シンポジウム「東洋学・アジア研究の新たな振興をめざして」PART Ⅲ

東洋学・アジア研究連絡協議会 シンポジウム「東洋学・アジア研究の新たな振興をめざして」PART Ⅲ 東洋学・アジア研究連絡協議会 会 長 池 田 知 久 日本の東洋学・アジア研究の衰退の危機が指摘されて、すでに久しい時間が経過いたしました。そ
の上、最近で年は文科省や国が文科系の学科・学部の統廃合を推し進めていることも加わって、事態
は一層深刻の度合いを増しています。 このような危機の到来は、東洋学・アジア研究の研究者一人一人に対して、自己の学問のあり方を
根本的に再検討しつつ、この危機を克服し関連する学問の新たな振興をめざすべきことを迫るもので
あります。それと同時に、自己の学問的ディシプリンや所属する研究機関・学協会の相異を超えて、
多くの研究者が相互に連携・協同しあいながら、これに立ち向かっていくべきことを教えるものでも
あります。 今日、この危機の克服方向の一つとして、以下のことが重要ではないかと思われます。――かつて
の日本の東洋学・アジア研究は、西欧に由来する普遍主義的な近代的学問を相対化して、東洋・アジ
アの文化的諸価値を、時空を超えた世界の普遍的真理という一色の絵具で塗りこめてしまうことのな
かった長所を持っていました。こうした長所を活かしつつ、 一、21 世紀に生きる現代の人間としての観点に立って、東洋・アジアにおける個別的な文化現象
の諸価値を内在的に再構成すること。 二、こうした個別的な文化研究の積み重ねを総括する中で、東洋・アジアから世界に向かって発
信する新しい人間科学 (Human Sciences) を興こすこと。 これらを実現する道を切り拓いていくことが重要なのではないでしょうか。 私たち、約 40 の学協会は、2004(平成 16)年 9 月、東洋学・アジア研究連絡協議会を設立しました。
その目的は、東洋・アジアの諸文化を各種各様のディシプリンで研究する学協会が、将来におけるこ
の学問の一層の振興を図り、そのために相互の学術交流と連絡協議を行い、また国際的な東洋学・ア
ジア研究の動きにも対応すること、などにありました。 東洋学・アジア研究連絡協議会は、以上の設立趣意と現状への課題意識に基づき、模索のための具
体的な活動の一環として、一昨年(2013 年)12 月、シンポジウム「東洋学・アジア研究の新たな振興を
めざして」を開催し、昨年(2014 年)12 月にはその PART II を開催いたしました。今年度はその趣旨を
引き継ぎ PART III として、下記の要領でシンポジウムを開催いたします。 シンポジウムの最後に、私たちと課題意識を共有する日本学術会議のアジア研究・対アジア関係に
関する分科会より、「東洋学アジア研究関連の学術雑誌の Digital 公開に関する現況と今後の展望」と
「文科大臣通知と日本学術会議の対応」について報告を受け、討論を行います。 シンポジウムの講師は、近年、各分野において活発な研究活動を展開して新たな地平を切り拓こう
と努めておられる先生方にお願いしました。 研究者・学生・市民のみなさん、お誘いあわせの上、ふるってご参加下さい。 東洋学・アジア研究連絡協議会 シンポジウム「東洋学・アジア研究の新たな振興をめざして」PART Ⅲ 日 時 : 2015 年 12 月 19 日 ( 土 ) 13 時 30 分 ~ 17 時 会 場 : 東 京 大 学 法 文 2 号 館 1 番 大 教 室 (文京区本郷) 開会挨拶:池田知久(東京大学名誉教授、東洋学・アジア研究連絡協議会会長) 総合司会:堀池信夫 (筑波大学名誉教授) 報告:水島 司 (東京大学大学院教授):「歴史地理情報システムとアジア研究」 小島
毅 (東京大学大学院教授):「東アジア海域文化交流」 下田正弘 (東京大学大学院教授):「東洋学の新使命―アジアからデジタル・ヒューマニティー
ズへ発信する―」 斎藤 明 (東京大学大学院教授):「文科大臣通知の衝撃―日本学術会議の対応と東洋学・アジ
ア研究の近未来像―」 予 約 不 要 ・ 入 場 無 料 〔報告レジュメ集〕 水 島 司 「 歴 史 地 理 情 報 シ ス テ ム と ア ジ ア 研 究 」 アジア史をグローバル・ヒストリーの潮流が襲っている。20 世紀半ばから大きく軌道を転じ始めた世
界の構造は、アジア理解なしの歴史解釈を無意味なものとし、アジア史研究者に積極的な発言を求め
始めた。アジア史に携わる者は、もはや個別研究に安住することは許されず、新たな視座、新たな手
法によって、世界の歴史認識に向かって発言することが求められている。報告では、グローバル・ヒ
ストリーにおけるアジア研究の意義と、歴史地理情報システムが今後果たしうる役割について論ずる。 小 島 毅 : 「 東 ア ジ ア 海 域 文 化 交 流 」 平成18〜22年度に実施された共同研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成」は終了して
からすでに5年が経つが、その成果はなお継続刊行中であり、また種々の後継研究が進行している。
その現況のいくつかを紹介し、日本文化史についてのかつての通説を塗り替えていく方向性を示す。
特に報告者が従事している思想史研究の立場から、東洋学を振起するための提言を試みてみたい。 下 田 正 弘 : 「 東 洋 学 の 新 使 命 ― ア ジ ア か ら デ ジ タ ル ・ ヒ ュ ー マ ニ テ ィ ー ズ へ 発 信 す る ― 」 デジタル技術を人文学分野に応用する人文情報学(Digital Humanities, DH)は、危機にある人文学の
未来を開く新たな学問として過去 20 年あまり欧米において目覚ましい進歩を遂げた一方、アジアでは
未だ十分に知られていない。日本で DH を深化させ世界に発信することは、今後日本がアジアにおける
文化研究の中心地として東西文化研究の橋渡しをするための重要な鍵となるが、じつはその環境はい
ま整いつつある。本発表は、DH 学界で注目される「インド学仏教学知識基盤」(SAT)を例に取りつつ、
西洋中心に進められてきた人文学の視座と方法とを多様化し、次世代の世界の文化研究を先導しうる
日本の人文学の可能性を示してみたい。 斎 藤 明 : 「 文 科 大 臣 通 知 の 衝 撃 ― 日 本 学 術 会 議 の 対 応 と 東 洋 学 ・ ア ジ ア 研 究 の 近 未 来 像 ― 」 6 月 8 日の文部科学省通知の衝撃は大きかった。これは、各国立大学が 2016 年度からの 6 年間の中
期計画を本年 6 月末までに提出するという時期を見計らった上での通知であった。直接の対象は国立
大学であったが、将来の高等教育のあり方を見据えれば、私立大学にとっても他人事でありえないの
は明らかであろう。本発表では、この間の一連の経緯と日本学術会議の対応を紹介するとともに、人
文社会科学、とくに東洋学・アジア研究の近未来像を考える上で、何らかの示唆がありうるのかを考
えてみたい。