経済学からみた資源管理……………… 馬奈木俊介 共有資源管理

目 次
刊行にあたって
序章 資源の持続的な利用 ………… 馬奈木俊介・亀山康子
1
第 1 章 経済学からみた資源管理 ……………… 馬奈木俊介
11
1.1 天然資源の特徴と管理
12
18
1.2 枯渇性資源の利用と管理
1.3 世代間の問題
20
1.4 非枯渇性資源の利用と管理
23
第 2 章 共有資源管理ルールの合意形成 …… 澤田英司
32
2.1 管理されないコモンズの悲劇
2.2 よく管理されたコモンズとはなにか?
37
44
2.3 資源管理ルールの合意形成のダイナミクス
2.4 悲劇を回避するための政策
31
50
第 3 章 熱帯林を中心とした
国際的な森林保全
………………………… 島本美保子
3.1 国際的な森林減少とその原因
54
56
3.2 森林消失の背景的原因の理論的・実証的分析
3.3 森林管理に関する国際条約の挫折
61
62
3.4 国際的に展開されるさまざまな現実的対応
3.5 持続可能な森林管理のために有効な政策は何か
69
第 4 章 健全な水循環に向けた流域管理 …… 中村正久
4.1 流域と水をめぐる概念
53
75
76
4.2 流域政策の経緯と「健全な水循環」概念
82
vii
87
4.3 水循環基本法と水循環基本計画
第 5 章 水産資源管理の方向性 …………………… 牧野光
98
5.1 水産資源管理の基本的な考え方
5.2 水産資源管理の事例
103
5.3 これからの水産資源管理研究
108
第 6 章 野生生物管理政策 ………………………… 大沼あゆみ
6.2 野生生物の資源としての役割
119
124
6.3 国際取引における野生動物の管理
6.4 違法取引とワシントン条約の有効性
130
6.5 日本での野生生物管理ИЙ鳥獣保護法と種の保存法
6.6 持続可能な利用に向けて
134
136
第 7 章 リンの循環と環境問題 …………………… 三俣延子
144
7.3 廃棄物のなかのリン
149
7.4 汚染源から資源へИЙ現状と課題
153
第 8 章 鉱物の持続的利用 …………………………… 村上進亮
162
166
8.2 マテリアルフロー
8.3 クリティカルメタル
169
8.4 鉱物資源の持続可能な利用に向けた取り組み
8.5 社会の持続可能性と鉱物資源
リーディング・リスト
索 引
viii
187
139
140
7.2 資源としてのリン
8.1 鉱物資源とは
117
118
6.1 資源としての野生動物とその管理
7.1 リンの環境史
97
183
180
172
161
序章 資源の持続的な利用
馬奈木俊介・亀山康子
未来のための資源に必要な要素
我々は資源の枯渇や絶滅に懸念を抱きつつも,新たに開発される資源の恩恵
を享受し続けている.例えば,シェールガスの開発は,自ら再生することが不
可能な化石燃料の枯渇に対する我々の不安を払拭させるほどの影響を与えた.
その一方,資源の利用によって気候変動問題をはじめとした環境問題や生物多
様性への脅威といった上記の懸念とは違った不安を抱くようになってきた.こ
の様に考えれば,我々は資源の枯渇に関する懸念と常に対峙していると考える
ことができよう.
経済や技術に関係する内容で,近年,資源問題が注目される機会が増えてき
ている.資源問題の経済へ及ぶ影響の理解及びこれに対処するために経済や政
策,技術の関連専門分野の理解が必須だと考えている.本書では一貫して最小
限の専門用語の利用による分かりやすい処方箋の提示と説明を心掛けている.
現在,及びこれから注目されるであろう資源政策に関する個々の興味深い内容
を取り上げ,問題点を考慮した上で最終的にどのような制度が長期的に望まし
いか議論している.未来に資源を残していくために大事なことは,資源を将来
も使いうるためのロジックを理解することである.この考え方を身につけるこ
とができれば,他の多くの事例に出会った時にも独自の解決法をみつけること
ができると言える.
未来に向けて資源を担保することは,長期的な持続可能性という軸から資
源・エネルギー・地球環境問題に対する処方箋を考える上で重要である.処方
1
箋を考える上で大事になるのが,まず技術の役割である.これまでの多くの社
会的問題は技術進歩によって解決されてきた.資源問題においても例外ではな
い.長い間,日本は,技術の種類は豊富であるが,その事業化に結び付けてい
くことが苦手だと言われてきたが,現在,多くの規制緩和によって創意工夫の
可能性が増えてきている.次に大事なのが,市場である.経済的動機,社会的
な貢献など多くの非経済動機によって新しい交わりが生じることで,新たな問
題解決の提案に繫がるであろう.最後に,持続可能な政策的支援が必要である.
技術を利用できるものにし,結び付け,事業化を加速させるのは市場であり,
政策の設計は大きな貢献をもたらす.
再生資源と非再生資源
現在,多くの資源で利用量が年々増加している(図 0.1).これは国内総生産
(GDP)の増大からも分かるように,経済発展とともに生産物やサービスを行う
ための資源利用が進むからである.資源量の総量が石油やガス,石炭など限ら
れている場合がある.これを,枯渇性資源または非再生資源という.
枯渇した場合またはしそうな場合には,その資源が使いづらくなっているた
め,できる限りそうならないように使用量を抑える必要がある.しかし一般的
に,枯渇するといいつつ,実際には量が少なくなるほど価値も上がるので,技
術開発を行うインセンティブが大きくなり新たな資源が見つかり,資源枯渇に
はなりそうにもない場合がある.そのため枯渇性よりも非再生資源という言い
方の方が普及している.また,気候変動のように,資源利用が増えるにつれて
二酸化炭素などの温室効果ガス排出量が増える,または健康被害を促す排ガス
が増えるため資源量は残っていても自由に使うのでなく規制が必要となる場合
もある.一般的に資源ごとに特性は大きく異なり,非再生資源がどのような状
態になっているか,また,理解することが大事になる.
次に,魚,森林のように再生できる資源や,風力や太陽光のように自然の力
を使う資源を再生資源という.非再生資源と異なり,魚は周遊しある程度まで
ならば獲っても卵を生むため十分な個体数に戻る.このように再生資源は再生
するので問題がないように思える.しかし,実際には自分が取らなくても他の
2
図 0.1 資源利用の増大
出典) Managi (2015).
誰かが漁獲したり木材を伐採したりするため,結局自分も取ってしまって結果
的に総量としての資源量が減り過ぎるという問題がある.実際に世界での漁業
資源量や途上国での森林伐採など再生資源の問題は大きい.国内も同様に適切
な資源管理ができず大きな問題として残っている(馬奈木,2015,2012).これら
のように非再生資源,再生資源ともに問題があり,また総合的に複数の資源を
どのように考えるかという判断基準が必要になる.本書は,全体としての理論,
そして個別の資源の議論の紹介を行うが,この序章では,多様な資源管理を総
合的に扱う方法を次節にて紹介する.
総合的な考え方
近年,一国の経済の豊かさを測る尺度として代表的な統合指標である,包括
的な富や豊かさが注目されつつある.これらの指標が注目される背景には,世
代間の衡平性への検討がある.この富についてここで説明を行い,この新しい
指標を使って今後の資源管理について紹介する.
資源の評価をする際に大事になるのが,技術と資源,市場と資源,制度と資
源といったリンクをどのように総合的に同じ軸で考えるかである.しばしば用
いられる統合的な考えは経済評価である.GDP はその利用頻度,計測の精度
3
の高度化から有用なものである.
しかし,従来の GDP は,ある一定期間内に流れた量を表すフローの経済指
標であり,資源を大量に利用し,今年度の GDP 成長を押し上げるために,時
として,その反動で次年度に GDP が落ち込む可能性がある.例えば,消費税
率アップ前の駆け込み消費や新税率後の反動,さらに景気の落ち込みが,直接
的に GDP に反映される.また,生産性の向上により半額の値段で販売できる
商品が,需要が十分伸びないため,売り上げが 2 倍にはならず総売り上げが減
少し GDP への貢献が小さくなるということも起こり得る.ここでは,新しい
提案として資源を経済的に,他の重要な要素とリンクさせる指標を紹介する
(馬奈木,2014▃馬奈木・IGES,2013).
最近では,GDP のようなフローでなく,ある一時点に存在するストックに
焦点を当て,長期的に資源を利用する持続可能な発展を計測している新国富指
標(包括的富指標)が世界的に注目されている.この新たな指標が生まれた背景
には,世界的には,経済成長の偏重が将来の世代に深刻な被害をもたらし,資
源を過度に利用しているという状況があった.この指標は,人類が作り出した
商品やサービスである人工資本や人的資本に加え,未来にわたって価値のある
商品やサービスのフローを生み出す自然が生んだ自然資本(気候変動,土地,森,
石油,鉱物等)を含めた国全体の資産(ストック)を評価したものである.さらに,
新国富指標は,同じ資本量であってもその活用能力は各国によって異なること
から,その利用の効率性も計測している.
2015 年 に 発 表 さ れ た 『 新 国 富 報 告 書 2014 ( Inclusive Wealth Report 2014 )
( UNU-IHDP and UNEP, 2015 ) は,対象国を 140 か国に,また対象年を 1990
2010 年に拡張している.同報告書によれば,1 人当たりの新国富は,140 か国
中約 6 割の 85 か国において増加している.内訳をみると,1990 2010 年の間
で 140 か国全体の人口資本が 56⑫,人的資本が 8⑫ それぞれ増加する一方で,
自然資本は 30⑫ 減少している.環境の悪化や非枯渇性資源の減少を背景に自
然資本が減少したものと考えられる.総量においても同様に自然資本は減少し
ており,13 か国を除き,他の全ての国々で自然資本は減少している(図 0.2).
自然資本としてどのように異なる資源を取り扱うかは発展途上であるが,本書
で紹介する多用な資源をより理解していくことで最終的に総合評価に使えると
4
図 0.2 自然資本の変化率(⑫)
出典) UNU-IHDP and UNEP (2015).
いう点を理解することが重要である.
フローの戦略をとる現在の経済政策では,ストックへの影響を明示的にはみ
ていない.本来は,人工資本や人的資本の蓄積に加え,自然資本の恵みを向上
させることが望ましい.具体的な政策の方向性として,まず,自然資本への投
資は二重の利益につながる可能性を理解した上で積極的な投資を行っていくこ
とが重要である.例えば再生可能エネルギーの潜在力は大きく,三重の利益に
繫がる可能性がある.まず,直接的に自然資本と人工資本を高めことができる.
そして,エネルギー安全保障への貢献により,石油輸入国にとっての石油価格
変動リスクを削減することが期待できる.最後に,気候変動の緩和の進展があ
げられる.エネルギー安全保障に関しては,エネルギーの輸入元の情勢を指数
化する取り組みがある.さらに再生可能エネルギーの固定価格買取制度が導入
されているが,制度がうまく機能すれば制度運営に関連する様々なデータが蓄
えられるはずである.これらのデータを新国富指標と併せて活用することによ
って,さらに総合的な判断を行うことも可能である.
本巻の構成
本書では,最初に理論的な検討に注力した章,それに続いて,具体例をもと
5
にした個別事例に基づく説明をしている章に分けている.その中で環境問題の
緩和や資源保護に対して大きな貢献を行うことができる制度設計のあり方につ
いて論じている.特に,具体的な事例とその成功,失敗の理由をやさしい説明
に基づいて学術的に説明することで,資源に関わる学問の理解を進めることが
できるようにしている.更に,通常の学術的な書籍と違い,可能な限り数式や
多くの人が慣れていない図を用いた説明でなく,平易な文言で理解できるよう
に工夫している.この書籍を読み終えた時に,現在そしてこれから日本が直面
していく多くの資源問題に関する対応策を独自に考えることができるようにな
ることを目的としている.なお,本巻で取り上げられた資源の種類は,この地
球上で見られる資源のほんの一部である.ここで取り上げることができなかっ
た資源が他にいくつもある.エネルギー資源は,資源の中で最も一般的な関心
を集めるものだが,これだけで議論すべき観点が多くあるため,本シリーズの
別の巻(第 3 巻)にまとめている.
第 1 章と 2 章は,資源管理全般にわたって共通する考え方を,特に経済学の
観点から紹介している.本巻ですべての種類の資源を一つずつ扱うことは難し
いが,資源管理に共通して当てはめられる思考方法を知っておくことは有益で
ある.第 1 章では,資源の種類をおおまかに再生ができない資源と再生が可能
な資源に分けて,効率的な資源の配分の方法について検討している.ここでい
う効率とは,資源の配分に無駄がないという意味である.資源問題は,現世代
内,あるいは現世代と将来世代との間の分配に関する問題なので,資源が再生
可能か否かで扱いが違ってくる.また,近年,前述のように一国の経済の真の
豊かさを測る統合指標として新国富が注目されているが,そこでは世代間の衡
平性への検討がある.そこで,このような新しい指標の考え方をふまえ,今後
の資源管理について論じている.
第 2 章では,人々の間の合意形成に注目する.経済学的にみて最も効率的な
資源分配ルールが提示されたとしても,必ずしもそのルールに人々が合意でき
るわけではない.集団が共同所有するコモンズと呼ばれる資源を想定し,人々
の間の合意形成の行方次第で,資源の枯渇という結果から,集団で資源を管
理・維持する結果までありえることを,ゲーム理論を用いて示している.また,
放っておくと資源の枯渇が予想される場合は,それを回避するための政策導入
6
序章 資源の持続的な利用
が必要となる.この観点から政策について考察している.
第 3 章から 6 章までは,再生可能な資源の中でも特に一般的に問題が知られ
ている資源について紹介している.いずれも,資源がもともとは再生可能な性
質を持っているにもかかわらず,過剰な利用により再生可能ではない状態にま
で至っている現状とその要因について説明している.そして,より健全な状態,
つまり,再生が可能な状態にまで復元するための方策を紹介している.
第 3 章では,国際的な森林保全を扱っている.世界の多くの国で森林面積が
減少していることは,1970 年代から指摘されており,この傾向に歯止めをか
けようとして国際条約の制定等試みられたが,森林管理は各国の国土利用につ
ながることから,容易には解決に向かっていない.
森林減少の原因は,農業拡大,木材の商業採取,牧場造成,燃材採取などさ
まざまであり,これらの要因を把握できていなければ効果的な対策は取れない.
また,このように複雑な事象の結果としての森林減少を一つの国際条約で管理
するのは困難であり,近年ではそれに代わる多様な取り組みが進展している.
ここではこれらの取り組みの今後の課題も示されている.
第 4 章は,日本国内における水循環を取り上げている.水の話とは,単に,
上下水や河川の水質の話にとどまらない.水が降雨として地上に届いてから河
川や地下水に流れ,一部は,工業用水,農業用水,飲用水として利用され,海
にたどり着き,蒸発して大気に戻る.また,この循環の周辺には,人々や生物
が住まい,全体として流域圏を構成している.この章では,このような循環の
概念や,流域圏という場の区切り方の浮上から水循環基本法の成立までを
り,
残された課題を考察する.
第 5 章では,水産資源を取り扱う.水産資源の管理に関する研究では,伝統
的には,個別の水産資源に着目し,その資源量を維持しつつ,できるだけ多く
の漁獲量・漁獲金額をあげることを目的とした理論が発展してきたが,近年は,
水産資源が生物多様性を構成する一つの要素であるという認識の下で,新たな
考え方が生まれている.本章では,このような研究の進展を概説している.
日本は世界有数の漁業資源消費国であることから,単に漁獲高を追うのでは
なく,本章で示された考え方を踏まえ,資源としての持続的な管理に向けた国
際的な協議の場において十分に貢献すべきだろう.
7
第 6 章では,野生生物の管理を扱っている.本章は,野生生物の保全を目的
としたワシントン条約を取り上げ,野生生物の減少の原因としてスポーツ・ハ
ンティングを指摘している.また,野生生物資源減少を食い止めることを目的
としたワシントン条約の概要を説明した上で,国際的に保護することがかえっ
てその資源の希少性を高めてしまい,種の絶滅危惧を緩和することにはならな
いことを説明している.経済原理で動く世の中で資源を保護するには,単にそ
の利用を禁止するにとどまらない工夫が必要である.
第 7 章と 8 章は,非再生可能資源を取り上げる.非再生とはいっても,使い
方次第では,何回も使い直すことで半ば永続的な使用が可能という点では,化
石燃料のように燃やしてしまったら二度と同じものを再生できない枯渇性資源
とはまた異なる物質ということになる.
第 7 章では,リンを取り上げている.リンは,その使われ方や状況によって,
生命活動にとって必要不可欠な物質であると同時に,環境汚染物質ともなる.
そこで,本章では,このようなリンの持つ多面的な性質を網羅的に紹介した上
で,リンを資源に変えるか汚染源に変えるかは,我々人間の利用の仕方次第で
ある,と論じている.主にリンの自然科学的知識を下支えにリンをとりまく経
済社会の歴史を概観し,リンの持続的な利用に関する現状と課題について論じ
ている.
最後に,第 8 章では,鉱物の持続的利用を扱う.鉱物の中でも金属類は,そ
の用途や供給量によって希少性が異なる.近年「レアメタル」という言葉が使
われるようになり,金属の希少性が取り上げられるようになってきたものの,
その概念は曖昧であり,希少性をもたらす背景ごとに取るべき対策が違ってく
る.本章では,さまざまな性質をもつ鉱物資源について,基礎的な分類を紹介
し,これらの資源に関する多様な問題を明らかにし,持続可能な利用を目指し
た対応について紹介する.
資源管理と環境政策とのつながり
本巻は,資源管理に関する巻である.全体のシリーズ名である「環境政策の
新地平」の一部として,資源と環境のつながりを記しておく(図 0.3).
8
図 0.3 資源管理と環境保全との関係
資源とは,人間の営みをゆたかにするために必要な物質や動植物であるとい
えよう.人々が利用価値があると認識しているものが「資源」であり,人々が
利用していても「利用している」と認識していないものは通常「資源」とは呼
ばれない.資源に対しては人々の需要が見込まれるため,価格がつく.価格が
つくため,必要以上に利用されてしまい枯渇や減耗が危惧される場合もあれば,
できるだけ保全しようとするインセンティブが生まれることもある.
他方,環境は,人間の生命にとって必要不可欠なものであるにもかかわらず,
そこにあることが当然と人々が認識しているものといえよう.水や大気は,人
間の生存にとってなくてはならないものだが,普段はそのことを意識せずに,
大した対価も払わずに利用している.失って初めてその大切さに気付く.利用
しているという認識はなく誰でもアクセスできるため,価格がつかない.価格
がつかないため,保全しようとするインセンティブが生まれない.
多くの物質は,資源の側面と環境の側面の両面を持つ.本巻で取り上げた森
林や水,生物資源は,本来より環境そのものであるが,その一部を人々が利用
した瞬間に,資源としての性質を有することになる.どちらの側面をより強調
した方が健全な保全につながるかはケースバイケースであり,詳しくは各章を
ご覧いただきたい.
他方,第 3 巻でまとめて取り上げているエネルギー資源(中でもとりわけ化石
9
燃料やウランなどの枯渇性資源)やリン,鉱物類は,資源として利用されており,
それ自体は環境としての側面を持たないが,資源として利用される間に環境に
さまざまな悪影響を及ぼすことが懸念されており,結果として重大な環境問題
を引き起こしている.環境保全のために,これらの資源利用方法を変革してい
かなくてはならないということになる.
このように,資源と環境は,人間から見たときに異なる側面を持つ一方,共
通する性質も持つ.それは,本序章の前半で示されたとおり現世代と将来世代
との間の衡平性の観点である.環境を構成する多くの非枯渇性の資源であって
も,使い方次第では二度と戻らなくなってしまう.現世代の利用方法が将来の
世代の利用可能性を決定してしまうという意味で,資源,環境,どちらの性質
を有する場合でも現世代の使用のあり方が問われるのである.
文献
馬奈木俊介編著(2012) 資源と環境の経済学ИЙケーススタディで学ぶ』昭和堂.
馬奈木俊介(2014) 経済教室 問われる環境政策(下)ИЙ経済運営,А新国富Б向上軸に」
『日本経済新聞』2014 年 12 月 31 日.
馬奈木俊介編著(2015) 農林水産の経済学』中央経済社.
馬奈木俊介・IGES 編著(2013) グリーン成長の経済学ИЙ持続可能社会の新しい経済指
標』昭和堂.
Managi, S. (ed▆
) (2015), The Routledge Handbook of Environmental Economics in
Asia, New York▂Routledge.
UNU-IHDP and UNEP (United Nations University International Human Dimensions
Programme, United Nations Environment Programme) (eds▆
) (2015), Inclusive
Wealth Report 2014: Measuring Progress Towards Sustainability, Cambridge
(UK)▂Cambridge University Press.
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