プレスリリース 2016 年 3 月 11 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 京都工芸繊維大学 ポリエチレンテレフタレート( ポリエチレンテレフタレート(PET) PET)を分解して 分解して栄養 して栄養源 栄養源とする細菌 する細菌を 細菌を発見 -ペットボトルなどの ペットボトルなどの PET 製品の 製品のバイオリサイクルに バイオリサイクルに繋 リサイクルに繋がる成果 がる成果- 成果- 慶應義塾大学理工学部の吉田昭介助教(現所属:京都大学工学研究科ERATO秋吉プロジェクト研究員) と宮本憲二准教授、京都工芸繊維大学の小田耕平名誉教授と木村良晴名誉教授の研究グループ、帝人 株式会社、株式会社ADEKAが共同研究を行い、ポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して生育す る細菌を発見するとともに、その分解メカニズムの解明に成功しました。 PETは、ペットボトルや衣服等の素材として、世界中で活用されています。PET製品の一部はリサイ クルされていますが、その多くは廃棄され、自然界での生物による分解がされないと考えられてきま した。本研究結果はこの通説を一部覆すもので、その応用は使用済みPET製品のバイオリサイクル技 術の開発に貢献することが期待されます。 本研究成果は、2016年3月10日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Science」に掲載されました。 1.本研究のポイント ・PET を分解し、生育する新種の細菌 Ideonella sakaiensis 201-F6 株を発見。 ・201-F6 株が生産する 2 種の PET 加水分解に関与する酵素※1(PETase, MHETase)を発見。 ・PETase, MHETase の諸性質から、201-F6 株が自然環境中で PET を栄養源として生存可能であること を解明。 2.研究背景 PET は石油を原料に製造され、ペットボトルや衣類などに汎用されています。世界の PET 樹脂総生 産量(2013 年)は、約 5600 万トンで、容器包装用(1540 万トン)、フィルム(320 万トン)、繊維 (3800 万トン)等に使用されています。リサイクルされているのは、ペットボトルのみで、それはペ ットボトル生産量(613 万トン)の 37%、PET 樹脂総生産量の 4.1%に過ぎません。使用済み PET 製品の 多くは廃棄されています。今後、人類が持続可能な社会を構築するためには、限りある資源への依存 から脱却し、リサイクルへと舵を切ることが求められています。現在行われている主要な PET のリサ イクル手法の一つにケミカルリサイクルがありますが、膨大なエネルギーを消費するなどの問題点が あります。 PET 製品は安定であるため、自然界では生物分解を受けないとされてきました。しかし私たちは、 PET を栄養源とする微生物を見つけることができれば、その生物機能を利用することで、低エネルギ ー型・環境調和型の「PET バイオリサイクル」が実現できると考えました。 3.研究内容・成果 研究は、自然界より PET 分解菌を探索することから開始しました。様々な環境サンプルを採取し、 PET フィルムを主な炭素源とする培地に投入し、培養を行いました。数週間後、PET くずを含む堆積 物を投入した試験管において、PET フィルムに多種多様な微生物が集まり、分解している様子を発見 しました。そして、この微生物群から強力な PET 分解細菌を分離することに成功しました。私たちは 1/3 本菌が大阪府堺市で採取した環境サンプル由来であることから Ideonella sakaiensis (イデオネラ サカイエ ンシス) 201-F6 株と命名しました。201-F6 株は PET を分解するばかりか、PET を栄養源として増殖する ことが分かりました。 (左)PET フィルム上で生育する 201-F6 株(右)フィルム表面を洗浄後、観察される分解痕 次に、この細菌の PET 分解の仕組みに興味を持ち、PET を分解する酵素に関する情報を得るためゲ ノム※2 の解読を試みました。その結果、これまでに PET を加水分解※3 することが報告されている酵素 と類似した配列をコードする遺伝子を見出しました。そこで、その遺伝子産物であるタンパク質の機 能解析を行ったところ、PET を加水分解する能力があることが判明しました。驚くべきことに、この 酵素はこれまで報告された PET 加水分解酵素(本来の機能は他の高分子エステル化合物の加水分解と 考えられる)よりも、①PET を好んで分解する、②PET が頑丈な構造となる常温において高い分解活 性を持つ、ことが分かりました。これらの能力は、201-F6 株が自然界で PET を栄養源として生存する ための「武器」となっている可能性があります。私たちは、これらの性質を考慮し、この酵素を PETase (ピー・イー・ティー・エース)と命名しました。 さらに私たちは、PETase は PET を加水分解し、MHET(テレフタル酸 1 分子とエチレングリコール 1 分子が脱水縮合した化合物)を主に生成し、それ以上反応が進まない現象に着目しました。MHET 加水 分解酵素の存在を予想し、201-F6 株の網羅的な遺伝子発現解析※4 を進めたところ、PETase と発現が 類似した遺伝子に行き当たりました。この遺伝子がコードするタンパク質の機能解析を行ったところ、 MHET を迅速に加水分解する能力があることを突き 止めました。この新酵素は MHET に非常に高い親和 性を示したことから、MHETase(エム・エイチ・イー・ティー・エース) と命名しました。 以上の結果から、環境中より分離した細菌 201-F6 株が、2 種の酵素 PETase と MHETase により、PET を 効率よく、単量体であるテレフタル酸とエチレング リコールに分解することが明らかとなりました。生 成されたテレフタル酸とエチレングリコールは、本 菌により更に分解され、最終的に炭酸ガスと水にな ります。この段階からは、本菌のみならず、多くの 微生物が分解することが報告されています。これま で PET は自然界で、分解されず蓄積するのみと考え Ideonella sakaiensis 201-F6 株は 2 種の酵素 られてきましたが、今回の研究により、PET を物質 を用いて PET を単量体にまで分解する 循環※5 に組み込む生物的なルートが存在すること が明らかとなりました。 2/3 4.今後の展開 微生物・酵素を用いた PET 分解は化学処理と比べ、エネルギーの消費が小さく、環境にやさしい手 法です。今回見出された微生物由来酵素の活性や安定性の強化が達成できれば、理想的な PET リサイ クルの実現が近づくと考えています。 <原論文情報> タイトル(和訳):A bacterium that degrades and assimilates poly(ethylene terephthalate) (ポリエチレンテレフタレートを分解・資化する細菌) 著者名:吉田昭介 1,2†、平賀和三 1、竹花稔彦 3、谷口育雄 1、山地広尚 1、前田康人 4、豊原清綱 4、 宮本憲二 2、木村良晴 1、小田耕平 1 1 京都工芸繊維大学、2 慶應義塾大学、3 株式会社 ADEKA、4 帝人株式会社、†現所属:京都大学 掲載誌:Science ※本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費助成事業 若手研究(B) 24780078, 26850053、 及び、野田産研研究助成(奨励研究助成)の補助を受けて行われました。 <用語説明> ※1 酵素:生物が物質を代謝するために生産するタンパク質。 ※2 ゲノム:デオキシリボ核酸(DNA)から構成される生物の遺伝情報の総体。細菌ゲノム上には、数 千以上の遺伝子が密に並んでいる。 ※3 加水分解:エステル結合では、水分子と反応し、酸とアルコールを生成する。 ※4 遺伝子発現:遺伝子情報が細胞の構造や機能に変換される過程。本研究では、その過程において 中間的な役割を果たすメッセンジャーRNA を細胞より取り出し、次世代シーケンサーにより網羅的に 解読した。 ※5 物質循環:環境中における物質の合成・分解の流れ。 ※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。 ※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、京都大学記者クラブ、各社科学部等に送信させていただ いております。 ・研究内容についてのお問い合わせ先 慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科 准教授 宮本 憲二(みやもと けんじ) TEL:045-566-1786 FAX:045-566-1783 E-mail:[email protected] 京都工芸繊維大学 名誉教授 小田 耕平(おだ こうへい) E-mail:[email protected] ・本リリースの配信元 慶應義塾広報室(竹内) TEL:03-5427-1541 FAX:03-5441-7640 Email:[email protected] http://www.keio.ac.jp/ 京都工芸繊維大学広報室(中道) TEL:075-724-7043 FAX:075-724-7029 E-mail:[email protected] http://www.kit.ac.jp/ 3/3
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