ウェブサイトにおける CSR コミュニケーション

CSR コミュニケーションのこれから⑦
CSR 担当者と CSR 経営者のためのニュースレター
橋口 薫(トッパン エディトリアル コミュニケーションズ株式会社 )
ウェブサイトにおける CSR コミュニケーション
今から5、6年も前のことでしょうか。コーポレートサ
利用した新たなコミュニケーションの追求、になってしま
イト内に CSR の名称のもと、ナビゲーションが加わるよう
うのです。
になりました。そして紙のレポートを発行せずその機能を
なぜならば、CSR サイトのみがマルチステークホルダー
PDF ファイルに担保する企業が増えたのは、2、3年前あ
対応だからです。コーポレートサイトのトップページがま
たりからでしょうか。
さにそうなのですが、CSR サイトはその下層にあるにもか
「紙からウェブへ」という流れは時の趨勢のようでもあり、
かわらず、またしてもマルチステークホルダー対応なので
コーポレートサイトを構成する会社概要・商品情報・採用情
す。他のカテゴリでは訪問者の属性は明瞭ですよね。商品
報・ニュースリリースといったコンテンツは、今でこそ紙媒
サイトはお客様、IR サイトは株主・投資家、採用サイトは
体でも発信していますが、ウェブサイトが十二分にその任を
学生——。
担っていることは、もう誰も疑わないところです。
CSR を通じた多様なステークホルダーとのコミュニケー
そのようななか、アニュアルレポートや CSR レポートを
ションの場を生成させること、丁寧に言えば、CSR レポー
代表とする情報開示の年次報告「書」は、そのレポートとい
トはあくまでも個別に読むためだけのツールであり、CSR
う生来の役割ゆえ、ますます「コーポレートサイト内では異
サイトは、そこに集う多様なステークホルダーが「コミュニ
質な存在」となりつつあります(この発言で何人かの CSR
ティ化する可能性のある場」だということです。はじめから
ご担当者の読者が頭を抱えたことかとお察しします)
。
それは組み込まれているものなのです。
「場づくり」に向き合う理由とは
レポートを読んでもらうだけでも充分にステークホルダー
とのコミュニケーションが成立している、という声が聞こえ
日々磨きのかかる即時性や双方向性といったウェブの特性
てきますが、もう一歩踏み込んでみましょう。
を武器にして、コーポレートサイトを構成する他のコンテン
多様な属性からなるステークホルダーが、それぞれに関心
ツは常に進化しています。その一方で、即時性も双方向性も
のあるテーマだけを読み、サイトから去ってしまうのではな
そもそも必要としない年次報告書は、全体最適の視点で凝視
く、その企業の CSR 報告を通じてステークホルダー同士が
されたとき、どのようにふるまえばいいのでしょうか。
相互に反応し作用が起きて、ここから生まれた新鮮な企業像
企業レポートライブラリーという 1 ページのなかで、そ
を抱き、期待しながらそれぞれが戻っていく——。そのよう
れぞれがバックナンバーとともに毅然と整列しているだけで
な場をつくることが、ウェブサイトを活用した CSR コミュ
いいのかもしれません。ただし、株主・投資家向け情報と密
ニケーションなのです。
接に関連しているアニュアルレポートは、刻々と変化する
報告書づくりだけでも大変なのに、何でわざわざ、と思わ
IR サイト内に微動すらせず鎮座することで HTML と相互補
れるかもしれません。ガイドラインにはそんなことは書いて
完の美しい関係性を保っています。では、
CSR はどうなのか。
いない、と。では、ウェブを活用したエンゲージメントだと
ここで初めて、「ウェブサイトにおける CSR 報告」では
考えてみてはいかがでしょう。または、マテリアリティ抽出
なく「ウェブサイトにおける CSR コミュニケーション」の
のためのプロセスでもいいかもしれません。
意味に気付くわけです。
学生でも専門家でも投資家でも参加できるようなウェブ上
というのも、「紙からウェブへ」の流れに乗っかった時点
の空間って、ありそうでない、刺激的で創造力に満ちたとこ
で、必然的に CSR サイトを構築すること=ウェブサイトを
ろではないでしょうか。
【はしぐち・かおる】編集者。出版社時代は縦組み人文書籍の企画しか手がけたことがないにもかかわらず、CSR レポートの媒体進化にともない、なぜかウェ
ブサイトについて語らなければならない立場となる。
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