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日蚕雑 56(2),116-119(1987)
J Seric Sci. Jpn.
長鎖 アル キル基 を有す る酸性染料 の
絹 に対す る染着
道 明美 保 子
1)0清 水 慶 昭 1)0木 村 光 雄 2)
1)彦 根市八坂町・滋賀県立短期大学 (〒 522)
2)津 市上浜町 。三重大学教育学部 (〒 514)
(1986年 8月 6日
受領)
MIHOKO DoHMY01), YosHIAKI SHIMIzul)and MITsuo KIMuRA2):Dyeing of silk
、
vith acid dyes including a 10ng chain alkyl grOup
The effect of the introductiOn of a long chain alkyl group in the structure of acid dyes On the
adsOrption of the dyes by silk was examined
ln the 10wer pII range, ali the acid dyes used
(C.I.Acid Orange 7,Red 138 and Blue 138)were fully adsOrbed by silk. In the levelling acid
dye (Orange 7)which did nOt cOntain the alkyl group, the dye uptake decresed with the increase
of pH and the dye was not taken up in the netltral to weakly alkaline regiOns, whereas the dyes
containing the alkyl group were taken up by silk in the same pII regiOn. AdsprptiOn isotherms
of the acid dyes (the three dyes mentioncd above and Red l) for silk were Of the Langmuir
type. The milling acid dye, were found tO have larger values fOr the binding constant and attnity
compared with the levelling acid dyes. By comparing the results Obtained for Red l and Red
138, it became apparent that the introduction of an alkyl group into the structure of the acid
dyes resulted in the increase Of attnity of the dye (abOut o 90 kca1/mol)attributable to the ettect
of non polar Van der Waal's fOrce.
2)Mi`び η′υιだJり ,TsZ
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)
酸性染料 の構造中の長鎖 アルキル基が絹に対す る吸着に及ぼす影響を調べた。低 pH領 域 では用い た 全
ての染料 (CI.Acid Orange 7,Red 138お よび Blue 138)は 絹によく吸着 した。 アルキル基を持たな
い均染性酸性染料 (Orange 7)で は染着量 は pHの 上昇 と共 に減少 し,中 性 ∼弱 アルカ リ性では染着 しな
か った。それに対 してアルキル基を含む染料は同じ pH領 域 で絹に よく吸着 した。
酸性染料 (上 記 の 3種 と Red l)の 絹に対する吸着等温線は ラングミュア型 であった。 ミリング酸性染
料 は均染性酸性染料 に比べて, 結合定数及び親和力が 大 きいことがわかった。 Red lと Red 138に つい
て得 られた結果を比較す ることにより,酸 性染料 の構造中にアルキル基を導入す ると親和力が増加す る (約
o9o kca1/mol)こ とが明らかになった。 そ してその増加分 は無極性 ファンデルワールスカの 寄与に よるも
の と考えられ る。
和服需要 の減退などのため,絹 の内需は減少傾向
にある。そ こで,生 糸消費 の増加を図るため絹のい
あ るが,そ れ の絹に対す る染着機構 について理論的
解明を試 みた報告は殆 どない。僅かに加藤 (1975)
ろいろな利用面の開拓 と新 しい素材 の開発が併行 し
て進め られている。 この ような時期にあた り,染 色
が約10種 類 のアゾ系酸性染料 の絹に対す る飽和吸着
量や親和力を求め,均 染性酸性染料についてはその
の立場か らも基礎 データの蓄積が必要 と考 え られ
る。
染着 の本質はイオ ン結合が主体であ り,染 料 の疎水
性が大になると無極性 ファンデル ワールスカが さら
に染着に寄与 して くると推定 している。 また,ス ル
絹 の染色において酸性染料は重要な染料の 1つ で
―-116-―
道明ら :R基 を含む酸性染料 の絹へ の染着
ホン酸基を 3個 持 っていて比較的分子が小 さい C.I
Acid Red 27の 絹に対す る吸着等温線は Langmuir
と略す),C I Acid Red l(Red lと 略す),C.I
Acid Red 138(Red 138と 略 す)お よ び CI
型を示すが,そ れ よ り疎水性 の CI.Acid Red 85
ゃ Red 88に ついてはH型 の吸着等温線が得 られて
Acid Blue 138 01ue 138と 略 す)で ,Orange 7
いる (加 藤 ,1979)。
化学構造中に長鎖 アルキル基を有す るカルボ ラン
染料が均染性酸性染料 よ り,羊 毛に対す る親和力が
大 きいことを示 した文献はい くつか 目にす ることが
できる (例 えば,根 本 ら訳 ,1963)。 しか しなが ら
羊毛 より親水性 であ る絹に対するこの染料 の染着挙
動を調べた報告は見当らない。
そ こで,本 報 では化学構造中に長鎖 アルキル基を
,
は合成物を,そ の他の染料は市販染料を,そ れぞれ
RObinson一 Mills法 に よ り精製 した ものである。 こ
れ らの染料 の化学構造などを表 1に 示 した。
3.染 色
絹布 0.2gを いろいろな濃度 の pH 5の 染料溶液
(染 料をイオ ン強度 0.1の 酢酸 と酢酸 ナ トリラムの
混合溶液 に溶解 した もの)中 ,一 定温度 (40℃ ,50
℃,60℃ )で ,浴 比 2,500:1で 平衡染色 した。染
着量は残浴比色法 ,抽 出法 (50%ピ リジ ン水溶液に
有す る酸性染料 と染料母体が同 じで,ア ルキル基 の
ない酸性染料 および典型的な均染性酸性染料である
C_I Acid Orange 7な どの絹に対す る染色性を調
べ,長 鎖 アルキル基 の効果について考察 した。
なお,染 料を提供 していただいたアイ 。シー・ ア
より抽出)に よつて求めた。
イ 。ジャパ ン株式会社に感謝 の意を表す る。
色 した ときの,pHと 染着量 の関係を図 1に 示 した。
ただ し,全 染料濃度は 2.0× 104m01/1で あ る。
材 料 と 方 法
結 果 と 考 察
1.染 浴 pHの 影響
3種 の酸性染料 を用 いて,絹 を 50℃ で 24hr染
均染性酸性染料 であ る Orange 7で は,染 浴 pH
1.絹 試料
絹布は既報 (道 明ら,1985)と 同様に,鐘 紡製平織
白布 (14目 付羽二重)を 精製 して用 いた。
15
2.染 料
用いた染 料 は CI.Acid Orange 7(Orange 7
Table l Acid dyes used
Dye(C.I.Acid)
ヽ
Molecular
Chemical
Weight
Structure
73日 OttM
呼
“
Red l
E
ち
350.30
305
NIC∝ H3
Ч
諌 ∞
"m2
颯満
Φヽ0
∝
310
5評
Red l“
tF170Nゼ
0
pH
Fig.1.
Effect of dyebath pH on the dyeingbf silk by
several acid dyes (50° C, 24 hr).
Blue 138
2ず
革
△ :C.I.Acid Orange 7
o:C.I.Acid Red 138
□ :CI.Acid Blue 138
118
日本蚕糸学雑誌 第56巻
の上昇 と共に急激に染着量は低下 し,中 性∼アルカ
リ性では殆んど染着 しなしヽ それに対 して,長 鎖ア
ルキル基を有する Red 138お ょび BIue 138は 中
性でもよく染着する。特に BIue 138は pH 10付 近
で もかな りの染着量を示 した。Meybeck and ёal_
第 2号
lafassi(1971)は 置換 ア ニ リンと4′ ―スルホー1-フ ェ
ニル‐3-メ チルー5-ピ ラ ゾロンか ら合成 したモデル染
料を用 いた羊毛 の平衡染色において,同 じような傾
向を見出 している。すなわち,置 換 アニ リン部分の
置換基 としてアルキル基を持つ染料は,持 たない染
料に比べ,弱 酸性において絹に対する吸尽 (%)が
高い。 しか もアルキル鎖が長いほ ど高い。
2
吸着等温線
4種 の酸性染料を用いて,そ れぞれ絹に対する平
O
7マ一
Eo
0一
b〓︶ 占£
衡染色を行 った ときに得 られた吸着等温線 の例を図
2お よび図 3に 示 した。
また,染 着量 〔
D〕 f(m。 1/g絹 )と 未染着染料濃
度 (mo1/1)の 逆数 プロッ トをとると, 例えば図 4
に示 した ょうに直線関係が得 られた。
吸着等温線の形か ら, klotzの プロッ トが直線に
567891o
o
E OI︶占£
一
Tマ一
,
,
3 4 5‐
6 7
[
0]ヽ一
︵
R二x
︶一
Fig 2 AdsorptiOn isOtherms Of C I Acid Red 1 0n
Silk(pH 5,24 hr)_
1/[DIs(X104)
Fig 4 ReciprOcal p10ts Of thc aonccntration of free
dye EDコ s(mo1/1)and dye uptake[Dコ f(コQ91/
Fig 3
AdsorptiOn isothcrlns of C.■ Acid BIue
on silk at pH 5.
g silk)in the dycing of silk with c.I Acid
Red l(pH 5,24 hr)
道明ら :R基 を含む酸性染料 の絹へ の染着
Table 2. Binding constant and thermodynamic parameters
fOr the adsorption of several acid dyes by s■ k
貯
ID
ttp
K
はこ鈷
40
0range 7
50
60
40
Red 1
50
60
8.300×
103
5.291×
103
5.33
103
5.35
4.801×
103
5,61
6.19
104
6.38
60
1.638×
104
6.42
40
2.382×
104
6.27
´50
2.285× 104
6.44
60
1.809〉 く104
6.49
Langmuir型 である。 そ こで, 以下 の式
に基 づいて結合定数
染色熱
(△ H° )お
K,染 着 の親和 力
(一
°
△μ ),
よび エ ン トロピー 変 化 (△ S° )
を求めた。
=て
奇
い
デ琴T十 き
S:飽 和染着量
)す
(m。 1/g絹 )
―△μ°=PT
ln K
(2)
R:気 体定数 ,T:絶 対温度
生
¥=∠ 等 十C
°
△μ =△ H° ―T△ S°
)仙
(4)
得 られた結合定数 Kお よび染着 の熱力学 パ ラメ
―夕を表 2に 示 した。
均染性酸性染料 である Orange 7や Red lに 比
べ, ミリシグ染料である Red 138お よび Blue 138
の結合定数
(一
9)も
△μ
-8.20
△S°
(eu)
-7.33
-4.54
2.74
-6.79
-1.42
-7.06
-2.07
け絹 との結合力が弱 い とい うこ とである。
Red 138の 化学構造 をみ ると,ア ルキ
Red lと
ル鎖があるかないかの違 いがあるだけ であ る。それ
故 ,得 られ た染着 のパ ラメータの値 の差は アルキル
基の有無の違 いを反映 してい るもの と考え られ る。
なわち アルキ堪 罐 入に よ %結 合定数教
きくな り,親 和力 が増加す る (約 0.90 kca1/mol)`
△S° の値を比較す ることに よ り,羊 毛 の染色 の 場
合 にアルキル基 あ導 入が染着に大 きく寄与 した疎水
結合 (MeybeCk and Galafassi,1971)は , 絹 の場
“
C:定 数
△H°
(kca1/m01)
97
4.200×
なる ことか ら考えて,こ れ らの酸性染料 の絹に対す
る染着は
5。
2.112〉 く104
50
BIue 138
5.88
5,74
2.086×
40
Red 138
1.267× 104
7.679× 103
:D
Kヤ ま非常に大 き く,従 って標準親和力
後者 の方が大 きい値 とな っている。
染色熱 (△ H° )は どの染料 の場合 もマイナス (す
なわち発熱)で , -4.5∼ 8.2 kca1/molの 範囲に あ
る。Red lの 染色熱の絶対値が小さいのは そ れ だ
ま殆 ど働 いていない と 離
さ れ れ 従 っ4
Red 138の 親和力 の増加は無極性 フ ァ ン デ ル ワー
ルスカ の寄与に よるものである。
文
献
道明美保子・大久保球子・清水慶 昭・木村光 雄 (1985):
日Z昌 染
, 54, 143-148_
筐
加藤 弘 (1975):繊 学誌,31,T169-T175.
加藤 弘 (1979):綺 畔獄 ,35,T48T52.
MEYBECK,J.and GALAFASSI,P.(1971):Applied
P。 lymer Symposium,(18),463472
根本嘉郎・生源寺治雄・高島直一 (196め :染 色 の物 理 化
学 (T・ VICKERSTAFF著 ),pp 374 375,丸 善 ,東 京 。