第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 45 若年被殻出血 2 例における身体機能・歩行能力の相違に関する検討 越中 宏明(えっちゅう ひろあき),田村 哲也,吉尾 雅春 千里リハビリテーション病院 セラピー部 キーワード Gait Judge System,被殻出血,歩行能力 【はじめに,目的】 若年の脳卒中片麻痺例は自立歩行に達することが多い.しかし個々の症例を分析すると,身体機能や歩行形態 は多種多様である.今回,当院での回復期リハビリテーション施行後,自立歩行を獲得した若年被殻出血 2 例を 経験した.この 2 例の身体機能や歩行能力の相違を比較検討したので報告する. 【方法】 症例 A:54 歳男性,症例 B:39 歳女性の左被殻出血 2 例を対象とした.画像所見では両例ともに広範囲の出血 があり,被殻から放線冠に拡がる病巣を確認した.入院時 Stroke Impairment Assessment Set 麻痺側運動機能下 肢項目(SIAS 下肢)は,症例 A:1 15(31 病日),症例 B:0 15(26 病日)であり,双方に中等度の感覚障害を 認めた.そして両例ともに可及的早期に長下肢装具(KAFO)を作製し,歩行練習を主体とする理学療法を実施 した. また川村義肢社製 Gait Judge System(GJS)を使用し,入・退院時における歩行中の 1)麻痺側立脚後期背屈角 度(Tst 背屈角度) ,2)麻痺側立脚相足関節可動範囲角度(足可動範囲)を計測し,加えて表面筋電図を用いて麻 痺側前脛骨筋・腓腹筋の筋活動を確認した.関節角度の計測は,10m 歩行における 5 重複歩の平均値を採用した. その他,計測時の歩行条件として入院時は KAFO 後方介助歩行,退院時は短下肢装具(AFO)および T 字杖に よる自立歩行とした.なお足継手を症例 A は Gait Solution(GS),症例 B は制限体重を超過していたためダブル クレンザックを使用し,計測時は背屈フリーに設定した. 【結果】 退院時 SIAS 下肢は症例 A:6 15(207 病日),症例 B:5 15(193 病日)であった.Modified Ashworth Scale において下肢筋緊張は症例 A:3,症例 B:2 であった.入・退院時の Tst 背屈角度,足可動範囲では,症例 A は 4.2̊ 5.5̊,2.2̊ 2.6̊,症例 B は 12.0̊ 13.9̊,9.4̊ 10.3̊ であった.加えて麻痺側前脛骨筋と腓腹筋の筋活動では,症 例 A は全歩行周期のわたる前脛骨筋の持続的な筋活動が特徴的であり,症例 B は前脛骨筋の筋活動は微弱なもの ! ! ! ! ! ! ! ! の腓腹筋の歩行周期に応じた筋活動が確認できた. 【考察】 画像上,皮質脊髄路や皮質網様体脊髄路は両例で損傷を認め,運動麻痺の程度も同等であった.しかし GJS における Tst 背屈角度や足可動範囲は症例 B で大きく,結果として歩行形態に相違が生じた.関節角度が異なっ た要因として,症例 A では歩行時の筋緊張が高かった事に加え,立位の不安定性や歩行に対する不安感なども筋 緊張の増加を助長していた.そのため足関節の可動範囲が少なく,歩行相における適切な筋活動,関節運動が生 じにくいという悪循環になっていた.脳卒中片麻痺例の歩行訓練を行うにあたって,如何に適切な歩行相を再現 するかは重要であり,筋活動の質や筋緊張に配慮した個別的な治療プログラムが不可欠であると考える. 1 第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 46 長下肢装具の膝継手のロックを外した歩行訓練により脳卒中重度片麻痺患者 の歩行能力が向上した一症例 山本 洋平(やまもと ようへい),田口 潤智,堤 万佐子,脇田 光,中谷 知生 宝塚リハビリテーション病院 療法部 キーワード 脳卒中,歩行訓練,長下肢装具 【目的】 長下肢装具は下肢の支持性が低下した脳卒中患者に対して効果的な運動療法を実践するための重要なツールで ある.膝関節を安定させることで積極的な立位・歩行訓練が可能となるが,なかには膝の安定性が十分に高まら ず短下肢装具へ上手く移行しないケースもある.今回,重度運動麻痺を呈し膝の安定化に難渋した症例に対して, 膝継手のロックを外した状態での歩行訓練(ロック解除歩行)が効果的であったため若干の考察を加えて報告す る. 【方法】 対象は当院に入院した脳卒中右片麻痺を呈した 70 代の女性である.平成 26 年 2 月に左被殻出血を発症,同年 3 月に当院へ入院した.身長 142.0cm,体重 47.1kg,下肢 Brunnstrom Stage(BRS)は 2,入院早期から長下肢装 具を作成し歩行訓練を行い体幹や股関節の安定性は高まったものの短下肢装具では膝折れが顕著であり最大介助 を要した.ロック解除歩行の介入は発症から 166 日経過した同年 7 月に開始した.介入方法は,長下肢装具を装 着し膝継手のロックを外した状態で後方から介助を行った.そして大腿カフに取り付けられたループを持って振 り出しを介助し,初期接地には大腿部を後下方へ押しつけ股関節と膝関節の伸展を誘導しながら前進した.介入 期間は 1 週間,頻度は一日 20 分を週 7 回とした.介入による歩行能力の変化を検証するため, 介入期間前後のロッ ク解除歩行における 10m 歩行の所要時間,歩数,立脚中期の膝関節屈曲最大角度の平均 (屈曲角度) ,下肢 BRS, 短下肢装具装着下の歩行の介助量を比較した.屈曲角度は矢状面から撮影した画像から装具大腿部と下腿部の外 側金属支柱を基準の軸とし,それらが交わる膝継手に角度計の中心を合わせ計測した. 【結果】 ロック解除歩行に関して,介入前の 10m テストは,所要時間 29.6 秒,歩数 41 歩,屈曲角度 66.0 度,介入後は 所要時間 23.2 秒,歩数 37 歩,屈曲角度 21.3 度であった.短下肢装具装着下の歩行の介助量は,伝い歩き最大介助 から軽介助へ減少した.BRS は介入前後で変化はなかった. 【考察】 長下肢装具は膝の安定を保障し股関節筋への選択的な促通が可能であり,本症例においても体幹・股関節の機 能向上に一定の効果を認めたが,膝関節の安定性獲得に難渋した.ロック解除歩行は膝を自由にし,遊脚期の屈 曲と立脚期の伸展という交互運動を集中的に繰り返す運動が可能である.これによって,自由度が高い環境にお ける膝関節の安定した制御を行う能力が向上したものと考える.今回の介入は発症から 166 日経過した時点で行 われたこと,介入前後の運動麻痺に変化がないことをふまえると,介入後の屈曲角度と短下肢装具歩行の介助量 の大幅な減少は,体幹や非麻痺側下肢を含めた身体の運動制御方法の変化に起因するものと考えられ,重度片麻 痺患者における課題指向型トレーニングの可能性を示唆するものである. 2 第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 47 回復期リハビリテーション終了後の重度脳卒中患者に対し継続して行った理 学療法の効果 岡田 誠(おかだ まこと)1),岡前 暁生1),陽川 沙季2),高山 雄介1),和田 智弘1),和田 陽介3), 道免 和久4) 兵庫医科大学ささやま医療センター リハビリテーション室1), 大阪府立母子保健総合医療センター リハビリテーション科2),兵庫医科大学 地域総合医療学3), 兵庫医科大学 リハビリテーション医学教室4) キーワード 慢性期,脳卒中,理学療法効果 【目的】 一般に脳卒中患者の機能改善は,回復期とされる発症後 6 か月までの期間を経過すると回復はプラトーになる と言われている.一方,陽川らは,回復期リハ終了後に継続して理学療法を実施する事の有効性を報告している. このように,慢性期理学療法の効果に関するエビデンスは十分でなく,特に重症例に対する効果は明らかでない. 本研究の目的は,回復期リハ終了後の重度脳卒中患者に対し継続して行った理学療法の効果について検討する事 である. 【方法】 対象は,他院での回復期リハ終了後, 更なる能力向上を目的とし 2012 年 9 月から 2015 年 2 月までに当院リハ科 に入院した脳卒中患者の内,熊本脳卒中地域連携ネットワーク研究会の Functional Independence Measure (FIM)重症度分類において,当院入院時に重度(18∼79 点)に該当した 9 例(男性 7 例,女性 2 例,年齢 52.6± 11.2 歳,発症後期間 262.3±69.0 日) とした.理学療法介入は,担当療法士による関節可動域練習,筋力増強練習, 基本動作練習,日常生活活動(ADL)練習等が実施された.評価項目は,Functional Movement Scale(機能的動 作尺度,FMS) ,下肢の上田式片麻痺回復グレード(下肢グレード) ,FIM とし,入院時及び退院時に測定を行っ た. 【結果】 当院入院日数は 138.7±42.4 日であった.FMS は入院時 6.4±5.4 点から退院時 14.4±12.2 点へと有意(p<0.05) な改善を認めた.FIM 運動は入院時 24.2±9.6 点から退院時 37.3±20.4 点へと有意(p<0.05)に改善し,FIM 合計 も入院時 45.0±15.7 点から退院時 60.4±28.1 点へと有意(p<0.05)な改善を認めた.一方,下肢グレード(入院時 4.7±3.6,退院時 4.6±3.7)と FIM 認知(入院時 20.8±7.2 点,退院時 23.1±8.8 点)では有意な改善は認めなかっ た.FIM の各下位項目については,整容(入院時 2.7±1.5 点,退院時 4.0±2.0 点) ,ベッド移乗(入院時 2.1±1.2 点,退院時 3.3±1.9 点) ,トイレ移乗(入院時 1.8±1.0 点,退院時 3.1±2.1 点),移動(入院時 1.7±1.1 点,退院時 3.6±2.5 点)の項目で有意(p<0.05)な改善を認めた. 【考察】 Jørgensen らは,脳卒中患者の理学療法効果について,発症後 5∼6 ヶ月を過ぎると回復はプラトーになると報 告しており,現在最も一般的な考え方となっている.一方,内山らは,回復期リハ終了後に引き続き入院による リハを行った事が有効であった症例を報告している.本研究では,このような患者の中で特に ADL が重度に障害 された者に対して,入院による積極的な理学療法を実施し,基本動作と ADL において改善が認められた.今回改 善が認められた要因として,平均年齢が 52.6 歳と比較的若く積極的な運動療法が可能であった事,重症例では発 症時の病態が重篤であり,早期からのリハが十分に行えず,日数制限のある回復期リハだけでは身体機能がプラ トーに達していなかった可能性が考えられ,重症例であっても必要に応じ長期にわたるリハが有効である事が示 唆された. 3 第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 48 重度脳卒中片麻痺患者の入院初期の歩行中の筋活動と退院時の歩行能力に関 する研究 安岡 実佳子(やすおか みかこ)1),大畑 光司2),小松 奈津美3),長尾 卓1),佐藤 公則1) 愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部1), 京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻2),高槻病院 リハビリテーション科3) キーワード 重度片麻痺,歩行,筋電図 【目的】 脳卒中片麻痺患者の機能回復には年齢や筋力(Andrews 2001) ,歩行中の筋活動との関連(Buurke 2008)が報 告されている.一方,機能回復が困難なことが多い重度片麻痺患者に限った研究は少ない.そこで,本研究の目 的は回復期リハビリテーション病院に入院した重度片麻痺患者の機能回復に関連する要因を歩行中の筋活動から 検討することとした. 【方法】 対象は回復期リハビリテーション病院に入院し,歩行困難のため長下肢装具(KAFO)を使用して全介助歩行 を行い,発症 90 日以内に測定が可能であった重度片麻痺患者 40 名(平均年齢 66.2±12.3 歳,男性 23 名,女性 17 名)とした.退院時に Functional Ambulation Categories(FAC)を評価し,FAC4 以上の自立群と FAC3 以下の 介助群の 2 群に分類し,2 群間での発症 90 日以内における KAFO 介助歩行時の筋活動を比較した.また同時に測 定時点での特徴として発症から計測までの日数,上下肢 Bruunstrom recovery stage,Barthel Index (歩行のみ) , FAC,下肢筋力を測定した.筋活動は表面筋電図計と加速度計(Noraxon 社製テレマイオ DTS)を用い,麻痺側 の大腿直筋,半腱様筋,前脛骨筋,外側腓腹筋,内側腓腹筋,ヒラメ筋,非麻痺側の前脛骨筋の各筋を計測した. 歩行条件は後方からの一人介助での KAFO 歩行とし,測定したデータは 5 歩行周期を抽出し,平均波形を算出し た.波形は 10Hz から 350Hz のバンドパスフィルターで処理し,50msec の RMS 波形に変換した.1 歩行周期を 0 100%Gait Cycle(%GC)に正規化し,平均波形は 1 歩行周期中の平均値 μV で除して正規化した.次に,麻痺 側下肢の 1 歩行周期を 20% ずつの 5 相に分割し,それぞれの期間における各筋の平均筋活動を算出した.統計処 理は対応のない t 検定,Mann Whitney の U 検定,χ2 検定を行った.統計学的有意水準は 5% 未満とした. 【結果】 自立群は年齢が平均 59.6±12.6 歳,男性 13 名,女性 7 名であり,介助群は平均年齢 72.7±7.86 歳,男性 10 名, ! ! 女性 10 名であった.2 群間の比較において自立群は年齢が有意に低く(p<0.01) ,非麻痺側股関節屈曲筋力(p< 0.05) が有意に大きい値を示した.各筋の各歩行周期における平均筋活動は,自立群で 0 20%GC における半腱様 筋の筋活動が介助群よりも有意に高値 (p<0.05) を示した. その他の測定項目は 2 群間で有意差を認めなかった. 【考察】 本研究結果では,KAFO 介助歩行下において歩行自立するものと自立しないものの間に筋活動の特徴の差が認 ! められた.今回の正規化の方法は歩行中の平均波形を 100% としており,持続的な筋活動が見られるのみの場合 には高い値とならない.自立群において 0 20%GC に高い筋活動が見られたことは,この位相で大きな筋活動を示 すというだけでなく,他の位相での筋活動が減少していることを示している.このことから歩行相に応じて,0 20%GC の股関節伸展運動を形成する半腱様筋の筋活動パターンが介助歩行下においても生じる患者では歩行自 立に至りやすいことが示唆された. ! 4 ! 第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 49 皮質下出血後に痙性と歩行時の躓きを呈した症例に対する機能的電気刺激と 免下式トレッドミル歩行トレーニングの介入効果について 谷口 直人(たにぐち なおと)1),鍬田 幸輔1),西下 智1,3),清家 美恵子2),松本 憲二2), 坂本 知三郎2) 関西リハビリテーション病院 リハビリテーション部1),関西リハビリテーション病院 診療部2), リハビリテーション科学総合研究所3) キーワード 機能的電気刺激,免荷式トレッドミル歩行トレーニング,痙性 【目的】 本症例は右皮質下出血後,痙性により歩行中の躓きを呈した症例である.若年でスポーツ復帰を希望していた ため,運動の妨げとならないように躓きを改善する必要があると考えた.痙性の抑制を目的に機能的電気刺激 (以 下,FES)が行われており,免荷式トレッドミル歩行トレーニング(以下,BWSTT)は,歩容の改善を目的とし て使用され,痙性の抑制にも効果があると報告されている.今回は,本症例に対して FES と BWSTT の治療を選 択することで,痙性と歩行時の躓きの改善を図ることを目的とした. 【方法】 症例は 19 歳男性,右皮質下出血を発症し,55 日目に当院入院,Brunnstrom Recovery stageVI,Modified Ashworth scale3,感覚障害重度鈍麻であった.入院 25 日目に屋内独歩は自立したが遊脚初期の躓きを認め,麻痺側 足部のクローヌスと足関節背屈可動域制限が残存していた.これらの問題点に対して FES と BWSTT を検討し た.より効果の得られる介入方法を選択するために評価期間を設け,FES と BWSTT を 1 日毎に 6 日間実施し, 介入前後に腓腹筋クローヌス持続時間(以下,GCT) ,当院外周 1 周(約 200m)歩行時の躓きの回数を測定し比 較した.BWSTT は免荷量 30%,快適歩行速度で 6 分間の介入を 3 セット行った.FES は「Walk Aide」を使用 し,歩行距離は BWSTT での距離と同様とした.評価期間にて,両者の介入前後で GCT や躓きの回数に同様の改 善が認められたため,両者を併用して介入することとした.介入期間は,両者を実施する期間(A1:14 日間) , 通常の理学療法のみを実施する期間(B:14 日間) ,再び両者を実施する期間(A2:14 日間)とした.効果判定 には,足関節背屈可動域,GCT,屋外歩行時の躓きの回数を挙げた. 【結果】 介入結果を,評価期間前→評価期間後→A1 後→B 後→A2 後の順に記載する.屋外歩行時の躓き(回)は 26 →103→7→6→5,GCT(秒)は 1.72→1.91→0.92→0.40→0.85,足関節背屈可動域(̊)は 10→ 5→0→0→0 となっ た. 【考察】 ! ! A1 期間後,躓きは 7 回以下まで軽減した.その要因として,評価期間と A1 期間を通して GCT が減少し,足 関節背屈可動域が 10̊ から 0̊ まで改善したことと歩行中の足関節背屈運動が促されたことが挙げられる.A2 期 間後も躓きを認めた要因として,痙性の残存により,足関節背屈可動域制限が残存したことと歩行中の足関節背 屈運動が阻害されたことが挙げられる.足関節背屈可動域制限が残存した要因は,痙性の影響に加え,術後の長 期臥床による廃用に起因する足関節背屈可動域制限の影響も考えられた.歩行時の躓きが減少したことから,本 ! 症例では FES と BWSTT の併用が痙性抑制に効果があったのではないかと考えた.他の問題点の要素を把握し, 適切な介入期間や方法を設定するよう十分に考慮しなければならないという課題がみえた. 5 第 8 セッション 神経(一般演題) 一般口述 50 回復期リハビリテーション病棟において長下肢装具を作製した重度片麻痺患 者の ADL 能力の変化について∼トイレ動作・移乗項目に着目して∼ 加藤 美奈(かとう みな)1),大垣 昌之1),山木 健司1),竹井 夕華1),坂口 勇貴1),竹下 優香1), 松岡 美保子1),藤本 康浩2),横山 雄樹3),井上 和紀3),冨岡 正雄4) 愛仁会リハビリテーション病院 リハ技術部 理学療法科1),川村義肢株式会社2), 株式会社近畿義肢製作所3),大阪医科大学 総合医学講座 リハビリテーション医学教室4) キーワード 長下肢装具,重度脳卒中片麻痺,FIM 【目的】 当院では重度片麻痺患者に対し長下肢装具を使用した立位・歩行練習を積極的に行っている.重度片麻痺患者 における入院時と退院時の ADL 能力の変化に関する報告は多いが,長下肢装具を作製した重度片麻痺患者を対 象とした報告は少ない.本研究は長下肢装具を作製した重度片麻痺患者を対象にトイレ動作・移乗項目に着目し て,入院時・退院時の ADL 能力の変化について調査することとした. 【方法】 対象は 2013 年 4 月∼2015 年 3 月末までに当院において長下肢装具を作製し理学療法を実施した脳卒中片麻痺 患者 72 名の内,入院時の FIM 運動項目合計点が 30 点未満であった 48 名を対象とした.本研究では重度片麻痺患 者の定義を入院時の FIM 運動項目合計点 30 点未満とした.カルテより後方視的に①対象者の FIM 運動項目合計 点の変化,②歩行自立とならなかった対象者の割合,③歩行自立とならなかった対象者の FIM 運動細項目のうち 1)トイレ動作,2)ベッド移乗,3)トイレ移乗について調査し,入院時と退院時の FIM 得点を比較検討した. 比較には Wilcoxon の符号順位和検定を用い,危険率 5% 未満を有意とした. 【結果】 ① FIM 運動項目の平均合計点は入院時 18.8 点,退院時 43.4 点であった.②歩行自立とならなかった対象者は 48 名中 39 名(81.3%)であった.③歩行自立とならなかった対象者の FIM 得点は 1)トイレ動作(1.2→3.2) ,2) ベッド移乗(1.5→4.1) ,3)トイレ移乗(1.3→3.6)と入院時と比較して退院時に有意に向上していた(P<0.01) . 【考察】 永井らによると重度片麻痺患者(運動細項目の合計点が 30 点未満)は自立到達度が低く,ADL の改善が難しい ことが示されている.しかし臨床場面では ADL 自立が難しい症例に対しても移乗の介助量軽減を目的に長下肢 装具を作製することも少なくない.本研究の結果から,他の要素の介入があるものの,重度片麻痺患者に対して 長下肢装具を使用した理学療法介入により歩行自立とならなかった対象者でもトイレ動作や移乗能力が有意に向 上することが示唆された.武井らによると脳卒中片麻痺患者の移乗動作能力は腹筋力や動的な立ち上がり・立位 方向転換のような一連の動作を構成する動作能力が重要であると述べられている.長下肢装具による自由度の制 限により麻痺側下肢支持性を保証し立位・歩行練習が可能となり,体幹機能の向上が期待できる.また麻痺側下 肢への積極的な荷重により麻痺側下肢・体幹の抗重力筋活動が促され支持性向上がおこり,非麻痺側下肢への重 心移動および非麻痺側下肢を軸とした立位方向転換が可能となったことが考えられる.このことから,歩行自立 の獲得の可能性が低い重度片麻痺患者においても早期から長下肢装具による立位・歩行練習を取り組むべきと考 えられる. 6
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