C2対称ジラクトン骨格を基盤とした三次元構造多様性指向型 マクロライドライブラリーの開発研究 感染制御科学専攻・倉Ij薬科学履修コース ・生物有機化学 DI-12003 中野隼人 [背景・目的] マクロライドは特徴的な大環状構造を有する化合物の総称である。魅力的な生物活 性を示すものが多く存在するため、創薬化学における重要な化合物の一つであるとさ れている。マクロライドは大環状化合物であるため、置換基の種類やその立体化学、 環員数により大きく三次元構造が変化し、それに伴って生物活性も変化することが分 かっている l。近年では天然物の誘導体合成あるいは多様性指向型合成において従来か ら重要視されてきた官能基的多様性のみならず、三次元構造多様性に富んだ誘導体合 成も盛んに行われている 。 いくつかのマクロライド天然物に関しても三次元的多様性 を指向した全合成経路の確立と立体構造活性相関研究が行われ、有用な化合物が見出 されている 。 さらに、三次元的に広がりを持つ化合物は様々なタンパク質と相互作用 しうることから三次元構造多様性を持つライブラリーの構築あるいは開発が求められ ている 。一方で、複雑な構造の天然物になるにつれ、その化学合成に多大な労力を要 する、化学修飾部位あるいは骨格変換部位が限られてしまうなどの問題も生じてくる。 そこで、筆者は容易に合成可能かっ複雑な三次元構造を持つテンプレート、すなわち Sp3炭素を豊富に持つ 1 4員環マクロジオライドテンプレートを設計した。そして、立 体化学多様性を指向したライブラリーの構築法を確立することで独自のマクロライド ライブラリーができると考えた。さらにライブラリーを構築後、アミノ糖などの生物 活性に重要な置換基を導入することで生物活性の発現と構造多様性も期待できると考 え、本研究に着手した。 [結果・考察] 三次元的多様性を指向した新たな ライブラリー構築のため、筆者は 1 4 員環マクロライド天然物であるエリ スロマイシンに着目し、これを模倣 した独自のテンプレートを発想し た。すなわち、エリスロマイシンの 9 ErythromyclnA( 1 ) Tιmemberedr l n g macrolldetemplate( 2 ) 日gure1 エリスロマイシンを捜したテンプレートの lU 十 位のカルボ、ニル基をシフトさせ新たに C2対称のジラクトン骨格へとし、水酸基とメチ ル基をそれぞれ F i g u r e1に示すように配置し、容易に合成可能かつ多様な誘導体へと 導くことができるマクロジオライド骨格を設計した。設計したテンプレートは 1 0個の 不斉炭素を有しており、理論上 210= 1 0 2 4通りの立体異性体が考えられる。そのため、 骨格上のメチル基と水酸基の立体化学を合成化学的に制御することで多様な三次元コ ンフォメーションを実現したマクロライドライブラリーの構築ができると考えた。そ して、 Scheme1に示すような合成経路を立案し、実際に三次元コ ンフォメーシ ョンの 多様性が生じていることを確認するために 32種の異なる立体化学を持つマクロジオ l d o l反応により 4種 ライドの合成を試みた。すなわち、容易に立体制御可能な Evansa の異なる立体化学を持つハーフ ユニ ッ ト 5を用意し、エステル化で 4種のハーフユニ 6種の立体異性体へと導き 、さら に山口マ クロラ ットをそれぞれ組み合わせることで 1 ク トン化あ るいは光延マ クロラク トン化を利用することで 32種のマクロ ジオラ イド 異性体へ導くこととした。 〆 よよ 1 Bn 。 N 可f' Y I ・o OR OR 二今hYo~よ十 r r r HO~1 人人人 人人メJ レーーヘ 日 T u I ーーーープ j人~., 、OR O OR OR l OH MaCtol ac t o n i z a t i o n 印 刷 闘t i o n 2 1 二 ( 伽 勾u t∞M t m 、r'、γ 、OH OOOROR a l c o l 四I h a l f聞 H S { 4 ) d B n d i z ::;2r s x ¥ ? 9 R 《 〉 I M陥 U閣 加 ∞ 同副00) H o 卯 HOAy 1 4 ・ membe r edr i n g 2 ) ma町oI i det e m p l a t e( L仏 I 1 二 〉 ,{i C 、r〔 、 〆 、 ん史 、 4stere 的 師 側 I y … ~. y ' y MB A A R AR 0 OR OR a t 白(5) mmn OPMB car 加 x y l i cacidh a l fu n i j s( 4 ' ) 4stereoisomers 32stereoi so mo r s Scheme1 .1 4員環マ クロジオライ ドア グリコンの合成計画 市販の D-( + )乳酸メチル 6を出発原料とし、二度の Evansa l d o l反応により立体化 学 を制御することで 4 種の異なる立体化学を有するハーフ ユニット 7a-d をそれぞれ立 体化学選択的に合成した。それらをアルコール体 8a-dとカルボン酸体 9a-dへと導い た後、可能な組み合わせのハーフユニットをケックエステノレ化の条件下縮合すること - チ叫。開削 16s t e r ・0/ 50rr 帽r . I C 渇OM 恒助 ι 田制 品 M 訴初日持 時一即時一時 コ 臥M O aaRR CH~12, rt. 91・9蝿 司Hρ2, L o 加 Hρ anededD円 , DIPEA DMAP o o似 コM OPMB I HO 、 ノ' 3 . AS. A Y2 、r'~可,、 位。位。 d )BOMCI 間---へ 民 r t , 6 7 8 1弛 段 、 B I 。 )HF.内r .THF 問問問問問 h a l fu n i t s (2R, 3 S .4S ,5 R ) 7 a (2S , 3R , 4 S .5 R ). 7b (2S ,訳 ,4 R,55 ) 7c (2R, 3S ,4R ,5 S ) 7d 十mM22 0 . ( + ) ー乳酸メチル 6 l MB │υド J1千いよよ 品目訓 m m N 附 pH7凪J f f e r , CH , C t " 同. 75 96 % ¥SSRR r t .7品街路 同 DDO , iyHOM a )BOMCI ,DMAP , DIP 臥 ,C同C I 2 ・ ーパ γommmm 6種の立体化学の異なるリニアユニ ット 10a-pを合成した ( Scheme2 ) 。 で 、 1 THFIH : z O , r t .7与 切 首 Scheme2 . 異なる立体化学を持つハーフユニ ッ ト 8 a d , 9 a dとリニアユニット 1 0 a pの合成 次に、 2工程を経てリニアユニット 10a-pをセコ酸 lla-pへと導いた。合成したセ コ酸を山口マクロラク トン化あるいは光延マ クロラクトン化により環化させ ることで、 1 3位の立体化学が保持したマクロジオライドアグリコン 12a-pと 1 3位の立体化学の 反転が生じたマクロジオライドアグ リコン 13a-pをそれぞれ合成した (Scheme3)。 山 口マクロラクトン化による環化の際、セコ酸の立体化学の影響により収率に違いが生 じ 、 C2位がエピメリ化する基質も 4種存在した。一方、光延マクロラクトン化ではセ コ酸の立体化学の違いにより収率に差は見られたが、エピメリ化は起こらなかった。 先述したとおりに 1 6種 のセコ酸から 3 2種のマクロジオライドアグリコンを合成する ことができた。合成したマクロジオライドアグリコン 1 2 a p,1 3 a pは NMRスペクト ノレに違いが見られ、熱を加え測定しないとピークがブロ ー ドするあるいは観測されな い基質もあった。このことから、それぞれ異なる三次元構造で あろうことが予想され O 内 代 引則自 人ee 抽訓制効 mM 酬刷出岡山 von- nunu 副叩 崎市﹄ 今‘九日 M WA マo ha . β m A℃ 4 町 伊M 3 削十加 問、- M⋮。 l r 沼 山 一 b 。 maa 凶i 叫 胸 勾I y 民 間e s12 ・1> 時 M・山市M 一⋮山川例制 川 ⋮ 〆γo 戸 る。 DEAD ,P 問、' t o l u e n e,同 1 o.a% m a c r o d l o l i d ea g l y c o n e s1311 > Scheme3 .マクロジオライドアグリコン 1 2 a p, 1 3 a pの合成 さらに、計算化学を用いて合成したライブラリー中のマクロジオライドにアミノ糖 であるデソサミンを導入した化合物の配座を予測し、エリスロマイシンの真空中の最 安定配座に近いものを一つ選びだし、実際の合成を試みた。マクロジオライドアグリ コン 1 2 aに対し TBS基を除去した後、アミノ糖を S c l u n i d t グリコシル化反応により導 入し、残りの水酸基の保護基を除去することで新たなマクロライド 1 7 を合成した (Scheme4 ) 。 この合成したマクロライド 1 7について、 CAMDAS2を用いたコンビュー ター計算と二次元 NMR解 析 3 により、真空中と重メタノール中の最安定配座を求め た。二次元 NMR解析の結果から得られた候補となる配座は 1 0種類存在したが、その 中から最もエネ ノレギーの低い配 座と真空中にお ける最安定配座 を比較した。その 重ね合わせの図 : j t i i : : S B つのマクロライ THF 65% ( 1, Schmidtg l y c o s y l a t i o n 町 何 日ad 匂 12a 14 を F i g u r e2 に示 す。その結果、二 b )15, T f OH MS4A CH C I 2 2 C, 48% -50・ で 許 可 し違いが見られ 。 るが、置換基の位 16 。 位 Edh} d)MeOH, 50・ C, 93%( i n2s l e p s ) 4 ド骨格部位に少 … 一 15 Schcme4,マクロライド 1 70)合成 。 17 置はほぼ重なることが分かり、全体としてマクロジオライド骨格はエリスロマイシン と類似したコンフォメ ー ションを取り得ることが分かつた。そして 、ライブラリーの マクロジオライドアグリコンに対してアミノ糖を導入した場合の化合物について CAMDASを用い最安定配座を算出・比較したところ、アミノ糖の位置、骨格の形、カ ノレボ、ニル基を含む置換基の向きが大きく変化し得ることが分かり、三次元的多様性が あることを確認した。 。 NMe ヮ - Q HO・ア~ι.-; ,\O~O ...L-- 。 。 17 F i g u r e2 .マクロライド 1 7の CAMDASを用いて算出した最安定配座(緑) とNMR解析により得られた最安定配座(青)[左].マクロライド 1 7の構造[右]. [結論] 筆者は、エリスロマシンを模倣した新たなテンプレートを発想し、 14員環マクロ ライドの立体異性体ライブラリーの構築を行った 40 Evansa l d o l反応、ケックエステル 化、山口マクロラクトン化あるいは光延マクロラクトン化を鍵工程として、 4種のハー 6種の異なる立体化学を有するセコ酸へと導き、さらにマクロラクト フユニ ッ トから 1 3位の立体化学の保持、あるいは反転をさせることで 32種の立体化学 ン化において 1 の異なるマクロジオライドアグリコンの合成を達成した。構築したライブラリーから アグ リコンを一つ選び、 Schmidt グリコシノレ化反応を用い、新たなマクロライド化合物 を合成した。そして、合成したマクロライド 17について真空中の最安定配座と NMR 解析より求めた溶液中の最安定配座を比較し、それらのマクロライド骨格部分は非常 に近いことが分かつた。さらに、構築したライブラリーを利用することで三次元的多 様性を持つ誘導体合成が可能で、あることをコンビューター計算により最安定配座を求 めることで示した。本研究により構築したライブラリーは今後様々な生物活性評価や 化学変換を行うことで、新たな創薬リード化合物の創製やより幅広いライブラリーの 構築に繋がることが期待される。 [参考文献] 1 .Omura ,S .E d .M a c r o l i d eAn t i b i o t i c s :C h e m i s t r y, B i o l o g y ,andP r a c t i c e ,2nde d .Academic P r e s s, 2 0 0 2 . H . ;H i r o n o, S. 1 .C o m p u t .AidedMol . Des.1997, 1 1, 3053 1 5 . 2. 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