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天空の蜂
東野圭吾
テロリストに爆薬が満載された超大型ヘリコプターが奪われた。無人操縦でホバリングし
ているのは,稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にした脅迫に対し,政府
はどのような決断を下すのか。驚愕のクライシスと圧倒的な緊迫感で迫る傑作サスペンス。
私たちは蜂に刺されたんだ。この本を読み終えての私の最初の感想です。東日本大震災に
おいて,津波により東京電力福島第一原子力発電所で深刻な事故が発生し,私たちの生活に
も大きな影響を与えました。それにより私たちは原発の危険性や放射能の恐怖について考え
出しました。しかし,3.11 以前はどうだったでしょう。原発の危険性を,私たちは頭のど
こかではわかっていながらその危険性や恐怖についてあえて考えないようにしていたとこ
ろがあると思います。作中の「一度蜂に刺されたほうがいい」
「子供は刺されて初めて蜂の
恐ろしさを知る」という言葉が,今は強烈な皮肉に聞こえます。私たちは蜂に刺されたのだ
なと感じます。現実にこの日本で,3.11 のような大きな原発事故が発生しようとは,この
物語が発表された 20 年前は,誰も予想していなかったことでしょう。人は自分の身に降り
かかることとして体験して初めて考えや意見を持つものなのかもしれません。逆に言えば,
そうならなければいつまでたっても他人事なのです。作者は私たち一人一人が知らず知らず
のうちに「沈黙する群衆(=無関心で意見を持たない人々)」になってしまうことの怖さを訴
えています。
このことは原発問題だけに留まりません。作中でも重要なエピソードとなるいじめ問題も
そうです。いじめは,被害者と加害者,そしてその周りの多くの傍観者によって成り立って
います。いじめにおいて悪なのはほぼ間違いなく加害者なのですが,いじめもしないが助け
もしない,自分の意見を持とうとしない傍観者たちに罪はないのかと著者は訴えています。
自分は関係ないと,考えや意見を持たずに,ただ見ているだけの人たちが,人を追い詰め
てしまうこともあるのだということを、この本を読んで気付かされました。無関心にならず,
真剣に問題に向き合い考えなければならないときが必ずある,ということをこの本は教え
てくれています。
この物語,「天空の蜂」は,9 月に江口洋介さん主演で映画化されます。興味のある方は
そちらもお見逃しなく。