所得格差を考える -国税庁・統計情報及び、 財務省・法人

所得格差を考える
-国税庁・統計情報及び、
財務省・法人企業統計他資料を読む第4版
2015年2月5日
森松 幹治
東京都市大学
市民講座受講者研究会
1
順序
導入(1-10)
序論(1-4)
まとめ
休憩
本論(1-2)
まとめ
補論
導入
導入1 近年、一般に正規雇用と非正規雇用の所得格差拡大
が認識されるようになってきた
導入2 素朴な疑問 なぜ非正規雇用が多くなってきたのか
導入3 正規雇用と非正規雇用の年収比較
導入4 調べてみようと思った動機
導入5 経済のよしあしの物差し
導入6 1990年前後に昭和と平成を分かつ歴史的分岐点があった
導入7 仮説 所得格差をもたらした主要原因はなんだろうか
導入8 引用した統計一覧
導入9 国税庁 統計情報
導入10 日本の労働人口
導入1 近年、正規雇用と非正規雇用の所得格差拡大が認識さ
れるようになってきた
約30年前
一億総中流社会
学校を卒業すれば入社試
験を受けて正規社員にな
ることが普通だった。
主婦の一部は家計の足し
にパート、退職者の一部
は年金生活費の足しに嘱
託、親の仕送りの少ない
学生はアルバイトに、各々
非正規労働者として不足
分を稼いでいた。
現在
所得格差社会
現在、学校を卒業しても正社
員になれるとは限らない。
そして、3人に1人が非正規雇
用になっている。
非正規雇用には、これから自
立しようとする若者や、結婚し
て一家を支えなければならな
い人がふくまれている。
導入2 素朴な疑問 なぜ非正規雇用が多くなってきたのか
日本の経済規模(GDP)が縮小して
同一労働同一賃金が払えなくなってきたのか
または、はたらきが悪いのか
↓
今から30年前「一億総中流」といわれる時代があり、
その当時と今のGDPを比較すると、
当時と今は、ほぼ同じ水準のGDPを維持
↓
昔できたことが、今どうしてできないのか
導入3 正規雇用と非正規雇用の年収比較
正規雇用と非正規雇用の年間給与比較
600
521
500
502
468
408
400
350
年
間
給 300
与
(
万
円 200
)
268
226
168
144
100
0
正規
非正規
男女平均
男性
正規・非正規 平均
女性
(出所)総務省 年間給与実態調査2012をもとに再構成
導入4 調べてみようとした動機
どうして、所得格差が生まれたか
その原因がなにか、探ってみよう
原因がわかれば対策
が立つのかもしれない。
導入5 経済のよしあしの物差し
ひとの生活水準を左右するもの
生産性
所得分配
失業
(出所)クルーグマン教授の経済学入門第2刷2009 筑摩書房
ポール・クルーグマン(1953~)ノーベル経済学賞2008受賞者」
ご一緒に考えてみましょう
導入6 1990年前後、昭和と平成を分かつ歴史的分岐点があった
(バブル発生とバブル崩壊)
土地と株式の資産損失は約1500兆円
今日までつづく長期平成不況は、
この後遺症によりはじまった
導入7 仮説 所得格差をもたらした主要原因はなんだろうか
主原因
二つの仮説
1985年労働者派遣法制定
その後の規制緩和
1988年消費税制定と一連の税制改革
所得税累進税率引き下げ、法人税率引き下げ、
金融所得税税率引き下げ、分離課税創設など
統計を使い、この仮説を検証してみよう
導入8 引用した統計一覧
項
目
国民経済計算
・名目国内総生産
・名目国内総支出
財務省
国税庁
統計情報
税務統計
・民間給与の実態
・申告所得税の実態
・法人企業の実態
・統計書
財務省
法人企業統計 ・法人企業の実態
税制
・わが国の税制・財政
の現状全般について
総務省
統計局
政府統計の
総合窓口
内閣府
インターネット検索
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/kaku
日本経済の循環
hou/kakuhou_top.html
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kok
uzeicho/tokei.htm
http://www.mof.go.jp/pri/reference/s 時系列データ検索
sc/index.htm
メニュー
・労働力調査
・就業構造基本調査
・民間給与実態調査
https://www.e時系列統計データ検
stat.go.jp/SG1/estat/html/GL02100101
索サイト
.html
厚生労働
雇用・労働
省
・非正規雇用
(有期・パート・派遣労
働)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunit
suite/bunya/koyou_roudou/index.html
日本銀行 統計情報
・為替
http://www.statsearch.boj.or.jp/index.html
注:調査機関が異なると、同じ目的の統計でも調査方法に違いがあり、値が異なる場合がある。
時系列統計データ検
索サイト
導入9 国税庁 統計情報
導入10 日本の労働人口
国税庁・統計情報(除く公務員)平成24年(2012)現在
所得税(総合課税) 給与所得者総数
1-3-7図表 1/2 (1年勤続+1年未満勤続)給与所得者総数 5,329.3万人
(1年勤続役員+1年勤続正規)
3,467.9万人65.1%
(1年勤続非正規+1年未満(役員+正規+非正規)) 1,861.4万人34.9%
申告所得税(分離課税) 申告納税者合計所得人員
1-3-19図表 1/3
合計所得人員
609.3万人
総務省統計局 平成26年8月(2014)現在
労働力人口総数(含む公務員約340万人)
1-3-9図表 1/2
雇用者総数 5,600万人
役員含む正規男女合計
3,652万人65.2%
非正規合計
1,948万人34.8%
1-3-10図表 2/2
就業者総数 6,362万人
非農林業就業者数
6,151万人
農林業就業者数
212万人
注:雇用者とは雇用契約のある労働者を指し、就業者とは雇用契約のある労働者の他に雇用契約の
ない個人事業主をも含めたものを指す。
厚生労働省 労働力人口総数平成25年(2013)現在
総人口12,731万人、15才以上人口11,088万人、労働力人口6,577万人
非労働人口 4.506万人、完全失業者 265万人 完全失業率 4.0%
労働力人口比率 59.3%
(注)各省の値が異なっているのは、それぞれの調査年度や調査方法が違うためである。
序論
引用したデータ
国税庁・統計情報/総務省・統計情報/
財務省・法人企業統計/内閣府・国民経済計算
序論1
序論2
序論3
序論4
非正規雇用に表れる所得格差の実態
民間給与の実態
申告所得税の実態
法人企業の実態
序論 まとめ(労働者派遣法制定及びその後の規制緩和は、別途本論に移す)
序論1-1 非正規雇用の実態
労働者派遣法施行後の非正規雇用労働者の推移 (厚生労働省資料から)
非正規雇用労働者は、1995年から2005年までの間に増加し、以降現在まで緩や
かに増加(役員を除く雇用者全体の36.7%)。
特に15~24歳の若年層で、1990年代半ばから2000年代初めにかけて大きく上昇。
また、雇用形態別にみると、近年、パート、契約社員・嘱託が増加。
序論1-2 労働者派遣法制定当初の制定主旨
① 同法制定以前は、正規雇用・パート・アルバイト・臨時雇い
などの非正規雇用の区別なく、全ての労働者は使用者の
間で対等の立場で直接労働契約(有効労働契約)を締結
して就労することを原則としてきた。
② 同法は「労働者直接雇用の原則」の例外として、結婚・出産
で退職した女性が子育て後に復帰する中途採用市場が存
在しなかった中で、一般的終身雇用の労働市場と臨時労
働が棲み分け(同時に存在することが)可能な専門職の派
遣業務の創設が同法の制定主旨だった。
③ 就労期間が3年を超える場合は正規雇用としなければな ら
ない。(同法に規定されている)
序論1-3 1985年労働者派遣法制定と、その後の経過及び問題点
① 非正規雇用の雇用分野の例外規定が拡大された。
② 日本とEU(European Union)加盟諸国との間で均等待遇面に大きな違い
EUでは非正規雇用者に同一労働同一賃金の均等待遇面の原則は守られ
てきた。日本の労働慣行では均等待遇の原則が成立しておらず、正規雇用
と非正規雇用間、男女間に大きな所得格差を残している。
③ ワーキングプア(はたらく貧困層)の出現
④ 人口減少の主要原因 有配偶男性、無配偶の男女の非正規労働者の増加
⑤ 正規雇用者が減って非正規雇用者が増えると、経済成長を担う活力ある
中間層が減る。
⑥ 労働者派遣法施行によって〔罪の側面〕が生まれた。
・職業安定所は、職業紹介が福利厚生面の国家事業であるため、職業紹介
にともなう紹介料はとっていない。
・本来、元請から派遣労働者に渡るべき賃金の一部が、中間に存在する派
遣元事業者と人材派遣業者の手に渡る。
(低賃金が生まれる温床)
序論2 民間給与の実態 所得税
「民間給与の実態」 14段階給与階級
序論2-1
序論2-2
序論2-3
序論2-4
序論2-5
業種別 年間平均人員総数/平均給与額
給与階級別 (1年勤続+1年未満勤続)給与所得者総数
給与階級別 給与所得者総数
雇用者 正規 非正規 割合
給与階級別 1年未満勤続 給与所得者総数
「所得税」
序論2-6 所得課税の基本的な仕組み
序論2-7 所得課税計算の仕組み(イメージ)
序論2-8 給与所得者の所得課税計算のフローチャート
序論2-9 1989年所得税累進税率の大幅引き下げ
序論2-10 所得税の最高税率の見直し(2013年改正)
序論2-1 業種別 年間平均人員総数/平均給与額
序論2-2 給与階級別 (1年勤続+1年未満勤続)
序論2-3 給与階級別 給与所得者総数
序論2-4 雇用者 正規 非正規 割合
序論2-5 1年未満勤続(役員+正規+非正規) 給与所得者総数
序論2-6 所得課税の基本的な仕組み
序論2-7 所得課税計算の仕組み(イメージ)
序論2-8 給与所得者の所得課税計算のフローチャート
序論2-9 1989年所得税累進税率の大幅引き下げ
序論2-10 所得税の最高税率の見直し(2013年改正)
序論3 申告所得税の実態
序論3-1
序論3-2
序論3-3
序論3-4
序論3-5
「申告所得税の実態」 25段階所得階級
所得階級別 総括表
課税所得金額、申告所得税負担率
申告納税者の所得課税負担率(内閣府税制調査会2011.12.19)
合計所得人員 合計所得金額
合計所得金額 課税所得金額 納税額の推移
序論3-6
序論3-7
序論3-8
序論3-9
「金融所得税」(利子、配当、株式譲渡益)
金融所得税制の税率引き下げ推移
総合課税制度、源泉分離課税方式、分離課税方式
所得税の総合課税と分離課税の税率比較
租税特別措置・政策金融・補助金
序論3-1 所得階級別 総括表
序論3-2 課税所得金額 申告所得税負担率 (24段階所得階級別)
序論3-3 申告納税者の所得課税負担率
序論3-4 合計所得人員 合計所得金額 (24段階所得階級別)
序論3-5 合計所得金額 課税所得金額 納税額の推移
序論3-6 金融所得税制の税率引き下げ推移
(出所)国会図書館 調査と情報
金融所得税制の変遷 No808(2013.11..26)を転載
序論3-7 総合課税制度、源泉分離課税方式、分離課税方式とは
総合課 各種の所得金額を合計して所得金額を合計することをいう。
税制度
株式売却額の5.25%を利益とみなし、この20%を所得税として証券
会社が天引きして納税する仕組み。
源泉 株式売却の都度、売却代金の1.05%(5.25%× 20%)を所得税として
分離課 天引きされるだけで課税が完了。
税方式
売却損が出たとしても売却額の1.05%を天引きされるという株主に
(軽課) とって不利な点もある。
しかし、面倒な手続きが不要なことや、売却益が出た場合の税金
面での有利さから、源泉分離課税が多く選択されている。
申告
個人投資家は1年分の株式売買による利益と損失を自ら通算し、
分離課 利益がでていれば税務署に申告し納税しなければならない。
税方式 売却益に対する税率は、所得税が20%、住民税が6%になっている。
(重課)
序論3-8 所得税の総合課税と分離課税の税率比較
総合課税
分離課税
所得の種類
不動産所得、事業所得、
給与所得、一時所得、
退職所得、雑所得
金融所得
(利子・配当・株式譲渡益)
土地等の譲渡所得益
税率
最高40%
20%
累進性
限定的1800万円まで
なし
比例性
1800万円以上は一律
一律
税率段階
6
なし
階級区分
(税務統計)
14段階給与階級
25段階所得階級
重課
軽課
所得課税負担率
高額所得者
(出所)財務省所得税など(個人所得課税)に関する資料(平成26年4月末現在)をもとに再構成
序論3-9 租税特別措置・政策金融・補助金
民間投資を促進する手段として財政を活用するには、大きく三つの政策手段がある。
一つは租税特別措置であり、もう一つは政策金融であり、最後の一つは補助金であ
る。
租税特別措置とは特定の民間投資に対して租税を減免する措置である。しかし、この
手段は企業が十分な利益を上げていて初めて、効果を発揮する。しかも、租税の公正
を崩して、公正ではないがゆえに効果があるという結果を招く。
政策金融とは民間金融と補助金の中間形態ということになる。つまり、政策金融とは
「補助金としての国家信用供与」ということになる。政策金融は補助金や租税特別措置
と相違して、企業に融通した資金を回収しなければならない。金融市場よりも優遇され
た条件で企業に融通すととはいえ、資金を回収しなければならない以上、採算のなり産
業に融通するわけにはいかない。
これに対して補助金であれば、採算がとれない分野にも運用することができる。しかも
租税特別措置と推移して、どういう分野に交付するのかを予算に計上するため、国民
の意思のもとにコントロールができる。とはいえ、租税資金を使用するため、政策金融
のように巨額の資金を融通するには限度がある。
神野直彦 財政学改訂版P251-P252有斐閣2007
序論4 法人企業の実態 法人税
序論4-1
序論4-2
序論4-3
序論4-4
序論4-5
序論4-6
序論4-7
序論4-8
法人企業の実態
法人数比較
営業収入金額比較
法人税正味負担
利益計上法人 法人税正味負担率(%)
利益計上法人 社内留保の推移
利益剰余金(内部留保)の推移
益金処分内訳の推移
配当金の推移
序論4-9 付加価値率の推移
序論4-10 業種別付加価値率
序論4-11 米ドル・円レートの推移
法人税の実態
序論4-12 法人課税税率の推移
(高度経済成長期、法人企業に高比例税率の法人税が課せられていた)
序論4-13 1980年代後半に、なぜ法人税の税率引き下げが進められたか
序論4-1 法人企業数比較
序論4-2 営業収入金額比較
序論4-3 法人税正味負担
序論4-4 利益計上法人 法人税正味負担率(%)
序論4-5 利益計上法人 社内留保の推移
序論4-6 利益剰余金(内部留保)の推移
序論4-7 益金処分内訳の推移
序論4-8 配当金の推移
序論4-9 付加価値率の推移
序論4-10 付加価値率とは
付加価値額=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料
+租税公課+営業純益
2006年度調査以前
人件費=役員給与+従業員給与(従業員賞与を含む)+福利厚生費
2007年度調査以降
人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費
序論4-11 業種別付加価値率の推移
序論4-12 米ドル・円レートの推移
序論4-13 法人税率の推移
序論4-14 1980年代後半に、なぜ法人税の税率引き下げが進められたか
構造改革とサッチャー、レーガン改革
構造改革に賛成する部分もあります。それは経済の活性化を促進する効果があるからです。しかし、格差と
いう視点から見た場合には、やはり様々な問題を抱えているのではないかと考えています。この問題を考え
るにあたり、1970年後半から80年代初期にイギリスのサッチャー首相とアメリカのレーガン大統領が行った
経済改革との比較が参考になります。なぜなら、構造改革は考え方において、その二つの経済改革と共通
する面があるからです。
サッチャー首相とレーガン大統領は、1970年代後半から80年代にかけて、最悪の状態にあったそれぞれの
国の経済を立て直すことに成功しました。彼らが行ったことは、第一に市場原理の活用です。規制を緩和して
競争を促進し、経済の効率化を高めようとしました。第二に大幅な減税政策です。多くの税金を取られること
で、企業や個人が勤労や投資の意欲をなくしてしまうかもしれない。また貯蓄に関しても、あまり高い税金を
課されれば、多くの貯蓄を回避するかもしれない。そうなれば、資本の不足が生じて、設備投資なども難しく
なってしまう。こうした点を回避しようと努めたのです。第三は福祉の見直しです。イギリスでは「揺りかごから
墓場まで」という言葉があるように、伝統的に福祉が充実していました。しかし、福祉が充実しすぎると、人は
怠惰になるという考えのもと、大幅に福祉を削減したのです。
ちなみに、この三つの政策は、サプライサイド・エコノミー、あるいは「供給側に立った経済学」とも言います。
この三つの政策は、構造改革のキャッチフレーズ「官から民へ」「中央から地方へ」という思想にも通じると私
は考えます。
こうしたレーガンとサッチャーの政策は、経済の立て直しという面では成功を収めましたが、同時に二つの現
象を引き起こしました。アメリカを例にとると、1960-69年ではすべての所得階級で所得の増加が見られました
が、1980-89年では所得の減少が現れています。第二に、減税政策の結果、大変な財政赤字に陥りました。
特にアメリカ政府の財政赤字は国際収支の赤字とともに双子の赤字といわれ、非常に深刻な状況に陥ること
となったのです。同様にことが、現在の日本にも起きていると、私はみています。
(出所)橘木俊詔 格差社会 岩波書店第15刷を抜粋して転載2009
序論 まとめ (労働者派遣法制定及びその後の規制緩和は、別途本論に移す)
給与所得の実態
申告所得税の実態
法人企業の実態
14段階給与階級(最高2500万円超)
25段階所得階級(最高100億円超)
益金処分
(内部留保、法人税、支払配当、その他社外流出)
消費税
一律税率 3%→5%→8%→10%
所得税(総合課税)
累進税率 15段階→6段階
最高税率 70%→40%
引上げ
引下げ
引下げ
課税所得限界 1800万円まで、それ以上は一定
申告所得税(分離課税)一律税率 20%
(株式売却の都度、売却代金の1.05%(5.25%× 20%)を所得税として天引き)
法人税
基本比例税率 43.3%→25.5%
引下げ
税制が、給与所得者や法人企業の実態に合っていない
休憩
1990年前後(昭和から平成への移
行期)は、バブル発生とバブル崩壊
が分かつ歴史的変革期だった。
バブル崩壊直後、失われた土地と株式合計資産価
値約1500兆円(GDPの約3倍)が失われた。
それが今日まで続く長期デフレ経済(不況)の後遺
症をもたらす主要原因になった。
57
本論 三大経済主体とは
一般政府
(国)中央政府
地方政府
社会保障基金
三大経済主体のバランスシートに大変動が起きた 1/2
三大経済主体のバランスシートに大変動が起きた 2/2
主要経済主体のバランスシート 1990/2012対比
2,000
1,742.2
1,553.6
1,500
1,138.4
資
産
の
部
1,000
500
1,012.4
847.9
829
400.5
241.8
1,032.7
994.1
574.6518
(
兆
円
)
-552.9
-333.0
2012家計
1990家計
-301.3
-341.0
2012法人企業
-500
1990法人企業
0
2012一般政府
負
債
の
部
1990一般政府
38.8
-353.6
-649.9
-1,000
-1,131.4
-1,500
-1,210.5
-1,414.5
-2,000
非金融資産
金融資産
負債
正味資産
-2,500
-2,232.7
-2,403.4
(出所)内閣府 国民経済計算 ストック編をもとに再構成
本論 国の財政、バブル崩壊後どうなったか
本論1 国の財政
本論2 バブル崩壊後、財政、税制、法人企業はどうなったか
本論1 国の財政
本論1-1 一般会計歳出の主要経費の推移
本論1-2 一般会計歳入の推移
本論1-3 財政・公債(歳入:公債発行額/歳出:国債費)
本論1-4 財政・公債(歳入:公債発行額残高/歳出:国債費累計)
本論1-5 財政・公債(歳入:国公債発行額残高
・国及び地方の長期債務残高/歳出:国債費累計)
本論1-1 一般会計歳出の主要経費の推移
本論1-2 一般会計歳入の推移
本論1-3 財政・公債(歳入:国公債発行額/歳出:国債費)
本論1-4 財政・公債(歳入:国公債発行額残高・国及び地方の長期債務
残高/歳出:国債費累計)
本論1-5 財政・公債(歳入:国公債発行額残高と
国及び地方の長期債務残高/歳出:国債費累計)
1989年と、26年後の2014年の比較
本論2
バブル崩壊後、財政、税制、法人企業はどうなったか
本論2-1 国税徴収状況の推移
本論2-2 バブル崩壊後の法人企業の益金処分
本論2-3 内部留保の推移
本論2-4 バブル崩壊時、恐慌経済に陥ることを救った財政出
動の功罪
本論2-5 恐慌経済対策の財政出動に便乗した一連の税制改
革の功罪
疑問
一連の税制改革は必要なかったのではないか
本論 まとめ
本論2-1 バブル崩壊時、恐慌経済に陥ることを救った財政出動の功罪
当時巨額の負債を抱え込み、バランスシート不良に陥った多く企業や家計は、
一斉に設備投資や消費を止めて借金返済に走った。
国内需要=民間需要米1+公的需要米2
米1 民間最終支出+民間住宅投資+民間企業設備投資+民間在庫品増加)、 米2政府最終支出+公的資本形成+公的在庫品増加)
その結果、約30兆円~約40兆円といわれる民間需要が減少し、需要と供給の
平衡が崩れるデフレ・ギャップが生じた。有効需要減を放置するとデフレ・スパ
イラル(負の相乗効果)を引き起こし恐慌経済に突入する。
〔功の側面〕 ・当時、政府は民間需要減を補うため、その肩代わりに財政出
動・公共投資を行って有効需要を創出。財政出動が、からくも恐
慌経済に陥ることを防いだ。
〔罪の側面〕 ・国及び地方の長期債務残高が、現在1,010.4兆円GDPの約2倍
に積み上がった。
本論2-2 恐慌経済対策の財政出動に便乗した一連の税制改革
の功罪 一連の税制改革は不要ではなかったか
不公平な税制改革
消費税 1988年消費税制定
1989年→ 1994年→ 2014年 税率引上げ
3%
5%
8%
所得税 1989年 15段階→5段階
70% → 50%
法人税
1987年(43.3%) → 2012年25.5%
所得課税段階縮少
最高税率引下げ
最高税率引下げ
〔罪の側面〕
消費税増税を帳消しにする、所得税、法人税の大減税税
制改革による税収減。公債累増に拍車をかけた。
本論2-3 国税徴収状況の推移
本論2-4 バブル崩壊後の法人企業の益金処分
本論2-5 内部留保の推移
本論 まとめ
問題提起 所得格差を圧縮するために、どんな政策転換が必要か
① 財政、税収、所得格差の実態を国民に広く知らせ、「公平、平等、格差の少な
い社会」を目指し、 専門家任せにせず、国民各階各層間で大いに議論をする。
② 労働三法(労働基準法・労働組合法・労働調整法)による監督官庁の規
制・監督を強化し、所得格差の根源になっている労働者派遣法を廃止する。
現在、税務統計により所得格差の実態が明らかになっている。
③ 不公平税制の原因となり、節税対策になっている超富裕層を利する分離
課税、巨大企業を利する租税特別措置法を見直す。
ダブルスタンダード
• 所得税総合税率14段階の給与階級、申告所得税分離税率25段階の所得階
級。 統計が示すように税制は所得格差の実態に追い付いていない。
• シャープ勧告によりつくられたいわゆるシャープ税制は、その後相次ぎ改変。
・一律比例税率消費税を廃止する。
・累進税率所得税6段階を以前に戻し、課税所得限界と最高税率を同時
に引き上げる。
④ これをもとの1990年以前の税制に戻すことが求められるのではないか。
補論
1 日米の二大歴史的教訓
2 国家権力の暴走をくい止める
「最後の鎖」として、国民の手により憲法が誕生(歴史的経過)
した
3 労働者派遣法制定にともなう、ことばのもつ意味
労働者派遣の本来の制定主旨は、正規労働に対置する「臨
時労働」のはずではなかったか
4 アベノミクス「三本の矢」の意味するところはなにか
補論1 日米の二大歴史的教訓
アメリカ 第1次世界大戦後の戦時体制の遂行に伴い、ルーズベルト政権に
より富裕層と労働者階級間の所得格差を是正する所得格差大圧
縮政策が実施された。その結果、中間層が増加し、その後(1920
~1950)約30年間余の高度経済成長につながった。
第1次世界大戦後の30年間のアメリカの繁栄
日本
敗戦後、一時期占領軍が日本を統治した。古い日本を占領下一掃
しようとする意図のもとに、新しい日本の国家改造を目指す計画の
一環としてシャープ勧告がなされた。それにより通称シャープ税制
が制定された。(いわゆる外圧であったが)
この内容は富裕層と中流層・下流層・最下流層間の所得格差を是
正するもので、アメリカの経験を基に所得格差大圧縮政策が実施
された。
その結果、中間層が増加し、その後(1950~1980)約30年間余の
世界の奇跡といわれた高度経済成長の原動力になった。
第2次世界大戦後の30年間の日本の繁栄
(出所) ポール・クルーグマン 格差はつくられた2008初版第3章
大圧縮時代を抜粋し一部加筆 早川書房
補論2 国家権力の暴走をくい止める
「最後の鎖」として、国民の手により憲法が誕生(歴史的経過)した
英国の思想家トマス・ホップス(1588-1679)は、近代国家を「リヴァイアサ
ン*」と呼んだ。
*旧約聖書の「ヨブ記」に登場する怪物の名
リヴァイアサンが立ち上がれば、神々でさえ戦慄して逃げ惑うという、ど
んな武器でも通用しない、まさに無敵の怪物で国家権力が自由に動き出
したら、それをくい止める手だてはない。なにしろ近代国家には軍隊や警
察をいう暴力装置をもち、人民の手から財産を丸ごと奪うこともできる。さ
らに国家の命令ひとつで、人民は徴兵され、命を戦場に投げ出さなけれ
ばならない。
日本人のための憲法原論p56-p57 小室直樹 集英社2013/5刷
法律という怪物は、小さく生まれて政権の手で大きく育つ
トマス・ホップスが近代国家を「リヴァイアサン」といったように、一旦法律
が制定されと本来国民の代表者である国家権力は、課税を含めた国民
生活のあらゆる分野にわたり、法律を根拠とする権限で国民を統治する。
補論3 労働者派遣法制定にともなう、ことばのもつ意味
労働者派遣の本来の制定主旨は、正規労働に対置する「臨
時労働」のはずではなかったか
• 労働者派遣法制定の際にも同様なことが起きた。同法
は本来「労働者直接雇用の原則」に対する例外規定と
して制定された。
• 派遣労働とは、英語で「テンポラリーワーク」とされ、
「パーマネント(恒常的、永久的)な労働、業務に対して、
「期間限定の臨時的労働提供」と意味をいう。
• 「派遣労働」では本来の就労目的を表しておらず、正
確には本来の「一時的な労働提供、あるいは臨時労
働」と訳すべきではないか。
補論4 「アベノミクス三本の矢」の意味するところはなにか
• 第一の矢大胆な金融政策、第二の矢機動的な財政政策、第三の矢
民間投資を喚起をもって、成長戦略と財政再建はこの道しかないと称
している。本当にそうだろうか。
• デフレ経済(不況)とは供給に比べてり需要が不足して状態(デフレ・
ギャップ)いることをいう。
一方、「三本の矢」は、デフレ経済(不況)下で不足しているのは需
要側よりも供給側とする、いわゆるサプライサイドの考え方にたつ。
「バランスシート不況の経済学」デフレ経済(不況)下の理論に逆行
する政策である。この政策でデフレ経済(不況)を脱し、経済成長・
財政再建ができる見通しが本当にあるのだろうか。
• 第183国会2013.2.23施政方針演説にて、安倍首相は日本が(世界の
成長センターになる)「世界で企業が一番活躍しやすい国」を目指すと
述べた。これまで続いた保守政権の中で、これほどあからさま企業寄
りの立場を鮮明にした首相はいなかった。
補論5(参考) 財政再建に関する識者の意見
富田俊基 財政の持続可能性と国債市場 資料2財務省
www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system.../sub.../02.pdf
V 財政持続可能性をめぐる論点
論点1:1500兆円の個人金融資産や265兆円の対外純資産を背景に、国債
の大半が国内で消化されうるので、金利上昇はありえない。また、
国債のほとんどは国民が資産として保有しており、日本全体として
借金を負っているわけではない。
論点2:600兆円の国の資産を考慮すれば、1000兆円の借金は、さほど大き
くはないのではないか
論点3:ここまで国債が累増してしまったので、デフォルトか、高インフレが起
きるのではないか。
国債のデフォルトとは
債務不履行(借金が返せない)になると、その国の信用は失墜し通
貨は暴落状態になる。
高インフレ(通貨暴落:ハイパーインフレ)とは
お金の価値が下がり、物価は暴落、国の経済は大混乱に陥る状態。
ご清聴ありがとうございました
東京都市大学市民講座受講者研究会(2014.12.6)発表時に本論考(発表後、
若干追加・訂正などを行った)を公開した。
・「一粒のオリザ」
http://www.oryza101.com
所得格差を考える
http://www.oryza101.com/html/syotokukakusa.html
所得格差を考える
全体版PDF
所得格差を考える
概要PDF(PPTを変換)
・関連資料
「バランスシート不況の経済学」をもとに、昭和から平成への移行期
に起きた日本経済の変容を考える
http://www.oryza101.com/html/balancesheet.html
全体版PDF
「バランスシート不況の経済学」とはなにか
その1PDF
「バランスシート不況の経済学」をもとに、
デフレ経済(不況)下の経済政策を考える その2PDF
「バランスシート不況の経済学」
その3 概要PDF(PPTを変換)
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