高齢化社会で重要性が高まる高血圧と減塩の話

愛知県医師会健康教育講座
「高齢化社会で重要性が高まる高血圧と減塩の話」講演要旨
日本人は加齢とともに高血圧を患う方が増加し、70 歳を超えると男女共に
実に 7 割近くが高血圧症と報告されている。しかし、世界には食塩摂取が非
常に少ないために高血圧症がほとんどない民族もあり、これらの人々では加
齢に伴う血圧上昇が認められない。一方我々の社会では、食塩摂取と加齢は
高血圧発症の大きな要因である。血圧は心臓から拍出される動脈内の血液の
圧力で、心拍出量と血管の抵抗によって決まる。高齢になると、動脈硬化で
血管抵抗が高まり、血圧は上昇する。そして、いくつかの疫学研究の結果か
ら、血圧値と将来の心血管疾患の発症率の関係が明らかにされて、病的な血
圧値の分類が決められている。生命が海で誕生し陸上に上がる過程で、生物
は細胞外液に太古の海水をまとうことになった。細胞外液の食塩濃度は
0.9%に極めて厳密に調節されている。日本人の食塩摂取量は減ってきたと
は言っても 10g を超えていて、世界のトップレベルである。そして、減塩を
意識している方は多いものの、食品の製造過程で付加される食塩が多いため
に、実効を上げるのが難しい。それに対して英国では、食品の塩分を 15%
減らすことに成功し、疾病予防でも大きな効果を上げている。心不全などで
貯留する胸水や浮腫みは、生理的食塩水である。高齢になると、心不全症状
や浮腫みや夜間の頻尿などで困っている方が増える。これは食塩を体から排
泄しにくくなっているのであり、このような現象を「食塩感受性が高い」と
呼ぶ。食塩感受性の高さは個体差があるが、加齢でさらに高くなる傾向があ
る。そのような患者では、夜間高血圧になりやすいことが知られてきた。夜
間高血圧は、心血管疾患の発症率が非常に高い患者像であるが、逆に、食塩
感受性が高まっている患者は減塩の効果が高く、そのことを認識して減塩に
取り組めば、予後を改善できる可能性が考えられる。当院では、高血圧患者
に 24 時間血圧計(ABPM)での夜間血圧のチェックと 24 時間蓄尿から 1 日の
食塩摂取量を測定し、繰り返し減塩指導を行っている。さらに減塩のお弁当
の販売や、減塩食の料理教室、減塩食のコンテストなどで、減塩運動を地域
社会に広めるために、様々な取り組みを行っている。