民法の基本⑨

ひめぎん情報 ■ 2017.新春
民法の基本⑨
~物権の取得〜
愛媛銀行 金融コンサルティング部
弁護士 岡本 真也
1.物権の性質
物権は取得して初めてその権利者になることができます(当たり前ですが)。本稿ではその
取得方法について述べます。
後述をお読みになると分かるとおり、本項目は抽象的な概念が多く、実際に取得したか否か
の事実認定は非常に難しいのですが、本稿では徹底して基本のみをご紹介いたします。
2.物権共通(占有権除く)の取得原因
占有権を除く物権は、その性質に反しない限り、既に発生している当該物権を承継する(移
転を受ける、相続する、時効等)ことにより取得できます(民法(以下省略)176条)。
3.所有権の取得原因
所有権は、承継する場合のほか、以下の原因で取得できます。
⑴ 無主物先占(239条1項)
所有者のいない動産は、所有の意思を持って占有すればその所有権を取得します。
これに対して、所有者のいない不動産は自動的に国庫に帰属するので、無主物先占はでき
ません(239条2項)。
⑵ 遺失物拾得
遺失物を拾得した場合、拾得者は速やかに権利者に返還するか、警察署長に差し出さなけ
ればなりません(遺失物法4条1項本文)。その上で、公告後3か月以内に所有者が判明し
なければ、拾得者が所有権を取得します(240条)。ただし、当該取得日から2か月以内に引
き取らなければ所有権を失います(遺失物法36条)。
⑶ 埋蔵物発見
取扱いは遺失物拾得とほとんど同じですが、公告期間が6か月です(241条)。
⑷ 付合
主たる不動産に従たる物が付合した場合、その従たる物は不動産の所有者の所有になりま
す。ただし、付合させる権限がある者が付合した場合は、付合部分は付合させた者の所有の
ままです(242条)。
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また、所有者が違う複数の動産が符合して分離できなくなったとき、または分離に過分の
費用を要する場合は、すべてが主たる動産の所有者に帰属します(243条)。この場合に主従
の区別がつかなければ共有になります(244条)。
⑸ 混和
所有者の異なる物が入り混じって識別できなくなった場合で、取扱いは動産の付合と同じ
です(245条)。
⑹ 加工
他人の動産に工作を加えた場合、その加工物は材料提供者の所有になります。ただし、工
作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは加工者の所有になります(246条
1項)。
4.占有権の取得
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します(180条)。
占有方法は以下の4つが認められています(以下の例はAがBに引き渡す例)。
⑴ 現実の引渡し
実際にAからBに物を渡す方法です(182条1項)。
⑵ 簡易の引渡し
Bがすでに物を所持する場合に、Aが以後B自身のために占有してよいという意思表示を
示すことによって行う引渡しです(182条2項)。
⑶ 占有改定
Aが、以後Bのために占有する意思を表示することによって行う引渡しです(183条。い
わゆる代理占有)。
⑷ 指図による占有移転
CがAのために物を代理占有している場合において、AがCに対して以後Bのために占有
すべきことを命じ、Bがそれを承諾することによって行う引渡しです(184条)。
5.占有行為による所有権取得~即時取得
取引行為によって、平穏に、かつ公然と動産の占有を始めた者は、取引行為時に相手方にそ
の動産に対する権限がないことを知らず、かつそのことについて過失がなければ、その動産の
本権(所有権等)を取得できます(192条)。この条項の適用については以下の点に注意が必要
です。
・不動産には適用できません。
・平穏、公然、善意および無過失は民法上推定されるので(186条1項・188条)、訴訟で使う
場合に本要件を主張する必要はありません。したがって、取引行為と動産の占有開始を主張
すればよいことになります。
・占有改定による即時取得は認められません。
・動産が盗まれた物の場合は、盗難または遺失から2年間は即時取得が成立しません(193条)。
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