1 5月25日:まず再度の予告.来週(6月1日)のこの時間に中間テストをやります.範囲は「テイラーの公 式」「²-δ 論法」(「無限大,無限小のオーダー」)くらいです. 「テイラーの公式」では, 「関数○○のテイラー展 開を第○項まで求めよ」程度の,簡単な問題しか出せないでしょう. 「良い演習書を紹介してほしい」との要望がありました. 「これ」というのは特にありませんが,いくつか挙げると, • 三村征雄編「大学演習 微分積分学」(裳華房)— 僕はこれを使った.ちょっとムズイかもね. • 蟹江,桑垣,笠原「演習詳説 微分積分学」(培風館)— なかなか良いが,はじめは難しく感じるかも. • 杉浦ほか「解析演習」(東大出版会) — これもまあ,大変ではありますが,良い本. • 鶴丸ほか「微分積分 — 解説と演習」(内田老鶴圃) — 一番「普通」かも. • 飯高茂監修「微積分と集合 そのまま使える答えの書き方」(講談社サイエンティフィック) — 題名は変だ けど,馬鹿にはできない,なかなかの本.流石は飯高さん監修だけあるな.案外,おすすめ. これ以外にもいくらでも出版されてるから,図書館や本屋さんで自分にあった(読みやすい,やる気になる)もの を選べば良いでしょう.ただしその際,解答や解説のある程度詳しいものがよいと思います.なお,受験と違って 死ぬほどの問題量をこなす必要はありません1 — 自分が納得できるようにいくつか例題をやり,弱いところだけた くさんやれば大抵は十分です. (ついでに気がついた本)「共立ワンポイント数学双書」というシリーズの中に「イプシロン–デルタ」とか「テ イラー展開」のものがあることに気づきました.小さな本ではあるけど,トピックごとにわかりやすく書かれてい るから,ピンポイントでの勉強に適しています. —————————————————-第4回レポートの解答 ————————————— 風邪をひいてしまって非常にヤバいので,ちょっと簡単にいきます. 今回は概念的な部分のほかに,計算力の点で死んでしまった人が多かったようです.ついつい「せっかくレポー トをやってもらうんだから」と凝った問題になるんですが,計算で討ち死にする人が多数出るのは本来の目的では ありません.中間テストでは,ある程度,この辺り(計算力の問題)も考慮する予定です. このような問題では 三角不等式 |a| − |b| ≤ |a + b| ≤ |a| + |b| 特に |x − y| = |(x − a) − (y − a)| ≤ |x − a| + |y − a| (1) が非常に有効です.できるだけ早く,慣れるようにしよう. 問7.極限をとる中身を f (x) と書きます. a) ある意味,これが概念的には一番難しかったかも.f (x) = x2 + xa + a2 だから,極限は 3a2 と予想されるので, x3 − a3 − 3a2 = x2 + xa − 2a2 = (x − a)(x + 2a) = (x − a){(x − a) + 3a} x−a (2) を ² より小さく押さえたい訳だ.以下,いくつかの方法を示す. 1. とにかくしゃにむに解く方法(あまり奨めない).不等式 ¯ ¯ ¯ (x − a){(x − a) + 3a} ¯ < ² ⇐⇒ −² < (x − a){(x − a) + 3a} < ² (3) を (x − a) について直接解いてみる — これは (x − a) の2次不等式だから解ける.結果は √ √ µ ¶ −3a − 9a2 + 4² −3a + 9a2 + 4² <x−a< 2 2 √ √ µ ¶ −3a − 9a2 − 4² −3a + 9a2 − 4² かつ x − a < または x − a > 2 2 となる(ただし,下の方の条件は 9a2 > 4² の時のみ意味をもつ).これはもう少し簡単にすると √ √ −3a − 9a2 + 4² −3a − 9a2 − 4² <x−a< 2 2 1 いや,受験だって,本当はそんなに量をこなさなくてもええのよ.浅い理解で問題を解こうとすると量でごまかすしかないけどね (4) 2 または √ 9a2 − 4² −3a + 9a2 + 4² <x−a< (5) 2 2 ということになる.このような x − a なら条件を満たしている訳だが,問題はこれらから |x − a| < δ のような区間 を引っ張りだせるかということだ.場合分けをせざるを得ない. (場合1: 9a2 ≤ 4² の時).このときは (4) または (5) の条件は √ √ −3a − 9a2 + 4² −3a + 9a2 + 4² <x−a< (6) 2 2 −3a + √ と同じ事だから,特に区間 |x − a| < −3a + は条件 (6) を満たす.つまり, δ(²) := −3a + √ 9a2 + 4² 2 (7) √ 9a2 + 4² 2 (8) ととれば良いのだ. (場合2: 9a2 > 4² の時).実際には ²√をどんどん小さくするつもりだから,こちらの場合がより重要になる. −3a + 9a2 − 4² この場合,(4) と (5) では x − a が より小さいところ(の一部)を許さない.従って,|x − a| で 2 みると n 3a − √9a2 − 4² −3a + √9a2 + 4² o , (9) |x − a| < min 2 2 の範囲であれば (3) が満たされる(が,ここからはみ出すとヤバい)ことになる.従って,この場合は n 3a − √9a2 − 4² −3a + √9a2 + 4² o , δ(²) := min (10) 2 2 ととれば良い. これで一応,できたのだが,じつは (11) はもう少し簡単になる.すなわち,上の min の中身のどちらが大きい かというと,一般に(0 < b < a2 なら) p p a2 + b + a2 − b − 2a < 0 p つまり a2 + b − a < a − p a2 − b であることから(最初の式を証明するには,両辺を2乗せよ),min の中の後ろの項の方が小さいとわかる.従っ て,この場合は δ(²) := −3a + √ 9a2 + 4² 2 (11) ととれば良い訳だ. (2つの場合をまとめて)以上から,どちらの場合も,結局は √ −3a + 9a2 + 4² δ(²) := 2 (12) ととれば,|x − a| < δ(²) では |f (x) − 3a2 | < ² となることがわかった.以上,ガンガン計算したけども,その結果, 最も効率の良い δ(²) が得られた事にはなっている. 2. 上のやり方はちょっと野蛮なので,もう少し手を抜いてみる.このような評価の秘訣は,はじめから δ などの 大きさを制限して考えることだ. (δ は正なら何でも良いから,制限して簡単になるならその方が良い. ) δ を後から決めるつもりで |x − a| < δ ,かつ δ ≤ 1 と思って評価すると ¯ ¯ ¯ (x − a)(x + 2a) ¯ = |x − a| × |x − a + 3a| ≤ δ × (δ + 3|a|) ≤ δ(1 + 3|a|) となる.最初の不等式は三角不等式.また,最後の不等式で,括弧の中の δ のみ,δ < 1 としたところがポイント. このおかげで右辺が δ の一次式になり,非常に扱いやすくなった. ² こいつを ² より小さくしたければ,δ ≤ ととればよい. 1 + 3|a| 3 δ < 1 を仮定していた事も思い出してやると,勝手な ² > 0 に対して n o ² δ := min ,1 1 + 3|a| (13) ととると,|x − a| < δ ならば |f (x) − 3a2 | < ² とすることができる,とわかった. (注)この問題では,δ が ² のみならず,a にもよるところが新しい.ここで混乱した人が多数見られたが,δ が a によるのは,関数の極限を考える際には普通であり,δ(², a) と書くべきものになっている. b) これは思ったより計算が難しかったかな. f (x) = √ 2 √ 1+x+ 1−x (14) だから極限は 1 だろう.だから, √ f (x) − 1 = 1+x− √ 1−x−x x √ √ 2− 1+x− 1−x √ = √ 1+x+ 1−x (15) を ² より小さく押さえたい.このためには,f (x) − 1 を一生懸命押さえるしかない.一応,2通りのやり方を与える. 1. テイラー展開(マクローリン展開)をヒントにしてみるやりかた.教科書の p.15 の一番下などで, √ 1 1 1 1 + x = 1 + x − x2 + (1 + θx)−5/2 x3 2 8 16 (0 < θ < 1) となっているから,|x| < 1/2 くらいでは ¯ ³ ´¯¯ ¯√ ¯ 1 + x − 1 + 1 x − 1 x2 ¯ ≤ x3 ¯ ¯ 2 8 が成り立つ.従って,|x| < 1/2 では ¯√ ¯ √ ¯ 1 + x − 1 − x − x¯ ≤ 2x3 つまり (15) の真ん中から |f (x) − 1| ≤ 2x2 p ²/2 となる.今は |x| < 1/2 だったことも思い出して, nr ² 1 o δ(²) = min , (16) 2 2 となっている.この 2x2 < ² とすれば良いから δ = ととってやるとよい. 2. 頑張って計算するやりかた.(15) の右辺の分母がいつでも 1 よりは大きい事を用いて, ¯ ¯ √ √ |f (x) − 1| ≤ ¯2 − 1 + x − 1 − x¯ が得られる.さて,g(x) = √ 1+x+ √ (17) 1 − x − 2 とおいて,こいつを調べよう.まず,これは x の偶関数なので, x > 0 のみ考える.次に g(0) = 0, g 0 (x) = o 1n (1 + x)−1/2 − (1 − x)−1/2 < 0 2 であるから,x > 0 では g(x) < 0 である.さらに,h(x) = x + g(x) は h(0) = 0, h0 (x) = 1 + o 1n (1 + x)−1/2 − (1 − x)−1/2 2 であって,x < 1/2 では h0 (x) > 0 である.よって,0 < x < 1/2 では −x < g(x) < 0 であるわけだ.これと (17) から 0 < x < 1/2 では |f (x) − 1| ≤ |g(x)| < x が結論できる.関数の偶奇を考えに入れると,δ(²) = ² ととればよいことがわかった. c) どうもこいつが一番簡単だったみたいね.δ(²) = ²2 ととってやると良い. (18) 4 問8.x がいくら小さくなってもゼロには行かないところがあるから,極限がないことが予想される.問題は, 「極 限がない」のがちょっととらえにくいことだが,以下のように背理法でのぞむのが良いだろう.極限 α があったと 仮定すると, ∀² > 0 ∃δ(²) |x| < δ(²) =⇒ |f (x) − α| < ² となっているはずだ.そこで,特に ² = 10−4 ととってみると,δ(²) より小さい すべての |x| で (あ) |f (x) − α| < 10−4 となっているはずである.これは特に,|x|, |y| < δ(²) では |f (x) − f (y)| < |f (x) − α| + |f (y) − α| < 2 × 10−4 (19) となっていることを意味する.ところが,δ(²) より小さい x = 10−k と x0 = 10−k /2 での f (x) の値は f (x) = 0.001, f (x0 ) = x0 = 10−k /2 (20) となっていて,k ≥ 4 では,この差は 2 × 10−4 よりも大きい.これは (19) に矛盾する. 問9. 典型的な ²-δ の応用例なので,簡単に. (この辺りは,ある程度は「慣れ」です. ) 仮定から,すべての ² > 0 に対して,δf (²) と δg (²) をみつけて, |x − a| < δf (²) =⇒ |f (x) − α| < ² , 2 かつ |x − a| < δg (²) =⇒ |g(x) − β| < ² 2 とできるはずだ.そこで,|x − a| < δ(²) := min{δf (²), δg (²)} では, |{f (x) + g(x)} − (α + β)| ≤ |f (x) − α| + |g(x) − β| < ² ² + =² 2 2 が成り立つ.つまり, ∀² > 0 ∃δ(²) |x − a| < δ(²) =⇒ |{f (x) + g(x)} − (α + β)| < ² といえた訳で,極限は α + β . (注)前回のレポートと同じく,f (x) と g(x) の収束の早さが異なるかもしれないから,δ(²) は f, g 別々にとっ ておくべきだ.この点は今のように2つの関数だけを扱っている場合には重要ではないが,将来,無限個(!)の 関数を一度に扱う際に非常に重要になる. 問10. 驚くべき事に,完全に近い解答をしてきた人が二人もいた.ううむ,なかなかやるな,という感じだが, ほかにもチャレンジしたい人もいるかもしれないので,今日は解答はバラさず,中間テストの後に一つの答えを教 える事にする.それまでに他の人もチャレンジしてほしい!
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