腸管感染症および類似疾患における細菌学的研究

平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
腸管感染症および類似疾患における細菌学的研究
感染症部細菌課
研究代表者 勢戸和子
共同研究者 田口真澄、原田哲也、井口純、大岡唯祐、林哲也(宮崎大学)
研究目的
キシンと、腸管病原性大腸菌の病原因子であるインチミ
ン遺伝子を保有するハイブリッド株が分離された。
大阪府内で発生する細菌性腸管感染症とその類似疾患に
4)Escherichia albertii について、ゲノム解析から判明した
ついて、下記の 5 項目について検討し、発生実態を正確
O 抗原コード領域と大腸菌 O 抗原免疫血清との凝集反
に把握し、感染予防や感染拡大防止に効果的な行政対応の
応を比較し、E. albertii の O 抗原は、赤痢菌などと同様
立案を目指した。
に独自の進化を遂げたことが推測された(宮崎大学との
• ヒトおよび食品等から分離された菌株を収集し、細菌学
共同研究)
。
的特徴や遺伝子型を精査して、事例間の関連性を明らか
5) 国内で患者から分離される EHEC の主要 O 抗原型であ
る O26、O111、O157 を対象としたリアルタイム PCR
にする。
• 菌株の薬剤感受性等の治療上有益となる情報について
は、医療機関への還元を行う。
法を検討し、O26 と O157 ならびに O111 とインター
ナルコントロールを標的とした 2 組の multiplex リアル
• 健康者や食品、動物などから分離される菌株と患者由来
タイム PCR 法を確立した。本方法について、大腸菌 O
株を詳細に比較し、細菌が病原性を獲得するに至った過
抗原標準株を用いて特異性を確認し、さらに、食品の増
程や病原性発現機構を探求する。
菌培養液を用いた添加試験においても高い定量性と特異
• 病原菌特有の性状や病原性の有無を鑑別点にした迅速で
正確な検査方法の開発や改良を行う。
• 腸管出血性大腸菌(EHEC)については、患者血清の抗
体価を測定して、菌分離陰性症例を解析する。
平成 26 年度 研究実施状況
性が確認された。
6)EHEC の感染が疑われる症例について、HUS 患者を中心
に O157 以外の抗原に対する抗体価測定のさかのぼり調
査を実施し、O165、O111、O26、O121 によると考え
られる HUS 症例が明らかになった。
学会及び誌上発表等
1)3 類感染症原因菌およびサルモネラ、カンピロバクター
等について、分離株の生化学的性状、血清型別、薬剤感
受性試験等を実施し、流行菌型とその背景を調査した。
(学会発表)
1) 原田哲也 , 勢戸和子 , 田口真澄 : すべての VT サブタイ
サルモネラでは、市販鶏肉から検出される血清型に変化
プを検出するためのリアルタイム PCR 法の確立と食品
がみられ、今後の動向が注目される。カンピロバクター
検査への応用 , 第 35 回日本食品微生物学会 , 大阪
(2014
のフルオロキノロン耐性は、ヒト由来株、鶏肉由来株
年 9 月)
ともに 2010 年以前の成績に比べて耐性率が上昇してい
た。
2)EHEC 感染症について、IS-printing System(IS)法およ
びパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による
2) 勢戸和子 , 田口真澄 : 腸管出血性大腸菌感染症における
non-O157 抗体価のさかのぼり調査 . 第 88 回日本細菌
学会総会 , 岐阜(2015 年 3 月 )
(誌上発表)
遺伝子型別を実施し、事例間の関連性の有無を行政へ還
1)Themphachana M., Nakaguchi Y., Nishibuchi M., Seto
元した。IS 法については、近畿ブロックの 12 か所の地
K., Rattanachuay P., Singkhamanan K., Sukhumungoon
方衛生研究所(地衛研)と共同でデータベースを構築・
P.: First report in Thailand of a stx- negative Escherichia
運用し、流行菌型の探知に努めた。また、国立感染症研
coli O157 strain from a patient with diarrhea. Southeast
究所が実施している Multilocus variable-number tandem
Asian J Trop. Med. Public Health , 45:881-8898(2014)
repeat analysis(MLVA)法について、地衛研への導入
2)Iyoda S., Manning SD., Seto K., Kimata K., Isobe J., Etoh
が可能か検討した。
Y., Ichihara S., Migita Y., Ogata K., Honda M., Kubota T.,
3) ウシ糞便から網羅的な下痢原性大腸菌検出を実施し、
Kawano K, Matsumoto K, Kudaka J, Asai N, Yabata J,
腸管毒素原生大腸菌の病原因子である耐熱性エンテロト
Tominaga K, Terajima J, Morita-Ishihara T, Izumiya H,
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
Ogura Y, Saitoh T, Iguchi A, Kobayashi H, Hara-Kudo Y,
と大腸菌は、薬剤耐性株の疫学マーカー解析を実施し、
Ohnishi M., EHEC working group in Japan: Phylogenetic
食品由来株とヒト由来株の変化の関連性を検討する。
clades 6 and 8 of enterohemorrhagic Escherichia
2)EHEC O157 の IS 型別を継続してデータベースの充実を
coli O157:H7 with particular stx subtypes are more
はかり、リアルタイムに流行菌型を把握して行政に還元
frequently found in isolates from hemolytic uremic
する。また、MLVA 法について、今年度明らかになった
syndrome patients than from asymptomatic carriers.
問題点の解消を目指す。
Open Forum Infectious Disease ,1(2014)
3) 大平文人 , 勢戸和子 , 笹井康典 : 保育所における細菌性
赤痢集団発生事例 . 小児科 ,77:1027-1035( 2014)
平成 27 年度の研究実施計画
1) 大阪府内で発生する腸管感染症起因菌の収集を継続し、
同定困難株や薬剤耐性株の出現を監視する。サルモネラ
3) 重症者由来の EHEC について、血清型と毒素遺伝子サ
ブタイプの関連性を調べる。
4) ウシ糞便から分離した下痢原性大腸菌について血清型
別を実施し、ヒト由来株と比較するとともに、O 抗原お
よび H 抗原の遺伝子タイピングとの整合性を検討する。
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
細菌性呼吸器感染症に関する調査研究
感染症部細菌課
研究代表者名 河原隆二
共同研究者名 田丸亜貴、原田哲也、陳内理生、勝川千尋
研究目的
1) 河原隆二 , 勝川千尋 , 久米田裕子 , 他 : 大阪府におけ
る侵襲性肺炎球菌感染症の調査について , 第 35 回衛
ジフテリア、レジオネラ症、劇症型溶血性レンサ球菌感
生微生物技術協議会総会 , 東京 (2014 年 6 月 26 日 )
染症、A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎、百日咳、ペニシリン
2) 河原隆二 , 金山敦宏 , 山岸拓也 , 大井幸昌 , 浮村聡 , 柴
耐性肺炎球菌感染症、細菌性髄膜炎等の感染症法で規定さ
田有理子 , 川西史子 , 中川直子 , 加瀬哲男 : 第 57 回日
れる細菌性呼吸器感染症を中心に、菌の性状、病原因子、
本感染症学会中日本地方会学会集会 , 岡山市 (2014 年
薬剤耐性等の解析を行い、発生状況、その分布等について
10 月 25 日 )
の情報として活用する。また検査の困難な稀少感染症のた
3) 勝川千尋 , 水谷香代子 , 高橋和郎:マイコプラズマ感
め新しい解析技術を開発・導入し、検査体制の拡充をはか
染疑い患者からの菌分離および分離菌の薬剤感受性 ,
る。
第 26 回日本臨床微生物学会総会,東京(2015 年 1
平成 26 年度 研究実施状況
月 31 日)
(誌上発表)
1)1967 年から行っているレンサ球菌流行状況調査を本年
1) 河原隆二 , 他 :2013 年度の侵襲性肺炎球菌感染症の
度も実施した。レンサ球菌感染症患者由来株、劇症型溶
患者発生動向と成人患者由来の原因菌の血清型分布 .
血性レンサ球菌感染症 (TSLS) 患者由来株について同定、
IASR., 35: 179-181(2014)
血清型別、遺伝子型別、薬剤感受性試験、病原因子の解
2)Ikebe T., Katsukawa C., et al.: Increased prevalence of
group A streptococcus isolates in streptococcal toxic
析を行った。
2) レジオネラ菌の型別方法として Sequence-Based Typing
を導入、PFGE 法とともに感染源調査に適用した。
3) 大阪府内で発生した侵襲性感染症症例由来株等を収集
し、血清型について解析した。
(a) インフルエンザ菌;16 症例について菌株を収集し、b
shock syndrome cases in Japan from 2010 to 2012.
Epidemiol Infect., 143:864-872( 2015)
3)Ikebe T., Katsukawa C., Kawahara R., et al.:Evaluation
of streptococcal toxic shock-like syndrome caused
by g roup B strepto co ccus in adults in Japan
型が 1 例検出、基礎疾患のない 40 代成人であった。他
between 2009 and 2013. J Infect Chemother.
の症例はすべて非莢膜型であった。
21:207-211(2015)
(b) 肺炎球菌; 108 症例について菌株を収集し、血清型に
4)Saeki J., Katsukawa C., et al.: The detection of
ついて解析した。小児は 34 例 (31.5%) で、PCV13 のカ
toxigenic Corynebacterium ulcerans from cats with
バー率は 20.6% であった。60 歳以上の高齢者は 63 症
nasal inflammation in Japan. Epidemiol Infect. Jan
例 (58.3%) で、PPV23 のカバー率は 54.0% であった。
12:1-6. (2015) [Epub ahead of print]
(c) 髄膜炎菌;収集した菌株は 64 株、うち髄膜炎症例は
3 株であった。血清型の内訳は、Y 群が 34 株 (53.1%)、
平成 27 年度の研究実施計画
B 群が 15 株 (23.4%)、29E 群が 3 株 (4.7%)、型別不能
これまでの調査研究を継続して実施する。
が 12 株 (18.8%) であった。また、髄膜炎症例由来株は
1) レンサ球菌をはじめとする細菌性呼吸器感染症や髄
すべて Y 群であった。
4) 大阪府内の医療機関で発生した薬剤耐性菌の院内感染
事例について、菌株の解析(PFGE や薬剤耐性関連遺伝
子の解析)を実施した。
学会及び誌上発表等
膜炎等重症感染症の原因菌について、流行状況や薬剤
耐性の推移についての調査研究を実施する。
2) 通常の培養検査では検出困難な感染症事例について
の改良法や遺伝子検出法の検討。
3) 各種薬剤耐性菌について、耐性遺伝子の検出・同定
法を検討し、新型耐性菌への対応もすすめる。
(学会発表)
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
結核菌および非結核性抗酸菌に関する研究
感染症部細菌課
研究代表者名 田丸亜貴 共同研究者名 河原隆二、勝川千尋
研究目的
14 年までの若年結核患者のコホート情報をデータベー
ス化しているところである。
大阪府の結核事情は全国で最悪であり、その対策が急務
(3)07 年 半 ば ま で の MDR-Mtb の 分 子 疫 学 に つ い て は
である。対策推進のためには結核の早期診断、結核菌の早
2010 年に報告したので、今回はその後の大阪府におけ
期検出、結核菌薬剤感受性把握、結核菌遺伝子型別による
る MDR-Mtb の発生状況と分子疫学調査の結果について
感染経路追跡および結核蔓延状況の把握が必要である。本
まとめた。2006 年以前と 2007 年以降を比較すると、
研究ではこれらについての継続的疫学調査研究、新規検査
MDR-Mtb 株のうち超多剤耐性結核菌株の占める割合が
法の開発導入を実施し、府下での結核蔓延の原因を追及す
減少し、分疫学的指標が向上していた。しかし、耐性薬
るとともに予防対策や患者発見に有用な技術と情報を提供
剤数の増加、大クラスターを形成する遺伝子型の MDR-
する。
Mtb 株の継続的発生、MDR-Mtb 株による再感染などの
近年、種々の原因による免疫不全患者増加に伴い、非結
問題も認められた。
核性抗酸菌症が増加傾向にある。非結核性抗酸菌は菌種に
(4)MDR-Mtb 特異的遺伝子型群 V02 の特異性を調べるた
より薬剤感受性が異なるので、患者発見時には迅速な菌種
め、12 株について次世代シーケンサーによる SNP s解
同定が必要である。本研究では、非結核性抗酸菌の迅速同
析を実施中である。
定法開発および分離菌種のモニタリング、各菌種の遺伝子
学会及び誌上発表等
型別法開発と疫学的調査研究を実施する。
平成 26 年度 研究実施状況
(学会発表)
1) 北井俊大 , 岡本美喜恵 , 梅田美緒 , 岸田裕香、中田栄子 ,
1) 結核菌薬剤感受性モニタリング
佐藤善子 , 山本祐子 , 田丸亜貴 , 永井信彦 : 病院内検体コ
54 株の結核菌について微量液体希釈法による薬剤感受
ンタミネーション事例への保健所としての対応第 51 回
性試験を実施、9 剤の抗結核薬いずれかに耐性の結核菌株
日本公衆衛生学会近畿地方会 , 和歌山市 (2015 年 05 月
は 20 株、うち多剤耐性結核(MDR-Mtb)は 7 株であっ
22 日 )
た(3/12 現在)。大阪で発見頻度の高い MDR-Mtb V02
2) 田丸亜貴 : コンタミネーションが原因の結核菌検査誤
株は本年度は発生しなかった。耐性株による再感染事例も
判定例とその対策に関する考察 , 第 73 回日本公衆衛生
認められなかった。耐性遺伝子変異確認による RFP 低感
学会総会 , 宇都宮市 (2015 年 11 月 6 日 )
受性株の感受性確認も実施した。
2) 抗酸菌同定
(誌上発表)
1)Nishiuchi Y, Tamaru A, Suzuki Y, Kitada S, Maekura
16 株の抗酸菌について LAMP 法または複数遺伝子のダ
R, Tateishi Y, Niki M, Ogura H, Matsumoto S.:Direct
イレクトシーケンスによる同定を実施した。特記すべき
detection of Mycobacterium avium in environmental
菌 種 と し て、 皮 膚 慢 性 潰 瘍 検 体 か ら M.ulcerans subsp.
water and scale samples by loop-mediated isothermal
shinshuense を分離培養し同定した。
amplification,J Water Health,12(2): 211-219(2014)
3) 結核菌分子疫学調査
2)Iwamoto T, Arikawa K, Nakajima C, Nakanishi N,
(1) 大阪府内の全結核菌を収集保管、26loci-VNTR 型別
Nishiuchi Y, Yoshida S, Tamaru A, Tamura Y, Hoshino
法を実施し(本年度保管菌株数 756 株、VNTR 実施数
Y, Yoo H, Park YK, Saito H, Suzuki Y.: Intra-subspecies
416 株、3/12 現在)、感染経路解明を試みている。
sequence variability of the MACPPE12 gene in
(2) 本年度からは、本庁・保健所と共に「若年(39 歳以下)
の結核発症予防及びまん延防止」を目的とした結核分子
Mycobacterium avium subsp. hominissuis, Infect Genet
Evol. 21,479-483( 2014)
疫学データベース構築のためのワーキンググループを設
3)Wada T, Iwamoto T, Tamaru A, Seto J, Ahiko T,
立し、結核分子疫学データベース構築と今後の若年患者
Yamamoto K, Hase A, Maeda S, Yamamoto T:Clonality
患者情報収集強化が 12 月に正式に通知され、2012 ~
and Micro-Diversity of a Nationwide Spreading
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
Genotype of Mycobacterium tuberculosis in Japan,PLoS
One. 2015 Mar 3;10(3):e0118495.
平成 27 年度の研究実施計画
1) 結核菌薬剤感受性試験モニタリング: 微量液体希釈
法による結核菌薬剤感受性のモニタリングを継続実施す
る。リファンピシン低感受性菌については rpoB 遺伝子
変異部位を調査する。
る。
3) 結核菌分子疫学調査:大阪府内の全結核菌を収集保管、
40 歳未満由来株については全株 26loci-VNTR 型別法を
実施し、結核菌遺伝子型とコホートデータを併せてデー
タベースを構築し、府内の結核患者感染経路解明を試み
る。
4) その他:大阪府で高頻度に分離される MDR-Mtb 遺伝
子型群 V02 の病原性に関する研究:全 V02 株のゲノム
2) 抗酸菌同定:大阪府で発生する非結核性抗酸菌感染症
データを比較し、V02 株の特異性につながる遺伝子変
原因追究のため、起因抗酸菌の LAMP 法または複数遺
異を探索する。RFP 低感受性菌の rpoB 変異の有無の調
伝子のダイレクトシーケンスによる同定を継続実施す
査および RFP 耐性変異の迅速検出法の確立
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
細菌性食中毒に関する研究
感染症部細菌課
研究代表者名 川津健太郎
共同研究者名 神吉政史、原田哲也、坂田淳子、依田知子
研究目的
されなかった。
4) 洋生菓子、漬物、魚介類加工品について、食中毒菌お
1) 食中毒原因菌の菌体成分や病因毒素に対するモノク
よび腸内細菌科菌群の分離を実施した。さらに、ベトナ
ローナル抗体を作出し、それを利用して食中毒原因菌の
ムで流通する香辛料について、サルモネラ属菌および腸
免疫学的簡易検出法を開発する。
内細菌科菌群の分離を行った。
2) 色々な食品から分離した Listeria monocytogenes につ
学会及び誌上発表等
いて病原性の程度を評価し、高病原性菌の有無や汚染率
の高い食品の存在などを調査し、食品のリスク管理に役
( 学会発表)
立てる。
1) 神 吉 政 史 , 久 米 田 裕 子 : 食 品 由 来 Listeria
3) 鶏肉より分離された vanA 遺伝子保有株の解析を実施
monocytogenes における inlA 未成熟終止コドンの保有
し、新菌種の可能性を検討する。さらに、鶏肉からの
状況および血清型における InlA アミノ酸配列の比較,
VRE 分離を継続する。
第 35 回日本食品微生物学会学術総会,大阪(2014)
4) 非加熱摂取食品より食中毒菌および腸内細菌科菌群を
2) 坂田淳子 , 川津健太郎 , 久米田裕子:腸炎ビブリオ迅速
分離し、その病原性や薬剤耐性を検討し、その伝播機序
同定法の開発 , 第 35 回日本食品微生物学会学術総会,
の解明に取り組むとともに、ヒトの健康リスクについて
大阪(2014)
評価する。
5) 食中毒原因菌の疫学解析:患者や食品などから分離さ
( 誌上発表)
なし
れた菌株を疫学的に解析し,原因食品やその汚染ルート
平成 27 年度の研究実施計画
を究明することにより、食中毒の発生の制御に役立てる。
平成 26 年度 研究実施状況
1)Campylobacter jejuni に対するモノクローナル抗体を用
いた同菌の免疫学的迅速同定法(イムノクロマト法)を
新たに考案し、その有用性を実証した。
1) イムノクロマト法による食品・糞便からの TDH および
TRH 産生腸炎ビブリオの簡便、迅速な現場即応型検出
法の開発研究を実施する。
2) 食品由来株において、主要な病原因子の転写活性を制
御している PrfA について解析を実施したところ、終止
2) ヒト腸管上皮細胞への侵襲因子インターナリン A
(InlA)
コドンを含む 5 塩基が欠損した株が見つかり、この変
をコードする遺伝子 inlA に塩基置換や欠損のため終止
異株は Caco-2 細胞への高度な侵襲性を有していること
コドンが入る未成熟終止コドン(Premature stop codon;
は分かった。今年度は、この変異株のその他の病原性に
PMSC)が見つかり、PMSC 保有株は腸管上皮細胞に感
ついて調べ、食中毒を引き起こす可能性について検討す
染できなくなると報告されている。我々の保有する食
る。
品由来株 114 株中 29 株で PMSC 保有が確認されたが、
3) 培養増菌液から VRE を検出するためのリアルタイム
アメリカやフランスの食品由来株よりその保有率は低
PCR 法を検討する。また、新菌種が疑われる VRE につ
かった。さらに、Caco-2 を用いた細胞侵襲性試験で、
いては、GC 含量や DNA-DNA ハイブリを実施し、精査
食品由来株の侵襲性が患者由来株より有意に高いことが
していく予定である。
判明した。
4) 非加熱摂取食品より分離される腸内細菌科菌群につい
3) 新菌種が疑われた 2 株については、3 つのハウスキー
て、菌種同定および薬剤感受性を検討する。薬剤耐性に
ピング遺伝子の解析の結果、これまで報告されている菌
ついては ESBL 関連遺伝子の同定を行うとともに、遺伝
種とは相同性が低く、新菌種である可能性が高いことが
明らかとなった。また、国外産鶏肉を含む 129 検体に
ついて VRE スクリーニングを実施したが、vanA または
vanB を保有するバンコマイシン高度耐性腸球菌は分離
子の伝播機序について検討する。
5) カンピロバクター属菌の疫学解析方法について検討を
行う。
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
食品内で産生される細菌毒素に関する研究
感染症部細菌課、* 衛生化学部食品化学課
研究代表者名 河合高生
共同研究者名 神吉政史、原田哲也、余野木伸哉、陳内理生、 山口瑞香 *
研究目的
以前に開発した食品からのセレウス菌嘔吐毒分析法を改
良し、十分な分析精度がなかった和菓子から嘔吐毒を精度
食品内で産生される細菌毒素にはボツリヌス毒素、ブド
よく検出できる機器分析法を確立した。
ウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌嘔吐毒がある。ボツ
クドアの迅速検出法として 18S rDNA を標的としたリア
リヌス毒素等は食中毒の原因物質であるのみならず、バイ
ルタイム PCR 法を開発し、検査に応用していたが、判定
オテロに使用されることも危惧されている。これらの毒素
が困難なケースもあった。そこで、新たにミトコンドリ
が原因となるヒトや動物への健康被害の確定診断には、食
ア DNA を標的としたリアルタイム PCR 法を開発し、種特
品、糞便、血清等から毒素を証明する必要がある。いわゆ
異性の確認ならびにクドア食中毒患者便を用いた検討を行
る遺伝子診断は、分離菌の毒素産生遺伝子を検出する等の
い、患者便からの検出法として利用可能であることを確認
用途として補助的な使用が可能であるが、サイレント遺伝
した。
子の存在も知られており、最終的な毒素の診断は、生物学
学会及び誌上発表等
的方法に頼らざるを得ないのが現状である。本研究では、
ウェルシュ菌エンテロトキシンのような生体内で産生され
る毒素を含めた細菌毒素の検出法の信頼性、迅速性、検出
(学会発表)
1) 余野木伸哉 , 川津健太郎 , 神吉政史 , 原田哲也 , 安田綾 ,
感度の改善のために、生物学的診断法、免疫学的診断法、
迎恵美子 , 小金井洋輔 , 久米田裕子 : 高齢者デイサービ
遺伝子診断法および化学的分析法を総合的に融合させて研
ス施設で発生したウェルシュ菌食中毒事例について . 第
究を推進するのが目的である。
35 回日本食品微生物学会学術総会 , 大阪 (2014)
さらに、近年、食中毒病因物質として新たに指定された
2) 余野木伸哉 , 松田重輝 , 河合高生 , 依田知子 , 原田哲
粘液胞子虫の 1 種、Kudoa septempunctata (以下、クドア)
也 , 久米田裕子 , 後藤和義 , 日吉大貴 , 中村昇太 , 児玉年
について、未だ不明である病原性の発生機序を調べるとと
夫 , 飯田哲也 : ウェルシュ菌新規エンテロトキシン BEC
もに、食中毒診断に有用なクドアの迅速検出法の開発に取
(Binary Enterotoxin of Clostridium perfringens )の同定 .
第 67 回日本細菌学会関西支部総会 , 兵庫 (2014)
り組む。
平成 26 年度 研究実施状況
(誌上発表)
1) Yonogi, S., Matsuda, S., Kawai, T., Yoda, T., Harada,
ウェルシュ菌はカレー、シチュー、ローストビーフなど
T., Kumeda, Y., Gotoh, K., Hiyoshi, H., Nakamura,
を原因食品とする食中毒の原因菌であり、汚染食品の喫
S., Kodama, T., Iida, T.: BEC, a Novel Enterotoxin of
食後、腸管内で CPE (Clostridium perfringens Enterotoxin)
Clostridium perfringens Found in Human Clinical
を産生して下痢・腹痛を起こす。これまでウェルシュ菌食
Isolates from Acute Gastroenteritis Outbreaks. Infect.
中毒の病原因子として CPE が不可欠とされていたが、我々
Immun., 82, 2390-2399 (2014).
は 2009 年 8 月、2010 年 10 月に発生状況や分子疫学的
平成 27 年度の研究実施計画
解析からウェルシュ菌食中毒が強く疑われるにもかかわ
らず、CPE が陰性である事例を経験した。そこで、分離
食品からのセレウス菌嘔吐毒検出法の開発を続行すると
菌の培養上清ろ液から毒素の精製を試み、菌株の DNA に
ともに、菌株の毒素産生性の簡易迅速測定法を検討する。
ついて次世代シークエンサーで網羅的に塩基配列を解析
ボツリヌス菌、
セレウス菌、
ブドウ球菌およびウェルシュ
した。これらの結果、腸管毒性を示す新規の2成分毒素
菌の食中毒検査を行いながら、引き続き検査法の改良に取
(2つの独立したタンパク質で構成される毒素)を特定し、
り組む。
BEC(Binary Enterotoxin of Clostridium perfringens )
(各
BEC 産生性ウェルシュ菌の汚染実態調査を行うととも
成分を BECa および BECb)と命名した。さらに、BECa と
に、BEC の病原性および検出法に関する研究を行う。
BECb の遺伝子検出系を構築し、食中毒検査に応用してい
クドアの病原性および迅速検出法に関する研究を引き続
る。
き行う。
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
真菌、魚介毒及びノロウイルスに関する研究
感染症部細菌課 * ウイルス課
研究代表者名 依田知子
共同研究者名 川津健太郎、坂田淳子、陳内理生、山崎謙治、左近直美、中田恵子 * 久米田裕子
学会及び誌上発表等
研究目的
1) ノロウイルスは、食中毒および感染症の原因物質とし
(学会発表)
て重要である。引き続き、カキを中心としたノロウイル
1) 武田忠明 , 馬場勝寿(道総研中央水試), 金森誠(道総
スの汚染状況、食中毒の原因食品からのノロウイルス検
研函館水試), 川津健太郎(大阪府立公衆衛生研究所),
出向上に取り組む。
渡邊龍一 , 鈴木敏之(水研セ中央水研): ホタテガイ麻
2) 有毒成分を含むカビ・キノコの迅速同定法および検出
痺性貝毒のスクリーニング法(PSP-ELISA 法)の検討 ,
平成 26 年度日本水産学会秋季大会 , 九州大学
法の開発
有毒成分を含むカビやキノコの分布域のモニタリングや
2) 石田直也 , 山砥稔文(長崎水試), 川津健太郎(大阪府
食中毒事件発生時における原因究明の際、従来行われてい
立公衆衛生研究所), 及川寛(水研セ瀬水研), 野口絵里
る種の形態学的同定法や有毒成分の分析法は①長い検査
香(長崎県県北水産業普及指導センター), 渡辺崇司(平
期間、②煩雑な操作、③高い専門的知識、を必要とする。
戸市水産課): 長崎県薄香湾における ELISA 法を用いた
それらの問題点を解決するため、遺伝学的手法や MALDI-
Gymnodinium catenatum によるヒオウギガイの毒化機
TOF/MS などの質量分析計を用いた迅速かつ簡便なカビ・
構の解明 , 平成 27 年度日本水産学会春季大会 , 東京海
キノコの種や有毒成分の同定および検出法を開発し、その
洋大学
有用性を検討する。
3) 麻痺性貝毒の簡易測定キットの実用化に関する研究
(誌上発表)
1) 久米田裕子 , 坂田淳子 , 高鳥浩介 , 木川りか , 佐藤嘉則 ,
麻痺性貝毒のモニタリングのために開発した簡易測定
佐久間大輔 : 津波による被災植物標本のカビ被害調査 ,
キットの有用性を検証する。具体的には、本簡易測定キッ
保存科学 ,54,75-82(2015)
トを貝毒モニタリングに導入しようと検討している自治体
2)K. Kawatsu, M. Kanki, T. Harada, and Y. Kumeda.: A
に対して試験的に本キットを配布し、本キット導入のため
highly rapid and simple competitive enzyme-linked
の基礎的条件を検討する。
immunosorbent assay for monitoring paralytic shellfish
平成 26 年度 研究実施状況
1) ノロウイルスは変異が多いため、現在使用している
LAMP 法による検出が適切であるかどうかという問題が
poisoning toxins in shellfish,Food chemistry,162,
94-98(2014)
平成 27 年度の研究実施計画
あるが、今年度食中毒事例において流行している GII.17
1) 平 成 26 年 度 の 食 中 毒 事 例 で は、GII.17 と い う 稀
に対しても、検出可能である事が判明した。また、カキ
な genotype が 流 行 し た た め、 カ キ を 汚 染 し て い る
におけるノロウイルス汚染状況についても、例年通り
genotype と食中毒を引き起こした genotype の間に関連
1-2 月については、高い陽性率を示し、問題無しと判断
があるかどうかを調査解析する。カキから検出されたノ
した。
ロウイルスおよび食中毒事例でヒトから検出されたノロ
2) 本簡易測定キットを大阪湾のモニタリングに導入し、
ウイルスの genotype の塩基配列を比較解析する。
その有用性を検証した。また、本簡易測定キットを貝毒
2) 遺伝学的手法および MALDI-TOF/MS を用いたカビ・キ
モニタリングに導入しようと検討している自治体の水産
ノコの迅速同定法および検出法を引き続き検討する。
研究所等に基礎的条件の検討用に試験的に本キットを配
3) 大阪湾で採取された有毒二枚貝を測定し、その結果を
布した。
公定法であるマウス試験法と比較し、その信頼性を検証
するとともに、本簡易測定キットを貝の生産県の水産研
究所等に試験的に配布する。
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
腸管感染性ウイルスに関する研究
感染症部ウイルス課 研究代表者名 左近直美 、中田恵子
共同研究者名 入谷展弘(大阪市立環境科学研究所)、三好龍也(堺市立衛生研究所)、駒野淳(独立
行政法人国立病院機構 名古屋医療センター)、中村昇太(大阪大学微生物病研究所)
研究目的
1) 腸管感染性ウイルスの分離および遺伝子解析を行うこ
とによりウイルスの生態および流行の実態を把握する。
平成 26 年度 研究実施状況
1. ウイルス試験・検査
4)「ノロウイルス検出キットの性能評価」
(受託研究:タ
カラバイオ株式会社)
抽出不要な one-step RT-PCR 法を評価するためノロウイ
ルス陽性便を使用して従来法と比較した。その結果、本
法が従来法と同等の検出感度があることを確認した。
5)「ノロウイルスの変異率と流行に関する研究」
感染源が同一と考えられる事例について患者個体間に
1) エンテロウイルス
おける変異を次世代シーケンサーを用いて解析した。ま
エンテロウイルス感染症疑い検体からのウイル
た、ノロウイルス全長のクローニングを実施した。 ス 分 離 お よ び 検 出 で は、 コ ク サ ッ キ ー A ウ イ ル ス
6) ロタウイルス感染重症例がロタウイルスワクチンの二
(CA)2,4,5,6,9,10,16 型、 コ ク サ ッ キ ー B ウ イ ル ス (CB)4
次感染であることを証明した。
(済生会茨木病院小児科
型、エコーウイルス (Echo)16,18,30 型が分離または検出
宮本先生)
(投稿準備中)
された。また、エンテロウイルスの近縁ウイルスであるヒ
学会及び誌上発表等
トパレコウイルス (HpeV) が検出された。手足口病では 8
月までは HpeV が主流で、10 月から翌年 3 月にかけては
(学会発表)
CA16 型が多く検出された。ヘルパンギーナは CA2,4,5 型
1) 中田恵子 , 加瀬哲男:大阪府における新生児無菌性
が主であった。無菌性髄膜炎疑い患者由来検体の約 15%
髄膜炎患者から検出されたエンテロウイルスの特徴
から HpeV が検出され、遺伝子解析の結果、ほとんどが
(2013-14 シーズン). 第 55 回日本臨床ウイルス学会、
HpeV3 型であった。
2) 感染性胃腸炎(平成 26 年)
札幌市 (2014 年 6 月 )
2) 中田恵子 , 山崎謙治 , 駒野淳 , 加瀬哲男:新生児無菌性
感染症発生動向調査および集団胃腸炎ともに主要な検
髄膜炎の原因としてのコクサッキー B ウイルスの重要
出ウイルスはノロウイルス GII であり、小児間において
性 . 第 46 回日本小児感染症学会 , 東京 (2014 年 10 月 )
GII.3 が最も多く検出された。いっぽう、食中毒において
3) 中田恵子 , 駒野淳:βグルコセレブロシダーゼが持つエ
は GII.4 と GII.17(GII/11) が主に検出された。GII.17 はこ
ンテロウイルス 71 感染症の分子標的治療薬としての潜
れまで報告の少ない型であるが、全国的に検出された。
在性 . 第 62 回日本ウイルス学会、
横浜市 (2014 年 11 月 )
2. 研究
1) 大阪府内のノロウイルス流行調査:大阪市、堺市との
共同研究。感染性胃腸炎の発生状況および病原ウイルス
の検出状況とノロウイルスの遺伝子型に関する情報を当
所 HP を通して毎月提供した。
2)「下痢症ウイルスの分子疫学と感染制御に関する研究」
(厚生労働科学研究事業、協力)
過去のノロウイルス陽性便をウイルスの進化系統樹作
製のため提供した。
4) 中田恵子 , 駒野淳 , 加瀬哲男:環境水サーベイランスに
よるポリオウイルス探知法の評価(続報), 第 18 回日
本ワクチン学会 ,2014 年 12 月
5)Sakon N.Yamazaki K.Nakata K. Kanbayashi D, Yoda T.
Mantani M, Kase T. Takahashi K. Komano J. Genotype
analysis of circulating Norovirus –Implication to
immunity against Norovirus-.Awaji International Forum
on Infection and immunity, 奈良市 (2014 年 9 月 )
6) 左近直美 , 駒野淳 , 加瀬哲男:小児集団胃腸炎における
3)「食中毒調査の精度向上のための手法等に関する調査
ノロウイルス感染症の有症期間〜ウイルス遺伝子型と
研究:ノロウイルスデータベース共有化の試み」
(厚生
年齢に関する解析〜 第 62 回日本ウイルス学会、横浜市
労働科学研究、協力)
(2014 年 11 月 )
食中毒患者より検出されたノロウイルス遺伝子解析デー
7) 左近直美 , 駒野淳:ノロウイルス感染症の流行と遺伝子
タを全国の衛生研究所と共有し、流行株 GII.17 の検出
型 第 11 回日本小児消化管感染症研究会 , 大阪市 (2015
状況について取りまとめた。
年2月)
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
(誌上発表)
平成 27 年度の研究実施計画
1) 中 田 恵 子 , 山 崎 謙 治 , 駒 野 淳 , 加 瀬 哲 男 : エ ン テ ロ
ウイルス感染症疑い患者からのパレコウイルス検出
平成 26 年度に引き続き、エンテロウイルス、ノロウイ
の 増 加 - 大 阪 府 -、 病 原 微 生 物 検 出 情 報(IASR)35,
ルス、ロタウイルス、肝炎ウイルス等について分子疫学の
221-222(2014)
研究を進めるとともに情報還元に取組み感染症対策に貢献
2) 中田恵子 , 山崎謙治 , 左近直美 , 駒野淳 , 加瀬哲男 : 大
する。
阪府におけるエンテロウイルスの検出状況と分子疫学
1) エンテロウイルスの分離培養を実施し、分離ウイルス
的解析(2013 年度)大阪府立公衆衛生研究所研究報告
株を用いてVP1領域(約 700bp)をターゲットとす
52,7-13(2014)
るRT-PCR及びシーケンスを行い VP1 の変異につ
3)Sakon N.Yamazaki K.Nakata K. Kanbayashi D, Yoda T.
いて解析する。
Mantani M, Kase T. Takahashi K. Komano J. Impact of
2) 新生児におけるエンテロウイルス感染症の実態を調査
Genotype-Specific Herd Immunity on the Circulatory
するために、ウイルス感染症疑い新生児およびその家族
Dynamism of Norovirus: A 10-year Longitudinal Study
の検体を対象にウイルス分離、遺伝子検査および解析を
of Viral Acute Gastroenteritis. Journal of Infectious
実施する。
Diseases. 211: 879-888(2015)
3) ロタウイルスワクチン導入後の変化についてロタウイ
ルス 2 分節以上の遺伝子型決定を積極的に進める。
4) ノロウイルス陽性検体の管理保管を進めるとともに、
感染症発生動向調査、集団胃腸炎、食中毒における検出
ウイルスの分子疫学を進める。また、流行情報について
共同研究を継続する。
10
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
ウイルス性呼吸器感染症の研究
感染症部ウイルス課
研究代表者名 森川佐依子、廣井 聡
研究目的
型の 1 つである 54 型が検出された。
その他の呼吸器ウイルスについては、健康小児、呼吸器
呼吸器感染症の原因となるウイルスには様々な種類があ
症状を呈する小児の検体からのウイルス検出を試み、検出
るため、その予防対策には原因となるウイルスの種類や流
率や症状と検出ウイルスの関連について検討を行なった。
行状況の把握が不可欠である。従って、府内の医療機関で
小児から 1 年間連続して毎週うがい液を採取しウイルス
採取された呼吸器由来の検体から原因となった病原体(ウ
検索を行った結果、呼吸器および全身症状のない時期で
イルス)の検出を行い、各ウイルスの流行状況、主流行と
あってもウイルスが検出される事があり、個々の検出率は
なる血清型、遺伝子型の把握やウイルスの性状、臨床症状
9.1% 〜 42.9% と予想外に高いことがわかった。このよう
との関連、さらに抗体価の保有状況などを解析し、予防対
な不顕性感染が小児の呼吸器ウイルスの流行サイクルには
策に役立てる。
重要な役割を演じていると考えられる。
平成 26 年度 研究実施状況
また、小児科と共同で、外来患者および入院患者から呼
吸器ウイルスの検出を試みた。最も多く検出されたのは
インフルエンザウイルスについては、「厚生労働省感染
ライノウイルスであり、全検体の 39.1% から検出された。
症発生動向調査に基づくインフルエンザサーベイランス」
ライノウイルスは他のウイルスと同時に検出された割合が
事業として、その冬に流行している型、抗原性を解析して
48.5% と重感染率の高さが目立ったため、ライノウイルス
いる。平成 26 年度は、全国的に AH3 亜型が主として検
の病原性について検討を加える必要があると考えられる。
出された。近年国内で分離される AH3 亜型インフルエン
学会及び誌上発表等
ザウイルスの HA 遺伝子は系統樹解析にてクレード 3C に
属しているが、今年度はクレード 3C の中のサブクレード
(学会発表)
3C.2a の割合が急激に増加した。大阪でも流行の主流を占
1) 森川佐依子 , 加瀬哲男 : 小児うがい液からの継続したウ
めたのは AH3 亜型であり、1 月末までに採取された検体
イルス検出の試み , 第 57 回日本感染症学会中日本地方
から分離された株の途中経過では 47 株中 83% に当たる
会学術集会 , 岡山 (62014)
39 株がサブクレード 3C.2a に属していた。このクレード
に属するウイルスは、MDCK 細胞株を使用して分離する
(誌上発表)
1)S.Morikawa, S. Hiroi, T. Kase: Detection of respiratory
と、分離株の NA 遺伝子の特定の部位が変異する事が多く、
viruses in gargle specimens of healthy children, J. Clin.
当該変異は HA 活性を示すことで HI 試験による抗原解析
Virol., 64, 59-63 (2015)
を困難にする事が報告されており、今後の解析に支障をき
2)S. Hiroi, S. Morikawa, K. Nakata, A. Maeda, T. Kanno,
たす恐れがあるため、流行株の NA 遺伝子変異の有無と、
S. Irie, S. Ohfuji, Y. Hirota, T. Kase: Trivalent influenza
NA 活性の確認を行っている。
vaccine-induced antibody response to circulating
インフルエンザウイルスについてはさらに、抗ウイルス薬
influenza A (H3N2) viruses in 2010/11 and 2011/12
である NA 阻害剤に対する感受性試験を行った。その結果、
seasons, Hum. Vac. Immunol., in press
無作為抽出した AH3 亜型 12 株および B 型 2 株に感受性
の低下はみとめられなかった。14/15 シーズンは AH1 亜
平成 27 年度の研究実施計画
型が分離されなかったため、NA 遺伝子解析による耐性変
インフルエンザウイルスのサーベイランスについては、
異(H275Y)の検出は行っていない。
引き続きウイルスの分離を行ない、流行ウイルスの抗原
アデノウイルスは呼吸器由来の検体から例年と同じよ
解析を実施するとともに、H3 亜型については HA および
うに 2 型および 3 型が中心に検出され、急性の呼吸器疾
NA 遺伝子の分子疫学解析も行って流行像の把握に努める。
患を引き起こすことがある 4 型も 2 例検出された。また、
インフルエンザウイルス分離株の薬剤耐性解析を継続して
呼吸器だけでなく消化器、結膜および泌尿器由来の検体か
行い、さらに NA 活性とウイルスの性状との関与について
らもアデノウイルスが分離され、結膜炎患者からは新しい
も検討を行う。
11
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
アデノウイルスについてはサーベイランスで分離された
その他の呼吸器ウイルスについては、今年度までのデー
ウイルス株を遺伝子解析により型別し、さらに遺伝子変異
タを元に、更にライノウイルスの臨床的意義について検討
やリコンビナントウイルスの検索を行う。また、各種アデ
を加える。
ノウイルスの増殖性についても検討する。
12
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
麻疹・風疹等の発疹を主徴とするウイルス感染症に関する研究
感染症部ウイルス課
研究代表者名 倉田貴子
共同研究者名 上林大起、加瀬哲男 , 駒野淳(国立病院機構 名古屋医療センター)
研究目的
検体)がリアルタイム PCR 陽性 (Ct:22.06-34.89, median
29.87) となり、特異度は 87.13%であった。新法は麻疹
麻疹は WHO により国内からの排除目標が掲げられてお
検査を高い特異度で行う事ができ、実地に適すると考えら
り、現在、日本国内における麻疹排除状態を検証するため
れた。風疹リアルタイム PCR は、ウイルス排泄量が多く
に、サーベイランスが強化されている。風疹については
感染拡大が懸念される事例の捕捉には有用だが、ウイルス
2020 年までに国内から排除することが目標に掲げられて
ゲノム量が比較的少ない場合の感度は十分高くないため、
おり、麻疹および風疹の検査の重要性は増してきている。
複数の検体種での検査や IgM の結果と総合的に判断する
本研究では、発疹を主徴とするウイルス感染症の遺伝子検
ことで、実地に耐えうると考えられた。
査および検査法の改良・開発を行い、正確な実験室診断を
学会及び誌上発表等
行うことを目的としている。
平成 26 年度 研究実施状況
(学会発表)
1)Daiki Kanbayashi, Takako Kurata, Tetsuo Kase, Kazuo
2014 年に検査を行った麻疹疑い症例 84 例のうち、27
Takahashi, Jun Komano:Cross-Neutralization of Rubella
例 (32.14%) から麻疹ウイルスが検出された。検出された
Virus Strains with Human Sera Measured by A Novel
ウイルスの遺伝子型は、フィリピンからの輸入症例と二次
High-Throughput Neutralization Assay, The 13th Awaji
感染事例および府内の散発事例から B3 型(21 例)
、東南
International Forum on Infection and Immunity(2014)
アジアからの輸入事例で D8 型 (2 例 )、府内の散発事例か
2) 上林大起 , 倉田貴子 , 福村和美 , 畑中己穂 , 田邊雅章 ,
ら H1 型(2 例)、ワクチン接種後に症状が見られた事例
松本治子 , 駒野淳 , 加瀬哲男 , 高橋和郎:麻疹と修飾麻
から A 型(1 例)、1 例で型別不能であった。また類症鑑
疹について~ MR ワクチン 2 回接種の重要性~ , 第 18
別として風疹およびパルボウイルス B19 について検査し
回日本ワクチン学会学術集会 (2014)
たが、これらのウイルスは検出されなかった。
3) 倉田貴子 , 上林大起 , 加瀬哲男 , 高橋和郎 , 福村和美 ,
2014 年は前年までの風疹の流行はみられず、患者発生
畑中己穂 , 田邊雅章 , 松本治子 , 五十嵐愛子 , 北島博之 ,
は 2013 年末で終息したと考えられた。先天性風疹症候群
駒野淳:大阪府における風疹の流行と先天性風疹症候群
(CRS) 疑い事例の検査およびそのフォローアップ検査につ
の検査診断 , 第 18 回日本ワクチン学会学術集会 (2014)
いては、5 例について実施され、必要期間のフォローアッ
4) 倉田貴子 , 上林大起 , 駒野淳 , 加瀬哲男 , 高橋和郎:ヒ
プ検査が行われた。
ト胎盤由来細胞における麻疹ウイルスの増殖 kinetics,
検査法の改良・開発においては、国立感染症研究所が
第 62 回日本ウイルス学会学術集会 (2014)
試作した麻疹および風疹のリアルタイム PCR 法について、
5) 上林大起 , 倉田貴子 , 駒野淳 , 加瀬哲男 , 高橋和郎:HI
臨床検体を用いた検討を行った。2007 年から 2014 年ま
抗体価で評価されてきた風疹に対する感染防御力は流行
でに発疹性疾患を疑い大阪府立公衆衛生研究所で実施され
ウイルスに対して正しい判断をあたえるのか? , 第 62
た行政検査において、血液・咽頭拭い液、尿検体から抽出
回日本ウイルス学会学術集会 (2014)
された RNA を対象として行い、従前の標準検査法である
6) 倉田貴子 , 上林大起 , 西村公志 , 加瀬哲男 , 駒野淳:水
RT-nested PCR(conventional PCR) 検査の結果との相関を解
面下における麻疹の流行レベル推定 , 第 73 回日本公衆
析した。麻疹および風疹の検査には、従前法で陽性と陰性
衛生学会総会 (2014)
の結果になった検体を含めそれぞれ 263 および 220 検体
7) 上林大起 , 倉田貴子 , 駒野淳 , 加瀬哲男 , 高橋和郎:生
を供した。麻疹では conventional PCR 陽性検体の 96.0%
物発光を利用した風疹ウイルス検出系の実験室診断への
(48/50 検体)がリアルタイム PCR 陽性 (Ct:20.37-34.85,
応用~流行要因解明に向けて~ , 第 73 回日本公衆衛生
median 29.60) となり、特異度は 97.60%であった。一方、
風疹では conventional PCR 陽性検体の 78.15%(93/119
学会総会 (2014)
8) 駒野淳 , 上林大起 , 倉田貴子 , 加瀬哲男:風疹ウイル
ス感染評価システムの確立と中和活性測定系への応用 ,
13
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
H25 年度厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエ
2)Kurata T, Kanbayashi D, Nishimura H, Komono J, Kase
ンザ等新興・再興感染症研究事業)「麻疹ならびに風疹
T, Takahashi K. :Increased reports of measles in a low
排除およびその維持を科学的にサポートするための実験
endemic region during a rubella outbreak in adult
室検査に関する研究」(H25- 新興 - 一般 -010) 研究班第
populations. Am J Infect Control. In press.
2 回班会議 (2014)
9) 倉田貴子 , 上林大起 , 加瀬哲男 , 高橋和郎:先天性風し
平成 27 年度の研究実施計画
ん症候群の検査診断 , 衛生微生物技術協議会第 35 回研
平成 27 年度も引き続き、ウイルス性発疹性疾患につい
究会 (2014)
て、積極的に検査を行い、麻疹および風疹排除にむけた疫
(誌上発表)
学データの蓄積を行う。また、実際の検査には平成 26 年
1)Kurata T, Kanbayashi D, Komano J, Kase T, Takahashi K.
度に検討したリアルタイム PCR 系を導入する予定である。
:The reply. Pitfalls of National Surveillance Systems for
また、
ウイルス性発疹性疾患のサーベイランスにあたり、
Vaccine-associated Measles. Am J Med.2014. 127(8):
類症鑑別としてこれまではパルボウイルス B19 の PCR を
e19(2014)
実施していたが、27 年度はさらに水痘のリアルタイム
PCR 系を既報のデータを参考に作製・試行予定である。
14
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
衛生動物を介する感染症に関する研究
感染症部ウイルス課
研究代表者名 弓指孝博
共同研究者名 青山幾子
研究目的
昆虫やダニなどの衛生動物が媒介する感染症は世界的に
の患者が西日本で発生しており、兵庫県や和歌山県におい
ても患者が確認されたことから、今後検査、調査体制を構
築していくことが必要と思われる。
広く分布し、わが国においても輸入感染症・動物由来感染
学会及び誌上発表等
症として警戒すべき感染症の種類が多くなってきている。
本研究では、これらの感染症の原因となるウイルスあるい
はリケッチアについて、患者の診断、人の抗体調査、媒介
衛生動物の調査等を実施し、府内における実態の把握及び
対策のための資料を集積することを目的とする。
平成 26 年度 研究実施状況
(学会発表)
なし
(誌上発表)
1) 弓指孝博 , 青山幾子 , 小川有理 , 松本治子 , 福村和美 , 松
井陽子 , 中西顕一郎 , 平田武志 , 辻野悦次 , 加瀬哲男 , 高
橋和郎:大阪府におけるウエストナイルウイルスに対す
ウエストナイル熱に関する蚊のサーベイランス、カラス
るサーベイランス調査(2013 年度), 大阪府立公衆衛
等の死亡鳥類調査事業において媒介蚊及びカラスからのウ
生研究所研究報告 52,1-6(2014)
エストウイルス遺伝子等の検出検査を実施した。また、蚊
平成 27 年度の研究実施計画
が媒介するウイルス感染症及びリケッチア症の疑い患者症
例の実験室診断法の検討や府内で捕獲されたアライグマの
衛生動物が媒介する感染症の病原体について、媒介動物
Q 熱及び日本紅斑熱の感染実態調査を行った。さらに、国
や疑い患者からの病原体分離や遺伝子検出、抗体保有調査
内での患者発生が確認された重症熱性血小板減少症候群
等を行い、よりよい検査体制、調査体制の構築等について
(SFTS) の患者及び媒介マダニの実験室診断について検討
検討していく。
し、府内に生息するマダニの捕集調査も実施した。
ウエストナイル熱に関する蚊のサーベイランス、カラス
ウエストナイル熱に関する蚊のサーベイランス及びカラ
等の死亡鳥類調査事業において媒介蚊及びカラスからのウ
ス等の死亡鳥類調査では、ウエストナイルウイルスは検出
エストウイルス遺伝子等の検出検査を実施する。また、蚊
されなかったが、流行監視の観点から、日本脳炎ウイルス
やダニが媒介するウイルス感染症及びリケッチア症の疑い
やデングウイルスなど他の蚊媒介性感染症も含めて今後も
患者症例の実験室診断法の検討や府内で捕獲されたアライ
データを蓄積する必要があると考えられる。また、日本紅
グマの Q 熱コクシエラ及び日本紅斑熱リケッチアの感染
斑熱及びツツガムシ病の実験室診断において府内での患者
実態調査を行う。
発生が確認され、府内に生息するアライグマから日本紅斑
衛生動物が媒介する感染症が疑われる患者を迅速に確定
熱に対する抗体が検出されたことから、これらの感染症の
診断し、直接治療等に役立てる。また、これらの感染症の
診断体制も継続する必要があると考えられる。さらに、マ
媒介者・保有者となる衛生動物の継続的な流行監視調査、
ダニによって媒介される重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)
人の抗体保有調査等を実施して、本府における防疫対策に
役立てる。
15
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
HIV およびその他の性感染症に関する研究
感染症部ウイルス課、* 企画総務部企画調整課
研究代表者名 森治代
共同研究者名 川畑拓也、小島洋子、西村公志 *、駒野 淳(名古屋医療センター)他21施設
研究目的
HIV を含む性感染症の拡大を阻止するために次のよう
な目的で研究をおこなう。
1) 感染診断のための正確・迅速・高感度な検査法を確立
する。
向け HIV/STI 検査事業では、460 名の MSM が受検し、
HIV-1 陽性者は 11 名(2.4%)であった。
4)106 名の未治療 HIV-1 感染例について薬剤耐性遺伝子
検査を実施したところ、7 名 (6.6%) において薬剤耐性
関連アミノ酸変異が検出された。また、治療中あるいは
治療中断中の感染者 14 例のうち 2 例において血漿中の
2) 大阪府とその近郊における HIV およびその他の性感染
症の広がりを、性感染症関連診療所の受診者を対象とし
た疫学調査、および陽性者に検出されるウイルスの遺伝
子解析により把握する。
3)HIV 感染の中心となっている MSM(men who have sex
with men:男性と性交渉する男性)が検査を受けやす
ウイルスに、3 例においてリンパ球中のプロウイルスに
薬剤耐性変異が検出された。
5) 特徴的な変異を有する新型 HIV-1 の探索を継続してい
るが、2014 年の確認検査検体からは検出されなかった。
6) 府内の診療所と国立感染症研究所との共同で薬剤耐性
淋菌のサーベイランスを実施した。
い環境を整備し、HIV 感染の早期診断・早期治療を促進
学会及び誌上発表等
する。
4)HIV 陽性者の的確な治療のためのウイルス学的な検査
法を確立する。
5) 性感染症の実態把握の一環として、B 型肝炎、梅毒(梅
毒スピロヘータ)、淋菌の病原体調査を実施する。
平成 26 年度 研究実施状況
1)2014 年の HIV 確認検査において、99 例の HIV-1 陽性
(学会発表)
海外
1)Mori, H., Kojima, Y., and Kawahata,T. Drug resistance
mutations persist in HIV-1 proviral DNA despite 12
years of successful viral suppression. 20th International
AIDS Conference. July 20-25, Melbourne, Australia.
(2014)
者を確定診断した。診断に核酸増幅検査を必要とした感
国内
染初期例は 8 例で、BED アッセイでは 28 例が感染後約
1) 川畑拓也 : 地域における HIV・性感染症の検査について ,
6 ヶ月以内と推定された。その一方で、env-V3 領域の
日本性感染症学会 , 神戸(2014)
遺伝子解析により 93 例中 15 例から感染後期に出現す
2) 森 治代 , 小島洋子 , 川畑拓也 , 駒野 淳 : 急速な病期進
るとされる X4 タイプの HIV-1 が検出された。pol およ
行をみた感染初期例群に共通して検出された新規変異
び env 領域の塩基配列よりサブタイプ型別を行ったとこ
HIV-1 の流行実態 , 日本エイズ学会 , 大阪(2014)
ろ、CRF01_AE が 5 例、C、CRF07_BC、B/CRF01_AE
の組換体が各 1 例ずつで、残りはすべて B であった。
2)2014 年の HIV 確認検査陽性 99 例のうち検査のでき
3) 川畑拓也 : 診療所における HIV 検査の算定要件緩和前
後における比較検討 , 日本エイズ学会(日本エイズ学会
日本性感染症学会合同シンポジウム), 大阪(2014)
た 97 例について B 型肝炎ウイルス(HBV)の抗原抗体
4) 川畑拓也 , 古林敬一 : 大阪府内の性感染症関連医療機関
検査を行い、抗原陽性のものについては遺伝子検査も
における HIV 検査に関するアンケート調査 , 日本エイズ
行った。HBV の感染歴あり(HBs 抗原 ,HBc 抗体 ,HBs
学会 , 大阪(2014)
抗体のいずれか 1 つでも陽性)は 58 例 (59.8%) であっ
5) 川畑拓也 , 森 治代 , 小島洋子 , 他 14 名 : 診療所を窓口
た。HBs 抗原陽性は 4 例であり、ジェノタイプは 3 例
とした MSM 向け検査キャンペーン(2013 年), 日本エ
が Ae、1 例が不明であった。TP 抗体検査を行った結果、
イズ学会 , 大阪(2014)
31 例 (32.0%) に梅毒の感染歴が認められた。
3) 性感染症関連の 5 診療所を定点とした HIV 疫学調査
で、 検 査 を 実 施 し た 494 名 中 16 名 が HIV-1 陽 性 で
あった。9 ヶ所の診療所との協同で実施している MSM
16
6) 中瀨克己 , 川畑拓也 , 他 15 名 :WB 法 HIV 抗体確認検査
数陽性数による全国の HIV 診断動向 , 日本エイズ学会 ,
大阪(2014)
7) 小島洋子 , 川畑拓也 , 森 治代 , 古林敬一 , 谷口 恭 , 井戸
平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
田一朗 , 駒野 淳 :HIV 感染者における新規 Ae/G リコン
Neisseria gonorrhoeae. J Antimicrob Chemother.,
ビナント HBV の解析 , 近畿エイズ研究会 , 大阪(2014)
69(8),2086-90(2014)
8) 川畑拓也 , 森 治代 , 小島洋子 , 他 14 名 : 診療所を窓口
とした MSM 向け検査キャンペーン(2013 年).日本性
感染症学会関西支部総会 , 大阪(2014)
9) 川畑拓也 , 古林敬一 : 大阪府内の性感染症関連医療機関
における HIV 検査に関するアンケート調査 , 日本性感染
症学会関西支部総会 , 大阪(2014)
10) 川畑拓也 , 古林敬一 , 亀岡 博 , 安本亮二 , 中山周一 ,
大西 真 : 大阪府内における淋菌の薬剤感受性調査結果
(H23-25),日本性感染症学会関西支部総会 , 大阪(2014)
(和文)
1) 古 林 敬 一 , 廣 井 聡 , 川 畑 拓 也: 異 性 間 性 的 接 触 に よ
る ア デ ノ ウ イ ル ス 53 型 の 伝 播. 日 本 性 感 染 症 学 会
誌 ,Vol.25,113-114(2014)
2) 森 治代 , 川畑拓也 , 小島洋子 , 永井仁美 , 田邉雅章 , 原
田一浩 , 松本治子 , 溝端孝史 , 田中佐代子:大阪府にお
ける HIV/AIDS の現状と対策について , 病原微生物検出
情報 ,Vol.35,205-206(2014)
平成 27 年度の研究実施計画
11) 椎野禎一郎 , 服部純子 , 潟永博之 , 他 9 名 , 森治代 , 南
1)HIV 診療医療機関、性感染症関連の定点診療所等と協
留美 , 健山正男 , 杉浦亙 : 国内感染者集団の大規模塩基
同して、HIV および他の性感染症 (B 型肝炎、梅毒、淋
配列解析 5:MSM コミュニティへのサブタイプ B 感染の
菌等 ) の抗原・抗体・遺伝子検査による疫学調査を行い、
動態 , 日本エイズ学会 , 大阪(2014)
感染の広がりの実態を把握すると共に、感染拡大阻止に
12) 岡﨑玲子 , 蜂谷敦子 , 服部純子 , 潟永博之 , 渡邉 大 , 長
向けた対策を講じる。
島真美 , 貞升健志 , 近藤真規子 , 南 留美 , 吉田 繁 , 森治
2) 医療機関、検査所、行政、NPO 等と連携し、新型変異
代 , 他 35 名 : 新規 HIV/AIDS 診断症例における薬剤耐性
HIV-1 捕捉のためのサーベランスシステムを構築する。
HIV の動向 , 日本エイズ学会 , 大阪(2014)
3)MSM を対象とした HIV 検査受検体制の充実をはかり、
(誌上発表)
MSM 向 け HIV 対 策 の モ デ ル を 構 築 す る こ と に よ り、
(英文)
HIV 感染の早期診断・早期治療を促進する。
1)Morita-Ishihara T, Unemo M, Furubayashi K, Kawahata
T, Shimuta K, Nakayama S, Ohnishi M. :Treatment
failure with 2 g of azithromycin (extended-release
formulation) in gonorrhoea in Japan caused by the
international multidrug-resistant ST1407 strain of
4) 新規 HIV 診断症例における薬剤耐性 HIV の保有状況を
調査し、分子疫学的に解析する。
5)HIV 感染者の治療支援のためのウイルス学的検査法を
用いたフォローアップを継続する。
6) 新しい HIV 検査法の開発に向けた検討を行う。
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平成 26 年度 研究実施 / 終了報告書
原虫・寄生虫症に関する研究
通常研究
研究終了
感染症部ウイルス課、* 衛生化学部生活環境課、
** 企画総務部企画調整課
倉田貴子、枝川亜希子 * 、木村明生 **
研究目的
ニ タ リ ン グ が 可 能 な ヒ ト の 肺 胞 上 皮 細 胞 由 来 A549 /
NF κ B-luc 細胞を用いて A. castellanii の NF κ B 活性化
近年、我が国では毎年数百名の原虫・寄生虫感染症の患
能を検討した。アメーバは MOI1 〜 0.01 で接種し、24 時
者発生が報告されている。特に感染症法に含まれる原虫症
間後にルシフェラーゼアッセイを行った。アメーバは細胞
であるマラリア、赤痢アメーバ症、ジアルジア症、クリプ
傷害性を示したが、アメーバ接種量 MOI1 〜 0.1 では接種
トスポリジウム症及び寄生虫症(蠕虫症)であるエキノコッ
量に比例して NF κ B の誘導シグナルが上昇し、アメーバ
クス症は、公衆衛生上重要な感染症である。さらにイヌ回
未接種細胞に対して有意に(2.7 〜 1.4 倍)シグナルが上
虫及びアライグマ回虫の幼虫移行症、節足動物や輸血を介
昇することが確認された。
して感染するヒトバベシア症、アカントアメーバをはじめ
結論
とする自由生活性アメーバによる眼疾患や髄膜脳炎等も新
興・再興感染症として問題視されている。しかしこれらの
アカントアメーバの抗原蛋白質のスクリーニングには、
原虫・寄生虫症は、患者発生が比較的少例である等の理由
アメーバ免疫血清は不適である可能性が考えられ、実験動
から、その疫学的背景の把握や確定診断の開発等の研究が
物等を使用したアメーバ感染血清での再スクリーニングが
未だ十分ではない。そこでこれら原虫・寄生虫症の疫学的
必要となる。
背景の把握及びその診断法開発や改良等を目的として研究
細胞障害性については、近縁種と同様に NF κ B の活性化
を実施する。
が確認され、アメーバ性角結膜炎の原因としてインター
研究実施状況
アメーバの抗原蛋白質のスクリーニング
フェロン産生誘導が関与している可能性が示唆された。
本研究は本年度で終了するが、これまでに得られたアメー
バの病原性解析の基礎的なデータをもとに、次年度からは
Acantahmoeba castellanii のトータル RNA から作製した
環境微生物に関する調査研究において、自由生活アメーバ
cDNA ライブラリーのウサギ免疫血清を使用したイムノス
とヒト由来のアメーバの細胞障害性の比較検討を行う予定
クリーニングでは、アメーバ特異的な抗原蛋白質の検出が
である。
できなかった。原因としてはウサギ免疫血清の特異性が低
成果の活用
いことが考えられ、スクリーニング方法の再考が必要であ
ると考えられた。
本研究で主に対象としたアカントアメーバは、アメーバ
培養細胞への障害性を規定する因子の検討
自体を原因とする感染症や、アメーバに関連する細菌感染
A. castellanii に 近 縁 な A. Keratitis で は、TLR4 を 介
症の発生が近年危惧されており、公衆衛生上問題となって
して NF κ B を活性化するという報告があることから、
いる。本研究で得られた技術的手法や成果は、
今後、
アメー
A.castellanii の NF κ B 活性化について検討を行った。
バ関連の感染症が起きた際に活用可能であり、迅速な感染
NF κ B 動態をルシフェラーゼレポーターアッセイでモ
源の特定に繋がると共に、これら感染症の拡大防止に有用
である。
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