両足の浮腫と虚弱を呈した52歳男性(※PDF)

L,
52歳男性が下肢の腫脹と衰弱を主訴に救急外来を受診しました。
4週前両側性の下肢腫脹が起こり 2週前には下肢の腫脹のために靴を履くこと
ができなくなったため別の病院の救急外来を受診し低ナトリウム血症を指摘さ
れ、また甲状腺刺激ホルモンの値は 89mIUで、した。彼はレボチロキソンを 150
μg
l日の用量で内服しており、投与量は 175μg/日に増量されました。フロセミ
ドが処方されある程度の効果を発揮しました。両側性の進行性の表弱と.それに
続く断続的な筋肉の痛みが出現し、疲労感、幅気、びまん性の腹痛が出現し非
血性、非胆汁性の咽吐も 1回認めました。胸痛、呼吸の短縮、起座呼吸は認め
ませんでした。これらの症状が出現する以前は彼は公益会社の管理者として活
発に働いていました。
呼吸困難、起座呼吸をともなわない浮腫をきたす疾患としては右心不全、肝機
能障害、腎機能障害もしくはネフローゼ症候群が挙げられます。倦怠感、 H匝気、
H
匝吐などの全身の症状は非特異的でこれらのどの病態でも起こりうります。
甲状腺機能低下症は患者のすべての症状を説明できるため甲状腺刺激ホルモン
の上昇は注目すべきものでしたが、他の症状がない点でこの疾患では典型的で
はなく他の疾患を考慮する必要がありました。最初に鑑別をあげることなく処
方された利尿薬は適切で、はなく浮腫をより悪化させていました。過去の甲状腺
刺激ホルモンの値や服薬の調整歴など甲状腺疾患に関するより詳細な情報が必
要でした。
患者は 11年前に甲状腺乳頭癌を患っており甲状腺全摘とヨード放射線療法を
受けていました。彼のアドヒアランスは完壁で 125から 175μg/日の服薬をして
4週前に受けた
いました。彼の記憶によると最初の病院の救急外来を受診する 1
検査では甲状腺機能は正常でじた。甲状腺全摘や放射線ヨード療法を受けた患
者は生渡サイロキシン (T4)をのみつづけなければぜりません。通常の治療量
より多い量を投与しておくと内因性の甲状腺刺激ホルモンの産生・分泌が抑制
され残存するガン細胞への刺激が抑制されます。クローン病や腸管疾患による
吸収生涯なども含めたの疾患の可能性、カルシウムや鉄の吸収に影響する薬剤
の投与、リファンピシンと抗けいれん薬などのような薬剤間の相互作用も鑑別
に挙げられました。
,
‘
E
既往歴には高血圧、ディスペプシア、 14年前に診断された櫨胞性非ホジキン
リンパ腫がありました。シクロホスフアミド、 ドキソルピシン、ピンクリスチ
ン、プレドニゾロン、リツキシマブで治療された後、 4年前に骨髄移植を受け
ていました。移植は成功しましたが皮膚と腸管での GVHD反応に対して 1日 5
mgμgのプレドニゾロンを内服する必要がありました。来院の 3ヶ月前症状が
完全に消失したためグルココルチコイドはテパ}リングなく終了されました。
患者は同時期に VZVのワクチンを接種していました。追加の薬物療法としてリ
シノプリル、パントプラゾールが開始されました。彼はマサチューセッツに妻
と二人の子供と住んでおり飲酒喫煙歴はなく違法ドラッグもしていませんでし
た。彼の父親は高血圧と心血管疾患の既往がありました。
骨髄移植のレシピエントは原疾患の再発、 GVHDを始めとする免疫異常、免疫
抑制状態が引き起こす各種感染症など様々な疾患のリスクがあります。 GVHD
はまず皮膚、肝臓、腸管から始まり角膜、肝細胞、腎臓も障害されます。急性
期 GVHDは急性の多量の下痢、腹痛、黄症で現れます。慢性期 GVHDは移植
後 3ヶ月以上経った後に出現し蛋白漏出性胃腸症や腸管の吸収障害を引き起こ
します。直近のグルココルチコイドの中止は GVHDを増悪させ吸収障害を引き
起こしレボチロキシンの必要量の吸収を妨げた可能性があります。レボチロキ
シンは副腎不全のリスクを上げるため副腎不全により衰弱、日匝気、倦怠感が起
こったという可能性も考慮する必要がありました。
6
.
50C、心拍数は 56bpm、血圧は 118/84mmHg
、呼
来院時の検査では体温は 3
吸数は 1
6回で Sp02は 99%RAでした。疲れているようで、したが苦悶様ではな
く、眼寵周囲の浮腫、リンパ節腫脹は認めませんでした。心機能検査、呼吸機
能検査では異常はなく頚静脈圧は 7cmH20でした。腹部は軟で圧痛、反眺痛、
筋性防御、腹水を認めず、下肢には 1+
の浮腫を認めました。皮膚に異常所見
は認めませんでした。見当識障害はなく脳神経に異常は認めませんでした。
MMTは足、足首、腕、手で 4で筋萎縮・肥大はなく失調もありませんでした。
感覚異常はなく、反射も遅延、弛緩なく正常でした。
重度の甲状腺機能低下症の患者にとって、粘液水腫性昏睡は一一番問題で、ある。しかし、精
神状態の変化の報告はなく、低体温症、高度徐脈、低換気、時折の低血圧のような重度の
甲状腺機能低下症でみられる他の症状は本症例ではいずれもみられなかった。その患者は
甲状腺機能低下性ミオバチーに関連する筋方低下があヲたが、近位筋優位の障害で、遅延
反射に関連するもので、ある σ 検査では心不全はなく
t
肝不全でみられるような紅斑もみら
れなかった。患者はネブ早}ゼ症候群でよくみられる症状で、ある眼寵周囲の浮腫はなかっ
たが、身体検査では腎不全と診断するには限界がある。さらにいうと、患者は入院する前
利尿剤を内服しており、浮腫は大幅に減少した。甲状腺機能試験がなされ、尿検査で蛋白、
クレアチニン値を測定した。
I
l
L
)、クレアチニン 0
.
8
2
m
g
/
d
l
(
7
2
μ
電解質は正常であった。尿素窒素 IOmg/dl(3.6mmo
m
o
l
l
L
)、Al
b 2.6g/dI(基準範囲 3.5~5~2) 、総蛋白 5.9g/dl(基準範囲 6.0~ 8. 0) で、あった。血
球数は正常で、あった。甲状腺刺激ホルモレ(チロトロピン)は 78.8mIU江l基準範囲 0.5~5.7) 、
f
r
e
eT40
.
8ng/dl(1 0pmollL)(基準範囲 0.9~.1 .7 ng/dl.12~22þmolι) であった。コルチゾー
ルは 8
:
0
0の時点で 10.
4μg/dH2$7
p
.
mo
目
立
, (基準範囲 2.3~.19..4 μg/dl 63~5 S.5nmollL)、
コシントロピン 0;25mg 投与 1 時間後の時点で 21:6μg/dl(596nmo目J(基準値札 8~Oμg/dl、
>497nmo
I
l
L
) で、あった。総コ・レス安ロール件 32
.
lmg(dl(8.30m
:
mo
l
l
L
)
、 LDL コレステロ
ール 2
4
8
m
g
/
d
l
(
6.
41mmo
I
l
L
)、 HDL コ レ ス テ ロ } ル 3
7
m
g
/
d
l
(
0
!
9
6
m
r
n
o
l
/
L
)、 TG
阻.
.
)で、あった。尿検査では蛋白 3+で、血尿はみられなかった。
179mg/dl(2.02mmo
reeT4値の低下は甲状腺機能低下の診断の一助にな
著しい甲状腺刺激ホルモンの上昇と F
る。臨床的な甲状腺機能低下症に対しての治療として高容量のレボチロキシンを始めなけ
ればならない。吸収不良を考えて、静脈内投与を推奨した。尿検査は臨床的に重大な蛋白
尿を示しているが、これは半定量的に過ぎない o .蛋白尿は蛋白クレアチニン比または 24
時間蓄尿にて定量化する必要がある。
1胆量 75μg) 投与した。入院する少なにとも 1
患者は入院し、静脈内にレボチロキシン (
週間前に患者は泡沫性尿の訴えがあった。尿蛋白は 380 , 8mg/cll(基準範囲 0~15) で、尿ク
レアチニン値は 5
4
.
4mg/dlであり、尿、蛋白クレプチニン比は 7であった。
蛋白/クレアチニン比は 24時間に排池された蛋白量を反映している占(すなわち 7
g
)
。患者
はネフローゼ域の蛋白尿 (
2
4時間で、>
3
.
5
g
) であった。この程度の蛋白尿はネフローゼ、症
g
/
d
l
)
、
候群以外でもみられるが、この患者はネフローゼ域の蛋白尿、低アルブミン血症(く 3
末梢性浮腫、高脂血症を認め、ネフローゼ症候群の診断基準全てを満たしていた。
ネフロ}ゼ症候群は膜性腎症、巣状糸球体硬化症、微小変化群、膜性増殖性糸球体病変
などによって起きやすい。ネフローゼ症候群は腫療、リンパ腫などの腫蕩随伴膜性腎症、
微小変化群と関連があるかもしれない。 PETが考慮された。他のネヌローゼ症候群の原因
として薬剤
(
N
S
A
I
D
Sなど)や肝炎、 HIV感染症を含む他の慢性感染症、 SLE、アミロイ
ドーシスなどが考えられる。さらに病理学的診断が治療と予後に関わってくるため、腎生
検を提案した。
補体 (C3、C4) を含め、血清、尿わ蛋白電気泳動の結果は正常.で、あっ た。抗核抗体、クリ
i
オグロブリン、抗好中球細胞質抗体 (ANCA)、B 型肝炎、 C 型肝炎、 HIV抗体、 トレポネ
8F-FDQi(:
フルオロデオキ Vグルローヌ)を用いた全身の PET
ーマ抗体は陰'性で、あった。 1
検査ではリンパ腫の所見はみられなかった。腎臓の超音波検査では 6mrh台の非閉塞性の
左腎結石を認めたが、腎のサイズ、昇二コー輝度ば正常で、あった。腎生検ではびまん性では
ないが広範囲に腎実質に慢性的な微小変化と 12%の糸球体硬化を伴った足突起の消失を
F
i
g
.
1
)これは患者の年齢と高血圧の既往を考慮すると矛盾ない所見であり、分節
認めた。 (
性糸球体硬化は認めなかった。
これらの結果は特発性微小変化群疾患を示唆している。びまん性ではないが広範囲の足突
起の消失は、早期の微小変化群または自然部分寛解を伴った微小変化群、部分的に薬物治
療を行った微小変化群を示唆じている。分節性糸球体硬化がないことは巣状糸球体硬化症
の所見とは相反するものであった。
ネフローゼ症候群の患者において、サイロキシン結合グロプリン (TBG) (
T
4primary
b
i
n
d
i
n
gp
r
o
t
e
i
n
)は尿中へ排准される タンパク質の一つである。甲状腺機能正常の患者では
s
甲状腺が甲状腺ホルモンの分泌を増量することによって尿中への排世を代償することがで
きる。このことは t
o
t
a
l
T
4は低値だが(蛋白が減少し、それゆえに蛋白結合 T4も減少す
ることに由来するもの) F
ree-T4は正常値を示すというバターンにつながる。(この患者の
ように)機能している甲状腺組織がないよーうな甲状腺甲状腺機能低ア症の患者は、尿排世
に伴う内因性の代償機構が機能しない .'このことが臨床的甲状腺機能低下の進行につなが
0,
る
。 T4の尿排池の量を測定することは有効である。
、.
J
24時間蓄尿の検査結果では尿中 T4は 2
.
1
4
μ
g
/
d
lであった。計算すると 24時間の T4の排
f
世量は 62μgで、あった。
t
,
‘
ー
•
1
•
..
・
,
この患者の甲状腺機能低下がネフローゼ症候群に起因している事をこの結果は示していま
す。特発性微小変化群は患者のおよそ 3分の 1で自然におさまります。病気が鎮静になら
ないまたは再発する患者のために、グルココルチコイドが用いられます。アンギオテンシ
ン変換酵素阻害薬を高血圧のために内服しています。またこれらの物質は尿タンパク排出
を減らすことも示されました。
レポチロキシンは 1日200μgの経口経路に変更になりました。アトルパスタチンは高脂
血症のために始まったが、ひどい筋肉痛のために中止となった。入院の 5日後にはすべて
の徴候が治まった。 2週後に、クレアチニン/タンパク質比率は 1.4に減少し、血清アルブ
ミン濃度は 3.1g/dLまで増加しました。そして、両足の浮腫はおさまったので、プロセミ
ドは中止されました。
蛋白尿の大幅な減少は微小変化群の改善を示唆します。しかし、再発の可能性があり毎月
一回尿タンパクの計測と診察を行いました。
2ヵ月後に疲労感と足の浮腫が患者に生じました。彼は、毎日レボチロキシンをとっていま
.
6でした、そして、甲状腺刺激ホルモン濃度は 1
5
.
9
した。クレアチニン/タンパク質比率は 5
mIU
ιまで増加しました。プレドニゾンは 80-mg(体重当り 1mg/kg) の一日量で開始
されました、そしてレボチロキシンの量は毎日 250μgに増やされました。 4週後にクレ
タンパク質比率は 0
.
1まで減少しました。そして、甲状腺刺激ホルモン濃度は 3
.
8
アチニンf
mIU
ι に減少しました。レポチロキシン服用は毎日 200μgまで減少しました。そして、
0mgl日まで漸減しました。 6ヵ月後に、血清
グルココルチコイドは 4ヵ月聞にわたって 1
.
2gILでタンパク尿は見られなかった。そして、脂質濃度は正常範囲で
アルプミン濃度は 4
した。患者の健康状態は正常状態に戻って、浮腫は再発しませんでした。
,
Commentary
患者は微小変化型ネフローゼと臨床的甲状腺機能低下という 2つの独立した病態を示し
ていた。しかし、 彼の変化した甲状腺系における蛋白原によって、甲状腺機能低下はネ
フローゼ症候群からきているものだと分かつた。,
甲状腺機能低下はネフロー.ゼ症候群の合併症としては少ない。血中の F
T
4の 9
9
略はサイ
ログロブリンやトランスサイレチシやアルブミンを含む甲状腺結合タンパクに結合してい
る。この患者の視床下部ー下垂体ー甲状腺系において、原中への喪失を補うために甲状腺
4を多く産生する。ネフローゼ症候群に伴う重度の蛋白喪失において、生物学的には
はT
Tホルモンのレベルは典型的には影響されない L、多くの症例において臨床的に
活性化 F
も変わらないとされている。しか L、T
4の喪失に対じて T
4を外からの補充に頼らなけれ
ばならない要因のある患者は、蛋白原によって臨床的に甲状腺機能低下する。
4
そういった症例では、原中サイロキシンレベルを測定することが有用である。尿中の T
は普通は無視できる程度の量だが。
微小変化型ネフローゼば蛋白原が臨床的特徴とされている。幹細胞移植後に起こったと
V
H
Dの一種という説
報告されておりそれは糸球体基底膜の障害が原因と言われている。 G
もあった。また腫蕩に関連して引き起こされることもある。
何らかの疾患に起因して生じた微小変化型の治療はその臨床症状や合併症で大きく異な
る。この患者もすぐにステロイドが必要になった。グルココルチコイドは微小変化型ネフ
ローゼのメインの治療で成人におけるこっのランダマイズド試験で有用性が示されてい
る。他の免疲療法としては、カルシエューリン阻害薬を含めて、リツキシマブ、アザチオ
プリン、ミコフエノールなどが低用量ステロイドとともに使われている。高用量のステロ
A
A系の阻害薬や 3ヒドロキシ 3メチルグル
イドは副作用が多い。他には、浮腫の改善に R
タリルコエンザイム A還元酵素阻害薬が高脂血症に用いられる。 A
C
E阻害薬と A
T1受容体
阻害薬は糸球体のサイズバリアを改善し長期の人保護作用があるとされている。再発は微
小変化型ネフローゼに多く、 4
0代以下の若い年代の方がそれ以上の人より多い。 1
/
4の患
者が年に 3
.
4回再発するという報告もある。:
今回の症例では症状や検査異常に対する治療だけでなく、その根底となる原因の調査の
重要性を再認識することができた o.
,
•
.
.
白
、
-BIl--
‘
E
---a
;
•
•
••
••
• •.
ー‘ー