 がいな くなる ことで 問題 が解決 (=自 然消
触れ ,ハ ンセ ン病 回復者 や療 養所 の ことな どを
特別視 して い た <自 己 の 内面 へ の気 づ き >を 経
験 して いた 。 また ,自 分 な りの 看護観 や人 間観
滅 )し て しまった ら,こ んな大 きな人権侵害 は
「 自分磨 きのための学習材料 」 が単 なる「歴 史
を見 つ け る ,正 しい ことと間違 って い る こと を
見極 め ,判 断 で きる,と い った <人 と して ・ 看
護者 と して の 目標 >を 掲 げていた。 そ して ,卒
業研 究 の 枠 に とど ま らな い生涯 の 学 び とな り
,
今後 も様 々 な角度 か ら考 え学び続 け てい きたい
とい う<人 と して 。
看護 者 と して 学 び 続 け る >
(中
田 ,2001)こ
とと共通 した思いがある。
緊張 した学生 は,出 会 いの最初 の一言 「この
顔 をみ た ら絶対忘れ られん じゃろ」 (ハ ンセ ン
病 の後遺症 )に 驚 か され るが,患 者作業 ,強 制
入所 ,断 種 ・堕胎 ,監 禁 ,偽 名 の使用 と,い わ
ゆる地獄の底 をみ て きた人たちが,ユ ーモ ラス
なエ ピソー ドを笑顔 で話 され るの を聞 くと,人
意欲 を示 して いた 。
V.考
の 1ペ ー ジ」 になって しまう
としての強 さと人間性 の豊 か さに感動 させ られ
察
た。
学生 の感想文 には,療 養所訪問直後 の記憶 が
生活や人生 を奪われ ,仕 事や家族 や故郷 を失
鮮明なうち に,そ の感動 と思いが書 かれてお り
S県 と S県 藤楓協会 の事務局 が,療 養所訪間の
い,夢 をあきらめ,療 養所 を終 の棲家 とさせ ら
れた現状 について学生 は,「 差別 ・偏見 ,人 権
意義 を高 く評価す る根拠 の 1つ となってい る。
ハ ンセ ン病療養所 の 多摩全生 園では,看 護学
無視 の歴史 の理解」「ハ ンセ ン病 回復者 の現状
生 の訪問 目的 を 1)ハ ンセ ン病 について総括的
文 には記載 がなかったが ,鎌 田が指摘 している
に学 ぶ , 2)ハ ンセン病療養所 における看護者
の役割 を知 る, 3)療 養所 をとりまく環境 ,健
康管理 の実際 を学 ぶ , 4)一 般社会 か ら隔離 さ
病 む人 にとってふ さわ しい医療 と安息 が与 えら
れ た場 ではなかった事実 (鎌 田 ,2001)に つい
,
れ た生 活 での 「生 きる」 意味 ,長 期 の強制隔離
の人権問題 を考 える,
5)社 会復帰 と家族 の受
-39-
の理 解」 にまとめたよ うに,学 び とった。感想
て ,卒 業 集 録 (新 宮 ら,2004),(金 山 ら
2005)で は,看 護 を患者 同士 が行 い,看 護師 は
じめ医療関係者 にハ ンセン病 につ いての正 しい
,
福澤陽 一郎 ・秋鹿
都子
(回 復者 )の 言葉
「 もう
知識 がな く,差 別 ・偏 見 を もって治療 していた
で もあった。
」元患者
ことが具体 的 に ま とめ られ て い る。
故郷 の ことはいいです よ。家族 の こと も。療養
所 の家 が第二の家 で,こ こが第二の故郷 ですよ。
らい予防法 が廃止 され ,90年 に わ た る不 当 な
隔離政策 が終 焉 を迎 えた今 ,三 度 と同 じ過 ちを
繰 り返 さない ため に何 が必 要 で ある か ,が 問わ
家族以上 の付 き合 い を,こ こでは療友同志 が し
て きま したか ら」 (徳 永 ,2001)と 共通 してい
れ てい る。 中田 が長島愛生 園 の ス タ ッ フの言葉
る。
として引用 している 「見学者 の方 がいつ も, ら
この 問 い をどう受 けとめ,何 をどう してい く
い予防法 が廃止 されて何 か変 わ りま したか ?」
とい う質問を受 けます。私 はいつ もこ う言 うん
のかが,学 生 の卒業集録 の重要 な柱 になる。
です。「では,社 会 はどう変 わったので す か ?」
の言葉 は重い (中 田,2001)。
学生 の卒業研究 に快 く協力頂 いた,大 島青松
園 のハ ンセ ン病回復者 の方 々 と療養所訪間 の学
徳永 は,ハ ンセ ン病熊本地裁判決 で 引用 され
た 「不作為」 に言及 し,差 別 ・偏見 をな くす た
めに 「あなたな らどう考 え,ど うす るのがいい
生の感想文 を提供頂 いた島根県 な らびに島根県
と思 うか を問 い,そ こ出た 答 えの方 向 に一歩 で
も,二 歩 で も足 をすすめる こと」 を求 めている
学会学術学会 (2006.丸 亀市)に おいて発表 し
(徳 永 ,2001)。
藤楓協会 の方 々に心か ら感謝致 します。
本論文 の要 旨 は,第 16回 日本医学看護学教育
た。
学生達 は,療 養所 で学 んだこと
を周 囲の 人 たちに伝 えるために ,家 族 と話 し
ハ ンセン病 について大学祭や県主催 の フ ォー ラ
文
,
献
ムで発表 した。
「 らい予防法」廃止 のために尽力 し,回 復者
福 澤陽 一 郎 ,吉 川 洋子 ,恒 松徳 五 郎 (2004):
ハ ンセ ン病 と看 護教育 ,島 根 県 立 看護短期
とともに歩 んで きた大谷 の 「 (ハ ンセ ン病 につ
いて)医 学の社会的責任 が正 しく遂行 されなかっ
た経緯 を明 らかに し,今 後 の 医療 ・福祉 の実践
鎌 田澄子
に生か し,そ の教育 に人権侵害 の反省 を盛 り込
大学紀要 ,9,9-14.
(2001):「 らい予防法」 の廃止 が現
代 に 間 う こ と―隔離 と患 者 の 人権― ,聖 母
女子短期大 学紀要 ,14,8-16.
むのでなければ ,今 後 も同 じ人権侵害 の過ちを
繰 り返す。看護 ・医療 ・福祉 において ,専 門技
金 山友美 ,中 谷 ク子 ,錦 織美紀 ,米 山裕理 ,和
田 ちひ ろ (2005):ハ ンセ ン病 の 差 別 ・偏
術 の前 に,基 本的人権 など近代社会 の人間のあ
り様 をつ ねに考 えてい ることは基本で ある。そ
見 を考 え る ,平 成 17年 度 卒業 集 録 ,213-
のための教育 を行 わなければ い けな い」 (大 谷
,
と
中田 ひ とみ
(2001):専 門職 と して ,何 を し
,
何 を しなか っ たの か ―バ ンセ ン病 と看護 の
2001)を 大切 に した看護教育 が問われ ている。
Ⅶ。ま
230。
か か わ り ,看 護 教 育 ,42(12),1097`
め
1101.
(2001):医 師 と して ,官 僚 と しての
責任 の 重 さ,看 護教育 ,42(8),610-612.
関屋 ス ミ子 (2001):ハ ンセ ン病 と看護教育
看護荻育 ,42(8・ 9),626.
新宮美沙子 ,早 見麻 衣子 ,福 原 あゆ r/3,本 多奈
緒 子 ,松 田優子 (2004):ハ ンセ ン病元患
者 さんか ら学 んだ こと,平 成 16年 度島根 県
立看 護短 期大 学卒業集録 ,187-204.
徳 永進 (2001):問 われて い る故 郷愛 ,看 護教
育 ,42(8・ 9),605-609.
大 谷藤郎
ハ ンセン病 を卒業研究 に取 り入れ て 3年 目を
迎えた。今年 は,回 復者 と家族 ・故郷 とい うテー
マで研究 をすすめてい る。その様子 は山陰中央
新報の山陰 ワイ ドに「人権 と医療の魂探す旅」
2006年 8月 26日 付 ,「 帰れ な い」 現実 に衝撃
(家 族 とのつ なが りやふるさとへ の思 いまで も
切 り離 された回復者)8月 27日 付 ,「 正 しい知
識を心に刻む」 8月 29日 付 に紹介 されている。
その内容は,徳 永 が今問われていることとして
まとめてい る「家族は被害者でもあり,加 害者
-40-
,
∼ 療養所訪 間 か らの学び ∼
ハ ンセ ン病 を卒業研究 に取 り入れ て
A Co]rect Understttm ng of]肛 瑯 en′ s
Dttease through G阿 遺u■tttn Study
Yolchiro FuKUZAIVA and Satoko AIKA
Abstract
「
Since 2004, dttorts have been made to enhance he studen偽 understanding of
Hansenis Disease for heir graduation sttdy.Duing tlle graduation sttdy process
be柿健en 2004 and 2005, ten students visited Oshilnか SeishOen to get acquainttd
wih he residents su∬ ettng from Hansenis Disease.A■ er
he sttdents wTo俺 reports which were di
siting the sanatoritlm,
ded into he followiコ 唱 four categottesi
l)IIpatientぎ histoly regarding various enforced ild‐
ingements upon tlleir
ghts
such as isolation in he sallatottum'12)Wdamage he residents have surttred men_
tally,physically and socitty in heir endre life as a result of tlle isolationI1 3)'Itlle
enforcement of a1lowing he residentぎ
retllrn to society or pro
more secure litt and surlcient cre in the sallatorium‖
ding tllem witll
の Ilenhancement of a
greattr understallding of Hansenis Disease by visiting the residents in the Nと
tional Sttlatottul■
11.
Key Words and Phrases:
Hansenis Disease, sanatottunl, nursing education,
graduation sttldy
-41-