相続における不動産の時効取得 司法書士法人 司法書士 岸本事務所 藤澤 諒子 http://kishimoto-shiho.jp 今日は不動産の時効取得、特に相続登記に代わる方法としての時効取得につ いてお話をさせていただきます。土地や建物の登記名義を亡くなった方の名前 のままにしておられる方は多くいらっしゃいます。名義変更には登録免許税や 司法書士への依頼費用などがかかり、かつ、数年間放置していても実害がない ことから、相続手続きの中でも不動産は後回しにされがちです。そして、売却 などの必要性が生じたときにはじめてご依頼をいただくケースがよくあります。 し か し 、 数 年 で あ れ ば 問 題 が な く て も 、 こ れ が 10 年 、 20 年 と 経 つ う ち に 相 続 を め ぐ る 状 況 が 変 化 し 、名 義 変 更 が 非 常 に 困 難 に な っ て し ま う こ と も あ り ま す 。 相続登記が困難になる原因として挙げられるのが、相続人が多数にわたるこ とです。特に、子供のいない方がなくなると、その相続財産は兄弟姉妹に受け 継がれます。そしてその方が亡くなるとまたその子供たちへ、と、登記を先延 ばしにすればするほど相続人はどんどん増えていき、何十年も経った現在、結 果 と し て 相 続 人 が 50 人 、 100 人 に な る と い う こ と も あ り ま す 。 そ し て 同 時 に 、 相続人同士の関係性も希薄になり、容易に連絡を取ることができなくなってい きます。 では、相続登記をしようとした際にこのように相続人が多数にのぼることが 判明した時はどうすればいいのか、というところからが本題です。私が実際に 担当したケースでは、まず相続人全員に対して現在の不動産管理者である依頼 者からの手紙を出し、手続きに協力してほしい旨の依頼をしました。しかし、 遺産分割協議を行うため「登記に必要な書面に実印を押してもらう必要のある こと」 「 相 続 人 全 員 の 印 鑑 証 明 書 を 提 出 し な け れ ば な ら な い こ と 」に 対 し て 抵 抗 感 を 持 た れ る 方 が 多 く 、実 際 に 協 力 し て も ら え た の は 6 割 程 度 で し た 。で す が 、 相続人として不動産に対して持っている持分を依頼者に譲ることに関して反対 されたり、相当の金銭を要求されたりする方はいませんでした。それまで存在 すら知らなかった不動産ということもあり、特段価値の高いものでもない場合 はこういった意見が多いのではないかと思います。 権利を譲ることには承諾するが、印鑑証明書を渡すには抵抗がある、という 方が多かったことから、この件では次に「取得時効による所有権移転登記を裁 判所に訴える」という方法を採りました。時効取得とは、他人の所有物を、① 20年間(自分の所有物と過失なく信じていた場合には10年間)②自分のも のにする意思で③公然と④平穏に(誰からの異論をはさまれることなく)⑤占 有(管理・使用すること)していた場合、占有者がその所有権を取得するとい う法律です。 ( 民 法 1 6 2 条 第 1 項・2 項 )所 有 権 を 認 め る 判 決 が 出 れ ば 、印 鑑 証明書などがなくとも判決をもって不動産の名義変更登記をすることができま す。法律上の要件が揃っているか、それを客観的に証明する証拠があるかどう かは個々の事例によって異なりますが、今回は依頼者が不動産を使用し始めて 40年近く経っていたことや、使用し始めたきっかけや経緯を示す書類があっ た こ と 、固 定 資 産 税 を 依 頼 者 の 名 義 で 払 い 続 け た 領 収 書 を 保 管 さ れ て い た こ と 、 などから、裁判上で所有権が認められると判断しました。 裁判によって解決することのメリットとして、他の相続人に手間をかけさせ ることがない、という点があります。前述のように、遺産分割協議によれば実 印の押印と印鑑証明書の提出が必要ですが、裁判では裁判所から送られる訴状 と判決書を受け取るだけで済みます。手間がなければ協力してもらえる方もい るのではないか、と再び依頼者から相続人全員にその旨の説明を手紙に書いた と こ ろ 、反 対 さ れ る こ と は な く 、ス ム ー ズ に 手 続 き を 進 め る こ と が で き ま し た 。 私たち司法書士が、裁判書類(訴状など)の作成を担当することで裁判であっ ても弁護士に依頼せず解決することができます。 裁判というと、訴える側、訴えられた側が激しく対立し、互いの利益をめぐ って泥沼の関係に陥っている…というイメージをもたれることがあります。今 回の依頼者の方も、親戚の皆さんを訴えるという言葉に抵抗感が拭えないご様 子でした。しかし、裁判をあくまで手段として利用するだけ、と考えれば、互 いの手間を省くための方法として非常に有効といえます。相続登記に代わる方 法利用する場合は、遠縁とはいえ親族が相手方となりますので、できる限り丁 寧に趣旨を説明し、同意を取り付けたうえで裁判を起こすのが理想です。 そ し て 何 よ り 重 要 な の は 、こ う い っ た 困 難 な 相 続 を 生 じ さ せ な い よ う に す る 、 ということです。不動産をお持ちの方が亡くなった場合は、放置せず、なるべ くお早めに相続登記をお願いします。 ま た 、長 年 名 義 を 変 え ら れ ず に そ の ま ま に し て い る 不 動 産 を お 持 ち の 場 合 は 、 ケースにより異なりますが、当事務所では上記のような解決事例もありますの でぜひ一度ご相談ください。 (株)日住サービス 不動産投資情報 2014 年 Vol.4
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